遊戯王5D's after ~童実野第二高校ヒーロー部~ 作:レトやま
──「彼」はHEROではない。
──「精霊」はその役目を負って生まれてくる。
──HEROはHEROとして。
──モンスターはモンスターとして。
──「彼」はHEROではない。
──「彼」は善ではない。
──「彼」は醜悪な自分が好きではない。
──「彼」はHEROではない
──「彼」はそんな自分が好きではない。
──「彼」は強くない。
──「彼」はそんな弱い自分も好きではない。
──だから「彼」はマスクを被る。
──HEROになるために。
──自分を偽るために。
──たとえ邪道な力でも、「彼」は変わると誓ったのだ。
──故に「彼」は守る。
──自分を引き寄せた決闘者を。
──「彼」に似た弱く強い自分のマスターを。
[ネオ童実野シティ メモリアルスタジアム]
「ォオォオアアアアアッ!!」
インフェルノイド・ネヘモスが咆哮を上げる。
大気を焼き尽くすほどの蒼い熱線が、一直線にゆきへと迫った。
スタジアムの照明が、その圧倒的な光量の前に完全に掻き消される。
「あぁっ……!」
ゆきは咄嗟に両手で頭を覆い、身をすくめた。
迫り来る絶望的な熱圧。
しかし、その直前。
彼女の腕に装着されたデュエルディスクが、突如として眩い光を放ち始めた。
「えっ……?」
ゆきは恐る恐る顔を上げた。
「ハァァァッァァァッ……!!」
ダーク・ロウは両腕を交差させ、迫り来る蒼い熱線を真っ向から受け止める。
漆黒の鎧と暴虐の炎が激突し、凄まじい閃光と火花がスタジアム中に撒き散らされた。
「グゥゥ……!!」
絶え間なく続く高熱の嵐に晒され、ダーク・ロウの半透明な身体が少しずつ輪郭を失っていく。
苦悶の声を漏らしながらも、彼はマスクの奥から静かにゆきを振り返った。
「あ、貴方は……!」
「……」
ダーク・ロウは何も語らない。
ただ、力強い視線でゆきを見つめ返した。
そして、再び正面へと向き直ると、残された全力を両腕に込め、蒼い熱線を虚空へと弾き飛ばした。
空気を切り裂くような衝撃波がスタジアムを駆け抜ける。
レインボーネオスが残した虹色の羽根が、夜空を舞う星屑のようにきらりと輝いた。
やがて、ダーク・ロウの姿は羽根と共に光の粒子となり、ゆきのデッキの中へと静かに消えていった。
「なんだと……!? チィッ……! 目障リだ……あァ目障りな光だァ!!」
阿久津が忌々しげに顔を歪め、吠える。
「……」
ゆきはデッキに手を当て、ただ無言で立ち尽くしていた。
巨大モニターのライフポイントが、けたたましい音と共に減少していく。
間宮ゆき
LP:2000→500
熱風が去ったフィールドで、ゆきの脳裏に亜美の言葉が鮮やかに蘇る。
『その答えは、きっとデッキが教えてくれるわ』
「何惚けてんだテメェ!!! まだこっちの攻撃権は残ってんだよォ!! アンダークロックテイカーでダイレクトアタック!!」
阿久津の怒声が、スタジアムの静寂を乱暴に切り裂いた。
左エクストラモンスターゾーンに陣取る機械の魔物が、不気味な駆動音を鳴らしてゆきへ迫る。
アンダークロックテイカー
攻:1000
「……手札から、護封剣の剣士の効果を発動です!」
ゆきが手札からカードを力強く盤面に置く。
デュエルディスクが鋭い光を放ち、カードのホログラムが映し出された。
《護封剣の剣士》
効果モンスター
「相手の直接攻撃宣言時、このカードを手札から守備表示で特殊召喚できます!」
光の粒子が集束し、堅牢な盾を構えた黄金の剣士がゆきの前に舞い降りた。
護封剣の剣士
守:2400 光 戦士族 星8
「そして攻撃してきたモンスターの攻撃力がこのカードの守備力よりも低い場合、そのモンスターを破壊します!」
ゆきがアンダークロックテイカーを真っ直ぐに指差した。
「フゥンッ!」
護封剣の剣士が地を蹴る。
瞬時に距離を詰め、その輝く刃を一閃した。
アンダークロックテイカーは反撃の隙すら与えられず、光の軌跡の中に両断される。
細かな破片となって、虚空へと消え去っていった。
『なんとォオ!! チームHERO、ワンショットキルの窮地を凌いだぞォオォオ!!』
実況の叫び声と共に、スタジアムが爆発的な大歓声に揺れる。観客席を埋め尽くす光の波が、さらに一段と熱を帯びて大きくうねった。
「グゥッ……! テメェ……!!」
阿久津がギリッと奥歯を噛み鳴らし、ゆきを強く睨みつける。
ーメインフェイズ2ー
「チッ! 手札から煉獄の消華を発動ォ!」
阿久津は忌々しげに魔法カードをスロットに差し込んだ。
《煉獄の消華》
永続魔法
「手札を1枚墓地に送り、デッキより煉獄マジックトラップを手札に加える!! 煉獄の狂宴をサーチだ!」
デュエルディスクから弾き出されたカードを、素早く手札に引き込む。
「カードを2枚セット!」
阿久津は続けざまに二枚のカードを魔法・罠ゾーンに伏せた。
巨大なホログラムのカードが、ネヘモスの背後に重々しく顕現する。
「……フン、イキがるなよ! テメェを守るものはこれで消え去った! 次のターンに消し炭にしてやるよォ! ターンエンドだァ!」
阿久津が口角を歪め、傲慢な態度でターン終了を宣言した。
ーエンドフェイズー
阿久津剛
LP:4000
手札:0
伏せ:2
フィールド:
インフェルノイド・ネヘモス
