遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~   作:レトやま

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このパートは2020年6月22日に執筆しています。
従いましてカードプール及び禁止制限は当時のものを引用しています。


第2話 「スクランブル発進 飛び立て幻獣機」前編

 

 

胎動する。

神星樹が胎動する。

世界の中心が胎動する。

星と星の狭間にて、その根が力を分け与える。

星と星の狭間にて、異形のものが目を覚ます。

 

「システムをレプリカモードで起動する準備をしています...。

C:¥sophia¥sefiroth.exe 実行中にエラーが発生しました。

次の不明な発行元からのプログラムを実行しようとしています。」

 

機械的な平坦で作り出された音が響く。

生物らしい部位が少しも見当たらない筐体で無機質な半円状の其れが疼く。

其れは、己が発した言葉の意味を理解しない。

 

「C:¥tierra¥qliphoth.exe の実行を許可しますか? ...[Y]

システムを自律モードで起動します。」

 

ただ其れは定めに従い目を覚ます。

仕掛けられた命令に従い動き出す。

 

動き始めた其れが一斉に攻撃態勢に移った。

狙いにするのはその対面に浮かぶもの。

能面のような白い顔にシスターのような紫色の洋装。

背中から無数の光の糸を靡かせる異形のモンスターである。

 

「$÷77○(6……」

 

そのモンスターも錆びた鉄が擦れるような声を漏らす。

やがて異形同士がぶつかり合う。

時空が揺れる。

時空が揺れる。

時空が揺れる。

 

 

 

 

寝る前決闘空間

第二話 「スクランブル発進 飛び立て幻獣機」

 

 

 

ネオ童実野シティの中央広場には大きな噴水のモニュメントがある。

その一角を陣取っているコーヒーショップは一杯三千円の高級コーヒーを出していることで有名だった。

さらにその対面の建物には、大きな半地下のガレージがあって、そこに連日観光客が訪問している。

なんでもかつてこの街を救ったという英雄が過ごしていた建物だというので、ネオ童実野シティについて掲載している観光雑誌には必ずこの場所が記載されているそうだ。

周囲を見渡す赤い時計は3時半を指している。

そんな中央広場から南に二キロ程度の位置にある童実野二高は、今まさに放課後であり、その校庭では運動部が準備運動に勤しんでいた。

校内も校庭に比べると閑散としてはいるものの、一部の文化部が徐々に活動を開始していく。

そんな童実野二高の三階。

不法占拠している地学準備室の中で、ヒーロー部は机にカードを大量に出してはそれらを吟味していた。

栗色の髪を忙しく揺らしながらゆきはそのカードを両手に持つ。

そして「祭乃木さぁん!」と情けない声を上げた。

亜美は顔は動かさず、カードを見つめながら返事をする。

 

「んー?」

 

「デッキって組むの難しいですぅ〜!」

 

ゆきは、ひーんと弱音を上げながらカードに埋もれている。

 

何故そんなことになっているのか。

端を発したのは意外にもゆき本人で、彼女が自分のデッキを作ってみたいと言い出したのがきっかけだった。

 

現代社会において、ただデッキを持つだけなら誰にでもできる。

というよりかは、特にこだわりがなければデッキは誰でも持っているはずだ。

ここで言う誰でもというのは、初等教育と中等教育を受けた者という意味である。

 

教育指導要領には、初等教育でスターターデッキ、中等教育でも構築済デッキの配布が定められている。

デュエルモンスターズが重要なコミュニケーションツールとして普及しており、年間百時間程度の授業時間がとられる必須科目だからだ。

 

だが誰もが持っているそれを『自分のデッキ』とするのは、デュエルに興じることがない人間の象徴だ。

これから踏み込んでデュエルするのならば今一歩物足りないと言わざるを得なかった。

だからゆきは『自分のデッキ』を新しく作ろうと思い立ったのである。

 

亜美は、カードを置くとソファの背もたれに寄り掛かる。

 

「うーん、そうねぇ。やっぱカードが少ないから組めるものがないって感じよね。ゆきの唯一のレアカードもM・HEROとかいう全然見たことないカードだし、それ使うとなると……」

 

右の人差し指で口元にトントンと叩く亜美。

彼女の言葉を引き継ぐように良平がカードを束にしながら言った。

 

