遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~   作:レトやま

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遅くなり申し訳ございません!
皆様、ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!


第35話「WSC本戦第4回戦 忍び寄る悪意」前編

 

[夕方 童実野第二高校 空き教室]

 

ギターの音が窓から漏れていて、それに合わせるようにしてスネアドラムが跳ねている。

そんな教室の中央ではお手製のポンポンを両手に携えた女子生徒2人が、同じくぽんぽんを持って前に立つ女子生徒ーー市原桃胡、自称くるみんの踊りを手本にフラフラと踊っていた。

 

「ここでくるっと回って、左手は腰! 右手は上げて! 元気よく! はい、はい、ハイハイハイハイ!」

 

「あわわわわ……!」

 

「市原さぁぁん! もう一回お願いー!」

 

「いいとも! この天才女子高生の踊り、よぉーく目に焼き付けて!」

 

踊りの練習をしながらスカートを跳ねさせる。

その横では背の高い男子生徒ーー水原忠一が木の板にペンキを塗っていた。

 

「へっくし……!」

 

ズッと反動で塗ってたところがはみ出てしまう。

 

「……あーあ」

 

そんな教室にノックの音。

 

「……ん?」

 

忠一は億劫そうに立ち上がると教室のスライドドアを開けた。

するとそこには見慣れない男子生徒が立っていた。

 

「あっ……」

 

「どなた?」

 

忠一が聞くと男子生徒は手持ち無沙汰な右手を頭の後ろに当てて答えた。

 

「えっと、3組の小林だけど……。あの、ここで例のヒーロー部を応援してるって聞いたんだけど……」

 

「そうだけど。うるさかった?」

 

「いや、そうじゃなくて……。お、俺も……」

 

男子生徒が言いかけた時、後ろから別の足音がした。

軽快なそれは話している二人の前で止まる。

 

「あ! 水原くん!」

 

「ん? ……」

 

 

見ると今度は女子生徒。

半袖のTシャツから覗く肌は日焼けで茶色に染まっていた。

忠一が女子生徒の顔を怪訝そうに見ると女子生徒はむっと顔をしかめた。

 

「あ、誰って顔した。一年の時、同じクラスだったでしょ」

 

「……ああ、おぼえてるおぼえてる」

 

「うわぁ、嘘っぽ〜! まぁいいや。ここに篠原さんと相澤さんいる?」

 

「……そういう名前かは知らないけど、2組の人ならいるよ」

 

忠一が親指を後ろに向けて指すと、さっきまで中央で踊っていた女子生徒2人がやってきた。

 

「あ! はるちゃん!」

 

「え、なに菅谷さん来たの?」

 

すると今きた日焼けした女子生徒が笑う。

 

「あはは、ホントにやってるだ」

 

「ダンス部の方はいいの?」

 

「うん、話はつけてきたから。それに私も流行りに乗ろうと思って」

 

それから今きた女子生徒と男子生徒は、忠一の顔を見上げた。

忠一は怪訝な顔を崩さずに言う。

 

「つまり、君らは手伝いに来たってことでいいの?」

 

「そ、そうそう!」

 

「うん、面白そうだから混ぜてよ」

 

二人がそう答えると忠一の後ろから桃胡が顔を出して親指を立てた。

 

「Bravo! 大歓迎さ! 我らチームHERO公式サポーターズは、君たちの応援を待っているとも!」

 

 

 

 

寝る前決闘空間第32話

『忍び寄る悪意』

 

 

 

 

[ネオ童実野シティ カフェlike]

 

郊外の坂の下。

そこに個人経営の喫茶店がある。

落ち着いた木目調の店内には柔らかなバイオリンの曲が流れていた。

端にある6人掛けの机にはヒーロー部が陣取っていて、唯一立っている黒いエプロンを掛けた良平がお盆を机に置く。

 

「はい、お待ちどうさま」

 

お盆の上には昔ながらのナポリタンが真っ赤な香りをホカホカと立てていた。

ここのせは皿を引き寄せると間髪入れず言う。

 

「うひょ〜、うまそ〜」

 

フォークを突き立てて掬うとズルズルと吸い込んでしまう。

少しの酸味と素晴らしい塩っけと旨みが口全体に広がった。

 

「うぉ〜、染み渡るぅ〜」

 

「あはは」と前に座るゆきは笑いながらナプキンをここのせに差し出した。

 

「ここのせさん、お口真っ赤ですよ?」

 

「おっとっと」

 

ナプキンを受け取ると急いで口の周りを拭き取る。

その隙に右隣に座る亜美はここのせの前にあった皿をさっと持ち上げた。

 

「へぇ、美味しそうじゃない!」

 

フォークを突き立てるとクルクルと巻き上げて口に運ぶ。

 

「ん! んまーい!」

 

「おーいー! 取んなよー!」

 

「ケチくさいこと言ってんじゃないわよ! 奢りなんだから文句言わないの!」

 

「横暴なやろうだぜったく」

 

亜美の前から皿を取り返すとここのせはため息をついた。

 

「……」

 

ゆきの隣に座る恵は会話に参加することなく氷の入った水を見つめている。

カランと氷が鳴った。

それを尻目にゆきは両手を胸の前で組んで良平を見上げた。

 

