遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~   作:レトやま

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第27話 「ベスト8決定戦開幕! vsチームコーポレート!!」後編

[ネオ童実野シティ 裏路地]

 

爆音が鳴り響く。

ビルとビルの間にを化け物は壁を破壊しながら追い詰めてくる。

虹の羽根を持つネオスは半透明になりながらも二人を守る盾となっていた。

しかし猛攻は続く。

粉塵の中、ここのせはどくどくと脈打ちながら大量の血液を垂れ流して壁伝いに歩く。

 

「くっ……!」

 

亜美はここのせの身体を支えながら後ろを振り向く。

レインボーネオスの身体の向こうに無機質な化け物が迫っていた。

 

「追いつかれる……!」

 

黄色と銀の機体を振り回して化け物は意味不明な言葉のような音声を出していた。

その身体の下には少年。

涎を流しながら白目を剥き、ただ喉が張り裂けるばかりにさけんでいた。

 

「……全部全部全部全部全部ーー!!」

 

「ーーバグを除去。除去。除去。人間をプログラ??に従い破壊??????壊??????壊??」

 

 

機械の化け物は呼応するように音声を流す。

聞くだけで鳥肌が立つ不協和音のような声。

化け物の構造物がズンと地面を抉る。

凄まじい揺れでガラスが再び割れた。

 

「うぉっ!!」

 

「ぐぅっ!」

 

二人は叫びながらも足を止めない。

眼前にはビルの途切れ目。

微かに見える海の煌めき。

 

「ッ、もうちょっとで旧サテライトエリアに出るわ!」

 

亜美はそう言ってここのせの手を強く握る。

諦めるな、と言いたげに。

 

「……ッ」

 

滝のような脂汗をダラダラと流しながら歩くここのせ。

逸る心臓。

流れる血潮。

 

[旧サテライトエリア 海岸線]

 

やがて長い長いビル群の道を抜けいよいよ出口が近づく。

亜美はここのせを励ますように大声で叫ぶ。

 

「よし、路地を出るわよ!」

 

「ッ……おう……!」

 

路地を抜け、広い場所に出る。

しかし、それが一瞬の油断に繋がった。

背後の化け物は再び無機質な音声を出しながらエネルギーを中心に集めていた。

 

「除去。除去。除去。??ログラ??に従い破壊??????壊??????壊??」

 

ジジジジ、とノイズのような音がしたかと思うと熱線を吐き出す。

一直線に空間を貫く光線が二人の間に着弾した。

 

「ッ!」

 

「ヤバっ!?」

 

一瞬の間。

次の瞬間に地面が捲り上がり爆風が二人を吹き飛ばした。

 

「ぐぉ……!?」

 

ここのせは左に。

 

「うっ……!」

 

亜美は右に吹き飛ぶ。

硬いアスファルトを擦りながら地面を転がり、やがて止まる。

ここのせは足を抑えてうずくまった。

 

「ッ〜〜!! 痛ってぇ……!!」

 

「ぐっ……!」

 

亜美も痛みに顔を顰めて顔をあげる。

見えた光景にはっと目を見開いた。

 

「??メージ効????効????効???????壊??????壊??????壊?」

 

路地から現れた化け物はギュルンッと生物感のない動きでここのせの方を向いた。

 

「……うっ……! 狙いは……オレか……!」

 

「くっ……! レインボーネオス! ここのせをお願い!」

 

亜美は手を差し向けてレインボーネオスに指示を飛ばす。

 

「ハァァァッ!」

 

亜美の指示にレインボーネオスは飛んでいくが。

彼女から離れるたびに薄くなっていき、徐々に消えていく。

 

「そんな……!?」

 

「ぐ……」

 

ここのせはなんとか上半身をお越して決闘盤を起動させる。

デッキをセットし5枚カードを引く。

 

「せ、閃刀姫ーレイを召喚……!」

 

震える手でカードを置く。

半透明なソリッドビジョンのモンスターが現れる。

 

「ハァッ!」

閃刀姫-レイ

攻:-- 闇 戦士族 星4

 

しかし。

化け物が構造物で振り払うとソリッドビジョンはジジッとノイズが入った後に消えていった。

とても質量があるように見えない。

 

「くそ……ダメか……」

 

化け物は容赦なく構造物を振り上げる。

ここのせは唖然と見上げて呆けた声を出した。

 

「あ……」

 

「ここのせぇぇぇ!!」

 

亜美の悲痛な声が響く。

身体をお越して走る。

(くそっ、間に合わないッ……!!)

