遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
良平が仲間になった次の日の昼休み。
静かで人気の少ない議長団室を亜美はこれ幸いと作戦会議室にしてしまうと良平と二人で額を突き合わせていた。
良平「もう一人仲間がほしい?」
祭乃木「うん! 仲間は多いに越したことはないわ! ……ま、誰でもいいってわけじゃないけどね」
良平「デュエルが強いやつだろ?」
祭乃木「まぁ、デュエルが強い奴がいいけど……」
亜美はやや含みを持たせて虚空を見つめてから、またふいと良平の顔に向く。
祭乃木「アタシ、一人気になってるやつがいるのよ」
良平「気になってるやつ? だれ?」
祭乃木「ウチのクラスの能瀬心ってやつ。知ってる?」
言葉に出すと良平は苦い顔をして首を振った。
部屋の中にはぬるい風が吹いていて冷房のひとつもない部屋のカーテンを揺らす。
良平「えぇ、能瀬心ぉ……? 悪い噂しか聞かないぞ……。去年の議長団会議でも、先生たちが名前挙げてたし……。……まぁ祭乃木も挙がってたけど」
祭乃木「そうなのよ。……ってアタシも!?」
良平「うん。喧嘩ばっかりしてるって」
祭乃木「誤解よ!! アタシからふっかけたわけじゃないのよ!」
良平「いや、今はなんとくわかったよ……」
祭乃木「ならいいけど……。で、その能瀬心なんだけど、アンタもどんな噂か聞いたことあるでしょ?」
良平「デュエルに負けたから暴力ふるって鼻血を出させた、とか、何もしてないのに掴みかかってきた、とか」
祭乃木「そう。アタシもその話を聞いたことがあるのよ」
良平「じゃあダメじゃん。やめとこうよ」
祭乃木「まぁ、待ちなさい。噂を聞いたって言ったでしょ。でもおかしいのよ。それが本当なら、アタシにぶちのめされてるはずよ」
良平「どういうことだよ?」
怪訝な顔の良平に亜美はふふんと胸を張って答える。
心なしか拳も握っている。
祭乃木「アタシはヒーローを目指してるの。だから、今まで悪いやつらは拳で黙らせてきたわ!」
良平「だから名前が挙がるんじゃないのか……?」
祭乃木「うるさいわね! 今はデュエルで解決してるんだからいいでしょ! ……で、噂が本当ならアタシは能瀬心とどんぱちしてるはずなのよ。けど、アタシは能瀬心と拳を交わしたことはない」
良平「つまり?」
祭乃木「何か理由があったんじゃないかって思うのよ」
良平「祭乃木みたいに?」
祭乃木「そう。もしかしたら誤解かもしれないし。それに噂が本当なら、見過ごせないしね!」
良平「うーん、気乗りしないけど……。で、具体的に何するの?」
小首を傾げて良平が聞くと亜美は自信満々でビシリと人差し指を立てる。
祭乃木「まずは調査よ! 放課後、見張るわ! もちろん、アンタも付き合いなさいよ!」
良平「はいはい……」
抵抗は無駄とばかりに良平は苦笑いで答えていた。
やがて時が流れて放課後。
校門には一人で歩く少年が一人。
短く切った黒髪に鼻先にはそばかすがある。
???「……」
男子1「今日もデュエルするぞ! 俺ん家集合な!」
男子2「すぐいく!」
男子3「今日は勝つぞー!」
別の男の子達が楽しそうに走っていき別れていく。
手には、あるいは腰には自慢のデッキ。
一人歩く少年はその光景を見送っては「……チッ……」と苦々しく舌打ちをした。
そんな彼の後方。
校門の影。
ひょこりと顔を出す赤みのあるポニーテールと短い茶色気味の髪。
祭乃木「あれね!」
良平「今舌打ちしてなかった……?」
二人が眺める少年、彼こそ件の乱暴者。
