遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
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[ネオ童実野シティ オフィス街 窪川フードコンポーネンツ 自社ビル7階取締役室]
WSCは勝ち抜きの大会である。
一度敗北すれば終了となるルールである都合上、敗退したチームには日常が戻ってくる。
8強と謳われていたチームコーポレートも例外ではない。
ベスト8決定戦で日和田良平と激戦を繰り広げた窪川夢迦も日常に戻った決闘者の一人だ。
最も彼女の日常とは、現場からの報告の傾聴と報告書の確認、決算の承認、社外の人間との商談など多岐に渡っていて目まぐるしいものだった。
窪川フードコンポーネンツという自身の名を背負った会社の社長であれば致し方ないことである。
夢迦は広い社長室でキーボードを叩きながら画面を睨んでいた。
「……」
そんな社長室に丁寧に3回ノックの音がして、夢迦は顔を上げた。
「どうぞ」
「……失礼します」
入ってきたのは黒いスーツの男。
彼女の秘書を務める男だった。
「窪川取締役、その……」
「なんだい、歯切れが悪いね?」
「い、いえ。以前頼まれていた昨年度大会における他チームのデュエルディスク調査の結果が出ましたので一応お持ちしました」
言葉を濁しつつ男は資料を彼女のデスクに置く。
夢迦はそれを拾い上げると目を細めた。
タイトルには【WSC出場チーム デュエルディスク調査報告書】と記載されている。
「ああ。今となっては、という感じだけれど一応目を通させてもらうよ。ありがとう」
「はっ」
「ふむ……」
ページを捲り中身を斜め読みしていく。
細かい文字とグラフが散りばめられていて読みやすくまとめられていた。
第1回戦
チームBandit対チーム〜〜
通信装置故障の疑いあり
第2回戦
チーム◯◯
経年劣化による動作不良の可能性大
第3回戦
特記事項なし
第4回戦
通信履歴に削除記録あり
〜〜〜
報告書にはそんな言葉が並んでいて夢迦は思わず口に出す。
「通信装置の故障と経年劣化による動作不良……」
見たところ不自然な点はない。
デュエルディスクは日本最大規模の企業海馬コーポレーションが開発した製品だ。
現在でも正式ライセンスを持った実力のある企業でしか製造できない代物。
その耐久性にはかなり定評がある製品ではあるが、工業製品である以上必ず不具合は起こる。
夢迦はぼそりとつぶやく。
「……そう簡単に尻尾は掴めない、か。それとも僕の考えすぎだったかな。そうだと良いけど」
「……」
「この通信履歴に削除記録っていうのが気になるな」
再び資料の一部を指でトントンと指し示す夢迦。
男は備えていたようですぐに返答した。
「デュエルディスクを解析した結果、意図的に削除された形跡があるとのことでした。故障などは見られませんでしたので故意に消したと見られていますが……」
「……」
夢迦は資料見ながら前髪弄り沈黙した。
秘書の男は怪訝な顔で言う。
「何故“チームBanditと対戦した相手の”デュエルディスクをお調べになっているのですか?」
「……君は知っていると思うけど」
言い始めると夢迦は資料を机に置き、レザーの椅子に寄りかかった。
「僕はデュエルを愛している」
「は、はぁ」
「デュエルで勝利をもぎ取るのが好き、とも言い換えられるかな。だけどそれ以外の勝利は好きじゃないね。嫌いと言ってもいい」
「それ以外の……。それは……?」
「そうだなぁ。例えば手を抜かれるとか。あるいは――――イカサマをするとか」
「!! しかしお嬢様、現代のデュエルディスクには不正防止装置がついています。おいそれとは……」
「そう。普通はイカサマなんてできっこない。普通はね」
「普通は? どういうことですか?」
秘書の男がやや前のめりに聞くが夢迦は肩を竦める。
「イカサマをする手段が0とは思えない。僕には思いつかないけど、やろうと頭を捻れば絶対に不可能、ということはないはずだ」
「し、しかし……」
強くは否定できない。
何せWSCの予選でも不正が発覚して失格となったチームはそれなりの数出ている。
それも毎年。
冷や汗をかく男の目を夢迦はまっすぐに見つめた。
「……君はプレイングミスをしたことがあるかい?」
「……え? そ、そうですね、あると言った方が正直だと思います」
「そうだろうね。僕だってある。些細なミスだけでなく、ディスクの操作ミスやチェーンの組み方のミス。ヒューマンエラーはいつだって起こり得るものさ」
「しかし、それが資料となんの関係が……?」
「僕らが次に当たるはずだったチームBanditは、8強に残るのも不思議ではないチームだ。実力も低くはない。けれど一方で、プレイングが安定しているかというと少し疑問が残る、そんなチームだと僕は考えているんだ。一度対戦もしているしね」
夢迦は目を伏せて淡々と言葉を紡ぐ。
対する秘書の男は困惑した表情を浮かべていた。
「はぁ……。しかし彼らは2年連続で8強に残留しています」
「うん。それだけ彼らは勝利してきた。その秘訣はチームリーダーのギーク・ハワードにあるだろうね」
「ギーク・ハワード……」
「彼は対戦相手を揺さぶったり煽ったりすることで心理的に対戦を有利にするプレイスタイルのデュエリストだ」
「汚いですね」
「でもそれ自体はマナー違反だがルール違反ではないよ。実際、彼のデュエルを検証すると相手のプレイングミスで盤面を取り返す場面が数多くあった」
過去の対戦成績やデータを分析した結果だ。
彼は“巧妙に多言語を操り、あらゆる揺動を掛けてくる”ことも夢迦は把握している。
「しかし、だよ? そんな戦術が上手くいくのだろうか。仮にもベスト16まで上がってきたチームを安定して打ち倒せるだろうか」
確かに感情的になればその分質が落ち込みミスも増えるだろう。
感情的にならずに戦える人間だっているはずだ。
夢迦もそうして彼らを打倒したことが過去にあったのだ。
「僕はそうは思わない。でも現実は成功している。それは何故か? 突き詰めていくと、一つの仮説――――いいや言いがかりにたどり着くはずだよ」
「……まさかチームBanditは不正行為を……?」
「証拠も確証もないけどね。もしかしたら本当に偶然かもしれない。偶然、連続で相手がプレイングミスをした。偶然、連続でデュエルディスクが故障した。絶対にあり得ない、とも言えない」
「は、はぁ」
「対戦するときに不正をされたら困ると思って調べたけど、僕らは彼らと当たる前に敗れてしまった。もう僕が偉そうに言えることはないね。僕にできるのは、チームHEROのデュエルが阻害されないように願うことだけさ」
[ネオ童実野シティ メモリアルスタジアム デュエルフィールド]
会場はざわついていた。
まるで風に攫われる木々のように判別できない声たちが木霊している。
渦中にあるのはデュエルフィールド。
能瀬心のフィールドには
