遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~   作:レトやま

57 / 87
暖かいコメントたくさんいただき本当に嬉しいです!
今後ともよろしくお願い申し上げます!

今回はやや長いです……!
どうかお付き合いください!!



第26話 「それぞれの休日」前編

 

[回想 ストックホルム フローリア家 客間]

 

デュエルコロシアムを出た後、ヒーロー部はセレナに連れられて彼女の住まいに来ていた。

そこは郊外の外れにあり、500坪はあろうかという土地に日本では見ないような造りの豪邸が聳えていた。

なんでも代々神のカードを所有し続けた家らしく、廊下には有名な人物なのか銀髪の男性の肖像画がおいてある。

客間に通されて大仰な机に座っていると見るからに高そうな茶器とカップに入った紅茶を出された。

おっかなびっくりと割らないように慎重に持つヒーロー部とは対照的にチームラグナロクの4人は優雅に口をつけている。

それからセレナを筆頭に彼らの持つ情報を提示した。

 

『ーー闇のカード?』

 

聞き馴染みのない言葉に亜美は首を傾げる。

するとセレナは確かに頷いた。

 

『はい』

 

『随分安直な名前ね……。それはなんなのよ?』

 

さらに質問をする亜美に今度はミーティスがソーサーにカップを置いて口を開けた。

 

『ソリッドビジョンじゃない現実に干渉できるカードのことよ』

 

『現実に干渉……』と良平がおうむ返しする。

『じゃあ、あなた達が持ってる神のカードもある意味、闇のカードってこと?』

 

良平の言葉にアルスは腕を組む。

 

『広義には含まれるかもしれない。だが、もっと狭義に捉えてほしい』

 

ヴァールはというと紅茶をぐーっと飲み干すと袖で口を拭う。

 

『まぁーわかりやすく言や、誰かを傷つけるための力を持ったカードってことだな!』

 

『誰かを傷つけるためのカード、ですかぁ……』

 

ゆきは両腕を真っ直ぐに太ももにつけて揺れる紅茶を眺めた。

補足するようにセレナは胸に手を当てて続ける。

 

『詳しいことは私たちもわかっていませんが、今回の騒動にはそれが関わっているのではないか、と考えているんです』

 

セレナの言葉に良平はうーんと腕を組んで明後日の方を見た。

 

『あの時、あの化け物のカードをコントロールしてるデュエリストはかなり様子がおかしかったように見えたけど……。とてもカードをコントロールしてるようには……』

 

『そう、それだ』とヴァール。

『それがわかんねーんだよな。それにアレは精霊だと思うんだよなぁ』

 

『精霊?』と亜美が怪訝な顔で聞き返すとヴァールはさも当然のように答えた。

 

『ああ、デュエルモンスターズの、な』

 

そんな彼とは対照的にゆきは頭を抱えるようにして目を白黒とさせていた。

 

『闇のカードに、精霊……! ううぅ、わからないことが多いですぅ……!』

 

そんなゆきの様子にミーティスは思わず笑い、それから亜美の背後を指差した。

 

『あはは! けど、精霊ならあなたたちの側にもいるじゃない』

 

亜美が振り向くとシュルシュルとシルクの帯を巻くような音がする。

虹色の龍が半透明の状態でそこにいて、控えめな声で一鳴きした。

 

『キュォォオ……!』

 

『わっ……!』

 

亜美は思わず目を丸くする。

驚いたの亜美だけではなかった。

セレナの豊満な胸にルーン文字が浮かび上がり、レインボードラゴンと呼応する。

それからセレナは口に手を当てて声を出した。

 

『すごい……。そんなに気に入られてるなんて……。これまで主人と認めたデュエリストは初代のデュエリストだけだったのに……』

 

『この子たちみたいなのが精霊ってわけなの……? けど、見えるけど触れないわよ?』

 

スカ、スカと亜美の手はレインボードラゴンの透明な身体を通り抜ける。

まるで射影機に照らされたかのようなレインボードラゴンを見てヴァールは

 

『そーなんだよなぁー!』

 

と大仰に椅子にもたれて頭の後ろに両手を置いた。

セレナが続きを拾う。

 

『本来、精霊のみでは力を発揮できないはずなんです……。もちろん例外もありますが……』

 

それ以上はわからないとばかりにセレナは首を振った。

アルスは腕を組んでヒーロー部を見る。

 

『とにかく今は情報が不足している。その分、対応も後手に回らざるを得ない。だが、問題はスウェーデンだけでなく全世界に波及しているはずだ。お前たちも、日本で気をつけて生活することだ』

 

『気をつけるってもなぁ……』

 

と良平は眉を八の字にして後ろ頭を掻いた。

気をつけようが防ぐ手段がなければどうしようもない。

それを知ってか知らずかミーティスは懐から名刺を出して亜美に差し出した。

 

『これ、私たちの連絡先! 何かあったら連絡して!』

 

 

 

寝る前決闘空間第25話

『それぞれの休日』

 

 

[翌週 ネオ童実野シティ 恵宅]

 

WSC2回戦から2週間弱が過ぎた日曜日。

恵が住む高層マンションの一室は相変わらず殺風景だが、食卓代わりのコタツ机と各々が持ち込んだクッションとついでに女3人という姦しさがそれを感じさせない。

台所からゆきはお盆をもってニコニコと歩いてきた。

 

「できましたよぉ〜! まん丸ホットケーキですぅ!」

 

どどんっと机においたお盆には、白い皿に綺麗な焼き色のホットケーキが鎮座している。

ホカホカと湯気を出して甘い香りを放っているそれを亜美は両手を握って覗き込んだ。

 

「わぉ! めっっちゃうまそう!」

 

「……」

 

その隣でちょこんと座ってる恵は目の前に置かれたホットケーキを凝視した。

ゆきも空いている場所に座ると両手のヒラを合わせる。

 

「我ながら綺麗に焼けましたよぉ! では食べましょう!」

 

「いっただっきまーす!」

 

亜美は一口大に切ったホットケーキを思いっきり頬張る。

サクと軽い音の後に、ふわっとした食感とメイプルシロップの甘味がかける。

 

「ん〜!! うまい!」

 

片手を頬に当てる亜美。

恵はというと、もぐもぐと淡々と食べていた。

そんな恵を見てゆきが声を出した。

 

「……あのこれって聞いていいのかわからなかったのですが……」

 

「……?」

 

視線を感じたのか恵は顔を上げて首を傾げた。

 

「……恵さんって、その、デュエルロイドなんですよね?」

 

「……そう……」

 

「……その……食べ物って食べて大丈夫なんですかぁ……?」

 

「……問題ない。私のいた時代では、電力が不足していた。そのため、電力によらない原動力の補給として経口摂取によるエネルギー変換を可能としている。デュエルロイドの標準搭載機能……」

 