能瀬心、その人であった。
彼は脇目も振らずに帰路についている。
祭乃木「アタシたちもいくわよ!」
良平「なんでこんなことに……」
忍び足で追う亜美に良平は目一杯のため息をついて追従する。
通学路は萎れた桜が散らばっていて汚くも綺麗にも見える
前を行く能瀬心から10mほど離れて二人はヒソヒソと話す。
祭乃木「……誰かと話す気配はないわね」
良平「クラスでも誰かといるところは見たことないしな……」
祭乃木「ふむ……」
やがて街中に差し掛かり中央の繁華街へと歩を進めていく。
やがてデュエルセンターが見えてきてその前のカードショップのショーウィンドウで能瀬心は足を止めた。
祭乃木「おっ、止まったわ。カードショップの前だけど……」
良平「デュエル、やるのかな」
居酒屋か何かの置き看板の裏にしゃがみながら隠れて二人は様子を見る。
しかし能瀬心は中に入ることはせず、大きくため息をつく。
そして肩を沈めて踵を返した。
祭乃木「危なっ!」
良平「痛っ! 頭掴むな……!」
予想外に振り向かれたので思わず良平の頭ごと看板に引っ込む亜美。
頭を掴まれた良平は非難の眼差しで亜美を見た。
それからまた歩いていき、郊外の坂の道をいく。
やはり10mほど離れて尾行する二人。
良平「あれ、ここってウチの前の坂を登ったところじゃん。家近かったんだな」
やがて坂の上にある一軒家に差し掛かると能瀬心はその家に入っていった。
特段何をするでもない帰宅の路。
祭乃木「ふつうに帰ったわね」
得るものなしかと思われたが、意に反して能瀬心はランドセルだけ置いてきたような風貌で再び家の外に出てくる。
祭乃木「あれ!? 出てきたわ!」
良平「どこかに遊びに行くのかな?」
祭乃木「つけるわよ!」
背を追いながらぐいぐい歩く。
坂を下り中央街を超え。
祭乃木「……どこまでいくのかしら? こっちが遊び場なの?」
良平「ていうかこっちの方って、旧サテライトエリアじゃないのか?」
祭乃木「旧サテライトエリアってーと、あの夢の島がある浜辺?」
良平「うん。……危ないからあんまり近付かない方がいいんだけど……」
良平の心配をよそに能瀬心の歩みは海沿いへと続いていく。
[旧サテライトエリア]
ネオダイダロスブリッジという橋は、ネオ童実野シティの象徴の一つだ、と社会の教科書には書いてある。
それはシティとサテライトーースラム街を繋ぐ希望の象徴なんだとか。
とはいえサテライトという地区があったのは生まれるよりもずっと前で、あまりピンとはこない。
その橋を超えた先。
橋の下にある河口と海との境目は粗大ゴミやら廃棄物やらがあちこちに並べられている。
背の丈を遥かに超えるゴミの中、能瀬心はキョロキョロと辺りを見渡すと手当たり次第に機材を漁り出した。
10m離れた粗大ゴミの冷蔵庫の影から二人はその様子を眺める。
祭乃木「何してるのかしら?」
良平「何か探してる……?」
祭乃木「探し物なら手伝わなきゃ!」
良平「あ、ちょっと! 祭乃木!」
尾行していることを忘れているのか勢いよく飛び出した亜美。
良平は慌ててその肩を掴もうとするが足元に伸びていたコードに足が引っかかりよろけてしまう。
その刹那。
ガタガタガタと地鳴のような擦れた音。
見上げると積み上げられた電子機器やプレスされた缶やらがまるで雪崩のように降り注いでいた。
良平「うわぁぁぁ! 崩れたぁーー!!?」
祭乃木「ぎゃーー!! 何やってんのよバカー!!」
叫びながら二人は慌てて退避。
ドシンと巨人が着地したような轟音をなんとか被災地の外から見ることができた。
