遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~   作:レトやま

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■注意書き
・OCGの背景ストーリーを下敷きしたストーリーが展開されます。
・ただしOCGの背景ストーリーとは全く別のストーリーに捻じ曲げています。
・「OCGではそんな設定はないというもの」「OCGのストーリーの敵味方関係がねじ曲がっている」などやりたい放題やってます。
従いましてこれから展開する「神話」はまさしく本作の「神話」という形だと認識していただければ幸いです。



第34話 「星巡り」前編

 

[ネオ童実野シティ 街頭 パブリックモニター]

 

街行く人がパラパラと上を見上げ、中には足を止めてみている人もいた。

スクランブル交差点の傍で車が行き来する街の中央街のビルには巨大なモニターが設置されていて煌々と光っている。

まるで町中に響きわたるような大きな音でファンファーレが流れ出した。

 

『ワールドスタンディングデュエルクラシック本戦! 新たなる8強がここに決定!!』

 

映像は次々と切り替わり、WSCのハイライト映像が切り抜きで流れていた。

そして画面がフィールドに移るとそのフィールドを低空で翔けるように流れていく。

少しずつ上昇していき、左右交互に並ぶ人影の間を通り抜けた。

 

それはWSC出場チームのチームリーダーたちだった。

 

チームバオフェンリーダーの女。

 

チーム煉獄リーダー 清水剛。

 

チームバンデットリーダーの男。

 

チームHEROリーダー 祭乃木亜美。

 

チームKGBリーダーの男。

 

チームアルゴスの男。

 

チームプロフェッサーリーダーの男。

 

そして1番奥に中央で立つ者までカメラが寄っていく。

 

バサリと黒いコートが翻り。

 

チームディスティニー リーダであり。

絶対王者---クィーンが腕組んで立ちはだかった。

 

そして暗転し、テロップと共に声優が当てたであろう音声が流れた。

 

『WSC本戦メインステージ!! いよいよ開幕!!!伝説の戦いを見逃すな!!』

 

ーーーーーーー

公正デュエル委員会

海馬コーポレーション

全国高校デュエル連盟

ーーーーー

 

 

 

 

 

[数時間前 ネオ童実野シティ 童実野テレビスタジオ]

 

 

スタジオ内は巨大なグリーンバックが置かれていて、その周りをいかにもプロ専用という顔をしたカメラが取り囲んでいた。

多数の人間がその場にいて、あちこちを右往左往している。

そんな舞台から亜美は胸を押さえながら歩いてきた。

 

「はぁー、緊張した……」

 

そこには恵とゆきと良平が待っていて亜美を出迎えた。

全員制服を着ていて心なしか小綺麗にしている。

 

「……お疲れ様……」

 

恵は相変わらずの無表情で亜美を見上げる。

その後ろからゆきが少しはしゃいだように笑った。

 

「お疲れ様ですぅ! 祭乃木さん、凛々しくて、しかもとっても可愛く映ってましたよぉ!」

 

「ふふん、なんたってプロの人がフルメイクしてくれたんだもん!」

 

亜美は胸を張ってふふんと得意げにしてみせた。

確かに唇は紅を引いていて、おしろいの香りも十分になびかせている。

良平はそんな彼女の姿に後ろ頭を掻いた。

 

「なんか芸能人みたいだなぁ」

 

ゆきも良平の言葉にうんうんと頷き、スタジオセットを背伸びして見回す。

 

「テレビのコマーシャルってこうやって撮られてるんですねぇ」

 

「そーね」と亜美もセットを眺めた。

「スタジアムで撮るのかと思ったら背景は全部緑なんだもん」

 

「……クロマキー……」と恵がぽつりと呟く。

良平はセットから目を離して、自分たちの周りを見る。

チームHERO以外のチームメンバーが歓談していて、制服姿の自分たちがどうにも浮いているようだった。

 

「それにしても凄い顔ぶれだ。クイーンはもちろんだけど……あれが全員、8強のチームリーダーなんだな」

 

言うと恵も亜美も頷く。

 

「……スーパーシードだった8強を破ったのは、我々のみ……」

 

「これまで激戦を潜り抜けた奴らね。一筋縄ではいかなそうだわ」

 

「うぅ……」とゆきは自分の肩を抱くように声を漏らした。

そんなヒーロー部員に近付いてくる人影が一つ。

 

「Hey,kids!」

 

流暢な英語。

低くしわがれた声。

振り向くと頭にアメリカ国旗を巻いた欧米人らしき男がニヒルな笑みを浮べていた。

 

「Hahaha! 〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 

ペラペラ、という擬音がこれでもかというほどマッチする。

そう思わされるほどに亜美たちにとっては早口な英語だった。

 

「挨拶かしら?」

 

亜美が側にいた良平に耳打ちすると良平も困ったように後ろ頭を掻いた。

 

「め、めちゃくちゃ話しかけきてるけどひとつもわからないな……」

 

「恵! お願い!」

 

素早く振り返り亜美が後ろに立っていた恵を見やる。

恵は小さく頷くと口を開けた。

 

「……貴方のような母乳の匂いがする子供たちが勝ち上がるとは私はとても驚いている……」

 

