遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
しっかり下地を作りたいので今しばらくご辛抱ください……!
[1時間前 恵の部屋]
薄暗い部屋の天井を、恵は仰向けになったままぼんやりと見上げていた。その機械的な瞳には何の感情も映されていないように見える。
亜美は、恵の様子を心配そうに覗き込みながら、声をかけた。
「恵、アンタホントに大丈夫なの?」
恵は抑揚のない声で答えた。
「……問題ない。損傷点検および自己修復プログラムは完了済み。現在、冷却及びプログラムの再起動を行なっている。1時間23分51秒後に稼働できるようになる……」
それを聞いてゆきは安堵の息を漏らした。
「よ、よかったぁ……! じゃあ今までのように動けるんですね!」
「……肯定する。しかし、擬似運命誘導機関がオーバーヒートし、現在機能を停止中。これの復旧には5日程度要すると見込まれる……」
亜美は身を乗り出して尋ねた。
「擬似……? それがないとどうなっちゃうの?」
「……デュエルができなくなる。私の筐体は基本的に擬似運命誘導機関がなければ擬似運命力を発生させることができない。従ってデュエルの実行が不能となる……」
「つまり運命力が0の状態になっちゃうわけね」
「……そう……」
ゆきは指を折りながら、少し沈んだ表情を見せた。
「5日……ということは次の準決勝は恵さんは出られませんね……」
亜美はすぐに明るい声で場を盛り上げた。
「恵は前回めちゃくちゃ頑張ってくれたわ。今回はアタシたちで頑張りましょ!」
ゆきもそれに頷いたが、すぐに表情を引き締めた。
「そうですね! ……でも次のお相手は、これまで以上に強いチームですから、ちゃんと対策を立てなきゃいけないですよね……」
亜美の瞳に、対戦相手のチーム名と、ある人物の顔が浮かんだ。
「オベリスクブルー……。その強さはチームツンドラで痛いほど感じたわ。加えてあの男……」
ゆきが、静かにその名を口にした。
「……阿久津剛さん……」
亜美はためらいがちに、ゆきに尋ねた。周囲の空気は少し重くなっていた。
「……ねぇ、ゆき。ちょっと聞きにくい質問していい?」
ゆきは身構え、少し緊張した様子で返事をした。
「え? は、はい」
「聞いていいかわからなかったから聞かなかったんだけど、その……ゆきって、あの男と付き合ってたんでしょ?」
ゆきは気まずそうに目を逸らし、言葉を選んだ。
「あー……そう……ですね」
「なんていうかその、ゆきっぽくないなって思ってさ。なんかああいうタイプ好きじゃなさそうなのに」
ゆきは軽く頭を掻きながら、困ったように笑った。
「あー……あはは、そうですねぇ……」
亜美は慌てて言葉を付け加えた。
「あ! 別に、趣味が悪いってんじゃないのよ!? ただなんか不思議だなって……」
「わ、わかってますよ! ただ……そうですね……わたしは今より幼かったんだと思います……」
亜美は、ゆきの言葉の続きを待った。
「幼かった……?」
ゆきは視線を床に落とし、静かに話し始めた。
「……わたし、今もそうかもしれませんが、人とうまく付き合っていくのが上手くないみたいで、小さい頃から輪の中に入れない子だったんです」
亜美は口を挟まず、真剣に聞き入った。
「それで、いつも気付かない内に何か気に障るようなことをしてしまうみたいで、その……えへへ……」
ゆきは、少し傷ついた唇を気にすることもなく、眉を八の字にして、無理に明るく笑ってみせた。
その健気な笑顔と、彼女が過去に経験したであろう辛い出来事を想像すると、亜美の胸の奥が締め付けられるように痛んだ。
「中学生のときにそれが酷くなってしまって……。いつしか上級生も加わるようになって、その中に阿久津さんもいたんです。そしたら何故か彼はわたしを気に入ったみたいで……」
亜美の表情が凍りついた。
"気に入った"という言葉が、目の前の間宮ゆきという人間そのものを指しているわけではないことは、すぐに理解できた。亜美は思わず自分の胸元を強く掻き抱きながら、ゆきをじっと見つめた。
「そこからピタリと他の人からの嫌がらせがなくなったんです。それに彼に尽くしていれば、彼も危害は加えなかった。だから私は阿久津さんと付き合ってるって思い込むことにしたんです……」
ゆきは八の字にした眉を戻すことなく、痛々しい笑顔を保ち続けた。
「……わたしはあの人を恨むことはできません。だって私もあの人に便乗したから……。えへへ、自分で喋っててホントに私、嫌な子だなって思います……」
亜美はただ、ゆきの名前を呼ぶことしかできなかった。
「ゆき……」
「……わたしが我慢すればいいことはわたしが我慢すればいい。そんなふうに思ってたんです。でも、それは逃げてただけなんです。わたしは弱いから仕方ないって。とても幼かった」
亜美は言葉を失い、ゆきの話に耳を傾けている。
「えへへ、正直、今のわたしは、あの時から変わったのか、変わってないのかわたしにもわかりません。わたしがいまこうしてここに居られるのは、祭乃木さんが手を差し伸べてくれたからです。結局、わたしは誰かに何かされたから、そればっかりです」
亜美は強く、真っ直ぐな目でゆきに語りかけた。
