遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
お気に入り、感想、心の支えになっております!
ぜひお気軽にお願いします!
※誤字・ルールミスも頂ければ、可能な限り直します……!
[ネオ童実野シティメモリアルスタジアム]
ゆきにバトンタッチしたことで、チームHEROもラストプレイヤーにまで襷が回ったことになる。
チームHERO側スタンドでは、ワンフレーズだけチャンステーマが流れていた。
プレイヤーチェンジのタイミングで、デュエルが再開するまでの間にワンフレーズだけファンファーレを流すのがスタジアム応援のトレンドなんだ、と応援団をしてくれているくるみんが教えてくれた。
──ー目の前に、相手がいる。
阿久津剛
LP:4000
手札:2
魔法罠:
伏せカード(奈落の落とし穴)
伏せカード(墓穴ホール)
伏せカード(不明)
炎舞-「天枢」
フィールド:
インフェルノイド・ティエラ
攻:3400
インフェルノイド・デカトロン
攻:500
インフェルノイド・アスタロス
攻:1800
「興醒めだな。いいように利用されて可哀想だなァホントによォ」
阿久津は眉間に皺を寄せ、吐き捨てるように言う。
「利用……?」
「あの女が! 俺様にぶち殺されるのが怖くて、テメェに押し付けたんだろうが!! テメェは身代わりにぶち殺されるサンドバッグなんだよォオ!!」
「……ッ!」
「ぶち殺されたくなけりゃ、さっさとサレンダーしろ」
「……」
「なんだテメェ、まさかヤル気じゃねぇだろうなァ、オイ、調子こいてんじゃねぇぞ!!」
地面が震える。
そんな風に感じる程の怒号だった。
インフェルノイド・ティエラが主人に呼応するように嘶く。
「キィォオォオォオォオォオッ!!」
波動と重圧が波及し、ゆきへと向かう。
「ハァッ……!」とレインボーネオスが虹の羽を広げ、ゆきを包んで守り抜く。
一連の動きにゆきは立ち尽くす。
「っ……!」
「クソがァ……間宮ァ!!」
暴力的で粗暴で、ひと睨みで縮み上がってしまうような目つきだ。
(怖い……)
どんな心持ちになったって怖いものは、怖い。
この後に及んで身体が勝手に震える。
(願って、すぐに強くなれたら……)
『そう簡単に強くなれたらいいのにな』
声が甦る。
前にここのせが、そう呟いてた。
何かにお願いして強くなれたらいいのに。
(でも、そうじゃないから。だからここのせさんは、自分の力で前に進んだんです)
負けても。
落ち込んでも。
それでも。
(わたしは……)
自分はどうだろう。
立っているか。
座り込んでいるか。
止まっているのか。
下がっているか。
(ううん。わたしも……前に進まなきゃ……)
だから、ほんの少しの勇気を。
目を伏せると、脳裏に浮かんでくる。
自分の前に立ってくれた少女の姿。
後は任せてくれと目の前の相手を倒してくれた少年の姿。
前に進もうとする心の強さをあり方を見せてくれた少年の姿。
未来を変えることができることを知っている少女の姿。
(──大丈夫。だからちゃんと向き合わなきゃ)
意を決したようにゆきは、亜美から回ってきたデュエルディスクを左腕に添えた。
腕のバンドアジャスターが、自動で腕を認識しガッチリと固定する。
左腕に重みと、そしてわずかな暖かさを感じた。
昔、何かの本でこんなことが書いてあった。
決闘盤は盾で、カードは剣、だと。
それをらを駆使して戦うからこそ、デュエリストは決闘者なのだと。
「……阿久津さん。貴方は変わらないですね」
「アァ?」
「そうやって、人を脅して、力でねじ伏せて……」
「そうだ。テメェみたいな雑魚のうじ虫はな、力在る者に弄ばれる運命にあんだよ!! 」
「……」
大きな声。威圧的な眼差し。そして萎縮させるような物言い。
昔だったら、その場で挫けていたかもしれない。
でも今は……。
「……貴方がどんな風に人を見ていても構いません。それにわたしのことはなんとでも、気のすむまで言ったらいいです」
「アァ?」
──うつむき、笑うその頬を伝う涙一粒──
「わたしはわたしのことで貴方を恨もうとは思いません。でもわたしの大切な人を踏み躙ったことを見過ごすことはできない」
「何ぃ……?」
──強がる君の裏側に──
「──だから、わたしは貴方のことを明確に否定します」
「なっ……」
──隠すため息 笑顔は曇って──
ゆきは、右手を腰のデッキケースに伸ばした。
そこに確かに彼女のデッキは存在する。
ゆっくりとそれを引き抜くその姿は、まるで鞘から剣を抜いた騎士のようだった。
──砕けて散ったガラスのように──
デッキを決闘盤にセットする。
快音を立てて自動シャッフルが作動し、ライフカウンターがピピっと音をあげて4000の文字を映し出した。
ゆきは、そのデッキトップからカードを5枚引き抜くと、その視線を阿久津へと向けた。
「行きますよ! わたしのターン!」
──僕に突き刺さる──
デッキからさらにカードを引く。
手札の中には、
『カードたちが、アンタみたいなクズからゆきを守るために来てくれたのかもってことよ!』
あの日、ゆきを守ってくれたカードたち。
そして、こんな自分の元にきてくれたカードたち。
「手札より装備魔法、聖剣-アロンダイトを発動! レインボーネオスに装備!」
《聖剣-アロンダイト》