 

どうすればいい。

亜美は何もできない目の前の状況を憎んだ。

その刹那だった。

 

 

 

「ーーーーーーー影依融合」

 

 

 

其れは空虚な魂の鼓動。

黒い影が蠢いてグルグルと輪廻を繰り返す。

やがて黒い光が一瞬視界を奪ったかと思うと、凄まじい轟音が響いた。

見ると機械の化け物が痛烈に弾き飛ばされ壁に激突していた。

粉塵が強烈な爆風となって襲いかかる。

 

「おわぁっ……!?」

 

思わず目を瞑って叫ぶここのせ。

その隙に亜美はここのせの下に駆け寄った。

 

「ッ!? ……ここのせ!大丈夫!?」

 

「……あんまり大丈夫じゃねぇけど……いったい何が……」

 

二人は化け物がいた場所を再び見上げる。

そこには。

 

「ーーーーーー」

 

一言で言えば。

紫色の化け物。

シスターのような紫色の外装。

白くて無機質な顔に、人形のような節々。

腕から光の糸がいくつも生き物のように靡いている。

 

「な、何あれ……!?」

 

「化け物がもう一体……!?」

 

二人は息を呑んでその化け物を見つめた。

 

「ーーーーー」

 

紫色の化け物は二人に見向きもせずに光の糸を機械の化け物に差し向けた。

グルグルと縛り上げ軋んだ音がする程締め上げていく。

 

「シス????に不??なバグを検知。検知。検知?」

 

機械の化け物は無機質な音声と不快な不協和音を垂れ流す。

下にいる少年は苦しそうに頭を掻き上げ、血走った目で紫色の化け物を睨んでいた。

 

「グゥゥッ! オノレソピアァァァァァ!!」

 

少年とは思えない獣のような声。

やがて空間がじりじりと歪む。

まるでノイズのように。

空間に黒い線がいくつも入ったかと思うと化け物と少年は消えてしまった。

 

「消えた……!?」

 

亜美は目を見開き声を上げる。

 

「うっ……くそ、どこ行きやがった……!?」

 

痛む足を堪えてここのせは辺りを見回す。

しかし、至って平穏な日常があるだけで化け物らしいものはいない。

紫色のモンスターは役目は終わったとばかりにゆっくり消えていく。

キラキラと光の粒子が亜美とここのせの後ろへと流れていった。

 

「あのモンスターも、消えたわ……」

 

亜美はぽつりと呟く。

光の粒子がやがて一つに集まり一瞬光ったかと思うと内側から足音がした。

光の中から出てきたのは見窄らしいボロ布をフードのように被った人物。

フードの中には細くて繊細な髪の毛、光の無い瞳。

少女であった。

彼女は二人を見て口を開いた。

 

「あら、貴女達。こんなところで会うとは奇遇ね」

 

聞き覚えのある声に二人は眉を動かした。

フードの少女はここのせに目を向ける。

 

「お怪我はないかしら、と聞こうと思ったのだけれど愚問のようね」

 

「あ、アンタ……輝!?」

 

亜美は驚きを隠せないように目を丸くして言った。

フードの少女ーー平畑輝。

いつかゴミの山でであった少女。

 

「ごきげんよう祭乃木さん、それに能瀬くん。お久しぶり、というには少し語弊があるようだけれど。便宜上言っておくわ。ーーお久しぶり」

 

「さ、さっきの紫色のモンスターは、お前が……!?」

 

ここのせは地面に座り込んだまま輝を見ると、彼女は無表情のまま頷いた。

 

「ええ。……いつかの恩を返せたようで何よりだわ」

 

それから亜美とここのせの足を一瞥してさらに続ける。

 

「それにしても。時空の歪みを感じて来てみたらクリフォート供がいるのは案の定なのだけれど。貴女たちがいるのはとても予想外だったわ。火遊びというには少々おいたが過ぎる相手なのだけれど」

