遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
①今回、アニメ設定に関わる設定が登場しますが、本来のアニメ世界線にはない設定が登場します。
そういう世界線として処理してください!
②古事記や風土記の話が少しだけでますが内容は全部出鱈目です。本来無い記載をあるものとして書いています。
…
……
………
目の前が白くぼやけて見える。
ただどこからか歓声が聞こえていて足元は芝生だった。
そこにここのせは立っていた。
『おーほっほっほっ!』
目の前の決闘者が笑う。
8強の一角、チームコーポレートの新田アナスタシアだ。
マジックトラップ:
セットカード2
フィールド:
驚楽園の支配人 <∀rlechino>
驚楽園の大使 <Bufo>
驚楽園の案内人 <Comica>
ここのせは息を切らせながら相手のフィールドと自分のフィールドを見比べた。
自分フィールドには一切のカードはなし。
手札はわずか1枚。
ライフポイントは2000になっていた。
『ハァァァッ!』
アルレキーノが声を上げて吶喊してくる。
モンスターのダイレクトアタックだとすぐに気が付いた。
しかしできることはいかばかりもない。
『く、くそぉォオォオ……!!』
LP:2000→0
ここのせは悔恨の声を上げる。
しかし成す術なくライフポイントは0になり、ブザー音が鳴り響いた。
『ここで力尽きたかァァァ!! チームHERO、奇跡は起こらず!! 勝者は、8強!! チームコーポレートォオォオォオッ!!』
ワッと会場が沸き上がる。
拍手が喝采し、インタビュアー達が相手選手を取り囲んだ。
相手は特に喜ぶこともせずにすました顔で応対していた。
『ぐっ……!』
悔しさに拳を握っていると背後から声がした。
『負けちゃったわね……』
『あうぅ……』
『……』
『2対3だったんだ、仕方ないよ……』
仲間たちの声。
しかし振り返らない。
否、振り返れない。
『そうね。残念だけど、しょうがないわ。また来年、戻ってきましょ』
亜美の残念そうな声がここのせの心を蝕んでいく。
力が抜けて膝から崩れてしまう。
『すまねぇ……! オレのせいで……!!オレのせい……!!』
…………
……
…
「ーーーーんっ……」
喉が渇いている。
窓の外から雀が鳴く声がしていた。
目線の先には天井、周りを見ると枕は彼方へと飛び去り腹の周りにタオルケットだけが掛かっている。
見慣れた自分の部屋。
「……っあー」
掠れた声でここのせは声を出した。
目の前の現実はどうやらそこにあるらしい。
ベッドから降りて床に足をつけると右足がズキリと痛む。
「いでで……」
痛みを堪えながら部屋を出る。
クーラーをケチった部屋は朝だというのに既に湿度の高い暑さを感じる。
台所の棚からコップを取り出すと冷蔵庫の製氷機を引き出す。
大きめの氷を3つコップの中に放り込むとガラスの渇いた音が聞こえた。
それから冷蔵庫の中から作り置きしてあった水出しの麦茶を注ぎ入れる。
トクトクと麦茶が流れる音の中に氷が温度差でヒビが入る音がした。
「……んぐ、んぐ……」
コップを掴み口に含むときんと冷たい質感が口全体を覆って、それが喉を通っていく。
体温と共に上がりすぎた血圧がすっと引いていくのを感じた。
「はぁぁ……」
グイッと袖口で口を拭うとここのせは深く息を吐いた。
「……ったく、なんつー夢だよ」
さっきまで見ていた夢を思い出してここのせはつぶやいた。
いい夢はすぐに忘れてしまうというのにこういう夢だけはやけに頭にこびりついて離れない。
「せっかく気持ちよく勝ったってのによ」
そうは言ってみたものの、勝利の余韻を味わう暇などなく。
試合後はインタビュワーに追われてそれどころではなかった。
良平がしどろもどろに回答していたのをよく覚えている。
(……良平はチームコーポレートを打ち倒した。3人を相手に勝ち抜いた)
コップを置いてここのせはどこを見るでもなく立ち尽くした。
氷がまたからりと鳴る。
(……でも、もしあの場に立っていたのがオレだったらーーーー)
勝てただろうか。
いや。
その結果はおそらく。
『それが今のお前さんには足りない力っちゅーわけじゃ』
いつか言われた言葉が再び頭をよぎる。
「くそっ……」
ここのせは拳を握りしめた。
それで何が始まるわけでもないと知っていながら。
それからハッとして首を振った。
(ッ馬鹿やろう! 余計な想像で腐んな!)
ふとリビングの壁掛け時計に目を向けると針は6時32分を指していた。
(二度寝するにゃ微妙な時間だな……)
早朝とは言えもう日は明るく、家の外からはもう生活の音が聞こえ始めている。
「……」
ここのせは自分の部屋に戻ると本棚に手を伸ばした。
古事記、日本書紀から始まり北欧神話にギリシャ神話等の本が並んでいて、その中から古事記を引っ張り出す。
机のライトをつけて本を開く。
しばらくページをめくり、めぼしい発見はなさそうだと椅子にもたれかかる。
(何回読んで一緒か。創造神……いや創星神の話は出てこねぇ。もっと深く書かれているもの読みにいくしかねぇけど……ノーヒントってわけにもいかねぇな……。……そういう情報なら恵に聞くのが一番手っ取り早いんだろうが)
きっと恵なら聞けばすぐに答えてくれるだろう。
「そいつは、違うよな」
それからここのせはスマホを取り出すと数回スワイプを繰り返す。
検索エンジンに星遺物について問うてみる。
しかしそこに出てくるのは個人がまとめたブログばかりで、それも「力無きものに力を与える幻のカードがあるらしい」としか書かれていない。
(……星遺物について調べても碌に情報は出やしねぇ。だが、デュエルモンスターズのカードである以上、なんかしらヒントはあるはずだ。神話とデュエルと……)
再び検索エンジンに入力する。
勿論本気で見つかるとは思っていなかったがいくつか検索結果が表示された。
「おっ……」
画面には
【童実野天神社
アクセス:
バス停 童実野天神前より徒歩2分】
と大きく映し出された。
「って、デュエル神社かよ……めちゃくちゃ近所の神社じゃねぇか……)
ここのせはあまりの肩透かしぶりに大きく溜息をついた。
童実野天神社は名前の通り童実野シティの郊外の端にある神社で周りの地区は天神と呼ばれている。
同級生の何人かもそこに住んでいるほどに近所であった。
(築100年くれぇの新築神社だ。ご利益もなんもあったもんじゃないぜ。しかも建てたのはI2社ときた。日本企業ですらねぇ)
I2社とじはインダストリアル・イリュージョン社のことで、このデュエルモンスターズを作った会社である。