「そうなんですかぁ!」

 

そんなやりとりに亜美は頬杖をついて恵を見た。

 

「なんかすごい話ね。未来ではそんな技術ができるのかぁ……」

 

「……技術革新に関しては必ずしもそうとは断言できない。辿った道が違えば発達する技術が異なる……」

 

「ふーん、そういうもんなのね」

 

「難しい話ですねぇ」といいながらゆきはまた一口ホットケーキを頬張った。

亜美はふと思い出したように恵に聞く。

 

「ねぇ、恵、今は時空震ってやつは感じないの?」

 

「……今のところ近隣地域では検知されない……」

 

「そう。じゃあそれを感じたら言って。もしかしたらあの化け物がでるかもしれないからね」

 

「……了解……」

 

「祭乃木さん」とゆきは、今度亜美に向く。

 

「あの化け物が現れたらどうするんですかぁ……?」

 

「アタシにできることをやるわ。避難誘導とかね」

 

「はぁ〜、祭乃木さん、すごいですぅ……」

 

「けど! そればっかり気を取られるわけにはいかないわ! なんてったって、次はエイト決めよ! スーパーシード権の相手なんだから、きっちり対策しなきゃ!」

 

亜美は手をぐっと握り、にやりと笑う。

WSCは32チームの予選通過メンバーと前回大会ベスト8以上のスーパーシードチームーー通称8強の40チームである。

そしてWSCの3回戦とは、一般通過チームと8強が初めてぶつかる試合ということになる。

故に8決め。

ゆきは大きく頷いてから、周りを見渡した。

 

「そうですね! ……そういえば今日は、日和田さんとここのせさんはいらっしゃらないんですね?」

 

「二人とも捕まらなかったのよね。良平はなんか調べ物をしたいとかなんとか言ってたわ。ここのせも用事があるとか」

 

「そうですかぁ……」

 

と答えたあと、少し躊躇してからゆきは再び口を開けた。

 

「あの……ここのせさんのことなんですが……」

 

「……」

 

恵はもぐもぐとホットケーキを食べながらゆきを見た。

亜美が水を向ける。

 

「なによ?」

 

「なんだか少し元気ないように見えたのですが……。その、明るく振る舞ってはいましたが……」

 

「……そうね、アイツ、ああ見えて気にしいだからねぇ。この間のデュエル、相当悔しかったんだと思うわ」

 

「何かお手伝いできることはないんでしょうかぁ……」

 

「……」

 

恵は手を止めて亜美の顔を見ていた。

亜美は一瞬考えてからフォークでホットケーキを突き刺す。

 

「……今はそっとしておきましょ。きっとここのせも、下手に手伝ってほしくないと思うわ」

 

「そうですかぁ……」

 

「ま、ここのせなら大丈夫よ。きっとね」

 

それから亜美は最後の一口を口の中に放り込んだ。

 

[ネオ童実野シティ 旧サテライトエリア 海沿い]

 

潮の香に包まれたここは、いつだって静かだ。

遠くに見える粗大ゴミの山とネオ童実野シティ中央の煌びやかなビルが両方見える。

ここのせはそんな場所の防波堤に座り込み海を眺めていた。

 

「……」

 

脳裏に浮かぶのはストックホルムでの試合。

 

〜回想〜

 

『くっ……!……くそっ……!』

 

ここのせは拳をぎゅっと握りしめた。

エンシェント・ホーリー・ワイバーンは高らかな咆哮をあげて叫ぶ。

相手プレイヤーのライフは一切のダメージはなく、それどころか初期ライフを大きく上回っていた。

 

『これで、貴方たちはラストプレイヤーまで回った! 私で全部終わらせてあげる!』

LP:6300

 

〜回想終わり〜

 

ここのせは思い出してまた膝の上で拳を握る。

 

(……あのデュエル、オレは相手にいいように翻弄されてた。祭乃木がなんとか持ち直してくれたが、一歩間違えば負けてた)

 

実際には勝利を収めたが、それは。

 

『見てなさい、ここのせ』

 

自分と入れ替わりでデュエルフィールドに歩んでいく赤いポニーテールが目に焼き付く。

 

(……祭乃木は、1万以上あったライフを削り切った)

 

それだけではない。

これまでのデュエルにおいてもそうだ。

 

(良平も恵もきっちり仕事してる。間宮だってあのアカデミアのオベリスクブルーに対して対等に立ち回ってた。それなのにオレは……)

 

自分はどうだ。

先日のデュエルだけではない。

このWSCにおいて、チームの勝利に貢献した試合はあっただろうか。

 

(……オレはこの大会、大事な場面で足を引っ張っちまってる。大会のレベルはどんどん上がっていくはずだ。このままじゃ、いつかオレのせいで負ける。強くならねぇと……。けどどうやって……)

 

ここのせは腰のデッキケースを開き、デッキを取り出した。

先頭にはドレッドノイドが鎮座している。

シャッ、シャッとデッキをめくっていく。

波が打つ音がする。

背後には粗大ゴミの山。

目の前は海。

 

(……デッキの構築を見直すか……?)

 

それが正しい。

だが。

 

(……枠を埋める他のカードはほとんど残ってない。それに)

 

カードがないなら増やせばよい。

入手すれば良い。

普通ならそうだ。

だが。

 

(……運命力のないオレじゃカードは集められねぇ……)

 

カードを引き寄せる人間の根源たる力。

運命力。

人により高低があるその力は、ここのせには一切備わっていない。

 

(くそっ、運命力があれば……!)

 

思わず悪態をついた。

ふと目に入ったカードは自分のデッキ。

星遺物を継ぐ者。

力無き者に力を与える星のカード。

 

(ーーいや違う。運命力のせいにするな! ……そもそもオレの手札が事故ってたわけじゃない。オレのプレイングスキルの問題じゃねぇか!)