「このエンドフェイズ、墓地に送られた焔聖騎士-ローランの効果発動です! このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズ時に炎属性戦士族モンスターか装備魔法カードを手札に加えることができます! 焔聖騎士-リナルドを手札に加えます!」
ゆきのデュエルディスクが青く発光し、ストレージから一枚のカードが自動的に押し出される。
彼女はそれを素早く抜き取り、手札へと収めた。
これで手札は5枚。
ードローフェイズー
「わたしのターンです!」
ゆきがデッキトップから流れるような動作でカードを引き抜く。
スタジアム上空の巨大モニターが鮮やかに切り替わり、彼女のターンの幕開けを告げた。
ースタンバイフェイズー
「この瞬間、トラップ発動ォ! 煉獄の狂宴!!」
阿久津の陣地に伏せられていたトラップカードが、禍々しい紫色の光を放ちながら反転する。
《煉獄の狂宴》
通常罠
「フィールドの煉獄の消華をコストに、デッキからレベルが8になるようにインフェルノイド共を特殊召喚する!」
「こちらも手札から速攻魔法発動です! ジェネレーション・ネクスト!!」
《ジェネレーション・ネクスト》
速攻魔法
「このカードは、わたしのライフが相手より低い場合、その差分以下の攻撃力を持つHEROをデッキから場に特殊召喚します!」
[チームHERO側ベンチ]
「あれは……!!」
良平が身を乗り出して目を見開く。
「あの時の……!」
ここのせがベンチの手すりを強く握りしめた。
「ゆき……!」
亜美の声に熱が籠もる。かつて別の戦いで希望を繋いだそのカードの登場に、仲間たちの瞳に強い光が灯った。
[デュエルフィールド]
「貴方のフィールドのインフェルノイド・ネヘモスは、モンスターをリリースすることでマジック、トラップカードの効果を無効にして除外できます。当然、このカードも無効にできます」
インフェルノイド・ネヘモスを前にしても、ゆきの声に震えはない。
スタジアムの強風が彼女の髪を揺らす中、真っ直ぐに阿久津を見据えていた。
「アァ?」
阿久津が不快げに眉をひそめる。
「それでも、わたしはこのカードを使います。たとえこのカードが無効にされたとしても、わたしは恐れません。どんなに辛いことがあっても、次が必ずあるから!」
「んだテメェ!! 誘ってんのかクソボケェ!! 雑魚一匹ごときのために使う価値なんかねぇんだよォオ!!」
阿久津はゆきの挑発に乗らず、エースモンスターの無効効果を温存する選択をとった。
「では、さらに追加で速攻魔法、月の書を発動!!」
神秘的な月の光を宿した魔法カードが、追加で提示される。
《月の書》
速攻魔法
「チィッ……!」
chain1 煉獄の狂宴
chain2 ジェネレーション・ネクスト
chain3 月の書
フィールドに柔らかな月の光が降り注ぐ。圧倒的な暴威を誇っていたインフェルノイド・ネヘモスは抗う間もなく、強引に裏側守備表示の巨大な石版へと姿を変えられた。
「そして、ジェネレーション・ネクストの効果でデッキからE・HERO シャドー・ミストを特殊召喚です!」
漆黒の霧がフィールドに立ち込める。その中から、影に潜むHEROが静かに降り立った。
E・HEROシャドーミスト
守:1500 闇 戦士族 星4
「ジェネレーション・ネクストの効果で場に現れたモンスターはこのターン、いかなる効果も使えません」
「チッ! 来い、インフェルノイド共ォオ!!」
阿久津の罠の効果が処理される。
煉獄の扉が開き、三体の悪魔がフィールドへ吐き出された。
インフェルノイド・デカトロン
守:200 炎 悪魔族 星1 チューナー
インフェルノイド・デカトロン
守:200 炎 悪魔族 星1 チューナー
インフェルノイド・ベルフェゴル
守:0 炎 悪魔族 星6
「インフェルノイド・デカトロンが特殊召喚された時、デッキのインフェルノイドを墓地に送りその効果をコピーする! インフェルノイド・リリスを──」
「そのカードが効果を使う瞬間を待っていました……!」
ゆきの高く澄んだ声が、阿久津の声を遮る。
「ア?」
「手札から速攻魔法、マスク・チェンジを発動です!」
《マスク・チェンジ》
速攻魔法
「自分フィールドのヒーローモンスターを一体を変身させます!」
「変身だと……? テメェ、まさか……!」
フィールドを覆っていた漆黒の霧が、シャドー・ミストの身体を中心にして凄まじい勢いで収束していく。
「──わたしを守って……いいや、一緒に戦って!!」
眩い閃光がスタジアムを包み込む。
「──ー変身!! M・HEROダーク・ロウ!!」
「ウォオォオォオッ!!」
M・HEROダーク・ロウ
攻:2400 闇 戦士族 星6
光が晴れたフィールドに立つのは、黒いマスクのHERO。
今度は半透明の幻影ではなく、圧倒的な覇気を伴って、ゆきの前に力強く降臨した。
『こ、このスタンバイフェイズで怒涛の攻防戦が繰り広げられている!! 実に6枚ものカードがその効果を飛ばしあっているぞォオォオ!!? チーム煉獄とチームHERO、どちらも一歩も引かない!!』
観客の熱狂がスタジアムの空気を震わせる。うねるような歓声が、フィールドの二人を包み込んだ。
「ダーク・ロウが場にいる限り、貴方はカードが墓地に送られるとき、代わりに除外しなければなりません! デッキから墓地に送るカードも除外されます!!」