装備魔法
紫色の剣が虚空から現れ、レインボーネオスがそれを掴む。
──胸の痛み──
「アロンダイトの効果発動です! レインボーネオスの攻撃力を500ポイント下げることでセットカードを破壊します! 奈落の落とし穴を破壊!!」
右手を突き出してレインボーネオスに指示を出す。
レインボーネオス
攻:4500→4000
レインボーネオスは、淀みなく剣を振るい、セットしていた罠カードを粉砕した。
「チッ……」
「昇華騎士-エクスパラディンを召喚です!」
昇華騎士-エクスパラディン
攻:1300 炎 戦士族 星3
「エクスパラディンは、召喚時デッキから炎属性戦士族モンスターを装備できます! チューン・ナイトを装備!」
剣を構えたエクスパラディンを炎が纏い、半透明のネズミの騎士がその背中に現れる。
「装備されたチューンナイトは1ターンに1度特殊召喚できます!」
チューン・ナイト
守:500 炎 戦士族 星1
──曝け出していいよ──
「エクスパラディンとチューン・ナイトをリンクマーカーにセットです! 召喚条件は戦士族モンスター2体!」
↙︎戦士族 + ↘︎戦士族 = LINK2
エクストラデッキへの回路が開き、戦士が2人飛び込んでいく。
「リンク召喚! 来てください! 聖騎士の追想イゾルデ!」
聖騎士の追想イゾルデ
攻:1600 光属性 戦士族 LINK2 ↙︎↘︎(左EX)
「リンク召喚成功時、デッキから戦士族モンスターを手札に加えることができます! ゴットフェニックスギアフリードを手札に加えます!」
イゾルデの手によりカードが呼び出されていく。
これで手札は4枚から5枚へ。
「さらに、イゾルデのもう一つの効果を発動です! デッキから装備魔法カード、聖剣EXカリバーン、聖剣カリバーン、聖剣ガラティーン、リビング・フォッシルの4枚を墓地に送って、その枚数と同じレベルの戦士族モンスターを特殊召喚します! 焔聖騎士-オジエを特殊召喚!」
盤面にカードが鋭く叩きつけられる。
スタジアムの照明が激しく瞬いた。ホログラムの光の粒子が、風に乗ってフィールドを舞う。
焔聖騎士-オジエ
攻:1500 炎 戦士族 星4
炎を纏った凛々しい騎士が、紅蓮の軌跡を描いて大地に降り立った。
「オジエが特殊召喚された場合、デッキから炎属性戦士族モンスターまたは聖剣カードを墓地に送ることができます! 焔聖騎士-オリヴィエを墓地へ!」
──いつでも その笑顔──
「さらに手札から焔聖騎士-リナルドを特殊召喚!」
焔聖騎士-リナルド
守:200 炎 戦士族 星1 チューナー
「このカードはフィールドに炎属性戦士族モンスターがいる場合、特殊召喚できます! さらに特殊召喚された場合、墓地の装備魔法を手札に加えることができます! リビング・フォッシルを手札に加えます!」
デュエルディスクが鋭い電子音を鳴らした。
ゆきは墓地スロットから吐き出されたカードを淀みない動作で引き抜き、手札へと加える。
[チームHERO側ベンチ]
「間宮……しっかりとプレイングしてるぜ……!」
ここのせが冷たい金属の手すりから身を乗り出す。
「……ん……」
恵が微かに頷く。彼女の網膜デバイスには、ゆきの安定したバイタルデータと的確なプレイングのログが、緑色の光の束となって絶え間なく流れていた。
「……かっこいいわよ、ゆき……!」
亜美はフィールドに立つ親友の頼もしい背中を見つめた。
人工芝が焦げたようなの匂いが立ち込めるベンチの中からゆきの背中は大きく映る。
──救われてきた僕なんだ──
[デュエルフィールド]
「レベル4のオジエに、レベル1のリナルドをチューニング!」
ゆきの高く澄んだ声が、熱気を帯びたスタジアムに響き渡った。
☆4+☆1=☆5
レベル1のチューナーとなったリナルドが緑色の光の輪へと姿を変え、レベル4のオジエを包み込む。輪の中で4つの星が一直線に並び、まばゆい光の柱となって天を貫いた。
「──汝、焔をまといて詩を詠む者! 今ここにその武勇を!!」
吹き荒れる熱風が、ゆきの髪を大きく揺らした。
「シンクロ召喚! 来てください! 焔聖騎士導-ローラン!!」
焔聖騎士導-ローラン
攻:2000 炎 戦士族 星5 チューナー
「さらに手札から装備魔法カード、リビング・フォッシルを発動です!」
ゆきが勢いよくカードをスロットに差し込む。
《リビング・フォッシル》
装備魔法
「墓地の4つ星以下のモンスターを攻守を1000ポイント下げ、効果を無効にして特殊召喚します! 墓地のオジエを再び特殊召喚!」
墓地から舞い戻った騎士が、再び大地に膝をつく。
巨大モニターに映し出されたステータスバーが、急速に下降していった。
焔聖騎士-オジエ
守:2000→1000 炎 戦士族 星4
「レベル4のオジエに、レベル5のローランをチューニング!」
☆4+☆5=☆9
5つの緑色の光の輪が、4つの星を包み込む。
一条の光の柱が天に向かって真っ直ぐに伸びた。
「──武勇は此処に、虹の剣は孤高の高みに! 甦れ、焔の伝説よ!」
ゆきの高く澄んだ声が、スタジアムの喧騒を切り裂く。
シンクロ召喚の凄まじい熱風が吹き荒れ、観客席に取り付けられたチームHEROの応援旗がちぎれんばかりに舞い踊った。
「シンクロ召喚! 来てください、焔聖騎士帝-シャルル!!」