「……ゆき。アタシは、ゆきの気持ちをわかってあげられない。アタシには経験がないことだから。でもね、アンタの勘違いを指摘することはできるわ。あの時、ゆきはアタシの手を取ったんじゃない。自分で立ち上がったのよ」
ゆきは顔を上げ、反論するように言った。
「それは……祭乃木さんが一緒に戦ってって言ってくれたからです。……祭乃木さんの強さに憧れて、真似っこしただけ」
亜美は、にっこりと笑って首を横に振った。
「なぁんだ、そんなの恥ずかしいことじゃないじゃない。アタシだってそうよ」
ゆきは驚いたように目を丸くした。
「え……? 祭乃木さんも……?」
「うん。……アタシね? お母さん、いないのよ。アタシがホントに小さい頃に事故で死んじゃったらしくてさ」
ゆきは言葉を詰まらせた。
「……え、そ、そうだったんですか……」
「だから写真でしか見たことないからどんな人だったのか知らないの。でもね、毎年お母さんに線香をあげてくれる女の人がいてね。その人がいつも言うの。この人は私のヒーローだって」
「ヒーロー……」
「父さんが教えてくれたわ。お母さんは、その人を助けるために亡くなったんだって。その時にね、その血を受け継いでるアタシはお母さんみたいにヒーローにならなくちゃって思ったのよ」
ゆきは、亜美の言葉を噛みしめるように聞いている。
「でも、ヒーローって何すればいいかなんてわからないじゃない? だから、子供の頃好きだったヒーローの真似をしたわ。そして、今はヒーローはこういうものだって言い聞かせてる」
亜美は、腰に下げた真新しいデッキケースを、宝物のように優しく触れた。
「なりたい自分の真似をする。それでいいじゃない。ずっと真似してれば、いつか必ずなりたい自分になれるわ。アタシはそう信じてる」
ゆきは、深く考えるように俯いた。
「……なりたい自分……。わたしは……」
「すぐに結論を出さなくていいと思うわ。ゆきがアタシたちと一緒に戦ってくれるなら、それだけで心強いから。ね? 恵!」
亜美に名前を呼ばれた恵は、静かに頷いた。
「……ん……」
亜美は、急に表情を明るくした。
「ッあ〜! 難しい話をしたらお腹すいちゃった! ミオちゃんに頼んで美味しいもの作ってもらおっと!」
ゆきは、思いがけない提案に戸惑った。
「日和田さんのお母様に、ですか?」
「カフェlikeは、テイクアウトもできるのよ! ミオちゃんは大抵のものは作れるから、ゆきが食べやすいものも作ってくれるはずよ! ちょっと行ってくるわ!」
亜美はそう言うと、素早い足取りで部屋の扉に向かい、駆け出していった。
ドアが閉まる大きな音が部屋に響いた。
「あっ……行っちゃいました」
恵は冷静に、現実的な指摘をした。
「……財布を所持していないと思われる……」
ゆきは、思わず声を上げた。
「えぇ!?」
[現在 カフェlike]
暖かな日差しが差し込む部屋の中。
美優は肘掛け椅子に深く腰掛け、片手に持ったココアを一口啜りながら、眼下の光景を楽しんでいるようだった。
「Wow japanese シュラバ ネ」
部屋の中央。
亜美が腕を組み、鋭い視線を二人に向けて立っていた。
足元には、ここのせと良平が正座をして並んでいる。彼らの間には張り詰めた空気が漂っていた。
雪乃は優雅に椅子に座り、まるで芝居でも見ているかのように微笑んだ。
「いつか見た光景ねぇ」
良平は額に汗を浮かべ、弱々しくつぶやいた。
「……ま、またかよ……」
対するここのせは良平を横目で見やり、強い口調で反論する。
「またってなんでぇ。こっちゃ、初めてだってんだ。お前の尻に敷かれ癖に巻き込むんじゃねぇよ」
「尻に敷かれ癖ってなんだよ……。だいたいここのせだって今敷かれてるじゃないか……」
「お前を敷いてる尻に巻き込まれてるだけでぇ。もらい事故だっつの」
二人の言い合いを遮るように、亜美は怒りの声を上げた。
「ごちゃごちゃうっさい! アンタらねぇ! 電話ならまだしも、アタシに黙ってチームツンドラを自分ん家に連れ込んでこんな密会を開くなんて、どういうこと!? 説明しなさい!」
慌てて両手を振り、否定する良平。
「ち、違う! これは誤解なんだ!」
「うわぁ……浮気男のテンプレート……」
ツァンはそれを聞いて、思わずといった様子でつぶやいた。
「良くんが浮気性に……しくしく……」
キッチンの端でミオちゃんはハンカチで目元を押さえる仕草をした。
チームツンドラはともかく、実母にまで言いがかりをつけられるとは。
「あーあーあー、もうめちゃくちゃになってるよ……」
頭痛でもするのか良平が額に手を当てて渋い声を出す。
「祭乃木ぃ、オレぁ言ったじゃねぇか。ツンドラの連中と情報交換してるってよぉ」
苦笑いのここのせが亜美を見上げ言うが、亜美は腕組みを解かないまま目を吊り上げた。
「電話でだと思うじゃない! アンタら、いっつもアタシ誘わないで二人で遊ぶんだから! こういうのは誘いなさいっていつも言ってるでしょ!」
「だ、だって間宮のこともあるし……それに……」
良平は言葉に詰まり、視線を彷徨わせた。
「それに、何よ?」
亜美は鋭く言う。何を言うべきか。
内緒でダメージの実体化のことを調べていたのは、君を守るためだったんだって?
