遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~   作:レトやま

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第21話 「遠征! いざ、海を超え!」中編

 

[太平洋 海上]

 

浦賀水道に乗って太平洋に出た後、船は鼻先を西に向けた。

東南アジア方面に進んでいきインド洋、スエズ運河を経由して欧州に抜けるらしい。

船内は広く重厚で床にはカーペットが敷き詰められていた。

船が走り始めてすぐに神川ノエル美優はヒーロー部に向き合った。

 

神川「さて、いいかしら、HEROs?」

 

祭乃木「なによ? せっかく旅立ちの余韻に浸ってたのに」

 

亜美は片手を腰に当てて答えると、麗華が眼鏡に手を当てながら言葉を返す。

 

麗華「あなた方は、これから11日間この船で生活することになります。ですので船内各所を案内します」

 

ゆき「わぁ、ありがたいですぅ! こんなにおっきい船、迷子になりそうなので……」

 

神川「All right! follow me!」

 

くるりと背を向け神川が歩き出そうとした瞬間、後方から唯信がツカツカと良平に向かって歩いた。

 

唯信「待て」

 

神川「?」

 

唯信「日和田良平ッ……!」

 

良平「ぐぇっ!?」

 

突如、唯信が良平の胸倉を掴み顔を近付けるので、堪らず良平は悲鳴をあげる。

その様子に亜美は目を釣り上げて声を出した。

 

祭乃木「ちょっと! いきなり何すんのよ!」

 

唯信「黙レ。貴様らに用はナイ。この男は借りていくゾ」

 

唯信は良平の胸倉を掴んだまま、引きずるようにして歩いていく。

掴まれた胸倉を前に屈むようにして引っ張られる良平が苦しそうに声を出す。

 

良平「ぐ、ぐるしい……! 離せっ……」

 

構わず歩いていく唯信に対し、麗華は慌てて口を開ける。

 

麗華「金さん! 我々の任務は彼らの護送ですよ!?」

 

唯信「案内なぞいつでもできル。……日和田良平ッ! 決着をつけるゾ! 来いッ!」

 

良平「け、決着って……! 俺の負けで決着ついただろ……!」

 

唯信「黙れッ! 貴様は絶対にこの手で潰ス!」

 

麗華「金さん!」

 

周りの目など気にもせず唯信は良平だけを見ている。

二人で去っていくのでツァンがそのあとを追いかけた。

 

ツァン「だ、だめだよ! 男女二人きりなんて! ボクもいくから!」

 

麗華「ツァンさんまで……!」

 

真面目そうな麗華の整った眉がついに八の字になってしまう。

溜息交じりに最後方に立っていた雪乃が言う。

 

雪乃「仕方ないわね。ああなったら金さんはテコでも動かないわ。やらせてあげましょ」

 

祭乃木「まぁ、デュエルしたいってんなら相手になったらいいわ。良平、相手してやんなさい!」

 

びしりと指をさして良平に命令する亜美。

てっきり止めてくれると思っていた良平は唖然と口を開けてしまう。

 

良平「なっ……! こ、ここのせ……」

 

ここのせ「モテる男はつれーなー。ま、頑張れよ!」

 

良平「ここのせまで……! お、覚えてろよぉぉ」

 

そのまま引きずられて三人は去っていった。

ゆきはその背中を眺めてポツリと言葉を漏らす。

 

ゆき「……行っちゃいましたね……」

 

神川「悪く思わないであげてネ! ユシンは、デュエルに対して純粋なのヨ!」

 

ゆき「純粋……?」

 

ここのせ「純粋な奴がサイバー流なんか使うかってんだ」

 

決勝戦や他チームとの彼女のデュエルを思い浮かべてゆきは小首を傾げここのせは悪態をついた。

 

麗華「とにかく、我が校の生徒がご迷惑をおかけして申し訳ございません。……では、皆さん、こちらへ」

 

今度こそ麗華と美優はついてこいとばかりに背を向けて歩きだす。

船内は外観からの想像を遥かに超えた構造となっていた。

5階建てに加え、喫水線以下の貨物室、そこに甲板と艦橋があってとても一日で見切れないようなサイズだった。

 

[船内 1階 メインホール]

 

ゆき「本当に広いですねぇ……」

 

祭乃木「全く別世界ね。なんだかプリンスホテルにいるみたいだわ」

 

麗華「こちらがメインホールです」

 