まばゆい閃光と共に、真紅の鎧を纏った大帝が降臨した。
「しゃあ、行こうぜ大将!!」
焔聖騎士帝-シャルル
攻:3000 炎 戦士族 星9
──今だけ 泣いていいよ──
「行きますよ、バトル!!」
ゆきが右手を高々と突き上げる。
ーバトルフェイズー
「焔聖騎士帝-シャルルでインフェルノイド・ティエラに攻撃!」
ゆきの号令に呼応し、真紅の大帝が地を蹴る。
「バカが! こっちの方が攻撃力は上だ!」
阿久津が巨体を揺らして嘲笑う。
紫色の邪神が、スタジアムの空気を歪ませるほどの熱風を吐き出した。
「速攻魔法発動! 栄光の聖騎士団!」
ゆきが手札から魔法カードをスロットに叩き込む。
スタジアムの照明が、魔法の発動に呼応して激しく明滅した。
《栄光の聖騎士団》
速攻魔法
「デッキから聖騎士に装備可能な装備魔法を装備できます! シャルルに魔導師の力に装備!」
デッキから飛び出したカードが、自動的に魔法・罠ゾーンにセットされる。
《魔導師の力》
装備魔法
「っしゃぁ! オラァ!!」
焔聖騎士帝-シャルル
攻:3000→4000
魔導師の紋章がシャルルの鎧に浮かび上がる。
巨大モニターの数値が高速で回転し、攻撃力が一気に跳ね上がった。
重厚な風切り音が鳴る。
阿久津の足元に伏せられていた致命の罠『墓穴ホール』が、シャルルの放った炎の余波で無惨に砕け散った
「何ィッ……!?」
阿久津が驚愕に目を剥く。
「シャルルは、カードが装備された時、フィールドのカードを選んで破壊できます!」
ゆきは右手を真っ直ぐに突き出す。
その指先は、攻撃対象である巨大な邪神インフェルノイド・ティエラをはっきりと捉えていた。
「さぁ、行きますよ! 焔聖騎士帝-シャルルでインフェルノイド・ティエラに攻撃!! 」
ゆきは右手を攻撃対象を、即ち、インフェルノイド・ティエラを指差した。
その指揮命令に焔を纏う白い騎士は肩に担いだ剣を構える。
俄に炎が剣を包み、刀身が30以上もの色光で輝き出した。
「フラム・ジョワユーズ!!」
焔聖騎士帝-シャルル
攻:4000
地面を一蹴し、上空へと躍り出る焔聖騎士帝。
そのまま両手で焔の聖剣-ジョワユーズをガッチリと掴むとそれを紫色の化け物に向かって振り下ろした。
「ハァァァァァァッ!!」
「グギァァァァァァァァァァァァァッ!!?」
インフェルノイド・ティエラ
攻:3400
紫の巨大な邪龍は、けたたましい咆哮を上げた。
やがて焔の剣に切り裂かれ、なす術なくガラスのように霧散する。
そして、その余波が阿久津剛を飲み込んだ。
「ウグァァァァァァッ!!!?」
阿久津 剛
LP:4000→3400
──ずっとここにいるから
『連続シンクロから強力なモンスターを呼び出し、インフェルノイドのエースモンスターを一撃で粉砕したぞォオォオ!!?』
実況の興奮が頂点に達し、メモリアルスタジアムは割れんばかりの大歓声と拍手の渦に包み込まれた。
第47話
『WSC準決勝終幕 聖剣抜錨_前編』
[チームHERO側ベンチ]
「よっしゃあ!! やるじゃない、ゆき!!」
スタジアムを揺るがす大歓声に負けじと、亜美は立ち上がり、満面の笑みでフィールドのゆきへ声援を送った。
「先制パンチが決まったな!」
ここのせが興奮冷めやらぬ様子で、ベンチの背もたれをバンッと力強く叩く。強敵の意表を突いた見事な一撃に、ベンチの熱気も一気に跳ね上がっていた。
「……ん……」
熱狂に包まれる中、恵だけは相変わらず淡々とした様子でフィールドを静かに追っている。
「あー、ちょっといいかしら?」
白熱するデュエルの余韻に浸るチームHEROの輪の中に、場違いなほどのんびりとした女性の声が不意に割り込んできた。
「ん? あ、あれ!? さっきの……!」
亜美が声の方向に振り向くと、そこには救急箱を提げた白衣姿の女性──鮎川美代子が、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「えー、気づいてなかったの? おばちゃん、さっきからいたんだけどなぁ」
驚いて目を丸くする亜美に、美代子はくすくすと悪戯っぽく笑いながら小首を傾げる。
「……あの子は大丈夫なの?」
亜美はハッとして、先ほど急に気を失ったリオのことを聞くと
「大丈夫よ」と美代子は短く答え、安心させるように優しく微笑んだ。
「そう。それでなんでこっちに……?」
安堵の息を吐きつつ、亜美が不思議そうに視線を彷徨わせる。
「俺の怪我を診にきてくれたんだって」
テクテクと足音が鳴る。声のした方を振り返ると、顔の傷に真新しいガーゼを当てた良平が、少し照れくさそうに歩いてくるところだった。
「あ、良平! え、じゃあお医者さんなの?」
亜美は良平の顔と美代子の白衣を交互に見比べ、合点がいったように声を上げた。
「そうお医者さんよ。こっちの子は問題なさそうだから、診察終わり。今度は貴女を診させてちょうだい。怪我、してるでしょ?」
美代子の細めた目が、亜美の制服の袖口から生々しく血が滲んでいる腕を真っ直ぐに捉えた。その言葉には、普段の柔和な雰囲気の中にも、有無を言わせぬ医療従事者としての静かな威厳が混じっていた。
「これくらいなんともないわよ」
亜美は気丈に振る舞い、誤魔化すように怪我をした腕を背中側へと隠す。
「ダメよ。傷が残ったらどうするの? そんなにかからないから、そこ座りなさい」