「自然とメタビ寄りになるよね」

 

「めたび?」と聞きなれない言葉にゆきは小首を傾げた。

 

「なんですかそれ?」

 

「あぁ、メタビートの略だよ。メタっていうのは対策って意味で、ビートは叩くってこと。つまりよく使われる戦法を対策しながらモンスターで攻撃していくデッキのことだね」

 

「なるほどぉ。他にはどんなデッキがあるんですか?」

 

「うーん、一口には言えないけど……。祭乃木のデッキみたいに一つのテーマに絞ったテーマデッキが一番主流だね。他には種族や属性で統一するデッキもあるし、直接ダメージを与えるバーンデッキなんかも有名かな」

 

「ひゃー、たくさん種類があるんですねぇ。難しそうです……」

 

ゆきはカードを持ったまま目の前にある無数のカードに目を白黒とさせる。

その様子に良平は懐かしい気分になって柔らかく笑みを浮かべた。

 

そんな話をしていると、入り口のドアががらりと開いた。

その方向に顔を向けると横幅40センチ程の段ボールを抱えたここのせが立っていた。

良平が気を利かせて机の上に広がったカードを端に寄せる。

その空いた場所にここのせは段ボールを置いた。

 

「持ってきたぜ、カードのストック」

 

「わぁ、たくさんありますぅ!ありがとうございます!」

 

箱の中を覗き込んだゆきは、その膨大な量に驚いた。

亜美はその段ボールを懐かしそうに見つめながらここのせに向けて言う。

 

「アンタ、カード自体はたくさん持ってるもんね」

 

「こんなにたくさんカードを買ったりしたんですかぁ?」

 

ゆきが箱から顔を上げてここのせを見つめた。

するとここのせは、ゆるりと首を振る。

 

「いいや、半分以上は祭乃木と良平からの貰いもんだ。使えるカードのほとんどは、それとスターターのあまりとビギナーズパックのあまりくれぇだな。一応、オレが買ったもんも入っちゃいるが……あんま期待しない方がいいぜ」

 

そう言って自嘲するここのせ。

期待しない方がいい、という意味がよくわかっていないゆきは不思議そうな顔をしている。

補足するように良平が口を開けた。

 

「あー……その、なんだ。ここのせがカードパックを買うとね、使いこなしたりデッキに採用したりするのがすごく難しいカードばかり手に入るんだよ」

 

「余計なことは言わんでいい」

 

ここのせがジトっと良平を見ると、良平はあははと苦笑いして後ろ頭を掻いた。

それからここのせは、いくつかの塊を箱から取り出すとゆきの前に置いた。

 

「ビギナーズシリーズの余りがこの辺だから、まずはこの辺りを使うのがいいんじゃねぇか?」

 

何枚かのカードをその中から選び出してゆきに手渡す。

亜美はそれを横から除き込んだ。

 

「強脱、激流、蘇生、サンダーボルト……。うんそうね、最初はこの辺を入れて固めるのが妥当よね」

 

「えーっと」とゆきはゆっくりとテキストを読み上げた。

 

「激流葬、モンスターが召喚された時に発動できる、フィールドのモンスターを全て破壊する……? えー! なんだがすごく強そうなカードですぅ! 本当にもらちゃっていいんですかぁ?」

 

きらきらと目を輝かせるゆきに、ここのせはバツが悪そうに目をそらした。

 

「まぁ、強力なカードではあるんだけどよ……」

 

うんうんと同意するように良平も頷く。

 

「デッキを突き詰めていくと、なぜか抜けていくカードたちなんだよね」

 

「そうなんですかぁ。デュエルモンスターズは奥深いです……」

 

またゆきは視線をカードに移した。

ゆきもまた初等教育と中等教育を経てこの童実野二高に入学している。

従って、最低限のルールくらいは知っていた。

1ターンに1度だけモンスターを召喚できて、上級のモンスターはさらにモンスターをリリースする必要があって……。

そのあたりのことを考えると、モンスターを全て破壊するという効果はとても強力なように見える。

しかし、それよりも優先すべきカードがあるというのが、二人の見解だった。

ゆきは思わずむむむと唸った。

そんなゆきの肩を亜美は軽くたたく。

 