No27弩級戦艦ドレッドノイド
星鍵士リイブ(右EXゾーン)
星遺物の守護龍メロダーク
無限起動アースシェイカー
が並ぶ。
そのうち、攻撃可能なモンスターは
星遺物の守護龍メロダークのみ。
だが対戦相手である
ギーク・ハワードLPは2300。
フィールドにはカードなし。
星遺物の守護龍メロダークの直接攻撃が通れば敗北という状況だった。
だが。
星遺物の守護龍メロダークは沈黙。
フェイズはバドルフェイズのエンドステップまで進んでいた。
『おぉっとぉ……? ダイレクトアタックが通れば勝ちという状況だが、チームHERO能瀬心、バトルフェイズを終了してしまったぞぉ? これは一体どういうことかァァァ!!?』
司会者がマイクを振りかざし大声で煽っていく。
『フィールドでは特にカードの効果は発動していない! つまりこれは、プレイヤーからの操作でバトルフェイズが終了しているということだ!』
[ネオ童実野シティ メモリアルスタジアム チームHERO側スタンド]
会場のどよめきはチームHERO側スタンドにも波及していて、忠一も怪訝な顔を浮かべていた。
「何やってんだ、ここのせ……」
「なんで攻撃しないのー?」
「攻撃すれば勝ちなのに!」
応援していた女子生徒二人も口々に疑問を投げかけている。
[チームBandit側ベンチ]
当然その困惑は相手のベンチでも言及されていた。
Banditのベンチでは黒いマントに宇宙服のような装いの男――ルナキン・スコットが怪訝な顔で口を開けた。
「What is he doing? Is he letting us take the credit, or is he making a fool of us? 」
『彼は何をしているんだい? こちらに花を持たせてくれてるの? それともバカにされてる?』
【チームBandit セカンドプレイヤー ルナキン・スコット】
隣に立つ金髪の女性も小首を傾げた。
「Last time and the time before that, the opponent made playing mistakes, but is his intimidation really that effective? 」
『前回も前々回も相手がプレイングミスを犯したけれど、そんなに彼の威圧が有効なのかしら?』
【チームBandit ラストプレイヤー サクラ・テイラー・ミドル】
これまでの試合が彼らの脳裏に過る。
ルナキンはサクラの言葉に首を振った。
『今回は機材トラブルだ。プレイングミスではない。神の加護だ』
『そうかしら? 私は……あまりいい予感はしていない。ミスターギークは、本当にフェアなデュエルをしているの?』
[ネオ童実野シティ メモリアルスタジアム デュエルフィールド]
ここのせは思わず自身のデュエルディスクを見る。
ディスプレイにエンドステップの文字。
バトルを放棄した証だった。
「な、なんでだよ! オレは攻撃を宣言したはずだぜ!?」
『……くっくっ! おいおいジャップ! こんな大事な場面でプレイングミスかぁ!? バカがかよぉ!』
「なっ……!」
『まあ攻撃してきたところで俺様には秘策があったからどちらにせよ変わらないがなぁ!』
「ふざんけんな! オレのミスじゃねぇ! 機械が勝手に!!」
『マシントラブルなら、なおさら自分のせいだジャップ! もっともお前らみたいなガキ、デュエルディスクの整備なんかできねぇだろうがなぁ!! ハハハハハハ!!』
「くっ……」
[チームHERO側ベンチ]
亜美は弩に弾かれるがごとくベンチから半身を乗り出して司会に対して声をあげた。
「ちょっと!! プレイングミスなわけないじゃない!! ここのせは攻撃宣言してたわ!! 機材トラブルでしょ!!」
『し、しかし機材トラブルの場合はチーム側の不手際によるもの! デュエルはこのまま続行されるぞ!』
司会の言葉に亜美は「なぁっ!? 」と口を開けたままフリーズした。
ベンチでは良平が顎に手を当ててフィールドを観察する。
「ここのせは確かに攻撃宣言してたし、ディスクにも触ってない。ディスクの誤作動なのか……?」
デュエルディスクが故障したことは今までなかったが、それが今日この時だったのだと言われてしまえば運が悪かったとしか言いようがない。
だがゆきは眉を八の字にして訴えた。
「そんな……! で、でも、あのデュエルディスクは恵さんがきちんと手入れしていたはずですぅ……!」
「恵、どうなの!?」とフリーズから蘇った亜美が鋭く振り返る。
そこには恵が立っていて極めて冷静な顔で口を開いた。
「……事前整備では異常は検知されなかった。また補修箇所も認められなかった。誤作動はありえない……」
「じゃあなんでよ!?」
「……3分22秒前、不明な通信を傍受した。チームHEROのデュエルディスクがクラッキングを受けた可能性がある……」
淡々とした恵の声にゆきは「クラッキング……?」と聞き慣れない言葉をおうむ返しした。
亜美はというと慣れたもので再度恵に問うた。
「どういうこと!? わかりやすく!」
「……第三者が、我々のデュエルディスクに対し意図しない操作を行った可能性がある、ということ……」
噛み砕いた説明に3人は耳を疑った。
良平はさらに言い換えて問いただす。
「じ、じゃあ、ここのせのディスクが遠隔操作されて勝手にバトルを終了させられたってこと!?」
「……その可能性がある……」
はっきりと恵は頷く。
亜美はカッと頭に血が登っていくのを感じて拳を握りしめた。
「な、なぁにぃぃ!!? ふざけんじゃないわよ!」
「なんとかならないのか……!」と良平も悔しそうに叫ぶ。
すると恵はまた淡々とした声で言った。
「……逆探知を試みる……」
「できるの!?」
「……理論上は可能。ただし探知はCPUリソースを大きく使用するため、デュエル進行処理が不可能となる。探知する時間を稼いでもらう必要がある……」
「時間ッ……!」
亜美は思わずフィールドに目を向けた。
困惑しているここのせの背中が映る。
フィールドのモンスター達だけが平然とした姿で立っていた。
良平も拳を握り絞るような声を出す。
「セカンドプレイヤーは恵だ……。ここのせはこの不利な状況で負けることはもちろん、バトンタッチもできない……。なんとかここのせに伝えるだけでも……!」
良平の言葉を聞いてゆきは弾かれたようにベンチに置いた自分のカバンに飛びついた。
中を探りクリアファイルに入れられた資料を捲る。
幾つかページを捲ってから手を止めると顔を上げて亜美を見つめた。
「さ、祭乃木さん! タイムアウトを使いませんか!?」
「タイムアウト?」
「はい! ルールブックに書いてありました! デュエル中1回だけ、2ターン目以降にチームリーダーから申請できます!」
「祭乃木!」と良平は半ば怒鳴るように声を上げると亜美は返事もせずにベンチを飛び出した。
[デュエルフィールド]
亜美は存在をアピールするように右手を大きくあげて叫ぶ。