ダークロウが放つ威圧感が、阿久津の陣地を完全に制圧する。
「ぐぅ……!」
「インフェルノイド・デカトロンというカードのことは事前に勉強してました! そのカードは自分の効果でカードを墓地に送れなかった場合、コピーする効果は適用できません!」
ゆきの毅然とした声が、熱風を切り裂いてスタジアムに響き渡る。
「ぎぃぃ……テメェ……!!」
阿久津の顔が屈辱と怒りで朱に染まった。
ーメインフェイズー
「手札のゴッドフェニックス・ギア・フリードの効果発動です! 墓地の装備魔法、リビング・フォッシルを除外して、特殊召喚できます!」
ゆきの手元でカードが眩く発光する。
《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》
効果モンスター
「うぜぇんだよ!! カウンタートラップ発動!! 神の通告!!」
阿久津が苛立ちと共に罠カードを力任せに開く。
《神の通告》
カウンター罠
「モンスター効果が発動した時、それを無効にし破壊する!!」
阿久津剛
LP:3600→2100
ビリビリビリビリッ
神の怒りを代行する落雷が、虚空から一直線に降り注いだ。
「あぁっ……!?」
ゆきの差し出したカードが空中で粉々に砕け散る。強烈な電撃の余波が、彼女の右手を容赦なく焼いた。
「ッ……! まだです! 焔聖騎士-モージを召喚!!」
ゆきは痛みに顔をしかめながらも、流れるような動作で次のカードを盤面に展開する。
焔聖騎士-モージ
攻:1500 炎 戦士族 星4
「トゥアッ!!」
「さらにフィールドに炎属性戦士族がいるため、焔聖騎士-リナルドは手札から特殊召喚できます!」
焔聖騎士-リナルド
守:300 炎 戦士族 星1
「ハァッ!」
若き騎士が紅蓮の炎と共にモージの隣に並び立つ。
「リナルドが特殊召喚された場合、墓地の装備魔法を回収できます! 聖剣-カリバーンを手札に加えます!」
デュエルディスクから自動で排出されたカードを、ゆきは素早く引き抜いた。
「今手札に加えた聖剣カリバーンをリナルドに装備です!」
《聖剣カリバーン》
装備魔法
「聖剣カリバーンの効果発動! ライフポイントを500回復します!」
リナルドが白銀に輝く聖剣を天に掲げる。
温かな光の粒がフィールドに降り注ぎ、ゆきの右手を焼いた痛みを和らげていく。
間宮ゆき
LP:500→1000
「さらに、リナルドと護封剣の剣士をリンクマーカーにセット!! 召喚条件は、戦士族モンスター2体!」
スタジアムの上空に、巨大なリンク回路が展開される。
二体の戦士が光の矢に姿を変え、回路のマーカーを次々と点灯させた。
↙︎戦士族+↘︎戦士族=LINK2
「聖騎士の追想イゾルデを再びリンク召喚!!」
聖騎士の追想イゾルデ
攻:1600 光 戦士族 LINK2 ↙︎↘︎(右EXゾーン)
「リンク召喚したイゾルデと、対象が不在となり破壊された聖剣カリバーンの効果を発動します!」
chain1 聖剣カリバーン
chain2 聖騎士の追想イゾルデ
「イゾルデのリンク召喚成功時の効果で、デッキから焔聖騎士-ローランを手札に加えます!」
デッキから弾き出されたカードを的確に回収する。
「そして、聖剣カリバーンは破壊された時、フィールドのモンスターに再び装備できます! イゾルデに装備!!」
《聖剣カリバーン》
装備魔法
聖騎士の追想イゾルデ
攻:1600→2100
「聖剣カリバーンの効果をもう一度発動します!」
再び温かな光が降り注ぎ、ゆきのライフが回復する。
間宮ゆき
LP:1000→1500
「チッ、小賢しい真似を……!」
阿久津が忌々しげに吐き捨てる。
「さらにイゾルデのもう一つの効果も発動です! デッキから、装備魔法カード、聖剣クラレント、『焔聖剣-デュランダル』、『焔聖剣-オートクレール』、『焔聖剣-ジョワユーズ』の4枚を墓地に送り、焔聖騎士-オジエを特殊召喚!!」
ゆきのデッキから4枚のカードが光となって墓地スロットへと吸い込まれる。
紅蓮の炎を纏うオジエが再びフィールドに姿を現した。
焔聖騎士-オジエ
攻:1600 炎 戦士族 星4
「オジエが場に現れたとき、デッキから聖剣カードを墓地に送ることができます! 聖剣の導く未来を墓地に送ります!」
ゆきは淀みない手さばきで、さらにデッキを圧縮していく。
『圧倒的な手数でモンスターを繰り出していく!! フィールドにはレベル4モンスターが2体! これはァァァ!!?』
実況の声が上擦る。
「レベル4のオジエとモージでオーバーレイ!!」
二体の騎士が光の帯となり、フィールドに開いた銀河の渦へと吸い込まれていく。
☆4×☆4=★4
「──汝、大いなるブリテンを統べる聖剣の後継者! 甦れ、御剣の伝説よ!」
ゆきの高く澄んだ声が、スタジアムに吹き荒れる熱風を真っ向から切り裂いた。
「──エクシーズ召喚! 神聖騎士王コルネウス!!」
圧倒的な光の柱の中から、威風堂々たる王が降臨する。
「ハァァァ、テヤァ!!」
神聖騎士王コルネウス
攻:1500 光 戦士族 ランク4
『三体目の切り札を呼び出したァァァ!! チームHEROが優勢!! このまま決めきれるかァァァ!!?』
観客席から沸き起こる大歓声が、最高潮に達しようとしていた。
「コルネウスの効果を発動です! エクシーズユニットを二つ使って、相手フィールドのカードを2枚を手札に戻すことができます! 裏側表示になっているインフェルノイド・ネヘモスとインフェルノイド・ベルフェゴルを手札に戻します!」