 

「待った待った!」と亜美は手のひらを輝に見せながら言う。

「アタシ達は、あの中学生に声をかけただけよ? ってかクリフォートって……」

 

言いかけた瞬間。

輝は何かを感じたように素早く目線を別の場所に向けた。

 

「シンクロ召喚ーーー」とその場の誰でもない少女の声。

 

☆4+☆3=☆7

 

シンクロリングが並び一文字に光が通過していく。

やがて光は紅の目を持つ黒い竜へと姿を変えた。

 

「グォォオォオォオォオォオォオッ!!」

真紅眼の不屍竜

攻:-- 闇 アンデット族 星7

 

「……ダークネクロフレア……!」

 

「グガァァァァッ!」

 

突如現れた黒い竜は口蓋にエネルギーを集約する。

対する輝は表情ひとつ変えずに指先をくいと曲げた。

細い光の糸がぴんと伸びたかと思うと傀儡の黒い鳥がカラカラッと音を立てながら飛んできて大きな羽根を広げた。

エネルギー弾は傀儡の烏に遮られ霧散する。

さらに素早い足音がしたかと思うと銀髪のツインテールが無表情のまま仄かに光るデュエルディスクを構えていた。

 

「……擬似運命力、凍結展開……」

 

「恵!?」

 

靡く童実野二高の制服に亜美は声を上げる。

黒い竜を従える少女ーールイン恵はちらと亜美とここのせを一瞥した。

輝は戦闘態勢を解除し腕を組む。

 

「……随分なご挨拶ね。ロボットの間ではそれがトレンドなのかしら」

 

「……」

 

睨み合う両者。

亜美は素早く二人の間に割って入った。

 

「待って恵!」

 

「……」

 

「輝は違うわ! さっきのモンスターはもう消えちゃったのよ!」

 

「……しかし、彼女から時空震源となりえる熱量を検知される。警戒が必要……」

 

未だにデュエルディスクを構え続ける恵に輝は自嘲するように口の端を上げる。

 

「良い心掛けね。確かにそうね。そう簡単に知らない人を信頼してはいけないわ。……私は決してあなたたちの味方というわけではないのよ」

 

そんな会話の最中、地面に座り込んだままのここのせはふらりと上半身を揺らして倒れ込む。

 

「ッここのせ!」

 

「……だ、大丈夫だ……ちょいと貧血気味なだけだぜ……」

 

亜美に抱き抱えられながらここのせは流れる脂汗を拭くこともできない。

恵はデュエルディスクのデュエルモードを解除してここのせに駆け寄った。

 

「……負傷者を確認。ファーストエイドシーケンスを実行する……」

 

バッと勢いよく上着を脱ぎ、恵は着ていたシャツを破く。

胸から腰回りにかけての布が破れ、内側のキャミソールまで見えているのでここのせは思わず目を逸らした。

 

「お、おい……!」

 

「……動かないで……」

 

「手伝うわ!」と亜美もここのせの上半身を支えながら言う。

恵は布を細長くちぎりながら口を開いた。

 

「……痛みを伴う。祭乃木亜美、ここのせを押さえていてほしい……」

 

「わかったわ!」

 

ガシッとここのせの肩を抱くようにして押さえつける。

その間に恵はここのせの血だらけの足に手を伸ばし、刺さっているガラス片を素早く抜き取った。

粘液が飛ぶ音がした。

 

「ごぁぁぁっ!! 痛ってぇぇぇぇ!!!」

 

あまりの激痛にジタバタと身体を動かすここのせに亜美は肩を抑え、右手でここのせの頭を自分の胸に押し付けた。

 

「我慢しなさい!」

 

「……」

 

その隙に恵は破いたシャツをシュルシュルと傷口に巻き付け、きつく締め上げた。

亜美の胸から頭を離し、ここのせは歪む顔で恵に言う。

 

「ぐぅ……! も、もっと優しくやってくれよ……」

 

「……最適解で摘出している。理論上、不可能……」

 

顔は上げずにハンカチで周りの血を拭き取る恵。

亜美はここのせを離すとポケットのスマホに手を伸ばした。

 

