遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~   作:レトやま

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いよいよデュエルが始まります!


第42話 「WSC準決勝 蒼き炎の煉獄」

[WSG準決勝当日 童実野メモリアルスタジアム 観客スタンド]

 

ーアカデミア側スタンドー

 

決戦の舞台となる童実野メモリアルスタジアムは、試合開始を待ちわびる数万の観衆が発する熱気で、すでに飽和状態にあった。

特にアカデミア側のスタンドは圧巻の一言に尽きる。

スクールカラーである青と黄色と赤に染め上げられ、一糸乱れぬ統制が取れていた。

喧騒が渦巻く中、どこからか高らかなラッパの試奏音が響き渡る。重厚な機材を運び込む生徒たちの足音や、金属がぶつかり合う音が絶え間なく続いていた。

 

「右側につめてー! レッド生は一歩ずつ右ぃー!」

 

拡声器を通した指示が飛び交い、巨大な生き物のように応援団が陣形を整えていく。

 

ーチームHERO側スタンドー

 

対照的に、チームHERO側のスタンドには、どこかのんびりとした空気が流れていた。

 

「おー、お相手のスタンドは圧巻だね」

 

くるみんは腕を組み、三色に染まった対岸のスタンドを見上げて感嘆の声を漏らした。

 

「高等部だけじゃなくて中等部もきてるそうだ。それも本校だけじゃなく他の分校からも招集されたまさに全校応援らしい」

 

隣に立つ忠一が、手元の情報端末から目を離さずに補足情報を加える。

 

「流石この大会の経済効果の1割を担うだけはあるね。でもこちらだって負けてないとも!」

 

くるみんは不敵に笑うと、勢いよく踵を返した。

 

その視線の先には、お揃いのTシャツを着た40人ほどの「公認サポーター」たちが集まっている。

 

「うー、緊張するぅ」

 

女子生徒の一人が胸に手を当て、強張った表情で呟いた。

 

「なんであんたが緊張すんの笑」

 

隣の友人が可笑しそうに突っ込みを入れる。

 

「……」

 

その傍らで、男子生徒が黙々と愛用のギターの弦を弾き、チューニングを確かめていた。歪んだ音が空気を震わせる。

 

「負けに大負け、コールドゲームだ」

 

忠一は両陣営の規模を見比べ、冷徹な分析結果を口にした。

 

「失敬だな! なぁに、そろそろ……」

 

くるみんが反論しようとしたその時、通路の方から声が掛かった。

 

「おーい」

 

制服姿の女子生徒が、大きく手を振っている。

 

その後ろには、何やら大勢の影が続いていた。

 

「あ、はるちゃん!」

 

サポーターの一人が声を弾ませて振り返る。

 

「あれ? 後ろの人達は?」

 

「ダンス部の部員。ほら、私、部長だから」

 

菅谷と呼ばれた女子生徒が胸を張ると、その後ろからジャージ姿の集団がぞろぞろと姿を現した。その数、およそ20人強。

 

「えぇ!! すごー!! ……あれ? ダンス部ってあんなゴツくて坊主の男子いた?」

 

友人が目を丸くして指差した先には、明らかにダンス部とは異なる雰囲気の、屈強な男子生徒たちの集団が続いていた。

 

「……」

 

丸刈りの頭に陽に焼けた肌。野球部の面々が、無言の威圧感を放ちながらスタンドに入ってくる。その数だけでも40人は下らない。

 

「ああ、あれ野球部。ほら、私達がこの間まで応援してやったんだからって言ったらなんか来た」

 

菅谷は事も無げに言ってのけた。

 

「わー! 菅谷さん、魔性!!」

 

「それ褒めてる?」

 

「もっちろん!」

 

「なんか引っかかるけど、まぁいいや。くるみんにお願いされたことも達成できたし、私も楽しもうかな」

 

菅谷は茶目っ気たっぷりに笑い、くるみんに向かってウィンクしてみせた。

 

「やー、菅谷さんに頼んだ甲斐があったというものだね! どうだい、水原くん!」

 

くるみんは得意満面な笑みを浮かべ、隣の忠一の肩をバシバシと叩いた。

 

「野球部に、ちらほらサッカー部に陸部も……。うわ、吹奏楽部の連中まで抱き込んでる……」

 

忠一は続々と集結する各部の面々、さらには楽器を抱えた吹奏楽部の姿まで確認し、呆れたようにため息をついた。

 

「ふふん! 人数ではコールドゲームだが、熱意ではバイバイゲームさ! さぁ、諸君!! 今から相手に負けないように応援練習だ! いくよー!!」

 

くるみんはメガホンを掲げ、増援を得て活気づくスタンドに向かって高らかに宣言した。

 

[デュエルフィールド]

 

『観客席の皆様、お待たせしましたァァァ! ワールドスタンディングデュエルクラシック!! その準決勝の日がきたぞォオォオ!!!』

 

スピーカーから放たれた実況の声が、すり鉢状の巨大なスタジアムを物理的に震わせた。

数万人が一斉に呼応し、地鳴りのような歓声が童実野の空へと巻き上がる。

 

『既に決勝へと駒を進めた絶対王者、チームディスティニー!! その対戦切符を掴むのはどちらのチームかァァァァァァァァァ!!?』

 

期待と熱狂が渦巻くフィールドに、照明の光が暴力的なまでに降り注ぐ。

再びの轟音がスタジアムを揺らした。

 

『鎬を削り合うチームは!! 昨年度準優勝!! あのデュエルアカデミアのトップオブトップ!! 蒼き炎!! チーム煉獄!!』

 