美代子は優しくも毅然とした態度で諭すと、自らの隣の空いたベンチをポンポンと叩いて促した。
「は、はーい」
年上の女性の妙な迫力に圧倒され、亜美は大人しく返事をすると、ストンッ、と素直にベンチへと腰を下ろした。
[デュエルフィールド]
スタジアムの空気が沸騰する。
鼓膜を焼くような大歓声が渦巻いていた。
「チィッ……! 調子に乗るなよクソボケェ……!」
阿久津が顔を歪める。
吐き出された息は獣のように熱い。焦燥と怒りが、ドロドロとしたタールのようにフィールドへ流れ出す。
「さらにレインボーネオスで、インフェルノイド・デカトロンに攻撃!」
ゆきが毅然と指を突きつける。
その背中を押すのは、託された希望の光だ。
「デカトロンの効果を発動ォ! こいつは今、ベルゼブルの効果を得ている! 自身をリリースし、テメェの墓地のカードを除外する! そのオリヴィエとかいうのを除外しろ!」
阿久津が吠えた。
途端に、ひどく生臭い風が吹く。
「ギギギィィ!!」
機械と肉体が融合した異形の悪魔が、ゆきに向かって跳躍する。
そのまま彼女の腕、デュエルディスクに深く牙を突き立てた。
「きゃあっ……!」
硬い金属がひしゃげる音。
錆びた鉄の匂いが鼻を突く。ソリッドビジョンであるはずの強烈な物理的衝撃と痛みが、ゆきの腕から脳髄へと駆け抜けた。
『インフェルノイド・デカトロンが間宮ゆきのデュエルディスクに噛み付いたァァァ!! 墓地のカードが1枚除外されるぞォオ!!』
「ふ、フィールドの状況が変わったため、攻撃対象を変更します! インフェルノイド・アスタロスに攻撃!!」
ゆきは痛みに顔をしかめながらも、声を張り上げる。
背筋に冷たい汗が伝う。だが、瞳に宿る熱だけは決して冷やさない。
「アスタロスも同じ効果を持ってんだよォ! 自身をリリースし、テメェの墓地のローランを除外だ!!」」
「キシャァァァッ!」
第二の悪魔が容赦なく襲い掛かる。
「ッ……!」
再び激しい衝撃。デュエルディスクから火花が散り、焦げたプラスチックの異臭が漂う。
腕の感覚が痺れに飲まれ、消えかかっていた。
『インフェルノイドの共通効果により2枚の墓地のカードが除外されてしまった! しかし、フィールドはこれでガラ空き! ダイレクトアタックのチャンスだぞォオ!?』
「……ふ、再びフィールドの状況が変化したため、攻撃対象を変更! プレイヤーにダイレクトアタック!!」
痺れる右腕を必死に持ち上げる。
息が荒い。緊張で喉の奥がカラカラに乾いていた。それでも、目の前の巨体へ真っ直ぐに引導を渡す。
「トラップ発動ォ! 煉獄の狂宴!」
阿久津の足元で、ドス黒い光が弾けた。
《煉獄の狂宴》
通常罠
「手札の煉獄マジックトラップを墓地に送り、デッキよりレベルが8になるようにインフェルノイドを三体呼び出す! 来い、インフェルノイド共!!」
地獄の釜が開いたかのような、強烈な熱波。
むせ返るような硫黄の悪臭がスタジアム中を覆い尽くす。
インフェルノイド・アスタロス
守:0 炎 悪魔族 星4
インフェルノイド・シャイターン
守:0 炎 悪魔族 星1
インフェルノイド・ルキフグス
守:0 炎 悪魔族 星3
『ここでトラップ炸裂ゥゥ!! 一気に壁となるモンスターを3体も特殊召喚したぞォオ!!?』
スタジアム全体が揺れるほどの歓声が巻き起こる。観客席を埋め尽くす光の波が、熱狂と共に大きくうねった。
「ッ……! インフェルノイド・シャイターンに攻撃対象を変更します! レインボーネオス!」
ゆきは即座に標的を指し直す。
レインボーネオスが両手を構え、極彩色の光を急速に収束させていく。
「オーバー・ザ・レインボー!!」
極太の光線が一直線に放たれた。
スタジアムの照明すらも、その強烈な閃光の前に掻き消される。
レインボーネオス
攻:4000
インフェルノイド・シャイターン
守:0
光の奔流に飲み込まれ、悪魔の巨体が跡形もなく粉砕される。
砕け散ったホログラムの破片が、光の粒子となってスタジアムの宙に舞った。
「ふん」
阿久津は短く鼻を鳴らした。
自陣の壁が一つ崩されても全く動じる様子を見せない。彼の背後で、巨大モニターが残存する悪魔たちのステータスを冷たく映し出している。
ーメインフェイズ2ー
「……このままエンドフェイズに移行します」
ゆきが小さく息を吐き、静かに宣言する。
ーエンドフェイズー
「このエンドフェイズ時、焔聖騎士導-ローランの効果処理を行います! デッキから装備カードを墓地に送り、戦士族モンスターを手札に加えます! デッキから天命の聖剣を墓地に送り、焔聖騎士-ローランをサーチです!」
ゆきのデッキからカードが自動で弾き出される。
彼女はそれを流れるような動作で抜き取り、手札へと加えた。
「……」
阿久津は腕を組み、無言でゆきを見下ろしている。
大型モニターの放つ光が、彼の険しい顔に濃い影を落としていた。
「さらに、焔聖騎士帝-シャルルはお互いのエンドフェイズ時に墓地の装備魔法を装備し、さらにデッキから炎属性戦士族も装備できます! 墓地の天命の聖剣を装備し、さらにデッキから焔聖騎士-オジエを装備です!」
ゆきは墓地とデッキから抜き出したカードを、デュエルディスクに次々と差し込んでしていく。
焔聖騎士帝-シャルルが雄叫びを上げる。