スマホ画面をもう少しスクロールしてみるとこんなことが書かれている。
【童実野天神
今年で建立102年となります。
ここにいるのはデュエルモンスターズの神!】
それを見てここのせは苦笑いする。
「……デュエルの神ってもなぁ、あれ御神体って言っていいのかよ……」
思い浮かぶのはあの伝説の決闘者、キングオブデュエリストが使っていたとされる三幻神のカード。
その絵柄をそのまま木彫りにしたような置物。
(子供の頃に一度行ったきりだ。さしてデカくもねぇ場所だし、ヒントがあるとも思えねぇけど……ま、散歩がてら行ってくるか)
[ネオ童実野シティ 郊外 天神地区]
外を歩くと日差しが強めに差し込んでいてすぐに汗がにじみ始めていた。
制服に着替えて外を歩くとやはり蒸し暑さを感じる。
ただそれ以前にここのせは足を引きずるようにして歩いていて、別の汗をかいている。
「いでぇ……」
歩けないほどではないが、歩くたびにジンジンと足が痛む。
巻いた包帯の境が皮膚に少し食い込んでいて圧迫感を感じる。
(近所ってもまぁまぁ遠いんだよなぁ。仕方ねぇけどよ)
[ネオ童実野シティ 童実野天神社前]
自宅からは歩いて20分程で周りにある住宅は少しばかり新めの見た目をしている。
そんな住宅街の一角に突如として木々の群れが現れる。
小さな山のような小高い場所に童実野天神はあった。
ここのせは膝に手をついて息をつく。
「はぁ……はぁ……片足引きずって歩くの思ったよりキッツいぜ……。んでさらに……」
顔をあげると目の前には長い石階段。
ずらりと並んで段々と高く積み上げられていて相当な高さがあった。
「……キチィ……。気合い入れて登るしかねぇな……」
そう呟いて手すりに手を掛けたところで、後ろから鈴の鳴るような声がした。
「あの、お手伝いしましょうか?」
「え?」
聞いたことがある声だった。
振り向いてみると、そこにはふわりとカールしたショートカット。
見慣れた童実野二高の女子制服。
間宮ゆきが両手でスクールバッグを持って立っていた。
「おはようございます! ここのせさん!」
「間宮!? な、なんでこんなとこにいるんだ!?」
「わたしのおうち、すぐそこなんです。少し早起きできた時はよくこうやってお散歩してるんですよ。そしたらここのせさんを見かけて……。ここのせさんこそ、どうしたんですかぁ? 朝早くからこんなところに」
「い、いや、オレも散歩をな……」
「え? でも足を怪我してるんですよね? 散歩なんかして大丈夫なんですかぁ? 」
「……いや、あんまり大丈夫じゃなかったぜ」
正直に答えて苦笑いするとゆきは眉を八の字にして言う。
「もぅ、無理しちゃダメじゃないですかぁ。でもそこまでして、どうしてわざわざ……」
「……実はここにちょっと用があってよ」
「神社にですかぁ?」
首を傾げるゆきのあたまの上に疑問符が見えるようだった。
ただ深く説明をするほどの用でもなかったので、ここのせはさらりと返す。
「ああ。つーわけだから、ちょっくら行ってくるぜ」
踵を返して階段登り始めるとゆきが慌てて駆け寄ってきた。
「あっ、手伝いますよ!」
[階段の上 童実野天神社]
木々がさわさわと薙いでいる。
登りきると爽やかな風が吹いていて、周りを取り囲んでいる。
不思議な静けさと涼しさがあってまるで別の土地にきたようだった。
「ふぅ……! 良い運動でしたぁ!」
ゆきがにっこりと笑って言うので、ここのせもつられて苦く笑う。
「悪ぃな支えてもらっちまって。まるで老人みたいな気分だぜ」
「そんな、困ったときはお互いさま、です。それにしても……」
ゆきは改めて辺りを見る。
深緑が目について、日差しはほとんど遮られていた。
「ここは涼しいですねぇ」
「朝ってのもあるんだろうけど、周りが木に囲まれてっからなぁ」
「知ってます? ここのせさん。こういう神社の周りにある木々や森のことを、鎮守の杜、というんだそうですよ」
「へぇ、初耳だぜ。間宮は物知りだな」
「えへへ。実は前にテレビで言ってたんです。でも、物知りといえばここのせさんもですよ。私のデッキのカードたちの伝説もよくご存知ですし」
腰についたデッキケースを軽く触りながら言うゆきにここのせは自嘲するように肩をすくめた。
「知識が偏ってんだ。そういう伝説とか神話とかによ」
「そうなんですかぁ。じゃあ今日、童実野天神にいらしたのもその関係ですか?」
「……違う、とは言いずれぇなぁ。つーか童実野天神って、そっちの名前で呼ぶの珍しいな」
「他になんて呼ぶんですか?」
「デュエル神社」
「でゅ、デュエル神社……?」
「ほれ、そこにデュエルの神がいんだろ」
言うとここのせは東屋のようになっている屋根の下にある像を指を差す。
二人で歩いていくと、それは赤と黄色と青色に塗装されたモンスターの像であった。
ゆきは口に手を当てて目を丸くした。
「え、これデュエルの神様だったんですかぁ!? たしかに変だなとは思ってたんですが……」
「オレも詳しくは知らねぇんだけどさ。なんでもデュエルにおける伝説の三幻神なんだってよ」
「さ、さんげんしん?」
「おう。伝説のデュエリスト武藤遊戯のデッキに入ってた神のカードだっつー話だ。本当かどうかわかんねぇけど」
「神のカード……。チームラグナロクの方が持っていたのと同じってことですね……!」
「そうだな」
ゆきの言葉に頷くここのせ。
本戦2回戦にて激突したチームラグナロクが所有していた星界の三極神はヒーロー部のメンバーに強い印象を落としていた。
ゆきは息をついて話す。
「知りませんでしたぁ。ここがデュエルの神様の神社だったなんて……。あ、デュエルの神社ならお願いしたら強くしてもらえたりしませんか!?」
「ははっ。……そう簡単に強くなれたら良いのにな」
ゆきの言葉にここのせは笑う。
しかし、どこか影のあるその横顔をゆきは少し寂しそうに眺めた。
それからゆきは意を決して口を開いた。
「……あの、ここのせさん」
「ん?」
「……その、ここのせさん、最近あまり元気がないように思います……」
「え? オレがか?」
「……はい。何か悩みを抱えているんじゃないですか?」
「そんなことねぇよ! 間宮は心配性だな!」
図星をつかれたここのせはそれでもなんとか笑ってみせた。
しかしゆきは誤魔化されたりはされず眉を八の字にしてしまう。
「……ここのせさん、笑顔がぎこちないですぅ」
「そ、そんなことねぇって……」
「わたしではお力になれませんか……? 私でダメなら祭乃木さんや日和田さんも……!」
切迫詰まったような声にここのせは思わず手で遮った。
「違う! 違うんだ、間宮……。これは悩みとかじゃなくて、オレ自身の問題なんだ」