そんな恩着せがましいこと言えるわけがない。
「……いや……ごめん……」
結局はうなだれてそう言わざるを得なかった。
唯信は、この状況を鼻で笑った。
「無様だナ」
わざわざ言うなよ、と良平は眉を上げたが口を開くわけにはいかなかった。
ちょうど時計がかちりとなって長針がてっぺんを指している。
赤い日の光が窓を突き抜けて紅に染めていた。
「ちょっと可哀想になってきたわねぇ。そろそろ止めてあげたら?」
雪乃が少し同情的な表情を見せ、自身のチームリーダーに目を向けた。
ココアのカップをソーサーに戻し美優は、声を上げた。
「そうね。Hey HERO girl! plane boyをイジメるのが楽しいのはわかるけど、彼は貴女を裏切ったりはしないワ! それは安心して!」
美優の言葉に一瞬の沈黙の後、ため息をついた。
「そんなのわかってるわよ! 全く……次は許さないからね!」
亜美が指を指すと、良平は慌てて返事をした。
「わ、わかったよ」
良平は立ち上がり、ここのせもそれに続いた。
「遊んでたわけじゃねぇんだがなぁ」
「久しぶりネ、HERO girl!」と美優は楽しげに手をあげる。
「まともに話すのは、ストックホルム以来かしら?」
亜美も笑みを浮かべて頷いた。
「そうね! この間、雪乃とはしゃべったけど他のみんなには会えなかったもんね」
「ふふ、HERO's leaderにお目見えできたのは都合が良いわ。plane boyに話そうと思ったけど貴女に直接申し込めるなら話が早いワ」
良平は「え?」と目を丸くする。
一方、亜美は興味を引かれ、美優を見つめた。
「なによ?」
「ワタシ達チームツンドラと貴女たちチームHEROの合同訓練を提案するワ」
異論はなかろうという得意顔の美優に良平は戸惑いながら繰り返した。
「合同訓練……?」
「どういう風の吹き回しよ?」
腕を組んで亜美が斜に構えると、今度はツァンが口を開いた。
「ボク達は、キミらに負けられると困るんだ。あの日ボク達に勝った、キミらに」
さらに雪乃が言葉を継ぐ。
「私達チームツンドラは2年オベリスクブルーの各科の主席レベルが集まってるわ。でも私達は負けた。去年は卑怯な手段で、今年は貴女達に正々堂々と」
「チッ……」と唯信が不満そうに舌打ちする。
同意するかのように美優は目を細め、首を振った。
「不出来な三年よりワタシ達が劣るなんて認めない。あんな卑劣な連中に劣るなんて有り得ない。それを示すChanceを得るにはワタシ達に勝利した貴女達に勝ってもらう必要があるワ」
椅子に深く寄りかかりここのせは頭の後ろに手をやった。
「アカデミアにはアカデミアの事情ってのがあるんだな」
きっと鋭い目線を向け唯信は言う。
「我々はキサマらとは違ウ。何度も言わせるナ」
良平は押し黙って、その場の空気を静かに感じ取っていた。
彼女たちは――――デュエルアカデミア オベリスクブルー。
蒼き制服。猛きプライド。
その如くが彼女たちの行動原理なのだ。
亜美は美優の提案に力強く頷いた。
「つまり、アンタ達はアタシ達に勝ってもらいたい。アタシ達は奴らに勝たなきゃいけない。Win winってわけね! いいわ、やりましょ!」
「交渉成立ネ!」
美優は満足そうに微笑み、右手を差し出した。
差し出された手に自分の手を重ね、力を込める。
「けど、やるからには本気よ!」
「off course!」
「それで」と良平が口を開ける。
「いつやるの?」
「今からに決まってるだろウ、腑抜けてるのか日和田良平ェ!」
唯信は、良平の緩さに苛立ちを見せ、強い口調で畳みかける。その眼光は鋭く光っていた。
「え!? い、今から!?」
思わず良平は素っ頓狂な声を上げる。
街中は夕食の準備に勤しむ香りが漂っているし、実際厨房では自身の母が注文とは関係ない料理を作っている。
しかしツァンは身を乗り出して良平の顔を覗き込む。
「だって試合まで時間がないんだよ? 1秒だって無駄にできない!」
「にしたって急じゃねぇか。もう5時だぜ?」
ここのせは、外の暗さを見やって、少し呆れたように言った。
しかし美優は自信満々に微笑んだ。
「No problem! 外泊許可を取り付けてあるワ!」
「なんでぇそりゃ……。断られたらどうするつもりだったんでぇ……。こんな勝手して大丈夫なのか、委員長?」
「委員長ではありません。……わたくしでは、彼女達は止められませんから」
麗華は、静かに、そして諦めたように答えた。その小さなため息が、彼女の苦労を物語っていた。
とんとんと話が進む。