足を止めて麗華がこちらを振り向いて手のひらを部屋全体に向ける。

ホールというだけあって円形状に空間が広がっていた。

 

麗華「各種自動販売機や外貨両替機、それと売店があります。フードコートや喫茶店もありますので、軽食などはこちらでどうぞ」

 

神川「ワタシのおすすめは、そこのドローパンヨ! 当たりのgolden egg は絶品なの!」

 

祭乃木「へえ、後で買ってみようかしら」

 

ここのせ「ドローパン……。聞いたことあるぜ、中身は完全にランダムでそいつの運命力に応じたもんがでるって噂だ」

 

ゆき「り、リスキーですねぇ……」

 

ここのせ「少なくともオレは絶対買えねーシロモンだな」

 

自分の運命力についてよく知っているここのせは、ゲテモノを見るような顔で売店に積んであるパンを眺めた。

 

 

[屋外メインデッキ]

 

続いて一行は重い扉を開けて屋外へと出る。

途端に潮風が鼻を擽って痛烈な太陽の光が目に入った。

甲板デッキは木製のフローリングが広がっていて素足でも問題なさそうなほどにきれいに保たれている。

奥は床の材質がゴム製に代わり巨大なプールに水がなみなみと注がれていた。

 

祭乃木「なにこれ!?」

 

雪乃「見ての通りよ。滞在中は、自由に使えるわ」

 

祭乃木「へぇー! いいわねぇ!」

 

ゆき「でも、水着なんて持ってきてないですよ?」

 

神川「さっきの売店で買えるわヨ! それから一応、レンタルもあるワ!」

 

雪乃「うふふ……お姉さんのやつ、貸してあげてもいいわよ?」

 

雪乃は美しくくびれた腰をクネッとさせる。

彼女の豊満な胸が揺れてすらりと伸びた足が彼女のプロポーションを後押ししている。

亜美はそんな彼女の身体を上から下まで眺めてから腰に手を当てた。

 

祭乃木「うーん、アンタとアタシじゃ体型全然違うし無理そうね。でも、ゆきならいけるかも!」

 

ゆき「えぇ!? む、無理ですよぉ! あんなに脚長くないですし……」

 

雪乃「うふふ……試してみる?」

 

女子三人がやいのやいのと声を上げている最中、一歩後ろでここのせが肩をすくめる。

 

ここのせ「すっかり蚊帳の外だぜ……」

 

恵「……」

 

そんなここのせの言葉を聞いていたのは隣に立ちここのせの顔を見上げている恵だけであった。

 

[2階 レストランフロア]

 

再び船内に戻り、階段を上る。

メインホールと打って変わってショーケースと座席が並んでいて、中には食品サンプルが入っている。

そしてあちこちに並ぶ店は食堂と呼ぶには豪華すぎ、大型ショッピングセンターを彷彿とさせる光景であった。

 

麗華「食事はこちらでどうぞ」

 

ここのせ「和洋中に、イタリアン、フレンチ、ラーメンまでありやがる」

 

麗華「11日分のチケットをお渡ししますので、朝昼晩の食事はこちらから選んでくださいね」

 

祭乃木「はー、至れり尽くせりね」

 

[3階 フロア デュエルスペース]

 

さらに階段を上り、不意に現れた自動ドアをくぐるとデュエルフィールドとごてごてした機械が並ぶ武骨な空間があった。

 

神川「ここはデュエルスペースよ! ソリッドビジョンはそこ! それからAI戦はそっちのパソコンを使って!」

 

ゆき「デュエルスペースは個室もあるんですねぇ」

 

壁際にはカラオケ店のように防音扉が並んでいてその奥にもスペースがあることがわかる。

 

雪乃「デッキを見せたくないって子もいるのよね」

 

それから一行はこの豪華で巨大なさらに巡る。

 

[3階 図書館]

 

麗華「こちらが図書室です。奥にはビデオルームもあります」

 

[4階 大浴場]

 

神川「こっちが温泉! 部屋にシャワーもあるけど、お湯に浸かりたいならこっちね!]