「セイッ!!」
神聖騎士王コルネウスが白銀の剣を鋭く振り抜く。
放たれた不可視の衝撃波が、フィールドのインフェルノイドたちを容赦なく薙ぎ払った。
「ぎしゃぁっ!?」
悲鳴を上げたベルフェゴルと、裏側表示の巨大な石版が光の粒子へと分解される。それらは風に流されるように、阿久津のデュエルディスクへと吸い込まれていった。
「ふん……」
阿久津は不敵な笑みを崩さず、手札に戻った二枚のカードを握り直す。
巨大モニターに映る彼の手札枚数が更新された。
「今、エクシーズユニットとして墓地に送られた焔聖騎士-モージの効果発動! 墓地または除外されている装備魔法か炎属性戦士族を3枚、聖剣アロンダイト、天命の聖剣、焔聖騎士-オジエをデッキに戻して1枚ドローします!」
ゆきのデュエルディスクが滑らかな駆動音を立て、カードを排出する。彼女はそれを静かに引き抜き、手札へ加えた。
「バトルです!」
ーバトルフェイズー
ゆきが真っ直ぐに指を突きつける。
「神聖騎士王コルネウスで、インフェルノイド・デカトロンに攻撃!!」
「ぎゃはっ! 墓地の超電磁タートルの効果を発動ォ!!」
阿久津の嘲笑がスタジアムに響く。
「えっ……!?」
「こいつを除外し、バトルフェイズを終了する!!」
阿久津が墓地スロットからカードを引き抜く。
その瞬間、フィールドを覆っていた熱気が、突如として発生した強力な電磁波によって強制的にかき消された。
肌を刺すような冷たい静電気がスタジアムを駆け抜け、ゆきの髪がふわりと逆立つ。コルネウスの放った剣閃は、見えない磁場の壁に阻まれたようにピタリと停止し、霧散してしまった。
[チームHERO側ベンチ]
「なっ、いつの間に!?」
ここのせが身を乗り出し、驚愕に目を見開く。
「もしかして……!」
良平がハッとして過去の盤面を振り返った。
「……インフェルノイド・ティエラの効果使用時……」
恵が無機質な声で言う。
「くそっ、気付かなかった……!!」
亜美が悔しげにベンチの手すりを叩いた。
スタジアムの観客たちも、阿久津の仕込んでいた見えない罠にざわめきを隠せない。
[デュエルフィールド]
ーメインフェイズ2ー
「舐めやがって……」
阿久津の全身から、先程までの狂笑とは違う、底冷えするような濃厚な殺気がねっとりと立ち昇る。
彼を見上げるゆきの背筋に、氷を当てられたような悪寒が走った。
「……うう、な、なら! 墓地の焔聖騎士-モージと、焔聖騎士-オジエの効果です! 墓地からフィールドの戦士族モンスターに装備カードとして装備できます! ダーク・ロウに装備!」
ゆきは恐怖を振り払うように声を張り上げる。
「ハァァァ……!」
ダークロウの鎧に、紅蓮の炎が渦を巻いて纏わりつく。
周囲の空気が急速に加熱され、立ち昇る陽炎がフィールドの景色をぐにゃりと歪ませた。
「カードを1枚セットしてターン終了です!」
ゆきの足元に、伏せカードの巨大なホログラムが重々しく顕現する。
伏せカード ブゥンッ
ーエンドフェイズー
間宮ゆき
LP:1500
手札:1
魔法罠:
セットカード
焔聖騎士-オジエ
焔聖騎士-モージ
聖剣カリバーン
フィールド:
神聖騎士王コルネウス
聖騎士の追想イゾルデ
M・HEROダーク・ロウ
[チームHERO側ベンチ]
「くそっ、あと一歩足りねぇか……!」
ここのせが金属製の手すりを力強く叩く。
スタジアム上空の巨大モニターが、緊迫した両者のライフポイントを青白く映し出していた。
「でもダーク・ロウが墓地肥やしとドローカードをシャットアウトしてる! 状況は、ゆきが有利よ!」
亜美が身を乗り出して戦況を肯定する。
フィールドから吹き付ける風が、彼女の赤い髪を大きく揺らした。
「うん」
良平は深く頷く。だが、その表情はひどく硬い。
彼の脳裏に、唯信の声が木霊していた。
『オベリスクブルーを舐めるナ!!』
「……だけど相手は腐ってもオベリスクブルーだ。そしてインフェルノイドは、底力があるデッキ。何をしてくるかわからないよ」
良平の視線の先では、観客席を埋め尽くすアカデミアの青と黄色と赤の制服。
「……同意する。しかしお互いにリソースが尽きていると推測される……」
恵が淡々と状況を分析した。
彼女の瞳に内蔵された網膜デバイスには、両者のデッキ残量とフィールドのカード情報が、緑色のデータ群となって絶え間なく流れている。
「そうだね。この1ターンを凌げるかどうかで勝負が決まる……」
良平は息を呑み、フィールドで毅然と立ち続けるゆきの細い背中を見つめた。
「……大丈夫。ゆきなら、大丈夫よ」
亜美の声には、一点の曇りもなかった。
「祭乃木……」
「根拠はない! アタシの勘!」
亜美が顔を上げ、ニカッと笑って見せる。
スタジアムの眩い照明が、その自信に満ちた笑顔を鮮やかに照らし出した。
「へっ、なんでぇそりゃ」
ここのせが呆れたように息を吐く。だが、その口角は微かに上がっていた。
[デュエルフィールド]
ードローフェイズー
「クソが……! 舐めンじゃねぇぞ……!!」
阿久津がデュエルディスクからカードを乱暴に引き抜く。
手札が1枚追加されたことを示す無機質な電子音が鳴った直後、彼は引いたカードを覗き込み、歓喜に顔を歪ませた。
ースタンバイフェイズ→メインフェイズー