「ま、そこら辺は慣れよ、慣れ。……でも土台だけじゃ話にならないわね。ここのせ、主力になりそうなカードはないの?」

 

「どうだろうな……。オレのデッキが相当継ぎ接ぎだからよ、使えそうな主力モンスターは大体オレのデッキに入ってるんだよな」

 

「ま、そうよねぇ。じゃあ、やっぱり、やるしかないわね! カード集め!」

 

亜美は待ってましたと言わんばかりに提案する。

それに対してゆきは、うーんと声を漏らした。

 

「カードショップにいくんですかぁ? 実はお小遣いがもうほとんどなくて……」

 

高額パックを3つも買ってるゆきは、そのスクールバッグ内にある財布の薄さを思い出して乾いた笑いを漏らした。

 

「大丈夫よ! アタシたちが……」

 

奢ってあげる、と言おうとして亜美は自分の財布を開ける。

中に入っていたのは数枚の硬貨だけで、かき集めてもソーダ味の氷菓がなんとか買える程しかなかった。

「うっ」と小さく呻くと亜美は良平をちらりと見た。

 

「……いや俺も」

 

良平も自分の長財布を開いて見せる。

中には最も安い紙幣すら1枚も入っていない。

最後の頼みと言わんばかりにここのせに視線を移す。

すると、ここのせはポケットをごそごそと探り、そこから1枚の硬貨を取り出した。

たった1枚だけの最高額の硬貨である。

亜美はがくりと肩を落としてしまった。

それを見てゆきは亜美が何を言おうとしていたかを察して慌てて手を振った。

 

「みなさんに払ってもらうなんてできません! 来月にはまたお小遣いもらえるので大丈夫ですよ!!」

 

良平はその様子に急ぎではないと判断してカードの束を箱に戻す。

 

「今日は無理そうだから、解散かな?」

 

ここのせも同意とばかりに腰を上げた。

しかし亜美はまだ諦めていないようで、帰る準備をしようとしている良平とここのせに向けて「ステイステイ!」と言い放った。

二人が振り向くと亜美は口角を上げて腕を組む。

 

「まだあれがあるじゃない!」

 

「アレ?」とゆきがまたも首をかしげた。

良平はそれを聞いて少し顔を顰める。

 

「えー……あれやんの……?」

 

満面の笑みで亜美がうなずく。

それを横目にゆきはここのせに向いた。

 

「あれ、とは?」

 

「カード拾いだ」

 

ここのせは、指で外を差す。

窓の外はすこぶる快晴で、鳥がのんきに鳴いていた。

 

 

[童実野シティ 旧サテライト区間]

 

 

ネオ童実野シティは、日本の中でも非常に独特な歴史を持つ街である。

デュエルの聖地であるという点だけではない。

90年程前に起こった『ゼロ・リバース』という事故がこの街を変えたと教科書には書いてある。

大規模な爆発事故で、多くの犠牲者を出したこの事故によって街は分断された。

被害が無かった場所は発展を続け、上流層が住む区画になった一方、

大損害を受けた区域を中心に長期に亘って復興ができず区画一帯がスラム街になってしまったという。

災害孤児も大量にあふれ、治安も大幅に悪化したと記録されている。

そのような区域はかつてサテライトと呼ばれており、その土地の出身者は鼻つまみ者にされていた。

現在では復興が完了し、区画間の貧富の差や治安もある程度は改善されているのだが、その名残からか旧サテライトエリアには廃墟やゴミ溜めが非常に多い。

ついでに治安もよくはなく、とりわけ海に掛けられたネオダイダロスブリッジという橋の向こう側のエリアは普段はあまり立ち居らない区域だった。

その橋を渡ったすぐ下にゴミ廃棄場がある。

粗大ごみがそこかしこに打ち捨てられていて、よく見るとまだ使えそうな家電なども紛れ込んでいた。

そしてそのゴミたちに紛れてゴミ以外のものが落ちている。

 

それらを前に上下青のジャージ姿の亜美は腕を組んだ。

その後ろに立つ良平とここのせとゆきも全員同じジャージを身にまとっていた。

童実野二高と書かれており、この学年の学年カラーである青で統一されている。

ゆきは、初めて立ち入るその場所に圧倒されたようで辺りを見渡しながら「はぇ~」と声を漏らした。

そんなゆきを尻目に亜美は楽しそうに宣言する。

 

