遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
ゆきは自分の記憶を振り返った。
ノイズが走ったように感じるのはあまりいい思い出ではないからかもしれない。
『クソカードばっかじゃねぇかよ。こんなゴミ押し付けてんじゃねぇよ!!』
カードが投げつけらて地面に霧散する。
あっ、と自然と声は出るものの次の句は出てこない。
ただ喉を空気が通るだけ。
背後から地面を蹴る音がした。
『ふっざけんじゃないわよォォ!!』
目の前に赤みの強いポニーテールが揺れる。
力強い背中が立つ。
(あの日、わたしはヒーローに会った……)
今、間宮ゆきはネオ童実野シティデュエルスタジアムの選手通用ゲート、即ちフィールドへと廊下を歩いている。
コツ、コツ、とローファーが床を鳴らす。
足音は一つではない。
祭乃木亜美が。
日和田良平が。
能瀬 心が。
ルイン恵が。
そして間宮ゆきが。
ゆき(みんなの先頭には祭乃木さん。そこに日和田さん、ここのせさん、恵さんが続く。そして一番後ろは私……)
腰のケースからデッキ取り出した。
思い出が詰まっているデッキ。
良平『このカードはこうやって使うんだ』
ここのせ『よし、まずはオレが相手だぜ』
恵『……いくつかカードを渡しておく……』
デッキを作る時。
練習する時。
戦略を考える時。
ゆき(みんなが私を支えてくれた……)
だから。
ゆき(みんなのために、わたしはーーーー勝ちたい……!)
ワァァァァァァァと歓声が聞こえる。
『さぁぁぁぁ!! いよいよ!!WSGの予選決勝! このネオ童実野シティにおける最強チームを決する日がやってきたぞォォォォォオオ!!』
司会がマイクを片手に大きな声を張り上げた。
会場の熱気はピークに達している。
それはまるで会場が揺れているよう。
『両チームが睨み合っている! これは激戦の予感だァァァァァァァァァァ!!』
フィールドにはチームHEROの5人が並ぶ。
相手フィールドには蒼き制服ーーチームツンドラの5人が並ぶ。
いずれも同じ学生。
しかし制服は同じにあらず。
両者の目線はぶつかり合い、火花を散らさんばかりであった。
第12話
「WSC予選決勝 騎士vs侍 剣の理、ここにあり」
[前日 夜 祭乃木宅 亜美の部屋]
夜の帳が下りる時、亜美は寝巻きのまま机に向かっていた。
亜美は自分のデッキを上から下まで束ねてカードを確認する。
祭乃木「……これでデッキは問題ないわね……」
ひと段落と亜美は椅子に深く寄りかかる。
軋む音が一段大きく聞こえた。
祭乃木(明日は予選決勝か……。勝てば、本戦……。ヒーロー部設立まであと一歩ね!)
ダメ元で出場したWSC。
256組いたはずのネオ童実野シティ予選参加チームは残すところ2組なっていた。
亜美はふぅと息をつき足を組む。
すると机に出していたスマートフォンが点滅し振動した。
祭乃木「ん?」
表示を見ると間宮ゆきの名前。
すぐにスマートフォンを取り耳に当てる。
祭乃木「……もしもーし!」
ゆき『あ、もしもし、間宮ですぅ』
祭乃木「うん、どうしたの? またデッキの相談?」
ゆき『いえ……特に相談、というわけではないんですが……』
祭乃木『うん』
ゆき『ちょっと落ち着かなくて電話しちゃいましたぁ……』
祭乃木「あはは! ゆきは初出場だもんね! そりゃあ、落ち着かないわ!」
亜美はケラケラと笑う。
夜の風が網戸を抜けて前髪をさらりと撫でた。
スピーカーの奥からはゆきが少しだけ唸る声が聞こえる。
祭乃木「大丈夫よ! ゆきは、アタシたちと特訓して強くなったもの」