「タイムアウト!! タイムアウトを申請するわ!!」
「ッ! 祭乃木!?」とフィールドでここのせが振り返り、ギークは不機嫌そうに『ふん、悪あがきを……』とつぶやいた。
『おォォォとっ!! チームHERO、ここでタイムアウトを申請!! 各チームはデュエル中に一度だけタイムアウト取ることが許されている! 30秒間、デュエルが中断されるぞォォォ!!』
ブザー音が鳴り響き、モニターに30→29……と時間が表示される。
亜美はすぐにここのせに駆け寄った。
「ここのせ!」
「祭乃木! どうなってやがんだこりゃ……!」
「落ち着いて聞いて。アタシたちのデュエルディスクが誰かに操作されてるかもしれないの」
「な、なんでぇそりゃ……!? そんなもん、どうすりゃ……!」
24……23……。
刻一刻と秒数が刻まれていく。
「 時間がない! 手短に話すわ! 原因は恵がなんとか探してくれてる! こっちのことは、アタシたちに任せておきなさい! だからここのせ、アンタはデュエルを続けて」
「だ、だけどディスクが……」
「そうよ。不利な状況でデュエルすることになるかもしれないわ。でも……」
「でも?」
「ーーーーアンタならできるわ」
はっきりと亜美は言い切った。
僅かな笑みを口元に浮かべ、聡明で精悍な目つきを向けて。
「根拠はない! アタシの勘!」
「なんでぇそりゃ……」
思わず苦笑いするここのせ。
いつもの亜美だ。
いつもの部長だ。
いつものリーダーだ。
それだけでやれるような気がする。
ここのせはため息を着いて口を開く。
「……まぁ祭乃木にそこまで言われたら、できないとは言えねぇな」
7……6……。
もう時間はなくなった。
ならばもう覚悟を決めるのみ。
「やれるだけやってやらぁ! 祭乃木! お前らに背中は預けるぜ!」
「ん! 任せなさい! ついでに、あの海賊野郎をぶっ倒しても構わないわ!」
亜美は満足そうに笑いバシッと背中を叩く。
じんとした衝撃が胸まで響いた。
それから軽快な足取りでベンチに引き返していく。
1……0
ビィィィィィッと再びブザーがなった。
『ここでタイムアウトは終了ォォォォォォ!! デュエルは再開されるぞォォォ!!』
試合再開とわかるや否や観客達は熱気を取り戻した。
『作戦会議は終わったかぁ?』
馬鹿にしたようにギークは口を曲げて言うのでここのせは両手を腰に当てて斜に構えた。
「……へっ、負けかけてへバッてる癖に一丁前な口聞いてんじゃねぇよ!」
『あぁ!?』
「てめぇがどんな手を使ったか知ったこっちゃねぇがな! オレたちはそんな小細工跳ね飛ばすぜ?」
ニヤリと笑ってやる。
呼応するようにフィールドのドレッドノイトが煙突から黒煙を吹き出しながら警笛を鳴らす。
「いくぞ、ドレッドノイド! バトルが終了した時、ドレッドノイドがモンスターを戦闘破壊していた場合、こいつは更なる姿に進化する!」
『なにぃ……?』
「今こそ、仲間と共に窮地を脱する時だ! ドレッドノイド1体でオーバーレイネットワークを再構築!」
ドレッドノイドは更に強く警笛を鳴らすと船体を輝かせた。
★4→★10
カタンカタンとフランジ音が響く。
胸のうちから溢れる調べをここのせは口にした。
「ーーーー過去を超え! 鉄路は
響く鉄の軋み。
そして高い警笛。
轟音がフィールドを貫いていく。
「エクシーズチェンジ!! 出撃だ!! No.81超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ!!」
No.81超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ
守:4000 地 機械族 ランク10
まるでここのせを守るようにフィールドを覆う車体。
停車すると同時に白煙を吐き出していく。
現れた巨大な列車にギークはタタラを踏んだ。
『なっ……! 守備力4000……!?』
『戦艦が姿を変えて、超巨大な砲塔列車へと進化したぞォォォォォォ!! その守備力は圧巻の4000!! 先程のトラブルをカバーできるかァァァ!!?』
現れた鉄の巨体に観客は一気に湧き上がる。
[チームHEROベンチ]
「あれは……!」とまっさきにゆきが発言した。
「以前召喚したおっきな電車のモンスターとは別のカードですね!」
これまでここのせがドレッドノイドから進化させてきたグスタフマックスとは一回りサイズが違う砲塔列車。
亜美も腕を組んで頷く。
「ここのせのやつ、秘密兵器を隠してたのね! やるじゃない!」
[デュエルフィールド]
「オレはこのままターンエンドだ!」
ーエンドフェイズー
能瀬 心
LP:3000
手札2
フィールド魔法:
暴走召喚陣
フィールド:
No.81超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ
星鍵士リイブ(右EXゾーン)
星遺物の守護龍メロダーク
無限起動アースシェイカー
ここのせがエンド宣言するとギークのフィールドで発動していた海造賊-大航海-が俄かに消えていく。
司会がマイクを持ち会場に対して説明を加えた。
『永続罠カードは、維持にはフィールドに海賊モンスターがいる必要がある!! フィールドがまっさらになったことで、墓地に送られる!!』
ードローフェイズー
そしてターンが渡りフェイズはギークのドローフェイズに突入した。
『さぁぁ奇跡的に生き残ったギーク・ハワード! しかし、フィールドには大型モンスターが並んでるぞォォォ!? 起死回生なるかァァァ!!?』
ギークはサングラスの奥で眉を潜ませて胸中で独り言ちをこぼす。
(ちっ、ジャップのガキごときに秘策を使うことになったのは癪だが、負けちまえば金がパーだからな)
ちらと斜め右手側のスタンドに目をやる。
そこはチームHERO側のベンチで人はまばらにしか座っていなかった。
『俺様のターン!!』
ースタンバイフェイズ→メインフェイズー
ドローカードを一瞥しすぐさまマジックトラップスロットに差し込む。
『手札からマジックカード、サルベージを発動!』
《サルベージ》
通常魔法
「くっ……!」
発動エフェクトを見てここのせは顔を歪ませた。
それを尻目にギークはセメタリーゾーンに手を伸ばす。
『自分の墓地のアタックが1500以下の水属性モンスター2体を手札に加えるぜぇ!』
自動送り機能で戻ってきたカードを拾い上げ手札に加えるギーク。
そのままさらにカードを持ち替えた。
『くはは! 手札のBlackeyes, the Plunder Patroll Seaguideの効果発動ぉ! 墓地のPlunder Patrollモンスターを手札に戻してこいつを特殊召喚する!」
海造賊-黒翼の水先人
守:1000 水 悪魔族 星4
『さらに墓地の金髪の効果を発動ぉ!! 手札を1枚墓地に送ることで、こいつを墓地から特殊召喚する!!』
ギークは手札の海造賊-白髭の機関士を墓地に送り、入れ替わって出てきたカードをフィールドにたたきつけた。