「……病院に電話するわ!って、めちゃくちゃ電話きてる……あぁぁぁぁぁ!!!」

 

亜美は顔を真っ青にして叫ぶ。

その声にここのせも顔を上げた。

 

「……WSCの時間がやべぇんじゃねぇか!?」

 

「くっ……! でも、アンタの身体には引き換えられないわ! 病院に電話を……!」

 

「……電話くれぇ自分で出来らぁ! お前は二人に電話しろ!」

 

「ッ、わかったわ!」

 

亜美は素早く不在着信のボタンを押し込んだ。

 

 

[ネオ童実野シティメモリアルスタジアム 選手控室]

 

一方、メモリアルスタジアムの選手控え室ではスタッフと書かれた帽子を被る男性が良平に向けて首を振っていた。

 

「……いやそれは、ダメですね」

 

「どうしても、ダメですか?」

 

「そうですね、デッキ登録の時間は厳守しないと大会の公平性が失われてしまいますので……。それとデッキ登録には選手票が必要になります。口頭ではちょっと……」

 

「そうですか……」

 

チラッと壁掛け時計を見る。

試合開始7分前。

デッキ登録期限は残り2分。

スタッフは眉を顰めて言う。

 

「……あの、そろそろデッキ登録してもらえないと棄権扱いになってしまいますよ」

 

「……」

 

押し黙る良平をゆきは涙目で覗き込む。

 

「ひひ日和田さぁん……! どどどうしましょう……!!」

 

「……」

 

その刹那。

ゆきのスカートから大きな着信音が鳴り響く。

 

「ひゃっ!?」

 

ゆきは目を丸くしてからはっとしてスマホを取り出した。

 

「さ、祭乃木さんですぅ!」

 

「まじで!?」

 

「も、もしもし!」

 

素早く応答ボタンを押して耳に当てる。

すると奥から焦りを隠せない亜美の声がした。

 

『あ! ゆき!? ごめん!! ちょっとゴタゴタに巻き込まれちゃって!!』

 

「えっと、祭乃木さん! デッキ登録の期限が後ちょっとで終わっちゃうんです! 今どこにいますか!?」

 

『今旧サテライトエリアの海岸線にいるの! ここからだと走っても10分は掛かるわ……! それに、ここのせが怪我してて……!』

 

「えぇ!? な、何があったんですかぁ!?」

 

『例のモンスターにやられたの……! ここのせを病院に連れて……え、何よ……え、でも……』

 

電話の向こうで亜美の声が遠ざかる。

聞き取れないが奥で誰かと話しているようだった。

ゆきはさらに続ける。

 

「あ、あの祭乃木さん! 実は恵さんもいなくなっちゃって……」

 

『恵はこっちにいるわ! ……ってあれ? こっちに3人いるって……やばくない?』

 

「どどどどうするんですかぁ……!?」

 

目をグルグルとさせながらゆきは叫ぶ。

スタッフは困り果てたように声を出した。

 

「あの、もうデッキ登録してもらわないと……」

 

「あわわわ……!」

 

『……ッ良平に代わって!』

 

「は、はい! 日和田さんッ!」

 

亜美の声にぴんと背筋を伸ばすとスマホを良平に渡す。

良平はゆっくりと耳を当てた。

 

「……どうする、祭乃木」

 

『良平。ーーアンタに任せるわ』

 

「え?」

 

『無理を言ってるのはわかってる。けど、このまま棄権になるくらいなら、アンタとゆきの可能性に賭けるわ!』

 

「俺と間宮の可能性……」

 

『そうよ! 棄権なら0%でも挑めば99%!必ず希望はあるはずよ!』

 

「……」

 

スマホを握ったまま良平は再び口を閉ざした。

記憶中枢が強く強く揺すられた。

 

『ドローすれば1枚よ! このドローには可能性が詰まってるんだから!』

 

(ーーあの日の祭乃木の声は、今も俺の中に残り続けている)

 

可能性を信じてカードを引くあの姿。

可能性を信じて戦い続ける強き決闘者の姿。

良平は考える前に答えていた。

 

「……わかった」

 

『ーー頼んだわよ!』

 

