遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
・カードプールも2020年6月まで。
2022年11月28日に地の文の修正と一部加筆を行いました。
大筋に変更はありません。
よければアンケートにお答えいただけると嬉しいです!
よろしくお願い申し上げます。
第1話「ようこそ、ヒーロー部へ」前編
幼い頃。
まだ物心がつく前だと思う。
父が膝立ちで自分を抱きしめていた。
時折、父の堪えきれない嗚咽が耳を掠めていく。
家に置いてある仏壇の意味がわかるようになったのはそれから数年経ってからだった。
「亜美は母さんに似ているよ」
仏壇の前に座るたびに父はそう言った。
どこが、と聞くと父は決まって誉めてくれる。
優しいところ。正義感が強いところ。
「亜美の中に、しっかりと母さんの血が流れているんだね」
写真には、若い女性が写っている。
おそらくはこんなことに使われるつもりではなかったであろう笑顔の写真は、後ろ髪に結った髪が躍動していた。
母親の写真だとわかっている。
優しくて、正義感がある素晴らしい人。
でもわからない。
母と過ごした時間があまりにも遠く幼すぎた。
「私もお線香あげていいかな、亜美ちゃん」
幸薄そうな女性がなぜか自分に聞いてくる。
毎年決まった日にだけ家を訪ねてきてはこうして線香をあげていく。
そんな女性だった。
「彼女は私のーーーヒーローなの」
それが彼女の口癖だった。
言葉が心の中に響いていく。
幼い自分に馴染んでいく。
憧れの始まりだった。
うまくいかなくても。
空回りしても。
ヒーローにならないと。
「わかっているよ、亜美は優しい子だから。……でもね、亜美。暴力じゃ人は救えないんだ」
懐かしい夢を見た。
――――
デュエルモンスターズ。それは、カードに記されたこの世界の神秘。そのカードを操る者を決闘者と、そしてその頂点に立つ者を人々は、遊戯王、と呼んだ。
――――
誠に小さな国であるここ日本は、ことデュエルモンスターズにおいては大国も大国でした。
デュエルモンスターズという概念の発祥は、アメリカに本社を置いていたI2社(インダストリアルイリュージョン社)が発見、開発、発売したカードゲームが元でしたが、後に重大な力を持つコミュニケーションシステムへと発展していきました。
デュエルモンスターズにおいて伝説の決闘者と呼ばれる者が3名おり、その全てがここ日本の童実野町――現代のネオ童実野シティが排出したのです。
また、今から数十年前に世界の危機を救い、幾度も奇跡を起こしてきた竜の痣を持つ決闘者――シグナ―が戦いを繰り広げたのもこの街です。
これに加えI2社の本社および、デュエルモンスターズの発展に大きく貢献した海馬コーポレーションの本社が存在する、このネオ童実野シティは「デュエルの聖地」と呼ばれるに至ったのです。
『童実野町 観光案内』
「へぇ、そうなんだぁ」
詰襟を着たその男子学生はその看板を眺めながらそう声を漏らす。
小高い丘の上、街を見渡せるその場所では都外から来た中学生達とその引率の教師が午後の休憩としてくつろいでいた。
横で同じ中学の女子生徒は呆れたように溜息をついた。
「授業で習ったじゃん。修学旅行の前の事前学習でも先生言ってたし」
「そ、そうだっけ……」
「向こうに見えるのが童実野高校でしょ。ほら、あのデュエルキングが通ってたっていう」
「え、じゃああっちの高校は?」
「あっちは童実野第二高校ってそこの案内板に書いてあったでしょ」
女子中学生は童実野高校よりも離れた場所に小さく見えるそれを指さした。
都立童実野第二高校の敷地内。
校門を過ぎ、左手に校庭右手に校舎がそびえるその中央道を抜けた先。放課を告げるチャイムが鳴り響く中、体育館では轟音が鳴り響いていた。
[体育館]
二人の男女が4、5メートル程の距離で向かい合って立っていた。
二人の左腕には円盤に板のようなものが取り付けてある機械―――決闘盤が装着されており、ライフカウンターが煌々と光っている。
二人の間では、戦士のように武具を構える『モンスター』と空中に我が物顔で轟音を吹かしている機械のような『モンスター』がにらみ合っていて、まさに『フィールド』と言って差し支えないような戦場と化していた。
勿論、実物ではない。
その正体は、あたかも目の前にモンスターを『召喚』したかのような臨場感を与える――ソリッドビジョンである。
今でもこの街に大きな経済効果を与えているという企業、海馬コーポレーションが百年近く前に開発したものだ、と教科書には書いてある。
そんなソリッドビジョンシステム機は今にも壊れそうな悲鳴を上げていた。
しかし意にも止めず、赤みがかった髪を一つに結ったツンとした目つきの少女が口角を上げて右手のカードを前に掲げた。
「アタシは、手札から融合を発動!」
そのまま左腕に付けた決闘盤の空いているマジックトラップゾーンに勢いよく差し込む。
すると眼前でそのカードが具現化したように回転しながら表示された。
《融合》
通常魔法
発動と同時に緑と紫の渦がフィールドに現れ、フィールドの戦士のようなモンスター1体と彼女の手札のカードを包み込む。
「フィールドのプリズマーと手札のスパークマンで融合召喚!」
高らかに宣言したかと思うと、渦がさらに大きなうねりを見せてやがてその中心が輝き始めた。
「行くわよ! シャイニングフレア……」
彼女が言いかけた瞬間、悲鳴をあげていたソリッドビジョンシステム機から黒い煙が立ち上った。