「ぼ、母乳の匂い……?」

 

小首を傾げるゆき。

良平はピンときたようで眉を顰めてこぼす。

 

「めちゃくちゃ直訳してるけど、それって乳臭いガキ共って言ってるんじゃないの?」

 

その男の顔を見るとニヤニヤと見下していてとても友好的とは思えない。

 

「〜〜〜〜!」

 

男はまた続け様に捲し立てていて、聞き取れないことを気にも止めていなかった。

しかし恵は追うように冷静に、そして正確に翻訳していく。

 

「……子供たち、貴方達は5人ときいたが一人足りない。腰抜けがいたようだな……」

 

そこまで聞いて亜美は恵に片手を上げる。

 

「恵、もういいわ、要するに挑発してるってことでしょ! 恵、アタシの訳して!!」

 

「……了解した……」

 

「んっん!アンタに言っておくわ!! アタシ達はクイーンを倒す!! アンタ達なんか通過点よ!! それと、腰抜けって言ったこと後悔させてやるから、覚悟しなさい!」

 

ビシッと音がしそうなほどに亜美は人差し指を突き付けた。

追従するように恵がそれらを英語に訳していく。

 

「……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

恵の言葉にその男は眉を潜めてさらに英語をまくしたてる。

 

「〜〜〜〜!!」

 

何を言っているかはよく聞き取れないものの、小競り合いのような様相に良平は困り顔で肩をすくめた。

 

「あーあーあー……」

 

「あはは……」とゆきも愛想笑いをこぼした。

 

 

…………

……

 

「……ったく! 血の気が多い外人だわ!」

 

腕組みを組み、指で腕をトントンと叩く亜美。

ゆきは「まぁまぁ」となだめる。

恵は去っていった男の背を見ながらつぶやく。

 

「……あれはチームbanditのチームリーダー……」

 

「次の対戦相手ね! 相手にとって不足なしだわ!」

 

WSC本戦。

8つ残ったチームーー8強。

前回、そして今回とどちらも生き残ったチームの一つである。

良平は目を細くして辺りで雑談している人々を見た。

 

「ここまで勝ちあがったチームは、お互いデッキも割れてるし、慎重にいかなきゃね」

 

良平の言葉に亜美が返す。

 

「そうね。でもデッキが割れてるってことは作戦も立てやすいはずよ! さっそく恵ん家で会議するわよ! いいわよね?」

 

「……ん……」

 

コクッと恵は頷いた。

それからスタジオを出ようと歩を進めかけた時、ゆきは恥ずかしそうに言う。

 

「あっ、すみません、ちょっとお手洗いに……」

 

「わかったわ、そこで待ってるから!」

 

「はぁーい」

 

タタッとゆきは小走りでスタジオを出ていく。

残された3人は出入り口の傍で待つ。

良平は少し声を潜めて亜美に近寄った。

 

「……祭乃木」

 

「なによ?」

 

「ここのせは大丈夫かな。昨日の夜メッセージ送ったんだけど、既読つかなくて……。ちょっと心配なんだ」

 

「大丈夫よ。まぁここのせのことだから、きっと帰ってくるまで返さないと思うけどね」

 

「それもそうだね。なんてったってここのせは、いじっぱりだからなぁ」

 

 

 

 

 

……………

……

………………………………………

 

 

 

 

[???? 星ヶ丘????]

 

 

耳鳴りのような。

地響きのようなーーいや地面はない。星の呼応の方が正しい。

周囲は青を煮詰めたような黒でぽつぽつと光る星のような煌めきが包んでいた。

ここのせは目を見開いて声を上げた。

 

「……ここは、一体……!?」

 

「ーーここは」

 

「ッ!?」

 

不意にした声に振り向くと、そこには詩人が立っていた。

無窮の煌めきのなか彼の姿はまるで浮いているように。

或いは水面に立つかのように。

詩人は言う。

 

「此岸よりも彼岸に近く、彼岸よりも内側にある場所。星巡りの始まりの場所。ーーようこそ、星見沢へ」

 

「……!」

 

「ここから始まるは、創星神の道行と星の遺物を辿る巡礼の旅。さぁ、はじめましょうーーー星巡りを」

 

 

 

 

 

寝る前決闘空間第31話

『星巡り』

 

 

 

 

辺り一面、地面も空も満天の星。

両足は地面らしき何かを踏んでいるのか水面のように輪が広がっていく。

ここのは詩人に詰め寄るように声を出す。

 

「……ここが……星見沢……。オレ達の世界じゃないってのか……!」

 

「ここはどこでもありません。世界の狭間、神の息吹が残る場所、星の力が宿る場所」

 

「……まるで童話……いや神話の世界だ……」

 

「くく、あたしからはぐれないようにお気をつけを。道を逸れれば時空の狭間に真っ逆さまです」

 

「なっ……」

 

「では、こちらです」

 

薄く笑って詩人は踵を返して歩き始めた。

ここのせは怪訝な顔のまま後ろについていく。

 

ヒュン……ヒュン……ヒュン……。

歩くたびに足音の代わりに水音とも風切り音ともいえぬ音がする。

 