「……ここのせさん……」
まだ納得していないようなゆきの顔。
ここのせはちらと周りを観て木陰にベンチがあるのを見つけて指をさした。
「……あー、ちっと座るか」
……
…
二人でちょこんとベンチに座ると、さわさわと風が通り抜けていく。
涼しい風がほてった頬を撫でていった。
ここのせは隣に座るゆきではなく、足元に翻る木の枝を見て言う。
「……間宮はさ、デュエル、好きか?」
「え……? えっと、はい! 大好きです! まだ上手くできないことも多いですけど……」
「じゃあ、デッキは?」
「もちろん、とっても大切です! 」
言うとゆきは腰のケースからデッキを取り出して、手に持ったまま膝の上に置いた。
「このデッキはお母さんに買ってもらったカードやみなさんからもらったカードが入ってますし、それにわたしが一歩踏み出した証です。だから、世界でたったひとつのわたしの宝物なんです」
「宝物か。うん、マジでそうだな。……オレも自分のデッキは宝物だ」
ここのせもまたケースからデッキを引き抜き手に持った。
「オレはさ、自分の力じゃカードを集められねぇんだ」
「……それは運命力、というもののせい、なんですよね」
「ああ」
「祭乃木さんや日和田さんから聞きました。みなさんでカードを集めたって……」
「そうだぜ。例えばよ」
言いながらここのせはカードを流し観て1枚のカードを掴み取る。
閃刀姫-レイのカードだ。
「このシリーズは航空博物館の記念イベントで配布されたカードなんだぜ。館長のおっちゃんに無理言ってよ、祭乃木と良平と一緒に参加してようやく何枚か集まったんだ。博物館を駆け回って怒られちまったけどな」
「へぇ……」
「それだけじゃねぇ。これは祭乃木から、こっちは良平から。1枚1枚全部に思い出が詰まってるんだ」
「……そうだったんですね……。なんだか素敵ですぅ……」
「でもな、ここまで揃えてもオレは戦えねぇんだ」
「え……?」
その言葉にゆきはここのせの方に向き直る。
ここのせは穏やかに笑っていた。
「間宮、ちょっとデッキ貸してくれ」
「は、はい……」
おずおずとデッキを差し出すゆき。
受け取るとさっとシャッフルしてデッキトップ5枚を引き込む。
「……」
引いたカードをしばらく眺めてからここのせはそれをゆきに見せた。
聖剣カードが3枚に死者蘇生と聖杯伝説の終幕。
「……1ターン目この手札、どうかにかできるか?」
「……こ、これは……難しいと思いますぅ……。ごめんなさい、わたしのデッキ、まだまだで……」
「いや間宮のデッキビルドが悪いわけじゃねぇんだ。オレの問題。運命力がねぇってのは、こういうことなんだ」
引いたカードを丁寧に戻してここのせはデッキをゆきの手に戻してやると前かがみに両肘を膝におく。
「デッキが応えてくれない。いや違うな。応えてくれたとしてもそれを受け取るパスがオレにはねぇってことだ」
「そんな……」
「はは、そんな顔すんなって! ……だからオレはこのカードたちを必死に探したんだ」
再び自分のデッキを握り直す。
デッキの先頭には星遺物を継ぐ者のカードがあった。
それを見てゆきは呟くように言う。
「……星遺物のカード、ですね」
「これをアイツらと一緒に探して、手に入れて……。みんなから力を借りてようやくオレはデュエリストになれたんだ」
「……」
「多分、安心したんだろうな。アイツらに追いついたって。……だが、そうじゃなかった」
ここのせは目を伏せて噛み締めるように言葉を紡ぐ。
「祭乃木も、良平も、とんでもなく遠かった」
ここのせの言葉にゆきの脳裏に二人の姿が蘇る。
『ヒーローはどんな逆境だってひっくり返すのよ! 見てなさい、ここのせ!』
『誰も追いつけない程ーー速く!』
二人は堂々と、そして鮮烈に戦い抜いていた。
ここのせはさらに続けた。
「当たり前だ。オレがヘラヘラしてる間に、アイツらはずっと進み続けてたんだ」
「……」
「比べて今のオレは……足手まといだ……。アイツらは前に進み続けてるのに、オレは……勝手に満足して……」
「……ここのせさん……」
「……チームで戦っているのに、オレは弱いを自分を許したままだったんだ。ずっと自分に言い訳してな」
「……」
「……オレも前に進まなきゃいけない。自分の力で」
「……自分の、力で……」
「……」
「……」
二人の間に沈黙が降りる。
日差しが木の葉と共にチラチラと揺れてまるで追いかけっこでもしているようだった。
ここのせはなんだか気恥ずかしくなって頭の後ろをかきあげる。
「……ま、そういうこった。そんで焦って色々考えてたら上の空になっちまってよ」
「……そうだったんですね……」
「……っあー!!」
上体をあげてここのせは一気に伸びをする。
突然のことにゆきは「ひぇっ……!」と腑抜けた声を上げた。
それを気にも止めずここのせはニッと笑う。
「柄にもねぇや! ……ありがとな、間宮。ちっとスッキリしたぜ」
「あの!」
「あん?」
「わたしも手伝いますぅ! きっと、役に立ちます!」
「……へへっ、さんきゅ! ーーだけどな、これはオレの手でやらないとダメなんだ」
「え……?」
「今までさんざっぱら人の手を借り続けてきた。きっとオレはどこかで甘えてたんだ、運命力がないから仕方ねぇって」
「……」
「でもそれじゃダメだ。オレは自分の力で何かを成し遂げなきゃならねぇ」
「その何かというのは……」
「……そうだな。アイツらも、そして間宮も恵も、デッキを改良して新しい戦術を作って。そうやって、ちょっとずつ前に進んでる。けどオレにはそれはできないから」
「……だから、星遺物を……」
「ああ。星が遺したものを辿っていく。それだけがオレにできることだ。それをオレの手でやり通す」
「……」
「……もちろん、アイツらにもナイショだぜ?」
「……わかり、ました……」
「おう! ……悪ぃな」
俯いてしまうゆきにここのせは少しばかりの罪悪感。
これは自分でやらねばならないこと。
そう自分に言い聞かせた。
だが。
「でも!」
ズイッとゆきはここのせに顔を近づけた。
ふわりとした甘い香がしてここのせは思わず仰け反る。
「おわ!?」
「今日は手伝わせてください! 困っているここのせさんを、見て見ぬふりなんてできません!」
「お、おい、話聞いてたか……!?」
「わかってます!」
「な、なんだってそこまで……」
「……わたし、ここのせさんにお返ししたいんです」
ゆきは前のめりにここのせを見つめたまま言う。
「お返しだ?」
「祭乃木さんに助けてもらって、日和田さんに夜遅くまでアドバイスしてもらって、恵さんにカードをいただいて。みんなで大会に出て……」