数回火花を散らし、やがて小気味の良い破裂音を轟かせた。
むべなるかな、ソリッドビジョンは立ち消えとなり、焦げ臭いにおいのみを残していった。
「あれ?」と少女は小首を傾げるものの、彼女が与えた高負荷が致命打になったことは火を見るよりも明らかである。
蛍光灯は衝撃からか、はたまた急激な電圧の変化かちかちかと風前の灯の如く明転を繰り返していた。
「あーあーあー……」
対面にいた男子生徒は力なく声を漏らす。
観戦していたもう一人の男子生徒もまさしくお手上げと肩をすぼめた。
「コラー!!」
目ざとく、否、耳ざとく聞きつけたらしい教員が慌ただしく体育館のドアをあけ放つ。その第一声がこれだ。
「お前たち、何をしてるー!!」
脂と見まごう汗を流しながら、教頭は青筋を立てる。
これを仰ぎ見て、少女―――祭乃木亜美は赤みの強いポニーテールを揺らした。
「何って、デュエルですけど?」
「許可なく勝手に学校の備品を使ってデュエルをするな!」
教頭が汗を飛ばしながら叫ぶように言い放つ。
それに反応して祭乃木と対面していた男子生徒――日和田良平は、人から眠そうだと指摘される目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。
「いや許可って……。運動部は勝手に校庭やらライトやらを使ってるじゃないですか。いちいち許可とるなんて知らなかったんです」
「あれは部活動だから許可している! 遊びで使うんじゃない!」
「聞き捨てならねぇな」と今度はその二人を静観していたもう一人の男子生徒――能瀬心、略してここのせが腕を組みながら教頭を見据えた。
「俺たちも部活で使ってるんだぜ」
「ぶ、部活だとぅ? お前たち、何部だと言うんだ」
教頭のその言葉に、祭乃木はまってましたと言わんばかりに二ィと笑った。
「アタシたちは!」
それに合わせるように、良平とここのせが宣言した。
「デュエルぶ……「ヒーロー部よ!!!」
第1話 『ようこそヒーロー部へ』
[部室(不法占拠した地学準備室)]
4階建ての校舎の南側の一番奥。
そのドアの入り口のプレートには地学準備室と書いてあり、中には段ボールに突き刺さった地図と測量機器がそこかしこに散らばっている。
随分と埃が被っていて、ここ数年使われた形跡はない。
代わりに、部屋の中央はすっきりとかたずけられていて、スプルースでできた大きめの机と、人口革の黒い2人掛けソファーが2つ、挟むように置いてあった。
亜美は椅子に深く腰掛けてスカートも気にせず足と腕を組み、ついでに右手の人差し指でトントンと自分の二の腕を叩いた。
「もう!!納得いかないんだけど! なんでアタシらがおこられんのよ!」
不機嫌そうに顔を背けて言うと、その前のソファーに座っていた良平がちらりとも見ずに口だけ開いた。
「勝手に使ったらダメだったんだから仕方ないよ。……レベル7になった幻獣機メガラプターと星向く鳥でオーバーレイ、RRアーセナルファルコンをエクシーズ召喚」
言うだけ言って、彼は手を動かし机の上に展開したカードを操作する。ここのせは思わず叫びをあげた。
「お前なぁ! また結界像じゃねぇかよ!」
やられた、という顔でソファーにめり込むとギュウと音が鳴った。
日和田良平と能瀬心。
彼らは自称部長の祭乃木亜美の小学生からの幼馴染である。
デュエルに勝利した日和田良平は、すらりと伸びた身長と眠そうにも見える目、茶色掛かった髪が特徴的な男子生徒だ。
一方、敗北した能瀬心は、頬と鼻にそばかすがあって身長は良平より低く亜美より高い程度の男子である。
しかし、心という名前で彼を呼ぶのは肉親くらいなもので、周りからはもっぱらここのせと呼ばれていた。
自分の名前が気に入っておらず、下の名前で呼ばれるのが嫌だというので亜美が命名したあだ名である。
亜美は思わず矛先をその二人に向けた。
「ちょっとあんたら、一回デュエルやめなさいよ!」
聞き入れたのか、負けを認めたのか、ここのせは手を止めると亜美の方を向いた。
「……いや祭乃木、俺たちデュエル部――」
「ヒーロー部」
ここのせの言にかぶせるように訂正してやる。
それに苦言を呈すわけでもなくここのは続けた。
「 ……ヒーロー部は認可されてねぇんだ。あのハゲを黙らせるには、学校側に認可してもらうしかねぇぜ」
展開したカードをまとめながら言い切った。
良平は単純な疑問をぶつける。
「そもそも認可ってどうやったらされるの?」
「……わからん」
「祭乃木は知ってる?」
「知らないわよそんなの」
「三人ともわかんないんじゃお手上げだね」
言うと良平も散らばったカードをとんとんと軽くならして、黒いデッキホルダーの中に大事そうにしまった。
同じくデッキを白に銀の箔押しされたデッキケースに入れたここのせは頭の後ろに手を回す。
「三人寄っても文殊の知恵にはならねぇってこともあるんだな。つっても何をやってっかわかんねぇような部活じゃ、認可されても人は集まらねぇだろうけどよ」
「何よ失礼ね」と亜美が頬を膨らませた。
「ちゃんとデュエルしてるじゃない! それにデュエルの授業では全戦全勝なのよ!? 宣伝だってばっちりじゃない!」
「あー……もしかして、それが原因……?」
心当たりがあるように良平は後ろ頭を描く。
「原因って何よ?」
「だって祭乃木、他の生徒だと相手にならないだろ。それで毎回最終的に俺と一騎討ちになるじゃないか。それにスターターデッキじゃないデッキを使ってるのは俺たちだけだし……」
「でもデュエルで手は抜けないもの! ていうかアンタだって、他のやつボコボコにしてるじゃない!」