「くははははははッ!!」
「ッ!?」
「今日はどうにも力が安定しなくてムカついてたからよォ、テメェを焼き殺してスッキリさせてもらうぜ間宮ァ! くははッ、なんせ俺のデッキがそうしろって言ってるからなァァ!!」
阿久津の狂笑がスタジアムに響き渡る。
「……!」
「フィールドのインフェルノイド・デカトロンと手札のインフェルノイド・ベルフェゴル、インフェルノイド・ネヘモスを除外し、墓地からインフェルノイド・リリスを特殊召喚ッ!!」
阿久津がカードを盤面に叩きつけると同時、スタジアムの大地が再び赤黒く発光し、空間そのものを震わせるような絶叫と共にインフェルノイド・リリスが這い出てきた。
「グギァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
インフェルノイド・リリス
攻:2900 炎 悪魔族 星9
『再びインフェルノイドの切り札が現れたァァァァァッ!! 切り裂くような咆哮がこの空間を強く振動させているゥゥ!!?』
「リリス!! あの女のバックを焼け野原にしてやれェ!!」
「オォオァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
インフェルノイド・リリスが嘶き、フィールド全体を焼き尽くす巨大な炎の嵐を巻き起こす。
「うっ……! ま、……けません!! トラップ発動!!」
迫り来る熱波の中、ゆきはで罠カードを開いた。
《アームズ・コール》
通常罠
「デッキから装備魔法を手札に加え、その後フィールドの装備可能なモンスターに装備します! 聖剣ガラティーンをコルネウスに装備!!」
「馬鹿が!! そのまま破壊されろォオ!!」
阿久津の宣告通り、リリスの放った炎の嵐がゆきの陣地を蹂躙する。
展開されたばかりの『聖剣ガラティーン』、そして『聖剣カリバーン』、『焔聖騎士-オジエ』、『焔聖騎士-モージ』が次々と高熱に飲み込まれ、光の塵となって吹き飛ばされていく。
「うぅッ……! 破壊された聖剣カリバーン、聖剣ガラティーンと焔聖騎士-モージの効果をそれぞれ発動です!!」
ゆきは熱風に煽られながら叫ぶ。
chain1 聖剣カリバーン
chain2 聖剣ガラティーン
chain3 焔聖騎士-モージ
「墓地、除外ゾーンのゴッドフェニック・ギア・フリードと『焔聖剣デュランダル』、焔聖騎士-リナルドをデッキに戻してドローです!」
デュエルディスクから排出されたカードをドローし、すぐさま次の手に出る。
「破壊された聖剣は1ターンに1度再装備できます! カリバーンをイゾルデに、ガラティーンをコルネウスに装備です!」
《聖剣カリバーン》
装備魔法
聖騎士の追想イゾルデ
攻:1600→2100
《聖剣カリバーン》
装備魔法
神聖騎士王コルネウス
攻:1500→2500
「チッ!! 足掻いてんじゃねぇぞ!! どのみちテメェは、この攻撃で灰になるんだからよォオ!! 死者蘇生、発動ォオ!!」
阿久津は苛立ちに任せて魔法カードをスロットにねじ込んだ。
《死者蘇生》
通常魔法
地鳴りのような重低音がスタジアムを揺らす。
虚空に浮かび上がった巨大な紋章から、極大の熱量と共にインフェルノイド・ティエラが再び顕現した。
「グギァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
インフェルノイド・ティエラ
攻:3200 炎 悪魔族 星11
「……うっ……!」
ティエラが発する強烈な熱気と威圧感に、ゆきは息を呑む。
「ぶち殺してやるよォオ! バトル!!」
ーバトルフェイズー
巨大モニターが赤く点滅し、決着の時が来たことを告げる。
「これで仕留めてやるよ!! インフェルノイド・ティエラ!!! あのムカつくマスク野郎を女もろとも消し飛ばせ!!」
「ギィィァァァァァァァァァァァァァッ!!」
インフェルノイド・ティエラ
攻:3200
M・HEROダーク・ロウ
攻:2400
ティエラの口内に圧縮されたエネルギーが、一直線にM・HERO ダーク・ロウへと放たれる。
「フゥゥンッ!! ……ウゥゥ……ォオォオォオォオォオォオォオォオッ!!!」
ダーク・ロウは一歩も引かず、その両腕で強大なエネルギーを受け止めようとする。
「手札の焔聖騎士-ローランの効果発動!!」
《焔聖騎士-ローラン》
効果モンスター
ゆきが手札のカードをスロットに差し込む。
焔聖騎士-ローランの誘発効果により、攻撃力500ポイント上昇する装備カードと化す。
「ォオッ……!!!」
M・HEROダーク・ロウ
攻:2400→2900
しかし、圧倒的な神の如き力を持つティエラの前に、その抵抗は長くは続かなかった。
「グァッ……!!」
防御を貫き、蒼き熱線がダーク・ロウの身体を容赦なく消し飛ばす。
残った熱線の余波が、ゆきの肩口を鋭く掠めていった。
「っ……!!」
間宮ゆき
LP:1500→1200
「チッ!! さっさと、死ねよ!! クソがァァァ!! インフェルノイド・リリス!! トドメを刺せ!!!」
阿久津の無慈悲な号令が下る。
「ギュァァァァァァァァァァッ!!!」
リリスの口から青白い熱球が吐き出され、聖騎士の追想イゾルデへと迫る。
インフェルノイド・リリス
攻:2900
聖騎士の追想イゾルデ
攻:2100
「きゃあぁぁッ!!」