「でも凄いですぅ! 日和田さん、料理もできたんですねぇ!」

 

「あ、いやこれ俺が作ったんじゃなくて冷凍なんだ。作ったのはミオちゃんだよ」

 

「そうなんですか!? ……えっとミオちゃんって、日和田さんのお母様ですよね」

 

「うん。ウチで出してる料理は、ミオちゃんが一気に作って専用の機械で冷凍しといたやつを出してるんだ」

 

「へぇ、そうなんですねぇ」

 

感心するようにゆきは深く息をついた。

亜美はここのせの皿にフォークを刺して巻き取り口にすると、咀嚼して飲み込む。

 

「はぁー、凄いわミオちゃん」

 

「これで350円だってんだから驚きだよなぁ。ソイゼリアのタラコパスタ シトリィ風より安いぜ」

 

ここのせも咀嚼しながら頷いた。

財布に優しい格安イタリアンが駅前にあっても足を運ばない理由がこれだ。

亜美は水に口をつけてから良平を見た。

 

「でも大丈夫なわけ? 勝手にチンしちゃって」

 

「レジにお金いれとけば大丈夫だよ」

 

良平はちらと出入り口付近にあるレジスターを見た。

彼の母は気にしなくていいと言うがそうもいくまい。

それからここのせは食べていたスパゲッティを平らげて飲み込むと話題に水を向けた。

 

「……んっ、ゴクンッ……それよりよ、明日の相手についてだぜ。次の相手、チームBanditだろ」

 

「はい。あ、わたし、調べてきましたよ!」

 

ゆきはスクールバックに手を突っ込みゴソゴソと漁ると可愛らしいノートを取り出した。

受け取ってここのせは首をかしげる。

 

「……なんでぇこりゃ。新聞紙の切り抜きが貼ってあんぞ」

 

「えへへ、スクラップブックを兼ねてまして……」

 

「時代遅れな……」

 

率直な感想にゆきは、えへへと眉を八にして笑う。

しかし亜美は得意げに言う。

 

「アタシたちも見たけど結構凄いわよ! よく調べてくれてるわ!」

 

「どれどれ……」

 

ぺらと捲る。

そこにはゆきの手書きとわかる綺麗な文字が新聞記事やネット記事と一緒にならんでいた。

まず目に飛び込んできたのは星条旗のバンダナをつけた強面の白人男性だった。

 

チームBandit!

リーダー:

Geek Howard

ギーク ハワード

使うデッキ:Plunder Patroll??←(船のデッキ??)

 

 

メンバー:

Sakura Tyler Middle

サクラ テイラー ミドル

使うデッキ:Danger!←危なそう?

よくわからないうちにたくさんモンスターが出てくる!

 

文字の側には、少しふくよかな金髪女性の写真が貼ってある、

 

Lunakin Scott

ルナキン スコット

使うデッキ:kozumo?

昔やってた映画みたい!

 

こちらの男は黒いマントに近未来な電子銃みたいなのをつけていた。

ここのせは読みながら口を開ける。

 

「ギーク・ハワード……。こいつは知ってるぜ。アメリカのメジャーデュエルリーグで首位だった奴だ。一回麻薬でしょっ引かれてからはチームデュエルの方で見るようになったな」

 

「あのいけ好かない外人ね!」

 

反対側から覗き込む亜美がわずかに口を尖らせて言うので、ここのせは思わず顔をあげた。

 

「え、会ったことあんの?」

 

すると良平がエプロンを畳んで隣に座った。

 

「ここのせが行ってる間にテレビ局でcm撮ったんだよ。その時にちょっとね」

 

「は? cm?? マジ??」

 

「はい!」と頷くのはゆき。

 

「祭乃木さんが出てるんですよ! わたし、録画したのでダビングしましょうか?」

 

「いやそこまでは……。ていうかダビングって……なんか古くね?」

 

「へ?」

 

予想外と言わんばかりにゆきは首を傾げた。

 

「ゆきが古いかはさておき! そいつらのデッキが問題よ!」

 

亜美が話を戻すと良平も腕を組んだ。

 

「全部英語だし、しかも海外先行テーマみたいだ」

 

「げぇ〜、英語かよ……」

 

ここのせは自分の苦手科目を押し付けられて辟易とした。

 

「ってかお前でも知ってるカードがねぇのか?」

 

「絵柄は知ってたけど効果は知らなかったよ」

 

良平が答えるとゆきは良平の顔に向く。

 

「たしか海賊船みたいなカードでしたね」

 

「うん。割れてるカードは恵が訳してくれたから戦術もなんとなく……」

 

「アンタはどう見てるの?」と亜美が聞くと良平はノートに指を置く。

 

「Plunder Patrollっていうデッキは、融合もシンクロもエクシーズもリンクも全部使ってくるテーマみたいだ」

 

「凄いですぅ……」

 

「そういう切り札になるカードを小型モンスターで操りながら戦うデッキなんだと思う」

 

「しかし、それだけならそこまで強く感じねぇぜ?」

 

ここのせが腕を組んで聞くと良平はすぐに返す。

 