「さぁガンガン拾うわよ!」

 

「あ、あの質問いいですかぁ?」

 

ゆきはゆるりと手を上げる。

間髪入れず指を差した。

 

「はい、ゆき、どうぞ」

 

「カードってそんなに落ちてるものなんですかぁ?」

 

「めちゃめちゃ落ちてるわよ!大体、使うのが難しいカードばっかだけど、たまにすごい掘り出しものがあるのよ!」

 

何故か亜美は両手を腰に当てて胸を張った。

地面に落ちているカードここのせが拾い上げてそれをゆきに向ける。

素材が何でできているか不明だが、不思議と使える程度の汚れで破れなどは見られない。

 

「ショップのストレージはかなり徹底的に管理されてっからな。掘り出しもののレアカードはぜってぇ手に入らねぇ。けど、ここなら万に一つでもレアカードが手に入る可能性があるってわけだ」

 

「ホントに万……いや億が一って感じだけどね」

 

苦笑いしながら良平は肩をすくめた。

そんな彼の肩を亜美はどんと叩く。

 

「大丈夫よ! 前にここのせがここで星遺物カードを拾ったじゃない! 今回も見つかるわ!」

 

ここのせは、頭を掻きながら「正確にはオレじゃねぇけどな」とつぶやいた。

意識的に見渡すと、足元だけでなく粗大ごみの隙間にもカードが落ちているのが見えた。

 

「そういうことなら! 不肖、間宮ゆき、拾います!」

 

びしっと敬礼するゆき。

「お、陸軍式か」とここのせは言うがゆきは、ただ小首を傾げるだけだった。

それを気にも留めず良平が空の段ボールを地面に置いた。

 

「拾ったカードはこの箱の中にいれてくれ。俺とここのせはあっちを探すから祭乃木と間宮は向こうを……」

 

言いかけたその刹那だった。

すわと町中の鳥が一斉に鳴き止む。

それがトリガーだったように地面がどんと蹴り上げられたような衝撃が走った。

 

「おっ……」

 

「ひゃあ!?」

 

ぐらぐらっと地面が揺れて、4人は思わず背を低くする。

 

 

[どこかのマンション]

 

その揺れは街全体に波及し多くの高層ビルを震わせた。

同じ街の高層マンションの内部では、その暗く何もない部屋でたった一人。

冷たい床に横たわる少女が伏せていた目を開いた。

 

「…………」

 

 

[ネオ童実野シティ 旧サテライト区間]

 

 

地面が軋むような音が少しずつ小さくなっていく。

それに伴って揺れも徐々に収まっていき、その場にいた4人は辺りを見渡した。

特に変わったことはなく、ここのせは一息つくと誰に言うでもなくつぶやく。

 

「……地震か」

一方の良平は、少し怯えたように言った。

 

「海近いし、津波とかくるかな……」

 

「大袈裟よ! ただの地震でしょ!」

 

良平の不吉な言葉に亜美は腕を組む。

しかし、念のためと良平はスマートフォンを取り出して画面を叩く。

どうやら津波の心配はないらしい。

 

「で、でも結構大きな地震でしたね……」

 

ゆきも目を丸くして立ち尽くしている。

辺りは粗大ゴミが積み上げられていて、特に固定されているわけではない。

良平はそれらを見て、顔を顰めた。

 

「あ、あの辺のゴミの山、崩れたりしないよな……?」

 

「大丈夫でしょ!はい、気をとりなおして拾いに行くわよ」

 

そんな弱気な良平を鼓舞するように亜美は手を叩いた。

こうなったらもう止められないと知っている良平は、ちらりとここのせを見る。

彼はというと特に気にした様子もなく、ゴミの山に分け入ろうとしていた。その様子に良平は思わず肩を落とした。

その刹那だった。

「あ!」とゆきが遠くの地面を指差さす。

そこには、1枚のカードが裏向きで落ちていた。

 

「早速カードみつけました!」

 

小走りで走っていき、そこにしゃがむ。

手を伸ばしかけたところで、上から物音がした。

 