「……」
「ドキドキして足が震えて仕方ない時もあるけど、こんな素敵な日々を送れるようになったのは祭乃木さんのおかげだけじゃありません! 日和田さんや恵さんだけじゃありません! ここのせさんのおかげでもあるんです!」
「オレの……?」
「はい。ここのせさんが、部室に来てみなって言ってくれたから、わたしは今ここにいるんです。その御恩をいつかお返しできたらって思ってたんです」
「……マジかよ、そんなこと……」
「だから、手伝わせていただけませんか……?」
ゆきの目は真っ直ぐにここのせに向いていて離れる気配がない。
不安に揺れる眼差しは、ここのせの胸の奥まで見透かしてしまいそうだった。
ここのせは目を伏せて言う。
「……そこまで言われたら断る義理はねぇな。わかった、手伝ってくれ」
「はい! えっと、星遺物カードを探すんですよね……」
ゆきはパッと笑顔になったかと思うと不意に立ち上がりキョロキョロと辺りを見回した。
そして何を思ったか神社の軒下に頭を突っ込むように覗き込み出す。
「あ! こういう隙間に……!! ひゃあ、蜘蛛の巣がぁ……!」
頭隠して尻隠さずの様相でジタバタとするゆき。
チラチラとスカートが揺れて時折、素肌の際どいところまで見えている。
ついには奥にある白い布地まで見えかけていた。
ここのせは目を逸らして大声を出した。
「いやいやいや、待て待て待て! んなところにあるかぁ! てか見えてる!!」
「へ……? ひゃあっ!?」
軒下から頭を出したゆきは、すぐに顔を真っ赤にして擦り上がったスカートを慌てて戻す。
ここのせは目をそらしたまま咳払いした。
「いやオレもここにカードがあるたぁ、思ってねぇよ。今日はカードを探しにきたんじゃねぇんだ」
「そ、そうなんですかぁ?」
スカートや服についた汚れをはたきながらゆきは立ち上がる。
ここのせはそのまま続けた。
「実は、星遺物カードに関するヒントを教わったんだ。オレ以外のもう一人の星遺物の使い手からな」
「もう一人の……? それは……?」
「絵草霜。チームディスティニーのデュエリストだ」
「えぇ!?」
チームディスティニーといえば、あの無敗のクイーンのチームだとゆきでも知っていた。
8強の一角にして最強のチーム。
ここのせはゆきの反応に頷いた。
「あのおっさん曰く、このカードたちには神ーー創星神ってやつの力が宿ってるらしい」
「そ、創星神、ですかぁ……。な、なんだか、とってもおっきなお話ですねぇ」
ゆきのぽかんとした顔を見てここのせも気恥ずかしい気持ちが湧き上がった。
思わず痒くなった頬を掻く。
「お、オレだって完全に信じてるわけじゃねぇんだぜ? だけど、それしか情報がねぇ以上はとにかくつついてみるしかねぇだろ。古事記とか神話とか読み漁ったけど、碌に情報は手に入らねぇし、ダメ元でも色々探してみるしかねぇんだよ」
「なるほど! だから、童実野天神なんですね!」
「おう。……つっても、御神体がこれじゃなぁ」
言いながらここのせは三幻神の石像を見る。
そこに祀られているのはデュエルの神であって創星神ではない。
しかし、ここのせの言葉にゆきは首を傾げていた。
「あれ?」
「あん?」
「あの、ここのせさん、多分勘違いされてます」
「勘違い?」
「はい。わたしも詳しくは知らないんですけど……。多分、あの石像は御神体ではありませんよ」
「え!? ま、マジか……」
「ちっちゃい頃に、町内会の催しで見る機会があったんです。その時は、この神社のお宝だよ、って聞かされたんですけど……。多分、それが御神体だと思いますぅ」
「なんだったんだ?」
「青いゴツゴツした石みたいなものでした。端っこが尖ってましたので、何かの原石なのかもしれないですけど……」
「そ、そうだったのか、初耳だぜ……」
「私もちっちゃい頃でしたし、詳しいことは何も知らないんですけど……」
「にしても、石かぁ……。それだけ聞いてもさっぱりわかんねぇな」
「そうですねぇ……」
「あ、でも御神体なんだったらそこら辺に由来とか書いてんじゃねぇか?」
ここのせはやや離れた場所にある立て看板を指差した。
至るところに看板が敷設されていて様々な由来が長々と書かれている。
「探してみましょう!」
…………
……
…
社の中の看板は木彫りで何故か少し湿っている。
『当神社はインダストリアル・イリュージョン社が出資して建立されました。建立当時、童実野町ではデュエルモンスターズのーーー』
そこまで読んで目当ての情報ではないと目線を切った。
ゆきは眉を八の字にして息をつく。
「神社についての説明はこれくらいしかないですねぇ」
「ネットで書いてあることと一緒じゃねぇか」
「御神体のことは書かれていませんねぇ。うーん、わたしの記憶違いなのかなぁ……」
不安そうにゆきが指を唇にトントンとするのを見てここのせは首を振った。
「いや、でも別の御神体ってのは間違ってねぇような気がすんだよなぁ。だってよく考えたらおかしいじゃねぇか。三幻神ってのはオシリス、オベリスク、ラーの3体だ。どう見てもエジプト神話の神様だぜ」
「たしかにそうですねぇ。それなのに、こんな和風な神社に祀られてるのは不自然ですよね」
「うーん……。もっとヒントがありゃなぁ……」
ここのせも腰に手を当てて辺りを見回す。
しかしこれ以上の手がかりは見つかりそうにない。
またしても風が吹いて軒下に落ちた葉を吹き飛ばしてしまった。
その風が運んできたのかポロロンッとまるでアコースティックギターを鳴らしたかのような音がした。
一度聞こえたあとはしっかりとしたメロディになった。
「? なんの音でしょう?」
「どっから聞こえてんだ……?」
ジャァン……ジャァン……。
コードを奏でる弦の音。
ゆきは耳を立てながら音源を探る。
「……神社の裏手側から聞こえますね。神主さんでしょうかぁ?」
「そいつぁ好都合だぜ、直接話を聞いてやらぁ」
意を決して奥へと進んでいく。
社はそれなりの大きさが合って両側面はまるでこの先は何もないと言わんばかりに植木と石砂利が敷かれている。
その先は崖になっていて鬱蒼とした木々が地面を斜めに突き刺さるように生えている。
二人は木を傷つけてないように気をつけながら奥へと進む。
ポロロー……ポロロン……。
コードだった調べがやがて主旋律になってメロディを奏で始めた。
ゆきはぴんときたように顔をあげる。
「あ! この曲知ってますぅ!星巡りの歌、ですね」
「星巡り……宮沢賢治か?」
ここのせは僅かばかりの知識で答えるとゆきは頷いた。
「はい! ……あかいめだまのさそり〜……♪ 広げた鷲のつばさ〜……♪ あおいめだまの子いぬ〜……♪ ひかりのへびのとぐろ〜……♪ オリオンは高く歌い〜……♪ つゆとしもとをおとす〜……♪」