ゲートが開き、スモークの中から蒼いジャケットを纏った三つの影が姿を現した。割れんばかりの拍手と声援が彼らを迎える。

 

「きゃはっ!」

 

リオが跳ねるように先陣を切った。

 

「くははっ!」

 

阿久津が太い首を鳴らし、獰猛な笑い声をあげる。

 

「……」

 

高笑いを上げる二人の背後で、小柄な男――黒河が一人、影のように俯いて歩を進めた。

 

『対するは!! これまで数々のミラクルを起こし、破竹の快進撃を続ける全くの無名集団!! 奇跡のチーム! チームHEROォオ!!』

 

対面のゲートから、一歩一歩踏みしめるように五人の若者が姿を現した。挑戦者たちを迎える大歓声の中、彼らの足音が人工芝のフィールドに響く。

華美なパフォーマンスはない。

亜美、ゆき、良平、腕を組んだここのせ、そして恵。

彼らはただ静かに、しかし確かな闘志を燃やしてフィールドの中央へと進み出た。

 

「くはっ! むざむざぶっ潰されにきたのか! 逃げりゃいいものをよぉ」

 

阿久津は捕食者のごとき獰猛な笑みを浮かべて挑発した。

 

「アンタこそアタシ達にビビッてた癖によく逃げなかったわね」

 

亜美は一歩も引かず、凛とした眼差しで巨漢を見上げ返した。

 

「アァ!?」

 

こめかみに青筋を浮かべた阿久津が、威圧的に身を乗り出す。

 

「これは喧嘩よ。アンタをぶっ飛ばすためのね。覚悟しなさい!」

 

亜美は毅然と言い放った。

 

「てめェブチコロシ確定だァ、泣いて土下座してもおせぇからなァ!」

 

殺気すら孕んだ怒号が飛び交う。

 

「フンッ、勝手に言ってなさい! ……頼むわよ、良平」

 

亜美は鼻を鳴らして視線を切り、背後の仲間に声をかけた。

一歩前に出た良平が短く応える。

 

「うん」

 

「チッ」

 

舌打ちを残して阿久津が下がり、代わってチーム煉獄の先鋒がよろめくように足音を立てて前へ出た。

 

「おい黒河ぁ! 負けたら承知しねぇからな!!」

 

背後から浴びせられた罵声と足音に、黒河の肩がビクリと跳ねた。

 

「ひっ……! も、もううるさいからあっちいけって……」

 

黒河は怯えたように身を縮こまらせ、誰に聞かせるでもなく呟いている。

 

(……この人が黒河……? 動画見たときより全然覇気がないな)

 

良平は眉をひそめ、眼前の対戦相手を観察した。

猫背で視線は定まらず、強豪チームの威圧感など微塵も感じられない。

 

「き、君は幻獣機使いの日和田くんだね。よ、よろしく……」

 

上目遣いに挨拶してくる様子は、気弱な少年のようだった。

 

(だけどチーム煉獄の一員。油断はできない)

 

良平は気を引き締め直し、射抜くような鋭い視線を向けた。

 

「うっ、や、やめてよそんな目で観ないでよ……! ぼ、ぼくはあいつらとは関係ないんだよ……!」

 

黒河は両手を振って後ずさり、必死に弁解を始めた。

 

「え?」

 

予想外の反応に、良平の気勢がわずかに削がれる。

 

「ぼくだってあんな化け物と一緒なんて……。ぼく、ただ楽しくデュエルしたいだけなのにアカデミアから無理やりチームにされて……」

 

涙目になりながら訴える黒河の姿は、演技にしてはあまりに悲痛だった。

 

「……じゃあ俺たちをどうかしようっていう気はないっていうのか」

 

良平は慎重に問いかけた。

 

「あ、当たり前だよ……。君達はただの対戦相手なんだから……」

 

黒河は何度も頷く。

 

「……」

 

良平は警戒を解かぬまま、黒河の真意を探るように沈黙した。

 

「あ、でも君達は倒さなきゃっていうか……。ぼ、ぼく達のチームの本来の目的はクイーンだ。き、君達じゃない。あ、阿久津たちみたいな化け物と戦わない方がいいよ」

 

黒河は声を潜め、親切心からくる忠告のように囁いた。

 

「それでも俺たちは……」

 

仲間を、そして自分たちの未来を守るために戦う。そう言いかけた良平の言葉が遮られた。

 

「ーーだから」

 

その瞬間、黒河の雰囲気が一変した。

 

「ッ!?」

 

良平は息を呑む。

 

「おれがまとめて貴様たちを倒す」

 

黒河の瞳から怯えの色が完全に消え失せ、代わりに爬虫類を思わせる冷酷で鋭利な光が宿っていた。

機械的な駆動音と共に、彼の左腕でデュエルディスクが展開される。その動作には一切の淀みも迷いもなかった。

 

(雰囲気が、変わった……!?)

 

背筋に冷たいものが走るのを感じながら、良平は即座に身構えた。

 

「さぁ、かかってきな! 」

 

先程までの気弱な青年はもうどこにもいない。

そこに立っているのは、猛き闘志を燃やす決闘者そのものだった。

 

「な、なんだ急に……!?」

 

良平は戸惑いを隠せない。

『あの人、デュエルになると人が変わったみたいになるし……』

脳裏にツァンの忠告が蘇る。

 

(あれ、そのまんまの意味だったのか……!)