「このデッキの真髄はアドバンテージの獲得能力にあるんだと思う」

 

「アドバンテージ、ですか?」

 

ゆきが思わずおうむ返しすると良平は頷いた。

 

「多分だけど、エクストラから出てくる船のカードは相手に干渉しながら、さらにデッキからカードをサーチする効果を持っているみたいなんだ」

 

「つまり」と亜美が後ろを引き継ぐ。

「効果を通したら2アド稼がれるかもしれないってことね……」

 

デュエルにおいてアドバンテージをどう稼ぐかは死活問題とも言える。

自分のカードを削りながら相手のアドバンテージを捻出されてしまえば、その分勝利は遠のくだろう。

ここのせは眉を顰めてこぼす。

 

「こっちを攻撃して稼ぐ……。まさしく海賊船ってわけだな……」

 

「チームバンデットっていう名前なだけありますね……」

 

ゆきも同意する。

亜美は再びノートに目を落とした。

 

「その海賊船のデッキ以外のメンバーもなかなかやる相手よ」

 

「そうだね」と良平はノートに載せた人差し指を動かす。

「kozumoもライフを使ってカードを回して大型モンスターで制圧する堅実なデッキだと思う。Danger!は……うーん……」

 

「言葉に詰まる感じなんです?」とゆき。

 

「いや、ごめん。正直このデッキはわからない。効果を見るに手札から大量展開してくるだろうし、めちゃくちゃ強いことは確かだと思うんだけど……」

 

「わからねぇってのは?」

 

ここのせが聞くと良平は息をついて後ろ頭を掻く。

 

「できることが多すぎて絞れないんだ。この人のデュエルが少ないから情報もあんまりないし……」

 

「はぁ……聞きたくはねぇ言葉だなぁ……。できることが多いってのは……」

 

ここのせのボヤキに亜美は腕を組んだ。

 

「ま、ここに来て楽勝ってことはないはずよ! 強くて結構! ドンと来なさいっての!」

 

自身に満ちた表情に凛と髪が靡く。

店内のbgmはどうやら一周してしまったのか聞いた音が流れ始めた。

ゆきはさらにノートの3名の名を目で追う。

 

「それで、お相手はどんな順番でくるんでしょう?」

 

「……それに関して私から具申したい……」

 

不意に静かな声がして、4人はすぐさま声の方を見る。

そこには恵がいて顔を上げて全員の顔を見ていた。

 

「お! なに?」

 

「……今、チームBanditの選出予想シミュレートが完了した……」

 

「え? そんなのやってくれてたの?」

 

良平が意外そうな顔で言う。

ここのせも怪訝な顔でつぶやいた。

 

「さっきからコップをじーっと見てたから何してんだと思ってたけどよ……」

 

それを横目に恵は続ける。

 

「……ネットデータからチームBanditのデッキを予想・仮定し、仮想デュエルシミュレーションを1万回実施していた……」

 

「なんかわかんないけど、すごいじゃない、恵! それで、結果は??」

 

亜美が聞くと真っ直ぐに目を向けたまま恵は答えた。

 

「……ファーストプレイヤーがギース・ハワード、セカンドプレイヤーがルナキン・スコット、ラストプレイヤーがサクラ・テイラー・ミドルである確率が62.25%……」

 

「ってことは、海賊船、SFっぽいデッキ、UMAのデッキの順番ってことになるわね」

 

「他の可能性はどうなってんだ?」

 

ここのせが聞くと恵はわかっていたかのように即答する。

 

「……セカンドプレイヤーとラストプレイヤーの順番を入れ替えたチーム編成が22.39% その他の組み合わせはいずれも5%を下回る……」

 

つまりギース・ハワードなる人物がファーストプレイヤーであることは変わらない。

ゆきは唇の端に人差し指を当てて首を傾げた。

 

「たしかにこれまでもギーク・ハワードという方が最初に出てきてますね……。どうしてなんでしょう?」

 

「……デッキ解析の結果、3名のデッキはいずれもファーストプレイヤーの適正が低いわけではない。しかし、長期戦が想定されるデュエルにおいて戦術運用を考慮した場合、先程の選出が最善手であると言える……」

 

「???」

 

恵の解説にゆきはさらに深く首を傾けた。

亜美は腕を組んだままノートに目を落とす。

 

「kozumoはライフを使って戦うし、dangerも大量展開するためにデッキの枚数をかなり使うと思うわ。だからどっちのデッキも長期戦には向かないはずよ」

 

「ふむふむ……」

 

「となると」と今度は良平が続きを紡ぐ。

「先発で相手をコントロールしながら有利に戦って、二番手で強気にビートダウン、最後に大量展開からの瞬発火力で押し切るっていう戦い方が一番強そうってことだよね」

 

「……その通り……」

 

「なるほどぉ!」

 

ゆきはようやく合点がいったと言わんばかりに手のひらにもう片方の握り拳をポンと当てる。

 

「そう聞くと理にかなってますね」

 

安定した戦術。

それこそが勝ち続ける秘策なのだろう。

8強とはそういう相手だ。

ここのせはノートのdangerの文字をトントンと指で叩いて声を出す。

 