金髪のゴブリンがサーベルを持って飛び上がった。
海造賊-金髪の訓練生
守:1000 水 悪魔族 星4
『今墓地に送られたWhitebeard, the Plunder Patroll Helmの効果発動! デッキから海賊を呼び出す! こい! 赤髭ぇ!」
《海造賊-白髭の機関士》
効果モンスター
白い髭の海賊ゴブリンがバルブを回し、白い煙が巻き上がる。
その奥から赤い髭のゴブリンが銃を片手にのしのしと歩いてきた。
海造賊-赤髭の航海士
守:1000 水 悪魔族 星4
フィールドには複数体のモンスター。
ここのせは背中にぞくりとした妙な予感を感じ取り、腕を振るった。
「ッ! スペリオル・ドーラの効果発動!!」
《No.81超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ》
効果モンスター
命令に突如巨大砲塔列車が蒸気を噴き出す。
「エクシーズユニットを1つ使うことで、フィールドのモンスター1体を対象に、そのモンスター以外の効果を受け付けないシールドを展開する! スペリオル・ドーラ! シールド展開!」
青白いバリアがスペリオル・ドーラを包み込んでいく。
周囲を浮遊するエクシーズユニットが3から2へと移り変わり、まるで一つがエネルギーとして消費されたかのようだった。
『ほぉ、随分用心深いじゃねぇかよ』
ギークは挑発するように言ってきたがここのせはただ睨みつけて動きを見るばかり。
(チッ……。こんなタイミングで使ってくるとはな)
またしても心中でギークは舌打ちする。
そして手札のカード―――――サンダーボルトに目をやった。
[チームHERO側ベンチ]
急遽効果を発動したここのせにゆきは小首を傾げて良平を見た。
「ど、どうしてここのせさんはあのモンスターの効果を使ったんでしょうか……? 何かを防いだようには見えなかったですが……」
対する良平はフィールドから目を離さずに口を開く。
「あの海賊デッキにはフリーチェーンの除去を持った海賊船があるからね。いくら無敵のシールドを持っていても、効果にチェーンして除去を受けたらひとたまりも無い。場にその海賊船がいない今が一番安全に効果を展開できるんだ」
良平の言葉にゆきはなるほど、とつぶやいて再びフィールドに目を向けた。
その後方で
「……」
恵が目を閉じて僅かな起動音だけを響かせていた。
[デュエルフィールド]
一方フィールドではギークが手札のカードとフィールドに目を向けている。
会場の熱気は未だ収まることを知らず、電光掲示板には無駄に凝ったフィールドのカード位置表示が映っていた。
(……あのデカブツをさっさと沈めちまいたかったが仕方ねえ。周りだけでも吹き飛ばしてやるぜ)
胸の内で方針を決めるとギークは残ったカードもスロットへ放り込む。
『マジック発動! サンダーボルト!』
《サンダーボルト》
通常魔法
「なぁ!? ま、まじかよ……!!」
『効果は説明するまでもないよなぁぁ!!? 』
――雷鳴一閃。
集まった雷雲から一瞬にして轟音が響き、目を焼き尽くすような閃光がはじけていく。
無限軌道アースシェイカー
星鍵士リイブ
星遺物の守護龍メロダーク
この三枚のカードが成す術なく光に呑み込まれ、焼き払われてしまった。
「うぉおっ……!?」
余波の爆風がここのせを呑む混んでいく。
凄まじい迫力である。
――――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
唯一の盾となったスペリオル・ドーラは依然と漂う青いバリアによって傷一つない。
堂々たる構えでここのせの前を退かなかった。
『爆雷が鳴り響くゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!! フィールドを支配していたモンスターは一撃で粉砕!! シールドで防御していた巨大砲塔列車以外は全て破壊されてしまったぞォォォォォォッ!!?』
「こんのぉ……!」とここのせは拳を握りしめ、それからすぐに効果を宣言した。
「メロダークは破壊された場合、墓地のレベル9モンスターを手札に加えることができる! ブラスターキャノンコアを手札に加えるぜ!」
セメタリーゾーンから送られてくるカードを拾い上げ、手札は2枚から3枚へ。
一気にほぼ焼け野原となったフィールドに満足したようにギークは高く笑った。
『ははははっ!! まだまだいくぜぇ!! レベル4の野郎共2体でオーバーレイ!!』
☆4×☆4=★4
『―――船出の時だ!! 野郎、乗り込みやがれ!! エクシーズ召喚! カモン! Plunder Patrollship merk!』
海造賊-静寂のメルケ号
守:2500 闇 悪魔族 ランク4
『再び現れたァァァァァァァァ!! 黒き海賊船!! その姿はまさに不沈艦だァァァァァァァァッ!!』
3度目の切り札の登場に拍手が巻き起こる。
事情を知らぬ者が見れば状況は正しく頓死による逆転劇。
ここのせは苦々しく顔を歪ませた。
「くそっ……! だがこっちの砲は無敵のシールドを展開してる! お前の砲撃は効かないぜ!」
バリを展開しているスペリオル・ドーラはターン終了までは如何なる効果も受け付けない。
鉄壁に壁と化している。
ギークはくだらないと言いたげに鼻を鳴らした。
『ふん! こっちの砲はいつでもテメェのデカブツを仕留められるのを忘れんなよ! ターンエンド!』
ーエンドフェイズー
ギーク・ハワード
LP:2300
手札1
フィールド:
海造賊-静寂のメルケ号
海造賊-赤髭の航海士
ードローフェイズー
「……オレのターンッ!」
デッキに手をかけてカードを引き込む。
これで手札は4枚。
ースタンバイフェイズー
『ひゃははっ! 赤髭の効果発動ぉ!!』
フェイズが移行すると同時にギークの笑い声が響く。
フィールドでは赤髭のゴブリンが得意げに舵を回していた。
『テメェのフィールド、墓地のモンスターと同属性! 光属性を選択し、その属性を持つ海賊船を呼び起こすぜぇ!!』
ここのせの墓地には複数体の光属性モンスターが眠っている。
確認するまでもなかった。
『―――閃光放つ翼を広げ! この世全てを制覇する!! さぁ船出の時だ! 乗り込め野郎共!! 出ろ! Plunder Patrollship Lys!!』
海造賊-双翼のリュース号
守:2000 光 悪魔族 星8
羽根のようなモニュメントを取り付けた海賊船が海を割る。
赤髭の航海士は軽々しく船の上に飛び乗ってしまった。
『海賊船は不滅!! 不沈!! フィールドは再び海賊船が包囲したァァァァァッ!!』
マイクパフォーマンスに沸く会場。
流れは完全にギーク・ハワードの側にある。
(くそったれ……!)とここのせは滴る汗を袖でぐいと拭う。
(せっかくフィールドを制圧したってのに、取り返された……! だがフィールド魔法がないから攻撃力は上がってねぇし、メルケ号は乗員がいない以上オレのターンは動けねぇはずだ!)