 

[居住フロア]

 

麗華「こちらが居住フロアです。4階は女性、5階が男性となっております。あとで、鍵をお渡しします。中にフロントで預けた荷物があるはずですのでご確認下さい」

 

…………

……

 

麗華「案内は以上になります。こちらが居住フロアの鍵ですのでなくさないようにお願いしますね」

 

チャリッと音を立てて麗華は鍵を渡す。

受け取ってから亜美は麗華に微笑みかけた。

 

祭乃木「ありがとう! 助かったわ!」

 

ここのせ「こんだけいろいろありゃ、退屈しなそうだな」

 

麗華「それでは、ここからは自由時間となりますのでごゆっくりお過ごし下さいね」

 

祭乃木「はいはーい」

 

神川「Hey! HERO girl! もしよかったら、お茶でもどうかしら? アナタ達とゆっくり話してみたかったのよ!」

 

祭乃木「いいわよ!」

 

神川「All light! ホールのCaffe shopにいきましょ! あそこのcoffeeはサイコーなのよ!」

 

パチンと指を鳴らして美優は言う。

亜美は後ろに控えるゆきに振り向く。

 

祭乃木「ゆきもくるでしょ?」

 

ゆき「はい! 是非!」

 

雪乃「私もご一緒しようかしら」

 

神川「ok! レイカはどうする?」

 

麗華「私は結構です。運営本部に報告などをしなければならないので」

 

にこりともせず麗華は答え、用は済んだとばかりにすたすたと去っていく。

 

祭乃木「アンタらは?」

 

ここのせ「オレもやめとくわ。そこら辺ぶらついてくるぜ」

 

恵「……私も辞退する……」

 

祭乃木「そう。わかったわ。……ここのせ、これ!」

 

ヒュッと下手投げで鍵を放り投げる。

難なくキャッチしてみると大仰で絵にかいたような鍵だった。

無くさないように配慮なのか大きなホルダーに部屋番号が書かれた棒がついている。

 

 

祭乃木「アンタと良平の部屋よ!」

 

ここのせ「サンキュー。んじゃ、またなー」

 

恵「……」

 

片手をあげてここのせは背を向けて歩きだす。

恵もその後ろについていった。

 

 

[デュエルスペース 個室]

 

一方そのころ、船内の3階フロアのデュエルスペースの個室ではソリッドビジョンシステムが火を噴かんばかりに稼働していた。

 

唯信「来いッ! サイバー・エンド・ドラゴン!!」

 

一瞬の閃光の後、地響きとまごう様な音と共に巨大な三つ首の機龍が咆哮を上げる。

 

サイバー・エンド・ドラゴン

攻:4000 光 機械族 星12

 

見上げるデュエリストは日和田良平。

眼光鋭く一歩も引かない。

 

良平「貫通持ちか……」

 

唯信「いけ! サイバー・エンド・ドラゴン! ポンコツのトークンを粉砕しロ!」

 

サイバー・エンド・ドラゴンが三つの口にそれぞれエネルギーを集約させる。

良平の前には守備表示状態の幻獣機トークンが飛びまわる。

 

良平「トラップ発動、ブレイクスルースキル!」

 

《ブレイクスルー・スキル》

通常罠

 

トラップ発動ボタンを押して良平は応戦する。

虚空から現れたチャフが輝きサイバー・エンド・ドラゴンを攪乱した。

サイバー・エンド・ドラゴンはやみくもに光弾を射出し、一発が幻獣機トークンを捉えた。

成す術なく幻獣機トークンは撃墜されるものの、ダメージ一辺すら良平には届かない。

 

ツァン「貫通効果は無効になってるからダメージは0……」

 

唯信「小癪なァ……!」

 

良平「怖いって……」

 

対面から睨みつける青い制服に黒い長髪。

すっと整った顔に切れ長の瞳、相応に盛り上がったら肢体も相まって黙っていれば美人なのにと良平は口には出さずに思う。

そんな良平を尻目に後方で見守っていたツァンが良平の顔を覗き込む。

 

ツァン「ねぇ、アンタ、サイバー・エンド・ドラゴンを読んでたの?」

 

良平「いや全く」

 

ツァン「ホント? 」

 

良平「偶然助かっただけだよ」

 

平然と言ってのける良平。

しかしデュエル展開は互角で良平はサイバー流の切り札を前にしても平然としている。

 

唯信「貴様ァ、私を愚弄しているのか」

 

良平「愚弄してねぇよ!」

 

ツァン「なんか納得いかない! 次、ボクとデュエルして!!」

 

良平「なんでだよ……。せっかくなんだからゆっくりさせてよ……」

 

ここに連れてこられる前に、なんとなく見えた船内の豪華な内装。

しかし今良平はオベリスクブルーの二人に囲まれて個室に押し込められているのだ。

 

唯信「フンッ、今日はここから出れると思うナ」

 

