遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
①今回の話には、アニメ遊戯王5D'sの重要設定に関する話が登場します。
アニメ本編や資料集、ネット資料等を確認していますが、設定が間違えていたり改変(本作の今後の展開のために都合よく解釈したもの)があります。
従って、アニメ設定に忠実ではないことを予めご了承ください。
②星界の三極神について
アニメの効果テキストになっていますので事実上のアニメオリジナルカードになります。
従って属性種族は神属性幻獣神族ですし、召喚条件や効果テキストもアニメのイラストに書かれていたものを独自解釈しています。
[ストックホルム デュエルアカデミアアークティック校 生徒寮]
アンデルセン記念館を後にして、ヒーロー部の5人はデュエルアカデミアアークティック校に戻ってきていた。
アークティック校はガラス張りの大きな吹き抜けと真新しく見える色とりどりの柱が並ぶ綺麗な校舎である。
しかし5人はそんな校舎を堪能することなく生徒寮に直行し、ここのせと良平に割り当てられた部屋に集まっていた。
ここのせは備え付けられた椅子に座り、背もたれに寄りかかる。
「何か妙ちきりんなことになったな……」
誰に言うでもないつぶやきではあったが、二つあるうちの奥側にあるベッドに腰掛けているゆきは同意するように深く頷いた。
「変なモンスターに、ルーンの瞳? それにイリアステル……まるで、ドラマや漫画みたいですぅ」
「頭を一旦整理しなくちゃな」
窓際のソファーに座っている良平は、昼にあった出来事を思い出すように顎に手を当てた。
中央に立つ亜美は腕を組んで中央のベッドにちょこんと座る恵を見下ろした。
「とりあえず、まずやることは決まってるわ」
「……」
「恵。……いままでごめん。ちゃんと話を聞いてあげられなかったわね。今更かもしれないけど、アンタのこと、教えて」
「……ん……」
恵は小さく頷くと真っ直ぐに亜美を見据えて口を開いた。
「……私はイリアステルによって作られたデュエルロイド。ーー破滅した未来からタイムドリフトしてきた……」
「……え?」
聞き慣れない言葉の中に、さらに日常からかけ離れた言葉が出てゆきは思わず聞き直した。
否、真なる意味で聞き直したのではない。
タイムドリフト、という意味自体は何となく察しがつく。
それよりも信じられないというのが正味なところだった。
ここのせは確認するように声を出す。
「つまり……お前は未来人……いや未来のロボットってことか……?」
その言葉にしっかりと頷く恵。
それから再び言葉を紡いでいく。
「……私の任務、それは破滅した未来から過去に飛び、歴史の改変を見届けること……」
「破滅した未来って……?」
良平が疑問を投げかけると予期していたかのように恵はすんなりと答えた。
「……正確に言えば、エネルギー機関モーメントが、人々の負の感情の影響を受けて暴走を起こした未来……」
「負の感情、ですかぁ?」
予想外に"感情"という言葉が出たことにゆきはまたも首を傾げた。
恵はさらに続ける。
「……そこでは、モーメントを加速させるシンクロ召喚によって世界が成り立っていた。シンクロ召喚によって生み出されるモーメントのエネルギーは、人類の発展を加速させた……」
亜美から視線を外し、恵はカーテンが掛かる窓を見た。
その視線の先には海があり、それを超えた先に極東の島国がある。
「……発展した世界では、人々は裕福になる一方、欲望もまた加速していった。その結果、人の感情によって性質が変化する遊星粒子をエネルギー源としていたモーメント内部に、バグが蓄積していった……」
遊星粒子、という言葉を聞いたのは化学基礎の授業以来だと亜美は思う。
世界中に蔓延するというエネルギーの源だ、と先生がざっくり説明していたことを思い出した。
それを動力にしていたエネルギー機関モーメント。
自分たちが生まれるずっと前に稼働していたという半永久機関だと聞いたことがある。
恵は視線を亜美に戻して続けた。
「……そして、そのバグが表面化し、モーメントは暴走した……」
「それで……どうなったの……?」
「……詳しいデータは、私が作られた頃には散逸していた。私が作られた時には、人類がほぼ絶滅していたから……」
絶滅、という言葉にその場の全員が息を呑んだ。
それだけで未来に良い結末がないことを感じざるを得ない。
「……有力な説としてデータに残っていることは、モーメント内部のバグの処理プログラムが、バグの原因を人類と認定し、原因を滅ぼすために世界中に対人類兵器を呼び出したのではないか、ということのみ……」