「相手がこっちを舐めてど頭から瞬発火力で突っ込んでくる可能性はねぇか? 恵のシミュレートでも低確率で起こるんだろ」

 

「……肯定する……」

 

「うーん、たしかに無くもないかな……」

 

と良平も頭を捻った。

チームデュエルは、通常のシングルデュエルと違う。

勝ち抜きでデュエルする都合上、ファーストプレイヤーを先に下した方が有利。

となるとそれに全力を賭してくる可能性だって十分にありうる。

ただ亜美は首を振った。

 

「いや、相手が舐めてるなら、なおさらギークとかいうやつが出てくると思うわ!」

 

「なんでだ?」

 

「あの手のデュエリストは力を誇示してくるタイプよ! きっと調子に乗ってるキッズを3タテしてやろうとか考えてるはず! 根拠はないからアタシの勘だけど!」

 

フンと亜美が得意げな笑みを浮かべて言うので良平は苦笑いを浮かべながら続けた。

 

「か、勘はともかくとして。これまでのデータを見ても先発はチームリーダーの人ってことでいいと思うな」

 

「では、わたしたちはどうしましょうか?」

 

ゆきが全員を見渡して言う。

すると亜美がこれまた得意げにここのを見た。

 

「海賊船が相手っていうならこっちはもう決まりじゃない! ここのせ! アンタに先発を任せるわ!」

 

「オレ?」

 

急に指名されてここのせは自分で自分を指差した。

良平も頷く。

 

「そうだね。海賊船デッキの素の打点はそう高くない。なら火力勝負に持ち込めそうなここのせのデッキなら押し切れそうだ」

 

「よーし! 任しとけ! 海賊退治は海軍の役目だ。きっちり沈めてやるぜ!」

 

胸を張ってここのせは言う。

亜美は満足そうに口の端をあげた後、また全員を見る。

 

「セカンドは……」

 

「あ、じゃあ俺行っていいかな?」

 

小さく手をあげる良平。

亜美は意外そうな顔をした。

 

「お?自分からなんて珍しいじゃない」

 

「宇宙相手には空軍ってか?」

 

ここのせも茶化すように口を挟む。

良平は緩やかに首を振って答えた。

 

「いや、そういうわけじゃないけど……。相手の切り札級のモンスターを幻獣機なら捌ける気がする」

 

「ホント〜? アンタ、あわよくばここのせの新しいカード使ってみたいとか思ってんじゃないの〜?」

 

「え? あ、あははは……」

 

良平は誤魔化すように笑うと後ろ頭をポリポリとかく。

チームデュエルならばファーストプレイヤーが残したカードを引き継いで使える。

未知のカードの存在にソワソワとするのはデュエリストの宿命ともいえるだろう。

ゆきはくすくすと笑った。

 

「日和田さん、図星って顔ですぅ!」

 

ゆきの指摘に良平は眉を八の字にしてしまう。

しかし恵は良平の目を一直線に見て声を出した。

 

「……私としては日和田良平……貴方の選出は推奨しない……」

 

「え?」

 

「……現在、世論の評価において、日和田良平は注目されていると言える。また先のデュエルにおいてデッキのほとんどのカードを使用してる……」

 

「そりゃ8決めでのあの大立ち回りじゃなぁ……」

 

「試合の後も新聞や雑誌に載ってましたもんね」

 

ここのせの言葉にゆきも苦笑いする。

良平も「それは……」と言葉を濁してしまう。

8強相手を事実上1人で壊滅させたデュエリストと、世は持て囃した。

最もこちらが学生だからか強引な取材などはなかったが。

亜美も息を吸い込んでわずかに唸る。

 

「確かに相手からしたら絶対対策したい相手よね」

 

「研究されてもそんなに大したことができるわけじゃないってバレるだけなんだけどなぁ……」

 

良平はそうぼやいたものの、今回は適任ではないというのは火を見るよりも明らかだった。

ここのせがソファに深く腰掛けて言う。

 

「しかし良平がダメなら誰が出るんだ。間宮か恵だろ?」

 

「……私が出場する……」

 

またもや即答。

恵が間髪入れずにいうので亜美は目を丸くした。

 

「あれま、こりゃまた珍しいじゃない」

 

「……相手のビートダウンに耐え、こちらが場をコントロールするという観点では、私でも同様のことが可能……」

 

「た、確かに……」と恵の言葉に頷く良平。

 

「……貴方はその間にデッキ調整に専念すべき……」

 

「うっ……。わかった、そうするよ……」

 

たじたじとする良平に亜美は大きく笑った。

 

「あっはっはっ! 恵の前じゃ良平もかたなしね! じゃあセカンドは恵! そして最後はアタシがいくわ!」

 

「決まりだな」

 

ここのせもにやりと笑って頷いた。

その刹那、カランカランッとドアのベルが鳴った。

音に反応して良平が立ち上がる。

 

「あっ、いらっしゃいませ……ってミオちゃんか、おかえりなさい」

 

入ってきたのは壮年の女性だった。

買い物帰りなのか大きなエコバッグを持っていて、こちらを見ると細目を垂れさせてゆっくりと話した。

 

「うん、ただいま〜。あらぁ、みんな来てくれたのねぇ」

 