歩いた跡が波紋みたいに広がっては消えていく。

不思議な感覚だった。

確かに地面に足は付いてるはずなのに地面らしいもんは見えない。

辺りは一層綺麗だが、散りばめたビーズみたいな光があるだけで。

あとは真っ暗だった。

 

「……能瀬くん」

 

「あ、あぁ? って、おわっ!?」

 

ここのせは前を向きなおして再び目を丸めた。

石のようなものでできた簡易な門のようなものが不意に現れたからだ。

 

「と、鳥居、か……?」

 

「さぁ? こいつに名前なぞありませんよ。……行きましょうか」

 

「……」

 

2人はその石の鳥居--名前がないのでここのせは便宜的にそう呼んだーーに入っていく。

その瞬間に視界を覆う強烈な閃光が目を貫いて、ここのせは思わず手で顔を遮った。

 

「うっ……。……ッ!?」

 

眼を開けて見えたその景色に息を呑んだ。

光の大きな玉のようなものが8つ見える。

それぞれが遠いのか近いのかはわからない。

ただ呼吸のように明滅を繰り返していて、強烈なエネルギーのような何かを感じる。

詩人はここのせを見ながら言った。

 

「まるで恒星のようでしょう。まさしくこれは星の欠片。星生みの神が残した星遺物」

 

「あれが……星遺物……」

 

「貴方は巡り、あたしは語る。そうして廻る巡礼の路。では一つ目に参りましょう」

 

2人はずんずんと光の塊に向かって歩いていく。

光っている何かは近づいてみると巨大な岩のようになっている。

ただ岩というには精巧で、何かをかたどっているようだった。

 

「これは……」

 

光が弱くなり、再び強くなり。

 

「!!」

 

ここのせは気配を感じ取ったように腰のケースからデッキを取り出した。

 

「これは……星遺物-星杯……!!」

 

カードを抜き取り手に持つ。

目の前の岩ーーいや巨大な星杯は青白く光る。

そしてここのせの手にある星遺物-星杯も青白く光る。

まるで共鳴するように。

 

ポロロンッ…ポロロンッ…。

アコースティックギターの音色がどこか物悲しい調べを奏でる。

そして詩人は詠う。

 

「ーーーー全ての始まり、全ての理、全ての道則。それ即ち神星樹。精霊の生きる世界にてその中心に聳え立つ。其は、輪廻転生を司り、創造と破壊、セフィロトとクリフォトの力を宿すものなり」

 

「セフィロトとクリフォト……」

 

反芻するようにここのせは繰り返した。

確かどこかの聖書に登場する概念図のようなものだったな、とここのせは思い出す。

曰く生命の樹と邪悪の樹。

詩人は続ける。

 

「そう。そしてそのセフィロトの遂行者がSophia、クリフォトの遂行者がTierra。二つは表裏一体の創星神でした」

 

「……あっ!?」

 

ここのせは目を見開いた。

星遺物から発せられる光がやがて束になり、宙に絵のような――いや何かイメージのようなものが映ったのだ。

詩人は驚くことなく続ける。

 

「二つの神はその役割を遂行し、世界は輪廻転生のバランスを保ち、やがて様々な神と種族が生まれました」

 

(あれは……絵、か……? いや、現実を切り取ったものなのか……?)

 

概念図のような。壁画のような。それでいてリアルな。

不可思議な感覚だった。

 

「しかしある時、破壊の創造神Tierraは自らの役割を超えた破壊活動を行うようになりました。それは己の力をさらに高めるためとも、力を誇示するためとも言われています。しかしそんな話はどこ吹く風。瞬く間に戦火が広がります。神々の戦いが始まったのです」

 

「神々の戦い……。北欧神話に出てくるラグナロクってやつか……?」

 

「一部神話ではそのように語られますね。……様々な神がこれに巻き込まれ、世界は一瞬にしてバランスを崩しました。まさに世界が破滅する寸前までね。そんな渦中に陥ったところ、すんでのところで崩壊を免れたのは、創造の創星神SophiaがTierraを討ち取ったからでした」

 

詩人の声に呼応するように。

光は形を変え、ここのせの脳に訴えかける。

 

「SophiaはTierraから破壊の力を奪い取り、Tierra自身を神星樹に封印しました。そして、いき過ぎた創星の力を8つに分散させ、悪用されぬように呪い(まじない)をかけたのです。それこそがーーー星遺物」

 

「……」

 

「ーー星杯の章はこれにて」

 

ポロロンッとアコースティックギターが物悲しい音色を奏でた。

ここのせはどっと疲れたように右手で頭を抑えながら絞り出す。

 

「……創星神SophiaがTierraから奪った破壊の力……。だけど、なんでそれがカードに……」

 

「ふふ、それはまた後の章に。さて、能瀬くん。君も勘づいているでしょう。力無き物が星遺物を継ぐ者へと昇華する星巡り。それ即ち、創星神の力を受け継ぐ者に課せられる試練。創星神の掛けた古きまじない。君が望む力の答えはきっとここにある」

 

「オレが望む、力……」

 

「でもお気をつけあれ。宿る力に善悪なし。この星見沢のように路を踏み外せば、蛇が出る。それでも君は手を伸ばしますか?」

 

「……」

 

「……」

 

