遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
・カードプールも2020年6月まで。
◆プレイングミスについて
ネオスフュージョンを使った後、モンスターを特殊召喚できませんが、リキッドマンの効果で特殊召喚を行っております。
2022/11/15中に修正します。
追記:
2022/11/15 20:07に修正しました。
2023/1/20に追記修正し、台詞形式から小説形式に切り替えました。
2話以降も随時修正していきます。
◆セリフ形式について
前半パートでは小説らしく書いていました。
しかしデュエルパートで全ての描写に地の文を入れるとテキスト量が多く、非常に読みにくいため、最低限の地の文に留めます。
セリフの前に人物名が書いてあるのはそのためです。
要は手抜きです。
◆デュエル描写について
・初期ライフポイントはアニメ基準の4000
・ライフ、手札、種族、属性、レベル(星)、ランク、LINK数などは地の文とは関係なしにキャラクターのセリフの下に記載。
・カードの位置について
主人公サイドから見てデッキ側から①②③④⑤ 右EX 左EX
相手側は、デッキ側から⑤④③②①右EX 左EX
と記載します。
主人公サイドの①②③④⑤の対面にそれぞれの数字が向かい合うようになっていると考えてください。
モンスターが場に現れた場合は、そのモンスター名の下に
攻または守:数値 属性 種族 星またはランク、LINK リンクマーカー 位置
を記載します。
・フェイズについては、―○○フェイズ― と区分けします。
[ネオ童実野シティ 繁華街]
デュエルアカデミアの青い制服を着た男子生徒――阿久津剛と
童実野第二高校のセーラー服を着た少女――祭乃木亜美。
二人がにらみ合いながら決闘盤を構えている。
良平とここのせは、今にも消えてしまいそうなゆまの両脇を守るように立ちながらその様子を固唾を呑んで見守っていた。
群衆は一部の野次馬が円形状に塊を作っており、ざわざわとした雑音を生み出している。
それには一切目もくれず、亜美はデッキトップからカードを5枚を引き抜いた。
「行くわよ!」
祭乃木亜美
LP:4000
「先攻はくれてやるよ!」
阿久津剛
LP:4000
―ドローフェイズ―
亜美は眼前の阿久津を睨みながらデッキトップのカードを引き込んだ。
「覚悟しなさい! アタシのターン!」
手札:5
―スタンバイフェイズ→メインフェイズ―
「E・HEROブレイズマンを召喚!」
左手に持つ手札から1枚を右手で抜き取り、決闘盤にたたきつける。
呼応するように、そのモンスターゾーンが光りだしソリッドビジョンが起動した。
ソリッドビジョンに映し出されたのは、赤い炎を纏う赤い戦士だった。
E・HEROブレイズマン
攻:1200 炎 戦士族 星4 ゾーン:②
「ブレイズマンの効果を発動! このカードが現れた時、デッキから、融合を手札に加えられるわ!」
亜美はそう宣言し、決闘盤のディプレイをタッチする。
すると自動で決闘盤にセットしたデッキから1枚が取りやすいように飛び出した。
それを右手の人差し指と中指で抜き取り、相手に見せる。
「そのまま、今加えた融合を発動! 手札のスパークマンと、ブレイズマンで融合!」
見せた融合を決闘盤のマジックトラップゾーンに差し込む。
ピロンという認識音と共に、マジックカードが半回転しながらフィールドに映し出された。
《融合》
通常魔法
モンスターとモンスターを融合し、新たなモンスターを呼び出す通常魔法。
映し出されたそのカードが光り、フィールドを包むように深い紫色の渦が現れた。
亜美が呼び出したヒーローたちが、躊躇もせずにその渦に飛び込んでいく。
光属性HERO+炎HERO
「――それは太陽の現身、悪を滅する焔の英雄!!」
カッとより強い閃光を放ち、その融合モンスターが現れる。
「融合召喚! 行くわよ! E・HEROサンライザー!」
