遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~   作:レトやま

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第46話 「WSC準決勝 燃え上がる煉獄の炎」

 

[ネオ童実野シティ メモリアルスタジアム]

 

寺仔リオ

LP:1900

手札3

魔法罠:

炎舞-「隠元」

炎舞-「天枢」

伏せカード

伏せカード

伏せカード

 

フィールド:

クラリアの蟲惑魔(右EXゾーン)

No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ

アロメルスの蟲惑魔

森羅の守神アルセイ

ティオの蟲惑魔

 

『大量のモンスターを展開し、さらに3枚ものセットカード!! 流石はデュエルアカデミア、オベリスクブルーだァァァ!! 』

 

実況の張り裂けんばかりの絶叫がマイクを通して響き渡り、それに呼応するように観客席から地鳴りのような大歓声が巻き起こる。スタジアムの熱気は最高潮に達していた。

 

『一方でチームHERO祭乃木亜美はフィールドにエアーマンが1体のみ!! ここから立て直せるかァァァ!!?』

 

リオは五体の凶悪なモンスターと三枚の伏せカードという絶対的な城塞を背に、獲物をいたぶる捕食者のごとき狂気的な高笑いを上げる。

 

「罠にはまってから命乞いしたって遅いかんね? ……あんたの命、絡め取ってあげるよ!! きゃはははっ!!」

 

「……はっ! 笑わせんじゃないわよ! そんなもんへでもないってーの!!」

 

亜美は血の滲む腕を押さえながらも、真っ向からリオを睨み返した。

 

「あぁ? 強がってんなよ! あんたのモンスター全部、地獄に叩き落としてやるから!!」

 

「上等よ! アンタの罠なんか全部、マルッと踏み抜いて、一発お見舞いしてやるんだから!」

 

「……っじムカつく……!! やってみろよぉ!!」

 

 

ードローフェイズー

 

「アタシのターン!! ドロー!」

 

鋭い風切り音と共に、亜美はデッキトップから希望の一枚を力強く引き抜いた。

手札は6枚から7枚へ。

 

ースタンバイフェイズ→メインフェイズー

 

「エアーマンを召喚!」

 

亜美がカードを盤面に叩きつけると、突風を巻き起こしながら風の英雄がフィールドへ舞い降りた。

 

E・HEROエアーマン

攻:1800 風 戦士族 星4

 

「エアーマンの効果発動! 場に現れたとき、ヒーローをサーチするわ」

 

「勝手にしたら」

 

リオは鼻で笑い、つまらなそうに視線を逸らす。

 

「E・HEROリキッドマンを手札に加えるわよ!」

 

亜美はデッキからカードを素早く抜き取り、手札へと加える。

 

「さらに手札からENシャッフルを発動!」

 

魔法カードが実体化し、電子音と共に光のゲートがフィールドに開かれた。

 

《ENシャッフル》

通常魔法

 

「ENシャッフルは、場のE・HEROかネオスペーシアン1体をデッキに戻すことで、デッキから同名以外のE・HEROかネオスペーシアンを特殊召喚できるわ! エアーマンをデッキに戻して、ブレイズマンを特殊召喚!」

 

風の英雄が光の粒子となってデッキへと帰還し、代わって灼熱の炎を纏った英雄がゲートから勢いよく飛び出してきた。

 

E・HEROブレイズマン

攻:1200 炎 戦士族 星4

 

「ブレイズマンは場に現れた時、融合をサーチできる!」

 

亜美はデッキから勝利への鍵となる魔法カードを引き抜く。

 

「ふーん」

 

「そのまま融合を発動!」

 

亜美は淀みない動作で、手札に加えたばかりの魔法カードを天高く掲げた。

 

《融合》

通常魔法

 

「フィールドのブレイズマンと手札のリキッドマンで融合!!」

 

E・HERO+水属性。

燃え盛る炎と渦巻く水流が、融合の魔力によって空中で激しく衝突し、互いの性質を溶け合わせていく。相反する二つの属性が一つになり、新たな力へと昇華される。

 

「融合召喚! 再び現れろ! E・HEROアブソルートZERO!!」

 

絶対零度の吹雪を纏い、純白の装甲に身を包んだ氷の英雄が、雄叫びと共に再び戦場へと降臨した。

 

E・HEROアブソルートZERO

攻:2500 水 戦士族 星8

 

『おぉっとォオ!! お返しとばかりにさっそく融合召喚!! 氷のヒーローが戻ってきたぞォオ!』

 

MCが声を張り上げる。

しかしフィールドは一切止まることはない。

 

「融合素材になったリキッドマンの効果発動!」

 

「きゃはっ! こっちもトラップ発動だよぉ! 奈落の落とし穴!!」

 

亜美が効果を宣言した瞬間、リオは待っていたとばかりに伏せカードを跳ね上げた。

 

《奈落の落とし穴》

通常罠

 

「召喚、特殊召喚された攻撃力1500以上のモンスターを叩き落とすよ!!」

 

「!?」

 

亜美はわずかに眉を潜めた。

 

(ここで使うの……?)