二人の間に沈黙の帷が降りた。

ここのせはーーーー今も自分に問いかけ続けている。

数秒の静寂の後、ここのせは詩人の目を見た。

 

「……絵草のおっさんにも、そしてあんたにも言われたな。何故オレは力が欲しいのか。オレが求めている力は何のための力なのか」

 

「ええ」

 

「その答えは今のオレにはわからねぇ。アイツらへの嫉妬心かもしれねぇ。見栄を張ってるだけのかもしれねぇ。それともまた別の理由かもしれねぇ。でも、そんな不明瞭なものがオレの背中を押している」

 

「……」

 

「ほかに方法があるなら考えるかもしれねぇが、どうやらオレにはこれしかねぇらしい。だったら、オレはどんなに遠くても星に手を伸ばす」

 

覚悟は決まった。

ここのせはゆっくりと目の前の遺物に手を伸ばす。

刹那。

目を開けていられないほどの閃光が。

 

「ッうぉっ!?」

 

光が自身を包むと共に足元の感覚がなくなっていく。

まるで海に沈んでいくように。

深海に包まれるように。

 

………………

………

 

 

ーー星明かりの勇者 掲げし剣に光を束ね 大いなる闇を討ち祓わんー

 

(光に包まれながら、幻のようなそれを見た)

 

ここのせは確かに見た。

 

(一人の少年とその仲間たち。星遺物に宿る精霊に誘われ、その力を授かった)

 

ここのせは確かに聞こえた。

 

(その精霊が破壊の神の使い魔とも知らずに)

 

ここのせは確かに感じた。

 

(心に直接響いてくる。まるで花火のように。その喜びも悲しみも)

 

ここのせは確かに知った。

 

(これは星遺物の記憶なのか……?)

 

ー繰り返してはいけないー

ーそれ故の呪い(まじない)

ーそれ故の呪い(のろい)

ーそれ故の星巡りー

 

…………

……

 

 

ーーー[星杯]ーーーー

 

………

……

 

(……ここは……?)

 

気がつくと自分はまだ光の中に立っていた。

 

ーーーワァァァァァァァァァァァァァァァァッ

 

割れんばかりの声。

 

(……歓声……?)

 

『ーーーおぉっとォオォオォオッ!! 両者相打ち!! 第三フィールドでは、チームサンドリオンとチームHEROが激戦を繰り広げてるぞォオ!!』

 

不意に聞こえたのは聞き慣れた実況の声。

視界が開け、見えたのは人工芝。

高いフェンスと観客席。

広告看板。

バックモニター。

 

(ここは、ネオ童実野デュエルスタジアム!相手はチームサンドリオン……! あの時の……!)

 

ここのせはすぐに思い出した。

対戦相手のデュエリストはWSCの初戦で対戦した女性ーー有栖川絵留だった。

チームサンドリオンのリーダー。

最初に苦戦した相手。

さらに目の前にはもう一人の人影。

制服は同じ童実野第二高校の男子制服。

黒髪を短く切り揃えた頭髪。

その少年は悔しそうに言った。

 

「〜〜! くそ……! 確かに、俺にはまだデカすぎる力か……! 」

 

少年の前には巨大な列車砲が佇み、主砲から煙を吐いていた。

 

超弩級グスタフ・マックス

攻:3000 地 機械族 ★10

 

その少年の姿に、ここのせは目をこれでもかと見開いた。

 

(なっ……!!? お、オレが、目の前に……!?)

 

目の前の『ここのせ』は側に立つここのせを振り返ることなく動いた。

 

「でもエンドフェイズまでは動ける! カードを2枚セット!」

 

裏側のカードが彼の足元に表示された。

 

「……っても、ここまでか……! 」

 

そう言うと『ここのせ』はクルリと振り返った。

ここのせは『ここのせ』と目が合う。

 

(おわっ!?)

 

「……祭乃木! あとは頼んだぞ!」

 

『ここのせ』は決闘盤をここのせに差し出したーー否。

 

(えっ……?)

「えっ……?」

自分が発した声は、自分のものではない。

一段と高い声。

聞き慣れた声。

『ここのせ』は怪訝な顔を浮かべたものの、さらに言葉を紡ぐ。

 

「えって……。悪りぃが、オレはここまでだ。バトンを渡すっつってんだ」

 

(お、おお、任せとけ)

「えぇ、任せときなさい!」

 

ここのせ?は『ここのせ』が差し出した決闘盤を受け取る。

それから自分の腕や手を見た。

白くて綺麗な肌。

足にはスカート。

後ろ頭に手を回すと束ねられた髪の毛。

 

(ど、どうなってやがんだ……!!? オレが祭乃木になってる……!?)

 

目を丸くして祭乃木(ここのせ)は辺りを見回す。

 

(チームサンドリオン戦……。忘れもしねぇ、オレ達の初陣。グスタフの効果ダメージを反射されちまって、祭乃木に不利なバトンを渡しちまった……)

 

祭乃木(ここのせ)は決闘盤を腕に装着しデッキをセットする。

目の前のデュエリストーー有栖川絵留は糸目をカッと開き自身のデッキトップに手をかけた。

 

「うふふ……。全力でいくわよぉ」

 

有栖川絵留

LP4000

手札5

伏せ0

 

フィールド魔法:

シュトルームベルクの金の城

 

フィールド:

古代機械熱核竜

ヘクサトルーデ

森の聖霊エーコ

 

祭乃木(ここのせ)もデッキからカードを5枚抜き取りながら状況を噛み締めた。

 

(あの時のデュエルを……今度はオレにやってみろっていうのか……! これが……星遺物の呪いなのか……?)