ツンドラだけでなく亜美も乗り気なら自分たちの抗議が届くはずもない。
それに自分たちには然したる支障はない。
夜に出かけることも急に外泊することも慣れっこだ。
ただ良平は、もう一人のチームメイトのことが気になっていた。
「俺達は構わないけど、間宮はどうするの?」
亜美は即座に「そんなの一緒に」と言いかけ、途中で状況を思い出し、声を詰まらせた。
「……あっ」
「ミヤタ……」と美優は、その名前を聞いて記憶を探った。
「Oh! あのknight girlネ!」
ツンドラとの決戦でセカンドプレイヤーを務めたのは誰でもない間宮ゆきだ。
「彼女、何かあったの?」
ゆきと直接対戦しているツァンは小首を傾げた。
「アイツらと悶着があった時、間宮が怪我しちゃって……その……顔に……」
良平は、言葉を選びながら、ゆっくりと説明すると雪乃が「なんですって!?」と目を見開いた。
雪乃だけでない。
美優も、ツァンも、唯信さえも顔を顰めている。
「あの野郎、女の顔殴りやがって。本当はぶちのめしてやりたかったくれぇだ」
ここのせは怒りを露わにし、拳を握りしめた。
だが当時のことを思い出すと自分にできることはほとんどなかったのも事実だ。
それもまた歯痒さを生んでいる。
「ひどい……! あの男、ホントにクズ……!」
ツァンが表情を曇らせ、憎しみを滲ませた。
「程度は? 大事はないの?」
美優はすぐに容態を尋ねた。
「骨折とかしてないわ。でも昨日の今日だから、痣と傷が結構ひどくて……」
ゆるりと首を振って亜美が言う。
顔中の目立つ痣は今思い出しても痛々しい。
唯信は、再び小さく舌打ちをした。その静かな怒りが、部屋の空気を重くした。
亜美はふと何かを思いつき、身を乗り出した。
「あ! ねぇ、アンタら確かスポンサーに姿勢堂があったわよね! 何かいい化粧品知らない?」
「ユキノ! ウチのtop coordinatorなら何か知ってるでしょ?」
美優は、チームメイトに視線を送った。
視線の先には雪乃がいて涼しい顔で胸を抱き寄せている。
「トップコーディネーター?」
ここのせは、聞き慣れない肩書きに首を傾げた。
トップデュエリストとかトップライダーとかならわからなくもないが、コーディネーターときた。
「藤原さんは、普通科のデザイン専攻なんだよ」
ツァンが説明すると雪乃は得意げに微笑んだ。
「うふふ、敬ってもいいのよぉ?」
「デザイン……そういうのもあるのか」
良平が顎に手を当ててつぶやく。
「えぇ。カードデザインやイラストデザイン、他にもDホイーラー向けやプロデュエリスト専門メイクとか学ぶことはたくさんあるのよ」
「そうなんだ。じゃあなにか良い方法知らないかな?」
「ふふ、メイクには無限の可能性があるのよ。姿勢堂からDホイーラー向けに作られた傷や痣を隠すための化粧品がたくさん出ているわ」
「ホント!? どこに売ってる!?」
乗り出さんばかりの勢いで亜美が口を開くと雪乃は人差し指で唇をトントンと叩いた。
「一番確実なのは童実野デパートの化粧品売り場ね。Dホイールショップなんかにも売ってはいるとは思うけど、そういうショップに売ってる安物はやめた方がいいわぁ。肌を痛めてしまうもの」
「ど、童実野デパート……敷居高いなぁ……」
良平は、そのデパートの名前を聞いて、少し気が引けた。
場所は知っている。
中央エリア――即ち旧トップスエリアにある大型デパートで地下に女性向け商品が並んでいることは良平も知っている。
ただそこに学生服を着た少女が歩いているのはあまり見ない。
「間宮さんって肌が白い子だったわね……。それだと一番おすすめなのはクレイドルフォーボーテのナチュラルコンシーラーとナチュラルシートかしら」
雪乃はこちらの思いなどつゆ知らずですらすらと商品名を上げていく。
「クレド……? なんでぇそりゃ?」
ここのせは、慣れない外国語に戸惑った。
耳打ちするように亜美に聞くが亜美も眉を潜めて怪し気に言う。
「アタシも詳しくは知らないけど、たしか姿勢堂の高級ブランドよね……? い、いくらなの……?」
「そうねぇ、たしか1万5千円くらいだったかしらぁ」
「い、いちっ……!?」
亜美は思わず目を見開いた。
「レアカードが買えらぁ……」
「お、お小遣いを前借りして、いらないもの売って、おやつ我慢すれば……いける……かしら……?」
自分の財布と貯金箱を思い浮かべては芳しくない顔をする亜美。
バイトもろくにしてない身では1万5千円という金額は途方もなく遠い。