新たな聖剣と騎士の力が真紅の鎧に宿り、スタジアムに吹き荒れる熱風をさらに高めていく。上空の巨大モニターで、攻撃力の数値が高速で跳ね上がった。
焔聖騎士帝-シャルル
攻:4000→6000(魔導師の力)
「装備した焔聖騎士-オジエの効果でシャルルは、効果では破壊されません! これでターンエンドです!」
間宮ゆき
LP:4000
手札6
魔法罠:
伏せカード
天命の聖剣(E:焔聖騎士帝-シャルル)
焔聖騎士-オジエ(E:焔聖騎士帝-シャルル)
聖剣-アロンダイト(E:レインボーネオス)
魔導師の力(E:焔聖騎士帝-シャルル)
フィールド:
レインボーネオス
焔聖騎士帝-シャルル
聖騎士の追想イゾルデ(左EXゾーン)
ードローフェイズー
「俺のターンだ」
阿久津がデュエルディスクからカードを鋭く引き抜く。
スタジアム上空の巨大モニターが切り替わり、彼の手札が二枚になったことを無機質な数字で告げた。
ースタンバイフェイズ→メインフェイズー
「地獄を見せてやるよ、間宮ァ!」
「ッ……!?」
「手札より、強欲で金満な壺を発動ォ!!」
阿久津が魔法カードを盤面に力強く叩きつける。
フィールドの中央に、不気味な笑みを浮かべる黄金の壺のホログラムが実体化した。
《強欲で金満な壺》
通常魔法
「エクストラのカードを6枚、裏側で除外し、カードを2枚ドロー!」
デュエルディスクのストレージから6枚のカードが自動で弾き出される。阿久津はそれらを無造作に除外ゾーンへと押し込み、新たにデッキから2枚のカードを引き当てた。
「さらにフィールドのアスタロスの効果発動ォオ! 1ターンに1度、フィールドのマジックトラップを破壊する! テメェのセットカードを破壊だ!」
炎の悪魔アスタロスが悍ましい咆哮を上げる。
放たれた業火の塊が一直線に飛び、ゆきの足元に伏せられていたカードを容赦なく粉砕した。砕け散ったカードの破片が、光の塵となってスタジアムの風に舞い散る。
「ッ……!」
ゆきは熱風に目を細めながらも、決して阿久津から視線を逸らさない。
「クハハッ! さらにルキフグスの起動効果発動ォ! フィールドのモンスターを1体破壊する!!」
今度はルキフグスが蠢く。
その手から放たれた破壊の波動が、ゆきの陣地を抉り取るように迫り来る。
「させません! 手札のアヴァロンの魔女モルガンの効果発動です!」
《アヴァロンの魔女モルガン》
効果モンスター
ゆきが手札から一枚のカードを真っ直ぐに天へ掲げる。
スタジアムの照明が、彼女の毅然とした横顔を明るく照らした。
「フィールドの聖剣カード、天命の聖剣を破壊することで、その効果を無効にします!」
ゆきが手札を墓地スロットへと滑り込ませる。
虚空から現れた魔女モルガンが、妖艶な笑みを浮かべてフィールドの『天命の聖剣』を砕いた。聖剣の砕けた欠片が強力な魔力の網へと変化し、ルキフグスの放った破壊の波動を完全に縫い留め、瞬時に霧散させる。
「チッ……」
空中で砕け散った剣の破片が光の軌跡を描き、瞬時に元の形へと組み上がっていく。
「ハァァァ!」
焔聖騎士帝-シャルルが、虚空から現れた聖剣を力強く握り直した。真紅の鎧が眩く輝き、スタジアムの風を熱く焦がす。
「そして、モンスターにカードが装備されたためシャルルの効果が発動します! インフェルノイド・アスタロスを破壊!」
ゆきが真っ直ぐに指を突きつける。
「おらぁっ!」
シャルルが巨大な剣を大上段から振り下ろした。紅蓮の剣閃が一直線に空を裂く。
「グギァッ!?」
迫り来る炎の悪魔を一刀両断する。アスタロスの巨体は真っ二つに割れ、光の粒子となって虚空に溶けた。
『焔の剣撃が炸裂ゥゥ!! インフェルノイド・アスタロスを返り討ちにしたぞォオ!!?』
スタジアムを埋め尽くす観客から、割れんばかりの歓声が巻き起こる。上空の巨大モニターが、会心の一撃を決めたゆきの姿を大写しにしていた。
「天命の聖剣を装備したモンスターは1ターンに1度、破壊されません!」
ゆきは力強く宣言し、盤面を見据える。
「チッ、舐めんなよ、ボケがァ!! 墓地のアスタロス、シャイターンを除外し、インフェルノイド・アドラメレクを墓地から特殊召喚!」
阿久津の顔が怒りで歪む。デュエルディスクから引き抜かれたカードが、冷たい電子音と共に除外ゾーンへ叩き込まれた。
「グガァァァァァァァァァァッ!!」
インフェルノイド・アドラメレク
攻:2800 炎 悪魔族 星8
大地のホログラムが割れ、煉獄の底から巨大な悪魔が這い上がってくる。上空のモニターの数値が、圧倒的な攻撃力を赤々と表示した。
『インフェルノイドの最上級モンスターが墓地、いや煉獄より復活!! インフェルノイドの最上級モンスターには、フィールドのレベル合計が8以下の時、墓地のインフェルノイドを指定枚数除外することで、墓地から特殊召喚する共通効果を持つ!! ここからフィールド制圧かァァ!?』
実況の声がスタジアムに響き渡る中、阿久津が腕を高く掲げた。
「ルキフグス、アドラメレクをリンクマーカーへセット! 召喚条件は、炎属性2体!!」
↙︎炎属性+↘︎炎属性=LINK2
スタジアムの空に、巨大なリンク回路が展開される。
二体の悪魔が光の矢となり、回路のマーカーを次々と点灯させていく。
「リンク召喚! こい、ドリトル・キメラ!」
ドリトル・キメラ