 

良平もまた、覚悟を決めた。

機械音を響かせ、良平のディスクもまた戦闘態勢へと移行する。

 

『それでは始めるぞォオォオ!! スリィィィィ! ツゥゥゥゥゥゥ!! ワァァァァァァァンッ!! デュエルスタァァァトォオォオッ!!』

 

会場のボルテージが最高潮に達し、数万の歓声と共に二人の決闘の火蓋が切って落とされた。

 

「デュエル!」

 

黒河唯人

LP:4000

 

「デュエル!」

 

日和田良平

LP:4000

 

巨大な電光掲示板の光が目まぐるしく明滅し、電子音と共に「先行:チーム煉獄」の文字を映し出した。

 

『先行はデュエルアカデミアの蒼き炎、チーム煉獄!!! その1stプレイヤー、黒河唯人のターンからスタートだァァァ!!』

 

実況の絶叫と共に、割れんばかりの歓声がスタジアムを揺るがす。

 

「さあいくぜ!! おれのターンだ!」

 

ースタンバイフェイズ→メインフェイズー

 

黒河は獰猛な笑みを浮かべ、デッキトップからカードを引き抜いた。その動作には先ほどまでの怯えなど微塵もなく、手慣れたデュエリストの覇気が漲っている。

 

「手札より永続魔法、炎舞-天璣を発動!!」

 

《炎舞-天璣》

永続魔法

 

黒河がカードを盤面に叩きつけると、虚空に赤い輝きを放つ星の紋章が浮かび上がった。

 

「このカードの発動時の効果処理として、デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスターを手札に加えることができる!」

 

宣言と共にデッキが輝く。

 

(キーカードをケアなしで使ってきた……? これは……)

 

良平は瞬時に思考を巡らせた。相手は格上、無防備に急所を晒すとは考えにくい。だが、ここで止めなければ相手のペースになる。

 

「その発動に対して、手札の灰流うららを墓地に送って効果発動!」

 

良平は迷わず手札の一枚を墓地へ送った。フィールドに幽霊のような少女と兎の幻影が現れ、発動された永続魔法へと突撃する。

 

「このカードは相手がデッキからカードを加える効果を発動したとき手札から墓地に送り、その効果を無効にする!」

 

「甘いな! 手札から速攻魔法発動! 墓穴の指名者!」

 

黒河は嘲笑い、間髪入れずにカウンターカードを突き出した。

 

《墓穴の指名者》

速攻魔法

 

chain1 炎舞-天璣

 

chain2 灰流うらら

 

chain3 墓穴の指名者

 

「お前の墓地のモンスター、灰流うららを除外! この効果で除外されたモンスターはこのターン効果が無効化されるぜ!」

 

墓地から伸びた赤黒い腕が、突撃しようとしていた少女を捕まえ、異次元の闇へと引きずり込んでいく。

 

「うっ……!」

 

放たれた妨害が無為に帰し、良平は顔をしかめた。

 

(やっぱり対策があったか……!)

 

相手の手札の質と反応速度に、良平は舌を巻く。

 

「これにより炎舞-天璣は有効! デッキから俊炎星-ゾウセイを手札に加えさせてもらう!」

 

黒河はサーチしたカードを素早く手札に加え、そのままフィールドへと叩きつけた。

 

「そのまま俊炎星-ゾウセイを召喚!」

 

炎を纏った鎧を着込んだ獣戦士が、猛々しい雄叫びを上げてフィールドに降り立つ。

 

俊炎星-ゾウセイ

攻:1000 炎 獣戦士族 星4

 

「ゾウセイは場に現れたとき、フィールドの炎舞を墓地に送ることで手札の炎星モンスターを特殊召喚できる。炎舞-天璣を墓地に送り、捷炎星-セイヴンを特殊召喚!」

 

先ほど発動した永続魔法が炎となって消え、その熱気の中から小柄だが俊敏そうな戦士が姿を現した。

 

捷炎星-セイヴン

攻:1500 炎 獣戦士族 星3

 

「さらにゾウセイのもう一つの効果を発動する! 墓地の炎舞カード、炎舞-天璣をデッキに戻すことでデッキよりレベル5以上の炎星をサーチ! この効果で寿炎星-リシュンマオを手札に加えるぜ!!」

 

黒河の手順には一切の無駄がない。墓地へ送ったリソースすら即座に再利用し、手札を減らすことなく盤面を整えていく。

 

「コストで墓地に送ったカードをそのままコストに……!」

 

良平は相手の循環戦術に驚嘆の声を漏らした。

 

「フィールドのゾウセイ、セイヴンをリンクマーカーにセット! 召喚条件は、獣戦士族モンスター2体!」

 

二体の戦士が光の粒子となり、上空に開かれたサーキットへと吸い込まれていく。

 

↙︎獣戦士族+↘︎獣戦士族 = LINK2

 

「リンク召喚! いざ駆けよ、炎星仙-ワシンジン!」

 

眩い光の中から、鷲の意匠を纏った仙人が翼を広げて降臨した。

 

炎星仙-ワシンジン

攻:1700 炎 獣戦士族 LINK2 ↙︎↘︎左EXゾーン

 

「リンク素材となったセイヴンは墓地に送られた場合、デッキから炎舞をセットできる!」

 

黒河の指先が動き、デッキから一枚のカードが伏せられる。

 

「今セットしたカードを発動! 炎舞-天枢!」

 

《炎舞-天枢》

永続魔法

 

「さらにワシンジンの効果発動! フィールド・墓地の炎舞カードを手札に戻すことで、デッキから炎星を墓地に落とす! フィールドの天枢を手札に戻し、デッキから立炎星-トウケイを墓地に送るぜ!」

 

鷲の仙人が杖を振るうと、発動したばかりの永続魔法が黒河の手元へ戻り、代わりにデッキから新たな戦士が墓地へと送られる。

 