 

『さぁぁぁ!! デュエルはいよいよ大詰め!! ラストプレイヤー同士の戦い!! デュエルは、チームサンドリオンのターンから再開だァァァァァ!!』

 

ーーーーワァァァァァァァッ。

実況の声に再び歓声があがる。

 

(ッ!! ……やるしかねぇ! やってやる!)

 

カードを強く持ち、祭乃木(ここのせ)は前を睨めつける。

 

(……かかってこい!)

「かかってきなさい!」

 

ードローフェイズー

 

相手デュエリストがデッキトップからカードを引き込んだ。

 

「私のターン」

手札6

 

ースタンバイフェイズー

 

「スタンバイフェイズに、コストでカードが10枚裏側で除外されるわぁ」

 

発動中のフィールド魔法《シュトルームベルクの金の城》の維持コストである。

 

(……)

「……」

 

祭乃木(ここのせ)は静観。

 

ーメインフェイズー

 

相手はさらに続ける。

 

「メインフェイズ。ヘクサトルーデの効果発動。シュトルームベルクの金の城が発動している場合、フィールドのカードを一枚を破壊して、このターンの攻撃回数を増やすことができるのよぉ」

 

(ノーコストでの破壊効果……!)

 

「この効果でグスタフマックスを破壊するわ」

 

相手デュエリストはビシッとこちらのモンスターーー超弩級砲塔列車グスタフ・マックスを指差した。

指示を受けたヘクサトルーデは杖を構えて魔力を溜め込んでいく。

祭乃木(ここのせ)はすぐさまセットカード発動ボタンを押し込む。

 

(やらせねぇ! トラップ発動! 迷い風!)

「させないわよ! トラップ発動! 迷い風!」

 

《迷い風》

通常罠

 

(迷い風は……)

「フィールドのモンスター1体を対象にして、効果を無効にしてさらに攻撃力を半減させるわ!」

 

突風が巻き起こり、ヘクサトルーデを包み込む。

 

ヘクサトルーデ

攻:3400→1300

 

効果は無効化され、攻撃力も半減した。

相手はわかっていたとばかりに飄々と言う。

 

「あらあらぁ、防いできたわねぇ。それなら金の城の効果発動よ」

 

相手デュエリストが腕を斜め下に振り払うとシュトルームベルクの金の城が開門。

重々しい音を立ててモンスターを呼び出そうとしていた。

祭乃木(ここのせ)はすかさず動く。

 

(こいつも止めるぜ!!)

「悪いわね! それも止めさせてもらうわよ! リバースカード! 超信地旋回!」

 

《超信地旋回》

通常罠

 

(こいつは……)

「このカードは、地属性機械族のエクシーズモンスターを対象にして、発動できるトラップ! 効果でグスタフマックスを攻撃表示に変更!」

 

超弩級砲塔列車グスタフマックス

守→攻:3000

 

「守備表示から攻撃表示にして、フィールドの魔法・罠を破壊できる! 金の城を破壊!」

 

グスタフマックスの主砲が旋回し角度を定めていく。

腹に響くような低く唸るような砲声をあげて主砲弾が発射された。

砲弾は金の城の主郭に命中し爆発、辺り一面を粉砕した。

 

「あらあら……」

 

フィールド魔法や永続魔法罠のようなフィールドに残存することで効果を発揮する魔法罠カードは効果の処理時にフィールドに存在しない場合は効果発動が不発となる。

従ってシュトロークベルクの金の城は効果を発動したという事実だけを残してフィールドを去ったことになる。

祭乃木(ここのせ)は胸中で整理した。

 

(……ここまではオレのカードだ。こっから先は……)

 

確か相手デュエリストがーーーーー。

祭乃木亜美がーーーーー。

 

(ーーッ!? なっ……忘れるわけねぇはずなのに……!! この先の展開が思い出せねぇ……!!)

 

戦ったことがある。

そして勝利している。

それだけはわかるし覚えているのに、いかにして勝利したか。

道筋が一つも思い出せない。

祭乃木(ここのせ)は気配を感じて振り返った。

 

「ッ!?」

 

遠く。

スタジアムの端はまるで宇宙のように黒塗りになっていて、その奥にポツンとまるで見守るように星遺物-星杯があった。

僅かな光を放ちながら。

 

(祭乃木に頼らず、自分の力でやれってことか……!!)

 

祭乃木亜美にできて、自分にできない道理はないと。

祭乃木(ここのせ)は前を向き直す。

 

(舐めんじゃねぇ!! オレはーーーデュエリストだ!!)