攻:1400→1900 炎 獣族 LINK2 ↙︎↘︎(右EXゾーン)
炎で構成された合成獣が、右側のエクストラモンスターゾーンに降り立つ。
「これで俺のフィールドのレベルは0となった! 墓地のヴァエル、ルキフグスを除外し、アドラメレクを再び特殊召喚!」
再び地獄の門が開き、アドラメレクがフィールドに舞い戻る。
インフェルノイド・アドラメレク
攻:2800 炎 悪魔族 星8
「アドラメレクとドリトル・キメラをリンクマーカーへセット! 召喚条件は、効果モンスター2体だ!!」
先程よりも遥かに巨大で複雑なリンク回路が、上空のモニターを覆い隠すように出現した。
↑↙︎効果モンスターLINK2 + ↘︎効果モンスター = LINK3
「来い、トポロジック・トゥリスバエナ!!」
「クォォォオォオォオッ!!!」
トポロジック・トゥリスバエナ
攻:2500 闇 サイバース族 LINK3↑↙︎↘︎(右EX)
空間を歪めるようなノイズと共に、漆黒のサイバース族ドラゴンが降臨した。
スタジアムの照明が一瞬だけ暗転し、ドラゴンの全身から放たれる紫色の電光が、周囲の空気を不気味に照らし出す。
「再び墓地のベルフェゴル、アシュメダイを除外し、アドラメレクをトゥリスバエナのリンク先に特殊召喚!」
三度、煉獄から巨大な悪魔が呼び出される。
ドラゴンの足元に広がるリンクマーカーの光の上に、巨体が重なった。
インフェルノイド・アドラメレク
攻:2800 炎 悪魔族 星8
「クハハッ! トポロジック・トゥリスバエナのリンク先にモンスターが特殊召喚された時、こいつの特殊効果が発動する! リンク先のモンスターと互いのマジックトラップを全て除外し、さらに除外したテメェのカードの数×500ポイントのダメージを貴様に与える!!」
ドラゴンの全身から、あらゆるものを無に帰す破滅のエネルギーが急速に充填されていく。強烈な風圧がスタジアムを吹き抜け、チームHEROの旗を激しく煽った。
「そんな……!?」
ゆきは迫り来る漆黒の波動を見上げ、息を呑んだ。
[チームHERO側ベンチ]
「まずいっ……!!」
良平が血の気を引かせる。
「くそ、ダメージが……!!」
ここのせが手すりを強く叩いた。
[デュエルフィールド]
「ギャハハハッ!!」
阿久津の狂気じみた笑い声が響き渡る。
トポロジック・トゥリスバエナが破滅のエネルギーを解き放った。
強烈な閃光がスタジアムを包み込む。
ゆきの陣地を支えていた『天命の聖剣』、『焔聖騎士-オジエ』、『焔聖騎士導-ローラン』、『聖剣-アロンダイト』が、次々と光の塵となって吹き飛ばされていく。
漆黒の波動が、ゆきの身体を完全に飲み込んだ。
「きゃぁぁぁぁ……!!」
間宮ゆき
LP:4000→2000
『大ダメージィィィィ!! チームHEROラストプレイヤー、間宮ゆき! ここにきて初期ライフの半分ものダメージをうけてしまったぞォオォオ!!?』
スタジアムを揺るがす絶叫。
しかし。
(あ、あれ……? 痛く、ない……?)
きつく目を閉じていたゆきは、恐る恐る目を開いた。
身体は無傷だった。服が焦げる匂いも、肌を焼く熱も、骨を軋ませるような痛みも、一切感じない。
[チームHERO側ベンチ]
「あれ……?」
良平が拍子抜けしたように瞬きをした。
「衝撃がない……?」
「……ああ。間宮、大丈夫、みたいだな……」
ここのせも怪訝な表情でフィールドを見つめている。
「なんだ? ダメージが発生しなかった……? なんでだ……?」
ここのせの言葉に良平は顎に手を当てた。
「手加減した……? いや、あいつはこっちを殺すとまで言ってきたんだ。わざわざ手加減するとは思えない。となると……」
「ダメージを実体化出来なかった、のか……? 効果ダメージだからか?」
ここのせの考察に、しかし良平は首を振る。
「いや、寺仔リオは戦闘ダメージも効果ダメージも実体化させてた。サイコデュエリストは全てのダメージを実体化できるんだと思う」
「だが……」
「うん……。阿久津はそうじゃないみたいだ……。もしかしたら、サイコデュエリストですらない……?」
フィールドを睨みながら言う良平。
「……」
ここのせの脳裏に、かつて阿久津が放った言葉が蘇る。
『お前みたいな出来損ないと一緒にするな!! 俺は特別な運命力を持ってうまれた!! 俺は選ばれたんだよ!! この力になぁ!!!』
「もしかしたら、オレが星遺物カードを介さないとデュエルができないように、やつもインフェルノイドカードを介さないと実体化できねぇんじゃねぇか……?」
ここのせが言うと良平は目を丸くしてここのせに向く。
「え? ど、どうしてそんなこと……」
「明確な根拠はねぇよ。だが、オレの星遺物カード、いや創星の力があのインフェルノイド共を警戒してる。サイコデュエリストじゃないならアレが一番怪しいぜ」
「……じゃああのインフェルノイドカード達が、闇のカード、なのか……?」
その時だった。
「ちょ、ちょっと貴方たち……!」
背後から掛けられた声に、二人の肩が大きく跳ねた。
振り返ると、そこには美代子が立っていた。
「今の話、詳しく聞かせて頂戴。なんで貴方達がそんなことを知っているの?」
美代子が鋭い視線で二人を見下ろしている。その瞳から、先ほどまでの温厚な光は消え失せていた。
(や、やば、忘れてた……!)
(しまった、油断してた……!)