良平「こんなん誘拐だろ! 拉致だよこれは!!」

 

唯信「黙れッ! 貴様のターンダ! 早くカードを引ケッ!!」

 

良平「ああもう! 誰か助けてくれー!」

 

涙目で良平は叫ぶ。

しかしそれで状況が変化することはなく仕方なくデッキトップのカードを引き込んだ。

 

 

[屋外デッキ]

 

波をかき分ける音がする。

潮風は強く吹き込んでいて日差しは遮るものなく差し込んでいる。

外洋はまだ遠いらしく右手にはまだ陸地がわずかに見えている。

ミューッ……ミューッ……。

船と並走するようにカモメが滑空していて、海の反射に白い点を作っている。

 

ここのせ「かぁー、いい風だ! それに、いい具合にカモメも飛んでやがるぜ!」

 

潮風をいっぱいに浴びてここのせはぐっと伸びをする。

船内は別段息苦しいことはないが、それ以上に解放感がある。

 

ここのせ「へへへ、こいつが船の楽しみよ」

 

片手に持っていたスナック菓子をバリと開ける。

小さい棒状のエビせんべいが大量に入っていて海鮮の香が漂う。

それを手にもって並走するカモメを見る。

 

恵「……野生動物に餌を与える行為は、あまり推奨されない……」

 

ここのせ「うおっ!? 恵!? いたのか!?」

 

恵「……いた……」

 

ここのせ「……ついてきたのか。女子連中と一服してくりゃよかったのに。オレといたってつまんないぜ?」

 

恵「……それ……餌やり……」

 

言葉をスルーして恵はここのせの手にあるエビせんを指さして言う。

まだカモメに投げたわけでもないのでここのせは意外そうな声を出した。

 

ここのせ「おぉ、よくわかったな! 意外と楽しいんだぜ!」

 

恵「……知っている……」

 

ここのせ「やったことあんのか?」

 

恵「……ある……」

 

ここのせ「へぇ意外だな。こういうのやらなそうだからよ。まぁいいや、手ぇだしな」

 

 

がさがさとスナック菓子の袋に手を突っ込みいくつか握る。

無表情のまま両手を皿のように差し出した恵の手にそれらを乗せた。

 

恵「……」

 

恵の目が自分の手とここのせの顔を行ったり来たりするので、ここのせは見本とばかりに一つ右手に取った。

 

ここのせ「そらっ!」

 

えびせんは宙を舞い、並走していたカモメへ向かう。

待っていましたとばかりにカモメはえびせんを口でキャッチしてぱくりと食べてしまう。

 

ここのせ「 見たか? すげぇよなぁ、走ってる船と並びながら飛んで、しかも空中でキャッチしちまうんだからよ」

 

恵「……」

 

再び自分の手に視線を向けた恵はここのせの真似をするように一つだけ右手にもって下手投げで投げた。

別のカモメがそれを咥えようとした瞬間、風が吹いて軌道が変わりカモメは急いで方向を転換して変則起動でなんとかキャッチしていた。

 

ここのせ「はは、風で軌道が変わったから慌ててたな! やっぱおもしれぇよな、これ」

 

恵「……わからない……」

 

ここのせ「えー、んだよ、楽しいって言ったろ……」

 

恵「……かつて、この行為は『楽しい』ものだ、とそう言われた……」

 

ここのせ「前にやったときにか?」

 

恵「……ん……」

 

ここのせ「ほぉ。誰だか知らねーけど、そいつはハイセンスな奴だな! 気が合いそうだぜ!」

 

恵「……」

 

何気ない彼の言葉に恵はじっとここのせの顔を見た。

無表情で作り物みたいに透き通った双眸が見てくるのでここのせは苦笑いする。

 

ここのせ「……な、なんで睨む……?」

 

恵「……睨んではいない……」

 

それから恵はまるで機械のように一定のリズムでえびせんを放り投げている。

楽しいともつまらないとも言わないその姿をここのせはしばらく眺めた。

彼女の銀色のツインテールが風に揺れている。

 

ここのせ「なぁ恵」

 

自分もカモメの餌やりをしながらここのせは口を開く。

 

恵「……?」

 

ここのせ「……恵は高校生活慣れたか?」

 

恵「……何故そんなことを聞くの……?」

 

ここのせ「何故って……。なんか急に転校してきて。かと思ったらオレ達とWSCに出て……。ドタバタしてたろ。なんつーか、こう、楽しめてんのか?」

 