インフェルノイド・リリスが青白い熱球を吐き出した。
それが聖騎士の追想イゾルデに向かう。
金髪と白髪のイゾルデたちはなす術無く粉砕され、凄まじい爆風を巻き起こした。
「きゃあぁぁッ!!」
間宮ゆき
LP:1200→400
ゆきの軽い身体は、弾かられるように吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
地面に伏せたまま彼女はピクリとも動かない。
[チームHERO側ベンチ]
「ゆきッ!!!」
亜美の悲痛な叫び声が、爆発の余韻が残るスタジアムに響き渡る。彼女は身を乗り出し、隔てられたベンチのフェンスを指が白くなるほど両手で強く握りしめた。
「間宮!!」
良平もまた、血の気を失った表情で立ち上がり、フィールドに向かって声を張り上げた。
「間宮ッ!!」
ここのせが手すりから身を乗り出し、喉が裂けんばかりの声を上げる。
[デュエルフィールド]
ーメインフェイズ2→エンドフェイズー
阿久津剛
LP:2100
手札:0
魔法罠:なし
フィールド:
インフェルノイド・リリス
インフェルノイド・ティエラ
「ひゃはははははははッ!!」
阿久津の笑い声が響く。
「う……」
意識が白濁として、音が歪んで聞こえる。
地面の冷たさが肌に染みていく。
(……痛い……)
息が詰まりそうだ。
(痛くて……怖くて……身体が動かない)
胸が張り裂けそうだ。
(きっと祭乃木さんは、このままわたしが負けてしまっても怒ったりしない。日和田さんもここのせさんも恵さんもわたしを責めたりはしない)
今にも涙が溢れそうだ。
(でも……)
ライフはまだ残っている。
フィールドにも手札にもまだカードがある。
(このまま逃げていいのでしょうか)
音が歪む。
視界が歪む。
黒く沈むような感覚だった。
『アンタはそれでいいの?』
(あの日の祭乃木さんの声がした)
『アンタは本当にそれでいいの?』
「……このままで……いいわけありません……!」
『だったら立ちなさい!! 間宮ゆき!!』
「う、うぅ……!!!」
全身全霊で重たい身体を持ち上げた。
片足をつき、両手で上体を起こす。
黒くなっていく視界を無視して、強引に目を開けた。
その視線の先には目を見開いた阿久津剛の姿があった。
「なんだと……! テメェ、何故倒れないッ!!?」
「……わたしはデュエリストです。ライフポイントがある限り、負けを認めるわけにはいきません……!」
ふらりと今度こそゆきはその足で立ち上がった。
「みんなが教えてくれました。前に進むことの難しさと大切さを。わたしは貴方を倒して前に進む!!」
「生意気言ってんじゃねぇよ!!」
ードローフェイズー
「わたしのターン!!」
ゆきが勢いよくデッキトップからカードを引き抜く。
ースタンバイフェイズ→メインフェイズー
「聖騎士モルドレッドを召喚!!」
聖騎士モルドレッド
攻:1700 光 戦士族 星4
「さらに手札の焔聖騎士-アストルフォの効果を発動です!! 墓地の焔聖騎士-モージを除外して、レベル4として特殊召喚!」
焔聖騎士-アストルフォ
守:200 炎 戦士族 星1→4
「レベル4となったアストルフォとレベル4のモルドレッドでオーバーレイ!!」
二体の騎士が光の帯となり、足元に開いた銀河の渦へと吸い込まれていく。
☆4×☆4=★4
「──汝、輪転する運命の撚り糸。泉の元に来たれ、聖剣の担い手よ!!」
眩い閃光がフィールドを包み込む。
「エクシーズ召喚! 聖騎士王アルトリウス!!」
聖騎士王アルトリウス
攻:2000 光 戦士族 ランク4
「エクシーズ召喚成功時、効果発動です!!」
「やらせねぇよボケェ!! インフェルノイド・リリスを生贄に、その効果を無効に除外する!!」
阿久津の宣言と共に、インフェルノイド・リリスが身を挺して凄まじい怨念の波動を放つ。
その呪縛に囚われ、召喚されたばかりのアルトリウスは抗う間もなく光の粒子となって空間から消し去られてしまった。
「無駄だ!! テメェは負け犬なんだよォオ!!」
阿久津が勝利を確信したように吠える。
「いいえ。インフェルノイド・リリスがモンスター効果に強いことは知っています。しかし、それは今使い切りました。これで貴方を守るものは何もありません!」
土煙から立ち上がったゆきの瞳には、一切の迷いがない。確かな勝機を見据えていた。
「アァ?」
「わたしの切り札は、ここにあります! 墓地の聖剣-EXカリバーンを除外して効果を発動!!」
ゆきのデュエルディスクが強く発光し、除外されたカードのホログラムが上空に浮かび上がる。
《聖剣-EXカリバーン》
装備魔法
「聖剣-EXカリバーンは、フィールドの聖騎士エクシーズモンスターと名前が異なる聖騎士エクシーズモンスターを、そのモンスターの上にエクシーズ召喚扱いで特殊召喚させます!」
フィールドに残っていた神聖騎士王コルネウスが、極光の渦へと姿を変えていく。
★4→★5
「──遠き島が剱を謳う。目覚めの調べを剱が鳴らす。いつかの未来で王の鼓動を呼び覚ます!」
スタジアム全体を黄金の光が包み込む。ゆきの高く澄んだ詠唱が、観客席の隅々にまで響き渡った。
「エクシーズ召喚! 来てください、神聖騎士王アルトリウス!!」
光の奔流の中から、純白と黄金の甲冑を纏った真なる騎士の王が降臨する。
「行こう、我がマスター!!」
神聖騎士王アルトリウス