 

自分で自分を叱りつけた。

 

(だが、あの場面、あの手札で他にどうすればよかったんだ……。あの場をなんとかするカードなんて……。くそ、堂々巡りだ……)

 

ふとポチャンッと音がして何かが水面に落ちた。

見るとそれは細い糸がついた釣り餌で、糸は自分の隣まで伸びていた。

チラッとそこをみると男があぐらかいてる。

 

「……ふぅ〜」

 

(んだよ、釣りのおっさんかよ……。こっちゃ真剣に悩んでんのに、いい気なもんだぜ。落ち着いて考え事もできやしねぇ……)

 

恨みがましく、否全くの八つ当たりだが、その男性を見た。

その男性は釣竿を持ってボーっとしてる。

短く刈り上げた髪を掻き上げて浅黒い男性だった。

 

(……あ? このおっさん……、どっかで見たことあんな……)

 

数秒のうちに脳裏に映像が蘇る。

それはデュエルフィールドの映像の記憶だ。

 

『魂を鎮める調べを、星の果てまで轟かせ! 来い、オルフェゴール・オーケストリオン!!』

 

それは昨年の映像だったはずだ。

恵の部屋で見たチーム煉獄とのデュエル。

その相手はクイーンを擁するチームだった。

ここのせは目を見開いて声を出した。

 

「あぁ! 思い出した! あんたはチームディスティニーの……!」

 

「……あん?」

 

釣竿を片手にその男はここのせに振り向いた。

 

 

[一方その頃、ネオ童実野シティ埠頭公園]

 

河口近くにある旧サテライトエリアから南西方向に降っていくと、風景は一変してしっかりと整備された海岸沿いとなる。

特に船の発着が行われる童実野埠頭の周囲は特に整っている。

そんな童実野埠頭付近には大きな公園があり、休日を楽しむ家族がピクニックを楽しんでいた。

そんな公園の真ん中。

芝生の上には二人の男女。

片方は青い制服にピンク色の短髪ーーツァンであった。

彼女は腕を組み、足元を見下す。

 

「……」

 

そこには私服姿の日和田良平が、正座をして背筋を伸ばしていた。

良平は務めて下手に出て、ツァンを見上げた。

 

「あ、あのさ、周りの目も痛いし、正座解いてもいいかな……?」

 

「あ、の、ね!」

 

ズイッとツァンは両手を腰に当てて良平に肉薄する。

 

「どうして君がボクの連絡先を知ってるわけ!? それを正直に言わない限り、ずっと正座だから!」

 

「だ、だからさっきからずっと言ってるだろ! 金がここに連絡しろって……」

 

「はぁ?」

 

納得いかないという顔でツァンは声を上げた。

良平はというと、とんだとばっちりだと内心でため息をついてからことの次第を話す。

 

 

〜回想〜

 

[2回戦終了後 帰りの船内]

 

船内のデュエルルームで良平は唯信の背に話しかけた。

 

『ーーダメージが実体化する事故について調べたいんだ』

 

『なにィ……?』

 

その言葉に唯信は振り向きギロッと良平を睨みつけた。

それから唯信は良平に肉薄し胸ぐらを掴んで自分の顔に近づける。

 

『キサマ、私の前でそれを軽々しく口にするとは良い度胸ダ。戦犯の誹りを投げるつもりならば、その口をデッキごと叩き潰すゾ』

 

『ち、違う、そうじゃない!』

 

良平は慌てて否定してから、胸ぐらを掴まれたままで話を続ける。

 

『 ……俺も目の当たりにしたんだ、モンスターが実体化するところを……』

 

『なんだト……?』

 

意外な言葉に唯信は思わず良平の胸ぐらを離す。

良平は襟を直しながら続ける。

 

『金にとってチーム煉獄とのあのデュエルは不愉快だってことはわかるよ。そんな事故で、デュエルの勝ち負けが決まるなんて俺だって認めたくない……』

 

『フンッ……』

 

『けどこの間、自分も……なりたくはなかったけど……当事者になっちゃって……。そういうことが起こり得るんだって知ったんだ』

 

『……』

 

良平の言葉に唯信は腕を組んで聞いていた。

 

『そういうのが、自分やヒーロー部のみんなに降り掛かると思うと怖くなって……。それに、そういうのとデュエルするってなった時、デュエルでは負けてないのに負けにされるのはその……困る……』

 

『……ほぅ、まるでデュエルならば自分が勝てるかのような言い草だナ』

 

『……負けるつもりでデュエルすることはないよ』

 

『それデ?』

 

『え?』

 

続きを促されるとは思っていなかった良平は顔をあげて唯信を見た。

唯信は変わらず腕を組みながら良平を睨みつける。

 

『私がキサマに手を貸したとして、それで何になル? 私にメリットでもあるのカ?』

 

『え、あー……』

 

想定外の言葉に良平は頭の裏に右手で掻き撫でた。

メリットなどということを一切考えていなかった。

ただデュエルに勝つために必要なだけで。

 

『……メリット……はない、かも……。ごめん……考えてなかった……』

 

『……フ、フ……』

 

唯信は顔伏せ肩を震わせる。

彼女の美しい黒髪がワナワナと揺れていた。

 

(や、やばい……!)

 

あせあせと良平は両手のヒラを振って声を出す。

 

『も、もちろん、ジュースとか奢ーーー!』

 

『ククク……! フッハッハッハッハッ!!』

 

『!?』

 

怒鳴られるか、また胸ぐらを掴まれるか。

あるいは殴られるまであるとさえ思った良平は、目の前で大きく笑う唯信に目を丸くした。

唯信は笑いをこらえられない様子で言葉を出した。

 

『クク……キ、キサマ、自分が何を言っているのかわかっているのカ?』

 

『え……?』

 

『キサマは、こう言ったのダ、自分の勝利の為に敗者は無償で協力しろとな!』

 

『えぇ!? ち、ちがっ……!』

 

『フハハハッ! キサマがそんなにも強欲で貪欲とは思いもしなかったゾ!! 』

 

『いや誤解だよ!』

 

『そこまで正面切って愚弄されたならば、いっそ清々しいワ!』

 

『ご、ごめん! そんなつもりじゃ……』

 

良平はかえってばつが悪くなってしまう。

唯信がここまで機嫌が良くなった理由も検討がつかない。

そんな良平を尻目に唯信は続ける。

 

『良いだろう。キサマの貪欲さはよくわかっタ。その勝利への渇望に免じてキサマを殺すのは最後にしてやル』

 

『俺、殺されるの……?』

 

『ついてこイ』

 

クルッと踵を返すと唯信はスタスタと歩いてデュエルスペースを出ていく。

訳もわからず良平は彼女の後ろをついていった。

 

[船内3階 図書室]

 

階段をずんずん登っていった先に辿り着いたのは図書室だった。

船内にあるはずなのに公立高校のそれと変わらない規模で良平は驚いた。

唯信は良平を気遣うことなくさらに進んでいく。

彼女の靡く黒髪を追いながら良平は辺りを見回した。

 

『ここにある資料を探せば、何かわかるかもしれないな』

 

『バカかキサマ。所詮ここには娯楽図書しかありはしなイ。専門書などタカが知れていル』

 

『専門書って……。やっぱり何か知ってるの?』

 

『……』

 

良平の問いに唯信は答えない。

無言のまま唯信は、そこにあったパソコンをつけた。

パソコンはぶぅんと唸り、画面を表示する。

 

『……』

 

邪魔にならないように良平も黙って彼女の動きを見守る。

唯信は慣れた手つきでキーボードをカタカタと入力した。

沈黙を破ったのは良平だった。

 

『……金、あのデュエルの時、一体何があったの……?』

 

『……チッ……』

 

『……』

 