「ハァァァァッ、タァ!」
E・HEROサンライザー
攻:2500→2700 光 戦士族 星8 ゾーン:③
赤い鋼鉄に身を包んだ太陽の英雄がマントを翻してモンスターゾーンに着地した。
「サンライザーは融合召喚に成功した時、デッキからミラクルフュージョンをサーチするわ!」
自動で抜き出されたカードを抜きだし、それを手札に加えた。
後方で見守るここのせはエース級モンスターの登場に拳を握る。
「よし! 祭乃木の最速融合が決まった」
一方、隣の良平は喜ぶことはせずに神妙な面持ちで口を開ける。
「でも祭乃木のデッキは妨害できるバックが少ない。先攻でサンライザーを出せたけど、心許ないぞ」
そんな良平の言葉にゆきは「うう……」と不安そうに呟いた。
フィールドではデュエルが進む。
亜美は手札のカードをマジックトラップスロットに差し込んだ。
「カードを1枚セット!」
空いているマジックトラップゾーンにカードを差し込む。
するとソリッドビジョンにカードが伏せられた状態で映し出された。
「アタシはこれでターン終了! さぁ、アンタの力、見せてもらおうじゃない!」
―エンドフェイズ―
祭乃木亜美
LP:4000
手札:3
伏せ:1
フィールド:
E・HEROサンライザー
―ドローフェイズ―
ターンが回り、阿久津は邪悪な笑みを浮かべてカードを引き込んだ。
「俺のターン!」
手札:5→6
―スタンバイフェイズ→メインフェイズ―
すぐさま手札のカード1枚を抜き取りスロットに刺す。
「手札から、手札抹殺を発動!」
《手札抹殺》
通常魔法
「お互いの手札を全て墓地に送り、その枚数分ドローする! さぁ、今加えた大事なミラクルフュージョンを墓地に送りなぁ!」
ニヤリと笑い、亜美を強く指差す。
亜美は舌打ちしカードをまとめてセメタリーゾーンに入れた。
「……チッ。アタシが捨てる手札は3枚! よって3枚ドローするわよ!」
手札3→0→3
「こちらは5枚ドローさせてもらう!」
手札5→0→5
一方の阿久津は5枚ものカードを墓地に捨て、新たに5枚カードを引く。
亜美はそれを見届けてから宣言した。
「今手札から墓地に送られたE・HEROシャドーミストの効果発動!! このカードが墓地に送られたとき、デッキからE・HEROをサーチできる! リキッドマンを手札に加えるわ!」
手札3→4
デッキから自動選出されたカードを受け取り亜美はそれを阿久津に見せつけた。
墓地から発動したカードに見覚えがなかったここのせは良平に顔を近付ける。
「シャドーミスト……? なんだあのHERO……? 良平、知ってっか?」
「いや、知らない……。さっきデッキにいれてたカードか……?」
そんな二人を目にも入れず阿久津は亜美の行動を鼻で笑う。
「はっ、勝手にしな! 何をしようがテメェは瞬殺されるんだよ、クソ素人!手札のインフェルノイド・ベルゼブルは、手札、墓地のインフェルノイドモンスターを一体除外することで特殊召喚できる! 墓地のインフェルノイド・ルキフグスを除外して守備表示で特殊召喚!」
インフェルノイド・ベルゼブル
守:2000 炎 悪魔族 星2 ゾーン:②
「ベルゼブルの効果を発動! フィールドの表側表示のカードをバウンスする! 消え失せろ、サンライザー!」
金属を引きずるような音を上げて、インフェルノイド・ベルゼブルが口を開ける。
亜美はそれに慄くことなく右手を横に薙ぎ払った。
「速攻魔法発動! 禁じられた聖杯! 」
《禁じられた聖杯》
速攻魔法
「対象にしたモンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる代わりに、その効果を無効にする! ベルゼブルの効果を無効!」
亜美がベルゼブルを指さすと、金色の聖杯がその頭上に虚空に現れた。
その聖杯が傾くと、中に入っていた聖水が零れ落ちベルゼブルの黒い瘴気を打ち消してしまった。