恵の言葉に良平は怪訝な顔で口を挟んだ。
「対人類兵器を呼び出す……。それはどうやって……?」
「……提示できるデータがない。ごめんなさい……」
「い、いや謝らなくていいよ! で、それで?」
「……そうして対人類兵器……通称、機皇帝によって人類は攻撃され続けた。人類は、それらに対抗すべく、あらゆる手を尽くした。その中で、次のことが判明した。機皇帝には通常兵器が通用しないこと。デュエルモンスターズの力でしか破壊できないこと。そして、彼らは召喚時、時空に干渉しながら現れるため、一時的に時空に歪みが生じること……」
「さっきの状況と全く一緒だ……」
「……人類は、機皇帝に対抗すべくデュエルモンスターズの力で機皇帝を破壊する対機皇帝インターフェース、デュエルロイドを作り上げた。私もその1体……」
当たり前のように恵は言った。
1"体"と。
それがゆきの胸をちくりと刺して口をつぐんでしまう。
代わりに良平はさらに浮かんだ疑問を口にした。
「……デュエルモンスターズの力を使うってことは、恵もさっきのヴァールさんのようにモンスターを実体化させて戦うことができるってこと?」
「……肯定する。私がいた未来では、モンスターを実体化させる技術が確立していた。だが、先程の彼らとは根本的なアプローチが異なる。具体的には、科学によって擬似的な運命力、擬似アタラクトエナジーを発生させることでモンスターを実体化させる……」
「……」
返ってきた言葉に良平は眉を顰めた。
同感だったようでここのせは申し訳なさそうに言う。
「正直、そこら辺はよくわかんねぇぜ……」
「とにかく」と亜美がまとめた。
「恵はあの化け物を倒せるかもしれないってことね。それで、時空震ってのは……?」
「……機皇帝が出現する際に観測される時空の歪みのこと。これは出現警報としての側面を持つ。そのためこれを量子力学の時空干渉を示す用語ーー時空震と呼称し、デュエルロイドにはその観測機能が標準装備された……」
それから恵はやや視線を下げた。
視線の先には何もない。
否、ただ彼女が見た光景が映し出されているのかもしれない
「……だが、デュエルモンスターズの力をもってしても機皇帝は撃退出来なかった。彼らにはシンクロモンスターに対しての強力なメタ効果を有していたため、人類に対抗手段はなくなった……」
「え?」と良平は思わず声を上げた。
「シンクロがダメならエクシーズとか使えばよかったんじゃないの?」
しかし恵は視線を変えないままゆるりと首を振る。
「……私のいた未来の世界に、シンクロ召喚と融合召喚、アドバンス召喚以外の召喚法は存在しなかった。そのうち、融合召喚及びアドバンス召喚は衰退し、全く見られなくなっていた……」
「え? どういうこと? この先の未来でエクシーズやリンク、融合が失われるってこと?」
亜美は机に置いた自分のデッキケースをちらと見て言った。
恵は再び首を振る。
「……否定する。私がいた未来と、今この時代は地続きではない。私がいた未来の世界はすでに剪定され、消え去った……」
「……消え去った……?」
ゆきはやや呆然として言葉を漏らす。
亜美も前のめりに言葉を返した。
「どういうこと?」
「……機皇帝への対抗手段がなくなり、人類は事実上滅亡した。生存した最後の人類、それが私のマスター。マスターは、手の施しようがなくなった未来の世界を変えるため、最後の人類として決断した。過去に戻り、歴史を改変することで破滅の未来を回避すると……」
恵は視線をあげて再び目の前の亜美に目を合わせた。
「……マスターは、3機の仲間と私を含め稼働していたデュエルロイド数機を連れてタイムドリフトを行い、今この世界線に降り立った。そして、自分たちを星護主ーーイリアステルと称して歴史改変を試みた……」
「歴史改変……」
ぞわりと背中が寒くなるような感覚をここのせは覚えた。
恵は話を止めずに口を開く。
「……しかし様々な手段を試みたが、歴史改変には至らなかった。そして、今から87年前、余命が幾ばくもなかったマスターはネオ童実野シティそのものを消し去ることで、モーメントやその根幹ーーデュエルモンスターズすらも消し去るという強行手段を選んだ……」
言葉をあえて切ってからそして恵は言う。
「……それこそがネオ童実野シティ大災害……」
「あれが……!」
良平は目を見開き声をあげた。
歴史の教科書に載っている出来事が日常に被さるような感覚に陥ってしまう。
「……しかし貴方たちが知っている通り、不動遊星率いるチーム5dsによって阻止された……」