 

亜美の脳裏に一瞬の疑問がよぎる。アブソルートZEROはフィールドを離れた時に相手モンスターを全滅させる効果を持っている。それを知っているはずのリオが、あえてここで除去罠を撃ってきた意図。

凄まじい轟音と共に、アブソルートZEROの足元の大地が底無しに陥没した。

 

「ウワァァァッ!!?」

 

這い出てきた無数の凶悪な触手が氷の英雄に絡みつき、断末魔の叫びと共に奈落の底へと引きずり込んでいく。ガラスが砕け散るような音を残し、英雄は無残に破壊され、異次元へと追放された。

 

「あはっ! クラリアちゃんがいる限り、落とし穴、ホール罠カードは発動した後、またセットできちゃうの!」

 

クラリアの蟲惑魔が妖艶に微笑むと、今しがた発動したはずの罠カードが再び音もなくフィールドに伏せ直された。底知れぬ蟲惑魔の巣窟は、決して罠を絶やさない。

 

「リキッドマンの効果処理で、2枚ドローして1枚捨てるわ!」

 

亜美はカードを二枚引き抜き、不要な一枚を墓地へと送る。そして、相手の盤面を睨み据えた。

 

「さらにアブソルートZEROの効果発動!フィールドを離れた時、アンタのフィールドのモンスターを一掃するわ!」

 

絶対零度の爆発が、異次元の彼方からリオの盤面へと迫る。

 

「きゃははっ、かかったぁ! トラップ発動ぉ!!」

 

しかし、リオの狂気に満ちた笑い声がそれを遮った。彼女の最後の一枚の伏せカードが、不吉な光を放って表返る。

 

《墓穴ホール》

通常罠

 

「こいつは、相手が手札、墓地、除外ゾーンで発動した効果を無効にして、さらに2000ポイントダメージを与える!!」

 

 

「なんですって!?」

 

「あはっ!! アンタをぶっ殺せば、ウチらの勝ち!! きゃはははっ!!」

 

スタジアムの人工芝を、重い何かを引き摺るような不気味な音が這う。

アブソルートZEROの足元があった空間に、突如として泥濘のような黒く丸い影が広がった。その底なしの闇の中から、腐り切った死者の腕が無数に伸びてくる。

土塊と血肉に塗れたそれらは、アブソルートZEROの純白の装甲を瞬く間に雁字搦めにし、強引に闇の中へと引きずり込んでいく。

 

バキバキと、太い木を何度もへし折るような、おぞましくも生々しい音がスタジアムに響き渡った。

 

「……ッ!?」

 

亜美が息を呑んだ次の瞬間。

そのおぞましい影が、音もなく亜美自身の足元にも広がっていた。

 

這い出してきた無数の緑色に変色した死者の腕が、亜美の細い足首に、腕に、そして首筋に、無遠慮に絡みついてくる。ひんやりとした腐臭を伴う感触が、直接肌に伝わった。

 

「ゥウぅぅ……ッぁぁあ……!!」

 

とてつもない握力で全身を締め付けられ、亜美の肺から空気が強制的に押し出される。

呼吸もままならず、ソリッドビジョンであるはずの攻撃が、明確な物理的苦痛となって彼女の全身の骨を軋ませた。

 

「かはっ……!!」

 

スタジアムを埋め尽くす観客たちが、異様な光景に騒然となり始める。ざわめきは恐怖の波となって広がっていった。

 

『……こ、これは……? ソリッドビジョンのはずだが……?』

 

実況の声も、マイクを通して震えを隠しきれなくなっている。目の前で起きている惨状は、明らかにデュエルのホログラム演出の域を逸脱していた。

 

「きゃはっ、死ね死ね、死ね!!」

 

リオは苦悶する亜美の姿を特等席で見下ろし、腹を抱えて狂喜の声を上げる。

 

「ぅぅぅッ……!!」

 

死者の腕はさらに強く亜美を締め上げ、彼女の身体を暗い影の底へと少しずつ、だが確実に引きずり込んでいった。

 

 

[チームHERO側ベンチ]

 

「ちくしょう、祭乃木ィィ!!」

 

ここのせがベンチを蹴り飛ばし、フィールドへ飛び出そうと全力で駆け出す。

 

「待ってくださいここのせさん! あれ……!」

 

ゆきはここのせの腕を掴み、フィールドの中央を指差した。

 

 

[デュエルフィールド]

 

「死ね、死ね!!」

 

リオの狂気に満ちた声がスタジアムに響く。

亜美の全身を、死者の腕が容赦なく締め上げる。

 

(冷たい……!痛い……! 怖い……! どうして……こんなに黒い感情が纏わりついてくるの……!! これが……あいつの悪意なの……!?)

 

ずずず、と不気味な音を立てて、彼女の身体は影の底へゆっくりと引き摺り込まれていく。

 

「ぅぅうう……ぐぅぅぅ!!」

 

凄まじい力で骨が軋み、意識が遠のく。

 

(負けられない……!! こんなので負けるわけにはいかない!! ヒーローは負けない!!)