『……奴のモンスターから戦闘ダメージを受けた時、ソリッドビジョンでは有り得ない衝撃を浴びタ。奴の狙いはデュエリストそのものを沈める事で勝利を奪ウことだったようダ。……舐めタ真似をしてくれル』

 

『……やっぱり現実にダメージが……。でも、どうしてそんなことが……』

 

『……』

 

唯信はキーボードを打つ手を止めて良平を見上げた。

 

『……キサマ、サイコデュエリスト、という言葉を知っているカ』

 

『え? ……いや、知らない』

 

『……見てみロ』

 

『……?』

 

唯信が指差すパソコンの画面を覗き込む。

それはネットニュースのアーカイブ記事らしく淡々と文字と写真が載っていた。

 

【殺人デュエリスト 黒薔薇の魔女】

ネオ童美野シティにて、殺傷事件が発生。

沿岸エリアに在住の男性が血塗れの状態で発見。病院に搬送され意識不明の重体の模様。今月だけで3件目である。なお犯人は現在逃走中。

周囲の建築物等には不可解なほどのダメージが確認され、一連の事件は『黒薔薇の魔女』によるものだと思われる。

(ガジェット通信より)

 

【保護機関アルカディア・ムーブメントの闇】

虐待児、孤児などの保護を目的とした機関アルカディア・ムーブメント。

しかし、この機関には様々な疑惑が存在する。

孤児の管理体制や社会復帰活動なども一切公開されておらず、これまで公的なインタビューも受け付けていない。

しかし、命からがら難を逃れた元アルカディア・ムーブメントに所属していた女性に直撃インタビューを行った。

すると、様々な実態が浮かび上がった。

(週刊サイクロンより)

 

良平は画面を見たまま声を出す。

 

『……黒薔薇の魔女にアルカディア・ムーブメント……? 何これ……ってすごい古い記事じゃん! 90年近く前の記事だぞ! こんなのがなんの役に立つんだよ』

 

『重要なのはその記事の内容ではなイ。そこにあるアルカディア・ムーブメントと黒薔薇の魔女、それらはある一つの共通点で結ぶ事ができル。それがサイコデュエリストダ』

 

『どういうこと?』

 

『アルカディア・ムーブメントは、表向きは孤児や虐待児の保護機関だったが実際には妙な実験をしていたようダ。かつて不動遊星たちが壊滅させ、今は跡形も残ってないがナ。その実験の成果が黒薔薇の魔女ダ。モンスターを呼び出して人を襲う魔女』

 

『モンスターを実体化……!』

 

『もっとも黒薔薇の魔女に関してはその後の記事が存在しなイ。恐らく誰かが意図的に情報を規制したんだろウ』

 

『えっと、よくわからないんだけど……。記事にはサイコデュエリストなんて書いてないし……』

 

『所詮は民間の記事だからナ。だが、デュエルアカデミアならば話は別ダ』

 

『というと?』

 

『アルカディア・ムーブメントと黒薔薇の魔女、これらについて詳しく書かれた論文がアカデミアにあル。そこに、ソリッドビジョンによらずデュエルモンスターズの力を具現化する力を持つ者ーーサイコデュエリストについて書かれていル』

 

『!!』

 

良平は息を呑んだ。

それから顎に手を当てて考えを巡らせる。

 

(……ヴァールさん達が言ってた現実に干渉できるという闇のカード……。それとチーム煉獄対チームツンドラ戦で起きたダメージの実体化……。何か関係があると思ったけど、また別の可能性が出たな……)

 

良平は再び視線を唯信に戻して口を開けた。

 

『金、その論文ってどうやったら読めるの?』

 

『ここでは読めなイ。デュエルアカデミア本島の閉架書庫でしか読めんだろうナ』

 

『……それ、俺はどうやって読むの?』

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

長い沈黙の末に良平は苦笑いした。

 

(絶対考えてなかったな……)

 

『ッ!』

 

すると唯信はガッと良平の胸ぐら掴む。

 

『ぐぇっ! な、なんだよ……!』

 

『キサマからバカにしたような視線を感じタ』

 

『理不尽ッ……!』

 

『……チッ……』

 

パッと唯信は胸ぐらを離す。

良平は苦しそうに咳き込むと再びシワシワになった襟を直した。

 

『ゲホゲホッ……。全く……』

 

『……』

 

唯信はパソコン台に置いてあった備え付けの付箋とボールペンでサラサラと素早く何かを書いた。

 

『日和田良平!』

 

それから丸めた紙を投げつける。

 

『うわっ』

 

パシッとキャッチするとアドレスのようなものが書かれていた。

 

『これは……?』

 

『そこに連絡しロ』

 

それだけ言うと役目は終わりだと言わんばかりにスタスタと歩いていってしまった。

 

『……? 金の連絡先か……?』

 

〜回想終わり〜

 

「……で、連絡してみたら君の連絡先だったってこと」

 

良平が事の顛末を話し終えるとツァンはこめかみを抑えて呟いた。

 

「はぁ……、金さんったらもぉ……。携帯持ってないからって……」

 

「えっと、ごめん……。金の連絡先だと思ってたから……」

 

「いや、アンタが悪いわけじゃないってわかったから。ほら、立っていいよ」

 

ツァンは哀れみの表情を見せて良平に手を差し向けた。

良平はその手を取ってなんとか立ち上がる。

 

「ありがとう。……いててて……」

 

「……はぁ」

 

ツァンはため息をつくとガシャンっと決闘盤を展開した。

決闘盤といっても大型ではなく腕につけても邪魔にならない程度の小型サイズだが。

そのモニターをピッピッピッといくつか操作するとツツー、ツツーと連続音が鳴った。

見慣れない様子に良平は首を傾げた。

 

「何してるの?」

 

「え、デュエルディスクの連絡機能だけど。使ったことないの?」

 

「安物にそんな機能ついてないよ。それにスマホもあるし」

 

「まぁ、ボクもあんまり使ってないけど……」

 

ガチャッと音がして連続音が鳴り止んだ。

代わりにスピーカー特有のノイズと共に女性の声がした。

 

『ツァンか。なんダ』

 

「あ、金さん! なんかチームヒーローの人が連絡してきたんだけど!」

 

『ああ、本島の資料室に案内してやレ。奴は我々を踏台にしてでも勝利したいらしイ』

 

「いや言い方……」と良平は肩を落とす。

事情を知らないツァンは首を傾げて聞き返した。

 

「え? どういうこと? 資料室って、なんでまた?」

 

『本人に聞ケ。私はノース校で雑魚の相手をしなければならン。切るゾ』

 

「あ、ちょっと!」

 

ツー、ツーと終話された音がしてツァンはため息混じりにデュエルディスクを引っ込める。

 

「はぁぁぁ……」

 

「なんかごめん……」

 

「いいよ……。どうせこういうのはボクの役回りだから……」

 