攻:2200 光 戦士族 ★5
『間宮ゆきが、切り札を呼び出したァァァァァッ!! 現れたのは白銀の鎧を纏う騎士の王!! 聖騎士のエースモンスターだァァァ!!』
スタジアムを埋め尽くす観客から、鼓膜を震わせるような大歓声が沸き起こる。
「はっ! 大層に呼び出したくせに雑魚モンスターじゃねぇか!!」
「エクシーズ召喚したアルトリウスは、墓地の聖剣を3枚、装備することができます!! 聖剣ガラティーン、聖剣カリバーン、聖剣クラレントを装備!!」
《聖剣ガラティーン》
装備魔法
《聖剣カリバーン》
装備魔法
《聖剣クラレント》
装備魔法
アルトリウスの周囲に、三振りの聖剣が顕現する。それぞれの剣から放たれる強大な魔力が王の力と共鳴し、凄まじいオーラとなってスタジアムの風を巻いた。
「ウォオォオッ!!」
神聖騎士王アルトリウス
攻:2200→3700
「アルトリウスの効果を発動します! 1ターンに1度、エクシーズユニットを使ってフィールドのモンスターを破壊できます!」
アルトリウスが白銀の剣を力強く振り抜く。
圧倒的な剣閃が空を裂き、阿久津の場に君臨していた最強の悪魔、インフェルノイド・ティエラを真っ二つに両断した。巨体は爆発ののち、跡形もなく消え去る。
「ぐっ……くぅ……!」
阿久津の顔から、ついに余裕が完全に消え失せた。
「バトルです!!」
ーバトルフェイズー
「ふざけんなッ!! テメェごときにこの俺が……!!」
「これがわたしたちヒーロー部の力です!! 行きますよ! 神聖騎士王アルトリウスでプレイヤーにダイレクトアタック!!」
神聖騎士王アルトリウスが、極限まで高められた闘気を剣に込める。黄金の光が一本の巨大な柱となって天を衝いた。
「煌々たる選定の剱、揺るぎない生命の懸河。全てを払う力となれ!」
剣先から溢れ出す光が、全てを浄化する一撃となる。
「──エクスカリバァァァァァンッ!!!」
「ォオオオッ!!」
神聖騎士王アルトリウス
攻:3700
「ウォオァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
光の奔流が阿久津を完全に飲み込む。断末魔のような叫び声がスタジアムに響き渡り、上空の巨大モニターに表示されていた彼のライフポイントが、一気に底をついた。
阿久津剛
LP:2100→0
『き、決まったァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!』
実況の張り裂けんばかりの絶叫がこだまする。
観客席から沸き起こった歓声は、スタジアムそのものを揺るがすほどのうねりとなって、勝利者であるゆきを温かく包み込んでいた。
[チームHERO側ベンチ]
「よっしゃぁぁ!!」
決着の瞬間、ここのせがベンチから勢いよく身を乗り出す。
「よしッ!!!」
良平も立ち上がり、両手で固く拳を握りしめながら
「……!」
恵の口元にも、今は確かな微笑みが浮かんでいた。
「やってやったわぁぁ!!」
亜美は怪我をした腕の痛みなど完全に忘れ去り、天に向かって力強く拳を突き上げる。
[デュエルフィールド]
『誰が!! 誰が予想したか、この結末を!!! 準決勝、異例の高校生同士の戦いは、まったくの無名!! チームHEROが制したァァァ!!』
鼓膜を震わせる実況の絶叫と共に、スタジアムがこの日一番の大歓声に包み込まれる。観客席を埋め尽くす光の波が激しくうねり、勝者を称える拍手が嵐のように巻き起こった。
『これにより、決勝の舞台では最大最強、無敗のクイーン率いるチームディスティニーと奇跡のチーム、チームHEROが激突することになるぞォオォオッ!!!』
人々の熱狂が地鳴りとなってスタジアム全体を震わせる。
上空の巨大モニターには、最終決戦を告げる二つのチームロゴが眩い閃光と共に大写しにされていた。
[スタッフ控え室]
スタジアムの喧騒が分厚いガラス越しに微かに響く、静かな特別室。
巨大なモニターに映し出される勝利の光景を青い制服の少女たちが見つめていた。
「Congratulations! HERO's!」
神川がモニターに向かって大仰に両手を広げ、芝居がかった手つきで彼らの勝利を称える。
「うふ、私たちを倒したのだから当然ね」
雪乃は優雅に脚を組み替えながら、どこか誇らしげな笑みを浮かべた。
「ボクらも負けてられないね」
ツァンはモニターに映るゆきの姿を見つめ、隠しきれない闘志を瞳に宿して不敵に微笑む。
「ふん」
唯信は壁に寄りかかり腕を組んだまま、短く鼻を鳴らした。
[スタジアム内 展望席]
熱狂の渦から完全に隔絶された、スタジアム最上階の薄暗い特賓室。
照明の落ちた冷たい空間に、不気味な声が地を這うように響いた。
「……目障リナモノが増エた。あぁ、目障りだ」
アカデミア理事長である漠が、どす黒い感情を孕んだ異常な声音でモニターを睨みつける。
「……」
その傍らに立つ湯川は、敗北してフィールドに倒れ伏す阿久津の姿を、まるでゴミでも見るかのような冷徹な眼差しで見下ろしていた。
「い、いかがいたしますか?」
部屋の隅に控えていた白衣の研究員が、冷や汗を流しながら怯えた声で指示を仰ぐ。
「チッ、また負けたか。素養はあるが思ったより使えないな。あの学生はもう用済みだ。人間性を確保してやる必要もない。停止させて回収しろ」