「おじゃましてます!」と亜美。

 

「さーせん、スパゲティ食ってます」とここのせ。

 

「おじゃましてますぅ!」とお辞儀するゆき。

 

「……」と無言でお辞儀する恵。

 

女性―良平の母はにっこりと笑って応対する。

 

「いいのよぉ。みんな、ゆっくりしていってねぇ……って言いたいんだけどぉ……」

 

「あれ? なんかまずかった?」

 

亜美が聞くと良平の母は困ったように眉を上げた。

 

「ううん、まずくはないんだけどねぇ? 実はこのあと、団体さんが予約してるのよぉ」

 

「え? そうだっけ?」

 

良平が驚いて目を見開く。

 

「良くんが学校に行ってる間に電話とったのです」

 

「でも、団体って……。そんなこと今まであった?」

 

「ここ最近ちょこちょこあるのよぉ。それで席がギリギリなの」

 

喫茶likeは個人経営の小さな店だ。

店の中には4人掛けが3つに、端に6人掛けが2つ。

カウンターに4席程度。

1つでも席を陣取られてはかなわないというわけだ。

亜美は素早く立ち上がると手をパンパンと叩く。

 

「それはいけないわ! みんな! 急いで片付けて机拭くわよ!」

 

「はい!」

 

いの一番にゆきが立ち上がりびしっと敬礼する。

 

「ほら! アンタたちも!」

 

「へーへー」

 

……

 

[カフェの外]

 

外に出るとずいぶん日が傾いていたが、まだまだ太陽は西の空の高い位置にいた。

全員が店を出ると亜美は両手を腰に当てて全員を見渡す。

 

「じゃ、明日はいつも通りメモスタの前で集合よ! 9時にはきてなさいね!」

 

「おーう」

 

「うん」

 

「了解です!」

 

「……承知した……」

 

それぞれが返事すると亜美は満足そうに笑い踵を返す。

 

「それじゃあ解散! また明日ね!」

 

「じゃあなー」

 

「……」

 

ここのせは坂を上り、恵も中央街の方へと歩いていく。

当然良平はそのまま店のドアを開けて中へ入っていった。

ただ唯一ゆきだけはその場に留まり俯いていた。

 

「……」

 

「あーお腹減ったぁ……。コンビニ寄って帰ろっと」

 

「あ、あの祭乃木さん!」

 

「ん? どうしたの?」

 

呼び止められて亜美は振り向く。

ゆきはスカートを握って俯いていて。

かと思えば顔を上げて愛想笑いを浮かべた。

 

「えっとその……わ、わたしもコンビニご一緒してもよろしいですかぁ?」

 

「え、もちろんいいけど……。じゃあ、あっちの天神通りの方のコンビニに行きましょ! それならゆきの家も近いし!」

 

「えぇ! わ、悪いですよぉ」

 

「いいのよ。夏だし、まだまだ明るいけど用心するに越したことないんだから」

 

「……!……用心……」

 

その言葉を聞いた瞬間に心臓が跳ね上がった。

嫌な動悸に汗がにじむ。

亜美は少し眉を潜めて聞く。

 

「どうしたの?」

 

「い、いえ! なんでもありませんよ! いきましょうか!」

 

「う、うん」

 

 

[夕方 天神地区 間宮宅近所のコンビニ外]

 

 

「……」

 

コンビニの軒下でゆきはスクールバッグを両手に持って待っていた。

もう夕方だというのにミンミンゼミの声が遠くから聞こえてくる。

不意に入店音がして亜美がアイスキャンディーを差し出した。

 

「お待たせ! はいこれ!」

 

「わっ、い、いいんですか?」

 

「いいのいいの! アタシの奢り!どうせ50円だしね! 食べながら帰りましょ! 送るわよ!」

 

「え、あ、ありがとうございますぅ」

 

ガサガサと二人してアイスキャンディーの袋を開封する。

 

「あむっ……」

 

歯を立てるとシャクシャクとした触感と共にきんと冷たい質感が広がる。

爽やかなソーダの甘酸っぱい味がはじけていく。

ゆきはチビチビと舐めていた。

亜美はアイスを飲み込むと声を出した。

 

「それで?」

 

「?」

 

「何かアタシに話があるんじゃないの?」

 

「え……?」

 

「あれ、違った? ゆまがわざわざ引き止めるなんてって思ったんだけど」

 

「……」

 

遠くからミンミンゼミの声に交じってヒグラシの声がする。

夕暮れに交じって一陣の冷風が頬を撫でた。

ゆきは慌てて手を振って言う。

 

「い、いえ! そういうわけではなくてですね……!! えっとその……そう実は明日のことで緊張してしまって……それでその……」

 

「……うん?」

 

「……えっとお散歩がてらと思いまして、ホントそれだけなんです! すみません、気を遣わせてしまって!送ってもらった上にアイスまでいただいちゃって!」

 

「それは全然いいのよ、気にしないで。……でもホントに大丈夫なの?」

 

「はい! 不肖間宮ゆきは今日も元気ですよ!」

 

両手の握り拳を胸の前で作ってニコリと笑うゆき。

 