「苦労人なんだな……。あ、これ、よければ……」

 

良平は念のため用意していたジュースを手渡す。

行きの自販機で見つけた缶ジュースで表にはレミューリアサイダーと書かれていた。

ツァンは無言でそれを受け取るとプルタブを引く。

カシュッと空気がぬけて飲み口が開いた。

 

「んぐ、んぐ……ぷはぁ……」

 

ツァンは喉を鳴らして飲み込むと、良平に向いて苦笑いした。

 

「ふー、仕方ないからこれでチャラにしてあげる」

 

「ありがとう! 助かるよ!」

 

「か、勘違いしないでよね! ボクはデュエルで人が傷つくなんて許せないだけ! 別にアンタ達に肩入れするわけじゃないんだからね!」

 

急にそっぽを向くツァンに良平は半端に頷いた。

 

「う、うん。……それで、アカデミアって部外者は入れるの?」

 

「普通は無理。ボク達が口添えすればなんとかなるかもしれないけど……」

 

「お願いしていい?」

 

「はぁ、わかったよ」

 

それから着いてこいと言わんばかりにツァンは歩き出したので良平もその後ろを歩いていった。

 

 

[一方 ネオ童実野シティ沿岸部]

 

同時刻。

ネオ童実野シティ沿岸部のサテライトエリア付近。

ここのせは思わず立ち上がった。

隣に座る男を見下ろして声をあげる。

 

「あ、あんたは……! チームディスティニーの……!」

 

「あん?」

 

その男はチームディスティニーの男だった。

刈り上げた短髪に大きめの身長、浅黒い肌。

名を絵草霜と言う。

絵草は横目でここのせを見た。

 

「なんじゃあ、お前」

 

(あ、そっか。こっちはテレビで見たことあるけど、向こうはこっちのことなんざ知るわけねぇか)

 

ふと腑に落ちて、取り乱した自分を恥いった。

それから咳払いをして口をあける。

 

「あ、いやちょっとビックリしただけだぜ……」

 

「ほぉん。……お? ボウズ、もしかしてWSCに出とるか?」

 

「え? あ、あぁ、出てるっすよ。チームHEROってチームで」

 

「ほぉ! 姐さんが注目しとったチームじゃなぁ。てことは、お前さんは例の星遺物のデュエリストじゃろ」

 

釣具を引き上げて体を向ける絵草。

ここのせは目を丸くして答える。

 

「え!? な、なんで知ってるんだ!?」

 

「そりゃあ」

 

と指指した。

ここのせの手元のデッキを。

デッキトップには星遺物の胎動。

 

「あぁ……」

 

「ま、それだけじゃないわ。星遺物カードの使い手がここまで上がってくるのは珍しいからのぉ。しかも姐さんが注目しとるチームHEROときた」

 

「星遺物カード……」

 

それがここのせの唯一の武器。

それだけが。

 

「……」

 

「なんじゃ、ボウズ。萎れとるの。ーーいよいよ星遺物の力じゃ誤魔化せなくなってきた、とかか?」

 

「なっ……!?」

 

バッとここのせは顔を上げた。

絵草は目を伏せて口角をあげている。

 

「なんで……!」

 

「おぉ? 当たりかいな。かっかっかっ!」

 

「……けっ、常勝チームのデュエリストにゃ縁のねぇ話だぜ」

 

「それはどうじゃろうなぁ」

 

「……だってそうだろ。プロデュエリストには運命力もカードもあるんだ。それにはどうしたって届かねぇよ」

 

ここのせは腕を組んで突っぱねた。

自分でもわかる。

ただ八つ当たりだ。

無礼な振る舞いに気を悪くしたかと思ったが絵草は飄々と返す。

 

「ふぅむ。運命力やカードがあっても、負けるやつは負けるわいな。……ボウズ、お前さんは一体何にそんな萎れとるんじゃ」

 

何に。

ここのせは一瞬自分に再び問いかけた。

それから言葉を紡ぐ。

 

「……チームデュエルってのは、難しいぜ。自分の負けが自分だけの負けじゃねぇんだ。オレが足を引っ張って、負けるかもしれねぇ」

 

「でも勝ってるんじゃろ?」

 

「……」

 

そうだ。

結果的には。

 

「……チームのみんなが尻拭いをしてくれたからだ。もしかしたら負けてたかもしれねぇ」

 

「ほぉん」

 

「……今のオレは足手まといだ……! そんな自分が許せねぇんだよ……!」

 

ここのせは思わず声を荒げた。

悔しさがまた胸の内から込み上げてくる。

 

「オレに……くっ……!」

 

運命力が、と。

また言いかけてここのせは口をつぐんだ。

それから一息呑んでまた話す。

 

「……運命力のせいじゃねぇのはわかってる……。けど、今のままの戦略じゃ勝てない……。どうすりゃいいんだ……」

 

「なるほどなぁ。……かっかっかっ、青いのぉ」

 

「……」

 

「……どれ」

 

と絵草は立ち上がり、釣り竿を肩に乗せる。

ここのせはその様子を不思議そうに見上げた。

 

「ワシがボウズのデュエルを見ちゃるわ」

 

「アンタが……? ……あのディスティニーのメンバーに手ほどきを受けるたぁ光栄だけどよ、オレは……」

 

「自信がない、か?」

 

「……」

 

「ま、他のプロデュエリストなら参考にゃならんよ。だが、お前さんはワシを知っとるんじゃろ」

 

ピラッと絵草は指に挟んだカードを見せつけた。

それはーー星遺物を継ぐ者。

 

「!!」

 

「ワシも星遺物の使い手じゃ。ヒントくらいは出してやれるわ」

 

「……」

 

「ま、ワシはお前さんとはちょいと訳が違うがな」

 

「……」

 

「どうする?」

 

「……わかった。だけど、やるからには本気だぜ!」

 

ガシャンッとここのせはデュエルディスクを展開する。

その様子に絵草はニヤリと笑った。

 

「当たり前じゃ」

 

絵草は足元に置かれたナップサックからデュエルディスクを取り出して装着した。

そしてデッキを差し込んだ。

ここのせは胸の中がひやりと冷えた。

それを無視して声をあげた。

 

「「デュエル!!」」

 

 

[一方 デュエルアカデミア本島港]

 

デュエルアカデミア本島は、東京湾を出た先。

太平洋に浮かんでいる。

広大な島には様々な設備が整っており、港も綺麗に整えられていた。

そんな港には巨大な客船が泊まっている。

蒼い制服を着たツァン・ディレは慣れた様子で港を歩く。

その隣を歩く日和田良平を連れて。

良平は肩身の狭い想いだった。

なぜならば、袖を見ると見慣れぬ黄色い制服。

デュエルアカデミア ラーイエローの制服を何故か着せられているからだ。

 

「……なんで俺、制服着させられてんの……?」

 