「そして再び天枢を発動!」

 

手札に戻ったカードが、再び盤面へと繰り出された。

 

《炎舞-天枢》

永続魔法

 

「手札のリシュンマオは、炎舞が発動した時、特殊召喚できる!」

 

炎の揺らめきに応じ、優雅な装束に身を包んだ戦士が舞い降りる。

 

寿炎星-リシュンマオ

攻:2100 炎 獣戦士族 星5

 

「その後、墓地の炎星モンスターを特殊召喚する! 立炎星-トウケイを特殊召喚!」

 

リシュンマオの呼び声に応え、先ほど墓地へ送られた鶏の意匠を持つ戦士が蘇った。

 

立炎星-トウケイ

攻:1500 炎 獣戦士族 星3

 

「トウケイは、炎星の効果で特殊召喚された時、デッキから炎星モンスターをサーチできる! この効果で、巧炎星-エランセイを手札に加えるぜ!」

 

黒河は流れるようなコンボで盤面を埋め尽くし、さらに後続の戦力を確保して良平を見下ろした。

 

 

[チームHERO側ベンチ]

 

スタジアムの喧騒は一向に衰える気配を見せず、フィールド上では黒河による怒涛の展開が続いていた。チームHEROのベンチもまた、固唾を飲んでその攻防を見守っている。

 

「あの黒河ってやつ、かなり堅実な戦い方するわね……」

 

亜美は腕を組み相手のプレイングに目を細めた。

派手な言動や狂気的な振る舞いとは裏腹にその戦術は極めて理にかなっており隙がない。

 

「……カードプレイングに無駄が少ない……」

 

恵は流れるようなコンボの構築手順を瞬時に解析し淡々とした口調で評価を下した。

 

「ていうか、なんか性格違くねぇか?」

 

ここのせは首を傾げ、拭いきれない違和感を口にした。

彼の記憶にある黒河という男の像と今フィールドで獰猛に吠えている男の姿がどうしてもうまく重ならない。

 

「性格なんか知らないわよ。アタシ会ったことないし」

 

亜美は視線をフィールドから外さずに素っ気なく返した。

彼女にとっては目の前の敵がどれほどの脅威であるかが全てであり、普段の人格など些末な問題でしかなかった。

 

「いや前にとっ捕まえた時はもっとオドオドした奴だったんだけどな……」

 

ここのせは眉間に皺を寄せかつての記憶を反芻した。あの時、恐怖に震え縮こまっていた小男と眼下で良平を追い詰めようとする決闘者が同一人物だとは、にわかには信じ難い変貌ぶりだった。

 

[デュエルフィールド]

「……」

 

良平は油断なく身構え、次々と展開される相手の盤面を凝視した。

 

「炎舞-天枢がフィールドに存在する限り、通常召喚に加えてもう一度獣戦士を召喚できるんだぜ! 微炎星-リュウシシンを召喚!」

 

黒河が宣言と共にカードを叩きつけると、フィールドに新たな炎が巻き起こった。猛き龍の鎧を纏った戦士が、熱気を孕んだ呼気を吐き出して姿を現す。

 

微炎星-リュウシシン

攻:1800 炎 獣戦士族 星4

 

「トウケイの効果発動! フィールドの表側の炎舞を墓地に送ることでデッキから、炎舞カードをセットする!」

 

鶏の意匠を持つ戦士が、フィールドに漂う赤い星の紋章を力の源として取り込もうとする。

 

「コストにも要求されるのか。どんどん炎舞を切り替えていく戦術、か……?」

 

良平は相手のリソース管理を分析し、その循環性を危惧した。

 

「それはどうかな!」

 

黒河は不敵な笑みを浮かべ、良平の予想を真っ向から否定した。

 

「!?」

 

「ワシンジンがフィールドに存在する限り! おれの炎星、炎舞を墓地に送るコストを踏み倒すことができるのさ!」

 

「なっ!?」

 

良平が驚愕に目を見開く中、上空に浮かぶ鷲の仙人が悠然と羽団扇を振るった。

 

「ほっほっほっ!」

 

巻き起こった風が舞い散る火の粉をかき消し、支払われるはずだった代償を帳消しにする。

 

「これにより、デッキから炎舞-「洞明」をセット!! それをそのまま発動!!」

 

黒河の手元に新たなカードが現れ、即座に発動されると、青白い炎の星図がフィールドに刻まれた。

 

《炎舞-「洞明」》

永続魔法

 

「この瞬間、フィールドのリュウシシンの効果が発動する!」

 

chain1 炎舞-「洞明」

 

chain2 微炎星-リュウシシン

 

「リュウシシンは、炎舞が発動した場合、デッキから炎舞罠カードをセットする! 極炎舞-「辰斗」をセットだ!」

 

黒河の指先がデッキからカードを引き抜き、素早い動作で魔法罠ゾーンへと伏せた。

 

「妨害札を直接引っ張ってこれるのか……!」

 

良平は展開の最中に防御手段まで確保する相手の動きに舌を巻いた。

 

「驚くのはまだ早いぜ! 炎舞-「洞明」は発動時の効果処理として、儀式召喚できる!」

 

「!!」

 

「フィールドのトウケイとリシュンマオをリリース!」

 

黒河の命令と共に二体の戦士が赤熱する光の粒子となって虚空へと溶けていく。

 

†星5+星3†=星6

 

「――十面埋伏、姿を惑わしこの世の影を模倣する! 契約者の名において命ず! 敵を蹂躙しろ!」

 