ゆっくりとメロディに合わせるようにゆきは歌う。
澄んだ声はよく通っていて、ここのせの耳を優しく撫でていく。
ここのせは思わず綻んで言う。
「美味いもんだな。間宮の声で歌われたら、なんだか眠くなっちまいそうだぜ」
「えへへ。私もちっちゃい頃、お母さんが子守唄に歌ってくれたから、この曲を聞くと眠くなっちゃうんです」
そんな会話をしていると二人は神社の裏手側へたどり着いた。
神社の陰から出ると目の前は意外にも広い空間が広がっている。
砂利はなくなるものの剥き出しの土は草一つ生えていない。
直ぐに崖に突き当たるものの、わずかに歩き回る程度には広く空間がある。
不意に単音の拍手がした。
二人が音の方を見ると石階段に男が座っている。
茶色のハットにしわがれたコート、天然パーマのモジャモジャ頭にアコースティックギターを斜めにかけていてなんとも怪しい風体だった。
拍手は男が鳴らしていた。
「あっしのギターに合わせてくれるとはなんたる幸運。即興のリサイタルですね」
ここのせとゆきは思わずお互いの顔見合わせる。
すっとここのせはゆきに半歩近づいてヒソヒソと話した。
(……平畑といい流れ者ファッションが今のトレンドなのかぃ)
(こ、ここのせさん、失礼ですよぉ……!)
慌ててゆきはここのせの言葉を嗜める。
そんな二人を見て男はひひひと笑った。
「おやおや、こちらを見てヒソヒソ話。いささか傷ついてしまいますなぁ」
飄々と男が言うのでここのせは男に向き直って口を開いた。
「……あんた、ここの神主さんかい」
「いいえ、あたしはしがない吟遊詩人。流れ流れて腰掛けみれば、学生風情の若人二人」
まるで詩を詠むように男はポロロンとギターの弦を鳴らす。
「や、やりずれぇ……」
「あ! ここのせさん! 見てください!」
ここのせの肩を叩いてゆきが社を指差した。
「あ? ……なっ……!?」
神社の裏側。
同じ建物の裏側にも関わらず。
男が座る石階段の先は本殿の様相を呈していた。
ここのせは目を見張って声を出す。
「う、裏側にも……!?それじゃあ、表のものは……?」
「一枚の紙にも表裏」
答えるように男はポロロンとギターを鳴らした。
ゆきも驚いた顔であたりを見回した。
「こちら側には、あの石像はありませんねぇ……」
「……じゃああの祭殿に、間宮が言ってた御神体が……?」
ザッとここのせが一歩近づいた瞬間。
テケテンテンテン♪テケテンテンテン♪
ゆきのカバンから携帯の音が響いた。
「おわっ……!?」
「あ、す、すみません……アラームが……」
慌ててゆきはカバンからスマホを取り出して音を止める。
ここのせは高鳴る心臓を抑えてゆきを見た。
「っはぁ……、おいおい、頼むぜ間宮ぁ」
「えへへ……。って、あぁぁぁ!! こここここのせさん!! じ、時間、時間がぁぁ!!」
「あぁ……?」
「こ、このままじゃ遅刻ですよぉ!」
「チッ、こんなときに……! 間宮、先に行っててくれ!」
「ダメですぅ! 手伝うと言った以上、わたしも……!」
「間宮を遅刻に巻き込んだら祭乃木にどやされちまうな……。仕方ねぇ! ほら、行くぞ間宮!」
踵を返しここのせは駆け出す。
「あ! ま、待ってください!」
ゆきもその背を追うように走り出した。
3歩先ではここのせは汗をかいて叫んでいた。
「ーー痛でぇ!」
「あぁ! 大丈夫ですかぁ!?」
ここのせの足を気遣うゆき。
しかし足を止めることなく二人はその場を後にした。
「くっくっくっ、吹き荒ぶ青き風」
ポロロンとアコースティックギターの音が風に乗っては消えていく。
風は再び木の葉を巻き上げていた。
[昼 童実野第二高校 部室]
昼休みに入ると校舎は一層賑やかになる。
至る所で惣菜の香りが漂っていて、それはヒーロー部の部室でも例外ではない。
中央に机と椅子を寄せ集めて亜美と良平とゆきは各々の昼食を広げていた。
「あーん、んぐんぐ」
亜美は大きく口をあけてカツ丼を口に運ぶ。
「ング……。あ、良平、これ買ってきたわよ。アンタにあげる」
咀嚼して飲み込んだあと亜美はカバンから丸めた新聞紙を取り出して良平の前に置いた。
パンを頬張っていた良平は流し目でそれを見ると、パック牛乳で流し込んでから答える。
「ングング……。んっと。え、何これ新聞?」
「そ。アタシたちの写真とアンタのインタビューが載ってるわよ! やるじゃない! これでアンタも一躍有名人よ!」
「うわぁ……なんか怖いなぁ……」
「何よ、その感想。もっと喜びなさいよ! 切り抜きとか作ったりしてさ」
「今時切り抜きって……。そんなんやってる人いないよ」
呆れたように返す良平。
聞いたゆきは目を丸くして声を出した。
「え! あ、あはは、そ、そうですよね……今時切り抜きなんて……」
「え、ゆき、もしかして……」
亜美が怪訝な顔でゆきを見るとゆきはおずおずとノートを取り出して、両手で持った。
恥ずかしそうな顔をノートの裏に隠して。
「え、えへへ……」
「やってる人いた……。ごめんなさい」
良平がすぐにペコリと頭を下げるとゆきは慌てて手を振った。
「い、いや謝らないでください!」
それから良平は顔をあげてあたりを見回す。
人数が少ないことに気がついて首を傾げた。
「……あれ? そういえば、ここのせは?」
「恵もいないわね。何してんのかしら」
亜美も空席となっている椅子を見て言う。
その横でゆきは少し複雑そうな顔を浮かべていた。
「……」
「……?」
亜美は再びカツ丼にスプーンを入れながら、そんなゆきの様子を見ていた。
[童実野第二高校 屋上]
学校の屋上は高いフェンスが張り巡らされていた。
日差しを遮るものがほとんどないためか、今の時期は利用者はほぼいない。
唯一の日陰となる給水塔の下にここのせはあぐらをかいていた。
「……」
カレーパンの袋をばりっと開け、4口ほどで食べてしまうとペットボトルのお茶をぐびぐびと飲み干す。
ゴミになった袋をポケットにねじ込むと、足の上にどんと本を置いた。
(学校の図書室に神話なんかあるわけねぇよな……。とりあえず、童実野町の郷土史の本を拝借してきたが……)
硬い表紙を捲り、前書きを飛ばして時代を遡る。
(……海馬コーポレーション主催バトルシティ大会、この辺、か? もうちょっと後ろ……)
目当ての時代で手を止めたここのせはページを捲る速度を落とす。
紙の端には経年劣化なのか茶色く色褪せていた。
(……エア・マッスル事件や童実野高校カツアゲ事件などを皮切りに若年層の犯罪が相次ぎ治安の悪化が……こりゃ行き過ぎか……? ……ん、あった!)