「し、仕方ないじゃん……。連絡したらダメって言われちゃったんだから……」

 

「うーん……、これホントに大丈夫なのか……」

 

「大丈夫だよ。……多分。何百人っているんだもん、顔なんて把握してないよ。……多分」

 

「不安だ……」

 

二度も多分と言われたら良平はもう何も言えない。

二人はひっそりと歩いて校舎に向かう。

良平は黄色い制服を見ながら言う。

 

「てか、この制服は誰のなの?」

 

「船にあった忘れ物だよ」

 

「……それ使って大丈夫なの……?」

 

「あ、あとでボクが事務局に届けにいくから……」

 

ツァンも苦笑いで答えた。

おそらく大丈夫ではないのだろう。

 

 

[デュエルアカデミア本島キャンパス フロントストリート]

 

港を抜けると遠くに聳える校舎が現れた。

良平は圧倒されたように声を出す。

 

「それにしてもーー」

 

赤、青、黄色のドーム状屋根が見えていて塔のような白いモニュメントも見える。

他にはドーム場の建物やフェンスに囲まれた発電所らしきものまであった。

 

「でっかいなぁ……。高校とは思えないよ……」

 

「フフン、そうでしょ!」

 

とツァンは得意げに笑う。

 

「まぁ、高等部だけじゃなくて大学院や研究室もあるんだけどね。この島全部がアカデミアの敷地なんだよ」

 

「これだけ大きな設備があれば、いろんな研究ができるんだろうなぁ。あっちの大きいドームみたいなやつは、実験とかするところなの?」

 

「あれはただのスタジアムだよ。デュエルの実技をするところ。実験棟は、もっと奥の方だよ」

 

「体育館みたいなノリでデュエルスタジアムがあるのはすごいなぁ」

 

「君たちの高校はデュエルの実技はどうしてるの?」

 

「普通に教室の中だよ。ソリッドビジョンは使わない。たまに体育館のときもあるけど……」

 

「ふーん、じゃあ小学校のときと一緒なんだ」

 

「そうだね」

 

そんな会話をしながらアカデミア構内に入っていく。

意外なことに靴を履き替える必要がなく、それもまた良平には新鮮だった。

 

[アカデミア構内]

 

アカデミアの校舎内は入り口からすぐに見える大きな階段があって、きっちりと磨かれたフローリングになっていた。

壁も手摺も何もかもがまるで新築のように輝いている。

良平は辺りを見回して言う。

 

「へぇ、中はこんなふうになってるんだ。流石私立だけあって綺麗だね」

 

「ちょっと! もうちょっと早足で歩いて! 潜入してるって自覚あるの!?」

 

「あ、ごめんごめん」

 

ツァンに急かされて良平は先に歩いていってしまったツァンの隣まで急ぐ。

ツァンは右手でこめかみを抑えて呆れたように言う。

 

「もう……。あんたってデュエル以外は腑抜けてるんだね」

 

「いや、そんなことないよ。はじめてきたから物珍しかっただけで……」

 

「ていうか! ボクはアカデミアではちょっと有名人なの! おいそれと男子といたら変に噂になるでしょ! ちょっとは気を使ってよね!」

 

「そっか、アカデミアの代表チームだもんな。ごめん、急ごう!」

 

二人は早足にその場を過ぎて進んでいく。

 

[アカデミア本校 図書館]

 

随分歩いてようやく辿り着いたのは図書室だった。

否、図書室などという生温いものではない。

これは資料館だ。

木目調の床に、天井にはシャンデリア。

見通せない程の広さ。

入り口には改札機のようなものがある。

ツァンは横目で良平を見た。

 

「ここだよ」

 

「うわぁ、すごいな……。ウチの高校とは大違いだ」

 

「えっと……」

 

ごそごそと上着のポケットを探るツァン。

そこからICカードのようなものを取り出して良平に渡した。

 

「はい、これ」

 

「……これは……学生証?」

 

「それを改札機にタッチすれば入れるよ」

 

「……使って大丈夫なの……?」

 

「あ、あとでボクが事務局に届けに行くから……」

 

ツァンは目を逸らして気まずそうに言った。

多分大丈夫ではないのだろう。

良平は不安な気持ちにはなったが他に手はない。

 

「……まぁ、背に腹はかえられないか」

 

ピッとICカードをタッチすると改札はガシャンと開く。

ツァンは当然自分のICカードで中に入り込む。

 

「こっち」

 

「うん」

 

中はエントランスから見た通りでとんでもない広さに所蔵量を兼ね揃えていた。

だだっ広いのではなく必要だから広いわけだ。

そんな資料と資料の間を進みやがて地下に進む階段が見えた。

ツァンと良平はそこを下っていく。

良平はまたキョロキョロとしながら言う。

 

「すごいな……。地下まであるんだ」

 

「研究機関の図書館だもん。当たり前でしょ」

 

「そういえばさっき学生証に専攻とか書いてあったけど、ツァンも何か専攻してるの?」

 

「うーん、専攻というか今はまだ勉強してるだけだけど……。運命力とカードの関係について勉強してるんだ」

 

「運命力とカードの関係?」

 

「うん。例えば……」

 

と言いながらツァンは腰のデッキケースを触れた。

 

「ボクは六武衆、あんたは幻獣機。もしくはそれに補助する力をもつカード……。パック買ったり、ふと手に入るものってそういうのばっかりでしょ」

 

「そうだね」

 

「だから運命力とカードに強い結びつきがあるはずって考えられてるの。そういう勉強かな」

 

「まるで大学みたいだなぁ。じゃあ金とかもそういう勉強をしてるのか」

 

「どうだろう……。金さんや神川さんは実技専攻だし、もっとプレイングに関することを勉強してるんじゃないかな」

 

「実技専攻……。やっぱりクラスによってやることが違うんだな。イメージではみんな実技専攻なのかと思ってた」

 

「よく言われる」

 

「じゃあ、ツァンは凄いね。実技専攻じゃないのに代表チームに入ってるんだから」

 

「へ……!? ま、まぁね!」

 

ふふんと胸張り、チラッと良平を見るツァン。

しかし純粋に尊敬の眼差しを向けているのが気恥ずかしくなってツァンはぷいとそっぽを向いた。

 

「って、別にアンタに褒められても嬉しくないから!」

 

「えぇ……」

 

それから地下に二つほど階段を下ると階段は行き止まりになった。

目の前には大仰な自動ドアと横にパスワードキーがある。

 

「……ここだよ」

 

「凄い頑丈そうな扉……。SFみたいだな……」

 

以前映画で見た映像を思い出す良平。

ツァンが液晶パネルをピッピッといくつか押したあと、学生証をカードリーダーに通すと自動ドアはいとも簡単に開いた。

 

「入って」

 

「う、うん」

 