「ああ、教科書にもそう書かれているぜ」
ここのせは腕を組んで頷いた。
恵はちらとここのせを見てから再び目線を亜美に向ける。
亜美はその視線をまっすぐに受け止めて恵の顔を見ていた。
「……マスターは成すすべを失った……。しかしマスターと不動遊星とのデュエルによって、不動遊星が前人未到のシンクロの境地ーーオーバートップクリアマインドを体得したその瞬間、破滅の未来は回避され、なかったことになかった……」
「つまり結果的に歴史の改変に成功した、と……」
「……肯定する。事実、エネルギー機関モーメントは解体され、新たなエネルギー機関フォーチュンが開発された。またそれに伴ってエクシーズ、リンク、ペンデュラムの召喚法が確立している。私のデータにそのような歴史的事象は存在しない……」
そこが。
そここそが歴史の転換点であったのだと恵は言う。
ゆきは半ば止まっていた息を長めに吐き出して言葉を搾り出す。
「……教科書に載ってたネオ童実野シティ大災害の裏でそんなことが……」
ここのせも圧倒されたように椅子に深く座り込んで声を出した。
「不動遊星が呼び出した最強のシンクロモンスター、シューティング・クェーサー・ドラゴン……。その時の映像は昔、博物館でみたことがあるけど……。歴史を変えるほどのモンスターだったのか……」
「……これによりイリアステルの目標は達成された。マスターが命を落とす際、全てのデュエルロイドに停止コードが配信された、と思われる……」
「思われる?」
ここのせが顔をあげて恵を見ると彼女は僅かに頷いて答えた。
その顔は相変わらず無表情である。
「……私はその時、マスター権限を一時的に委譲していたため、停止コードを受けなかった……」
「……」
「……こうして私はこの世界で唯一稼働しているデュエルロイドとなった。マスターを失った今、改変された未来が再び破滅の道に進まないように、時空震を観測し続ける……。それが私にできる唯一のこと……」
「だから時空震に過剰に反応してたのか……」
「……これが私の全て……」
ようやく恵は口を閉じた。
辺りは一瞬しんとした空気が流れた。
真贋はもはや確認するまでもない。
亜美は深くため息をついて恵に向き直る。
「未来を救うために……か。恵……アンタ、今までそんな気持ちでいたのね……。それなのに、アタシ、厨二病だなんて失礼なこと言ったわ……。ごめん!」
亜美はポニーテールを大きく揺らして頭を下げた。
良平とここのせも罰が悪そうな表情を浮かべて恵に向けて頭蓋を向けた。
「俺たちも言っちゃってたね……。ごめん……」
「ホント悪かった……」
恵はというとそれぞれの頭を見渡してから口を開く。
「……謝る必要はない。……祭乃木亜美。貴女は"気持ち"と言った。しかし、私を構成するデータファイルにそういったものはインストールされていなかった……。……おそらく私に"心"というものは存在しない……」
言い切ってから恵は視線を自身の足元に向けて心なしが一段と小さくなった声でこう付け足した。
「……アルス・ヴェインが言ったことは正しい……」
「え……?」
亜美は驚いたように頭を上げた。
恵はいつもと変わらない無表情ーーのはずなのにどこかさみしそうにみえる顔でさらに言う。
「……だから、気に、しないで……」
「そんなの……」
亜美は拳を握りしめて胸の奥から出る言葉を紡ぐ。
その声量に恵は顔をあげて首を傾げた。
「……?」
「そんなのできるわけないでしょ……!? アンタに心がないなんて、思えるわけないじゃない……!」
「……しかし私には持ち得ないものであるのは確か……。……私は所詮、作られた存在だから……」
「じゃあなんでそんな悲しそうなのよ……!」
「……」
亜美の指摘、恵は思わず口を閉じてしまう。
恵の表情は前髪が陰になっていて読み取れない。
そんな恵を見つめてゆきが声を上げた。
「恵さんは、私にたくさんアドバイスしてくれました! それに私の料理を美味しいって言ってくれました! それは心ではないのですか……?」
「……」
恵は答えない。
否、答えることができない。
さらにここのせが「恵」と彼女の名を呼ぶ。
「……?」
「お前が船で話してくれたこと。この未来が続いてほしいって、崩れないでほしいって。あれは嘘だったのか?」
「……嘘ではない。私は嘘をつくことはできない……」
「お前は言ったな。この瞬間が大切だって。それはお前のAIが出した答えなんだろ。じゃあ、そう答えを出した根拠はなんなんだよ?」
「……前にも言ったはず。その行動原理は解析不能だった……」