努めて冷静にフィールドを分析するここのせ。
対するギークは不敵に笑う。
『くっくっくっ……』
サングラスの奥の瞳はここのせの狼狽える顔を楽しむように歪ませていた。
(俺様のターンになれば、merkの砲であの砲塔列車の効果を釣り出し、Lysの砲で仕留められる。だがあのガキが妨害札を握っていたらめんどくせぇ。こうなりゃ、あのクソガキには“もう一回プレイングミスしてもらう”しかねぇなぁ)
ギークはサングラスに隠された目線を観客席に向ける。
[チームHERO側スタンド 外れ]
視線の先。
イヤホンつけた明らかに日本人ではない人種の男がガムをくちゃくちゃと噛んでいる。
足元に置いたボストンバッグの空いた口からは赤い光ががチカチカと光るっていた。
「……」
さらに二席ほど離れて小型のリモコンを持つ男が耳に付けたイヤホンをだらしなく垂らしている。
[デュエルフィールド]
ギークは口を歪ませると小声でつぶやく。
『……ワイオミング、ワイオミング、ヘッドルーム、モンスター』
「!」
当然その声も恵が技術を凝らして作った集音機は拾い上げてしまう。
ここのせはすぐに顔を上げてギークを睨む。
(また変なこと呟いてやがる……? 恵の翻訳機でも翻訳しきれない何か、なのか……?)
刹那。
ここのせのデュエルディスクがピピッと音を上げる。
すぐさまディスクのモニターを確認した。
そこには――――。
[チームHERO側ベンチ]
「……ーーーー!!」
カッ、と恵は目を見開く。
「……見つけた……」
言うと恵の身体がバチバチと漏電したかのような音がする。
そして次の瞬間、超音波のような聞き取れるか否かの甲高い音を放つ。
「うっ……!?」
「うわっ……!?」
「ひゃあっ……!?」
亜美も良平もゆきも思わず耳をふさいだ。
耳鳴りのようなきーんとした音が一瞬世界のすべてを包んでしまったからだ。
[デュエルフィールド]
ソリッドビジョンが歪む。
メインモニターが歪む。
フィールドを照らす照明がチカチカと明滅を繰り返し、観客席からは何事かと悲鳴が上がった。
静寂のメルケ号も。
双翼のリュース号も。
スペリオル・ドーラにさえノイズが入り、明滅を繰り返していた。
こうなるとモンスターたちがソリッドビジョン投影機で映し出されていたことを思い出す。
メインモニターに至ってはついに消えてしまった。
『おぉっとぉ、電波障害によりモニターが消えてしまいました!! すぐに復帰します!! お待ちくださァァァい!!』
会場のスタッフたちがせかせかと動く中、司会の男は努めて明るく言い放った。
[チームHERO側ベンチ]
「……」
恵の周りから聞こえていた異音が少しずつ収まっていくと亜美はまだ耳を抑えながら恵に向けて口を開けた。
「め、恵! 何したの……?」
「……妨害電波と思われる通信を検知したためジャミングを行った……」
あまりにもあっさりと白状するので亜美は一瞬きょとんとしてしまう。
その間にゆきが目を丸くして声を上げた。
「そんなことができるんですかぁ!? す、凄いですぅ!」
「……ただし私のジャミングは周辺電子機器に深刻なダメージを与える可能性が高い。連続使用は推奨しない……」
「モニターがダウンしたのはそのせいってことね……」
恵の言がいかに正しいかはこの状況が物語っている。
亜美は周りを見渡してつくづく思う。
それから良平がようやく耳から手を放して聞く。
「恵、さっき見つけたって言ってたけど……?」
「……妨害電波の送信元を特定した。デバイスに表示する……」
右手を良平のポケットに差し向けると入れていたスマートフォンがブブッと振動する。
取り出してみると画面に座席表と配置図が表示されていて赤い点が光っていた。
「こ、これか!」
良平のスマホを取り囲む。
亜美は画面に指を走らせてつぶやく。
「Gの23席〜Eの33席……! このあたりからってこと!?」
亜美たちから見てベンチ手前の左側の方。
会場図的にはここのせの背中が見えるような位置だ。
ゆきは誰に言うでもなく声を漏らした。
「わ、わたしたち側のスタンド席ですね……!」
「……傍受した電波の指向性を計算した結果、その周辺から送信されていると推測する……」
「止めにいくわ!」とすぐに駆けだす亜美。
「待て祭乃木!」
すぐに腕をつかんだのは良平だった。
思いのほか強い力に亜美は引き留められ、顔を上げる。
「ッ! 何すんのよ!」
「祭乃木はラストプレイヤーだろ! プレイヤーが外に出たらダメだ!」
「でも!」
「俺が行く! 祭乃木はここにいてくれ!」
「ッ! ……アンタ、こういうの苦手でしょ」
「うん。苦手。……だけど、デュエルでイカサマされて黙ってられるほど俺は温厚じゃないよ。それに上には水原たちがいる。力を借りればなんとかなるはずだ」
「……! そうね! わかった、まかせたわよ!」
「ああ!」
[デュエルフィールド]
『ただいまモニターを復旧中です!! 今しばらくお待ちくださァァァい!!』
マイクパフォーマンスが何度目かのアナウンスを入れる。
説明通りメインモニターが再び光出し、照明も元の明るさを取り戻した。
モンスターたちの姿も問題なく映し出されている。
『お待たせしましたァァァ!! フィールドには特に変化はない! このままデュエルを続行するぞォォォ!』
スタッフへの労いか会場がパラパラと拍手して試合が再開される。
フェイズはメインフェイズ。
効果の発動も何もない。
その状況にギークは思わず声を出した。
『なにィ!!?』
そんなはずは。
ただ一人だけこの会場で眉間に皺を刻む。
(バカな! 何故操作されない!?)