慣れたように入っていくツァンに良平は少し躊躇しながら着いていく。

中はピッタリとくっついた棚のようなものがいくつも並び、奥が見えないほどだった。

重なっている棚はどうやら半自動で動く仕組みになっているらしく、ボタンを操作することで棚が閲覧できるようになるようだった。

おそらく閉架図書だと言うことは良平にもわかった。

ツァンは良平に向く。

 

「ホントはネットアーカイブで見るのが楽なんだけど、流石に記録が残っちゃうから紙で読んで」

 

「わかった。ホントにありがとう」

 

「それで、何を読みたいの?」

 

「えっと……サイコデュエリストについての論文なんだけど……」

 

「サイコデュエリスト?」

 

「うん。金に教えてもらったんだ」

 

良平が答えるとツァンは人差し指を唇の端に当てて明後日の方を見た。

 

「うーん、昔、デュエル史の授業でそんな名前を聞いた気がするけど……」

 

「それについて書かれた論文、ないかな」

 

「そう言われてもボクはわからないよ……。そこのパソコンで調べてみたら?」

 

ツァンは部屋の端にぽつんと置かれたパソコンを指差した。

先程の言葉が頭に残っていた良平は首を傾げる。

 

「記録残っちゃうんじゃないの?」

 

「これは検索機だから大丈夫」

 

「じゃあ……」

 

パソコンのキーボードを触ると直ぐに検索画面が現れた。

 

「えっと……サイコデュエリストっと……」

 

カタカタ、カチッカチッとパソコンを操作していく。

ツァンは後ろから画面を覗き込んだ。

 

「どう?」

 

「お」

 

検索結果にはいくつもの論文がヒットし、一覧になって羅列された。

 

『サイコパワーとヒーリング 著:十六夜アキ』書庫No.I b2

 

『デュエル社会経済論 著:十六夜アキ』書庫No.I b2

 

『ブラックガーデンの効果と処理によるデュエルディスクの負荷について 著:十六夜アキ』書庫No.I b2

 

『サイコデュエリストと社会論 著:十六夜アキ』書庫No.I b2

 

ツァンは画面を見て眉を動かした。

一覧の大半を占めている名前が知っている名前だからだ。

 

「十六夜アキ……。チーム5dsの……」

 

「知ってるの?」

 

「当たり前だよ。伝説の英雄、不動遊星……。彼を支えた5人のデュエリスト。その一人が十六夜アキ。彼女は、このデュエルアカデミアの卒業生なんだよ」

 

「そうだったんだ……」

 

「まぁ、彼女が卒業したのはこの島じゃなくて、校舎がネオ童実野シティにあったときの、だけどね」

 

「へぇ、昔から島にあるわけじゃないんだ?」

 

「前の前は島だったらしいけど……。街にあった方の校舎はネオ童実野シティ大災害のダメージが響いて老朽化が激しかったんだって。それで10年前にデュエル研究所を退かしてこの島に建てたらしいよ」

 

ツァンは自分の足元を指差して言った。

歴史ある学園であることは知っていたが良平はそれでも驚いてしまった。

それから肩をすくめて良平は言う。

 

「その研究所からしたらとばっちりだね。急にアカデミアにされちゃって。いや研究機関なんだし未だにその機能はあるのか……?」

 

「どうかな……。まぁでもライディングデュエル以外に、スピードデュエルとかアクションデュエルとか次世代のデュエルを開発するーとか言ってたけど、碌に成果あげてないからね」

 

「スピードデュエルにアクションデュエル……。聞いたことないな……」

 

「どっちも研究段階で立ち消えになっちゃったからね。アクションデュエルなんてフィールドを走り回ったりモンスターに乗ったりってやりたい放題のデュエルらしいし」

 

「モンスターに乗るって何……?」

 

「さぁ?」

 

荒唐無稽な内容だけにツァンも肩をすくめてしまった。

二人はいくつかの棚の表記をみながら歩き、そして足を止めた。

 

「……えっと、書庫No.はっと……ここだね」

 

ツァンは棚の前で足を止めてボタンを操作した。

機械が僅かに唸り、重たそうな棚を動かす。

やがてピッタリくっついていた棚は開き、道ができた。

 

「うーん……あ、あった。はい、これ」

 

「ありがとう」

 

良平はツァンが差し出した本を手に取る。

ハードカバーでできたそれはいかにもそれらしい匂いを放つ。

ピラッと捲ると中表紙にタイトルが書かれていた。

 

 

『サイコデュエリストと社会論』

 

本論では、サイコデュエリストがもたらした社会的影響を記述し、デュエルモンスターズを含む社会的な理論を論じていく。

まず本論の主題となるサイコデュエリストについて、その概要と実体について記載する。

〜〜〜

 

冒頭の内容から良平は顔顰めた。

ツァンは不思議そうに顔を覗き込む。

 

「どうしたの?」

 

「……いや当然だけど難しいなって」

 

「あんたねぇ……」

 

呆れたという顔でため息をつくツァン。

良平はこほんと咳払いすると本を持ち直した。

 

「とりあえず必要な情報をピックアップしてみるよ」

 

「はぁ……。仕方ないからボクも手伝ってたげる」

 

「助かるよ」

 

それから二人はその本を立ったまま読み込む。

そこには概ねこのようなことが書いてあった。

 

『デュエルディスクを通じてカードを実体化させる能力を持った者をサイコデュエリストと定義する』

 

『サイコデュエリストは、その能力から社会的に孤立する場合があり、かつてはそのような状態に陥ったものを保護機関を装った組織が悪用する事件が多発していた。(アルカディア•ムーブメントに関する記載は注釈を参照)』

 

『カードを実体化させる力(以下サイコパワーと呼称する)は、サイコデュエリストの体内あるいは脳内に存在しし、その力がカードに伝達することで具現化する』

 

『この能力の発現には、本人の意思が介在する余地はなく、時期も特定ではない。ただし、20歳までに発現するケースがほとんどである。またデュエルのセンスにも差異が見られ、カードを引き寄せる力に関係があると見られている』

 

『この能力を強制的に発現させることは理論上可能だが、被験者に大きな負担が掛かり、精神汚染や細胞の損傷が見られ、死に至る場合がある』

 

「……うーん」

 

良平は本から目を離して唸った。

ツァンも一息ついて腕を組む。

 

「サイコパワーねぇ……。この時代は、まだ運命力の概念がなかったからこういう推測だったみたいだね」

 

「サイコパワーっていうのは運命力と同じなのかな? でもそれなら他の人も実体化させられるはずだし……」

 

「運命力にはまだまだわかってないことが多いからなんとも言えないよ」

 

「んー、そっか……。とりあえずサイコデュエリストについてはなんとなくわかったよ。ただ、そういうやつと戦うってときはどうすればいいのか知りたいんだよなぁ」

 

「この論文には、特定条件下で弱体化するって書いてあるよ」

 

「どこ?」

 

「ほら、ここ」

 

ツァンは良平の持つ本の一部を指差した。

 

『ーーまたサイコパワーは特定の条件下では、能力が低下する例があり、ほとんどの場合は調整を行わないと能力喪失または暴走する可能性が高い。特に精神状態に強く依存しており、その振り幅如何では能力をコントロールできなくなる。他には……』

 

それを読み込んで良平は眉を八の字にする。

 

「精神状態……。これオレら側にはどうしようもないなぁ」

 

「他にはそういうこと書いてないよ」

 

ペラッと確認するようにツァンは本を数ページ戻るがやはり記載はない。

良平は本をツァンに任せて思案する。

 

(……なんだかよくわからないけど、ダメージの実体化には使用者側に問題がある場合に発動するもの、なのかな。……でもそれならヴァールさん達が言ってた闇のカードっていうのは……?)