「ッ……!!」

 

相手デュエリストは手札のカードを抜き取るとバシっとメインモンスターゾーンにカードを置いた。

 

「仕方ないわね。それじゃあ、手札のミラー・リゾネーターを特殊召喚よぉ」

 

ミラー・リゾネーター

守:0 星1 光 悪魔族 チューナー

 

「この子は、相手の場にだけエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターがいる場合に特殊召喚できるわ」

 

(グスタフを守ってくるのは折り込み済みって訳か……)

 

「レベル7のヘクサトルーデに、レベル1のミラー・リゾネーターをチューニング」

 

ミラー・リゾネーターは身体を1つのリングに変換してベクサトルーデを包み込んだ。

ヘクサトルーデの身体は7つの星に分解され、調律されていく。

 

☆7+☆1=☆8

 

「シンクロ召喚。来てちょうだい、スクラップドラゴン」

 

「キィィィガァァァァッ!」

 

スクラップ・ドラゴン

攻:2800 地 ドラゴン族 星8

 

「スクラップドラゴンの効果発動よぉ。自分フィールドのカードと相手フィールドのカードを1枚ずつ破壊するわよぉ。私は、森の聖霊エーコを、貴女の場からはグスタフマックスを破壊しましょう」

 

スクラップ・ドラゴンは劈くような雄叫びをあげながら四方八方にレーザー光線を発射した。

辺りを赤いレーザーが駆け抜け、壁を地面を抉り抜く。

やがて相手フィールドの森の聖霊エーコと祭乃木(ここのせ)の超弩級砲塔列車グスタフマックスを貫いた。

爆発、炎上し爆風が祭乃木(ここのせ)のスカートを揺らした。

 

(うぉっ……!)

「……ッ! やってくれるじゃない!」

 

「うふふ。では、バトルフェイズ」

 

ーバトルフェイズー

 

「古代の機械熱核竜で、エンタープラズニルに攻撃」

 

古代の機械熱核竜

攻:3000

 

幻子力空母エンタープラズニル

攻:2900

 

古代の機械熱核竜が熱線を吐き出しエンタープラズニルを攻撃する。

成す術なくエンタープラズニルは撃沈した。

 

(ぐっ!)

「うっ……!」

 

祭乃木(ここのせ)

LP4000→3900

 

「続いて、スクラップドラゴンでダイレクトアタック」

 

スクラップ・ドラゴンが大口を開けて光線を照射する。

祭乃木(ここのせ)のフィールドにカードはない。

 

(こいつを食らったら、半端じゃねぇダメージだ!)

 

慌てて対抗策がないか手札をチラと見てみる。

手札の重なった2枚目。

ジャンク・ディフェンダーのカード。

祭乃木(ここのせ)はそれを抜き取り、メインモンスターゾーンに出す。

 

(流石は祭乃木……!!)

「直接攻撃宣言時、手札からジャンク・ディフェンダーを特殊召喚!」

 

ジャンク・ディフェンダー

守:1800 星3 地 戦士族

 

両肩に屈強なパットを付けた機械戦士が祭乃木(ここのせ)の前に現れ、スクラップドラゴンの熱光線を遮った。

ジャンクディフェンダーは光線に貫かれて破壊されたものの祭乃木(ここのせ)のライフに損傷はない。

 

(よしっ! 防いだぜ!)

 

 

「あらぁ、残念。カードを2枚セットして、ターン終了よぉ」

 

相手デュエリストは伏せカードを2枚場に用意するとフェイズを移行させた。

 

 

ーエンドフェイズー

 

相手デュエリスト

手札3

伏せ2

フィールド:

古代の機械熱核竜

スクラップ・ドラゴン

 

ードローフェイズー

 

ターンが回ってきた。

祭乃木(ここのせ)は負けじとカードを引き込む。

 

(さぁ、いくぜ! オレのターン!)

「さぁ、いくわよ! アタシのターン!」

 

ドローカードで手札は5枚。

 

ーメインフェイズー

 

 

(手札は…)

 

改めて手札のカードを見つめる。

見慣れない――いや見慣れないでは語弊があるか――自分のものではないカードたち。

使ったことのないHEROカード。

だが、亜美のプレイングを常に見ているので効果は把握している。

 

(よし、これなら……!)

「E・HEROエアーマンを召喚!」

 

「タァッ!」

 

E・HEROエアーマン

攻:1800 風 戦士族 星4

 

(エアーマンの効果発動!)

「エアーマンの効果発動! デッキからHEROモンスター、リキッドマンを手札に加えるわ!」

 

召喚権を消費したものの手札の減らぬモンスター。

加えたカードを持ち替えて別のカードをスロットに差し込む。

 

(こいつで一掃してやるぜ!)

「手札から融合を発動!」

 

《融合》

通常魔法

 

しかし相手デュエリストはほのかに笑うと応戦するようにカードを発動してきた。

 

「やらせないわよぉ。リバースカードオープン、風魔の呪印!」

 

《風魔の呪印》

カウンター罠

 

(なにっ!?)