「そ、それは……」
図星のようで良平は明後日の方角を見た。
ここのせは、ため息をついて腕を組む。
「お前らが同じクラスにされたのは、そのせいなんじゃねぇのか? そんなバーサーカーがいる部活に素人が入ろうと思うかってんだ」
「な、なによぅ! アンタもスターターデッキじゃないんだから、自分のクラスで勝ちまくってるでしょ!」
「あのなぁ、オレの"体質"のこと、お前らも知ってるだろ。オレはお前らみたいに全戦全勝ってわけにはいかねーんだよ」
「でも勝ってるでしょ!!」
亜美は強引にここのせに迫る。
「そりゃあ多少は」と認めた。
二人を仲裁するように良平は声を出した。
「人が集まるかどうかは置いておいて、とりあえず認可させる方法を見つけようよ」
亜美はまだ頬を膨らませたまま席に座る。
良平は続ける。
「とりあえず将棋部の水原に聞いてみよう。あいつ中学のとき文芸部作ってたからさ」
「ええぇ?」と祭乃木は顔を顰めた。
「頼りになんの? デュエルできないのよ?」
随分な言いように良平は思わず乾いた笑いを漏らす。
「いやあれでも、結構頼りにはなるよ。……ちょっと我慢すれば」
その言葉に、亜美はため息をひとつ零すと観念したように立ち上がった。
ここ童実野第二高等学校は、文武両道を謳う公立の学校ではあるが「武」の方は今一パッとするものがない。
校舎を彩る垂れ幕が語る実績も「相撲部が全国で8位」と「吹奏楽部が県大会で銅賞」というのが最大だった。
一方で「文」の方は比較的優秀で大学の進学実績は少なくとも町内ではトップだろう。
この高校の歴史を紐解けば、それもそのはずで、かつては童実野高校という高校の分校だったことに端を発する。
優秀な者と素行が悪い者との差があまりにも激しかった童実野高校は、成績優秀で大学までの進学を狙える者と、最低限高等教育を受けて社会に出ていく者とを分ける必要に迫られていた。
成績が優秀な者は第二高校へ。そうでないなら童実野高校へ。
そういう住み分けがなされていた、と記録されている。
現在ではもはや両校の繋がりはほとんどないが、その名残で童実野高校に「武」とついでに治安の悪さを置いてきてしまったのである。
つまりは、非常に硬派で保守的な学校であるということだ。
童実野第二高校に通う者、いやこのネオ童実野シティに住むものは全員知っている。
亜美も生半可では認可はされないということはよくわかった。
亜美を先頭に、良平とここのせがその両翼を一歩下がって歩く。
階段を下って部室棟にいくと三つ目の扉にお目当ての将棋部の部室があった。
[将棋部 部室]
「―――というわけなんだけど」
良平は今日の経緯を目の前の男子生徒に話す。
男子生徒は、ざんばらの髪に眼鏡をかけていて常にむっとした顔をしていた。
こじんまりとした教室の中には、最低限の机と椅子と座布団があり、直ぐに対局できるように将棋盤が三つほどセットされている。
だが指す者は今はおらず、ただそこの主という男子生徒が、一人掛けの椅子に腰かけ、その机にノートパソコンを置いているだけだった。
良平の話を聞き終わると、彼は鼻を鳴らした。
「そのカードゲーム遊び部、まだやってたのか? よくやるな」
「アンタ喧嘩売ってんの?」
亜美は、腰に手を当てて男子生徒を覗き込む。
ついでに睨むのも忘れない。
しかし男子生徒、水原忠一は大仰に肩をすくめるだけだった。
「まさか。いやホントに」
その言いぐさにさらに膨れる亜美を抑えて、今度はここのせが水原に向けて口を開く。
「お前、中学ん時、文芸部作ったろ。どうやったんだ?」
「人数と顧問とが足りれてれば申請通るよ。普通の部活ならね。でもお前らはデュエルが活動なんだろう? 本格的すぎて話にならんよ」
「本格的で何がいけねぇてんだい?」
「だってそうだろ。例えばボクシングやF1とかだってメジャーなスポーツだけど、設備に金が掛かる。その金をかけるほど本気な人間がこんな普通の高校には来ない。デュエルを本気でやりたいならデュエルアカデミアに行くはずだからな」
「…………」
デュエルアカデミア、という名が出た瞬間、ここのせは口をつぐんでしまう。
それを出されたら、ここのせは何も言えなかった。
仕方なしに亜美は腕を組んだ。
「何かいい方法はないの?」
「さぁ。本気でデュエルをする部活をこの童実野第二高校に作るんなら、それなりの実績を作らないといけないんじゃないのか?」
「実績ねぇ、たとえばどんなのがいいのよ」
「そんなの俺は知らんよ。……はぁ」
ため息をついてから水原はノートPCに向いてキーボードを叩く。
そして検索された結果を確認してから画面を右手で軽くたたいた。
「こういう大会に出たらいいんじゃないのか?」
「どれどれ?」と良平は画面を覗き込み、そして顔を顰めた。
「うわぁ、WSCかぁ……。これは無理だよ」
「詳しくは知らんけど、そこそこ大きい大会だろ。俺でも知っている」
「そこそこなんてものじゃないよ。ワールドスタンディングデュエルクラシック。世界各地から腕利きのデュエリスト達が集まる最大級のチーム戦の大会だ。そんなの、大会未経験の俺らなんて出ることもできないよ」
「ふーん、そんなもんか」
「別の道を探そうよ」
「待ちなさいよ」と亜美が口を挟む。
「確かにWSCはめちゃくちゃ大きな大会だけど、一般選考があるはずよ。忠一、調べて」
なんで俺が、と不満を口にするも素直にサイトを堀深めていく。
すると、以外にも苦労せずにそれは見つかった。
作り込まれたHTMLで、万人が読んで万人が理解できるような文言だった。