「チッ! だが、まだだ!墓地のインフェルノイド・ベルフェゴルは、フィールドのモンスターのレベル合計が8以下の時、手札、墓地のインフェルノイドモンスターを2体除外して特殊召喚できる! こい! ベルフェゴル!」
墓地から自動で現れたカードを乱暴につかみ取り、モンスターゾーンにたたきつける。
指定のモンスターゾーンが黒い瘴気に包まれたかと思うと蒼い炎が噴出した。
インフェルノイド・ベルフェゴル
攻:2400 炎 悪魔族 星6 ゾーン:④
「さらに、墓地と手札のインフェルノイドモンスター3体を除外!」
モンスターゾーンがさらに蒼き炎に包まれる。
地面が揺れるような衝撃を伴い、少しずつその姿が映し出されていく。
「深き深淵より絶望を齎す虐殺の爪! あの女を捻り潰せぇ!!」
その声に同調するように黒い蛇のような邪悪なモンスターが鋭い咆哮を上げた。
「来い!! インフェルノイド・リリス!」
「ギギギギィィィィィィィッ!!」
インフェルノイド・リリス
攻:2900 炎 悪魔族 星9 ゾーン:⑤
「きた! 剛さんの切り札!マジパネェ!」
アカデミア制服をきた取り巻きの男子生徒が興奮したようにそう叫んだ。
ここのせもそのプレイングを見て苦々しく呟く。
「1ターン目から、モンスターを三体も特殊召喚……! しかも二体は上級レベル! なんてデッキだ……!」
「あ、あぅぅ……」
ゆきは自分では理解できないフィールドの状況にただ青ざめるしかない。
フィールドにて阿久津は再びにやりと笑い宣言する。
「バトルだ!」
―バトルフェイズ―
「インフェルノイド・リリスでサンライザーに攻撃! 」
インフェルノイド・リリス
攻:2900
耳を劈くような咆哮を発しながら、蒼い炎を口元に収集する。
そしてそれをサンライザーに向けて吐き出した。
E・HEROサンライザー
攻:2700
サンライザーは、その炎に包まれ苦悶の声を上げながらガラスのように音を立てて霧散する。
その余波が衝撃となって亜美を飲み込んだ。
「ぐぅぅ……!!」
LP:4000→3800
足をなんとか踏ん張るものの、あまりの衝撃によろめいた。
しかし追撃が待ち受ける。
「がら空きだァ! ベルフェゴルでダイレクトアタック!」
インフェルノイド・ベルフェゴル
攻:2400
ベルフェゴルが一気に吶喊してくる。
守るものは何もない。
亜美はその直撃をまともにその直撃を受けた。
「あぁぁぁ!」
LP:3800→1400
ベルフェゴルに貫かれた身体は、身体がわずかに浮き、後方に痛烈に吹き飛ばされた。
受け身を取る暇もなく亜美は背中からアスファルトにたたきつけられる。
「祭乃木!」とここのせと良平が叫び声を上げ、駆けだす。
しかし亜美はそれを手で制すと、自分の手で体を起き上がらせた。
(なんなの、この衝撃……!)
「ギャハハ、瞬殺は免れたが、もうてめぇに勝ち目はねぇよ! ターンエンド!」
―エンドフェイズ―
阿久津剛
LP:4000
手札:3
伏せ:0
フィールド:
インフェルノイド・ベルゼブル
インフェルノイド・リリス
インフェルノイド・ベルフェゴル
―ドローフェイズ―
「アタシのターン……!」
グッと力を込めてデッキトップに右手を乗せた。
しかし、その姿に堪えられずゆきは祭乃木に向けて叫ぶ。
背中にはアスファルトを擦った跡が痛烈についている。
その内側にある柔肌も無事ではないとわかる。
ゆきは堪えられず声を上げた。
「祭乃木さん……! もう……もう十分ですぅ! 」
悲痛な声だった。
デュエルアカデミアは、世界最強のデュエリスト養成機関。
その上位者の証を纏う相手。
一般の公立高校の高校生に適うわけがない。
自分のせいで、亜美にも迷惑をかけてしまう。
しかし亜美は、その声に対して
「………大丈夫よ」
と答えた。
その返答に思わずゆきは顔をあげる。
祭乃木亜美の闘志は失われていなかった。
そこには、人を安心させる笑みを浮かべる赤い炎のような少女がいた。
「え……?」