「もしかしたらさ」と今度は良平が言う。
諭すような声である。
「そういうのが心なのかもしれないよ。不確定で不安定で冷たくて暖かいよくわかんないものがさ」
「……わからない……」
恵は首を振る。
ーー声のトーンは変わらないが。
「……私には嘘をつく機能がない……。データ上存在しないものをあるとは言えない……。……私はそういう風にできている……」
ーーどこか必死に喋っているように見えた。
「……私の思考は。願いは。言葉は。全てプログラムに依るもの……。……心というデータファイルはどこにもインストールされていない……」
ーーその声は細く。
恵「……私はこの未来が続いてほしいと願う。崩れないように願う……」
ーーその表情は暗く。
恵「……あなた達と生きる未来が続いてほしい……」
ーー絞り出すように。
恵「……私は今この未来をずっと待っていたから……。……しかし、それもーー」
「ーーー!」
話終わる前に亜美はギュッと恵を抱きしめた。
亜美の甘酸っぱい柑橘類のような香りがふわりとして恵は抱きしめられたまま首を傾げた。
「……?」
「それもプログラムだって言うんでしょ。……関係ないわ。今、そう感じてるんなら。AIだろうがプログラムだろうが。それはもうアンタが持ってる心なのよ」
「……否定する……。……データ上存在しない……」
「バカ。アンタ、ホントに頑固なんだから」
「……頑固ではない……。……ただデュエルロイドというだけ……」
「わかったわ!」
パッと亜美は抱きしめていた恵を離し、肩を持って目を見る。
「……?」
「アンタの中に、解析できないデータか何かがあるんでしょ? よくわかんないこーどーげんり、だっけ?」
「……肯定する……」
「じゃあさ、そのデータファイルとかって奴を"心"って名前にすればいいわ! アンタが持ってないって言うならそれを、勝手にそう呼んじゃえばいいのよ!」
「……それは……」
言い淀む恵。
亜美は恵を真っ直ぐに見つめてさらに続けた。
「アタシも、良平も、ここのせも、ゆきも、そしてアンタも。誰も自分の心なんてちゃんとわかってないのよ。よくわかんない何かを勝手にそう呼んでんの。だからアンタもアタシ達も一緒よ! ね? いい考えでしょ?」
恵はチラッと目線を外し、ここのせの方を見た。
良平はそんな恵と亜美を見据えて苦笑いする。
「強引だなぁ……」
「あはは! でも祭乃木さんらしいですぅ」
ゆきも良い考えだと言わんばかりに笑って頷いた。
恵の視線を受けたここのせも笑って答える。
「ま、オレとしちゃ、あんまり気に入ってねぇ自分の名前が連呼されてるみてぇで落ち着かねぇけどな。……でもいいじゃねぇか。心を搭載したロボットなんて最新のモードだぜ!」
「……貴方の言うことはよくわからない……。……あと私はロボットではなくデュエルロイド……」
目を細くして恵らジトッとした目線を送る。
「なんでぇ、似たようなもんだろうに……」
「……一緒にしないでほしい……」
それから恵は目を瞑る。
そして自身の中にある幾千幾億ものデータファイルを探り、自分でも解析不能なそれを見つけた。
「……不明な拡張子を暫定定義。ファイル名を《心》として保存……。……保存完了……」
恵は目を開ける。
目の前の視界は相変わらず変わらない。
恵の表情は相変わらずであった。
ここのせは首を傾げて言う。
「これで心を得たってことでいいの、か?」
「……データ上は……」
亜美は恵の顔を見て拍子抜けしたような声を出した。
「見た目は……変わらないわね……」
「うーん……」
良平も恵をつま先から頭まで見回す。
すると恵は良平に向いてわざとらしく両腕を胸に寄せて隠すようにして言った。
「……エッチ……」
「え!?」
無表情で平坦な声だが意想外な言葉に良平は目を見開いた。
「日和田さん? 女の子をジロジロ見るのはご法度ですよ?」
「良平サイテー」
ゆきと亜美もからかうように声をあげたのを見て良平はタジタジとしながら言葉を漏らす。
「えぇ何これ……」
「ま、冗談はさておき!」と亜美は腕を組んで他のメンバーを見回す。
「恵のことはよくわかったわ。正直、スケールがデカすぎるけど、それは一旦飲み込むわ。あとは、さっきの化け物についてね」
良平は咳払いしてから表情を固くし顎に手を当てる。
「……恵の話通りなら、さっきの化け物ーー機皇帝だっけ。あれは本当に危険な存在だってことだな」
「それも、人類を滅ぼしちまうほどの、か」
ここのせが補足する。
昼間に遭遇した機械のような化け物。
恐怖心を絵に描いたような無機質で不気味なそれを全員が思い出す。