冷や汗が二人の背中を伝う。
「……そういえば、貴方、前にアカデミアでツァンちゃんといたラーイエローの子に似てるわね……」
美代子が良平の顔をじっと覗き込む。
万事休すかと思われた、その瞬間。
「おばちゃん!」
亜美が二人の前に勢いよく立ち塞がった。
「わ、びっくりした」
「手当ありがと! もう動いていいわよね!?」
「え、えぇ」
突然の剣幕に、美代子がたじろぐ。
「さぁ、アンタたち! くっちゃべってないで、ゆきを応援するわよ! 」
「そ、そうだね!」
「おうよ!」
良平とここのせは慌てて話を合わせる。
「ごめん、美代ちゃん、だっけ? 難しい話はまた今度にしていいかしら? アタシたちにとってめちゃくちゃ大切な試合なの!」
亜美は満面の笑みで、しかし確かな圧を込めて言い放った。
「ッ……!」
美代子は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに元の人の良さそうな笑顔を取り繕った。
「……あ、あ〜、ごめんなさいねぇ。おばちゃんったら無粋なことしちゃって」
「ううん! 良平のことも診てくれたんでしょ? こっちが感謝しなきゃ! ホントにありがとう!」
「あらまぁ、いいのよぉ。……じゃあ、お邪魔虫はドロンするわねぇ」
美代子は踵を返し、足早にベンチから去っていった。
通路へと続く扉が静かに閉まる。
「……」
亜美がゆっくりと振り返った。
無言のまま、両手で二人の首根っこを掴む。
「いっ!?」
「でっ!?」
そのまま、ぐいっと力強く自分の方へ引き寄せた。
「……なんかわからないけど、とりあえず感謝しなさいよね」
低い声が耳元で囁かれる。
「ご、ごめん」
「……二人とも試合終わったら、アタシん家来なさい」
ぱっと手が離された。
「え」
「うわ」
二人は顔を見合わせる。完全に逃げ場を絶たれたことを悟った。
「さぁ!! ゆきを応援するわよ!! いいわね!!」
亜美は再びフィールドに向き直り、誰よりも大きな声で親友への声援を送り始めた。
[デュエルフィールド]
「仕留めてやるよ。墓地のデカトロン、ヴァエル、シャイターンの3枚を除外し、モンスターを特殊召喚ッ!!」
「!?」
「ギャハハハッ、消し飛べ間宮ァ!! 深淵より煉獄の炎を齎らす暴虐の牙!! 現れろ、インフェルノイド・ネヘモス!!!」
スタジアムの大地が大きくひび割れ、底無しの深淵から蒼黒い炎が吹き上がる。
「ォオォオォオォオォオアアアアアアッ!!!」
インフェルノイド・ネヘモス
攻:3000 炎 悪魔族 星9
『墓地よりインフェルノイドのエースモンスターが降臨!! まさしく蒼き炎だァァァ!!』
実況の絶叫が熱狂に拍車をかける。
「ネヘモスが場に現れた時、自身以外のフィールドのモンスターを全て破壊する!! 消え去れクソカード共ォオ!!」
「ッ!?」
『強力な全体除去効果!! これが通れば、フィールドはガラ空きになってしまうぞォオ!!?』
悪魔の王が天を仰ぎ、喉の奥で莫大な熱量を圧縮し始めた。
放たれた蒼い熱線の嵐が、ゆきの陣地を丸ごと飲み込む。
「くそぉぉ!!」
紅蓮の鎧を纏ったシャルルが、抗う間もなく光の塵となって消え去る。
「ウォオッ……!」
レインボーネオスもまた、破壊の奔流に飲み込まれた。
凄まじい熱風がスタジアムを吹き荒れ、ゆきの身体が大きく煽られる。
「きゃあぁっ……!!」
「クハハッ!! これでテメェのフィールドは全滅!!」
「ううっ……」
ゆきは腕で顔を覆い、痛みを堪えるように目を閉じた。
破壊の嵐が少しずつ収まり、フィールドを覆っていた焦げ臭い煙が晴れていく。
──―バサァッ!
しかし。
七色の翼が、吹き荒れる白煙を力強く切り裂いた。
「ハァァァッ!!」
レインボーネオス
攻:4000 光 戦士族 星10
「何ィッ……!?」
「え……!?」
『な、なんとォオ!!? 破壊熱波の中から、レインボーネオスが現れたぞォオォオ!!?』
スタジアムの観客席がどよめき、次いで爆発的な大歓声に包まれた。
「バカなッ!! なぜ破壊されない!!?」
「ど、どうして……?」
ゆきが慌てて自身のデュエルディスクに視線を落とす。網膜デバイスと連動したモニターに、墓地で効果を発動した一枚のカードのログが青白く表示されていた。
《ネオスフュージョン》
通常魔法
「またネオスフュージョンだと!?」
「い、一体いつ……」
ゆきの脳裏に、数ターン前の攻防がフラッシュバックする。
〜フラッシュバック〜
『さらにフィールドのアスタロスの効果発動ォオ! 1ターンに1度、フィールドのマジックトラップを破壊する! テメェのセットカードを破壊だ!』
アスタロスの放った業火が、ゆきの足元に伏せられていたカードを粉砕したあの瞬間。
〜フラッシュバック終了〜
「あの時か……!」
阿久津の顔が、屈辱と驚愕で激しく歪んだ。あの時、自身の手で破壊し墓地へ送った伏せカードこそが、間接的にレインボーネオスを守る最強の盾として機能していたのだ。
[チームHERO側ベンチ]
「見たかってーの!! ネオスとレインボードラゴンはそう簡単にはやられないのよ!!」
亜美がベンチから身を乗り出し、フィールドに向かって快哉を叫ぶ。
スタジアムを吹き抜ける熱風が、彼女の赤い髪を大きく揺らした。肌を焦がすようなインフェルノイドの熱圧さえも、確信に満ちた今の彼女にとっては心地よい追い風のようだった。