「見てなさい、ヒーローの活躍を!」
その闘志は。
勇気は。
背後に立つ良平とここのせにも伝わる。
良平は呟く。
「祭乃木、笑ってる……」
ここのせは目を見開く。
「この状況をひっくり返せるっていうのか……!」
亜美はカードに手をかけた。
「アタシのターン!」
手札:4→5
引いたカードを一瞥し、前を向いたまま亜美はさらに声を出す。
「ゆき! 辛いことってたくさんあるわよね。傷つくこともたくさんあるわ! けど、どんなに傷ついても諦めなければ、次が必ずあるのよ!」
「!」
ゆきは真っ直ぐに亜美を見つめた。
前傾視線でデュエルディスクを構え、堂々と戦うその姿を。
「手札から速攻魔法、ジェネレーション・ネクストを発動!」
《ジェネレーション・ネクスト》
速攻魔法
発動したカードに良平は再び驚く。
「あれも見たことないカードだ……!」
「さっき拾った間宮のカードだな! どんな効果なんだ……!?」
効果を確かめようとここのせはさらに前のめりにデュエルを見る。
亜美はその効果を宣言した。
「ジェネレーション・ネクストは自分のライフが相手より低い場合、その数値の差分以下の攻撃力を持つE・HEROをデッキ、墓地から特殊召喚できる! ライフの差は2600! 2600以下のモンスターを特殊召喚!頼んだわよ、E・HEROネオス!!」
デッキからそのモンスターが現れる。
輝きながら右手を上に突き出し、左手は肩口程の位置で拳を握っている光のヒーローが。
「シュアッ!」
E・HEROネオス
攻:2500 光 戦士族 星7 ゾーン:③
現れたモンスターに、しかし阿久津はバカにするように嘲笑う。
「ハッ、何が次だ! リリスの攻撃力には遠く及ばねぇじゃねーかよ!」
「まだよ! 手札から、魔法カード、ラス・オブ・ネオスを発動!」
《ラス・オブ・ネオス》
通常魔法
「ネオスをデッキに戻して相手フィールドのモンスターを全て破壊! 行け! ネオス!! ラス・オブ・ネオス!」
「チッ、ベルゼブルとベルフェゴルの効果発動! 自身をリリースしててめぇの墓地のカードをそれぞれ一枚除外する。ブレイズマンとスパークマンを除外しな!」
「だが、破壊は通る!」
E・HEROネオスは光のエネルギーを纏い敵陣に吶喊する。
そして自身ごと大きな爆発を起こした。
インフェルノイド・リリスはその甲高い断末魔を上げて霧散した。
それを尻目に亜美はさらに手札を1枚抜き取り、モンスターゾーンに音を立てて置く。
「さらに手札のE・HEROリキッドマンを召喚!」
E・HEROリキッドマン
攻:1400 水 戦士族 星4 ゾーン:①
「リキッドマンの効果で、墓地からレベル4以下のヒーローを蘇生させるわ! E・HEROシャドー・ミストを特殊召喚!」
シャドー・ミスト
攻:1000 闇 戦士族 星4 ゾーン:②
「シャドー・ミストは特殊召喚に成功した時、デッキからチェンジ速攻魔法を手札に加えることができる! アタシが手札に加えるのは、マスクチェンジ!」
手札:2→3
E・HEROにも関わらず融合のカードではない。
ここのせは再び首を傾げた。
「マスクチェンジ? なんだあれ、あれも見たことねぇぞ。あれもさっきの間宮のカード、か……?」
フィールドは止まらない。
亜美は手札をマジックトラップスロットに放り込む。
「手札からマジックカード、ネオスフュージョンを発動!」
《ネオス・フュージョン》
通常魔法
「手札、デッキからネオスの融合を行うことができる! 今戻したネオスとE・HEROソリッドマンでデッキ融合!」
E・HEROネオス+星4効果モンスター
「ーー今は遠き宙の秩序を担うは勇気の英雄!!」
閃光がほとばしり、渦より光の勇者が飛び出した。
「 来なさい! E・HEROブレイヴ・ネオス!」
E・HEROブレイヴ・ネオス
攻:2500 光 戦士族 星7 ゾーン:④
「バトル!」
―バトルフェイズー
「ブレイヴネオスでダイレクトアタック!」
E・HEROブレイブ・ネオス