「どうやら地方予選大会で勝ち抜けば、出れるらしい。まぁ、ネオ童実野シティの予選大会なんて何百チームもでるだろうけどね」
現実的でない、と忠一は背もたれに深く寄り掛かった。
しかし祭乃木はあっけらかんと返答した。
「つまり勝てば出れるってことでしょ?」
「……そうだ」
「いいじゃない!! やってやろうじゃないの! ね、そのままエントリーしちゃってよ!」
忠一の肩をどんと叩き、サイトを映し出す画面を指さした。
そこには、出場へと書いてあるリンクが大きめに表示されている。祭乃木の発言に良平は引きつったような、しかしどこか期待したような顔で口を開いた。
「マジで言ってる? これに出られるの?」
そんな様子に、ここのせは自分の腰についているデッキケースに手を置いて呟く。
「オレ、デッキに自信ねぇけど……」
「こんなこと言っちゃってるけど? ホントにエントリーしていいのか?」
忠一は、親指でここのせを指さしながら顔を斜に構えた。
しかし亜美は笑みを絶やすことはなかった。
「いいわ! 出るのはタダなんだし、チャレンジよ、チャレンジ!」
言うと、ゆっくりと歩きだして全員が見渡せる場所に行く。
そして振り返ると両手を腰に当てた。
「いい? アタシたちヒーロー部はこの一年間、自分たちのデュエルを磨いてきたわ。それは自分たちが楽しみたいってのもあるけど、それだけが理由じゃない。アタシには目標があるの。暴力じゃない、それでいて確かな力――デュエルで人を救うって!」
全員を見渡す。
忠一は納得していないようで「なんだそれは」と漏らす。
しかし亜美は文句をつけることもなく続けた。
「具体的にどうすればいいかなんてわからないわ。だからそういう部活を作ったのよ。いいや作りたいって方が正しいかしら。でもそれを通すなら学校にアタシたちを認めさせる必要がある!」
言い切って亜美は良平とここのせを見つめた。
「だから目指すは優勝! どでかい実績をこの学校に作ってやろうじゃない!それがアタシたちヒーロー部の、最初の一歩よ!」
[ネオ童実野シティ カードショップ]
放課後になって学校を飛び出したヒーロー部は早速街のカードショップへと繰り出していた。
ネオ童実野シティの中心街には、セントラルタワーと呼ばれる役所と警察組織の複合施設があり、さらに対面には複数の高層ビルが並んでいる。
ビル群の中で最大規模を誇る建物にはKCという看板が掲げられていた。
街はこれらを中心に円形状に発展しており、この繁華街もそのうちの一つだった。
比較的郊外に近い童実野二高からは歩いて15分程度の場所で、放課後にぶらつくにはちょうど良い立地である。
「てことで、まずは! デッキ強化!」
祭乃木はショップの中でポニーテールを揺らして振り返った。その背後には、所狭しとショーケースとストレージカードが整然と並んでいる。
高いカードからジャンク品レベルまで色とりどりのカードたちが、様々な値段で取引されていた。
カードを前に息巻いている祭乃木に対してここのせは、右手を腰に当てた。
「気早すぎだろ。まだあと1ヶ月もあるんだぜ?」
「も、じゃないわ! あと1か月しかないのよ! その間にできる努力は全部やらなきゃ!」
「つってもなぁ……碌なカード手に入らねぇからな」
ぼやきながら店内を見回す。
すると良平がショーケースに目を凝らしているのが見えた。
「かきく……幻獣……、あれ、幻獣機ショーケースにないんだけど」
「あるわけないでしょ。ストレージ漁ってきなさい」
「あるわけないって……。 ていうかデッキ強化とは言ってもなぁ、根幹のカードは変えられないからサポートカード探すしかないよね」
諦めたように良平はショーケースからストレージカードに目を向ける。
ストレージカードの中には誰もが持っているようなノーマルカードや、基本的で汎用的なマジックカードやトラップカードが種類ごとにまとめられている。
しかし膨大な量にここのせは眉を潜めた。
「ストレージから探すのきつすぎるなこれ……。ショーケースのカードは手出せないような値段だしよ」
「何言ってんの」と当たり前のように言いながらレジに歩を進める祭乃木。
「パック買うに決まってるでしょ?」
「パックかよ……。当たらねぇって」
「やってみなきゃわからないじゃない」
「……お前が買えばヒーロー系が当たるし、良平が買えば幻獣機系が当たる、そういうもんだ。カードに選ばれるってのはな。その適正がオレにはねぇから困ってんじゃねぇか」
ここのせは、ため息交じりに肩をすくめた。
“事情”をよく知る良平はそんなここのせの肩に手を置く。
「それでもカードを集めて、なんとか回るデッキを組んでるんだからすごいと思うよ」
「変に慰めんなってんだい」
そんな二人を見据えた亜美は、手にしたパックをひらひらとさせた。
「“運命力”とかってやつでしょ。わかってるわよ。でも三人でパックを買えば、いいカードも手に入るだろうし、お互いに当たったカードを分ければいいわ。……ってあれ?」
ふと店の隅に目を向けると、そこには自分たちと同じ制服を着た女子生徒がショーケースの陰からこちらをみていた。
栗色で肩口くらいの髪が不安げにちらちらと揺れている。
スカートは亜美と同じくおしゃれに見せる程度の長さで、すらりと足が伸びている。
標準よりもやや目を引く胸元はしっかりと第一ボタンまで閉められていてリボンもきっちりと結ばれていた。
「えーっと、えーっと、あ、あうぅ……」
「ねぇ、あの子、ウチの制服じゃない? アタシら以外でデュエルやってる子いたのね」