詠唱と共に炎の渦が巻き起こり、スタジアムの温度が一気に上昇した。

 

「儀式召喚! 巧炎星-エランセイ!!」

 

「ははっ!」

 

炎の中から、水牛の如き頑強な鎧に身を包んだ武人が、大地を踏み砕かんばかりの勢いで着地した。

 

巧炎星-エランセイ

攻:2400→2500 炎 獣戦士族 星6

 

『連続召喚からの儀式召喚!! 目まぐるしい展開はまさに炎の舞だァァ!!』

 

実況の絶叫に呼応し、観客席からはどよめきと喝采が爆発する。

 

「まだまだいくぜ!! リュウシシンの効果発動! フィールドの炎舞を2枚墓地に送ることで墓地の炎星を復活させる! だが、当然、ワシンジンの効果で踏み倒させてもらう!」

 

仙人が再び高らかに笑い、龍の戦士が咆哮する。本来ならば失われるはずの布陣はそのままに、墓地の門が開かれた。

 

「戻ってこい! 立炎星-トウケイ!」

 

立炎星-トウケイ

守:100 炎 獣戦士族 星

 

炎の揺らめきの中から、先ほど素材となったはずの戦士が舞い戻る。

 

「トウケイの効果を再び発動! デッキから炎舞-「天権」をセット!」

 

黒河は一切の手加減なくデッキを回し、さらなる一枚をフィールドに伏せた。

 

「おれはこれでターンを終了する! さぁ、お前のターンだ!」

 

完璧とも言える布陣を敷き終えた黒河は、獲物を追い詰めた猛獣の眼差しで良平を指差した。

 

ーエンドフェイズー

 

黒河唯人

LP4000

手札:1

魔罠:

伏せカード2

炎舞-「洞明」

炎舞-「天枢」

 

フィールド:

炎星仙-ワシンジン(左EXゾーン)

攻:1700→1800

 

微炎星-リュウシシン

攻:1800→1900

 

立炎星-トウケイ

守:100

 

巧炎星-エランセイ

攻:2400→2500

 

「……」

 

良平は無言のまま盤面を凝視した。 張り巡らされた妨害の網と、圧倒的な攻撃力を誇る布陣。

 

(なんてこった、1妨害を乗り越えた上でこんなに展開された……!オベリスクブルーはやはり伊達じゃないぞ)

 

冷や汗が背中を伝う。

 

(だけど……)

 

ここで立ち止まるわけにはいかない。

良平はデッキの頂に指をかけた。

 

ードローフェイズー

 

「俺のターン!!」

 

気合と共にカードをドローする。

 

(弱気になってる場合じゃないんだ! 必ずまくってやる!)

 

手札を確認した良平の脳内で、反撃の道筋が瞬時に組み上げられていく。

 

ースタンバイフェイズ→メインフェイズー

 

(妨害は2つ。モンスター効果を1回、魔法罠を1回ずつ止められる……。だったら……!)

 

良平は手札から一枚のカードを選び取り、勢いよくディスクに叩きつけた。

 

「幻獣機ライテンを召喚!」

 

フィールドに電子音が鳴り響き、レシプロ戦闘機が滑走路を駆けるように現れた。

 

幻獣機ライテン

攻:1500 風 機械族 星4

 

「ライテンは手札を切ってフィールドに幻獣機トークンを呼び出すことができる。この効果を使ったあと、幻獣機しか素材にできない制約がつくけど、ターンの回数制限はないよ」

 

「止めるだけ無駄ってわけか。いいだろう、好きにしな!」

 

黒河は余裕の笑みを崩さず、腕を広げて受けて立つ構えを見せた。

 

「なら、手札を1枚墓地に送って効果発動! フィールドに幻獣機トークンを特殊召喚する!」

 

良平が手札を墓地へ送ると、ライテンの装甲が展開し、小型の機影が射出された。

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

幻獣機ライテン

星4→7

 

「今、墓地に送った天威龍-ヴィシュダを除外して効果発動! フィールドに効果モンスター以外のカードがあるとき、フィールドのカードをバウンスできる!」

 

「効果モンスター以外……?」

 

黒河の眉がピクリと動いた。

 

「幻獣機トークンか……! くっ、エランセイの効果発動! その効果を無効にする!」

 

黒河の命令を受けエランセイが弓の弦を引く。

墓地から現れた半透明の天威龍が敵陣へ突撃しようとするが、エランセイの一撃がその霊体を粉砕する。

 

「これで1つ……! さらにライテンの効果発動!」

 

良平は攻撃の手を緩めない。間髪入れずに次の手札を墓地へと送る。

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

幻獣機ライテン

星7→10

 

「今手札から墓地に送った幻獣機オライオンは墓地に送られた時、フィールドに幻獣機トークンを出す! 頼む、オライオン!」

 

墓地へ送られたオライオンの残響データが光となり、新たな機影を形成する。

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

ライテンの効果による機体と合わせ、フィールドには三機の幻獣機トークンが並び立った。

 

「3体の幻獣機トークンをリンクマーカーにセット! 召喚条件は機械族モンスター2体以上!」

 

良平が右手を掲げると、三つの機影が青白い光の奔流となって空へと昇る。

 

←機械族+↓機械族+↘︎機械族=LINK3

 

「――煌めけ! 極光の翼!」

 

光の渦の中に巨大な滑走路へのゲートが開かれた。

 

「回せ! リンク召喚! 幻獣機アウローラドン!!」

 

まばゆい光と共に、巨大な翼を持つ空中要塞がフィールドのEXゾーンに降臨する。ジェットエンジンの爆音がスタジアムの空気を激しく震わせた。

 