ゆき『でもでも! プレイングミスしちゃうかもしれません……』
祭乃木「それもまた経験よ! プレミはどんな時でも起こり得るわ。でも、それはその時の状況次第なんだし、今はドーンと構えときゃいいのよ!」
ゆき『うぅ、肝が座ってますぅ……。祭乃木さんは、緊張したりしないんですかぁ……?』
祭乃木「アタシ? ……そうねぇ、そりゃあちょっとは緊張するわよ? でも緊張よりも明日のドローが楽しみかな」
ゆき『ドローが……?』
祭乃木「デッキの中のカードはさ、自分が知ってるいつも使ってるカードなわけだけど。相手のカードとか、その時の手札とか……。そういうもんで、見え方が毎回違う気がすんの! 」
ゆき『見え方……ですか……?』
祭乃木「そう。自分の狙い通りだったり、場当たり的だったり、ひょんなことから噛み合ったり……。自分のデッキだけど、知らなかったことが見つかる時がある。アタシはそれが好き。きっとそれは、アタシの……アタシたちの可能性なんだと思うのよ」
ゆき『……可能性……』
祭乃木「アタシたちのヒーロー部を、学校に認めさせる! ……これだって可能性でしょ? 明日のドローには可能性が詰まってる、だから楽しみなのよ!」
ゆき『……その可能性が潰えてしまったらって思ったりしないんですか……? わたしは心のどこかでそんなことを考えてしまいますぅ……』
祭乃木「もちろん、そういう可能性だってあるわ。……でも、悔しがるのは負けてからでも遅くない! 」
ゆき「負けてから……。そっか、そうですよね。わたし、負けちゃったときのことばかり考えてました」
祭乃木「ゆき! 明日、アタシたちにできることは精一杯、楽しくデュエルをすることよ! 自分の可能性を信じて、ね」
ゆき『祭乃木さん……。……はい!』
ゆきは決意したように大きく返事をした。
スピーカーの向こうからでも亜美は彼女の表情を容易に想像できる。
夜空は快晴で星々が煌めいていた。
[前日 夜 良平宅]
一方、同時刻、坂の下にある喫茶店ライクの2階にある居住スペース。
その側面側には良平の部屋があり窓の下には1階の軒があって人が立つ程度の余裕がある。
部屋の中で窓を開けていると外から足音がした。
やがて砂利粒程度の小石が飛んできて窓のヘリにこんと当たって下に落ちていく。
良平が網戸をあけて顔を出すと店先にここのせが缶を片手に手を挙げていた。
ここのせ「よっこらせっと、ふぅ〜」
招かれたここのせは、軒下に置いてある三脚に足をかけ、良平は軒の屋根に上がり、ここのせを引き上げる。
小学生の頃からよくやっていたショートカットである。
軒に上がったここのせはひと息つくと良平に向けて持っていた缶を放り投げた。
ここのせ「一杯付き合えよ」
良平「っとと。何これ?」
なんとキャッチして良平が言う。
ここのせ「お前はオレンジジュース、俺はファンタ。オレの奢りだ、ありがたく飲めよ」
良平「はいはい」
カシュッと音を立てて缶のプルタブを折る。
結露した表面を汗をかいたように雫が滴っている。
良平はそれを煽ると甘酸っぱい香りと共に絶妙な温度の液体が喉を通った。
良平「……ちょっとぬるい」
ここのせ「オレの温もり入りだぜ」
良平「……捨ててくる……」
ここのせ「冗談だっつの! 坂の上んとこの自販機で買ったからちと緩くなっちまったぜ」
良平「あ、ここのせの家の近くの? そりゃ緩くなるな。氷持ってこようか?」
ここのせ「オレはいいや、なんか夏の味がする気がするから」
良平「じゃあ俺もいいや」
答えると良平は窓のそばに立った。
ここのせはというと窓の縁に腰掛けていた。
良平「……で、どうしたの? こんな夜に来るなんて」