 

亜美の鼓動が強く打つ。

 

「クォォォオッ!!」

 

呼応すつようにデッキケースから宝玉の龍が雄叫びを上げた。

亜美の身体が眩い光に包まれ、その背中から巨大な虹色の羽根が現出する。虹色の羽根が大きく広げられた瞬間、強烈な光の波紋と衝撃波がフィールドを駆け抜け、亜美を縛り付けていた黒い影と緑色の腕を跡形もなく弾き飛ばした。

 

「ゲホゲホッ……! ハァッ……ハァッ……!」

 

拘束から解放された亜美は、その場に崩れ落ち、痛烈な嗚咽を漏らしながら足りなくなった酸素をむさぼるように吸い込んだ。背中の羽根はすでに消え去り、ただライフカウンターが減少する無機質な電子音だけが響く。

 

祭乃木亜美

LP:2800→800

 

「なんで……? なんで殺せないんだよ!」

 

絶対の死を確信していたリオが、驚愕と焦燥に顔を歪める。

 

「ハァッ……ハァッ……残念だったわね……!」

 

亜美は震える足に力を込め、痛みに耐えながら再び力強く立ち上がった。

 

[チームHERO側ベンチ]

 

「た、助かった、のか……?」

 

良平が信じられないものを見るように呟く。

 

「よかった……」

 

ゆきが安堵の涙を浮かべ、胸を撫で下ろした。

 

「野郎、盤外戦をとってきやがって……!」

 

ここのせがギリッと奥歯を噛み鳴らし、リオを激しく睨みつける。

 

「……軽微な時空震を観測……」

 

恵がフィールドを見つめながらぽつりと言う。

それは熱狂するフィールドと観客席にかき消されて、ただ一人ここのせの顔だけを怪訝にしただけだった。

 

[デュエルフィールド]

 

 

「……くっ」

 

亜美はふらつき、その場に膝をつきそうになるのを必死に堪えた。

 

(何これ……全力でマラソンしたみたいに身体が重い……!)

 

「クソが……! でも、クラリアちゃんの効果で墓穴ホールはそのままセットされるかんね! 次のターンで仕留めてやるから!」

 

リオが憎々しげに叫ぶ。

対する亜美は奥歯を噛み締めて足に力をいれていた。

 

(次のターンまで回したらまずいわ……! まして、あんな奴をゆきに相手させられない……! 気張れ、アタシ!)

 

姿勢を正した亜美はリオを鋭く睨め付ける。

 

「次のターンは……こないわ……! アンタはここで……倒す……!」

 

「はぁ?」

 

「……手札から……融合回収を発動!」

 

《融合回収》

通常魔法

 

亜美は力を振り絞り、魔法カードを盤面に叩きつけた。

 

「墓地から融合と融合素材になったエアーマンを回収するわ……!」

 

光と共に、墓地から二枚のカードが亜美の手札に戻る。

 

「そして融合を発動……!」

 

流れるような動作で、再び魔法カードを発動する。

 

《融合》

通常魔法

 

「手札のエアーマンとオネスティネオスで融合!」

 

E・HERO+風属性

二人の風の英雄が、光の渦の中で激しく溶け合う。

 

「ーー吹き荒れる暴風が悪を滅する刃と化す! 叫べ、嵐の英雄!!」

 

二人の風の英雄が、光の渦の中で激しく溶け合う。

 

「融合召喚!こい、E・HERO Great TORNADO!」

E・HERO Great TORNADO

攻:2800 風 戦士族 星8

 

膠着するは風の戦士。

しかし、リオは手を振り上げて罠カードを発動させる。

 

「無駄なんだよぉ! トラップ発動! 煉獄の落とし穴!!」

 

《煉獄の落とし穴》

 

「攻撃力2000以上のモンスターが特殊召喚されたとき、そいつの効果を無効にして破壊する!!」

 

突如として発生した地の底からの爆発が、現れたばかりのGreat TORNADOを容赦なく吹き飛ばし、粉砕した。

 

「ウォオッ……!?」

 

「きゃははっ! あんたのモンスターは全部罠に落ちた!! あとはあんたを地獄に落とすだけ!」

 

リオの笑い声が響く。

しかし亜美は口角を上げてリオの目を見つめていた。

 

「……言ったはずよ、全部踏み抜いて、その上でアンタに一発叩き込むって!」

 

「はぁ? あんたのそのザコモンスターじゃウチのモンスターは突破できませんけど?」

 

「なら見せてやるわよ、アタシの切り札を! いくわよ、レインボードラゴン、ネオス!」

 

半透明の宝玉の龍と、純白の宇宙の戦士が、亜美の左右に幻影として並び立つ。

 

「クォォォオッ!!!」

 

「シェアッ!」

 

リオは声にならぬ悲鳴をあげて、気圧されたようにタタラを踏んだ。

一切構わず亜美はスロットにカードを差し込んだ。

 

「ネオスフュージョン!!」

 

《ネオスフュージョン》

通常魔法

 

「手札、デッキからネオス融合モンスターの素材を2つ墓地に送ることで、ネオス融合モンスターを特殊召喚する!! ネオスとレインボードラゴンで融合!!」

 

レインボードラゴンとネオスが飛翔する。

虹色の光がやがて柱となり、天空を切り裂くように宇宙まで伸びていく。

 

「ーー今は遠き宙に、虹を架けるは一筋の希望!! 飛べ! 人と精霊との架け橋となりて!!」

 

やがて太陽と誤認するかの如く清光がスタジアム全体を包む。

 

