【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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脈動する世界Ⅱ

 

 ソレスタルビーイングがリベリアの争いに武力介入したという情報から(しばら)く。彼等についての詳細な情報を求めたカガリがデュランダルから聞いたのは、まるで寝耳(ねみみ)に水の、耳を疑うような情報だった。

 

「ユニウスセブンが動いてるって…本当なのか、それは!?」

 

 これで何度目になるか分からないカガリの叫ぶかのような声。それに対するデュランダルの沈鬱な表情も合わさって、軽いデジャビュを感じさせる。

 

 しかし、それを気にする余裕がないほど、その場にいる者達は重大な事態の中にあった。

 

「そんな、一体何故…!」

「判りません。だが動いているのです。それもかなりの速度で、最も危険な軌道を」

 

 ユニウスセブン。

 それはこのコズミック・イラの()の歴史を象徴するもの。「血のバレンタイン」と呼ばれ、地球・プラント間の争いが本格的な武力衝突に発展したきっかけの地でもある。

 

「それは本艦でも確認しました。簡易的なデータを作成したので、ご覧下さい」

 

 そう言ってタリアがモニターに映し出したのは、動き出すユニウスセブンの姿とそれがこの先どのようなルートを辿(たど)るかのシミュレーションデータ。

 そして、軌道(きどう)がズレたユニウスセブンが向かう先には……地球がある。

 

「…落ちたら、落ちたらどうなるんだ?オーブは…いや地球は!」

「あれだけの質量のものです。申し上げずとも、それは姫にもお判りでしょう」

 

 そんなこと、当然カガリにも判っている…いや、(むし)ろ想像もつかないというのが正しいだろうか。

 

 もはや戦争どころの話ではない。地球人類の生存を(おびや)かす問題にまで発展するだろう。それはカガリの住むオーブとて決して例外ではない。

 

「しかし、何故そんなことに? あれは100年の単位で安定軌道にあると言われていたはずのもので…」

「隕石の衝突か、はたまた他の要因か。兎も角動いてるんですよ。今この時も。地球に向かってね」

 

 努めて淡々というデュランダルの言葉に、アスランは表情を歪めた。

 

 ユニウスセブンは、彼にとって様々な思い入れのある地である。母を亡くし、父が戦争を……ナチュラルを憎む要因になった事件の起きた場所。だからこそ、あの地がこの先、何者にも触れられない安寧(あんねい)の地だと思って安心していたのだが…。

 

「では議長。プラントとしては、これに対してどのような対応をするおつもりで?」

 

 極めて冷静にシャーロットが言う。

 彼女にとっても決して他人事ではないはずなのに、あそこまで冷静にいられるのはやはり経験の差なのだろうか。

 心の中で自分を恥入(はじい)りつつ、カガリもその質問に追従した。

 

「またもアクシデントで、代表方には大変申し訳ないが、私は間もなく終わるジュール隊・ポワソン隊との合流を待って、このミネルバにもユニウスセブンに向かう命令を出しました」

「それは……事態の解決に協力いただけると言うことでよろしいのでしょうか?」

「勿論です。あのユニウスセブンは紆余曲折あれど、元は我等のプラントですし。この緊急事態の対処に全力で取り組む予定です」

 

 ハッとして、カガリは顔を上げる。

 デュランダルは、自ら直接現場に(おもむ)いて作業の監督(かんとく)に当たると言っているのだ。表面上は淡々としていても、彼がこの事態を非常に重く受け止めている証だ。

 

「幸い位置も近いもので。理事と代表にもどうかそれを御了承いただきたいと」

「勿論ですわ。これは私たちにとっても…いや、むしろ私たちにとっての一大事ですから。ねぇ、アスハ代表」

「あ、あぁ! 私…私たちにも何かできることがあれば…」

 

 答えながら、カガリは今の自分が成すべき事、できる事を模索(もさく)する。今までは見ていることしかできなかった。

 国から離れた今の自分には動かせる人員も、権力もない。そんな自分にできること、それは…。

 