「あ、まえに予選優勝記念パックから出てきたブラックマジシャンのカードをショップに持ち込めば、いくらか足しになるかも……?」
良平が自分の持ち物を思い出して提案した。
二人の会話を聞いて、ツァンは呆れた様子を見せた。
「呆れた……。身銭切りすぎでしょ……。ていうか仮にもWSCのベスト4チームがお金のためにカード手放すとかみっともないからやめて!」
「で、でも……!」
「あーもー! ボクのやつあげるから使って! 肌の色が合うかわからないけど!」
ツァンが観念したような声を出して言う。
「いや使えないわよ、そんな高いの……」
亜美が眉を八の字にして言うもツァンは首を振った。
「気にしないで。姿勢堂から貰ったやつだから」
「肌の色については、ツァンさんもお肌白いから多分大丈夫だと思うわぁ」
雪乃の言葉を誰も疑うことはない。
それだけ彼女も肌がきれいに白い。
「たしかここに……あったあった。はいこれ」
ツァンが化粧品入れを差し出すと、亜美は感謝を込めてそれを受け取った。
「ホントありがと! 今度何かお礼するわ!」
「べ、別にいいよ……。その代わり、ちゃんとアイツらに勝ってよね!」
「任せなさい!」
「使い方はわかるかしら?」と雪乃。
亜美は思わず固まった。
「……え。……あー、アタシ、あんまり化粧ってしたことないのよね……」
「うふ、ならケーキ一つで請け負ってあげてもいいわよぉ?」
パチンとウィンクする雪乃。
亜美は、すぐに良平に目を向けた。
「良平!」
「うん、モンブランとチーズケーキとショートケーキ、それとチョコケーキ。どれがいい?」
「あら言ってみるものね。じゃあモンブランをお願いしようかしら」
「わかった」
お安い御用だ。
後で自分の財布からレジに400円ばかし入れておけばよいのだ。
しかし。
「あ、ワタシはchoco cake!」
と美優がにこやかに手を上げる。
「ボクはショートケーキがいいな」
ツァンも続いた。
「……チーズケーキ」
唯信は、少し不機嫌そうに注文を告げた。
「では、わたくしもモンブランで」
麗華は、遠慮がちにモンブランを頼んだ。
「いやお前らも頼むんかい」
次々に注文する面々をここのせ頬杖を突きながら眺める。
「し、仕方ないなぁ……」
良平は、困ったように頭を掻き上げて立ち上がった。
[ネオ童実野シティ マンション 恵部屋]
夕暮れ時のネオ童実野シティ。かつてトップスと呼ばれた富裕層が住む高層マンションの一室は、静寂に包まれていた。
ベッドの上で、ゆきは手元のデッキからカードを一枚ずつめくっては、その絵柄を見つめていた。指先が擦れる微かな音だけが、広い部屋に響く。
「……」
ゆきの手が止まる。視線の先にあるのは、闇に溶け込むようなヒーロー、『E・HERO シャドーミスト』のカードだった。
「……」
脳裏にいつかの光景が鮮烈に蘇る。
『カードたちが、アンタみたいなクズからゆきを守るために来てくれたのかもってことよ! 速攻魔法発動! マスクチェンジ!』
亜美の力強い言葉と、頼もしい背中。
「……わたしを守るために……」
ゆきがカードを胸に抱きしめて呟くと、それまでじっと座っていた恵が顔を向けた。
「……どうかした……?」
「あ、ごめんなさい。声に出ちゃってましたぁ……」
「……謝る必要はない。デッキについてなら相談に乗ることは可能……」
「デッキについてではないのですが……。運命力ってなんなんだろうって考えてしまって……」
「……運命力とは、その生命が持つ力とカードが持つ力とを結びつける力、またはその強度のことを指す。何故、人々とカードとの間にそのような相関関係があるかは少なくとも私の未来では解明されていない……」
恵は淡々と、しかし淀みなく教科書的な定義を述べた。
「じゃあ、私は聖騎士たちと結びつきがあるってことですかぁ?」
「……例外もあるが概ねはそうと言える。貴女の運命力が強く引き寄せたカードが今貴女の手にある……」
「私が引き寄せた……」
ゆきは自分の手のひらを見つめた。自分のような弱気な人間に、そんな力があるとは未だに信じられない。
「……」
恵がベッドからゆっくりと体を起こした。
「わっ……! 恵さん、もう大丈夫なんですか?」
「……ん……」
小さく頷く恵だが、その足取りはまだ少し覚束ない。
「……しかしエネルギーを消耗している。補充を行う……」
恵はとてとてとキッチンへ向かうと、冷蔵庫を開けた。冷気と共に庫内の明かりが漏れる。
「……」
恵が取り出したのは、食材ではなく、無骨な電源バッテリーだった。
「……あむ……」