一方でここのせも自身のディスクの液晶画面を凝視していた。
「一瞬デュエルディスクが勝手に反応したと思ったが……? まさか恵か……?」
(どうなってやがる! あのデカブツの効果を発動させれば、Lysの効果でぶっとばせたってのによぉ!)
地団駄を踏むようにギークは怒りで震えていた。
その様子を見て合点がいったここのせは口の端を上げて片手を腰に当てる。
「……アテが外れたって顔だな、海賊野郎」
『あぁ? なんだぁてめぇ、何が言いてぇんだぁ?』
「あくまでシラを切るつもりかい」
『うるせぇなクソガキ!! さっさと続けろ!!』
「言われなくてもやってやらぁ!」
ーメインフェイズー
「手札から魔法発動! 貪欲な壺!」
《貪欲な壺》
通常魔法
「墓地のモンスターを5体! リイブ、カガリ、シズク、明星の機械騎士、エンタープラズニルをデッキに戻し、2枚ドロー!」
新たにカードを2枚引き込み、手札は5枚へ。
チラッと引いたカードを見てここのせは口角をあげた。
「……巨大戦艦ブラスターキャノンコアを特殊召喚!」
巨大戦艦ブラスターキャノンコア
攻:2500 地 機械族 星9
「こいつは相手モンスターの数が自分のモンスターよりも多い場合、特殊召喚できる! さらに、場に現れた時、強制効果が発動! 自身にカウンターを3つ乗せるぜ!」
『チッ……! 勝手にしな!』
巨大戦艦ブラスターキャノンコア
カウンター0→3
ここのせは左腕を胸の前まで持ち上げ、フィールドゾーンスロットを解放した。
そして右手のカードを差し向けて宣言する。
「さらにオレのフィールドの表側表示のマジックカード、暴走召喚陣を対象に、手札のワルキューレ・シグルーンの効果発動!対象にしたカードを墓地に送ることで自身を特殊召喚できる! ……これは発動する効果だ。お前のそのモンスターで無効にできるぜ」
ニヤリと意味ありげに笑うここのせ。
『んなことはわかってんだよクソガキぃ!!』
苛立ちを隠せないようにギークは唾を飛ばした。
ここのせの手札はまだ3枚もある。
(奴はまだ召喚権を使ってない。あれはブラフに違ぇねぇ。それにいざとなりゃ……)
ギークは瞬時に考え、それから怒鳴った。
『はっ! そんなモンスター出したところで痛くもねぇ!! さっさと続けろぉ!』
対するここのせ。
(通った!)とカードを操る。
「こい! ワルキューレ・シグルーン!!」
ワルキューレ・シグルーン
攻:2200 光 天使族 星9
「レベル9のブラスターキャノンコアとワルキューレ・シグルーンでオーバーレイ!!」
☆9×☆9=★9
「ーー海の要塞! 大空の支配者よ! 暁の水平線に勝利を刻めぇ!!エクシーズ召喚! 抜錨せよ! 幻子力空母エンタープラズニル!!」
幻子力空母エンタープラズニル
攻:2900 風 機械族 ランク9
『再び現れたァァァァァ!! 海の守護者! 鉄の要塞! 幻子力空母が海賊船に睨みをきかせているぞォオォオォオォオッ!!』
フィールドはまさに戦場。
2隻の海賊船に対し、航空母艦と砲塔列車。
彼我の戦力差は明らかだった。
『ぎぎぎぃ……!』
ギークは顔を真っ赤にして歯を食い縛る。
対しここのせは右手をフィールドに差し向けた。
「エンタープラズニルの効果発動!! 」
『やらせるかァァァ!!Lysの効果発動ぉ!! 手札のPlunder Patrollを墓地に送り、空母の効果を無効だぁ!』
「こっちだって、やらせねぇ!! スペリオル・ドーラの効果発動!!」
chain1 幻子力空母エンタープラズニル
chain2 海造賊-双翼のリュース号
chain3 No.81超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ
逆順処理によりスペリオル・ドーラが先に動く。
「エンタープラズニルにシールド展開!!」
スペリオル・ドーラが青白く輝き、エネルギーを走らせる。
するとエンタープラズニルの周囲にプラズマが発生し青いシールドがドーム状に展開された。
そこにリュース号の砲弾が直撃。
シールドが悉くを弾いてしまった。
『海賊船の砲撃がシールドに阻まれたァァァ!! エンタープラズニルは健在!!』
『チィッ!』と舌打ちし、ギークはデッキに手を伸ばす。
『だが効果は通っている! デッキからPlunder Patrollカードをサーチ!』
「こっちエンタープラズニルの効果も起動するぜ!! 雷撃隊全機発艦!!」
エンタープラズニルの航空甲板からいくつもの雷撃機が飛び立っていく。
空は瞬く間にここのせの領域となった。
「対艦戦闘!攻撃目標は黒い海賊船!! 攻撃始め!!」
母艦から飛び立った雷撃隊が一斉に降下し、水面ギリギリを行く。
そして機体下部に取り付けられた酸素魚雷を発射した。
静寂のメルケ号は避ける間も無く、何発もの魚雷を被弾。
高い水柱を上げて爆発した。
『艦載機による一斉雷撃!! 海賊船はひとたまりもなく沈んでしまったァァァァァァァァァァッ!!』
「しゃあ! 」
『くそが! 今墓地に送ったBlackeyesの効果発動!! こいつが墓地に送られた場合、装備状態の海賊を場に呼び出す! 出やがれ、白髭ぇ!!」
海造賊-白髭の機関士
守:1000 水 戦士族 星4
現れる白髭のゴブリン。
尽きることのない海賊達の抵抗。
だがここのせは一切怯まずに手札のカードを場に呼び出した。
「それならこっちも一気に畳み掛けるぜ!! 通常召喚! こい! 閃刀姫-レイ!!」
閃刀姫-レイ
攻:1500 闇 戦士族 星4
「攻めるぜ、スペリオル・ドーラ! 砲塔旋回! 攻撃表示!」
No.81超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ
守→攻:3200
列車砲がゆっくりと旋回し、主砲弾を装填していく。
地鳴りと鉄の声。
混じる歓声。
ここのせは口の端を上げて宣言した。
「バトルだ!!」
『チッ……!』とギークは憎らしげに舌を打つ。
(くそ!! こんなガキにまけたら恥だぜ!! 俺様のターンになれば、どうとでもデカブツは処理できる!あのクソガキのバトルフェイズをまた飛ばしてやる!!)