「間宮! 気をつけろ!」

 

とここのせの叫び声が聞こえる。

「へ……?」と間の抜けた声をあげてゆきは手を引っ込めた。

ちょうどそこを掠めるように人影が着地する。

粉塵を巻き上げ、どしんと地面が響いた。

 

「わっ!? ひ、人が!?」

 

予想外のことに思わず尻餅をつく。

するとその人影はカードを拾い上げ、こちらを見ずに言い放つ。

 

「……喚いているといい女になれないわよ」

 

「ゆき!」

 

咄嗟に亜美が飛び出して、ゆきの身体を抑えた。

なんとか立ち上がったゆきは眉を八の字にして臀部を摩っている。

人影はカードを視認すると、はぁとため息をついた。

 

「……これも違う……」

 

それから、ゆきの方を向いてカードを差し出した。

 

「すまなかったわね。これ、あげるわ」

 

《増援》

通常魔法カード

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

「……見つからない……。全く面倒だわ」

 

「あ、あのぉ、何かお探しですかぁ?」

 

「……貴女、非処女ね」

 

「ひしょ……!!? あぅぅ…!」

 

「経験豊富なのね、信頼できるわ。……あっちの童貞処女とは違うわね」

 

その人影をよく見ると、灰色のボロ布を頭から被っているものの背丈はそれほど高くはなくゆきより高く亜美よりも少し低い程度である。

声と身体つきからすぐに女性とわかり、布の切間から見える顔は少女のそれだった。

服は布に隠れてよく見えないが、首元からちらりと見えたのは青と白の薄手の生地である。

そのあまりの発言に亜美はゆきの前に立ち、眉を吊り上げた。

 

「ちょっとアンタ! 急に現れてなんなのよ! ゆきにセクハラしないでくれる!?」

 

「事実を述べただけよ、チェリーガールさん」

 

飄々と返す女。

その目は、黒ずんでいて少しも光を灯していない。

ここのせはそっと良平に話しかけた。

 

「なんなんだ、こいつ……。旅人みたいな格好してるけど」

 

「夏が近いから、変人も湧くよね」

 

「失敬ね」と耳聡く女はこちらを見据えた。

それから肩をすくめて目を伏せる。

 

「ま、童貞に何を言われても……という感じなのだけれど」

 

「価値観ぜんぶそれなのか……」

 

呆れたように良平は呟いた。

しかし彼女はそんな軽口を叩きながらも周囲を気にしている。

それはまるで失せ物を探しているような仕草だ。

ゆきはそんな彼女に声をかけた。

 

「…えっと、あの、何か探してるなら手伝いますよ?」

 

「いいやつだな、間宮は」とここのせはつぶやく。

散々セクハラ発言をされたというのにゆきは嫌な顔せずに女に顔をむけている。

彼女は、その様子に参ったと肩をすくめ、それから腕を組み直した。

 

「……意固地になってる場合ではないわね……。有り難く好意を受け取るわ。貴方たちも手伝ってくれるのかしら?」

 

女が亜美と良平とここのせを見渡す。

その様子に亜美は両手を腰に当てて応対した。

 

「……ちょっと釈然としないんだけど……、でもヒーローの善意に貴賎なし! いいわ、アタシたちも手伝ったげる!」

 

「そう」

 

ニコリともせず女は答えた。

「それで」とゆきが切り出す。

 

「何を探せばいいんですかぁ?」

 

「カードよ。カードを探してほしいのよ」

 

あっけらかんと言う女にここのせは腕を組んで聞き直した。

 

「カードつってもな、何でもいいわけじゃねぇんだろ?」

 

「そうね。探して欲しいのは、これよ」

 

ボロ布から右手を出す。

その人差し指と中指にはカードが挟まれていた。

 

《シャドール・ファルコン》

効果モンスター

闇 魔法使い族 星2 チューナー

 

「しゃ、どーる? 」

 

やや腰を折り、前のめりになりながらゆきが読み上げる。

女はコクリと頷いた。

 

「そう。これは鴉のカード。他には、竜、鼠、狗、蛇、獣があるわ。これらを探してほしいのよ」

 

「へぇ」と亜美もカードを眺めながら声を出した。

 

「シャドールだって。見たことないカードだわ」

 