躊躇なくそれを口に運び、端子部分を咥える。バチバチと青白い火花が散り、電流が流れる音がした。
「えぇ!? ちょっちょっちょっ! だ、だめですよぉ! ペッてしてください!!」
ゆきは慌てて駆け寄った。
「……ほんだいない。ほれがああしいしゅうへんほうほう……」
恵はバッテリーを咥えたまま、モグモグと咀嚼するように顎を動かしながら何かを言っているが、全く聞き取れない。
「で、でもぉ……」
その時、軽快な電子音が部屋の静寂を破った。ゆきのスマートフォンに着信が入る。
「わっ、とと……」
ゆきは慌ててスマートフォンを手に取り、通話ボタンを押した。
「は、はい、間宮ですぅ」
『あ、ゆき! ごめん! アタシ、鍵持たずに出ちゃってさ! 開けてもらっていい?』
「あぁ、はい!」
ゆきはインターホンのモニターへと小走りで向かう。
「えぇっとぉ……恵さぁん! これでしたっけ?」
「……ん……」
まだバッテリーを口に含んだまま、恵が頷く。
ゆきが解錠ボタンを押すと、電子音が鳴り響いた。
「あけました!」
『ありがと! あ、そうだ。ゆき、あのね、さっきチームツンドラにあってさ、怪我を隠す化粧ができそうなんだけど、連れてっていい?』
「え! そ、そうなんですかぁ? はい、大丈夫ですぅ」
『ん! じゃあ今からいくから!』
通話が切れると、ゆきは少し緊張した面持ちで玄関を見つめた。
……… …… …
ドアノブが回り、勢いよく扉が開く。
「ただいまー!!」
亜美が元気よく入ってきた。
「わっ、あれ? 鍵あったんです?」
「ごめん……俺が持ってるの忘れてた……」
亜美の後ろから、良平が申し訳なさそうに顔を出す。
「……ほはえりははい……」
「は!? ちょっ、アンタ何食べてんのよ!!」
リビングに入ってきた亜美は、恵の異様な食事風景を目撃し、瞬時にバッテリーを取り上げた。
「……あっ……」
「ば、バッテリー……?」
良平が目を丸くする。
「ダメじゃない、こんなの口にいれちゃ!」
「……問題ない。これは私の正しい充電方法。まだ少し残ってる。返して……」
恵は無表情のまま手を伸ばすが、亜美はそれを許さない。
「ちゃんとご飯食べなさい! 買ってきたから!」
「……」
恵が不満げに黙り込むと、玄関の方から賑やかな声が聞こえてきた。
「ねぇ、入っていいのー?」
「早くドケ。入れン」
「ちょっと待てっつの!」
ツァン、唯信、ここのせの声が入り乱れる中、美優が興味津々な様子でリビングに入ってきた。
「Wow! とっても広いわネ!!」
「元トップスの高層マンションなだけありますね……」
麗華も部屋の広さと、窓から見える夜景に感心したように呟く。
「あ、チームツンドラのみなさんですね! お久しぶりですぅ!」
ゆきがぺこりと頭を下げる。
「Hi! ……oh 聞いてはいたけど、結構ひどいわね……」
美優はゆきの顔を見て、眉をひそめた。頬の腫れやあざは、時間の経過と共に色濃くなっている。
「あ、えへへ……すみません、お見苦しいものを……」
ゆきが俯くと、雪乃が興味深そうに顔を近づけてきた。
「ちょっと近くで見せてもらえるかしら?」
「ひゃっ……」
雪乃はゆきの顎に手を添え、至近距離で肌の状態を観察する。
「ふむふむ……。やっぱりかなり白いわねぇ。でもツァンさんので問題なさそうね」
「あ、あの……?」
「あらごめんなさい。化粧し甲斐があるお肌だったからついね。間宮さん、今日はこの私がメイクアップアーティストになってあげるわ。使い方をレクチャーするからちゃあんと覚えてね?」
「は、はい」
雪乃の自信満々な笑顔に、ゆきは少しだけ安堵したように頷いた。
「その間に、アタシ達は合同作戦会議よ! ここのせ! 机! 良平はみんなにお茶! 恵、台所借りるわよ!」
亜美がテキパキと指示を出す。
「……ん……」
「へいへーい」
ここのせは大人しくリビングのテーブルを片付け始めた。
「こんなたくさんコップあったかなぁ……」
良平が困ったように呟くと、恵がとてとてと歩み寄る。
「……戸棚の下に以前貴方たちが買ってきた紙製のコップがある。使って……」
台所と机でガヤガヤと準備に勤しんでいる中、雪乃とゆきは端に座って向かい合った。
「いいかしら? まずはコットンで汚れとか水分を拭き取って……」
雪乃はゆきの頬に、優しくコットンを滑らせた。ゆきはリビングの床に緊張した面持ちで正座し、されるがままになっている。
「……は、はい」
「生傷に直接コンシーラーを塗っちゃ駄目よ。その部分は、この貼るこすめを貼って馴染ませて、別の湿らせたコットンでぽんぽんって軽く馴染ませるの」