「なっ……!?」

 

chain1 融合

 

chain2 風魔の呪印

 

相手デュエリストは手札のカードを墓地に送って宣言する。

 

「手札の魔法カード1枚を墓地に送って効果発動。魔法カードの発動と効果を無効にして破壊するわぁ」

 

祭乃木(ここのせ)の目の前の融合カードが急激に帯電し、ビリビリと感電したように煙を上げる。

さらに効力を失ったカードは灰色になり崩れ去っていく。

 

「この効果で破壊されたカードは、貴女はこのデュエル中、同名カードが使えなくなるのよぉ」

 

(ぐっ……!)

「くっ……」

 

切り札がつぶされた祭乃木(ここのせ)は苦い顔で再び手札を見る。

 

(くそっ……!! 初動が止められた……!! ちくしょう、相手いいもん持ってんじゃねぇか……!)

 

しかし手札には再度起点になるカードはない。

 

できることに目を向けようと祭乃木(ここのせ)は手札から目を切った。

 

「バトル!」

 

 

ーバトルフェイズー

 

(いけ! エアーマン! )

「スクラップ・ドラゴンに攻撃!」

 

祭乃木(ここのせ)はエアーマンに指示を下す。

E・HEROエアーマンの攻撃力は1800。

対するスクラップドラゴンの攻撃力は2800。

彼我の攻撃力差は歴然だった。

しかし相手デュエリストは油断することなくカードを発動させた。

 

 

「……リバースカードオープン!」

 

《威嚇する咆哮》

通常罠

 

(なんだと……!? )

 

 

――――グォォオォオォオォオォオッ!!

 

凄まじい咆哮が空気を揺らし、肉薄しようとするエアーマンの足を止める。

 

「何を企んでいるかは知らないけど、止めさせてもらったわよぉ」

 

 

(ちっ……!)

 

祭乃木(ここのせ)は舌打ちして己の手札を一瞥する。

そこにあるのはE・HEROオネスティ・ネオス。

 

(コンバットトリックを読まれたか……!仕方ねぇ!)

「メイン2!」

 

 

ーメインフェイズ2ー

 

「こちらもカードを2枚セット!」

 

スロットにカードを2枚差し込み、足元に罠を仕掛ける。

 

「ターンエンド!」

 

ーエンドフェイズー

 

祭乃木(ここのせ)

LP:3800

手札2

伏せ2

フィールド:

E・HEROエアーマン

 

 

ードローフェイズー

 

「私のターン」

 

相手デュエリストにターンが渡る。

 

ースタンバイフェイズ→メインフェイズー

 

「手札から魔法カード、強欲で貪欲な壺を発動するわ」

 

《強欲で貪欲な壺》

通常魔法

 

「デッキの上からカードを10枚除外して、カードを2枚ドローするわよぉ」

 

デッキからカードが10枚飛び去り虚空へと消えていく。

前のターンの金の城の維持コストも踏まえると合計20枚ものカードが相手のデッキから消失したことになる。

 

「続けて、カードを1枚セット」

 

伏せカードが彼女の足元に現れる。

それからスクラップ・ドラゴンの身体が光り出した。

 

「そして、スクラップ・ドラゴンの効果発動。私のセットカードと貴女のデッキ側のセットカードを破壊するわ

 

(くっ……!)

「くっ……!」

 

スクラップ・ドラゴンの無差別破壊光線が周辺を焼き尽くす。

闇雲に発射されたレーザーが相手の足元のカードと祭乃木(ここのせ)のセットカードを貫いた。

セットカードはピンポイントガード。

これがあれば直接攻撃は避けられたというのに。

 

(くそっ……!)

「くっ……!」

 

「うふふ。これである程度は舞台が整ったかしらぁ?」

 

(舞台……?)

「舞台……?」

 

「手札から魔法カード、二重召喚を発動!」

 

《二重召喚》

通常魔法

 

勢いよく回転したカード。

緑色の縁。

そのカードを見た瞬間、まるでフラッシュバックのように胸を打つ。

 

「このターンの通常召喚権を2回に変更するわよぉ。ふふふ……。金の堅牢に閉じ込めた鬱屈した魔物を解き放ちましょう?」

 

ズズズズズズズズ……。

引き摺るような。

煮えたぎるような。

そんな音。

 

(な、なんだ、この地響きは……!?)

 

鳥肌が立つような重圧に祭乃木(ここのせ)はあたりを見回す。

 

「私の場に現れなさい、紅蓮魔獣ダ・イーザ」

 

相手デュエリストは2枚のモンスターカードをモンスターゾーンに置いた。

 

ダ・イーザ

攻:? 星3 炎 悪魔族

 

ダ・イーザ

攻:? 星3 炎 悪魔族

 

 

「……なっ!? あのカードは!?」

 

「どんなものにも、鬱屈した感情は溜まるものよぉ? このモンスターの攻撃力は、除外されているカードの数×400Pの数値になる」

 

(あんたの除外カードは……!)

「アンタの除外カードって!?」

 

「そう。金の城のコスト10枚と今発動した強欲で貪欲な壺のコストの10枚。その合計は20枚。つまり攻撃力は……」

 

ダ・イーザ

攻:?→8000

 

ダ・イーザ

攻:?→8000

 

(攻撃力8000だと!?)