攻:2500
阿久津は一切の同様もせずに墓地のカードを発動した。
「墓地の超電磁タートルの効果発動! 攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了する!」
半透明の磁力を帯びた亀が現れ、それがバリバリと音を立てて電磁波を発した。
その電磁波の網に絡めとられブレイブ・ネオスはその場に膠着するほかない。
―メインフェイズ2―
ここのせはその様子を見て悔しそうに呟く。
「くそっ、躱されたか!」
亜美は冷静に状況を見極めて手札を2枚裏側でスロットに差し込んだ。
「カードを2枚伏せてターン終了! 」
そのままフェイズが移行した。
―エンドフェイズ―
祭乃木亜美
LP:1400
手札:0
伏せ:2
フィールド:
E・HEROブレイブ・ネオス
E・HEROリキッドマン
E・HEROシャドーミスト
―ドローフェイズ―
「チッ、雑魚のくせに生意気な! 俺のターンだァ!」
手札:3→4
―スタンバイフェイズ→メインフェイズ―
引いたカードを見て阿久津はニヤリと笑い、手札に加えずにそのままスロットへ乱暴に入れた。
「手札からマジックカード、モンスターゲートを発動!」
《モンスターゲート》
通常魔法
「通常召喚が可能なモンスターがでるまでデッキからカードをめくり、それ以外は全て墓地に送る!」
見ていた良平は「まずいっ……!」と声をあげる。
「特殊召喚モンスターが多いインフェルノイドと高相性の魔法カードだ! これで墓地が肥えたら、もう返せないぞ……」
ゆきは悲痛に声をあげた。
「祭乃木さん……!」
勝ち誇ったような阿久津に、敗戦濃厚というムードの群衆。
しかし亜美は「ふふ」と笑った。
「何がおかしい」
「アタシ、カードが持ち主を選ぶとか眉唾だと思ってた。けど、もしかしたら、本当にあるのかもしれないわね。」
「アァ? 何が言いてぇんだ!!」
「カードたちが、アンタみたいなクズからゆきを守るために来てくれたのかもってことよ! 速攻魔法発動! マスクチェンジ!」
《マスクチェンジ》
速攻魔法
「フィールドのシャドーミスト! 今、アンタは新たなヒーローに変身する!」
E・HEROシャドー・ミストは「ォオオ!」と吠えた。
黒い影が大きく変化する。
中身は問わぬ。
その闘志と気概があれば。
その戦士はマスクを被る。
己を偽るマスクを。
「―――変身!! M・HEROダーク・ロウ!!」
「ウォォォ!!」
M・HEROダーク・ロウ
攻:2400 闇 戦士族 星6 ゾーン:④
現れたモンスターを阿久津は再び嘲笑う。
「はっ、たかが2400のモンスターかよ!」
「たかがじゃないわ! アンタのデッキ、よく見てみなさい!」
「あ? ……な、なんだと!?」
自分のカードの処理をディスプレイで確認した阿久津は驚愕の声を上げた。
「カードが除外されていくだと……!?」
「M・HEROダーク・ロウは、相手のカードが墓地に送られる時、それを代わりに除外することができる!」
「ば、馬鹿な……この、俺がぁ……」
デッキの殆ど全ての主力カードが手の届かぬ場所へと転送されていく。
男は歯を食いしばり憤怒の表情を浮かべた。
「ふざけんなよテメェ……!! ぶち殺す!!」
身体の周りに黒い瘴気が集まるのが見える。
明らかに当たりの空気が一段と冷たくなっていく。
急変した阿久津。
「なんなの……?」
その様子に亜美は訝しんで目を凝らす。
しかしそれを遮るように、繁華街にしては大きな音が鳴り響いた。
それは、低く腹にも轟くような音で港に浮かぶそれを彷彿とさせた。
はたせるかなそれは童実野埠頭の方から響いていた。
良平は辺りを見回し言う。
「なんだ? 船の汽笛?」
すると取り巻きのアカデミア男子生徒は慌てて叫ぶ。
「剛さんっ! アカデミアに戻る船、そろそろっすよ!」
それからアカデミアの男子生徒は阿久津に縋りついた。
「黙れ! こイつを……」