薄い肌色のシートを傷口に慎重に乗せ、水を含んだコットンで軽く叩くように定着させていく。
「はうぅ……」
「さぁ、これで下準備はOK。ここからが本番よぉ。ふふふ」
雪乃はそう言って、バッグの中から大量の化粧道具を取り出し、ゆきの前に並べた。様々な色のパレット、大小のブラシ、ボトルやチューブが所狭しと広げられる。
「ひぇっ……! すごい沢山ですぅ……。凄いですねぇ……」
ゆきは目を丸くして、煌びやかな道具の数々を見つめた。
「うふふ、でも、これくらい持っていてもいいと思うのよ。化粧は女の……いえ、全ての人が簡単に持てる武器なんだもの」
「え、武器、ですか?」
「ええ。私にとっては自分を美しく魅せるための武器、人によっては自分を隠すための鎧。色々な考え方はあるだろうけど、どれも正しいと思うわ」
雪乃はブラシにコンシーラーを取り、手際よくゆきの肌に乗せていく。
「自分を隠す……」
「仮面だとか詐欺だとか馬鹿にする人もいるけど、本当の自分よりもさらに綺麗な自分を目指して何がいけないのって思わない?」
「……」
ゆきは黙って、自分の顔に施されていく変化を感じていた。
「こうなりたい、こうなってやるんだって気持ちを込めて精一杯飾り立てる。そうしてワンランク上の自分になるの。それは仮の姿かもしれないけど、そこにいるのは紛れもなく自分よ」
「……」
「そうして、自信をつけて、より強く美しい振る舞いができるようになったらとても素敵でしょう?」
「そう、ですね……」
ゆきの心に、雪乃の言葉が染み込んでいく。
「うん、いい感じね。じゃあ次は口紅を塗るわよ」
「えぇ!? く、口紅もですかぁ!? そんな恐れ多いですぅ……」
ゆきが慌てて身を引こうとすると、雪乃は優しく微笑んで制した。
「言ったでしょう? ワンランク上の自分よ。恐れ多くなんてないの」
雪乃は丁寧に紅筆を走らせ、ゆきの唇に淡い桜色を乗せた。
「むむむ……」
「はい、出来上がり。鏡見てみて」
雪乃が手鏡を差し出す。
「わぁぁ……!」
鏡に映った自分の姿を見て、ゆきは感嘆の声を漏らした。腫れやあざは見事に隠れ、健康的な肌艶と、大人びた表情の少女がそこにいた。
「アタシも見たい!」
作戦会議をしていた亜美が駆け寄ってくる。
「えぇ、すっご!! めっっちゃかわいいじゃない!!」
亜美が目を輝かせて叫ぶと、ゆきは照れくさそうにはにかんだ。
「凄い……傷もわからなくなってます……!」
「ほぉ〜……化粧すっとここまで映えるもんか。年上に見えるから不思議だぜ」
ここのせも感心したように頷く。
「うん、口紅してるからかな、大人に見えるね」
良平も素直な感想を口にした。
「……人に与える印象に変化が見られると推測する……」
恵も無表情ながら、その変化を認めているようだ。
「Wow! 流石、アカデミアのtop coordinatorネ!!」
美優が称賛の声を上げる。
「へぇ、こんな綺麗になるんだ……。ぼ、ボクもやってみようかな……」
ツァンも羨ましそうに呟いた。
「うふ、これが化粧の力よ」
雪乃は誇らしげに胸を張る。一方で、唯信だけは興味なさそうに視線を逸らした。
「フンッ、くだらン……」
「あ、ありがとうございますぅ……! わたし……嬉しいですぅ……」
ゆきの瞳が潤む。
「うん、これなら人目を気にせず出歩けるわね!」
亜美が太鼓判を押すと、美優がパンと手を叩いて場の空気を切り替えた。
「All right! じゃあ、本格的なbriefingに移れるわネ!」
全員がリビングのテーブルを囲むように座り直した。
「とりあえず、さっきまで俺達が話してた敵の対策についてまとめると、大きく2つだね。相手の先発、黒河をどうやっていなすか。そして、インフェノイド使いの攻撃をどうやって攻略するか」
良平が水原作成の資料をテーブルに広げる。
「ふぅーん、全然眼中になかったけど、この黒河ってやつかなりやるわね……」
亜美が資料を覗き込み、眉をひそめた。
「ワタシが思うに、クロカワを攻略することと、インフェノイドを攻略することはLINKしてるワ」
「というと?」
ゆきが問いかける。
「First prayerを制することはチームデュエルの鉄則。チーム煉獄相手にはソレのweightが大きい。彼らのdoctrineはまずクロカワが相手を大きく崩し、テラコリオのtrap戦術に誘導する。そして弱った相手をインフェノイドの火力で叩き潰す。つまりクロカワにコントロールされ、trap戦術にハマれば立て直しは難しいワ」