とあるページで手を止めると、記載内容を指でなぞっていく。
『後に重要な経済効果をもたらすデュエルモンスターズを開発・発売したI2社の本社がアメリカから童実野町に移転。KC社と共に童実野町の経済を支える二大企業となった』
と書かれていた。
ここのせは本から指を離して腕を組む。
(ネオ童実野シティがデュエルモンスターズの聖地になった始まりだな)
さらに続きを読む。
『その際、親日喧伝や広告事業として、星寓神社の分社であった星神社の土地を買収し、童実野天神を建立した』
(新しい神社をでっち上げたんじゃなくて、元々神社があったのを塗り潰して作ったってのか……。御神体が別にあるのはそういうことか)
それから、ここのせは説明に書かれた"分社"という文字に馴染みがなく思わず声を出した。
「しっかし、分社ってのはなんだ?」
「……分社とはその神の根源とされる総本社から、神の分霊を他の場所に移す勧請と呼ばれる儀式を行った神社のことを指す……」
「ほぉーん。……って!」
不意に聞こえたもの静かで滑らかな女性の声。
聞き慣れているのでつい返事をしてしまったが、ここのせは数秒遅れて振り返った。
まず見えたのはタイツに包まれた太もも。
顔を上げると銀髪のツインテールが揺れていた。
ルイン恵である。
「……?」
恵は何故驚いているのかと首を傾げていた。
「おま、恵……! お前、いつからいたんだ……」
「……教室を出た時から……」
「最初からかよ……! 気付かねぇオレもおかしいけどよ……」
考え事に集中しすぎて恵がずっとついてきていたことに気づかなかったらしい。
恵はここのせの足に置かれた本を見て言う。
「……童実野町郷土史を調べている……?」
「いや童実野町全体ってわけじゃねぇんだけどよ。童実野天神について、ちょっとな」
「……そう……。……童実野天神に関する情報を検索する……?」
「え? あー……。いや、大丈夫だぜ! 簡単な調べもんならこいつを使うからよ!」
ポケットからスマホを取り出して見せびらかすように振る。
すると恵は少しだけ眉をあげて言い返した。
「……簡易デバイスを使用するより、私を使用した方が効率的……」
「ばかやろう、お前をただのパソコンみてぇに使えるかよ。やむにやまれてならともかくな」
「……そう……」
「えっと……となると
「……星寓神社、岩手県に存在する神社。祭神は
「おい、先に調べんなよ……。しかし、別天津神……古事記に出てくるこの世界を作ったっていう神様たちの名前だったな……」
唯一、古事記内に記載があった創星神の話。
故にここのせは覚えていた。
恵もここのせの言葉に頷いた。
「……信仰の根拠は陸奥国風土記にみつけることができ、記載内容にはーー」
「待て待て待て!! 恵! 調べなくていいっつの!」
「……補足情報を提示しているだけ……」
「物は言いようだぜ……」
「……」
それから恵は目線を上にあげて数秒止まったかと思うと、再びここのせの目を真っ直ぐ見る。
「……陸奥国風土記を国文学研究資料館ネットデータアーカイブから検出、PDFに変換した。デバイスに転送する……」
「ちょっと待てって、恵! ありがてぇけどよ、これは自分でやりてぇんだ」
「……なぜ……?」
「何故って……お、男にゃ張らなきゃいけねぇ意地ってもんがあんだよ」
「……ここのせが意地を張ることと、データを受け取らないことに因果関係が認識できない……」
「データ云々じゃねぇ。誰かの力を借りることがってことが、だ」
「……わからない。このPDFデータで閲覧することと、このデータに依らず資料館等で閲覧することに内容の相違が認められない……」
「だ、だから内容じゃなくて、お前から……その……」
「……私から提示されたデータが使用不能である根拠が見出せない。能勢心という人間以外の全ての人間からのデータが使用不能だと定義した場合、データの収集そのものが不可能となる……」
「お……ぐっ……」
「……」
恵の真っ直ぐな言葉はどれも正論で、自分の言葉はまるで駄々っ子だった。
何も言えなくなってしまったここのせは息をつくと恵にスマホを差し出した。
「……悪かったよ。見せてくれ」
「……わかった……」
恵がここのせのスマホに手をかざすとすぐにバイブ音と共にデータを受信したと通知がくる。
送られてきたPDFを開いてみると漢文が羅列されていた。
「これが陸奥国風土記……ページが随分すくねぇな」
「……陸奥国風土記はその原本及び写本は散逸し、現存していない。これは諸文献において引用されたことで現代まで伝わった箇所をまとめたもの……」
「なるほどな。……漢文だな。まぁ当たり前か」
「……翻訳、する……?」
「いいや、大丈夫だ。英語と数学はすっかんピンだが国語と社会科目ならオレの右に出るやつはいねぇぜ。流石にちっと怪しいが、読み解いてみせらぁ」
「……そう……」
恵もそれ以上言及しなかったのでここのせは漢文に目を通す。
中は地名によって区分けされているらしく、概ね北から順に信仰神話が書き連ねてあるらしい。
「……岩手っつーと旧名はたしか陸前だったな。えっと……」
「……」
恵も膝を曲げてここのせの手元を覗き込む。
スマホをスワイプしながら文字を流し読みしていく。
「……あった、陸前」
目当ての場所で手を止めて、ここのせは白文を読み上げた。
「……この地、別天津神……んー……そ、楚妃亜(そきあ)? 天亜羅(てんあら)、か?」
書いてある言葉に翻訳不能なものがあり、ここのせは恵をちらと見る。
しかし恵も緩やかに首を振った。
「……不明……」
恵がわからないのならば無理だと判断し、ここのせはさらに先を読み進める。
「……星生みののち身を隠す、よ、寄るべと、なる。其の跡八の玉となり…なり、ける、か。故、星寓の社と呼ばれるに至る」
「……」
読み上げた部分に恵から訂正がなかったため、間違えていないようだとここのせは胸中で一息つく。
「……これがさっき言ってた星寓神社とかいう神社の由来、か。これの分社が童実野天神……」