 

考えるよりも目の前にある資料に頼ろうとツァンを見た。

 

「ツァン……その論文に、闇のカードについて何か書いてないかな」

 

「闇のカード……? あっ」

 

「載ってる?」

 

「この論文じゃないけど……ここの参考文献のところ」

 

本の末尾にある参考文献。

いくつもの著書が羅列されている中からツァンは一つを指差した。

 

『闇のカードと精霊 アカデミアの異世界事件を巡って 著:天上院明日香』

 

良平はその名前を眉を顰めて読み上げる。

 

「これは……てん、じょういんって読むのかな」

 

「多分……」

 

「どこにあるんだろう」

 

「著者がタ行でこれより前の論文だから……こっちかな」

 

ツァンは資料を棚に戻すとトコトコと歩いていく。

数メートル歩いた先にある棚を同じように操作して開いた。

その瞬間、何かが舞うような感覚を覚えて良平は思わず呟く。

 

「ん、埃っぽ……」

 

「この辺りは凄い古い論文だよ。さっきの論文だって60年以上前だし」

 

「……ここ数年はそういう事件は起こってなかったのかな」

 

「革新的な発見がなかっただけじゃない? ……えっと、た、ち、つ……あった! 天上院!」

 

ツァンは少し高い部分を指差した。

そこには確かに天上院の文字。

 

「これだね」

 

良平は手を伸ばして本を抜き取る。

埃が舞うかなと思ったが、意外にもそこは埃っぽくなくて安心した。

開いて中に目を通す。

 

『はじめに。これはデュエルアカデミアで起きた闇のカードを巡る事件を、筆者の体験とそこで起きた事象を分解し論述するレポートである。私見と拙論が多分に含まれる本論に学術的価値は低いが、事件の記録としてここに記載するものとする』

 

デュエルアカデミアの事件、と書いてあり二人は息を呑んだ。

良平は思わずちらとツァンを見る。

 

「……闇のカードを巡る事件……。それもデュエルアカデミアで……。ツァン、何か知ってる?」

 

「知らない……」

 

二人はさらに本を読み進めていく。

 

『デュエルモンスターズのカードには、強弱はあれど秘められた力を有している。その力が強大で使用すると周囲に影響を与えるカードを、我々は闇のカードと呼称することにした。闇のカードを使用したデュエルはダメージが実体化し、負けたデュエリストの持つエナジーを奪い取ることが確認されている。そうして闇のカードは力を増幅させていると思われる。そうしたデュエルを、敵性集団の言に則り闇のデュエルと記載する』

 

『デュエルアカデミアで起きた事件は、この闇のカードとそれに魅入られた者との闇のデュエルによる戦いであった』

 

『アカデミア島での闇のカードによる戦いは大きく分けて二つにわけることができるが、その背景にはアカデミア島の地下に封印されていた三枚の闇のカードの存在があった』

 

『1度目は闇のカードを持つデュエリストとの3枚の闇のカード、三幻魔をかけた戦い。2度目は、破滅の力を使う人ならざる者、デュエルモンスターズの精霊による闇のデュエル、そしてアカデミア島の異次元転移事件。その全ては現代の科学では証明できない事象である』

 

『(中略)……異次元では、人ならざる者が世界を支配し、ディアハ(我々のデュエルに相当する)によって命のやりとりを行う。なおその時空においては全てのカードが実体を持つ』

 

『(中略)……闇のデュエルでは、全てのダメージが実体化する。そのため、極力ダメージを受けない立ち回りが要求される。それ以外に回避する術はない』

 

などと書かれていた。

まだまだ続きが記載されているが一度目を離さないと混乱しそうだ。

ツァンは信じられないと言わんばかりに首を振る。

 

「闇のカード……闇のデュエル……異次元……。なんなのこれ……漫画やアニメの世界じゃない……」

 

「でも」と良平が続ける。

 

「ダメージの実体化は、現実に起きてる……。信じたくはないけど……」

 

「……そうだね。……これとさっきの論文をまとめると、ダメージが実体化するのは、使用者側に問題がある場合と、カード側に問題がある場合、それから空間に問題がある場合の三つがあるってことみたいね」

 

ツァンは良平を見上げて整理する。

否それは自分に向けて言っているかのようだった。

良平は最も知りたい部分を口にする。

 

「……それで戦いに巻き込まれた時の解決策は……」

 

答えたのはツァン。

 

「……デュエルに勝つ事」

 

堂々巡りだ。

ダメージを与えてくる相手にはデュエルで勝たねばならぬ。

しかしそれはダメージの実体化に対抗する術としてはあまりに稚拙だった。

良平は右手で額を抑えてしまう。

 

「……だよなぁ……。はぁぁ、困ったなぁ。あの金が耐えられなかったものを俺に耐えられるわけないよ……」

 

相手は倒せるかも知れないが根本の実体ダメージをなんとかはできないわけだ。

それこそノーダメージで勝たない限りは。

 

「……何か他にいい方法があればいいんだけどなぁ」

 

パラパラと本をめくっていく良平。

 

「……ん?」

 

とあるページで良平は手を止めた。

論文の端っこ。

鉛筆の走り書きでこう書かれていた。

「骨子 ネクロス計画」

と。

 

「なんだこれ……?」

 

良平がつぶやいたその瞬間だった。

不意に入り口の自動ドアが開く音がした。

コツコツと静かな閉架に足音が響く。

良平とツァンは思わずその足音に身体を強張らせた。

 




◾️注釈
※アルカディア・ムーブメント……5dsの設定。サイコデュエリストを実験して兵器にしようとしていた。既に壊滅済み。この話では名前だけなので気にする必要はなし。
※明日香さんのレポートは遊戯王GXの1〜3期の話です。

小説形式について 地の文やテキスト量

  • 読みやすい(テキスト量が妥当)
  • 前の方が読みやすい
  • 地の文が長い
  • 誰が喋っているかわかりにくい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。