「こ、攻撃力8000!!??」

 

「いくわよぉ、バトル!」

 

ーバトルフェイズー

 

相手デュエリストは痛烈に祭乃木(ここのせ)を指さし高らかに宣言する。

 

「ダ・イーザ、溜め込んだ感情を解き放ちなさい!」

 

「グォォオォオォオォオォオンッ!!」

 

ダ・イーザ

攻:8000

 

幾重にも折り重なった凄まじい怒気がダ・イーザの身体を数倍にも、数十倍にも大きくしていた。

祭乃木(ここのせ)は慌ててセットカードを発動する。

 

(ぐっ!! リバースカードオープン!!)

「月の書!!」

 

《月の書》

速攻魔法

 

(対象のモンスターを…)

「裏側守備表示に変更するわ!」

 

月の書はカッと輝き、襲い来るダ・イーザを吸収する。

そのまま本は閉じ、フィールドを転がった。

 

ダ・イーザ

→裏側守備表示

 

攻撃は遮られた。

1体は。

しかし。

場にはもう1体。

 

「関係ないわぁ、もう一体のダ・イーザでエアーマンに攻撃!」

 

「グォォオォオォオォオォオンッ!!」

 

ダ・イーザ

攻:8000

 

迫りくる赤い紅蓮。

 

場にはE・HEROエアーマンただ1枚。

セットカードも手札も墓地も。

ない。

 

(くそったれ……!!)

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

ダ・イーザ

攻:8000

 

E・HEROエアーマン

攻:1800

 

ダ・イーザの咆哮と共に繰り出された拳がE・HEROエアーマンを叩き潰す。

一瞬音が聞こえなくなるほどの耳鳴りがしてその後に激しい衝撃がここのせを吹き飛ばした。

 

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

能勢 心

LP:3900→0

 

数メートルは吹き飛ばされ、地面を何度も転がりようやく止まる。

全身が痛み、持っていたカードもデッキもあたりに散乱してしまった。

 

「ぐっ……!」

 

気を失う寸前に何とか強引に目を見開き歯を食いしばる。

そして何とか上半身を起こした。

 

「く、くそ……! やっぱりオレの運命力じゃ勝てないってのか……!!)

 

ズズズ……。

黒い闇がここのせの腕や足を取り巻く。

 

(もっと力があれば……)

 

ズズズズズズ……。

闇が具現化したように。

黒いカードが目の前に現れた。

 

「!!」

 

ズズズズズズズズズ……。

凄まじい力を感じる。

それを取ればあるいは。

 

「……!! もっと力を……!!」

 

手を伸ばしかけてここのせはぴたりと手を止めた。

ふと散らばったカードが目に入る。

ソリッドマンのカードだった。

 

(……オレはまた別の力に頼る気か?)

 

自分で自分に問いかけた。

 

(……今のデュエルは本当に運命力の無さで負けたのか?)

 

返答はない。

自分で応えない限りは。

 

(……いいや違う、今のは運命力のせいなんかじゃない。オレは祭乃木になってた。手札も万全だった。きっと運命力も十分にあった)

 

手を完全に引っ込めてここのせは拳を握る。

悔しさを抱くように。

 

(オレは手札をケチってソリッドマンを使わずにエアーマンを使った。だがソリッドマンを経由してエアーマンを出していれば、バックを割れたし、少なくともスクラップ・ドラゴンを除去できたはずだぜ)

 

手札にあったカードを正しくプレイングできていれば。

可能性を広げられた。

 

(もしスクラップ・ドラゴンを除去できてたら、こっちの防御策で攻撃を受け切ることができたはずだ。……今のデュエル、負けるべくして負けてるじゃねぇか。運命力じゃねぇ。単純な実力で負けたんだ)

 

何が運命力か。

 

「ーーそうか」

 

ここのせは顔を上げて前を向く。

 

(オレはここにきてもまだ、自分の弱さを。実力の無さを。心の底から認めてなかったんだ。全部、運命力のせいにして)

 

足に力を込めて立つ。

 

(……オレは口ばっかりだった。自分が弱いって認めるふりをしてた。もし新しい力を手に入れたとしても今のままのオレじゃダメだ)

 

痛む身体は無視して。

痛む心は無視して。

 

(ーーどんなに強い力を貸りてもオレ自身が弱きゃ意味がねぇ)

 

それでも自分の足を、手を、頭を、目を、ーーーそして心を、信じて。

 

「認める。オレはーーー弱い。どうしようもなく、弱い。でもだからこそ。オレにできることをーーオレ自身の強さを見つけなきゃいけないんだ」

 

闇は怯んだように身体から引いていく。

 

「オレは星遺物がなきゃ戦えない。でもそれはオレ自身が弱いままでいいってことじゃねぇ!ギリギリまで自分の力で戦う!! それがオレのーーデュエリストとしてのプライドだ!!」

 

叫び、ここのせは腕を薙ぎ払った。

黒いカードは煙となって消えていき、目の前に再び光の路が見えた。。

ここのせは再び叫ぶ。

 

「もう一回こいよ! 何度だってやってやる! オレは今まで何度も負けてきたんだ!! 悪りぃが一回負けたくらいじゃ挫けないぜ!」

 

光が開く。

向こうからは歓声。

緊張と汗のにおい

 

「ーーーさぁ、いくぜ! デュエル!!」

 

…………

……

 

 

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