「……」

 

電話はそこで切れた。

ゆきは心配そうに良平を見つめた。

 

「ひ、日和田さん……?」

 

「……間宮」

 

「は、はい……?」

 

不安そうに揺れるゆきの瞳を良平は真っ直ぐに見つめた。

 

「……俺たちだけで出る」

 

「へ……? え、えっと……?」

 

「間宮が先発、次に俺が行く。とにかく、デッキ登録をしよう」

 

「えぇ!? わ、わたしたちだけで……!? そ、そんな……」

 

ゆきは目をこれでもかと見開いて震える声で言った。

信じられないという顔を良平は逸らさずに続ける。

 

「……。祭乃木が俺たちに任せるって。勝ち目はないかもしれない。けど、可能性は0じゃない」

 

「祭乃木さんが……」

 

「やれるだけやってみよう、間宮」

 

「……ッ…………!!」

 

既に覚悟を決めた良平の瞳は。

その奥に秘める何かを感じ取り、ゆきは背中に冷たいものを感じた。

 

 

[ネオ童実野シティ 旧サテライトエリア海岸線]

 

 

「……頼んだわよ」

 

ピッと通話を切ると亜美はここのせを振り返る。

 

「さぁ、ここのせ! 病院に……」

 

「祭乃木」

 

遮るようにここのせは言う。

ヨロヨロと恵に支えられながら立ち上がった。

 

「……」

 

傍にいる恵はここのせの身体を支えつつ亜美を見ていた。

ここのせは痛みを堪えながら声を出す。

 

「オレは自力で病院に行ける。祭乃木、お前は大会にいけ」

 

「え……?」

 

「……試合には出れねぇかもしれないが、お前は絶対にいなきゃダメだ」

 

「でも……!」

 

アンタが心配だと続けようとした亜美にここのせは大声で止めた。

 

「ヒーロー部はお前がいなきゃ始まらねぇんだ! アイツらを支えてやれ!」

 

「ここのせ……」

 

「それにオレは足をやっただけだ。こんなもん死ぬような怪我じゃねぇよ」

 

強がりだ、とすぐにわかった。

しかしそれがこの男の矜持だと理解している。

亜美は頷いた。

 

「……わかったわ。けど、病院で診てもらったら連絡しなさいよ!」

 

それから亜美は恵に目を向ける。

恵は真っ直ぐに受け止めて言った。

 

「……ここのせを病院まで護送するのは任せて……」

 

「うん! お願いね、恵!……輝! さっきは助かったわ! ごめん、ゆっくり話せなくて!」

 

少し離れた場所に腕を組んで立つ輝に振り向く亜美。

輝は光の無い瞳を向けて平坦な声を出した。

 

「お気になさらず。急いでいるのでしょう? 早く行った方がいいわ」

 

「うん!」

 

短く返事をすると亜美は踵を返して走っていった。

ポニーテールを揺らして去っていく姿に肩を竦めると輝はここのせを見た。

 

「……忙しないわね。さて、能勢くん、そしてルインさん、早いところ病院に行った方が良いわよ。傷が残ってしまうと後々後悔することになるでしょうね」

 

それだけ言うと輝も踵を返して歩いていく。

フードを再び被り早足に。

ここのせは思わず口をあけた。

 

「……待ってくれ! お前は一体何者なんだ……?」

 

輝はというと足を止めて振り返ると唇に人差し指を当てた。

 

「ヒミツ」

 

そしてまた前を向き歩き始める。

 

「情報とは秘匿してこそ意味があるのよ」

 

「……なんでぇそりゃ」

 

後には二人だけが取り残され、潮騒と船の汽笛だけが響いていた。

 

 

[ネオ童実野シティメモリアルスタジアム]

 

試合開始3分前。

関係者席にカメラマンがガチャガチャと機材をセットしている。

電光掲示板には大きくチーム名が表示されていた。

白い丸がチームメンバーの数を示している。

 

チーム コーポレート◯◯◯

vs

チーム HERO◯◯

 

観客席はザワザワと人混みに溢れていた。

コーポレート側観客席は満席である。

客は各々の席に座って雑談する。

 

「今回席取れてよかったねー」

 