再度、低く腹にも轟くような音が響く。
女の方もやや取り乱したように阿久津にすり寄った。
「やばいよ、戻んないと!!」
「チッ!」
いつの間にか元の雰囲気に戻っている阿久津は、苦々しく決闘盤を引き下げた。
そしてそのまま踵を返し、歩いていった。
慌てて取り巻きはその背中を追いかける。
その唐突な幕切れに亜美は眉を吊り上げて叫んだ。
「あ、こら! 逃げるなぁ! 待てっ!」
「ストップ!」
良平は今にも走りだしそうな亜美の肩を抑えると、ディスクのディスプレイに触れた。
すると変形が解除され、元のように亜美の腕に収まった。
「もうほとんど決着はついたよ」
諭すような言いぶりに、亜美はデッキを決闘盤から外しながらぽつりとつぶやいた。
「……次、見かけたらぶっ飛ばしてやるんだから!」
ともあれ、その元凶が去ったことを確認するとここのせは、後ろで縮こまっているゆきに向く。
「間宮、大丈夫か?」
「……はい、大丈夫ですぅ……」
そう返答するも下を向き続けるゆき。
周りの群衆は未だに散る様子もなく、こちらを眺め続けている。
亜美はそっと目で周りを牽制してから亜美に声をかけた。
「……目立っちゃうわね。場所変えましょ」
[ネオ童実野シティ 郊外 公園]
繁華街から15分程歩き、高校のある方面へと歩いていく。
そちらには住宅街が広がっていて、しばらく歩くと天神という区域に入る。
ただの地名だが、一軒家が多い。
その境頃に、小さな公園があった。
中に何か特別な遊具があるでもなく、特出して狭いこともない普通の公園であった。
ゆきは、そのブランコに力なく腰掛けた。
亜美はその前の膝くらいの高さの柵に座り、ここのせと良平は、その柵のそとに並んで立っていた。
「ここなら大丈夫そうね」
「……えへへ、ありがとうございます」
こんな状況なのにゆきは、眉を八の字にして愛想笑いを浮かべた。
それから、三人が言葉に詰まっているとぽつりと話はじめた。
「……本当は、わかってたんです。こんなこと意味ないって」
無理矢理笑うゆきの声に良平は思わず口を紡ぐ。
ゆきはさらに続けた。
「わたし、友達もいなくてずっと一人でした。彼も私のことが好きというわけではないってわかってました。でも、わたしが尽くしていればいつかって……。えへへ、頭おかしいですよね」
ここのせは「そんなこと……」と言いかけてやめた。
言うなよ、とは言えなかった。
彼女の人生の一片すら知らない自分が言えるわけがなかった。
ここのせはそのまま押し黙るとゆきは、泣きそうな顔で笑い続ける。
「おかしいなって思っても、彼がいなくなったらもう次はないって、縋り付いていたんです……。必死に付き合っているんだって思い込むことで自分を……だましてたんです……」
それから詰まった言葉を吐き出すように下を向き、ゆきは足元の砂利を見た。
「ダメですね、わたし。……今日、祭乃木さんの言葉を聞いて、目が覚めました」
きいと鉄がこすれる音がする。
寂しい音だった。
遠くで街のチャイムが鳴っている。
亜美は、腰のデッキケースからカードを数枚取り出すとそれを差し出した。
「ゆき、これ」
「あ、これは……」
差し出した亜美の手には4枚のカード。
E・HEROシャドーミスト、M・HEROダークロウ、マスクチェンジ、そして、ジェネレーション・ネクスト。
間宮ゆきが買ったカードパックから現れたカードたちである。
「これは、ゆきのカードよ。今日のこと思い出して辛いかもしれないけど、次を信じて立ち上がってほしいから、持っててほしいの」
「次……?」
「デュエルしてるとね、負けるときもあるわ。それは自分やデッキが悪いってのがほとんど。あの時ああしてれば、あのカードが入ってればって、後悔は尽きないものよ。その時は落ち込みもするし自分を責めることもあるわ」
「……」
「でもね、それで全てが終わりじゃないのよ。それを次につなげて前に進まなきゃいけない。アタシ達が生きている今この時間も同じよ。失敗しても転んでも、何度だって次はあるはず」