ここのせ「お前が緊張してるんじゃねぇかと思ってよ」
良平「本当かよ。自分が落ち着かなかっただけじゃないの?」
ここのせ「ぐへー、バレてらぁ。よくわかったな」
良平「二人乗りは運転してる側より、乗ってる方が怖いから」
ここのせ「お前はどうなんだよ」
ここのせが水を向けると良平は一瞬考えてからうーんと唸った。
待つ間にここのせは缶を煽る。
良平「正直、あんまり自信はない」
ここのせ「まじ?」
良平「サイバー流に六武衆。デッキとしてのパワーにかなり差があるよ。それに六武はともかくサイバー流は単純に相性も悪い」
ここのせ「そんなに自信がねぇなら代わってやろうか? 勝率はオレの方が低いけどな」
良平「それって1か2の違いだろ?」
ここのせ「いや0と1だ。俺は100負ける。お前は99パー」
良平「あはは、じゃあオッズは十倍以上だね」
ここのせ「オレもお前がサイバー流に勝てるとは思ってねぇよ。だけどお前ならシーソーゲームには持ち込めるはずだろ。うまく祭乃木までつなげりゃ、後はアイツがやってくれるよ」
良平「……」
眉を顰めて良平は夜空を睨んだ。
その感情はまだ言語化できない複雑なものを内混ぜにしたような感じだった。
ここのせはくっくっと笑った。
ここのせ「貧乏クジを引いたな良平。お前はそういう星の元に生まれたのさ」
言うと良平はまたオレンジジュースを口に含み、口を湿らせるとまた夜空を見上げた。
シティのネオンにさらされて星はあまり見えない。
目を凝らしてようやく見えるのがこの街の星空である。
良平「……なんか祭乃木について行ったらこんなところまで来ちゃったな」
ここのせ「こんなとこって?」
良平「明日のこと。予選とはいえ、WSCの決勝だぞ。大ごとだよ」
ここのせ「本戦まで行ったらもっと大ごとだぜ。どちらにせよ、明日が天下分け目の関ヶ原よ」
缶を一気に煽り飲み干してしまうとここのせは袖で口を拭う。
それから腰をかけていた縁から腰をあげると良平に向き直した。
ここのせ「……さ、じゃあ夜も更けたことだし、帰るとすっかな」
良平「はいはい、じゃー気をつけて」
ここのせ「おう。……あ、忘れてた。こいつを渡そうと思って来たんだった」
ここのせはデッキケースからカードを1枚引き抜いて良平に差し向けた。
ここのせ「エクストラ余ってんだろ? 入れといてくれよ」
良平「出せるかな……」
ここのせ「気合いで出せ。……ま、なんか役には立つはずだぜ。預けとくから明日返してくれよな」
良平「わかった。ありがとう、ここのせ」
ここのせは満足げに頷くと今度こそ踵を返して軒下に飛び降りた。
遠ざかっていく足音を、良平は聴こなくなるまでそこにいた。
[当日 ネオ童実野シティデュエルスタジアム 外]
ネオ童実野シティデュエルスタジアムの周辺は広場になっていてそこら中に人や出店が並んでいる。
通用門にはデュエルアカデミアのバス駐車している。
「安いよ安いよ〜」
「デュエルみながらたこ焼きどう?」
「撮るよー、3、2……」
「いよいよ! WSGネオ童実野シティ予選の決勝が始まります! 会場は、たくさんの人が詰めかけています!」
人混みに混ざって大袈裟なカメラを引き下げたカメラマンとリポーターが周囲を実況している。
そんな人々の中、少女が3人歩いている。
相変わらず手製のドレスを着ていて、一人は子供と見まごうサイズである。
初戦で敗退してしまったチームサンドリヨンのメンバーである。
小春「たこ焼きくいてー」
レイラ「だめ! ドレスにソースついちゃうでしょ!」
小春「もう脱ごうぜ、これ……」
アリエル「うふふ……それにしても凄いわねぇ、一回戦で当たったチームがここまで勝ち上がるなんて……」