「こい!! レインボーネオス!!」

 

高負荷によりデュエルディスクが一瞬帯電した。

そこからソリッドビジョンすらも貫いて、虹色の羽を纏う戦士が亜美のフィールドに君臨する。

 

レインボーネオス

攻:4500 光 戦士族 星10

 

『で、出たァァァァァッ!!? 伝説のレアカード、レインボードラゴンとE・HEROネオスの融合モンスター!! 虹色の光を纏う、その姿はあまりに圧倒的だァァァ!!』

 

マイクパフォーマンス、歓声、喝采。

いくつもの感情が飛び交うフィールド。

リオは顔を引き攣らせてレインボーネオスを指さす。

 

「そ、そいつ……!! あんたが……!!」

 

廃工場で亜美が変身した姿。

その権化とも言えるモンスター。

亜美は構わず腕を振り抜いた。

 

「レインボーネオスの効果発動!! フィールドのエアーマンをリリースすることで、アンタのフィールドのモンスター全てをデッキに戻す!!」

 

「なっ……!!?」

 

祭乃木の声に呼応するようにレインボーネオスが2振りの虹色の羽を強く羽ばたかせる。

それは強烈な虹色の衝撃波を伴い、相手のモンスターを飲み込んだ。

 

「ッァァァ……!?」

 

あまりの暴風にリオは両腕で顔を庇う。

しかし暴風は止むことはない。

クラリアの蟲惑魔も。

No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロも。

アロメルスの蟲惑魔も。

森羅の守神アルセイも。

ティオの蟲惑魔も。

その如くを飲み込んで収束する。

 

『痛烈!! あまりに痛烈!! フィールドは一瞬にしてレインボーネオスたった一体のみになってしまったァァァ!! その攻撃力は圧巻の4500! 一撃で相手を葬り去ってしまうぞォオッ!!?』

 

顔を上げたリオは焼け野原となったフィールドに青ざめた顔で見つめた。

 

「う、嘘っしょ……!!」

 

「バトル!!」

 

ーバトルフェイズー

 

亜美は容赦なくバトルフェイズに移行する。

対し、リオはモンスターゾーンにもマジックトラップフィールドにも身を守る術はもうなかった。

 

「嘘……負ける……!? あり得ないッ……!! 嫌、嫌ッ!!」

 

ただ頭を振ってリオは叫ぶのみ。

 

「行け!! レインボーネオス! ダイレクトアタック!! オーバー・ザ・レインボー!!」

 

レインボーネオスは両手を腰溜めにエネルギーを集約。

そして両腕をクロスし、虹色の光線を射出した。

横一閃。

閃光がリオを貫いた。

 

「ッァァァァァァァァァッ!!?」

 

寺仔リオ

LP:1900→0

 

浮き上がった身体が宙を舞い、リオは地面に転がった。

 

『決まったァァァァァッ!! セカンドプレイヤー同士の戦いは、チームHERO、祭乃木亜美が制したぞォオォオ!!』

 

 

「っしゃ! どうよ!」

 

亜美が拳を天に突き上げる。スタジアム上空の巨大モニターが「WINNER」の文字を乱舞させていた。

 

「ゥウ……」

 

リオが獣のように唸る。

 

「……?」

 

「グゥゥウッ、ムカつくムカつくムカつく!! お前ぇぇぇぇぇッ!!!」

 

リオが激昂する。周囲のソリッドビジョン投影機がエラー音を鳴らし、赤い警告灯を点滅させた。

 

「アンタのデュエルは終わったわ! とっととスッコミなさい!!」

 

「殺す!! 絶対殺す!!」

 

血走った瞳が亜美を射抜く。

 

「ッ!」

 

思わず2,3歩後ずさる。

 

(血走った目、刺すような殺気……。本当に同じ高校生なの……!?)

 

亜美は息を呑んだ。

 

「リオちゃん、ダメよ!」

 

白衣の女性がフィールドに駆け込む。スタジアムの人工芝を蹴立て、リオの背後に回り込んだ。そのまま細い身体を強く羽交い締めにする。

 

「ゥウ、離せよぉ!!」

 

「落ち着いてリオちゃん」

 

女性は暴れるリオをきつく抱きしめた。

 

「うぅ!」

 

リオは必死に腕を振って抗う。スタジアムの観客席から、困惑のざわめきが波のように広がっていった。

 

[チームHERO側ベンチ]

 

「あぁ? あのおばちゃん、どっかで……」

 

ここのせが目を細める。ベンチの冷たい金属製の手すりに身を乗り出した。

 

「……データを検出。鮎川美代子の身体情報と合致する……」

 

恵が淡々と告げる。彼女の網膜に映るARデバイスに、緑色のデータ群が滝のように流れていた。

 

「あゆかわ、みよこさん……? お知り合いなんですか?」

 

ゆきがここのせを見ながら首を傾げる。

頭上のモニターには、揉み合う二人の姿が大写しになっている。

ここのせは苦笑いで恵を見やる。

 

「だ、誰だっけ?」

 

「……童実野医大病院でここのせの治療を行なっている……」

 

「あぁ! あの手当が荒ぇおばちゃんか! 美代ちゃんとか言ってたな!」

 

ここのせがポンと手を叩いた。

 

「で、でもどうしてそんな人が……?」

 

ゆきが不安げにフィールドを見つめる。

 

「……」

 

良平は無言だった。ネオ童実野シティの乾いた風が、彼の髪を揺らしていく。

 

[デュエルフィールド]

 

「大丈夫。大丈夫よ」

 

美代子は白衣のポケットから小型のレコーダーを取り出した。スイッチを入れる。

 

――――ボォォオッ。

 

(何か音が……。船の汽笛……?)