亜美の指を目で追った良平は、これまで校舎ですれ違った生徒の中に或いは1年生の学校行事で見たことがある名前がその脳裏に浮かんだ。
「あれって、二組の間宮じゃないか? なんかこっち見てるよ?」
「あっ……!」
良平とばちりと目が合ったその栗色の髪の少女は、さっとショーケースの裏にその顔を引っ込めた。それで三人から彼女の存在が消えないのは火を見るより明らかである。
「あ、隠れた」
「ちょっと声かけてみよっと。……おーい! 」
彼女が隠れたと思わしき、ショーケースの陰に向けて亜美は歩いていく。
当然そこには借りて来た猫のように、心なしか小さくなっている彼女がいて、目を白黒させていた。
「……み、見つかっちゃった……! は、はい!! 」
「アンタ、同じ学校でしょ? なんでそんなコソコソしてんのよ?」
「えっと……ちょっと様子をうかがっていたというか……」
「様子? ま、いいわ。アタシ、祭乃木! 祭乃木亜美! 四組よ!」
「あ、間宮ゆきです。二組です」
ぺこりとお辞儀をする。
そしてそのまま顔を上げると、栗色の髪の少女――間宮ゆきは愛想のいい笑みを浮かべた
「祭乃木さんのことは知ってますよ! 体育テストの化け物だって、クラスの男の子が言ってました」
「ま、当然よね! 体育とデュエルの成績はいつだって5よ!」
「すごいです! あ、そちらのお二人も、祭乃木さんと一緒に、体育館で教頭先生に怒られてましたよね」
ゆきの指摘に良平は思わず左手でこめかみを抑えて絞り出すように声を出す。
「それ忘れよう? ね? ……あ、俺は日和田良平、祭乃木と同じく四組」
「オレは五組のここのせだ」
「日和田さんですね! それと、ここのせ、さん? 珍しいお名前ですね?」
名前を反芻するとゆきは小首を傾げた。
すると亜美は、右手で否定するようにひらひらと振る。
「あー、違う違う。ここのせってのはあだ名よ。能勢心っていうの。で略してここのせ」
それに補足するように良平がゆきに耳打ちした。
「心って名前が恥ずかしいから呼ばれたくないんだって」
「そうなんですね! じゃあ私もここのせさんと呼びますね」
「うん。そうしてくれ」
ゆきの言葉に、ここのせは満足そうにうなずいた。
「それで」と亜美が話を戻す。
「アタシたちになんか用? なんか見てたみたいだけど」
「す、すみません、ごめんなさい! 学校からずっと様子をうかがってたんですが、ここまでついてきちゃいました……! 実は、みなさんに相談したいことがあって」
「俺たちに? なんだろ?」
良平が自分よりも20センチ程低いゆきの頭を見つめながらそう問うとゆきは、すこしもじもじとしながら答えた。
「えっと、人に贈るプレゼントを探してて……。このデュエルモンスターズのカードにしようかなと思ってるんです」
「へぇ、いいじゃない」
「でも……、私はカードのことよく知らなくて、何をプレゼントすれば喜ばれるかわからないんです……。周りに誰も詳しい人がいないし……、相談できる人がいなくて……。カードショップはひとりではちょっと怖いですし……。その時、体育館でデュエルをしているのを見て……」
「なるほどねぇ。いいわ、任せて! バッチリ相談に乗ってあげるわ!」
「本当ですかぁ!! やったぁ! ありがとうございますっ!」
ぴょんぴょんと小さくジャンプして喜ぶゆき。
それを尻目に良平は、腕を組んで思案する。
「うーん、カードをプレゼントかぁ。でもちょっと難しそうだなぁ。その人、デッキは何使ってるかとかはわかる?」
「……な、名前がカタカナの長い名前ばかりで覚えてないですぅ……」
「じゃあ、なんでもいいから覚えてることはない?」
「えーっと、特殊召喚? というのをたくさんするカードがいっぱいでした。あとは……じ、地獄?みたいな名前のカードを使ってました」
「地獄みたいなカード?」
予想外の返答に、思わず良平はオウム返しする。
亜美も思い当たるものがなく、眉を潜めた。
「そんなカードあるかしら?」
ここのせもお手上げと言わんばかりに掌を上げる。
良平はゆきに向きなおして質問を重ねた。
「間宮さん、属性とかはわからない?」
「それはちょっと……。でも黒っぽいモンスターばかりだったと思います」
「黒っぽいモンスターに地獄……」
必死に考えて亜美はそれらしい候補を上げる。
「ガイウス軸のカエル帝とか?」
聞いた良平は、ゆるりと首を振った。
「いや帝は特殊召喚たくさんしないと思うな」
良平の言葉に亜美は「うーん」と唸るものの、観念したように呟く。
「じゃあわからないわね……」
「……いや黒いモンスターに地獄……思い当たるテーマが一つあるにはあるんだけど……。その人ってどんな人なの?」
良平は、右手を顎に当てながらゆきに聞く。
「えっ!? あ、あぅぅ……、えと、えと、私たちの一つ上の学年の人です……」
「あー、じゃあ、違うかな。うん、ありえないし……」
自分で完結させようとしている良平の脇腹をここのせは指でつつく。
「なんだよ気になるじゃねぇか。言ってみろよ」
「いや、絶対違うよ」
あくまで否定する良平に、亜美は両手を腰に当てた。
圧力をかけるようにしたから良平の顔を覗き込んでやる。
「そんな言われたら逆に気になるじゃない、言いなさいよ」
「……じゃあ言うけど……《インフェルノイド》じゃないかなって」
「あっ!」
インフェルノイドという言葉にピクリと反応し、ゆきは思わず声を上げた。
「それです! そういう名前でした! 日和田さんすごいですぅ!!」
パタパタと胸の前で小さく拍手をするゆき。