レイラ「私達も鼻が高いですね! 試合は何時からでしたっけ?」
小春「あと30分くらいだー。早く席取ろうぜー!」
まるでライブ会場のような様相に幾分かワクワクしたような面持ちでスタジアムに入っていく。
スタジアムの案内には大きくWSCネオ童実野シティ予選決勝と書かれていた。
[当日 ネオ童実野シティデュエルスタジアム 東通用門]
人混みが殺到している正面入り口からぐるっと回って東側。
打って変わってスタッフたちが出入りするその入り口でヒーロー部ーーチームHEROの祭乃木亜美が両手に腰を当てて声を出す。
祭乃木「ついにきたわね!! 全員揃ってる!?」
良平「間宮がまだ来てないな」
ここのせ「腹でも壊したか?」
恵「……来た……」
恵が指差した方をみるとそこには間宮ゆきと見慣れぬ女性が並んで歩いていた。
ふわっとしたショートカットに温和そうなタレ目は、ゆきがそのまま年齢を重ねたような姿であった。
ゆき「……あ、お母さん、こっちは選手入り口だよ! お母さんはあっちから入ってね!」
ゆき母「あら、そうなの?」
祭乃木「あれって、ゆきのお母さんかしら?」
良平「みたいだね」
そんな会話をしているとゆきはこちらに気付いたようで手を振って小走りで合流した。
ゆき「あ、みなさん! おまたせしましたぁ」
祭乃木「いや、まだ時間はあるから大丈夫よ! ……えっと、ゆきのお母さんですか?」
亜美はすぐにゆきの隣に追いついた女性に声をかけた。
彼女はやはりゆきに似たゆっくりとした声音で深々とお辞儀をした。
ゆき母「そうよ。貴女が祭乃木さんね? 娘がいつもお世話になってます」
祭乃木「え!? あ、いやいや、頭上げてください! 大したことなんてやってないもの! ねぇ、アンタたち?」
ここのせ「まー、そうだな」
良平「うん」
二人が返事をすると頭を上げたゆきの母はまぁと口に手を当てる。
ゆき母「本当に男の子たちもいるのね!」
ゆき「あ、こちらが日和田さん、カードのことを教えてもらったんだ。こちらがここのせさん、本当は能勢さんなんだけど、アダ名でここのせさん。それで、こっちが恵さんです!」
手のひらを差し向けてゆきが紹介していく。
それを彼女は嬉しそうに聞いている。
ゆき母「まぁまぁ! ……ステキなお友達ね、ゆき! ゆきが凄く明るくなったのは貴女たちのおかげよ。本当にありがとうね」
またしても深く頭を下げる彼女の母。
ゆきは顔を赤くして抗議した。
ゆき「もぅ〜……恥ずかしいからやめてよぉ!」
そんな口調にここのせは、へぇと声を出した。
ここのせ「間宮って家族だとあんな喋り方なんだな」
良平「新鮮だね」
ゆき「あぅぅ……////」
さらに真っ赤に茹で上がってしまうゆき。
亜美はあははっと大きく笑うと、再び腰に手を当てた。
祭乃木「ゆきのお母さん! 今日は、ゆきの晴れ舞台ですから、しっかり見ててくださいね! 大丈夫! アタシたちも、しっかりサポートしますから!」
ゆき母「まぁ! 本当に頼もしい子ね……」
しみじみと言葉をもらうゆきの母。
不意に恵が口をあけた。
恵「……そろそろ時間……」
祭乃木「そうね! じゃあ、行くわよみんな!」
亜美の掛け声に全員が頷く。
ヒーロー部のいつもの光景だ。
亜美が踵を返し、良平とここのせが行く。
恵はその後ろ。
ゆき「じゃあ、行ってくるね!」
そしてその後ろをゆきは追いかける。
その足取りはどこらか軽い。
ゆき母「頑張ってね! ゆき! ……お父さん、ゆきはこんなに成長しましたよ……」
彼女は誰に言うでもなくそう呟いた。
【ネオ童実野プリンセスホテルVIPルーム】