「そうなればインフェノイドの攻略もままならないってわけか」
ここのせが腕を組み、唸った。
「……」
「でもあの人は、決して弱くない。8強を相手に全抜きしてるほどだもん」
ツァンが不安そうに呟くと、亜美は不敵な笑みを浮かべて良平の背中を叩いた。
「それならおあつらえ向けの相手を用意してやろうじゃない! 8強相手に3タテしてるのは相手だけじゃないわ。良平、ウチのエースの力、見せてやりなさい!」
「……エースって……。でも、うんーーわかった」
良平は少し照れくさそうに、しかし力強く頷いた。
「2番手はアタシがいくわ! トラップくらい楽に乗り越えてやるんだから! ついでにあの男もまとめてぶっとばしてやる!」
「つーとラストは、オレか」
ここのせが自分を指差す。
「……」
ゆきは黙って、自分の手を見つめた。
(なりたい自分に……)
脳裏に、あの日の光景が蘇る。
『ふっざけんじゃないわよ!』
自分のために立ち上がり、理不尽に立ち向かってくれた亜美。その背中は、とても大きく、輝いて見えた。
あの日の背中に、今も憧れている。
そして、ここのせの言葉も。
『……オレも前に進まなきゃいけない。自分の力で』
(前にここのせさんが言っていたこと。自分の力でーー前に進む。できるのかな、わたしなんかに……)
不安が心をよぎる。しかし、どこからか声が聞こえた気がした。
……できるさ、マスターならな
それは願望が作り出した幻聴かもしれない。でも、それでもいい。ほんのちょっとだけ背伸びができるなら。
「あの……!!」
ゆきは勇気を振り絞って声を上げた。
「おん?」
「どうしたの?」
ここのせと亜美が振り返る。
「……ッ」
ゆきは一度言葉を飲み込み、そして真っ直ぐに亜美を見つめた。
「……?」
「……わたしに、やらせてもらえませんか……?」
「え……?」
亜美が驚きの表情を浮かべる。
「だ、だめだよ! 危なすぎる!」
良平が即座に反対した。
「わ、わたしでは信用できませんか……?」
「そうじゃない! そうじゃないけど……」
「間宮、アイツは危険だぜ。わかってんのか」
ここのせも真剣な眼差しで警告する。
「わかってます。でも危ないのは、みなさんも同じです」
ゆきの声は震えていたが、その瞳には強い意志が宿っていた。
「でもッ……!」
良平がさらに言おうとした瞬間、亜美が手で制した。それから、ゆきの目を一直線に見つめ返す。
「一緒に戦ってくれるのね?」
「……はい……!」
「ん。なら、ラストプレイヤーは、ゆき、アンタに任せるわ!」
「祭乃木!」
良平が抗議の声を上げる。
「大丈夫よ、良平。ーーだって先発はアンタでしょ」
亜美はにやりと笑った。
「……どういう意味だよ」
「アンタが負けるはずない! だから、この作戦はうまくいくわ!ゆきに絶望的な状況で回ってきたりしない!」
「……ッ!」
良平は亜美の無邪気な信頼に、言葉を失う。
「そうでしょ?」
「……簡単に言うなよな……祭乃木はいっつも無茶苦茶だよ」
良平はため息をつきながらも、どこか嬉しそうだった。
「うるさいってーの!」
「良いのですか?」
麗華が確認するように尋ねる。
「ワタシ達は、彼らのrivalであってteamではないワ。ワタシ達が口を出す権利も、道理もない。彼らがBestな選択だと判断したのならそれはもう彼らの采配よ」
美優はただ腕を組んでチームHEROを見つめていた。
定石とか戦略がどうのとかそういう煩わしいものを今ことさらに言ってやるのは野暮というものだ。
「……間宮、絶対に無理すんなよ。もし途中でやめたいって思ったら、ひっこみがつかないとか考えずにオレに言ってくれ。どんなに直前だろうと、いつだってオレが代わってやる」
ここのせの優しい言葉に、ゆきは深く頭を下げた。
「ありがとうございます、ここのせさん」
「話はまとまったみたいだね」
ツァンがまとめる。
「そうね、メンバー選出はこれでいくわ!」
亜美が高らかに宣言した。
「OK! なら、始めましょうか。ワタシ達とアナタ達の合同演習! ワタシ達チームツンドラが、アナタ達に勝利を授けてあげるワ!!」
美優は腕を組みながら、その場の全員を見渡し、力強く言い放った。
広々としたマンションの一室、こたつ机を挟んで向かい合う二つのチーム。デュエルアカデミアの精鋭たちと、公立高校の雑草魂たち。両者の熱気がぶつかり合い、夜の帳が降りた部屋を熱く焦がしていく。
■あとがき
長くてすみません……!
■次回予告
寝る前決闘空間第41話
『合同演習』
デュエルスタンバイ