「そんなレアカード、本当にここにあんのか?」

 

右手を腰に当てて斜に構えるここのせ。

しかし臆することなく女は「あるわ」と即答した。

そんな態度に良平は首を傾げる。

 

「なんでわかるの?」

 

「何故……ね。強いて言えば……そうね、元々私のカードだから、と言えばいいかしらね」

 

「えぇ!?」とゆきが声を上げた。

 

「自分のカードなんですかぁ!? じゃあ、なんとしても見つけないとですね! みなさん、絶対見つけましょう!!」

 

両手を胸の前で握り、むんと気合いを入れる。

同調するように亜美も頷いた。

 

「そうね! じゃあ、みんな! 行くわよ!」

 

全員を見回してから亜美は拳を突き上げた。

ゆきは「おー」と真似している。

そんな様子にここのせは思わず補足した。

 

「ついでに、いいカードあったら拾っとけよ」

 

 

[1時間後]

 

巨大な錆だらけの廃バスがある区画で、ゆきはカードを上に持ち上げた。

 

「あぁ!! ありましたぁ! しゃどーる? どらごん? ゲットです!」

 

《シャドール・ドラゴン》

効果モンスター

闇 魔法使い族 星4

 

「ナイス、ゆま!」

 

[さらに30分後]

 

「あの冷蔵庫と車の廃材の隙間のカードはどうだ?」

 

ここのせは、しゃがみ込みながら奥の方を指差す。

良平とここのせは数秒お互い顔を見て、同じタイミングで手を突き出した。

良平はパー、ここのせはチョキ。

「にしし」と勝ち誇るここのせに良平は「うわっ」と自分の手を見て声を漏らす。

仕方なく膝をつき、その隙間に手を伸ばした。

 

「……うぐぐ……、お、届いた……!」

 

《誤作動(マルファンクション)》

通常罠

 

「……」

 

「ハズレだな」

 

検討虚しく良平は推し黙る。

カードを覗き込んだここのせは良平の肩を叩いた。

 

[さらに30分後]

 

「……! これは……」

 

女は、ゴミ山の影になっていた地面に落ちているカードを拾い上げる。

 

《シャドール・ハウンド》

効果モンスター

闇 魔法使い族 星4

 

「これで、あと3枚……」

 

[1時間後]

 

「祭乃木」と今度は良平が上を指差した。

ゴミ山の端に境界線のように聳える木々のうちの一つだった。

 

「あの木の上の方にカード引っかかってない?」

 

「よし! 任せなさい! オラッ!」

 

雄々しい掛け声と共に亜美は回し蹴りをその木の幹に叩き込む。

ザワザワと木が揺れる。

 

「暴力的すぎるだろ!」

 

予想外の行動に良平は思わず声を荒げた。

しかし、その甲斐あってか引っかかっていたカードがひらりと落ちてきて表側に地面に落ちる。

 

《シャドール・ヘッジホッグ》

闇 魔法使い族 星3

 

「よっしゃ! ビンゴ!」

 

亜美はカードのテキストを見てガッツポーズを決めた。

しかし、落ちてきたのはそれだけではなかった。

ぼとりとかなり質量を感じさせる音がする。

見ると茶色の球体が地面に落ちて、パックリと割れていた。

そこから緊急発進するように数匹の蜂が飛び出してきた。

そしてひときわ大きなそれが這い出てきて、こちらを睨むように羽を動かしている。

 

「……やばくね?」

 

汗を大量に流す良平。

 

「に、逃げるわよ!!」

 

二人は一目散に駆け出す。

まだ成長しきっていないそれらが、それでも怒り狂って追ってくる。

二人は悲鳴を上げながら走り回っていた。

 

[20分後]

 

瓦礫の上にここのせはゆっくりとよじ登っていた。

下からカードの端が見え隠れしているのに気づいたからだ。

「……怖っ」

下までの距離は3メートルほどで自分の身長も合わせるとかなりの高さに見える。

「おっ!」

しかし骨折り損にはならず、そのカードは目当てのものだった。

 

《シャドール・ビースト》

効果モンスター

闇 魔法使い族 星5

 

「おしっ! 見つけた!」

 