ギークはすぐさま首元につけた小型マイクに口を向ける。
そして『ワイオミング!!ヘッドルーム!』と怒鳴りつけた。
ここのせは彼の放つ意味不明な言葉にまた眉を潜めた。
(……また何か言ってやがる……? もしかして、暗号、か……!?)
ビビッと音が鳴りデュエルディスクのディスプレイがチカチカと明滅してしまう。
ここのせはすぐデュエルディスクに目を向けた。
〈メインフェイズ2へ移行処理中〉
「なっ!? ディスクがまた勝手に……!?」
『ーーくははっ! おいおい、また故障かぁ??』
「この! ぬけぬけと……!」
ギークの嘲笑うような顔をここのせは殴りつけたい気持ちを抑えて睨む。
(くそっ、やべぇ! バトルフェイズを飛ばされたら、海賊船が一隻残っちまう!)
相手フィールドにはリュース号が生き残っている。
モンスター効果を無効にし破壊する誘発即時効果を持つ海賊船である。
(次の相手のターンにもう1隻船を出してきた瞬間、チェーンの関係でスペリオル・ドーラの防御が間に合わなくなる……!)
ここのせの背中にじとりと嫌な汗が伝った。
[数分前 チームHERO側スタンド]
時はやや戻り、良平は一心に走っていた。
剥き出しコンクリートの階段が今では煩わしく感じてしまう。
ベンチ裏から通用口、スタンド入り口へと駆けていき遂に観客席へとたどり着いた。
「ッ!」
良平があたりを見渡すとフィールドは未だソリッドビジョンはついておらず、メインモニターも消えたままだった。
『ただいま復帰中です! 今しばらくお待ちくださァァァい!!』
司会の男がマイクで呼びかけている最中で観戦客は何事かとざわついていた。
(Gの23、Eの33……!)
良平は恵がくれた情報の席を探す。
青いプラスチックでできた折りたたみ座席の背もたれに数字が刻まれていた。
「あれは……」と良平の姿を見つけたのは忠一だった。
続いて女子生徒が「あれ? 日和田くんじゃない?」と隣の女子生徒の肩を叩く。
「ホントだ。なんでこっちにいるんだろう?」
「ふむ……」と桃胡は顎に手を当てて訝しんでいる。
忠一はそんな桃胡と共に小走りで良平の下まで近付いた。
「日和田!」
「水原……!」
「何やってるんだ。試合中だろ」
「そうなんだけど、事情があって!」
滴る汗も拭わずに必死の形相の良平。
桃胡は直ぐに表情を引き締めて口を開いた。
「……穏やかではないね。何かあったのかい?」
「実は……」
デュエルディスクの誤作動のこと。
そしてクラッキングのこと。
もちろん恵が検知したというのはまた別の説明がいるので伏せたが大まかなことを早口で説明する。
忠一も桃胡も眉を潜めた。
「イカサマだと? そんなバカな……」
「本当なら許せないことだね」
「しかしデュエルディスクには不正防止機能がついているんだぞ」
「いや不正防止機能を突破する術として、無線通信による遠隔操作は有効だと思うな。ただそんな技術がはたしてあるのか、と疑問には思うけれどね」
二人が冷静にやりとりするので良平は少し大きい声を出した。
「とにかくこのままじゃ、ここのせデュエルがめちゃくちゃにされる! 絶対に止めないと!」
「それで、どうすればいいんだ」
「こっちのスタンドのどこかに妨害電波を送信してるやつがいるはずだ! それを止める!」
「ーー!」と桃胡が目を見開き言う。「それなら、心当たりがある」
「え?」
意外な言葉に良平が驚いていると忠一もはっとして声を出した。
「……まさか、試合前に見かけた外国人か!」
相手スタンドは満席だがチームHERO側はそれなりに空席がある。
そこに珍しく外国人が座っていた。
試合前に忠一は桃胡とそんな会話をしたのを思い出した。
良平は桃胡の肩を半ば掴むようにして言う。
「市原! 頼む!」
「任せたまえ! こっちだ!」
…………
……
桃胡の案内で3人はスタンドの左手側に移動した。
ちょうどここのせの左半身とギーク・ハワードが斜めに見える位置である。
座席にはG番が付与されている。
フィールドはもうとっくにデュエルが再開されていてここのせが懸命に展開していた。
「あれだ」と桃胡が指差したのはイヤホンつけた外国人だった。
ガムくちゃくちゃと噛んでいて、足元には大きなボストンバックが置いてある。
よく見ると手には黒い機械を持っていた。
「なにかもってる……! あれが送信機か!?」
良平が今にも飛びかかりそうに言うので忠一が肩を抑える。
「待て! 決めつけるな!」
「で、でも!」
やりとりしている間にイヤホンつけた外国人は手元の黒い機械を操作しだす。
いてもたってもいられず良平は走り出していた。
「やらせない!」
「あ、おい!」と忠一が振り払われた手で良平の肩を追うが空を切った。
「仕方ない、援護しにいくよ!」
桃胡と共に忠一も駆け出した。
イヤホンつけた外国人はその間もガムくちゃくちゃと噛みながら操作板を弄ろうとしている。
その腕を徐に良平の手が掴み上げた。
「!!」
外国人の男は直ぐに顔をあげて良平を見た。
それから直ぐに顔を歪めて大声をあげる。
「☆○+×÷!!」
恐らくは英語だろうが、良平には何を言っているか聞き取れない。
ただ表情と口調から激昂していることはわかる。
「え、えっと……」
とにかく止めたい一心だった良平は腕を掴んだまま二の句に困っていた。
一般的な高等教育では罵詈雑言に対する例文は習わない。
すると後ろから桃胡が「Hey gay!」と言った。
それからペラペラと英語を話し始める。
自称天才女子高生を名乗るだけあって英語もできるのか、と良平は内心思う。
どうやら手荒な真似をしたこと謝ってから、イカサマ疑惑について説明しているらしい。
だが、それは忠一の叫びにも近い声で中断となった。
「市原!!」