恵が口を開いた。
「……しかし、不可解な点がある。先程現れたモンスターは、出現時の様子は似ているが、形状が異なる……」
「え、そうなの? じゃああれは恵の知っているモンスターじゃないのか……?」
良平は恵に顔を向け質問すると恵は頷いた。
「……少なくとも私がこれまで確認した機皇帝のどれにも該当しなかった……」
「うーん……」と亜美は唸り右手を額に置いた、
「アタシ達だけじゃ、真相には辿り着けなさそうね。となると、やっぱりチームラグナロクからちゃんと話を聞かないといけないわ」
「あの、すごく今更な話だけど」
今度は亜美に視線を向けて良平が声を出した。
「何よ?」
「これって俺たちが首を突っ込んでいい問題なのかな。俺たちは、所詮は普通の高校生なんだぞ」
「あんなモンスターと戦うなんて危ない気がしますぅ……」
ゆきも俯いて身体を抱きしめるように柔らかい胸をかき抱いた。
亜美は左手を腰に当てて恵に向く。
「それはそうだけど……。けど、知っちゃった以上、見て見ぬフリはできないわ。それに、恵はあの化け物が現れたら、戦うんでしょ?」
「……ん……」
「だったら、やっぱり放ってはおけないわ。できることは少ないかもしれないけど、手伝うことはできるはずよ!」
「ま、祭乃木だったらそう言うだろうな」
亜美の答えにここのせは頷いた。
ひとまずはこの問題について知らぬが仏を貫くよりも、ある程度知識をつけておいた方が万事に良いだろうというのは明らかだった。
亜美は全員を見渡して拳を握った。
「そのためには、まずチームラグナロクを倒すわよ! それで、きっちり話を聞かせてもらいましょ! もちろん、憂さ晴らしもあるけどね!」
方針にについては誰も異を唱える者はいなかった。
一方でゆきが昼間に遭遇した出来事を反芻しながら声を出す。
「しかし、お相手の方には何か特別な力を持っているみたいですし、簡単には行かなそうですね……」
「一番気になるのは、ヴァールって人が持ってたあのモンスターだな……。オーディンって言ってたし、極神聖帝オーディンってことだと思うけど……」
良平が虚空を見るように宙に視線を投げる。
何があるわけでもなくただ自分の記憶を追っているだけだ。
「知ってるの?」
亜美が聞くと良平は首を振る。
「カード名鑑に名前は乗ってたよ。ただ、外見も効果テキストも載ってなかったと思う」
「そりゃまぁ、神秘に包まれた神のカードだからな……」
椅子に深くもたれかかりここのせは両手を頭の後ろにあてた。
すると恵が亜美を見据えて言う。
「……星界の三極神の効果テキストならば、私の中にデータがある……」
「まじで!?」
「……まじ……。……出力する……?」
「できんの?」
「……デバイスがあれば……」
「デバイスって……スマホしかないわよ?」
スカートのポケットから亜美は自身のスマホを取り出した。
赤色のカバーにはうっすらと融合のイラストが描かれている。
恵はそれに手を翳した。
「……それで十分……」
「あっ!」
スマホがブブッと振動しデータを受信した。
ファイルを開くとテキストが表示された。
恵以外の4人が画面を覗き込む。
《極神皇トール / Thor, Lord of the Aesir》
神属性
星10
幻神獣族
シンクロモンスター
攻3500/守2800
(原作効果)
チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
1ターンに一度、相手フィールド上のモンスター1体の効果を無効にすることができる。
その後、無効にした効果をエンドフェイズ時まで使用することができる。
このカードが破壊された場合、エンドフェイズに墓地から特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚された時、相手に800ポイントのダメージを与える。
《極神皇ロキ / Loki, Lord of the Aesir》
神属性
星10
幻神獣族
シンクロモンスター
攻3300/守3000
(原作効果)
チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードが攻撃を行う時、相手の魔法・罠ゾーンに存在するカード1枚の発動と効果を無効にし破壊することができる。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、エンドフェイズ時に墓地から自分フィールド上に特殊召喚することができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する罠カード1枚を選択して手札に加えることができる。