良平は高鳴る心音をおさなえながら青い顔で雪崩れたゴミの山を見上げる。
良平「あ、あっぶな……! そうか、これだから大人はここに来るなって言ってたのか……」
祭乃木「冷静に解説してんじゃないわよ! ……あー! 見失ったじゃない!」
音がしたからか、はたまた危ないと感じて遠くへ退避したのか能瀬心はすでにいなくなっていた。
亜美は恨めしそうに良平をジト目で見据える。
良平「ご、ごめんって……。……ん?」
亜美の視線に気圧されて後ずさる良平。
しかし一歩目で足元に違和感があり思わず足をどけた。
見下ろすとそこには裏側を向いたカードが地面に伏せてある。
拾いあげて表にする。
良平「ダークファミリア……。微妙なカードだな……」
祭乃木「……あ、こっちにも落ちてるわよ」
亜美はしゃがみこむと、また足元に落ちていたカードを拾う。
緑色の枠で陽気な葬儀屋と書かれている。
良平「うわ、すごい昔からあるカードじゃん!」
祭乃木「カードって頑丈なのね! 落ちてたけど、全然使えそうよ!」
素材が何でできているかは亜美は忘れてしまったが少なくとも紙ではなく非常に丈夫に作られているらしかった。
拾い上げたカードをポケットに仕舞うと亜美は辺りを見渡した。
相変わらずのゴミの山。
祭乃木「……でも、なんでこんなところに落ちてるのかしら?」
良平「そういえば、ここら辺って捨てられたカードなんかがたくさん落ちてるって聞いたことある……。もしかして、カード探してたのかな」
祭乃木「もしそうなら手伝ったげましょ! 明日、直接聞くわよ!」
次の日。
昼休み。
小学校の校庭では元気に走り回る低学年たち。
しかし遊ぶ気になれず少年ーー能瀬心は屋上に屯っていた。
日陰になっている貯水槽に背を預けて腰につけたデッキケースを開く。
そして取り出す一枚のカード。
No.27弩級戦艦ドレッドノイド。
黒い枠のそれを見ながら能瀬心はため息をついた。
能瀬心「……はぁ」
祭乃木「アンタもデュエルをやるのね!」
能瀬心「うおっ!?」
急に声を掛けられて視界が跳ねる。
慌てて視線を上げるといつの間に目の前にきたのか赤みかかったポニーテールと茶色っぽい短髪が揺れていた。
良平「ドレッドノイド……。見たことないカードだ……」
能瀬心「……な、なんだよお前ら!」
良平「あ、しまっちゃった」
持っていたカードをケースに仕舞い、隠すように上に着ているシャツの端を伸ばす。
しかしそれを意に介さず亜美は自分の胸をとんと叩いた。
祭乃木「アタシ、亜美! 祭乃木亜美! 探したのよ、能瀬心!」
能瀬心「ああ? オレを?」
祭乃木「そうよ! 心、アンタに聞きたいことがあったのよ」
能瀬心「聞きてぇことだ? ていうか、心って呼ぶな!」
祭乃木「は? なんでよ?」
能瀬心「なんか子役の顔がチラついて鬱陶しいんだよ!」
祭乃木「じゃあ何て呼べばいいのよ?」
能瀬「能瀬でいいだろ。もしくはフルネーム」
祭乃木「呼び辛いわ! じゃあそうね……能瀬心だから、略してここのせって呼ぶわ!」
突然のことに、能瀬心ーーここのせは目を白黒とさせた。
あだ名だと認識する前におうむ返ししていた。
ここのせ「こ、ここのせ?」
良平「あ、でも呼びやすいかも」
ここのせ「……けっ! 勝手にしやがれ」
祭乃木「じゃあ、ここのせ! アンタ、昨日、なんか探してたでしょ! 何探してたの?」
良平「あ! 祭乃木! 俺たちがそれ知ってるのおかしいって!」
祭乃木「あっ……」
素早く両手で自分の口を押さえる亜美。
しかし時すでに遅し。
ここのせ「はぁ? なんで知ってんだよ」