「!」
ゆきはゆっくりと顔を上げた。
そこには夕焼けに染まる亜美の顔があった。
真っ直ぐにゆきの目を見てめている。
「もし一人で立ち上がれないなら、ここにアタシ達がいるわ! いつだって手を取ってあげる。だから顔をあげなさい」
「……こんなわたしに……?」
「こんな、じゃないわ」
亜美はゆきの手を掴む。
そしてそのまま、ゆきをぐっと引っ張り上げた。
「わっ」
「次のゆきの手はきっともっと暖かいわ」
「祭乃木さん……」
握られた手を見た。
涙が溢れてきそうで思わず飲み込んで。
それから顔を上げた。
「……ッ! はい……!」
良平は小さく息をつくとここのせに向く。
「これで、一件落着、なのかな……?」
「なんでぇそりゃ。漫画じゃねぇんだぜ? ……あ、間宮」
ここのせの声にゆきは小首を傾げて返事をする。
「はい?」
「もし放課後暇なら、3階の地学準備室に来てみな。そこでオレたち、部活やってっからよ」
「部活……? 一体、何部なんですか?」
小首を傾げるゆきに、祭乃木はニッと口角を上げた。
「よくぞ聞いてくれたわ! ――アタシたちは! 童実野第二高校!」
良平とここのせは「デュエルぶ……」と言い、亜美はさらに大きな声で言った。
「ヒーロー部!!! ……って、アンタら二人! ヒーロー部だって何回言ったらわかんのよ!」
亜美はすぐにここのせと良平に向く。
ここのせは頭の後ろに両手を回す。
「いやだってそれ、意味わかんねぇんだもん」
良平も苦笑いして答えた。
「活動内容もわかんないし、あとなんかダサい……」
「なにぃ〜!!? ぶっ飛ばされたいの!?」
亜美はぐっ拳を握ってみせる。
それを見たここのせは「やべっ」と声を漏らす。
そして二人は、くわばらと踵を返して走り出した。
「あ、 待てこらぁ!!」
逃げ出した二人を亜美は容赦なく追いかけた。
そこには、目を丸くしたゆきだけが取り残された。
「……ふっ、ふふふ……!」
追いかけます亜美と、必死に逃げる二人を見てゆきは思わず笑い声を上げた。
いつぶりだろうか。
愛想笑いでない笑いを浮かべたのは。
「……ヒーロー、かぁ」
夕焼けの中、良平に追いついた亜美が身長差を物ともせずに良平の頭を押せ込み、拳でぐりぐりとしている。
ここのせは遠巻きに笑いながらそれを眺めていた。
[次の日 放課後 童実野第二高校 廊下]
階段を肩で風を切って亜美が歩いていた。
その後ろを良平とここのせが続く。
いつもの光景だった。
「なぁによ、あのクソ教頭! 部活の申請をしに行っただけなのに嫌味言っちゃってさぁ」
ぷりぷりと怒る亜美に良平は肩をすくめた。
「水原の言う通り、顧問と人数と実績が必要だったね。しかも人数は5人以上」
「前途多難だなぁオイ」
とここのせもため息をついた。
亜美は顔の前で拳を拳を握り声をあげる。
「絶対WSCに出て、ぎゃふんと言わせてやるんだから!」
そう言い捨てて亜美は部室の扉を勢いよく開けた。
中はすでに電気がついていた。
そして、中にいた人物が栗色の髪の毛を揺らしてこちらに振り向いた。
「みなさん! お邪魔してます!」
不意をつかれたように三人は固まった。
それから、亜美が最初に声を上げる。
「ゆき!」
「はい! 不肖、間宮ゆき! ヒーロー部に入隊します!」
精いっぱいのきりりとした顔をして敬礼をしてみせる。
しかし、その引き締まった顔は3秒と持たず、崩れた緩い笑みに変わった。
「よろしくお願いしますね!」
良平は「おぉ!」と声をあげ、ここのせは「いいじゃねぇか」と笑った。
「だいっっっ歓迎よ! ようこそ、ヒーロー部へ!! 」
亜美はその新人隊員に抱き着いた。
童実野第二高校の準備室の中、己たちの認可を目指す高校生。
彼らは童実野第二高校――ヒーロー部。
◾️次回予告
第二話『スクランブル発進 飛び立て幻獣機!』
デュエルスタンバイ!
1話毎の長さについて
-
長すぎる
-
ちょうどいい
-
短い