幻獣機アウローラドン

攻:2100 風 機械族 LINK3 ←↓↘︎ 右EXゾーン

 

「アウローラドンはリンク召喚成功時、幻獣機トークンを3体呼び出す!」

 

アウローラドンのハッチが開放され、護衛機となる三機のトークンが次々と射出される。

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

「アウローラドンのもう一つの効果を発動! 幻獣機トークン2体をリリースし、デッキから幻獣機を呼び出す! 来てくれ、幻獣機コルトウィング!」

 

巨大な要塞機が二機のトークンを燃料として取り込み、メインカタパルトから新たな機体を発進させた。

 

幻獣機コルトウィング

攻:1600 風 機械族 星4→7

 

「コルトウィングは、特殊召喚された時、他に幻獣機がいれば幻獣機トークンを2体特殊召喚できる!」

 

コルトウィングの着陸と同時に、その支援ポッドからさらに二機のトークンが展開される。

 

良平のフィールドは、瞬く間に機械の軍勢によって埋め尽くされていた。

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

良平フィールド:

幻獣機アウローラドン EXゾーン

幻獣機コルトウィング

幻獣機ライテン

幻獣機トークン

幻獣機トークン

幻獣機トークン

 

 

「……バトルフェイズに移行!」

 

機械の軍勢を従えた良平は、攻撃への号令を高らかに告げた。

 

「ならばそのメインフェイズ終了前、炎舞-「天権」を発動!」

 

黒河が鋭い声で割り込むと同時に、伏せられていたカードが赤熱する光を放って表返った。

 

《炎舞-「天権」》

永続罠

 

「さらに、炎舞が発動したため、リュウシシンの効果が発動!」

 

フィールドに立つ龍の戦士が、展開された陣形に呼応して猛々しい闘気を噴出させる。

 

chain1 炎舞-「天権」

 

chain2 微炎星-リュウシシン

 

「デッキから炎舞罠カード、炎舞-「開陽」をセット!」

 

黒河のデッキから一枚のカードが排出され、彼はそれを淀みない動作で魔法罠ゾーンへと叩きつけた。

 

「さらに天権はフィールドの獣戦士族モンスターを対象とし、その効果を無効にする代わりにメインフェイズ1のみ他のカードの効果を受けない耐性を付与する! 対象は、エランセイ!」

 

発動した永続罠から紅蓮の波動が放たれ、巨漢の戦士エランセイを包み込む。戦士は自らの能力を封じる代償として、あらゆる干渉を拒絶する鉄壁の炎の鎧を身に纏った。

 

「さらに天権が場にある限りフィールドの獣戦士族は300ポイント攻撃力がアップする!」

 

陣形の輝きが増すと共に、フィールドに並ぶ獣戦士たちの筋肉が膨張し、その威圧感が爆発的に跳ね上がる。鷲の仙人が、龍の戦士が、そして炎の鎧を得た巨人が、良平の機械軍団を見下ろすように咆哮した。

 

炎星仙-ワシンジン(左EXゾーン)

攻:1800→2100

 

微炎星-リュウシシン

攻:1900→2200

 

立炎星-トウケイ

守:100

 

巧炎星-エランセイ

攻:2400→2700

 

ーバトルフェイズー

 

「いけ! アウローラドン! 立炎星-トウケイに攻撃!」

 

良平の号令と共に、空を覆う要塞機が火蓋を切った。

 

「FOX2!」

 

機首に備えられた重火器が唸りを上げ、眼下の敵へ向けて弾幕を浴びせる。

 

幻獣機アウローラドン

攻:2100

 

立炎星-トウケイ

守:100

 

「ぐぁっ!?」

 

鶏の戦士は回避行動をとる暇もなく、圧倒的な火力の前に蜂の巣となり、光の粒子となって砕け散った。

 

「よし、メイン2!」

 

敵の戦力を削いだ良平は、攻撃の手を緩めることなく次なるフェイズへと移行する。

ーメインフェイズ2ー

 

「コルトウィングの更なる効果を発動! 幻獣機トークン2体をリリースすることでフィールドのカードを破壊して除外する! 対象はエランセイ!」

 

良平が指差すと、コルトウィングが二機のトークンをエネルギーとして取り込み、その銃口を巨漢の戦士へと向けた。

 

「ッ!」

 

黒河が息を呑む間もなく、放たれた機関砲がエランセイを直撃する。

「天権」による耐性を失っていた武人は断末魔を上げることもできず爆散した。

 

「ぐっ……!」

 

主力モンスターを失い、黒河は苦々しく顔を歪めた。

 

「これにより幻獣機トークンが1体となった! 幻獣機はフィールドの幻獣機トークンのレベル分、レベルが上昇する! よってレベルは7!」

 

幻獣機ライテン

星13→7

 

幻獣機コルトウィング

星13→7

 

「ッくるか!?」

 

黒河は警戒を露わにし、身構えた。

 

「レベルが7となったコルトウィングとライテンでオーバーレイ!」

 

二機の戦闘機が飛翔し、空中で交差して巨大な光の渦となる。

 

☆7×☆7=★7

 

「――飛び立て! 願いを乗せた鉄の翼!」

 

良平は高らかに叫び、虚空に開かれた銀河の門を見上げた。

 

「回せぇ! エクシーズ召喚! こい、幻獣機ドラゴサック!!」

 

渦の中心から、圧倒的な質量を持つ影がセリ出してきた。世界最大級の輸送機を模したその巨躯が翼を広げると、フィールド全体が巨大な影に覆われる。

 

「Mriya takeoff!」

 