こうなれば後は野となれ山となれ。
亜美は寧ろ胸を張って自信満々に言い放つ。
祭乃木「後をつけたのよ!」
ここのせ「胸張って言うことか! おい、日和田! てめぇ、議長団なんだったらこういうのを取り締まれってんだ!」
良平「議長団は風紀委員じゃないよ……。ていうか俺のこと知ってるの?」
ここのせ「朝礼ん時に、前にいたろうが。だいたいクラスメイトの名前くらい覚えてるっつーの」
良平「り、律儀だなぁ……」
祭乃木「んで、何してたのよ?」
ここのせ「……なんだっていいだろ。てか、祭乃木! 俺はお前に目をつけられるようなことはしてねぇぞ!」
良平「祭乃木は祭乃木で、そっち方面で有名なんだ……」
祭乃木「噂を聞いたわ。デュエルに負けたから鼻血をださせたとか、掴みかかってきたとか。けど、本当なのかしら? なんだかそうは見えないわ」
ここのせ「……そんな話になってんのかよ……」
顔を顰めて後ろ髪をガシガシと掻く。
それから目を伏せて腕を組んだ。
ここのせ「……けど、ま、ほとんど事実だ」
良平「ほとんどって?」
ここのせ「……デュエルに負けたからじゃねぇ。バカにされたからだ。デュエルの素質がないやつがデュエルなんかするなって言われてよ」
良平「……」
ここのせ「しかもアイツら、オレが弱いことをいいことに途中からアンティルールとか言い出しやがったんだ……!けど、こいつを取られるわけにはいかねぇ。だから……」
隠したデッキケースを撫でながらここのせは答える。
続きは亜美が拾った。
祭乃木「手を出したってわけね。ていうか一つ気になったんだけどデュエルの素質って何よ?」
ここのせ「……運命力だ」
祭乃木「運命力? 何よそれ?」
良平「え? 知らないの? 身体測定の時に図られるだろ」
祭乃木「そんなの知らないわよ。身体測定なんて身長と体重と視力しか見てないわ」
良平「えぇ……。運命力っていうのは、カードを引き寄せる力のことだよ。この数値が高いとデュエルの素質が高いってことなんだ。デュエル中のドローとか、パックからでてくるカードなんかにも影響する、と言われてるよ」
祭乃木「それがアタシやアンタにはあるの?」
良平「多分ね。祭乃木さ、ちょっとデッキ出してみてよ」
祭乃木「え、いいけど」
腰のデッキケースからデッキを引き抜き手に持つ。
良平「シャッフルして引いてみて」
祭乃木「いつもやってるけど……」
手際良く手でシャッフルしデッキトップからカードを5枚引く。
良平はその手札を覗き込んで頷く。
良平「罠カードにサーチカード、ミラクルフュージョンまである。先攻でも後攻でも何とでもできそうだね」
祭乃木「何よこれがなんだって言うのよ」
良平「今度は俺のデッキでやってみて」
良平はデッキケースからデッキを抜き、軽くシャッフルしてから差し出す。
亜美はデッキトップの5枚を引き表にした。
祭乃木「げっ」
発動条件を満たしていない速攻魔法や単体では機能しないモンスターで手札が埋め尽くされている。
祭乃木「アンタこれちゃんとシャッフルしたの?」
良平「もちろんだよ。これが運命力ってこと。祭乃木はヒーローデッキを操る運命力を持ってるみたいだけど、幻獣機の運命力はない。だからデッキが回らないんだ」
祭乃木「ふーん」
ここのせ「で、その運命力ってやつが、オレは絶望的に無い。運命力が0なんだ」
良平「え……」
思わず良平は固まった。
運命力がなければデッキは操れない。
それはデュエリストにあらず。
ここのせ「学校の診断じゃ納得いかねぇから、アカデミアにも聞きに行った。そこでも、運命力は0だと言われたんだ。……デュエルは、諦めろってな」