「……ん……」
ここのせの言葉を肯定するように恵は頷いた。
脳裏に"星生み"という言葉がかけていく。
『星遺物には創星神の力が宿っておる』
もう一人の星遺物の遣い手に言われた言葉が蘇る。
「……恵、ちっと頼まれてくれねぇか」
立ち上がりながらここのせは言う。
「……なに……?」
「ちっと具合悪くなっちまったんで、早退するぜ。先公と祭乃木にそう伝えてくれ」
「……」
それからここのせは恵に背を向けて歩いていく。
恵はここのせを真っ直ぐに見るのをやめない。
ここのせは立ち止まり、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「……あっと……あー、その……ありがとな、恵」
「……感謝は必要はない。私は情報を提示しただけ……」
「それでもだ。……じゃあ、頼んだぜ、恵」
「……わかった……」
[童実野天神 裏側 本殿]
学校を出るとなるべく早足で再び童実野天神に向かっていた。
相変わらず草木がサワサワと鳴っていて汗が引くほど心地よい。
ここのせは朝と同じように本殿の裏側に回り込んでいく。
(……星生みの神の逸話が由来になった神社。ここがその分社だって言うなら、間宮が言ってた御神体は多分、それに関わるもんなんだろう。……何がわかるってわけでもねぇが、一目拝みてぇな。つっても、勝手するわけにゃいかねぇか……)
意を決して石の段を登るここのせ。
祭殿の扉は閉められており、開くかどうかもわからない。
(あの奥の祭壇にあるのか……?)
扉に手をかけた刹那。
ジャァァンッ……ジャァァンッ……。
アコースティックギターの音がして、ここのせは思わず振り返る。
「ーーあんどろめだの雲は……魚の口のかたち……」
見ると朝にいた男が軒下に座り込んでギターを引き語りしていた。
ここのせはため息をつくと腰に手を当てる。
「……なんでぇ、朝の吟遊詩人さんかい。あんた、まだここに居たのか」
「ここは居心地が良いもんで。そういうあなたは、まだ学生の身でこんな時間にフラフラするとは不貞ですなぁ」
「……うるせぇってんだ」
「何用でここに?」
「色々よ。オレにだってやらなきゃなんねぇことがあんのさ」
「ほう。それはそれは。それなれば、あなたのデッキがそれほどまでに疼いているのは道理、というわけですな」
「え……?」
言われてここのせは素早く腰のケースからデッキを引き抜く。
中身を確認するも見慣れたカードたちがいるだけ。
「……? とくに変わりはなさそうだぜ……?……って、あれ……?」
一枚だけ。
青白い光を放っている。
目を見開いてここのせはそのカードを手に取る。
「……これは……星遺物-星杯のカード……! 少しだが光ってる……?」
「おや、そいつぁ星遺物カード。くっくっ、なるほどなるほど、こりゃどうりで神様が騒がしいわけだ。星遺物の使い手が導かれたとあってはね」
「あんた、何か知ってんのか!? 星遺物カードについて!」
「はてさて……」
男はゆっくりと立ち上がるとギターの弦弾きながら歌いはじめる。
「大ぐまのあしを北に……五つ伸ばしたところ……♪ 子ぐまのひたいのうえは……そらの巡りのめあて……♪」
ゆっくりと石段を上がり、ここのせの横をするりと抜けると男は祭殿の戸に手を伸ばす。
「あ、お、おい!」
ここのせの声を気にも止めず男は戸を開いた。
いとも簡単に戸は開いて、中から青白い光が漏れ出した。
「……!」
祭殿の奥。
青く光る何かのかけら。
否、かけらというには大きい、岩のようなもの。
端はギザギザと尖っているものの、もう一端はまるでトロフィーのように整っていた。
「……かのニ神、身を隠す様にてぇ……その力遺物となる……それ即ち星の導きなりぃ……」
男は歌う。
「……神の移し身現れたならば……いざ巡り巡った星めぐり……」
締めくくるようにギターを鳴らす。
ここのせは光る岩を見ながら反復する。
「星めぐり……。それは一体……?」
男はギターから手を話すとここのせの目を見た。
「星遺物の力を受けたカードは無数に存在するでしょう。しかし、その根源となる星の力が宿る星遺物、それは八つに分かれていると言います」
「八つ……」
ここのせの頭に昼に見た風土記の記載が過ぎる。
『其の跡八の玉となりける』
男は目を伏せて言う。
「辿りなさい、辿りなさい、其れこそまさに星めぐり」
「それをすれば、星遺物カードのことがわかるのか……?」
「ふふ、さぁ、どうでしょう。それは君次第でしょうな」
「オレ次第……?」
男の言葉にここのせは自分のデッキを見た。
呼応するように星遺物のカードが光る。
「では、さらばです。また会いましょうや」
「ま、まて!!」
男の声にここのせは顔を上げると、既に男はいなくなっており後にはただ風がそよそよと吹くばかりであった。
[夜 ここのせ宅ここのせ部屋]
家は今日も一人だった。
机に放り出したスマホ画面には岩手県への旅費を検索したままになっている。
ゴソゴソと財布と貯金箱を取り出し、ここのせは机の上にぶちまける。
「……」
現れた小銭と札は決して多くなく、とてもじゃないが遊楽など出来そうにない。
(……くそ、心許ねぇ……!行って帰ってくるので精一杯じゃねぇか……)
ここのせは過去に買い食いや無駄遣いをした自分を恨む。
(星めぐり……。星寓神社とかいう神社に祀られてる御神体。それは創星神が遺したもの。……八つに分かれた星遺物……。その一部にオレの星遺物カードが反応した……。にわかには信じられねぇが、そこに行けばこのカード達に宿る力の正体がわかるかもしれねぇ)
もう一度、ここのせは机に散らばった金を見つめる。
何度見ようと二足三文であった。
(だが、泊まりの費用はねぇし、ほかに乗り物も必要とありゃ飯代も消えるぞ……。それに……)
チラッとカレンダー見る。
5日先には大きな二重丸。
(……次の試合まであと5日。こんなときにフラフラどっか行くなんて。それに行ったところでどうなる……? 何も得られなかったら……?)