 

亜美は怪訝な顔をした。

重厚な船の汽笛のような音がレコーダーからかすかに聞こえた。

 

「あっ……」

 

その音を聞いた瞬間、リオの身体からふっと力が抜けた。糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。

 

「ごめんね……」

 

美代子は意識を失ったリオを優しく抱きとめた。

 

「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの?」

 

亜美が慌てて声をかける。

 

「貴女、この子を気遣ってくれるの?」

 

美代子が穏やかに問い返した。

 

「だって急に倒れちゃうなんて……」

 

「優しいのね。……貴女も巻き込んでしまってごめんなさい」

 

「……え?」

 

亜美は言葉の意味がわからず立ち尽くす。足元のホログラムユニットが、待機状態の青い光を明滅させていた。

 

「おい、いつまで待たせんだ。さっさと残ったカード寄越せ」

 

阿久津が足音を荒立てて歩いてくる。腕のデュエルディスクをガシャンと展開し、苛立たしげに手を突き出した。ディスクの駆動音が鋭く鳴る。

 

「あらあらごめんなさいねぇ。おばちゃん、これ外し方よくわかんないのよぉ」

 

「使えねぇ」

 

阿久津はリオの腕から、乱暴にカードをむしり取った。

 

「よっこらせ」

 

美代子はリオの身体を抱え上げる。

 

「あー、重いわ……」

 

彼女はふらつく足取りでベンチへと戻っていく。

スタジアムの巨大モニターは、次のデュエリストの顔を映し出す準備を始めていた。観客たちざわめきが、渦を巻くように響き続けている。

 

阿久津剛。

悪意をそのまま顔に張り付けたような顔。

見下すような視線を投げてきた。

しかしその袖には確かに青い制服が通っている。

 

「答えなさい。アンタもあの子と同じなの?」

 

「知らねェ。力は力だ。種類なんてどうでもいいだろうがよォ。俺はこの力で全てを潰し、全てを手にいれる!」

 

阿久津が野太い声で吼える。

 

「あっそ。アンタがどんな野望を抱えていようが知ったこっちゃないけど、アンタ達が頂点に立つことはないわ。アンタは、アタシ達が倒す」

 

「テメェ……。祭乃木亜美、やはりテメェは目障りだァ」

 

阿久津の瞳の奥で、どす黒い炎が揺らめいた。

 

『さぁぁぁ!! チーム煉獄はラストプレイヤーまでバトンが回った!! ラストプレイヤーは、オベリスクブルー3年の主席!! 阿久津剛! 巻き返しなるかァァァ!!?』

 

『デュエルは、チームHERO祭乃木亜美のメインフェイズ2から再開だァァァ!!』

 

ーメインフェイズ2ー

 

「カードを3枚セット!」

 

亜美は魔法・罠ゾーンにカードを伏せる。

 

「ターンエンド!! さあ、かかってきなさい!!」

 

ーエンドフェイズー

 

祭乃木亜美

手札2

伏せ3

フィールド:

レインボーネオス

 

[チームHERO側ベンチ]

 

 

「……阿久津剛。インフェルノイドの使い手。どう出てくる……」

 

良平が額の汗を拭いながら呟く。

 

「祭乃木のライフを考えるとあんまり悠長にできねぇぜ」

 

ここのせが手すりを強く握る。

 

「……相手のフィールドには、寺仔リオが残したトラップカードが3枚ある。内1枚はバーン効果を持つ墓穴ホール。発動を許せばその瞬間祭乃木亜美の敗北となる……」

 

恵が網膜のデータを読み上げ、無機質な声で絶望的な状況を告げた。

 

「……うぅ」

 

ゆきが不安に顔を歪める。

 

「だけど、こっちにとっても有利な状況でもあるよ。バックには、その3枚と意味なく発動し続けている炎舞が2枚で場が埋まってる。手札に発動したい魔法カードがあっても場をどけないと使えない」

 

良平は冷静に盤面を分析した。

 

「チーム煉獄、一人一人はオベリスクブルーに恥ねぇ実力があるが、チームワークはないみてぇだな」

 

ここのせが鼻で笑う。

 

「私もチームワークが芽生えたらなぁって思ってるんだけどねぇ」

 

突如、背後から声が響いた。

 

「!?」

 

全員が弾かれたように振り返る。

 

「あら、ビックリさせちゃった? おほほ、ごめんなさいね」

 

そこには、先ほどリオを抱え上げて去っていった白衣の女性――鮎川美代子が立っていた。

 

「あ、さ、さっきの……」

 

「あ、あんたは……」

 

「あらアナタ、足の怪我の子じゃない! チームHEROの子だったのねぇ! その後足はどう?」

 

美代子がここのせを見て微笑む。

 