 

▽△▽

 

 

 宇宙でザフトが動き出したユニウスセブンの対応に追われている頃、地球のユーラシア西部のとある邸宅(ていたく)の地下にて、とある集会が行われていた。

 

「…さてと。皆さん、この度はお集まりいただきありがとうございます」

 

 持ち主の育ちの良さが伺える豪勢(ごうせい)な装飾品や絵画が飾られた部屋の中、幾十(いくそ)のモニターに映る複数の老人達を前に一人の男が大仰(おおぎょう)に話しかけた。

 

「さぁて…とんでもないことになりましたねぇ」

 

 貴族のように整えた身なりに、心に秘める野心と自信を(のぞ)かせる鋭い眼光。

 

 その男の名は、ロード・ジブリール。

 前盟主ムルタ・アズラエルの亡き後、力を失っていたブルーコスモスを以前と同等以上にまで建て直して現盟主になった男である。

 

〈ふむ、いささか面倒なことになったのう〉

 

 ジブリールの言葉に、その言葉通りに面倒そうな表情を浮かべたのは、この中でも一際年配の男だ。だが、そんな彼はジブリールの知る限りでは、この地球において10%ほどの財を持つ権力者である。

 

〈まさに未曾有の危機。地球滅亡のシナリオということですかな〉

〈よもや書いた者がいるとでも言うのかね?〉

 

 彼等の議題は、今現在地球に迫っているユニウスセブンに関する物である。

 

「それはファントムペインに調査を命じています。時間的にも、そろそろ落下軌道に合流できるかと」

〈ほう、ザフトのオモチャを強奪した部隊か…だが、今更そんな情報が役に立つのかね?〉

「だから調べるんですよ、これからね」

 

 二年前より更に力をつけたブルーコスモス。そのトップであるジブリールは「ファントムペイン」という私設部隊を所有していた。アーモリーワンでザフトの新型機の強奪を命じたのも、彼の命による物である。

 

〈しかし、この招集の目的は何だ。ソレスタルビーイングといい、ユニウスセブンといい、我々が忙しい身であることを理解してもらいたいものなのだが…〉

 

 忙しい…というのは、己の趣味趣向(しゅみしゅこう)に割く時間がなくなっていることに関してだろう。彼等ほどの身分ともなれば「対策」は全部下の者がやるだろうし、彼等はただそれに許可を出すだけの仕事だ。

 

 だというのに、「忙しい」とはいいご身分である。老人どもの苦言に(ほお)をひくつかせながら、ジブリールは笑顔を貼り付けて言葉を続けた。

 

「それは失礼…しかし、このように皆様の手を煩わせるこの事態は一体どうして引き起こされたのかは、皆様にとっても重要な話ではありませんかな?」

〈うむぅ…〉

「一体、何故! 私たちがあんな『無様で馬鹿な塊』の為に逃げ回らなければならないのか!?」

 

 徐々に熱を帯びていくジブリールの言葉は、まるで教徒を(あお)る教祖の発言のような物だ。流石はブルーコスモスの盟主を務めるだけはある。

 

「この屈辱はどうあっても晴らさねばなりますまい。誰に? 当然、あんな物をドカドカと宇宙に造ったコーディネイター共にです!! 違いますか!?」

 

 だがしかし、怒りに熱くなるジブリールに対し、老人達は(かえ)って冷めた調子で話を聞いている。何せ彼等は感情論ではなく、己の損得を第一に動く死の商人(ロゴス)なのだ。

 当然、考えるのは己の安全と影響力の保全だ。

 

〈ふむ……それは構わんがの〉

〈だがこれでは………被る被害によっては、戦争をするだけの体力も残らんぞ?〉

 

 最悪、明日には彼等が支配する地球そのものが終わっている可能性もあるのだ。

 