幻獣機ドラゴサック

攻:2600 風 機械族 ランク7

 

『来たァァァ!! その姿は正しく世界最大!! 幻獣機のエースモンスター!! 幻獣機ドラゴサックだァァ!!』

 

実況の絶叫に呼応するように、ドラゴサックのジェットエンジンが轟音を響かせ、スタジアムの空気を激しく震わせた。

 

「ドラゴサックの効果発動! 素材を取り除いて幻獣機トークンを2体、特殊召喚する!」

 

機体下部のハッチが開放され、二機の小型機が滑り出るように射出される。

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

幻獣機トークン

守:0 風 機械族 星3

 

「そして、さらにドラゴサックの効果を発動! 幻獣機トークンをリリースして相手フィールドのカードを破壊する! 対象はセットカード!」

 

射出されたばかりのトークンが一機、即座に特攻兵器となって敵陣へ突撃した。

 

黒河の伏せカード――カウンター罠である『極炎舞-「辰斗」』が発動される前に、爆風がそれを捲り上げ、粉々に吹き飛ばす。

 

「くっ!」

 

黒河は防御の要を失い、歯噛みした。

 

『な、なんとォォォ!! 鉄壁に見えた妨害をあっさりと乗り越えたァァァ!! 』

 

予想外の猛攻にスタジアムがどよめき、観客たちの興奮が最高潮に達する。鉄壁と思われた炎星の布陣は、良平の繰り出した空の要塞によって無慈悲に抉じ開けられた。

 

 

[チームHERO側ベンチ]

 

「やったぁ!」

 

ゆきはベンチから身を乗り出し、空を圧する巨大な機体の勇姿に顔を輝かせた。

 

「よし! ……だが、相手の場に随分カードが残ってらぁ」

 

ここのせは拳を握りしめたが、すぐに表情を引き締めて盤面を睨み据えた。突破したとはいえ、敵陣には依然として不気味な輝きを放つカードが鎮座している。

 

「まだまだ油断できないわ! 気ぃ抜くんじゃないわよ、良平!」

 

亜美は手すりに身を預け、スタジアムの熱気に負けじと声を張り上げた。

 

[デュエルフィールド]

 

「……カードを1枚セット」

 

良平は手札の一枚を静かに盤面へと伏せた。

 

「ターンエンド!」

 

攻撃の手を止め、良平は慎重にターンを終えた。

 

ーエンドフェイズー

 

日和田良平

LP:4000

手札:1

伏せ:1

フィールド:

幻獣機アウローラドン(右EXゾーン)

幻獣機ドラゴサック

幻獣機トークン

幻獣機トークン

 

(……妨害をある程度乗り越えたけど盤面を返しきったとは言いがたい。耐えるしかない)

 

盤面には空の要塞ドラゴサックと、その護衛たるトークンたちが並んでいる。しかし、敵の布陣もまた強固だ。良平は気を緩めることなく、次なる猛攻に備えて身構えた。

 

ードローフェイズー

 

「おれのターンだ。カード、ドロー!」

 

黒河は鋭い手つきでカードを引き抜いた。

 

ースタンバイフェイズ→メインフェイズー

 

(……まさかあの盤面からここまでモンスターを除去されるとは。日和田良平、一筋縄じゃいかないな……)

 

黒河は手札を見つめ、瞬時に計算を巡らせる。敵の底力に対する警戒心と、それをねじ伏せるための冷徹な殺意が交錯する。

 

「暗炎星-ユウシを召喚!」

 

宣言と共に、暗殺者のような身軽な動きを見せる炎の獣戦士が現れた。

 

暗炎星-ユウシ

攻:1600→2000 炎 獣戦士族 星4

 

「効果発動! フィールドの炎舞を墓地に送ることでフィールドのモンスター1体を破壊する! 炎舞-「洞明」を墓地に送り、アウローラドンを叩き落とす!」

 

ユウシが虚空の紋章を砕くと、そのエネルギーが刃となって上空のアウローラドンへと襲いかかる。

 

「デヤァァァ!」

巨大な翼をへし折られ、空の要塞が轟音と共に墜落し、爆散した。

 

「ッ……!」

 

良平は顔を顰め、主力の一角が崩れ落ちる様を見届けた。

 

「さらに今墓地に送った炎舞-「洞明」は墓地に送られた場合に墓地の炎星を特殊召喚できる!」

 

破壊の余韻も冷めやらぬうちに、黒河は次なる展開へと手を伸ばす。

 

「ならその効果に対して、手札の増殖するGを捨てて効果を発動! 以降特殊召喚のたびにドローさせてもらうぞ!」

 

良平は即座に手札のカードを墓地へ投げ捨てた。フィールドに無数の黒い影が這い回り、相手の展開を糧としてリソースを回復する構えを見せる。

 

「やるな……。戻ってこい、トウケイ!」

 

黒河は微かに笑みを浮かべ、墓地から鶏の戦士を蘇らせた。

 

立炎星-トウケイ

攻:1500→1900 炎 獣戦士族 星4

 

「……」

 

良平は冷静に一枚ドローし、手札に加えた。

 

「立炎星トウケイの効果を発動! コストを踏み倒し、デッキより、炎舞をセット!」

 

蘇ったトウケイが、再びデッキから新たな戦力を呼び込む。

 

「そして発動! 炎舞-「天璣」!」

 

赤い星の紋章が再び輝きを放つ。

 

《炎舞-天璣》

永続魔法

 

「炎舞が発動したため、リュウシシンの効果が発動する! デッキから炎舞罠カード、極炎舞-「辰斗」をセット!」

 