「おかげさんで、だいぶ治ったっす」

 

「そぉ、よかった。おばちゃん安心したわぁ。って、それよりも……」

 

美代子は良平の方へと向き直った。

 

「……?」

 

「日和田くん、アナタを診にきたのよ。さっき派手に吹っ飛んでたでしょう? 頭とか打ってないか心配だったのよぉ」

 

「は、はぁ……?」

 

良平が目を白黒させる。

 

「本当は早くきてあげたかったんだけど、ちょっと手が離せなくてねぇ。そこ座ってもらえる?」

 

「は、はい」

 

良平は言われるがままベンチに腰を下ろした。

 

「丁寧に絆創膏が貼ってあるわねぇ」

 

「……外傷に関しては処置が完了している……」

 

恵が冷たく応じる。

 

「アナタがやったの? あ、そういえばアナタ、あっちの子の怪我のときも綺麗な応急処置してた子よねぇ。看護の勉強でもしてるの?」

 

「……元から応急処置プログラムをインストールしている……」

 

「インストール……? あはは、今の若い子は難しい言葉を使うのねぇ」

 

美代子がおっとりと笑う。

 

『さぁぁ、チーム煉獄ラストプレイヤー阿久津剛はどう動いていくのかァァァ!!?』

 

「あー、試合中にごめんなさいね。他の子達は試合見てなさい。おばちゃんが軽く診察しといてあげるから」

 

「は、はい! ありがとうございますぅ!」

 

ゆきが深々と頭を下げた。

 

[デュエルフィールド]

 

 

ードローフェイズー

 

「俺のターン!」

 

阿久津が力任せにカードを引き抜く。

 

ースタンバイフェイズ→メインフェイズー

 

「来い、インフェルノイド・デカトロン」

 

炎を纏った悪魔が這い出てくる。

 

インフェルノイド・デカトロン

攻:500 炎 悪魔族 星1 チューナー

 

「こいつは場に出た時、デッキからインフェルノイドを墓地に送る。そしてそいつの名とレベルと効果を奪い取る! インフェルノイド・ベルゼブルの存在を喰え!!」

 

デカトロンの口が異常なほど大きく裂け、虚空から引きずり出した悪魔の魂を貪り食う。

 

インフェルノイド・ベルゼブル(デカトロン)

星1→3

 

「さらに墓地のベルゼブルを除外し、インフェルノイド・アスタロスを特殊召喚!」

 

再び炎が燃え上がり、新たな悪魔が姿を現す。

 

インフェルノイド・アスタロス

攻:1800 炎 悪魔族 星4

 

「アスタロスの効果発動ォ!! 攻撃を放棄することで、フィールドのマジックトラップを破壊する!! 邪魔なクソカードを破壊だ!!」

 

アスタロスが炎を放ち、リオが残していた『炎舞-「隠元」』を粉々に打ち砕いた。

 

(これでマジックカードが使えるようになった……)

 

亜美の顔が険しくなる。

 

「祭乃木亜美ィ、テメェを煉獄ニ叩き落としテやる! 手札より煉獄の虚夢を発動ォ!」

 

阿久津の声が濁る。

魔法カードがスロットに差し込まれ、黒い瘴気が噴き出した。

 

《煉獄の虚夢》

永続魔法

 

「発動したこいつヲ墓地ニ送ることでインフェルノイドの融合を行う!! さらにテメェのフィールドにエクストラから特殊召喚されたモンスターがいるときは、デッキのモンスターを6体まで融合素材にできる!!」

 

「6体……!?」

 

「クハハハハハハッ!! デッキよりネヘモス、リリス、アドラメルク、ヴァエル、ベルフェゴル、アシュメダイを墓地に送り、融合ォオ!!」

 

インフェルノイド・ネヘモス+インフェルノイド・リリス+インフェルノイド×4

六体の巨大な悪魔たちのシルエットが、灼熱の渦の中へと吸い込まれていく。

 

「――根源の闇より破壊を司る古の神!! 全ての生命に深き絶望を与えろ!!」

 

天が割れ、地が裂ける。

 

「来い、インフェルノイド・ティエラ!!」

 

 

インフェルノイド・ティエラ

攻:3400 炎 悪魔族 星11

 

「ギュォォオォオォオォオォオォオォオッ!!!」

 

次元を歪めるほどの圧倒的な質量を持った巨神が、地獄の業火と共に降臨した。

空気がビリビリと震え、スタジアムの温度が急激に上昇する。

 

「うっ……!」

 

亜美が息苦しさに胸を押さえた。

 

「フゥンッ!!」

 

レインボーネオスが巨大な虹色の翼を広げ、主を熱風から庇う。

 

「くっ……! なんて重苦しい圧力なの……!?」

 

 

[チームHERO側ベンチ]

 

 

「……時空震源となりうる熱量を観測……!」

 

恵が静かに、しかし強く叫ぶ。

 

「うっ……! なんだか……お、重いです……!」

 

ゆきがベンチの手すりにすがりついた。

 

「……ッ!」

 

ここのせの腰のデッキケースが、突如として眩い光を放ち始めた。

 

「……これは……!」

 

中から一枚の真っ白なカードが浮かび上がる。

星遺物-星杯のカードである。

 