良平「そんな……」
ここのせ「……たしかに俺は他のやつと違って、デッキを作れるカードが当たらねぇし、スターターを強化するためのカードも碌に手に入らなかった。だから、何回も負けた。勝ったことは一度もねぇ」
祭乃木「……」
ここのせ「悪りぃことに、クラスの連中に、俺が弱いのは運命力が0だからってことを知られちまってな。あとは想像の通りさ」
祭乃木「何それ! そんなのマユツバよ! どうにかなるでしょ!?」
噛みついた亜美を良平は強めに制止した。
良平「祭乃木! ……ダメなんだ。運命力っていうのは生まれつきのものなんだ。努力でどうこうなるもんじゃないんだよ……」
祭乃木「そんなの……! そんなの……」
亜美は悔しそうにしかしニの句を紡げずに口を閉じた。
一方のここのせはどこか諦めのついたような顔で苦笑いする。
ここのせ「ああ、どうしようもねぇよ。オレはデュエリストにはなれねぇ。だから、デュエルを諦めようと思ってる」
良平「そっか……」
祭乃木「……」
しかしここのせは再びデッキケースを開けると一枚のカードを取り出す。
黒い枠のカード。
慈しむようにここのせはそのカードを見た。
ここのせ「でも、オレ、デュエルが好きでよ」
祭乃木「そのカードは……?」
ここのせ「唯一パックから自分の手で手に入れたレアカードなんだ。めちゃくちゃ嬉しかったし、すげぇ気に入ってる。こいつを使いこなしてやりてぇ。それに、負けっぱなしも悔しいしな。……だから、まだ諦めたくなくて、最後の悪あがきをしてるんだ」
良平「悪あがき?」
ここのせ「あぁ。1週間後の身体測定の日までに、あるカードを見つける。それが見つからなければ、デュエルを辞める」
祭乃木「あるカード? なんなのそれ?」
亜美が早口に言うとここのせは一瞬言い淀んでから、二人を見る。
ここのせ「……笑うなよ?」
祭乃木「当たり前よ」
ここのせ「……星遺物カードだ」
そうここのせは答えた。
聞き馴染みのないカードに亜美は首を傾げた。
祭乃木「星遺物カード?」
良平「星遺物カード!? 」
今度は良平が食いついてくる。
眠そうな目は今は火が灯ったかのように輝いていた。
良平「昔、本で見たことがある……! 星の力が宿ってて、それは力無き者に力を与える幻のカードだって……。けど、そんなのどうやって……」
ここのせ「手に入れる方法はわからねぇよ。もう小遣いもねぇからパックを買うことはできねぇしな。だから、あの、カードが流れ着く場所に掛けてるんだ」
祭乃木「だから、あそこでカードを探してたのね。じゃあ!」
ズイと亜美はここのせに顔を近づけた。
腰を曲げて顔を覗き込むように。
ここのせ「うおっ!?」
祭乃木「アタシたちも手伝うわ!! 手伝わせてちょうだい! アンタもいいでしょ!?」
首だけ回して良平を見る。
彼は難色を示すことなく頷いた。
良平「うん。三人で探した方がいいよ」
ここのせ「なっ……! い、いいのか……? あそこにあるって保証もないんだぜ……?」
祭乃木「カンケーないわ! 困ってる人がいたら助ける! それがヒーローってもんよ! ……あ、そのかわり!」
亜美は人差し指を立ててここのせに突きつける。
思わず後ずさる。
ここのせ「な、なんだよ?」
祭乃木「見つけたら、アタシたちの仲間になってね! アタシ、今、仲間募集中なの!」
ここのせ「お、おう……」
とんでもない願いかと思えば拍子抜けするような内容にここのせは思わず気の抜けた声を出した。
そして放課後。