ところ変わってネオ童実野シティのトップス区域に存在するホテルの最上階。
とても一般家庭には置けない高画質ワイドテレビが光を放つ。
画面には『生中継 ネオ童実野シティデュエルスタジアム WSGネオ童実野シティ予選』と書かれている。
それをWSCの王者ーーチームディスティニーのリーダーであるクイーンが豪華なソファに足を組んで見守っていた。
クイーン「……」
その後ろで饅頭を咀嚼しながらほぅ、と声を出したのはチームメンバーの絵草霜であった。
絵草「姐さんが目をつけとったあの素人チーム、ここまで勝ちおったな」
クイーン「ここまで勝ち上がった以上、素人ではないよ」
絵草「ほぉーじゃのぉ」
クイーン「……ふふふ……楽しみだよ、全く……」
切れ長の瞳を歪ませてクイーンは笑う。
机に置いある鏡はまた水面のように広がっていた。
【ネオ童実野シティデュエルスタジアム デュエルフィールド】
スタジアムには多くの人が詰めかけていた。
それは応援ではなく物見遊山ではあるが雑踏が全体を揺らしている。
今か今かと待つ民衆を脇立てるようにスピーカーからアナウンスが流れた。
『さぁぁぁ会場に集まった観客諸君!! もうしばらくでデュエル開始だァァァァァ!! 決勝は一瞬も見逃せない デュエルが展開されるぞォォ! 準備はいいカァァァ!!?』
ワァァッと返事するようにスタンドが鳴る。
その歓声はフィールドゲートに続く廊下にも響いていた。
亜美はかき消されぬように声を張り上げる。
祭乃木「さぁ! もう腹括ってやるだけよ! みんな、準備はいい!?」
良平「よし、根拠はないけどいける気がしてきた!」
ここのせ「まるでテスト前みたいな口ぶりだぜ。……こっちの喉の準備もバッチリだ!」
恵「……ん……」
ゆき「……大丈夫。準備万端です!」
祭乃木「上等! じゃあ、フィールドにお出ましといきましょ!」
クルッとまた引っ張るように亜美は背を向け、ついてこいと言わんばかりに歩き出す。
ゆき(あ……)
その背中が記憶中枢を刺激する。
ゆきは自分の記憶を振り返った。
ノイズが走ったように感じるのはあまりいい思い出ではないからかもしれない。
『クソカードばっかじゃねぇかよ。こんなゴミ押し付けてんじゃねぇよ!!』
カードが投げつけらて地面に霧散する。
あっ、と自然と声は出るものの次の句は出てこない。
ただ喉を空気が通るだけ。
背後から地面を蹴る音がした。
『ふっざけんじゃないわよォォ!!』
目の前に赤みの強いポニーテールが揺れる。
力強い背中が立つ。
ゆき(あの日、わたしはヒーローに会った……)
ゆき(あの日がなかったら……わたしはきっと、幻想に縋り付いたままだった)
ゆき(新しいことをはじめてみて、ちょっとずつうまくできるようになって……。祭乃木さんたちについていって、歩き出すってことを知った。)
今、間宮ゆきはネオ童実野シティデュエルスタジアムの選手通用ゲート、即ちフィールドへと廊下を歩いている。
コツ、コツ、とローファーが床を鳴らす。
足音は一つではない。
祭乃木亜美が。
日和田良平が。
能瀬 心が。
ルイン恵が。
そして間宮ゆきが。
ゆき(みんなの先頭には祭乃木さん。そこに日和田さん、ここのせさん、恵さんが続く。そして一番後ろは私……)
腰のケースからデッキ取り出した。
思い出が詰まっているデッキ。
良平『このカードはこうやって使うんだ』
ここのせ『よし、まずはオレが相手だぜ』
恵『……いくつかカードを渡しておく……』
デッキを作る時。
練習する時。
戦略を考える時。
ゆき(みんなが私を支えてくれた……)
だから。
ゆき(みんなのために、わたしはーーーー勝ちたい……!)