頭の中で考えがグルグル回る。
その度に夢の中で握った拳が痛くなった。
(空回りなんじゃねぇのか……。そもそも馬鹿げてる、歴史学者気取って強くなれるわけねぇんだ……! 時間かけてまでやる価値あんのか……?)
疑問に問いかけさらなる疑問が自分を襲う。
その度に言い様のない焦りと悔しさが心を刺す。
(だいたい、そうまでして、オレは何がしてぇんだ……! カードが欲しいのか、新しい戦術が欲しいのか……!? くそ、わかんなくなってきやがった……)
自分が何をしたいのか。
この焦りは。
不安は。
悔しさは。
焦ったさは。
『そしてその力は誰のために必要なんじゃ。考えてみぃ』
言われた言葉が頭を過ぎていく。
(誰の為に……。オレは……)
様々な感情が頭と心を塗り潰してはまた違う色に染めていた。
「……オレは自分で前に進みてぇんだろ……! くそ、こんな時まで尻込みしやがって情けねぇ……!」
ダンッとここのせは強く机を叩いた。
バラバラッと衝撃でデッキが雪崩れてしまう。
そうして、ここのせの目に1枚のカードが目に止まる。
星遺物の胎動のカード。
『アンタは……! アンタはそれでいいの……!?』
亜美の声が。
亜美の目が。
昨日のことのように蘇る。
(オレが初めて手に入れた星遺物カード……。こいつを見ると、あの日のことを思い出す。オレがデュエリストになった日)
泥だらけになって。
馬鹿みたいに泣いて。
笑って。
喜んで。
あの日、確かに能瀬心は。
「……オレは……! オレは……デュエリストだ……!」
ばっとデッキをまとめてデッキケースに仕舞うと、小型のデュエルディスクを引っ掴んで駆け出していた。
[良平宅 良平部屋]
「……」
部屋に明かりをつけて良平はデッキをシャッフルした。
シャッシャッと心地いい音がする。
それからデッキトップを5枚捲りカードを一瞥する。
(……少しバランスが悪いかな……。モンスターの量が多いのかも)
カードボックスを引っ張り出してゴソゴソと中身を探る。
そんなことをしているとスマホが二、三振動した。
良平はスマホを持ち上げると送り主を確認する。
「ここのせから?」
するとカッと音がして窓に小石が当たった。
良平が窓を開けて下を覗くとここのせが立っていて片手を挙げている。
「ここのせ。どうしたの?」
「ちょっとな」
「待ってて。今、そっちいくよ」
……
…
喫茶店になっている一階部分は完全に消灯されていて、入り口にはcloseという掛札がかかっている。
その戸がカランと音を鳴らしながら開き、良平が姿を表した。
「ごめん、お待たせ」
「悪ぃな」
「いや。それより、大丈夫? 早退したんだろ?」
「ああ……。体調が悪ぃってのは方便だぜ」
「何それ……。で、どうしたの?」
「お前に頼みてぇことがあんだ」
「頼みたいこと?」
良平はいつもと様子が違うここのせに怪訝な表情を向けていた。
対するここのせは真っ直ぐに良平を見た。
「ああ。ーーオレとデュエルをしてほしい」
「え、な、なんだそんなこと……。もちろーー」
「待て。軽い気持ちで受けてくれるなよ。こいつは、いつものお遊びのデュエルじゃねぇ。プライドもなんも全部投げ売って、目の前の敵を本気でぶっ倒す、そういうデュエルだ」
「ここのせ……。一体どうしたんだよ。どうして急に……」
「御託は後だ。受けんのか、受けねぇのか」
ギッとここのせは鋭い目付きで睨みつけた。
その目線を受けて良平は殺気にも似たものを感じ取る。
(ここのせの目……本気だ……)
デュエリストの本能か、良平の目も瞳孔が縦長になっていき刃のような目線を返す。
「……わかった。やろう」
「本気でこいよ」
「どんなデュエルだろうと、俺はいつだって本気だ」
「……」
「……」
二人はその場で睨み合い、紛れもない闘志をぶつけていた。
刹那、そんな二人に人影が近づいた。
「待ちなさい」
聞き慣れた女性の声。
二人が振り向くと電池の影から赤みのあるポニーテールが現れた。
青い短パンに半袖のブラウスを着た少女ーー祭乃木亜美であった。
その姿にここのせは目を見開く。
「祭乃木……! なんで……」
「アンタの様子が変だったからね。今日なんてアンタ、勝手に帰っちゃうし。なんかあったのはバレバレよ」
亜美はここのせの目を見つめて言った。
よく見ると亜美の手にはドリンクや食べ物が入ったビニール袋が握られている。
「……」
「……ここのせ、アンタと良平のデュエルを止めようとは思わないわ。でもちゃんと説明して。アタシと良平に」
「……今はできねぇ」
「言えないようなことなの?」
「そうじゃねぇよ。ただ……」
「……」
「頭ん中と自分の心がぐちゃぐちゃなんだ……。このむしゃくしゃした感情を思いっきりデュエルにぶつけねぇと気がすまねぇ。今は……そんな、気持ちなんだ」
吐き出すように言うここのせ。
生温い風が夜空をかけていく。
「ここのせ……」
俯くここのせに良平は思わず名を呼ぶ。
「……」
「……」
亜美はしばらくここのせを見つめ、それから踵を返した。
「……わかったわ。なら思う存分デュエルしなさい。アタシが見届けるわ。場所、変えるわよ」
……
…
[ネオ童実野シティ 公園]
公園は当然ながら誰もいない。
該当の周りには少しずつ虫がより始めていた。
風が砂を揺らして、無人のブランコを少しだけ揺らす。
ここのせと良平はデュエルディスクにデッキをセットし対峙した。
亜美はフィールドを側面から見える位置に陣取り腕を組んだ。
ここのせは言う。
「準備できたか?」
良平は応える。
「うん」
亜美は背後にある時計の支柱に背をもたれながらここのせに向いた。
「……いい? ここのせ。このデュエルで自分と向き合うのよ。それができたら、アタシたちにワケを聞かせて」
「ああ、わかってるぜ」
短く答えるとここのせはデッキトップからカードを5枚引き抜いた。
火蓋の代わりだ。
良平もカードを引き抜き、ここのせに言う。
「……それじゃあ、やろうか」
「行くぜ、良平!」
「来い、ここのせ!」
「「デュエル!!」」
◾️次回予告
寝る前決闘空間第32話
『宙に憧れて』
デュエルスタンバイ
小説形式について 地の文やテキスト量
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読みやすい(テキスト量が妥当)
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前の方が読みやすい
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地の文が長い
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誰が喋っているかわかりにくい