一方で、名前を聞いた亜美とここのせは、困惑したように口を開けた。
「えっ!? インフェルノイドって、めっちゃレアカードでしょ!? すごい高いんじゃないの!?」
「……カードによっちゃ何十万とするはずだぜ。実物は見たことないし、効果もあまり知らないけどな。間宮、本当にインフェルノイドなのか? 勘違いじゃねぇのか?」
「いえ、そのインフェルノイドというので間違いないはずです!」
「まじかよ……」
あまりの事実にここのせは言葉を失った。
カードにはいくつものレアリティがある。
しかし、同一のレアリティであっても希少価値というまた別の尺度で1枚のカードにつけられた資産的な価値は大きく変動する。
つまりは子供が買えるような値段から、社会人でも購入が困難なほど高額なカードも存在する。
それらのカードを、パックによる“運”以外で収集するのならば相当な資産が必要となるのは誰が見てもわかることだ。
カードが平等に手にはいるわけではないこの現実社会において、カードデッキを“運”によらず作り上げるのは不可能に近いことを意味していた。
だからこそ“運”を引き寄せてカードを入手するのが一般的というわけだ。
引き寄せられた運命のカードは自分では選ぶことはできない以上、強力で資産価値の高いカードを所持しているのは、いずれにしても特殊な人間であると言わざるを得なかった。
「間宮さん、そのプレゼントする人って何者なんだ……? 俺たちの一つ上なんだろ?」
「……実は、デュエルアカデミアに通っている人なんです……えへへ」
両手を後ろで組み、ゆきは頬を赤く染めた。
しかしその学校名は三人を驚かせるには十分だった。
「デュエルアカデミア!? え、どういう関係なのよ!?」
「えっ!? あ、あー、えーっと」
ずいと顔を寄せる亜美に、ゆきは思わず口どもる。
亜美の肩を引き、距離を取らせてから良平は眉の端をハの字に上げた。
「言いづらいなら応えなくてもいいよ」
「いえ、言いづらいわけではないんですが、ちょっと恥ずかしくて……。え、えへへ……その、中学生の時からお付き合いしてる人なんですぅ」
「か、彼氏ぃぃ!!?」と三人は口々に叫んだ。
予想外に声を上げてしまったため良平はあわてて回りを見渡す。
幸いにして、店内に人はすくなく振り向く人は誰もいなかった。
亜美は、空いた口の傍に右手のひらを寄せる。
「よ、予想外にぶっこんできたわね……!」
「まじかよ……。すげーなぁ」
ここのせも同調して、感嘆する。
「いや関係もそうだけど、持ってるデッキもすごいぞ」
「いやホントだよな。デュエルアカデミアつってもまじでインフェルノイドかよ……。あれ……いや待て……、間宮、そいつってもしかして去年のWSCに出てたオベリスクブルーの奴じゃないのか!?」
「えっと、なんていう大会はわかりませんが、大っきな大会で準優勝って言ってました」
にこにこと話すゆき。
おそらく、すごさを明確には理解していないのは見て取れた。
良平は事の重大さに思わず右手で頭の後ろを掻いた。
「そ、そんな人にカードをプレゼントするのは結構大変だなぁ」
「なーに言ってんのよ!」と後ろ向きになる良平の背中をたたく。
「こういうのは、気持ちが大事なのよ。考えても見なさいよ、アカデミアって寮生活でしょ? それなのに一年以上も想ってくれる彼女なんて最高じゃない!」
「えへへ……照れちゃいます……!」
ゆきは、両手で赤くなる頬を抑えて隠す。
気持ちが大事なのはよくわかるが、それはそれとして用意するものも相応でなければならないのも事実である。
よくも悪くもそういう現実的なことを考えてしまうのは短所でもあると良平自身もわかってはいるのだが、思い浮かんだ懸念は表に出さざるを得なかった。
「でも気持ちと言ってもなぁ、インフェルノイド関係のカードを単品買いだとそれこそナン10万と掛かるぞ」
「さ、流石にそんなお金は……」
「じゃあ」とここのせは、しゅんとするゆきに対して、と言うよりかは良平に向けて声を出した。
「ワンチャン狙ってパックを買ってやればいいんじゃねぇか」
言うと亜美も同調し、背後にあるパックコーナーを右手の親指で指示した。
「そうね。それが妥当よね。普段はなかなか買えないちょっとお高いパックなんかが喜ばれるんじゃない?」
「えっと……どれがどのパックなんですかぁ?」
「このvol.てパックがアタシらが普段買ってるやつよ。今のところ1から11まであるんだけど、収録カードも封入率も一切謎なのよ。一番安いんだけど未だに見たことないカードとかでるわ」
「これはあんまりプレゼントには向かねぇだろうな」
とここのせが補足する。
ゆきは、腰を曲げて吊るされているパックを凝視している。
「ふむふむ。こっちはなんですか?」
「それはビギナーズパックシリーズ。値段はちょっと高いんだけど、使いやすいカードが種類毎に収録されてるわよ」
「アカデミアの生徒にはいらないパックだね」
今度は良平が補足した。
ゆきは深くうなずき、他の商品も見渡した。
「なるほどなるほど。色々な種類のパックがあるんですねぇ」
「で、これが一番高いパック、プレミアムゴールドパックよ」
亜美は、ゆきにわかるように指でそれを指す。
金色の表紙はいかにも豪華なパッケージになっている。
「1パック2千円で5枚しか入ってないぼったくりパック。でもその分、ものすごいレアカードが当たりやすいパックでもあるの。パックをプレゼントにするなら、これがオススメかな」
良平もそれに「うん」と同意する。