恵「…………」

 

やや思考するかのように手を止める恵。

それから再びえびせんを投げる。

 

恵「……環境に適応する機能は元から備えている……」

 

ここのせ「そうじゃねぇよ。この間の時空震とかってやつの話、有耶無耶になっちまったけど、なんか抱えてんだろ? 」

 

恵「……」

 

ここのせ「そういうのを抱えてたら楽しめるもんも楽しめねぇだろうなって思ってよ」

 

恵「……」

 

最後の一つになったえびせんをしばらく眺めてから恵は再び右手に取って投げてしまう。

中空に飛んで行ったそれはカモメが加えてどこかへ去っていく。

それから恵は返答した。

 

恵「……時空震の観測は私の責務。気にしないでほしい……」

 

ここのせ「……それは前に言ってたイリアステルってやつのか?」

 

恵「……否定する。イリアステルとの関係は既に途切れている……」

 

言い切ってからまた考えるように口を閉じたものの、すぐに恵は声をだした。

 

恵「……今、この時代はとても平和。命の危機は少なく、飢餓も少ない……」

 

ここのせ「……お、おぉ……」

 

恵「……誰かとチームを組み、こうして船旅をする。かつての私では考えられないこと……」

 

ここのせ「……そうなのか」

 

恵「……私はこの未来が続いてほしいと願う。崩れないように願う。そして、その為の正しい未来への行動がマスターを失った今の私の指針。その行動原理は、私では解析不能……」

 

ここのせ「ほぉーん」

 

恵「……ただ」

 

言葉がさらに帰ってくるとは思っていなかったここのせは思わず恵の方を見る。

恵は海の向こうを見つめていた。

 

恵「……この未来は続くべき、という私のAIが出した答え。その原点が『この瞬間が大切だから』と仮定するならば……。……私は楽しいと言える……」

 

ここのせ「……そうかい。……相っ変わらず回りくどいやつだぜ! 無表情だしよ!」

 

恵「……それは失礼……。……私は今、笑っている……」

 

ここのせ「ホントかよ!? ちょっと見せてみ?」

 

恵「……にこっ……」

 

ここのせ「いや口で言ってるだけじゃねぇか!!」

 

遠くの空でカモメが鳴く。

ミューッ ミューッっと。

海がさざめき空が揺れる。

船旅は始まったばかりであった。

 

 

[一階メインホール 喫茶店]

 

一方、一階のメインホールにある喫茶店では亜美とゆき、それと美優と雪乃の四人がテーブルを囲んでいた。

 

雪乃「へぇ、貴女、デュエルモンスターズを最近始めたばかりなのね」

 

氷が入ったカフェラテで唇を湿らせながら雪乃が言う。

アイスココアのストローから口を話してゆきはにっこりと頷く。

 

ゆき「はい、そうなんですぅ」

 

神川「Wow! それで、ツァンと互角に渡り合ったの!? 貴女、才能あるわよ!」

 

ゆき「えへへ……でも、あれはチーム戦だったからですよ。日和田さんや祭乃木さんを警戒していたからです。最初から本気で来られたら、手も足も……」

 

雪乃「まぁ、そうでもなければアカデミアの名折れだものね。うふふ、謙虚で相手を立てる……。貴女、中々いい女ねぇ。お姉さん気に入ったわ」

 

ゆき「そ、そうでしょうかぁ、えへへ」

 

祭乃木「ちょっとちょっとー、ウチの副部長を口説かないでくれるー?」

 

雪乃「あらごめんなさい。でもほとんど初心者の状態で、あそこまでデッキを回せるのは本当に凄いと思うわ。運命力も高いみたいだし、磨けば光るわよ、きっと」

 

雪乃も足を組んで微笑む。

そんな彼女の言葉に気になって亜美は首を傾げて聞いてみる。

 

祭乃木「……ねぇ、ちょっと気になってたんだけど。アンタたちってその運命力ってやつ、わかんの?」

 

神川「well……わかる、というより、感じ取ると言った方が正しいわね」

 

祭乃木「感じ取る?」

 

神川「yes! 例えば、そうね……。ユキなら、相手するなら気をつけて挑まないといけない、と感じるワ」

 

祭乃木「ふーん」

 

神川「そして、HERO girl。貴女なら……最大級の警戒をもって挑まないといけない」

 

口の端を上げて美優は亜美を見る。

亜美は自分ではなくその後ろにある何かを見られているようで背中がかゆくなったように感じた。

 