「あーなんか今回、倍率低いらしいよ。ほら、例の高校生のチームだからさ」

 

「あぁ。まぁ記念にいいんじゃない?」

 

「あれ? 掲示板おかしくない?」

 

一方が掲示板を指差した。

白い丸の数が一つ足りない。

 

[ネオ童実野シティメモリアルスタジアム デュエルフィールド]

 

デュエルフィールドに設置されたスピーカーが爆音でファンファーレを流す。

その瞬間に会場はワァッと湧き上がった。

フィールドの中央に立つカラフルなスーツにリーゼントの男がマイクを振り上げる。

 

『お待たせいたしましたァァァァァァ!! ワールドスタンディングデュエルクラシック! 第3回戦を開始するぞォオォオォオォオ!!』

 

ワッと会場が応える。

 

『この第3試合は、ここネオ童実野シティメモリアルスタジアム以外にも世界各地のスタジアムで、同時進行で試合が行われるぞォオ!!』

 

呼応するように電光掲示板がチカチカと明滅する。

 

『第3試合はいわば、WSCにおいて儀式のようなもの! 前回大会の超有力な8強のチームと一般参加チームが凌ぎを削り、ベスト8を決定する試合!! つまり! この試合によって次世代の8強が決定するのだァァァァァァ!!』

 

熱狂、歓声、拍手。

この会場はまさにコロシアム。

司会は続ける。

 

『ネオ童実野シティでは、ネオ童実野シティデュエルスタジアムとネオ童実野シティメモリアルスタジアムの2カ所同時開催となる!! 対戦カードはァァァァァァ!』

 

電光掲示板はバァァンッという音と共に会場映像が左右に分かれて表示された。

 

『ネオ童実野シティデュエルスタジアムではBブロック! チーム煉獄対チーム agentの対戦が! そしてここネオ童実野シティメモリアルスタジアムでは、Cブロック! チームコーポレートとチームHEROの対戦がそれぞれ繰り広げられるぞォオォオ!!』

 

一挙手一投足がスタジアムジョッキーの思うがまま。

会場が揺れるほどの熱気。

 

『チームコーポレートは、3つの株式会社による共同出資により結成されたチーム! その実力は、前回大会ベスト4という結果が示しているだろう!! 』

 

紹介と同時に青髪のツインテ縦ロールの女ーー海野幸子と金髪のロングウェーブの女ーー新田アナスタシア、そして黒いショートカットの女ーー窪川夢迦がフィールドに現れた。

全員がスーツを着用している。

 

『対するチームはァァァ! 一般参加にして初出場! 高校生による奇跡のチーム! チームHERO!!』

 

紹介と同時にーー2人がフィールドへと姿を現す。

間宮ゆきと日和田良平。

たった2人のみが。

 

『ん??? ……お、おぉっとォオォオォオ!!? ここで新たな情報が届いたぞォオォオォオ!? なんとチームHEROのデッキ登録は2名分のみ! つまり2対3という圧倒的に不利な状況で戦うことになるゥゥゥ!!』

 

あまりの衝撃からか司会であるスタジアムジョッキーは割れる寸前の声を出した。

会場はどよどよと淀む。

 

『一体何があったというのかァァァ!!』

 

そんな声を他所に幸子は腕を組んで斜に構えて2人を見た。

 

「舐めてるんですの? 学生程度の人間がたった二人でわたくし達に挑むなんて」

 

アナスタシアは馬鹿にしたように肩を竦めてベンチに戻っていった。

 

「ま、所詮は庶民の戯れ。記念出場でしょう? 早いところ終わらせましょう」

 

そんなアナスタシアに夢迦は苦笑いした。

 

「……やれやれ、困ったお嬢様だ」

 

それから良平を見る。

 

「……君たちは、成城で見かけた子達だね。リーダーの彼女はいないのかな?」

 

良平は答える。

 

「……ちょっとした事故にあって来れなくなってしまって……。って、あなたは俺達のことを……?」

 

「ふふ、対戦相手のことはしっかり調べるさ。まぁ、マジメにやっていたのは僕だけのようだけど。それで? 君は諦めないのかい?」

 

「……わからない。でも……」

 