「ぐっ……このビリビリする感じ……! 創星の力が……警戒してるのか……?」

 

ここのせは額に汗を浮かべ、光るカードをきつく握りしめた。

 

[デュエルフィールド]

 

『現れたのは禍々しい巨大なモンスターだァァァ!! インフェルノイドの切り札が降臨したぞォオォオッ!!」

 

MCのマイクパフォーマンス。

しかしフィールドはあまりの重圧に外部の熱は一切届かない。

 

「インフェルノイド・ティエラは、素材にしたモンスターの数だけ効果を得る。俺様が融合素材にした数は6。よって、お互いのエクストラとデッキトップから3枚を墓地に送る」

 

阿久津は自身のデッキから三枚のカードを無造作に墓地へ叩き込む。

 

「……」

 

亜美もまた、エクストラデッキから三枚のカードを墓地へ送った。

 

「エクストラから墓地に送った3枚の旧神ヌトスの効果発動ォオ!! こいつが墓地に送られた時、フィールドのカードを破壊する! テメェのフィールドのカード3枚を破壊だァァァ!!」

 

阿久津の墓地から、異形の神々の怨念が亜美の伏せカードへ向けて放たれる。

 

「やらせない! リバースカード! 速攻魔法、墓穴の指名者!!」

 

亜美は間一髪でカードを開いた。

 

《墓穴の指名者》

速攻魔法

 

chain1 旧神ヌトス

 

chain2 旧神ヌトス

 

chain3 旧神ヌトス

 

chain4 墓穴の指名者

 

「アンタの墓地のカード1枚を除外して、そのカードと同名カードの効果を無効にするわ! 旧神ヌトスを除外!!」

 

地面から突き出した巨大な緑色の手が、墓地の旧神ヌトスを鷲掴みにし、異次元へと引き摺り込んだ。

 

『墓穴の指名者の効果により、旧神ヌトスが除外される!! これにより全ての旧神ヌトスの効果が無効になったぞォオ!!?』

 

「チッ……」

 

阿久津が忌々しげに舌打ちをする。

 

「はっ、見たかったってーの!!」

 

亜美が挑発的に笑う。

 

「この程度で調子に乗りやがって。テメェ、今のウチに騒いでおけよ。焼き尽くして口も聞けねぇようにしてやっからよォ!」

 

「ふん! アンタの切り札だかなんだか知らないけど、レインボーネオスの攻撃力には及ばないわ!!」

 

「バカが! デカトロンがコピーしたベルゼブルは、フィールドの表側カードをバウンスする効果を持つんだよォ! あの目障りな光ヲ消し去れ!!」

 

デカトロンが不気味な鳴き声を上げると、レインボーネオスの足元に次元の穴が開き、強引にエクストラデッキへと吸い込まれてしまった。

 

「ッ……!」

 

消えていくレインボーネオスを仰ぎ見て亜美の額に汗が浮かぶ。

 

「ひゃははははッ!! バトルだ!!」

 

ーバトルフェイズー

 

「煉獄の炎に抱かれ灰となれ祭乃木亜美ィィィ!!」

 

阿久津が絶叫し、ティエラが灼熱の業火を放つ。

 

「ォオアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

スタジアムの空気が焼け焦げる匂いが充満した。

 

「そう簡単にやられるかってーの!! 墓地の光の護封霊剣の効果発動!!」

 

亜美は墓地のカードを除外して効果を起動する。

 

《光の護封霊剣》

永続罠

 

「墓地からこのカードを除外することで、このターン全ての直接攻撃を封じるわ!!」

 

天から四本の光の剣が降り注ぎ、亜美の前に絶対の結界を張る。

 

「グゥゥッ!?」

 

業火は光の結界に弾き返され、ティエラが苦しげに後退する。

 

『今度は墓地からのトラップ!! 祭乃木亜美、しっかり防御していくゥウ!!』

 

ーメインフェイズ2ー

 

「……やはりキサマは目障りだ」

 

「……」

 

「カードヲ1枚セットし、ターンエンド」

 

阿久津は魔法・罠ゾーンにカードを伏せ、苛立たしげにターンを終了した。

 

ーエンドフェイズー

 

「……エンドフェイズ時、トラップ発動! フェイバリット・コンタクト!」

 

亜美が最後に残った伏せカードを開く。

 

《フェイバリット・コンタクト》

通常罠

 

「アタシの手札、フィールド、墓地、そして除外ゾーンから融合素材となるモンスターをデッキの下に戻すことで、HEROを融合素材とする融合モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚できる!」

 

「テメェ……」

 

「墓地のレインボードラゴンとネオスでフェイバリットコンタクト!」

 

二体の精霊の幻影が重なり合う。

 

「――今は遠き宙に虹を描くは一筋の希望! 飛べ、人と精霊との架け橋となりて!」

 

再び虹色の光が空を割く。

 

「戻ってきなさい! レインボーネオス!」

 

「ハァァァッ……!」

 

レインボーネオス

攻:4500 光 戦士族 星10

 

「むざむざ罠にかかりにきたのか、このバカがよォオ! トラップ発動ォ! 煉獄の落とし穴ァ!」

 

阿久津が狂笑と共に伏せカードを開く。

 