「……そっか! なら大丈夫ね! ごめん、アタシの早とちりだったわ!」

 

「いえいえ! 本当にありがとうございます! ……あ、ごめんなさいお家の前まで……」

 

天神地区の郊外の中心で足を止める。

少し大きめの一軒家。

軒の一段上がった場所にゆきが足を踏み入れると亜美もにこりと笑った。

 

「大丈夫よ! アタシにとっても良い散歩になったから! じゃあまた明日ね!」

 

「はい!」

 

手をフリフリしてゆきが答えたので亜美も自分の帰路に就く。

数歩歩いたところでバタンッとドアが閉まる音がしたので亜美は足を止めてゆきの家を振り返る。

白い壁に赤い屋根。

立派な一軒家だ。

 

「……」

 

亜美はゆきの家を見つめた。

 

「……ゆき、何かあったのかしら。……はぁ、アタシもまだまだね……」

 

誰にも聞かれないつぶやきはただ蝉の声に紛れて消えていった。

 

 

[ゆきの家 玄関]

 

バタンッとドアを閉めてゆきはそのまま倒れるようにドアに寄りかかった。

 

「……」

 

そのままヘナヘナとしゃがみ込み、両手で顔を覆ってしまう。

頭の中にスパークが散って勝手に記憶がフラッシュバックする。

 

……

 

[数日前スタジオ]

 

「あ、すみません、ちょっとお手洗いに……」

 

ゆきが恥ずかしそうに手を上げて言うと亜美は片手で返事する。

 

「はーい。アタシたちはそこで待ってるからね」

 

「わかりました!」

 

 

[テレビ局 女子トイレ]

 

大きな鏡の前にある洗面台で両手を洗う。

 

「ふぅ……」

 

一息ついた時だった。

スッと誰かが鏡に写る。

それは青い制服-オベリスクブルーの女子生徒だった。

茶色の頭に第三ボタンまで開いたワイシャツ。

 

「え……?」

 

ゆきが唖然としているとガッと肩を強く掴まれ振り向かされた。

 

「きゃっ……!」

 

「……ふぅん、とろそーな女。こんなののどこがいーんだか」

 

「あ、貴女は……?」

 

振り向いてよくその女の顔を見る。

気の強そうな釣り目に茶色の長髪。

艶やかな肢体を曝け出すような気崩し。

 

『きゃはっ! トリオンの蠱惑魔を召喚!』

 

思い出されるのは以前恵の家で見た去年のWSCの映像。

 

「……あっ! 貴女は……アカデミア……チーム煉獄の……?」

 

「へー、ウチのこと知ってるんだー? チームHEROの間宮ゆきさん?」

 

「……え」

 

「ウチさー、寺仔リオっていうんだー。よろしくねー?」

 

「は、はぁ……」

 

「じゃあダチになった記念にさー」

 

再び強引に腕をひねり上げてくる。

ゆきが怯んだすきにカバン掴み取った。

 

「とりま家教えろや」

 

「えっ……!? や、やめてください……!」

 

「硬いこと言うな……よっ!!」

 

「あぁっ……」

 

強く振り払われてゆきは倒れ込んでしまう。

その間に女ーー寺仔リオはゴソゴソとゆきのバッグを漁る。

 

「あったあった」

 

中から財布を抜き取ると生徒証をまじまじと見つめた。

 

「へぇ、天神の方に住んでんだー? いいとこ住んでんじゃん」

 

「か、返してください!」

 

ゆきが強く取り返すとリオは眉を吊り上げた。

 

「いった……。はぁ? なめてんの?」

 

「し、失礼します!」

 

逃げるようにゆきはバッグを抱いてトイレから出た。

廊下に出るとドンと人にぶつかる。

こちらはよろめいたにも関わらず相手は微動だにしない。

体格が全く違った。

ゆきは恐る恐る顔上げるとそこには凶悪そうな笑みを浮かべた阿久津剛がいた。

 

「よぉ」

 

「……ヒッ……」

 

「また遊ぼうぜぇ? 間宮ァ」

 

「……ッ!」

 

わき目も振らずゆきは逃げた。

亜美たちが待つその場所へ。

 

……

 

玄関からは生暖かい隙間風が吹いていた。

しかしゆきはそれに気を止める余裕もない。

細く細くゆきは声を漏らした。

 

「……わたし、最低だ……。……自分が怖いだけなのに、自分から言う勇気がないくせに……」

 

身体が震える。

涙が流れる。

 

「……ああ言えば祭乃木さんが来てくれるってわかってて……。……ホントに最低だ……」

 

真っ暗な玄関はしんと静まり返っていて、ただゆきのすすり泣く声だけが静かに聞こえていた。

 

 

 

[翌日 ネオ童実野シティメモリアルスタジアム]

 

 

天気晴朗。

雲一つない大空をテレビ中継のヘリが騒音をあげながら突っ切っていく。

海岸沿いに立つメモリアルスタジアムには大勢の客が足を運んでいて雑踏が途絶えない。

 

『さぁぁぁぁ!! いよいよベスト4を決める戦い!! その最後の試合が幕を開けるぞォオォオォオォオ!!』

 