そう強く願った。
そしてデュエルフィールドへと一歩踏み出した。
ゆき(……一瞬、眩しいなと思った。……そして目が慣れる一秒前に、凄い歓声が聞こえたその瞬間、わたしの身体中が鳥肌立ったのを感じた……)
『さぁぁぁぁ!! いよいよ!!WSGの予選決勝! このネオ童実野シティにおける最強チームを決する日がやってきたぞォォォォォオオ!!』
ワァァと会場が揺れる。
マイクパフォーマンスをするスタジアムDJがさらに声を張り上げる。
モニターには大袈裟な演出と文字が踊っている。
『決勝で激突するチームはぁぁ! 昨年のネオ童実野シティ予選準優勝! デュエルアカデミアの蒼き少女たち!その気高い姿はまさにヴァルキュリア!チームツンドラ!!!』
アカデミアスタンド側のスタンドが油に水を落としたかのように湧き上がる。
鳴物が鳴り響きスタジアムの半分を覆っていた。
『対するチームはァァァァァ! WSC初出場! 破竹の快進撃を続けるダークホース!攻撃力8000を打ち破った奇跡をまた起こせるか!? チームHERO!!』
こちらのアナウンスには疎らな拍手が鳴るだけ。
スタジアムの勢いはアカデミア側、チームツンドラ優勢である。
『両チームが睨み合っている! これは激戦の予感だァァァァァァァァァァ!!』
ゆきは思わず生唾を飲み込んだ。
手先も足先も痺れている。
祭乃木「緊張してる?」
ゆき「凄く緊張してますぅ……」
良平「はは、実は俺もなんだ」
ここのせ「ついでにオレもな」
ゆき「そうなんですね、わたしだけじゃなかったんだ……」
良平「多分、緊張してないのは祭乃木と恵くらいだろ」
恵「……私も冷却装置の回転数を上げている……」
良平「……それってどうなの……?」
祭乃木「なぁに、馬鹿なやりとりしてんのよ! ……ゆき! 大丈夫よ、後ろには良平もアタシもいる! ここのせや恵だってそばにいる! だから、全力で楽しみなさい!」
ゆき「……はい! わたしはわたしの可能性を信じて、戦います!」
大きく頷くとゆきは一歩前へ踏み出した。
左腕には決闘盤がついている。
祭乃木「……いい表情してんじゃない! じゃあ、頼んだわよ!」
チームHEROのメンバーはゆきを残してベンチへと引き下がる。
ゆきだけがフィールドに残った。
デッキを決闘盤に装着し前を睨む。
『さぁぁぁ!! いよいよシノギを削るとき! 両チームのファーストプレイヤーがフィールドに立つぞォォ!』
ゆきは胸に手を当て深呼吸をする。
前方にもデュエリストが一人。
『チームHEROのファーストプレイヤーは、これまでの試合では出場経験なし! この試合が初出場となる間宮ゆき!』
アナウンスに自分の名前が呼ばれ、いよいよ心臓が高鳴った。
前にいるデュエリストが腰のケースからデッキを取り出してセットする。
茶色の短髪に気の強そうな瞳。
デュエルアカデミア オベリスクブルー ツァン・ディレである。
ツァン「やっぱり先発変えてきたね。でも、残念。ボクが相手だ」
『対するチームツンドラは、六武衆の使い手! ツンドラの侍、ツァン・ディレ!』
彼女の名前をアカデミア側スタンドがコールする。
ゆきの額から汗が滴った。
それでも。
ゆき「誰が相手でも、わたしはわたしの戦いをするだけです……!」
ツァン「へぇ、いいこと言うじゃない。じゃあ、その戦いを見せてみてよ!!」
ゆき「いきます!」
二人は決闘盤を構える。
それ即ち決闘の合図。
『準備はいいかァァァァァ!? それではいくぞォオオ! スリィィィィィ、トゥゥゥゥゥゥ、ワァァァァァァァァン! デュエルスタァァァァァァァァァァトォオオ!!』
そして戦いの火蓋が切って落とされた。
ツァン「デュエル!!」
LP4000
ゆき「デュエル!!」
LP4000
メインモニターと決闘盤のディスプレイが連動し点滅する。
やがて表示されたのはチームツンドラの先攻であった。
アカデミア側はチャンステーマをワンフレーズ流し、スタンドが歌う。
ツァンは慣れた様子でデッキからカードを5枚引き抜いた。
ーメインフェイズー
ツァン「先攻は貰ったよ! ボクのターン!」
手札5
【HERO側ベンチ】
祭乃木「こっちは後攻ね」
ここのせ「つか、やべぇじゃねぇか! 金唯信じゃねぇ! 出し負けたか!」
良平「くっ……、二番手にいないといいんだが……」