カードを拾い上げて声を張る。

その瞬間、足元の瓦礫の一部ががらりと音を立てた。

 

「……ん?」

 

その不吉な音を聞いてから下を見るも、視認できぬままその瓦礫の雪崩に足を取られた。

 

「うぉっ!??」

 

ひやりとしたのも束の間、すわと身体が回転し地面まで真っ逆さまに落ちていく。

やがてその地面に叩きつけられたここのせは、ヒキガエルのような声をあげた。

 

[5分後]

 

概ね周辺一帯を探し終えたところで、全員が集合した。

女は集まったカードを手に取りふぅと息をつく。

 

「……これで4枚集まったわね。あと1枚……。それで貴女たち、何故そんなに満身創痍なのかしら?」

 

カードから目を離した女は、怪訝な顔でこちらを見ていた。

しかし、それもむべなるかな、ここのせは右足を引きずり、亜美は何故か左腕が赤く腫れていた。

ゆきは泣きそうな顔で、亜美の腫れた腕を濡らしたハンカチで抑えている。

ここのせは、恥ずかしそうにそっぽを向いて、

 

「瓦礫の上から落ちた。んで思いっきり足を捻った。ついでに身体中イテェ」

 

と言った。

一方の亜美は得意げに胸を張っていた。

 

「蜂と格闘したら左腕をやられたわ。当然、全滅させたけどね! ……いったぁ! 動かすとチクチクくるぅ!」

 

「はわっ! はわわわっ!!」

 

思わず涙目になる亜美に、ゆきはあわあわとハンカチを当て直した。

その様子に良平はバツが悪そうに声を漏らす。

 

「ごめん祭乃木。おかげで助かった……」

 

「…………」

 

「いーってことよ。……あ! あそこにカードあるわよ! ……イタタ!」

 

いつものように身体を動かそうとして、亜美はまたも左腕を押さえた。

ゆきはすこし強めに亜美を抑えて言う。

 

「無理しちゃダメですぅ! 私が拾いにいきますね」

 

小走りで走っていき、そこにしゃがむ。

 

「これですね……」

 

手を伸ばしたところで、上から物音がした。

 

「間宮! デジャヴ!!」

 

とここのせの叫び声が聞こえる。

「へ……?」と間の抜けた声をあげてゆきは手を止めた。

その手を物々しい黒い靴が踏みつけた。

 

「おいゴラァ!!」

 

「きゃあ!? 痛いです痛いです踏んでますぅぅ!!?」

 

急に迸る激痛に、ゆきはジタバタと抵抗するもびくともしない。

見上げると、顔中にマーカーを入れている茶髪の男が立っていた。

黒いタンクトップにダボっとしたズボンで、年齢は30代程と言ったところか。

 

「ここ誰のシマかわかっとんのかゴラァ!ここらはな、この高橋秀行様のシマじゃ! 何勝手しとるんじゃあ!」

 

ゆきの手を踏みつけたまま男ーー高橋秀行は唾を飛ばして激昂した。

瞬発的に亜美は臨戦体勢を取る。

 

「ゆき! ……アンタ、なにして……アッ、イッタァ!」

 

しかし、左腕が疼くように痛む。

亜美は思わず顔を歪めた。

ここのせと良平が前に出ようと一歩踏み出した瞬間、隣にいたはずの女がフッと音もなく飛び出した。

目にも止まらぬ速さで男の目の前まで移動する。

 

「なっ!? いつのまに!?」

 

「……」

 

そしてギンッと刺すような視線を向ける。

それは周囲の温度を引き下げるほどで、男は思わずたじろいだ。

 

(な、なんじゃあ、この圧力……)

 

「足をドケロ」

 

「くっ……!?」

 

二段も三段も低い声。

男はに二、三歩後退した。

ゆきは、踏まれた手を撫でながら「あ、あぅぅ……」と声を漏らす。

それを横目に女はカードを拾い上げた。

 

《シャドール・リザード》

効果モンスター

闇 魔法使い族 星4

 

その様子に男はハッと我に帰ると再び大声を上げる。

 

「な、何、ガン飛ばしとんじゃこら! ワシのシマで勝手しとるガキどもが! ただじゃ返さんぞ!」

 

「黙りなさい若ハゲ」

 