スタジアムでは大きすぎると思う様な大音量のBGMと共にMCの男がマイクパフォーマンスを行っていた。

待ってましたと言わんばかりに観客たちは大きな歓声を上げる。

 

『既に絶対王者チームディスティニー、蒼き炎チーム煉獄、大陸の暴風チームバオフェンは、同じく8強を下し、ベスト4へと名乗りを上げている!! そして今日!! そのベスト4の最後の一席が埋まることとなる!!』

 

電光掲示板に4枚のカードが表示され、3つにはそれぞれのチーム名とリーダーの写真が映し出されていた。

残りの1枚は真っ黒である。

 

『その最後の一席を掛けて激突するのは!! アメリカの大怪盗!! チームバンデット!! そして、日本はネオ童実野シティから勝ち上がり、数々の奇跡を起こしたチーム! チームHERO!! 歴史に残る激戦となることは必至! 絶対に見逃すなァァァァァ!!』

 

マイクの声をかき消すような大歓声が上がる。

会場が揺れるように様々な音が鳴った。

 

『ーーご来場の皆様にお知らせします。ただいま、スタンドにてビール、ジュース、サンドイッチを販売しております。お気軽に……』

 

 

[チームHERO側スタンド]

 

スタジアム中央の電光掲示板を見て右手側。

チームHERO側のベンチがある方の観客席には童実野第二高校の制服を着た男女が集っていた。

忠一がバインダーに張り付けた名簿を見ながら生徒たちを振り分ける。

 

「えーっと、君が三組の小林だな。じゃあそこに座って。これうちわとかち割り」

 

手作りのうちわには、「GO HERO」と書かれている。

かち割り氷はお手製でフリーザパックに薄めたスポーツドリンクを凍らせたものにストローが刺さっていた。

男子生徒は戸惑いながら受け取る。

その後ろの列では3人の女子生徒がぽんぽんを手に持ってワイワイと話していた。

 

「えーっと、ふりつけは……」

 

「ファンファーレが流れたら、こうだよね!」

 

「キレがないなぁ。こうやるんだよ」

 

「うわぁ、キレキレ!」

 

「流石ダンス部!」

 

そんな姦しい声を尻目に忠一は一息ついて最前列に座った。

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ、水原くん」

 

高い声に顔を上げると市原桃胡がにんまりと笑って立っていた。

 

「見たまえよ! まだまだ空席はあるが、随分見栄えがよくなったじゃないか!」

 

「6人が16人になっただけだけど」

 

「成果だよ! これだけ人数がいれば、あとは流れと熱気! 学校全体を巻き込むのは容易いよ」

 

「ふぅん。まぁお相手のスタンドからしたら、焼石に水かもしれないけどね」

 

「まぁ、確かに満席も満席だ。そういえば先程、チームHERO側にもアメリカ訛りのイングリッシュスピーカーがちらほら座っていたよ。あぶれた人がこちらに回ってきてるようだね。あるいはそういう物好きかもしれないけれど」

 

「外国人がこちらを応援するわけないだろう。それだけアウェーってことだ」

 

「ならばなおさら私らの出番さ! 今日も頼むよ、君が一番大きいんだからね」

 

「はいはい」

 

 

[チームHERO側ベンチ前]

 

ベンチ前は人工芝が敷かれている。

楕円形のスタジアムの内周をぐるりと一周していてところどころに白線が引いてあった。

良平はスタジアム全体を見渡してつぶやいた。

 

「……すごい熱気だな……。ベスト4決めはここまで人が集まるのか……」

 

隣でここのせは身体をほぐすように右腕と左腕をクロスしてぐっと肩の筋を伸ばす。

 

「チラホラ空席はあるが、こっち側のスタンドもかなり人がいるぜ。それに見ねぇ顔もいる」

 

「ホントだ……。3組の小林に、4組の菅谷、高岡もいるね。ほとんど話したことないけど……」

 

顔を上げるとフェンスに張り付くように同級生たちが見守っていて、時折手を振っていた。

亜美はまるでファンにサービスでもするかのように笑顔を振りまいてから良平とここのせに向く。

 

「忠一やくるみんが頑張ってくれてるのよ! アタシたちを応援するためにね! ならアタシたちは全力で頑張らないと!」

 

「そうだね」

 

そんな会話をしていると恵が何かイヤホンのようなものを携えてここのせに近寄った。

 

「……ここのせ。これを……」

 

見ると補聴器と腕時計のような小型機だった。

ここのせは思わず眉を潜めて言う。

 

「あぁ? なんでぇこりゃ?」

 

「それは恵ひみつアイテム! 教えてめぐみん、よ!!」

 

何故か亜美が得意げな顔で宣言する。

 

「え? なんて?」

 

「だから! 教えてめぐみん、だってば!」

 

「はぁ?」

 

急にそんな謎アイテム渡されても……。

そう言い返そうと思ったところで恵が口を開けた。

 

「……それは翻訳機。集音機を腕に装着し言語を収集する。その後、収音した英語を日本語に翻訳した音声がイヤホンから流れるようになっている……」

 

ここのせの目をまっすぐに見る恵。

補足するように亜美も声を出した。

 