祭乃木「関係ないわ! 誰が相手だろうが、ぶちのめすだけ!」
【デュエルフィールド】
ツァン「手札から永続魔法、六武衆の結束を発動!」
《六武衆の結束》
永続魔法
ツァン「このカードは、自分フィールドに六武衆が召喚・特殊召喚されるたびに武士道カウンターが2つまで乗る永続魔法。そして、このカードを墓地に送ることで乗っているカウンターの枚数分ドローできる!」
ツァンの足元にカードが起き上がり閃光を放つ。
さらにカードを操っていく。
ツァン「真六武衆-カゲキを召喚!」
真六武衆-カゲキ「ぬん!」
攻:200 風 戦士族 星3
六武衆の結束
武士道カウンター0→1
ツァン「カゲキは召喚に成功した時、手札のレベル4以下の六武衆を特殊召喚できる! きて、六武衆の影武者!」
六武衆の影武者「ハァァッ……!」
守:1800 地 戦士族 星2
六武衆の結束
武士道カウンター 1→2
ツァン「六武衆の結束の効果発動! このカードを墓地に送って、カードを2枚ドローするよ!」
手札2→4
ゆま「……っ!」
【チームHERO側ベンチ】
良平「あっという間にアドを稼いだ……! やっぱり強いぞ、あのデッキ……!」
ここのせ「間宮のやつ、気圧されてなきゃいいが……」
【デュエルフィールド】
ツァン「どんどんいくよ! レベル3のカゲキに、レベル2の影武者をチューニング!」
☆3+☆2=☆5
ツァン「ーーこの世は常の住処にあらず! されども天下は我が物に!」
モンスター達が調律されシンクロリングから新たなモンスターが解き放たれた。
その姿、まさに侍。
ツァン「シンクロ召喚! きて、真六武衆-シエン!」
真六武衆-シエン「是非もなし……」
攻:2500 闇 戦士族 星5
『出たぞォォォォ! ツァン・ディレの切り札、孤高の侍、シエンが登場だァァァァァ! どうする、間宮ゆき!?』
【チームツンドラ側ベンチ】
神川「great! いきなり切り札がきたわね!」
雪乃「上々な滑り出しね。今回も楽勝かしら?」
【デュエルフィールド】
ツァン「カードを2枚セットしてターンエンド!」
ーエンドフェイズー
ツァン・ディレ
LP:4000
伏せ2
手札2
フィールド:
真六武衆-シエン
ードローフェイズー
ゆき「……はぁぁ、ふぅ〜……」
胸に手を置いてもう一度深呼吸。
会場は未だ脇立てっている。
手足の震えは未だ抑えられない。
それでも。
ゆき「……わたしのターンです! ドロー!」
手札5→6
デュエリストはカードに手をかける。
ーメインフェイズー
ゆき「まずは、手札から焔聖騎士-モージを通常召喚です!」
焔聖騎士-モージ「フンッ!」
攻:1500 炎 戦士族 星4
ゆき「さらに手札から、装備魔法、聖剣-アロンダイトを発動! モージに装備です!」
《聖剣-アロンダイト》
装備魔法
ツァン「はいはーい! シエンの効果発動! 1ターンに1度、魔法・罠の発動を無効にして破壊できる! アロンダイトを破壊!」
真六武衆-シエン「キェァァ!」
焔聖騎士-モージ「くっ!?」
迫真の掛け声と共にシエンは刀を一閃。
モージの手に現れた剣を弾き飛ばしてしまった。
聖剣アロンダイトはクルクルと宙を舞い、地面に叩きつけられた。
『シエンの鋭い剣撃がモージの剣を跳ね飛ばしたぞォオオ!?』
ツァン「聞いたことあるよ!西洋の騎士のデッキ! そのデッキのキーカードは聖なる剣! 悪いけど、はたき落させてもらったよ!」
ゆき「……っ……!」
【チームHERO側ベンチ】
ここのせ「いきなり無効にしてきたか!」
祭乃木「カードの発動を無効にされたら、聖剣の再装備効果は使えない……!」
【デュエルフィールド】
ゆき「……まだです!フィールドに炎属性戦士族がいる場合、このカードは特殊召喚できます!手札から焔聖騎士-リナルドを特殊召喚です!」
焔聖騎士-リナルド「ハッ!」
守:200 炎 戦士族 星1 チューナー
ゆき「この方法で特殊召喚したリナルドは、チューナーとして扱います! さらにリナルドは特殊召喚した時、墓地か除外されている装備魔法を手札に加えることができます! この効果でアロンダイトを墓地から手札に加えます!」
手札3→4
ゆき「そのまま、アロンダイトを再びモージに装備!」
《聖剣-アロンダイト》
装備魔法
ゆま「アロンダイトの効果発動! 装備モンスターの攻撃力を500ポイント下げることで、フィールドのセットカードを破壊できます! 右側のカードを破壊!」