ゆき「そ、それは……高い、ということですか……?」

 

雪乃「そう。それも、かなり、ね」

 

祭乃木「……そう言ってもらえるのは悪い気はしないわ。けどアタシ、正直その運命力ってのがよくわからないんだけど。どういうのが運命力なわけ?」

 

神川「んー……強い相手と対峙したときの肌にビリビリくる感じ、といえばわかる?」

 

祭乃木「うーん、確かにクイーンに会った時には、こうビリビリきたけど、それで合ってるの?」

 

雪乃「感じ方は人それぞれよ。それに運命力を正しく感じ取るのは、運命力の高さは関係ないみたいだし、まだわかってないことが多いのよ」

 

祭乃木「なんだ、じゃあやっぱりよくわかんないんじゃない」

 

神川「そう、運命力にはまだまだわかってないことも多いのよ。デュエルアカデミアはデュエル以外にも、そういう運命力等を研究する研究機関でもあるの!」

 

雪乃「祭乃木さん、運命力に興味があるなら、デュエルアカデミアに来てみたら? いつでも歓迎すると思うわよ」

 

祭乃木「やーよ! 研究なんてピンとこないもん。それにアタシはアタシの信念のためにするデュエルが好きなのよ。勉強のためじゃないわ」

 

雪乃「そう。残念ね」

 

神川「……信念のためにするデュエル、か。HERO girl。貴女は、何故デュエルをするの?」

 

美優は人懐っこい笑みを引っ込め真剣な顔で亜美をまっすぐに見据えた。

まるでデュエルの時のように。

 

祭乃木「うーん……そうね……。今はヒーロー部を認めさせるためよ。アタシね、デュエルって力だと思うの。何かを成し遂げたり、何かを守ったりする力。それが必要になった時、アタシは本気でデュエルをするわ」

 

神川「I got it。デュエルは力。そうね、ワタシもそう思うワ。そのためにデュエルをするという貴女の信条はとても素晴らしい」

 

祭乃木「……」

 

神川「けどね、HERO girl。貴女はこれから名が売れるでしょう。今でさえ、奇跡のチームと注目されている。この大会で勝ち上がれば、無名、というわけにはいかないワ。そうなった時、貴女のデュエルには責任が生じる」

 

祭乃木「責任? アタシが有名になることと何の関係があるのよ?」

 

雪乃「例えば、そうねぇ……。これなんてわかりやすいかしら?」

 

雪乃は自分の左腕を上げて見せる。

その腕には白い長手袋がつけられていて二の腕までを覆い隠している。

 

ゆき「ツンドラのみなさんが付けてる手袋、ですよね?」

 

雪乃「そう。この手袋、ノースリーブや半袖を着ててもデュエルディスクを肌に直接付けずに済むようにできているのよ」

 

ゆき「なるほどぉ! じゃあ服装を気にせずデュエルできるってことですね!」

 

雪乃「そういうこと。これはね、化粧品会社の姿勢堂とKCスキンケアのタイアップ商品なの」

 

祭乃木「姿勢堂ってあのレプティレス化粧水の会社?」

 

雪乃「ええ」

 

神川「姿勢堂はワタシたちのsponsorよ! これを付けて、華々しく勝つ! それがこの商品の宣伝になるの! ……ま、今回は負けちゃったけどね」

 

ゆき「スポンサー……! なんだか凄い話ですぅ……」

 

のけぞるようにゆきは背もたれにもたれかかった。

自分たちと同い年の高校生がもうそんな話をしているということに驚きを隠せなかった。

そしてそんなチームを下した奇跡についても感じ入る他なかった。

 

雪乃「でもそう遠い話ではないわよ。勝ち上がればそれだけ注目される。注目されればそれだけ宣伝になる。今に色々な企業から試供品が届くようになるでしょうね」

 

神川「sampleならまだしもいつかmoneyを出すという企業も出るかもしれないワ。そういういろんなシガラミを背負う可能性もある、ということよ。その覚悟は、できているかしら?」

 

ゆき「……!」

 

祭乃木「……」

 

美優のまっすぐな瞳が亜美の双眸を捉えた。

その顔は笑っている。

まれで挑戦するように。勝負を仕掛けるように。

亜美は腕を組んでその視線を受け止めていた。




今回も会話パートです。
ストーリーを進行させるために必要ですのでどうかご容赦ください。
試合開始まで今しばらくお待ちください!

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