教室ではチャイムが鳴り響き、生徒たちは解き放たれたように教室を出ていく。
祭乃木「さぁ!! いくわよ! 二人とも!」
ここのせ「おう」
ランドセルを背負って今にも走り出しそうな亜美。
ここのせも逸る気持ちを抑えつつも早歩きで教室を出ようとする。
良平「あ、ちょっと待って」
しかしそれに待ったをかけて良平はランドセルの中に入っているクリアファイルをゴソゴソとしていた。
やがて二つ折りのB4の紙を取り出して机に広げる。
良平「これをコピーしてきたんだ」
祭乃木「何よこれ? 地図?」
良平「うん。旧サテライトエリアの地図。あと一週間しかないから、闇雲に探すんじゃなくて、どこまで探したか、どこを探してないかわかるようにした方がいいと思うんだ」
ここのせ「おぉ、すげぇな! 流石は議長団! やることが違うぜ!」
良平「それ褒めてる?」
祭乃木「でかしたわ! さっそく作戦会議よ!」
適当な席から椅子を拝借して良平の机を取り囲む。
白黒で印刷された紙を凝視しながら亜美は人差し指で地図をなぞる。
祭乃木「 ……旧サテライトエリアって地区ごとにアルファベットで区切られてるのね」
良平「そうだね。橋の手前側、E、F、Gエリアと埋め立て地のZエリア。この4つを探す感じになると思う」
ここのせ「オレが昨日まで探してた場所は、多分、ここら辺だ」
とここのせはFエリア指す。
亜美は腕を組んで声を出した。
祭乃木「見落としがあるかもしれないし、今日はFエリアを探してみましょ!」
ここのせ「よし、いくぜ!……とその前に結構汚れるぜ。お前ら着替えた方がいいぞ」
[旧サテライト区間]
小学校から飛び出し、家に帰ることもせずに三人は再びゴミの山を訪れた。
三人とも服は体操着に着替えて、服はランドセルに突っ込んでいる。
祭乃木「よっしゃ! 探すわよ!」
良平「崩れないかな、大丈夫かな……」
ここのせ「昨日、なんかすげぇ崩れたからな。気をつけろよ」
良平「あー……うん」
祭乃木「それじゃあ、アタシは向こうを探してくるわ! 良平はそっち! ここのせはあっちね!」
亜美はテキパキと指をあちこちに向けて指示を出す。
良平「わかった」
ここのせ「了解だ」
祭乃木「見つけたら、声かけてね!」
それだけ言うとさっさと走っていってしまった。
…………
……
…
[一時間後]
祭乃木「おりゃぁ!!」
小型の冷蔵庫を強引にどかして隙間を作る。
影だった部分に落ちる1枚のカード。
祭乃木「どうよ!?」
ピラッと捲る。
切り込み隊長のカードであった。
祭乃木「あー! 違うかぁ……!」
…………
……
…
[二時間後]
ここのせ「こいつはどうだ!?」
目の前に落ちていたカードを拾いあげ、カードを確認する。
スカゴブリンのカード。
ここのせ「ちくしょーめぇ!」
…………
……
…
[三時間後]
良平「うーん……」
良平は小型のガラクタが大量に投棄されている場所を探る。
良平「おっ」
部品に紛れて見つかるカード。
拾って捲るとブルーサンダーT45と書かれていた。
良平「……渋いなぁ……」
…………
……
…
[四時間後]
祭乃木「そっちはどうだった?」
良平「ダメだった」
祭乃木「んー、なかなか見つからないわね」
ここのせ「この辺りにはなさそうだぜ……」
それだけ会話すると良平はランドセルに入れた地図にペンを当てる。
キュッキュッと筆先が擦れる音が聞こえた。
Fエリアの一部、×
翌る日の朝方、同じくサテライトエリアにて場にそぐわぬ三人の小学生。
今日も半袖短パンの体操着を身につけている。