「ま、まさか相手がバックを破壊してくるのを想定して……?」
良平が大きく目を見張る。
「ブラフを引き継いでやがったのか……!」
ここのせが呆れたように、しかし確かな賞賛を込めて口角を上げた。
上空の巨大モニターでは、立ち込める白煙が晴れ、無傷で君臨するレインボーネオスの雄姿が神々しく映し出されている。
「正直賭けだったわ! 墓地にいかなきゃ意味がないからね! でも、うまくいった!」
亜美は額に滲んだ汗を手の甲で乱暴に拭った。
「……見事……」
恵が静かに呟く。
[デュエルフィールド]
「祭乃木さん……!」
ゆきは胸の前で両手を握りしめ、ベンチへ向けて力強く頷いた。
「グゥゥッ……! 面白ぇじゃねぇか……。なら徹底的にやってやるよォォォ!! モンスターを通常召喚!」
阿久津が怒号と共にカードを盤面に叩きつける。
巨大モニターに召喚反応のノイズが走った。
魔界発現世行きデスガイド
攻:1000 闇 悪魔族 星3
「こいつが場に現れた時、デッキからレベル3悪魔族を効果無効で特殊召喚する!!」
阿久津のデュエルディスクが冷たい駆動音を鳴らす。
魔犬オクトロス
守:800 闇 悪魔族 星3
黒い魔犬がフィールドに這い出た。
スタジアムの風が不気味に凪ぐ。
「こいつら2体をリンクマーカーへ!! 召喚条件は、効果モンスター2体!」
スタジアムの上空に、巨大なリンク回路が展開された。
←効果モンスター + ↓効果モンスター = LINK2
「リンク召喚ッ!! アンダークロックテイカー!」
アンダークロックテイカー
攻:1000 闇 サイバース族 LINK2 ←↓(左EXゾーン)
電子音を響かせ、機械的なサイバース族モンスターが左エクストラモンスターゾーンに降り立った。
「魔犬オクトロスが墓地に送られた時、デッキよりレベル8の悪魔族をサーチする! 俺様が引き込むのはインフェルノイド・アドラメレク!」
阿久津はデッキから勢いよくカードを引き抜いた。
「そしてアンダークロックテイカーの効果発動ォオ!! こいつのリンク先──インフェルノイド・ネヘモスの攻撃力を参照し、その数値分貴様のモンスター1体の攻撃力を下げる! ネヘモスの攻撃力は3000! レインボーネオスは一気に雑魚モンスターに成り下がる!!」
アンダークロックテイカーの全身から、凶悪な電子パルスが放たれる。
紫色の雷光がレインボーネオスを容赦なく打ち据えた。
「ぐぁっ……!」
レインボーネオス
攻:4000→1000
「あっ……!」
ゆきの顔が青ざめる。
「クハハハハッ!! 捉えたぞ、レインボーネオス!! そいつと間宮、テメェをぶち殺して終わりだァ! バトル!!」
ーバトルフェイズー
「どのみちこの攻撃でしめぇだァ!! インフェルノイド・ネヘモス!! レインボーネオスを焼き尽くせ!!」
「ギォオァァァァァァァァッ!!!」
ネヘモスの口内に、極大の熱線が圧縮されていく。
スタジアムの空気が一瞬にして焼け焦げた。
『間宮ゆきのライフは残り2000!! レインボーネオスの攻撃力は現在1000にまで下がっている!! この攻撃でピッタリゲームエンドになってしまうぞォオ!!?』
実況の絶叫が熱狂を煽る。
観客席が総立ちになり、地鳴りのような歓声が響き渡った。
「……わたしは、負けるわけにはいきません! 手札から、焔聖騎士-ローランの効果を発動です!」
ゆきは真っ向から熱風を受け止め、カードを天に掲げた。
「フィールドのモンスター1体を対象にて、そのモンスターにこのカードを手札から装備できます! 装備されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップします!」
《焔聖騎士-ローラン》
効果モンスター
ゆき「フィールドのモンスター1体を対象にて、そのモンスターにこのカードを手札から装備できます! 装備されたモンスターは、攻撃力が500ポイントアップします!」
ローランの闘気が光となって、レインボーネオスに宿る。
モニターの数値が微かに上昇した。
「ハァァァ……!」
レインボーネオス
攻:1000→1500
「関係ねぇんだよ!! テメェが灰になることに変わりはねぇ!!」
「ォオァァァァァァァァッ!!!」
圧縮された蒼い熱線が、ついに解き放たれる。
「くっ……!」
レインボーネオスは防御姿勢をとった。
七色の巨大な翼を広げ、主を守る壁となる。
衝撃の余波すらも、その身一つで受け止めようとしていた。
インフェルノイド・ネヘモス
攻:3000
レインボーネオス
攻:1500
しかし、暴虐の炎は強大だった。
防御を貫き、絶対の盾を無惨に焼き尽くしていく。
「ッ!」
霧散する間際。
レインボーネオスは最後の力を振り絞り、虹色の羽をゆきの周囲に散らせた。
主を庇うように、ふわりと光の羽根が舞い落ちる。
そして、その羽を突き破り、無情な熱線がゆきへと迫った。
「ぁぁっ……!」
「ひゃはははッ!!」
阿久津の狂笑が響き渡る。
ゆきは両手で頭を庇い、きつく目を閉じた。
肌を焼くほどの強烈な熱が、もうすぐそこまで迫っていた。
「ッ……!!」
▼使用曲
『ティアドロップ』
作詞:丸山和宏
作曲:丸山和宏
編曲:BOWL
遊戯王GX3期を飾った曲ですね!
5Dsアフターなんだから5Dsの曲使えよという話ではあるんですが……。
好きなので……。
▼次回予告
第47話 『WSC準決勝終幕 聖剣抜錨_後編』