焔聖騎士-モージ「タァっ!」
モージは聖剣を構え振り抜く。
刀身から発生した剣撃が伏せカードを粉々に粉砕した。
ツァン「……やるね」
ゆき「……っ! まだまだいきます! レベル4のモージに、レベル1のリナルドをチューニング!」
☆4+☆1=☆5
ゆき「ーー汝、聖なる円卓を揺るがす水面! 泉の元に来れ、魔剣の使い手よ!」
シンクロリングが呼応する。
調律を終え、黒き騎士が飛び出した。
ゆき「シンクロ召喚! 魔聖騎士皇ランスロット!」
魔聖騎士皇ランスロット「ウォォオオ!!」
攻:2100 闇 戦士族 星5
『なんとォオオ! 間宮ゆきが呼び出したのは、黒ずくめの騎士! フィールドには、漆黒の侍と漆黒の騎士!! 剣の使い手同士の戦いだァァァァァ!!』
真六武衆-シエン「ふん!」
魔聖騎士皇ランスロット「はぁぁッ……!」
二騎の侍と騎士がギロリと両者を睨んでいる。
ツァンは片手を腰に当てて口角を上げた。
ツァン「……へぇ、ただの素人ってわけじゃなさそうね」
ゆき「……そうです。わたしはただの素人じゃありません! たくさん練習をした素人です!」
ツァン「ぷっ、あはは! 自分のこと素人って言っちゃうんだね」
ゆき「事実ですから! でも想いだけは負けませんよ!」
ツァン「ボクはそういうの嫌いじゃない。ちょっとは認めてあげてもいいけど? その震えを止められたらね」
指摘する。
ゆきの手足は小刻みに震えている。
ゆき「あ、あぅ……こ、これは武者震い……いいえ! 騎士震いです! いきますよ! ランスロットの効果発動! シンクロ召喚に成功した場合、デッキから聖剣を装備できます! この効果で聖剣-カリバーンを装備です!」
魔聖騎士皇ランスロット「ハァァッ!」
攻:2100→2600
ゆき「カリバーンは、装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせます! さらに、1ターンに1度、ライフを500ポイント回復できます!」
LP4000→4500
ゆき「さらに、墓地の焔聖騎士-モージの効果発動! フィールドの戦士族モンスターに装備カード扱いで装備できます! ランスロットに装備! 」
《焔聖騎士-モージ》
効果モンスター
ゆま「このカードが装備されているモンスターは、戦闘では破壊されません!」
ツァン「墓地から装備……! 」
ゆき「それではバトルです!」
ーバトルフェイズー
ゆき「ランスロットで真六武衆-シエンを攻撃!!」
魔聖騎士皇ランスロット「シァァァァァ!!」
真六武衆-シエン「チェァァァァァァァァァァ!」
ツァン「トラップ発動! 攻撃の無力化!」
《攻撃の無力化》
カウンター罠
罠カードが発動する。
ランスロットとシエンは互いの得物をぶつけ合う。
鋼と鋼、鍔迫り合いが火花を散らす。
やがて互いが弾かれたように後退し地面を痛烈に擦っていく。
ゆき「倒せませんでした……!? 」
ツァン「残念だったね! シエンは無傷!」
ゆき「…っ……メインフェイズ2へ!」
ーメインフェイズ2ー
ゆき「カードを1枚セットしてターンエンドです!」
ーエンドフェイズー
間宮ゆき
LP:4000
手札:2
魔法罠:1
聖剣カリバーン
焔聖騎士モージ
フィールド:
魔聖騎士皇ランスロット
ツァン「今のターンはただの挨拶だよ! ついてこられる!?」
ゆき「……絶対に……負けません……!」
ゆきはきっとフィールドを睨む。
スタジアムの歓声は未だ衰えることはなかった。
例によって2020年8月までのカードプールとなります。
ちなみにサイバー流や六武衆が強いデッキ扱いなのは、間違いなく私の偏見です。
7期から8期くらいと9期前半強かったデッキはずっと印象に残ってるもんです。
地の文や台詞形式について
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今のままで良い
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台詞のみの台本形式の方が読みやすい
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小説のような形式の方が読みやすい