《煉獄の落とし穴》

通常罠

 

「場に現れたモンスターを効果を無効にし破壊する!! その目障りナ光ヲ煉獄の炎で焼き尽くせ!!」

 

地の底から吹き上がる煉獄の炎が、レインボーネオスを包み込む。

 

「ゥウォオォオッ……!」

 

しかし、炎が晴れると、そこには無傷のレインボーネオスが力強く立っていた。

 

「フゥンッ、タァァッ!」

 

「何ッ!?」

 

阿久津が驚愕に目を見開く。

亜美のフィールドでカードが回転している。

 

《ネオスフュージョン》

通常魔法

 

「墓地のネオスフュージョンを除外することでネオス融合モンスターを1度だけ防ぐことができるのよ!」

 

亜美は誇らしげに微笑む。

 

「クソがァ……。だが必ず焼き尽くしてやるから覚悟しとけよクソアマァ!」

 

「正面切って叩きのめしてやるわ! ……と言いたいけれど、アンタを倒すのはアタシじゃない」

 

「アァ?」

 

「アンタをぶっ倒すのにふさわしいデュエリストがいるわ。震えて待ってなさい!」

 

「テメェ、逃げんのかァ!!」

 

「前に進むのよ。アンタを倒してね」

 

亜美は阿久津に背を向け、自軍のベンチへと歩き出した。

 

[チームHERO側ベンチ]

 

 

「祭乃木のやつ、まさか……」

 

ここのせが息を呑む。

 

「……プレイヤーチェンジと推測する……」

 

恵が静かに告げた。

 

「……」

 

ゆきは未だに震える右腕を、震えている左手で強引に止めた。

大きく息を吸い込んで、そしてゆっくり吐き出す。

 

祭乃木亜美は、デュエルフィールドでこちらを振り向いた。

赤い髪は、まるで燃える焔のよう。

一人いれば周りも温めるような。

 

(わたしはどうかな……)

 

『ずっと真似してれば、いつか必ずなりたい自分になれるわ。アタシはそう信じてる』

 

いつかの亜美の声がよみがえる。

 

『こうなりたい、こうなってやるんだって気持ちを込めて精一杯飾り立てる。そうしてワンランク上の自分になるの。それは仮の姿かもしれないけど、そこにいるのは紛れもなく自分よ』

 

いつかチームツンドラの藤原雪乃がゆきの顔に化粧をしてくれた時、そんなことを言っていたっけ。

ゆきは、徐にバッグの中に手を入れると手鏡と、雪乃に持たされた口紅を取り出した。

 

(今はまだ仮面かもしれないけど……)

 

ぎこちない手付きで、うっすらとそれを塗り広げ、手鏡で確認する。

それは一つ上の自分だった。

 

「間宮……」

 

ここのせが心配そうに声をかける。

 

「大丈夫。わたしなら、大丈夫です」

 

ゆきは顔を上げ、しっかりと頷いた。

 

「……おう。なら、行ってこい。祭乃木が待ってるぜ」

 

「はい!」

 

ゆきは勢いよくフィールドへと駆け出した。

 

 

[デュエルフィールド]

 

「祭乃木さん」

 

亜美の前に立つゆき。

 

「ゆき、最後を任せたわよ」

 

「はい」

 

亜美は腕のデュエルディスクを外し、ゆきへと差し出す。

 

「効果は無効になっちゃったけど、レインボーネオスを託すわ。きっと、ゆきを守ってくれるはずよ」

 

「……」

 

ゆきはディスクを受け取らず、亜美の目を見つめた。

 

「ゆき……?」

 

「……祭乃木さん。今のわたし、綺麗ですか?」

 

顔を上げて、亜美を見つめた。

突飛な質問だった。

最初驚いたように目を見開いた亜美は、しかし、意図を汲み取るとしっかりと頷いた。

 

「ええ。この場の誰よりも綺麗よ」

 

「……それじゃあ祭乃木さん。……わたしはひとりでしょうか?」

 

「ふふ、どうかしら? その答えは、きっとデッキが教えてくれるわ」

 

「……わたしのデッキが……?」

 

ゆきは決意を込めて、亜美の手からデュエルディスクを受け取った。

 

「レインボーネオス。ゆきを、お願いね」

 

亜美が声をかけると、レインボーネオスは静かに頷いた。

 

『ここでチームHEROもプレイヤーチェンジ!!! バトルは、お互いラストプレイヤーにまで引き継がれたぞォオォオッ!!』

 

スタジアム中が割れんばかりの歓声に包まれる。

 

「……」

 

ゆきは静かに盤面を見据えた。

 

「……はっ、くっだらねぇ」

 

阿久津が鼻で笑い、巨神と共にゆきを見下ろす。

 

『いよいよ、高校生の頂点を決めるデュエルの雌雄が決しようとしている!! 勝つのはデュエルアカデミアの蒼き炎か!? それとも奇跡のチームか!?』

 

実況の絶叫が、運命の最終決戦の幕開けを告げていた。

 

 




■禁止カード
まさかの2026年7月改定で墓穴の指名者が禁止になるなんて……。


■次回予告
第47話
『WSC準決勝終幕 聖剣抜錨_前編』
デュエルスタンバイ
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