祭乃木「今日はEエリアを探すわよ!」
良平「おー!」
ここのせ「悪ぃが今日も頼むぜ!」
祭乃木「よっしゃ! ガンガン探すわ!」
…………
……
…
[三時間後]
祭乃木「アタシ、あっちの方、探してくるわ!!」
疲れを知らぬ亜美はさらに奥を目指して軽快な足音で去っていく。
一方で良平はというと疲労を隠すこともできずに膝に手を置き、流れる汗をぐいと拭う。
良平「ごめん……。一旦休憩させて……」
絞るように言ってゴミ山を日除にしゃがむ。
ここのせはリュックから水筒を取り出して差し出した。
ここのせ「これ飲めよ」
良平「え、いいの? ありがとう!」
ここのせ「悪ぃな手伝ってもらってよ」
良平「いや、気にしないでよ。……でもなかなか見つからないな」
ここのせ「そうだな。たまに使えそうなカードは落ちてはいるんだがな……。ま、この中に入るかどうかはわかんねぇけど」
言ってここのせは自分のデッキを取り出した。
デッキトップにはドレッドノイドのカード。
良平「それってここのせのデッキ?」
ここのせ「一応な」
良平「見ていい?」
ここのせ「おう」
良平「どれどれ……」
受け取り、良平は慣れた手つきで流し読みをらしていく。
・ゴブリン突撃部隊
・召喚僧サモンプリースト
・炸裂装甲
典型的なスターターデッキである。
良平「スターターデッキだね。ちょっといじってるみたいだけど」
ここのせ「デッキを組むだけのカードが手に入らねぇからどこまでいってもスターターさ……。なぁ、りょ……ひ、日和田もデュエルやるんだろ? どんなデッキなんだ?」
良平「見る?」
腰のデッキケースからデッキを抜いて渡す。
ここのせ「いいのか? じゃあ……」
良平と同じようにデッキをめくっていく。
ここのせ「あ! これ!! 幻獣機じゃねぇか!! 生で初めてみた!」
良平「幻獣機のこと知ってるの? 珍しいね。よく地味って言われるんだけど……」
ここのせ「オレ、両親が自衛隊に勤めててよ。そのせいか、こういう戦闘機とか戦艦とかが好きなんだ! うぉぉ、カッケェ! 羨ましいぜ!」
一通り見終えてデッキを返す。
良平は微笑んで言葉を返した。
良平「はは、じゃあ、ドレッドノイドはここのせぴったりのカードだね」
ここのせ「ああ! ……いつかこいつを使いこなせればいいんだけどな」
それだけ言うと沈黙が降りた。
蝉の声がよく通り、遠くで潮騒が聞こえる。
なんだか急に恥ずかしくなってここのせは遠くのゴミ山を指差した。
ここのせ「……おし! オレも向こう探してくるぜ!!」
良平「うん。……よし、俺もいこう……!」
二人は別々の方に足を向けて走っていく。
日は燦々と照りつけて風は緩く吹いていた。
しかしやがては沈む夜が近づく。
やはりカードは見つからなかった。
地図のEエリアの一部には×印がつけられていた。
…………
……
…
それからも毎日、ゴミ山へと通い続けた。
終わるたびにB4の紙にはマジックの書き込みがふえていく。
Fエリア、×
それは日に日に紙を劣化させ、二つ折りも相まって汚くなっていった。
Zエリア、×←変なおじさんに怒鳴られたので注意!
端から埋まる×のマーク。
Eエリア、×
それは迫る制限時間と相まって、言外に緊迫感を醸し出していた。
……………
………
…
一気に終わらせたかったのですが2万字を超えてしまいましたので流石に……。
卒論じゃないんだから……。
過去編は次回で終わりますのでお付き合いください!
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