「相手外国人でしょ? チームラグナロクみたいに不思議パワーで翻訳してくれるならいいけど、そうじゃないしね。恵に相談したら作ってくれたわ!」

 

「たしかに試合中、ずっと横で翻訳してもらうわけにもいかないけど……」

 

良平は一定の理解を示すものの、機械の存在には驚きを隠せない。

ここのせも困惑した顔で恵を見つめ返した。

 

「それにしたってよぉ、こいつはちょいとオーバーテクノロジーじゃねぇか?? ルール違反スレスレだしよ」

 

「……問題ない。素材は全てこの時代で入手可能なものを使用している。また大会規定において“外部通信を使用した機器による第三者からの通話”は禁止されているが、“集音、翻訳を自動で行う機械の使用”は禁止されていない……」

 

淡々と説明する恵に良平は眉を下げた。

 

「そ、そりゃ、そんなもの想定しないよ……」

 

そんな良平を安心させるように亜美がポンと肩を叩く。

 

「大丈夫よ。アタシも一応、大会運営に確認したわ! 翻訳機を持ち込んでいいかって。そしたら通信機じゃなきゃいいって言われたから!」

 

「向こうもこんなハイテクは想定してないと思うなぁ……」

 

苦笑いする良平。

しかしだからと言って英語をいちいち聞き取っていたのでは相手の展開についていけないだろうし、それ以上はもう言わなかった。

ここのせも呑み込んだようで腕を差し出す。

 

「まぁ問題ねぇならいいか。オレは英語はすっかんぴんだし、助かるぜ」

 

「……装着はこのように……」

 

「いでで……! ちょっときついぜ恵!」

 

恵がここのせの腕に取り付けている様子を一歩離れた場所からゆきがぼうっと眺めていた。

 

「……」

 

「ゆき?」

 

亜美が気付き、首をかしげるとゆきは目をまん丸にして返答する。

 

「あっ……! は、はい! どうかしました!?」

 

「大丈夫? なんかボーっとしてたけど」

 

「あはは、ちょっと呆気に取られちゃってました! ベスト4を決める戦いですから気合いいれないと、ですね!」

 

「……そうね!」

 

ゆきの作ったような笑顔に亜美は一瞬戸惑ったものの、すぐに切り替えてここのせに向きなおした。

その隙に機材の装着が完了したのか恵が手を放す。

 

「……できた……」

 

「このボタン押せばいいんだな?」

 

「……そう……」

 

ここのせはヒーロー部共用と化した最新型のデュエルディスクを左手に装備しデッキを差し込む。

そして亜美が凛とした表情を浮かべここのせの背中を軽く叩いた。

 

「さぁ! これで準備ok! ここのせ、先発頼むわよ!」

 

「おうよ!」

 

フィールド中央のデュエルフィールドまで駆けていく。

 

[デュエルフィールド]

 

マイクの音と歓声と雑踏と。

視界の端に見える強すぎる照明。

足元は白線で区切られていて立ち位置は一目瞭然だった。

マイクのスイッチが入った音がする。

 

『ファーストプレイヤーはァァァァァ!! アメリカのバイキング!! 賞金王と名高いギーク・ハワード!! 対するチームHEROは、実力不詳!星遺物カードの使い手! 能瀬心!! 賞金王に対し、どう争うのかァァァァァ!!』

 

再び歓声が上がる。

どうやら先にフィールドについていたのは相手だったらしい。

大柄でサングラスをかけた白人男性。

頭には星条旗のバンダナをつけていて如何にもアメリカンな男だった。

ここのせは物怖じしないように心がけて声を出す。

 

「へっ、またせたな!」

 

「Hey boy! 〜〜〜〜」

 

ペラペラッ。

素早く英語をまくしたててくる。

 

(うお、めちゃくちゃ喋ってるけどなんもわかんねぇ……)

 

ここのせは腕の機械のスイッチをカチリと押し込む。

すると耳に付けたイヤホンから男性の声をそのまま日本語にした声が聞こえてきた。

 

『お? 最初に出てきやがったのはあの時いなかった腰抜けボーイかよ。こりゃ一勝はもらったな』

 

「お、すげぇ! ホントに聞こえる! って……あぁ!? なんでオレが腰抜けなんだこらぁ!!」

 

『あ?? 日本語でピーチクパーチク騒がれてもわかんねぇよ。いいからさっさとはじめんぞクソガキ!』

 

「くそ、こっちの言葉は通じねぇのかよ! この野郎ぉ……!」

 

眉間に皺を寄せながらここのせは左手を振るう。

すると呼応してデュエルディスクがモードチェンジし、スタンバイモードへと変化した。

 

『それではいくぞォオォオォオ!! スリィィィィィィィィィィィ!! ツゥゥウゥウゥウ!! ワァァァァァァンッ!! デュエルスタァァァァァァトォオォオォオォオッ!!』

 

「Duel!」

 

「デュエル!」

 

 

 




■あとがき
本当は前編の中にデュエルパートを含めていたのですが……
文字数が3万字を突破してしまったので中編と後編に分けます……!
次回からデュエルパートになります!
本年は誠にお世話になりました!
来年も本作を何卒よろしくお願い申し上げます。
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