湯川は一切の感情を交えることなく、ただ壊れた部品を破棄するかのような無慈悲な命令を下した。
[デュエルフィールド]
「クソが……あり得ねぇ……!!」
阿久津が頭をぐしゃぐしゃと掻きむしり、血走った目でゆきを見た。
「あァァァ、クソッ、なんで力が使えねェんだよォオ!! もう一度だッ!! もう一度やらせろォオ!!!」
頭と髪を振り乱して阿久津は吠える。
しかし、それは誰にも届かず掻き消えた。
やがて彼の元に数人の黒服の男達が駆け寄り、何かの機材を頭からかぶせた。
それは目まで覆うヘルメットのような機械で、目の部分は黒く目隠しのようになっている。
なおも取り乱す阿久津を無視し、彼は男たちに引きづられるように退場していった。
「……」
ゆきはただ呆然と立ち尽くしていた。
アルトリウスは、振り返りゆきを見る。
やがてその手に持つ聖剣を鞘に仕舞うと、片膝をつき頭を垂れた。
そして、そのままゆっくりと消えた。
「ゆきー!!!」
フィールドの熱波が引き切らない中、ベンチからいち早く飛び出した亜美が、一直線にゆきのもとへ駆け寄った。
「祭乃木さ……わぶっ!」
出迎えようと振り返ったゆきの言葉は、勢いよく飛び込んできた亜美の激しい抱擁によって呆気なく遮られた。
「よくやったわ!! すごいわよ、ゆき!!」
「さ、祭乃木さん! く、くるしいですぅ!」
ゆきは腕の中で身をよじり、息苦しさに涙目を浮かべて抗議の声を上げた。
「こら、祭乃木。そんなに抱きしめたら苦しいだろって」
後から駆けつけた良平が、苦笑いを浮かべながら宥めに入る。
「英雄の出迎えなんだぜ? 祭乃木」
ここのせもポケットに手を突っ込んだまま歩み寄り、からかうような笑みを向ける。
「……窒息の可能性あり……」
恵は相変わらずの淡々としたトーンで言う。
「ごめんごめん! ついね!」
仲間たちの言葉を受け、亜美は弾かれたように腕を離し、照れ隠しのように快活な笑声を上げる。
「わたし……勝ったんですね……」
「そう。アンタの勝ちよ、ゆき」
亜美達の顔を見てようやく現実感を得た。
電光掲示板は、チームHEROが勝利したことを讃える文字が踊る。
観客席からは割れんばかりの拍手と歓声が聞こえた。
「う……」
ゆきは思わず俯いて肩を震わせる。
抑えようにも抑えられない雫が次から次へと溢れていく。
熱い想いが冷やされるように、苦い記憶が昇華するように。
「うぁぁ……! うぁぁぁぁぁ……!」
「……」
亜美は何も言わずに、もう一度ゆきの顔を胸に抱いた。
しばらくそうしているとやがて落ち着いたゆきがゆっくりと顔を上げると恥ずかしそうに笑った。
「えへへ、せっかく勝ったのに、カッコ悪いですね……」
「何言ってんのよ、アンタは今、世界一カッコいいわよ」
ゆきの両肩をしっかり握り、亜美が言う。
「でもあんま泣いてるとせっかくの化粧が落ちるわよ」
「えへ、もういいんです」
そんな会話をしていると後ろから、わざとらしい拍手が聞こえてきた。
全員が振り向くと、そこには黒のロングコートと美しい長髪を靡かせた女──デュエルクイーンが拍手をしながら歩いている。
その背後には、絵草霜とアバンス──つまりはチームディスティニーがそこにいた。
クイーンは、亜美の前でその足を止めた。
「見事だ。チームHERO諸君」
「クイーン……」
「怪我は……ふむ、思った以上に無事のようだ」
「当然でしょ! アタシ達はヒーロー部、あんなやつらには負けないわ!」
「くっくっ、若きデュエリストは傲慢なくらいがちょうどいい」
「アンタに傲慢って言われたくないわよ! 言っとくけど、アンタ達にだって負ける気はないわ!」
「ほぉ、初戦の勢いは衰えず、か。このクイーンも約束通り無敗のまま諸君らの前に立った。くっくっ、これも運命なのかもしれんな」
クイーンは優雅に笑う。黒いコートが風に靡いていた。
ここのせは、そんなクイーンの横に立つ浅黒い肌の男──絵草霜に目を向けた。
「おいおっさん」
「かっかっかっ、おっさんたぁ傷付くのぉ」
「星遺物の力の意味がなんとなくわかった。オレはオレ自身の強さを得たぜ」
「そいつはよかったのぉ。じゃが、それで勝てるほどデュエルは甘いもんじゃないわ」
「そんなことはわかってらぁ」
「かっかっ、ならいいわい。じゃああの日のデュエルの続き、相手しちゃるわ」
一方、深い青のコートを着た男──アバンスは良平を見つめていた。
対する良平もまた細くなった瞳孔を彼に向ける。
「……」
「……」
言葉はない。
だが、確かな鼓動を感じる。
良平は睨みながら思考する。
(勝つならあの先発のこの男を撃ち落とす必要がある。でも無敗のチーム相手にどこまで通用するか……)
3人の様子に恵とゆきはただ立ち尽くすばかりだった。
「……」
「はわわわ……」
クイーンは再度5人を見渡し、そして口の端を上げた。
「くっくっくっ、その意気や良し。奮闘を楽しみにしているぞ、チームHERO!」
「この大会のヒーローはアタシ達よ。思い知らせてやるんだから! 覚悟しなさい、チームディスティニー!」
両者は睨み合う。
片方は余裕の笑みを浮かべて。
片方は精一杯の覇気を浮かべて。
会場の熱気と拍手は止まることを知らなかった。
▼あとがき
長かった準決勝、VSチーム煉獄戦終幕です!
ここまでご愛読いただき誠にありがとうございます!
▼次回予告
第48話 『前夜』
デュエルスタンバイ