「買いたくてもハイリスク過ぎて買えないパックだからね。流石のアカデミア生でも、そうそう買えないはず」
「わぁ、凄そうです! じゃあこれにします! どうやって買えばいいんですかぁ?」
「この札を持ってレジにいけば買えるわよ。一緒に行きましょ」
「ありがとうこざいます!」
まるで自分が買うかのようにわくわくしながらゆきはレジへ歩いていく。
その姿を亜美は自分が始めてカードパックを買ったときと重なり、思わず笑みがこぼれた。
レジに行くとエプロンを付けた男性の店員が「いらっしゃいませ」と定型文を口にした。
「あの! これください!」
「はい。……ではこの中からパックを選んでください」
「えーっと、えーっと」
差し出された箱には、金色のパックが縦向きに並んでいて先頭からも最後尾からも中間からもとれるようになっている。
はじめてのことにゆきは、どれを取るべきか手を空中で迷わせていた。
「直感で大丈夫よ。いくつ買う?」
亜美が助け舟を出すと、ゆきはこちらも見ずに「3つ買います!」と返答する。想像以上に購入のでここのせは冷やかすように言った。
「おー、いくねぇ」
「プレゼントですから! ……じゃあこれとこれとこれでお願いします!」
中間の方から三つ抜き取ると店員に渡す。
店員は手早くコードリーダーで読み取り、レジを操作する。
「6000円でーす」
「はい! ちょうどです!」
ピンク色の少しくたびれた財布からお札を取り出して受け皿に出した。
店員はにこりともせずにそれを取ると、再びレジを打ち込む。
ガラガラと音がして、レシートを出すとそれをゆきに手渡した。
「あざっしたー」
「えへへ……いいカードが当たりますように……!」
購入したそれをぎゅっと抱き込むようにしてそうおまじないを掛ける。
三人はほほえましげに眺めながら店の外へ出た。
外にでるといつの間にか日が傾いていて街がやや紅に染まっている。
ゆきは、こちらに向きなおすと深くお辞儀した。
「本当にありがとうございました! 無事にプレゼントが買えましたー!」
亜美は、片手をあげて「よかったわね」と答えると片手を腰に当てた。
「それで、いつ渡すのよ」
「えっと、それが、最近、メールも電話も繋がらなくて忙しいのかも、です。ここ1、2ヶ月連絡できてないです」
先程から一転して困ったように笑う。
亜美はそんな不義理な果報者に顔を顰めた。
「何よ、そいつ。腹立つわね」
「えへへ、でもいいんです。また会えたら渡しますから!」
そんな状況でもニコニコとはなすゆきを横目にここのせは、すすすと良平に寄り、小声で話しかけた。
(良平、なんか雲行き怪しくねぇか?)
(雲行き?)
(寮生活の相手とはいえ、そんだけ連絡がこないって、相当怪しいぜ)
(バカ。そういうこと言うなって。だいたいそんなの俺たちじゃどうしようもないだろ)
良平は少し強めにここのせの言葉を否定した。
事実かどうかはわからない悪い憶測を立てたところで毒に薬にもならない。
真相は自分たちには関係ないのだから。
こそこそと会話をしていると目ざとく亜美が二人を軽く睨んだ。
「アンタ達、何コソコソ話してんのよ!? 」
「な、なんでもないよ」と慌てて良平は両手を振って話題を消した。
「それよりこの後どうする? 解散?」
「そうねぇ。ゆきはこの後、なんかある?」
「いえ、特に何も予定はないです」
「じゃあどっかで、ご飯でも……」
亜美が提案しようとしたその刹那だった。
並んで歩いていたゆきは、まるで雷に打たれたようにピクリとしたかと思うと急に足を止めた。
「あっ……!!」
良平がその視線の先を追う。
「どうしたの? ……あれ? あの制服って」
そこには、3人の高校生が汚い声で談笑していた。
一人は女で、残りは男。
中心の茶髪で髪を遊ばせている男に女がしなだれかかっていて、残りの男はへこへことしながら歩いている。
3人に共通しているのは、青を基調にした高貴なブレザー。
胸には金色の校章が輝いている。
それは、このネオ童実野シティ、いいや日本でトップクラスの私立高校の証。
専門分野であるデュエルモンスターズにおいては、世界でも右に出るものがない世界最強のデュエリスト養成機関であり、世界最高峰の教育機関である私立デュエルアカデミアの制服だった。
しかも、色が青であるということはことさら重要である。
デュエルアカデミアでは、成績に応じて着用する制服が定められていることでも有名で、とりわけ三色の制服に分けられている。
通常色は黄色でラーイエローと呼称される。
大部分の生徒はこれに該当し、十分に社会的に地位のあるクラスである。
成績下位になると赤の制服の着用が強制され、これはオシリスレッドと呼ばれている。
そして、頂点に君臨している成績優秀者の証。
上位の数パーセントしか着用が許されない色。
それが青色、オベリスクブルーであった。
「……でよぉ、ギャハハ……」
周りも気にせず肩を切って歩く姿は、正しく自信と名声がなせる業だろう。
ここのせは生徒をよく見て思わず声を出した。
「アカデミア生で、しかもオベリスクブルー……。まさか……!」
「剛さん……!」
ゆきは、男子生徒に向かって走り出した。
呼び止めると、男は気を害したように睨むようにゆきを見下した。
「あ?」
茶髪で遊び髪の多い男子生徒は、体躯も良平やここのせよりも一回り大きい。
善人とは思えない目つきと態度に、まさかあれが、あの間宮ゆきの恋人とは、と亜美は思った。
男――阿久津剛の鋭い眼光に対し、ゆきは、おびえたような愛想笑いを浮かべている。
とても想い人に逢えたとは思えない顔だった。