《極神聖帝オーディン / Odin, Father of the Aesir》
神属性
星10
幻神獣族
シンクロモンスター
攻4000/守3500
(原作効果)
チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、幻神獣族モンスターへの魔法・罠カードの効果を無効にする事ができる。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、エンドフェイズ時に墓地から自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
カードテキストをある程度読んだ後、ゆきはゆるりと首を振った小さく声を出した。
「これがあの人たちの切り札のカードですか……。神属性、幻獣神族……見たことありません……」
「……星界の三極神は、破壊され墓地に送られた場合、そのエンドフェイズ時に墓地から特殊召喚できる共通効果を持つ……」
恵が補足するように付け足すとここのせは感じ入るように腕を組む。
「なるほどなぁ、神は不死身ってわけか」
「ただ、オーディン以外は効果耐性があるわけじゃないみたいだ。破壊せずに墓地に送ったり、除外したりすればなんとかなるね」
良平がテキストから目を離さずにさらりと言うので亜美は肩をすくめた。
「それが簡単にできればいいけどね」
「除外となれば、オレのエンプラ、恵のドーハスーラ、良平のコルトウィングあたりになるか」
ここのせはそれぞれのデッキに入っているカードを思い浮かべてそう言ったが良平は渋い顔を浮かべた。
「そうだけど……」
「何か気になることがありますか?」
良平の様子に小首を傾げるゆき。
顔をあげて良平は答えた。
「いや、あんまり三極神の対策ばかり考えない方がいい気がしててさ……」
「というと?」
「オーディンはともかくとして、トールとロキ。この二体は、強力なカードではあるけど、このカードだけを主軸としてデッキを組むのは難しい気がするんだ」
言ってから良平は再び亜美のスマホに目を落とす。
「トールもロキも、自分のターンだったら強気に立ち回れるけど、相手ターンには何もできない。最低でも3枚カードを使わないと出せないこのモンスターをさらにバックアップするとなると、かなり構築がピーキーになるはずだよ」
「つまり事故率が高ぇってことか?」
ここのせが言うと良平は頷く。
「素で組むなら、ね」
「ルーンの瞳とやらの力でなんとかしてるんじゃねぇか?」
「まぁそうかもしれないけど……。俺は、なんとなく、根本的にこのカードを主軸にしてないんじゃないかって気がするんだ」
良平の言葉にゆきは大きな目をさらに大きくして声を上げる。
「ええ!? じゃあ、この神様たちは切り札じゃないってことですかぁ!?」
「いや、それはわからないけど、あの人たちはルーンの瞳に目覚めたのは最近って言ってただろ。けど、WSCには予選も勝ち抜いて1回戦も突破してる。つまり、元々強いデュエリストだったんじゃないかって思うんだ。もしそうなら、自前のデッキに極神のカードを刺しているはず」
良平の推理にここのせもスマホに目を向けて頷いた、
「なるほどな。ルーンの瞳に目覚めたからデュエルモンスターズを始めたわけじゃねぇってことだな。トールもロキも汎用シンクロだし、ありえない話じゃないぜ」
効果テキストに記載されている召喚条件に特殊な縛りは見当たらない。
亜美は腕を組みながら口を開いた。
「もしそうなら、第二第三……いや真の切り札がいるかもしれないわね。……恵、どう思う?」
恵に向くと、彼女は亜美の目を真っ直ぐに見て言い放つ。
「……そのことに関して、編成などを含め私から提言がある……」
「聞かせてちょうだい!」
恵の力強い言葉に亜美は口角を上げて答えた。
そんな亜美の言葉に恵は頷き、そして言葉を紡いでいく。
見慣れぬ部屋で居慣れぬ街の夜が更けていった。
次回、後編からデュエルスタートです!!
デュエル無し回が続いて申し訳ございませんでした。
▪️三極神の効果テキストに関して
OCGとほぼ違うカードでかつ根拠となるのがアニメと遊戯王Wikiに関する記載のみです。
裁定等は完全に想像となりますのでご了承ください。
小説形式について 地の文やテキスト量
-
読みやすい(テキスト量が妥当)
-
前の方が読みやすい
-
地の文が長い
-
誰が喋っているかわかりにくい