黒河の指先がデッキを奔り、新たな罠がフィールドに潜伏した。

 

「そして、天璣の発動時の効果処理として、デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター、暗炎星-ユウシをサーチ!」

 

黒河はリソースを絶やすことなく、次々と手札を補充していく。

 

「ワシンジンの効果を発動! フィールドの天璣を手札に戻して、デッキから炎星モンスター、殺炎星-ブルキを墓地に送る!」

 

仙人の術により、発動したばかりのカードが回収され、代わりにデッキから新たな炎星が墓地へと送られる。

 

「……バトル!」

 

ーバトルフェイズー

 

「ワシンジンで、幻獣機トークンに攻撃!」

 

上空から仙人が滑空し、無防備なトークンへと迫る。

 

「カァァッ!」

 

炎星仙-ワシンジン

攻:2400

 

「攻撃宣言時、セットしていた炎舞-「開陽」を発動!」

 

黒河がカードを表返すと、戦士たちの闘気がさらに燃え上がった。

 

《炎舞-「開陽」》

永続罠

 

「開陽が表側で存在する限り、獣戦士族で守備モンスターを攻撃したとき、貫通ダメージを与える!!」

 

「!」

 

良平は目を見開いた。守備表示での時間稼ぎを許さぬ、非情なる一手。

 

『幻獣機の弱点、幻獣機トークンを狙う作戦かァァァ!!? この攻撃が通ればライフを半分削られるぞォオ!?』

 

実況の緊迫した声がスタジアムに響く。

 

「リバースカードオープン! 和睦の使者!」

 

良平は伏せカードを即座に開いた。

 

《和睦の使者》

通常罠

 

「このターン、モンスターは戦闘で破壊されず、戦闘ダメージも発生しない!」

 

穏やかな光の障壁が展開され、仙人の攻撃を優しく受け流す。

 

「……バトルを終了する!」

 

攻め手を封じられた黒河は、不服そうに攻撃を中断した。

 

ーメインフェイズ2ー

 

(攻めきれないか。奇跡のチームの立役者はマグレじゃないようだ)

 

黒河は冷静に状況を見つめ直す。

 

「……」

 

その視線が、良平のフィールドに残る幻獣機ドラゴサックを捉えた。

 

(今、モンスター効果は止められない。手札回復は痛いが、処理するしかないか)

 

決断した黒河は、残る手駒を動かした。

 

「レベル4のユウシとリュウシシンでオーバーレイ!」

 

二体の戦士が重なり合い、新たな光の渦となる。

 

☆4+☆4=★4

 

「――五雷正法。入雲竜の名の下に、仇為す者に裁きを下せ!」

 

「エクシーズ召喚! 間炎星-コウカンショウ!」

 

炎の中から、龍の如き威容を誇る戦士が降臨した。

 

「ウォォオ!!」

 

間炎星-コウカンショウ

守:2200 炎 獣戦士族 ランク4

 

「……あれが切り札の1枚……!」

 

良平はドローしたカードを手札に加えながら、眼前の脅威を見据えた。

 

「間炎星-コウカンショウの効果! 素材を2つ取り除き、おれのフィールド、墓地から炎舞または炎星を2枚、貴様のフィールド、墓地からカード2枚を選択して発動!それらをデッキに戻す!」

 

「デッキバウンス……!!」

 

破壊耐性を持つ幻獣機に対する、最も有効かつ冷酷な除去手段。

 

「対象は、おれの墓地の炎舞-「洞明」とリシュンマオ! そして、貴様のフィールドのドラゴサック、墓地のオライオン!」

 

間炎星-コウカンショウが指し示した先から、炎の渦が発生する。

ドラゴサックが抵抗する間もなく渦に飲み込まれ、EXデッキへと強制送還されていく。

 

「ぐっ……」

 

良平は唇を噛み、自らのエースが盤面から消え去るのを見送った。

 

『な、なんと!! こちらも硬い守りを誇っていた幻獣機のエースモンスターをあっさりと除去してしまった!! ゲームはまさにシーソー!! フィールドは限界まで切り詰められているゥゥゥゥ!!!』

 

一進一退の攻防に、観客のボルテージは沸点を超えていた。

 

[スタジアム 選手入口]

 

「wow! 相変わらずのデュエルネ!」

 

美優は感嘆の声を漏らし目の前の激戦を見つめた。

 

「……」

 

麗華は無言のまま、冷徹な視線で盤面の推移を追っている。

 

「チッ……」

 

唯信は舌打ちし、面白くなさそうに顔を背けた。

 

「流石、デュエルキングの再来と言われた人だよね。派手さはないけど、的確……」

 

ツァンは黒河のプレイングに、かつての王者の面影を重ねていた。

 

「うふ、チームHEROのエースくんはどう感じてるのかしらぁ」

 

雪乃は扇で口元を隠し、良平の心中を推し量るように目を細めた。

 

[デュエルフィールド]

 

「……フッ」

 

黒河は小さな笑みを浮かべ、盤面を支配した充足感に浸っていた。

 

(冷静で堅実なプレイング……。この人はーーーー強い……!!)

 

フィールドを埋め尽くす敵のカードを前に、良平は心臓と脳に熱く煮えた血が巡るのを感じた。

周りの音が消えていき、代わりに己の心音が鼓膜を揺らす。

その音だけが自分が立っている場所を照らしていた。




ここから長期にわたってデュエルシーンが始まります。
ミスがあったら教えてください!
直せたら直します(無理だったらすみません)

▼次回予告
第43話 『WSC準決勝 静かなる激戦』
デュエルスタンバイ
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