「?」
桃胡が視線を変えるともう1人の外国人が拳を振り上げて殴りかかってきていた。
これは避けられない。
直ぐに悟った桃胡は衝撃に備えて目を瞑る。
バギッと嫌な音がしたが、吹き飛んだのは忠一だった。
「ぐはっ……!?」
「水原!!」
「水原くん!」
倒れ込む忠一に良平と桃胡が駆け寄る。
どうやら拳と桃胡の間に間一髪割り込んで代わりに拳を頬に受けたらしい。
殴られた場所は真っ赤に晴れていた。
今が好機と外国人たちは走り去っていく。
忠一は良平を見据えて叫んだ。
「ぐっ……! ッ何やってるんだ! 追え! 日和田!」
「この場は、この天才くるみん様に任せて! 君はやつらを!」
「ごめん、その機械は任せた!!」
[デュエルフィールド]
ビビッと再びデュエルディスクは軽くバイブする。
ディスプレイに読み込みが入るのでここのせは腕を顔まで持ち上げて見る。
〈バトルフェイズスキップ処理をキャンセル。バトルフェイズへ移行〉
「あっ……!?」
ーバトルフェイズー
「いけた……!?」
フェイズは無事バトルフェイズへと移行した。
フィールド及び手札に異変なし。
『なぁんだとォオ!!?』
ギークは目を釣り上げて唾を飛ばす。
そんなはずはない。
『どうなってやがる!! 役立たず共がぁ!!』
罵りながらチームHERO側スタンドを睨むギーク。
『なっ……!!?』と目を丸くする。
つられてここのせも振り向いた。
[チームHERO側スタンド]
視線の先にいたのは二人の学生。
片方は大きな身長に学ランを着ていた男子ーー水原忠一で不服そうに頬をさすっている。
もう片方は小さな身長に制服を身につけた少女ーー市原桃胡だった。
桃胡は見慣れない黒い機械を握っている。
「ふふ、得体の知れない機械であろうとこの天才女子高生くるみん様の前ではオモチャも同然さ! Fifone!」
[チームHERO側ベンチ]
亜美もベンチの外に出てスタンドを確認する。
「くるみん!! 忠一! よぉーし!! ここのせぇ!! 一気に決めちゃいなさい!!」
[デュエルフィールド]
『くそがァァァ!! 役立たずがァァァァァ!!』
ギークは脇目も振らずに喚き地面を踏み鳴らす。
対しここのせは目線を鋭くして睨みつけた。
腕を振り上げ自軍のモンスターに号令を出す。
「イカサマ頼りもここまでだぜ海賊!! 年貢の納め時だ!! いけ! エンタープラズニル!! あの残った海賊船に向けて攻撃!! 攻撃隊、全機発艦!!」
幻子力空母エンタープラズニル
攻:2900
第二次攻撃隊が次々と発艦していく。
鶴翼状に飛行し、リュース号上空を取り囲む。
そして一気に急降下し爆弾を投下した。
海造賊-双翼のリュース号
守:2000
直上からの急降下爆撃にリュース号はたまらず爆沈。
爆風がギークの服を翻させた。
だかここのせは止まらない。
「追撃!! 閃刀姫-レイで白髭の海賊に攻撃だ!」
閃刀姫-レイ
攻:1500
海造賊-白髭の機関士
守:1000
レイがエンジンを高回転させ一気に肉薄。
手に持つ閃刀を振り抜き白髭のゴブリンを切り裂いた。
『ぐぅぅ!! 白髭が墓地に送られた時、デッキから別の海賊を呼び出す! 出ろ、青髭!!』
海造賊-青髭の海技士
守:1000 水 悪魔族 星4
ギークを守るように青い髭のゴブリンがサーベルを構える。
ここのせは応戦するように腕を振り抜いた。
「閃刀姫レイの効果発動! このカードをリリースし、EXデッキから閃刀姫モンスターを特殊召喚する!装備換装!! 炎を纏え!! 出ろ、閃刀姫-カガリ!」
閃刀姫-カガリ
攻:1500→2300 炎 機械族 LINK1 ↗︎(右EXゾーン)
レイは艦上戦闘機のようにエンタープラズニルに着艦。
炎を纏い振り払うと赤い機体に姿が変わる。
「カガリが現れたとき、墓地の閃刀魔法を手札に加えることができる! 閃刀術式アフターバーナーを手札に加えるぜ!」
閃刀姫-カガリ
攻:1500→2200
カガリはエンジンを回しエンタープラズニルの飛行甲板から飛び上がり、相手フィールドに直進していく。
「攻撃続行だ! カガリ! 青髭の海賊を蹴散らせ!」
閃刀姫-カガリ
攻:2200
海造賊-青髭の海技士
守:1000
カガリの焔を纏う閃刀に青髭のゴブリンは貫かれ、霧散した。
爆塵が巻き起こりギークは腕で顔を隠す。
『ぐぅっ……!?』
もはやフィールドにカードはなし。
海賊達はもうこの海にはいない。
ここのせは指をギークに差し向けた。
「今度こそ仕留める!! スペリオル・ドーラ!!」
号令にスペリオル・ドーラは主砲の仰角を調整。
砲弾を装填するとバチバチとイオン化したプラズマが主砲に走る。
「弩級を超えた破砕の一撃!! 食いやがれぇ!! 撃てぇぇ!!」
刹那、腹を突き破るような爆音がした。
爆炎を上げて砲弾が放物線を描きながらギークへと向かっていく。
そしてギークに直撃し炸裂した。
音が遅れる程の大爆破に観客すらも悲鳴をあげた。
『グァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』
LP:2300→0
果たせるかな、直撃したギークは張り裂けんばかりの声をあげる。
ーービィィィィィィィッ
ライフポイントが底をついたことを知らせるブザーが鳴り響いた。
『決まったァァァァァァァァァァァァァァァッ!!! 途中様々なトラブルに見舞われながらも、チームHERO、見事1勝を勝ち取ったァァァァァァァァ!!!』
凄まじい歓声。
揺らめき、或いは拍手。
チームHERO ●
vs
チームBandit ◯
メインモニターにはチームHEROの文字に堂々たる黒丸が付けられた。
寝る前決闘空間第36話
『晴れない空』
デュエルスタンバイ