良平の脳裏に亜美の声が過ぎる。

『良平。ーーアンタに任せるわ』

 

「……やれることをやります」

 

「あら生意気なこと」と幸子が忌々しそうに言う。

「わざわざ負けにくるとは、庶民のことはわかりませんわ」

 

「まぁまぁ」

 

夢迦は幸子の言い草を宥めると前に立つ良平の瞳を覗き込む。

 

「……」

 

「……」

 

良平の瞳の奥。

その瞳孔を見た瞬間、夢迦は艶美な笑みを浮かべ舌なめずりをした。

 

「……ふふっ。なるほど、君達は奇跡が起きる可能性に賭けているのか。いいよ、そういうの。僕は嫌いじゃない」

 

「……」

 

「でも、僕達はチームコーポレート。8つの強豪チームの一つ。奇跡が起きる可能性が高いとは言わせないよ。それでもよければ、全力を賭してかかってきなよ」

 

それだけ言うと夢迦もクルッと踵を返して颯爽と歩いて行った。

良平はゆきに振り向く。

 

「……間宮、先発頼むよ」

 

「……は、はい……!!」

 

ガチガチガチとゆきの左腕につくディスクが揺れる。

ゆきは震える手でなんとかデッキセットした。

顔は真っ青で息も上がっている。

良平はそんな彼女を見つめた。

 

(間宮が震えてる……。そりゃそうだ、急にこんな状態でデュエルしなくちゃいけないんだ)

 

「……ひ、日和田さん……!」

 

ゆきが俯きながら言う。

 

「ど、どうしたの?」

 

「……ど、どうしましょう……あ、あ、頭が真っ白で……」

 

真っ青な顔をあげてゆきは呟いた。

手は痛々しいほど震え、とてもカードを持てそうにない。

 

「……えっと」

 

良平は言葉に詰まって口を閉じる。

 

(くそ、言葉が出てこない……。祭乃木ならうまく言ってやれたと思うのに)

 

その時だ。

ガシャァァンッとHERO側ベンチから音がした。

二人が振り向くと、そけには見慣れた赤い髪。

 

「はぁ……! はぁ……!! りょぉぉへぇぇぇ!! ゆきぃぃぃぃぃぃ!!」

 

汗をダラダラと流しながら亜美がベンチに身を乗り出して叫んだ。

 

「あっ……!! 祭乃木さぁん……!!」

 

「祭乃木……!」

 

「ごめぇぇぇぇぇんっ!! 全力で応援するからぁぁぁぁぁぁ!!」

 

彼女の声が二人の耳を撫でた。

ゆきはグッと力を込めて拳を握る。

 

「……よ、よぉーし!」

 

「……間宮?」

 

「ほんのちょっとだけですが、落ち着いた気がします……! 日和田さん、さっきいただいたアドバイス、頑張ってやってみますぅ!」

 

「……うん、頼むよ!」

 

一安心して良平は頷く。

ゆきは未だ震える足でフィールドに足を踏み入れた。

 

「ふ、不肖、間宮ゆき! 参ります……!」

 

[デュエルフィールド]

 

「お戯れはよろしくて?」

 

くだらないと言いたげな冷やかな目で幸子は言い放つ。

ゆきは叫ぶようにして応えた。

 

「は、はい……! よ、よろしくお願いしますぅ……!」

 

『チームHEROは圧倒的に不利な状況ではあるが、ルールに則り、公正にデュエルは進行するぞォオ!! 前代未聞! 2対3のチームデュエルが今スタートするぞ!!』

 

どよどよとざわついていた観客は忘れたように一気に歓声をあげる。

スタジアムジョッキーはさらに焚き付けるように大声を上げた。

 

『スリィィィィィィ!! ツゥゥゥゥゥゥゥ!! ワァァァァァァァァンッ!! ーーーデュエルスタァァァトォオォオォオォオ!!』

 

「デュエル!」

 

「デュ、デュエルッ……!」




はよデュエルせいって感じですよね。
次回からデュエルです!

◾️次回予告
寝る前決闘空間第28話
『窮地! 絶対絶命ヒーロー部!! 2対3のデュエル』
デュエルスタンバイ

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