吐き捨てると用済みと言わんばかりに踵を返した。

ゆきはふらりと立ち上がると女に向く。

 

「あ、あぅ…、ありがとうございますぅ」

 

「……ダメよ、そんな簡単に私を信じては。私はただこのカードを奪い返しにきただけ。結果的に助かっただけよ」

 

相変わらず感情を宿さぬ眼でゆきの言葉を否定する。

ゆきもそれ以上は何も言わなかった。

しかし男の方はそうもいかず、イライラを隠しもせずに喚いている。

 

「テメェ、ワシに楯突いてただで済むと思うなよ!」

 

「まずい……!」とここのせが足を引き摺りながら前に出た。

 

「ま、まて! 喧嘩ならオレが……ッイテェ……!」

 

「アンタは引っ込んでなさい! アタシがやるわ!」

 

亜美がここのせの肩を引く。

しかし、それを良平が止めた。

 

「祭乃木だって腕が腫れてるだろ!」

 

男は、こちらの様子など見もせずに宣言する。

 

「ここはワシらのシマじゃけぇ、こっちのやり方を通させてもらうぞ! ここいらのカードを持っていきよるなら、アンティで勝負せぇ! カードを掛けてデュエルじゃ! 負けたらオメェらのカードとデッキを全部置いてけ!!」

 

「なんだと……?」とここのせが目を見開いた。

「こいつら、グールズか……!」

 

「イタタ……、ぐ、ぐーるずって何ですかぁ?」

 

涙目で手をさすりながらゆきがそう言うと、その隣の良平が答えた。

 

「今のご時世、レアカードで家が建つこともあるんだ。そんなレアカードを狙ってカードを奪う連中のことだよ。ずっと昔は組織だったみたいだけど、今はもうただの不良集団だ。こうやってアンティデュエルを仕掛けてきてカードを奪っていくのが特徴なんだよ」

 

「だがデュエルで取り決めたことは誰も口出しできんからな! あとで泣きついたって無駄じゃ! オメェらみたいなガキが大層なカードを持ってるとは思えないが、小遣い稼ぎにはなるわ。ほれ! 誰がやるんじゃ!」

 

「……ちっ」と女は口惜しげに舌を打つ。

「今は私のデッキはカードが足りない。戦えないわ」

 

「アタシがやるわ……! ……くぅぅ、イッタァ……」

 

またも左腕を抑える亜美。

ここのせはそんな彼女を引き止めた。

 

「馬鹿言え! その左腕じゃ、決闘盤がつけられねぇだろ……!」

 

「でも……!」

 

「間宮はデッキを持ってない、あいつも戦えない。オレらも満身創痍。でも一人だけまともな奴がいるだろ」

 

言ってここのせは、良平を見た。

良平はげんなりと肩を落とす。

 

「……やっぱり俺かぁ……」

 

「よし! 良平、あんなやつぶっ飛ばしてやりなさい!」

 

「負けんなよ」

 

「プレッシャーが半端じゃないよ……」

 

二人からの眼差しに良平はさらに深くため息をついた。

ゆきは、まだ引っ込まぬ涙目のまま良平に頭を下げる。

 

「わたしのせいでこんなことに……。すみません日和田さん! お願いします!」

 

「いや間宮のせいじゃないよ……。わかった、やるよ!」

 

「これ使いなさい!」ヒュッ

亜美はスクールバックから小型の決闘盤を取り出して良平に軽く投げる。

 

「っとと……」

 

なんとかそれをキャッチすると良平は左腕に装着した。

にやりと目の前の男が笑う。

 

「おうおう! 相手は決まったんか! はよせぇや!」

 

「うっさいってーの! 良平、頼んだわよ!」

 

「……うん」

 

腰のデッキケースからデッキを取り出し、決闘盤にセットする。

決闘盤は俄に変形し、デュエルモードへ移行した。

液晶が光り、ソリッドビジョンが作動する。

 

「へっ! ボコボコにしてやるわ!」

 

男も無骨な決闘盤を展開させて、それを突き出した。

両者が睨み合いながら初期の手札5枚をデッキトップから引き抜いた。

そして同時に宣言する。

 

「「デュエル!」」

 




ここで一旦アイキャッチ。
デュエルパートは後編へ。

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