「だれー? この野暮ったいちんちくりん」
バカにするように、勝ち誇ったように、男の腕にしがみついている金髪の女も同調してゆきを見下している。
「え……」とゆきは目を左右させる。
そして事前に考えてあったセリフを口に出した。
「あ、あのね! 剛くん、もうすぐ誕生日だからね、プレゼント……」
「プレゼントだぁ?」
興味なさげにゆきの胸元からパックをひったくるとそれを感動するでもなく、一瞥した。
嘲笑うように金髪の女子生徒がクスクスと笑う。
「今時のセフレってプレゼント交換とかするわけ? マジウケるんだけど」
「え……?」
「けひひ」
呆然としているゆきを、にやにやと笑う腰ぎんちゃくの男。
続けて金髪の女が笑いをこらえた声で宣う。
「セフレよ、セーフーレ! 身体だけの関係ってこと!」
「な、ななっ……! そ、そんなことありません! 私は剛さんとお付き合いを……!」
「はぁ……」と敢えて大仰に溜息をつきゆきの言葉を遮った。
不機嫌さを隠しもしない態度にゆきは、また体を跳ねさせた。
「お前、マジダリィわ。この俺がお前なんかと付き合うわけねぇじゃん。ヤレそうだから声かけてやっただけだっつーの」
「え……あ……」
「俺、誰だと思ってんの? デュエルアカデミアの首席だぞ? 格が違うのがわかんねぇのかよ、バーカ」
顔を近づけ、蒼白になっているゆきに向かって容赦なく吐き捨てた。
あまりの光景に、三人は立ち尽くすしかなかった。
何故そんなことを言うのか、理解もできない。一方の男は、こちらには目もくれずひったくったパックを乱雑に開けた。内容を一瞥すると舌打ちをしてゆきに投げつけた。
「クソカードばっかじゃねぇかよ。こんなゴミ押し付けてんじゃねぇよ!!」
「ッ……!」
カードたちがバラバラと音を立てて地面に落ちた。
ゆきは現実感のない顔で呆然と見ている。
不義理だった。
不条理だった。
その光景は断じて許せるものではなかった。
その行為は祭乃木亜美の血液を沸騰させるには十分だった。
「っっっざっけんじゃないわよぉ!!!!!」
考えるよりも先に身体が動いた。
良平が彼女を止めるよりも早く。
ここのせが反応するより早く。
駆けだして、拳を握る。
振り上げると目の前の男に振りぬいた。咄嗟に男は、腰ぎんちゃくの男の首根っこをつかんだ。
「ゲバッ!!!!? 」
亜美の拳は身代わりになった男の頬に命中した。男は地面に倒れ込み、じたばたと悶えている。
阿久津はようやく亜美に視線を向けた。
「危ねぇな、このザコがいなかったら危なかったぜぇ。何お前? こいつのお友達?」
「口を閉じなさい。歯を食いしばらないと舌を噛み切るわよ」
瞳孔の開いた目で亜美は拳を握りなおした。
阿久津の腕に絡みついていた金髪の女の喉から空気が抜けたような音がした。
一方の阿久津は意に介さない様子で亜美すらも見下した。
「なんだてめぇ」
その顔にさらに血が上った亜美は、拳を振り上げた。
しかし振りぬかれることはなく、亜美は追いついた良平に後ろから羽交い絞めにされる形で引き離された。
「バカやめろ! 停学になるぞ!」
「離しなさいよ!」
「あ……。あぅぅ……さ、さいのぎさ……」
がちがちと震えるゆきを支えるようにしながら、ここのせは亜美に向かって叫ぶ。
「祭乃木! 一旦落ち着け! 間宮のことも考えろ!! お前が停学にでもなったら余計に傷つくだろ……!」
ここのせの言葉に、亜美は苦々しい顔で歯をかみしめて抵抗するのをやめた。
「ッ……! わかったわよ! わかったから離しなさい!」
「……」
これ以上抑える必要はないと良平は亜美から身体を離した。
亜美は、無言でゆきの元まで肩を怒らせて歩き、そして足元に散らばるカードを拾い集めた。
「くっだらね、バカじゃねぇ」
吐き捨てるように阿久津が呟くが、亜美はそれに耳も貸さず無心にカードを拾う。
「……!」
その中のカードを見つめ亜美は止まった。
良平とここのせが固唾を呑む中、亜美はゆっくりと立ち上がる。
当然、ゆきと目が合った。
「……あぅ……」
「ごめん、ゆき。このカード、借りるわね」
「……え……?」
返事を聞かず、祭乃木は振り向き、再び鋭い眼光を阿久津に向けた。
「なんだよ」
「アンタ、デュエルアカデミアなんでしょ? デュエルしなさいよ」
「はぁ? ……ギャハハッ、この俺とか!? バカじゃねーの? オメェみたいな素人が勝てるわけねーだろ!」
「うるさいってのよ! ぶっ飛ばしてやるわ!」
啖呵を切って亜美は左腕を伸ばした。
そこに取り付けてあった小型のそれが呼応して変形する。
直径15センチほどの円形の機械――決闘盤が幾重にも展開していく。
そして腰についたケースからデッキを引き抜くと、いくつかのカード差し込んでから決闘盤にセットした。
「……ハッ、馬鹿が! 後悔させてやるよ!」
阿久津も左手の大きな青い機械――決闘盤を展開させるとデッキをそこに差し込んだ。
瞬間、お互いの決闘盤が共鳴し、戦場を作り出す。
「「デュエル!!」」
二人の掛け声が響き渡る。
互いのライフを削り合い、己を通す聖なる戦――デュエルがここに開始された。
1話毎の長さについて
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長すぎる
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ちょうどいい
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短い