 彼等にとって、自分達の安全とコーディネーターを滅ぼすことはイコールになり得ない。リスクとリターンが()り合ってない以上、素直にジブリールの提案に同意することは難しかった。

 

「無論、理解していますとも…そこでこんな提案はどうかと」

 

 だが、そんなことは、もう老人達とも長い付き合いになるジブリールとて理解している。彼等を頷かせるプランは既に()っているとも。

 

 手元でいくつかの操作を行い、モニターにこの事態による被害予測や、それの復興(ふっこう)のための費用・人員などの手配についての資料が提示される。

 そして、それに伴うものを全てブルーコスモスが負担するということも。

 

〈おぉ!〉

〈ジブリール、素早い対応だな…!〉

 

 計画は成功したようだと…ジブリールはほくそ笑む。こうして甘い蜜を向ければ、老人どもも考えを軟化(なんか)させるだろうという考えは当たっていたようだ。

 

「フフ…こちらはお願いする立場ですし、これくらいは当然ですよ」

 

 その代わり、と言葉を重ねる。

 ジブリールは胸の前に手を置き、ロゴスのメンバーへ優雅(ゆうが)に頭を下げた。

 

「例のプランの発動を。そのことだけは皆様にも御承知おき頂きたく」

 

 その言葉に彼等の表情が変わる。

 例のプランとは、ここ最近彼等が画策していたある計画のことだ。

 だが、それを実行するに当たって、何かしらのきっかけが必要だった。規模は大きいが、絶好の機会ともいえる。

 

〈なるほど、強気だな〉

〈だが、このままいけば、コーディネーター憎しでかえって力が湧きますかな、民衆は〉

〈残っていればの話ですがな〉

 

 老人達も、ブルーコスモスほどではないが、コーディネーターに悪感情を抱いている。安全に奴等を滅ぼせる機会があるなら、食い付くだろう。

 

〈…どうやら、皆プランに異存はないようじゃの、ジブリール〉

 

 その言葉は事実上の承認に等しい。

 下げた頭の下でニヤリと笑いながら、ジブリールは己の成功を(さと)った。

 

〈では次は事態の後じゃな。君はそれまでに詳細な具体案を〉

「はっ」

 

 それが、事実上の閉会宣言(せんげん)となった。

 

〈しかし、どれほどの被害になるのかね〉

〈戦争はいいがこういうのは困るね〉

〈どちらにせよ、青き清浄なる世界の為に、さ〉

 

 堅苦(かたくる)しい会議が終われば、始まるのは老人たちのプライベートな会話だけだ。といっても、ジブリールからすれば、彼等は公と私を履き違えているボケ老人どもだが。

 

〈しかし、シャーロット嬢が出席されないとは、随分とお忙しいようですな〉

〈あの若さで国防産業理事という異様な出世だからな。色々とあるのだろうさ〉

〈ふぅむ、もっと我々を頼ってもらっても構わないのですがな〉

〈まぁ、彼女にも譲れないプライドくらいはあるのでしょう〉

〈ハハハ、アズラエルに比べれば、だいぶん可愛らしいではないですか–––––〉

 

 –––––––––––––ブツッ!

 

 これ以上老人のボケ話に付き合っていられないと、ジブリールはモニターの電源を落とした。

 それから、持っていたグラスを下ろしてうんざりした様子で息を吐く。

 

「…バカな老人どもめ」

 

 全く持って、()(がた)い程の能天気さだ。無理も無い。連中の頭にあるのは、この事態がどう自分達の利益に繋がるかだけなのだから。

 

「さて……レクシオ」

「はい、ここに」

 

 まるで管楽器のような響きのよい声が聞こえた。

 部屋から出たジブリールの声に応えたのは、物腰の(やわ)らかそうな少年だった。さらりと流れるような髪、大きな眼にすらりと整った鼻筋、女性とも見間違うような中性的な容姿。

 

 名をレクシオ・ヘイトリッドという。

 レクシオは、ジブリールが今は亡きムルタ・アズラエルの紹介で引き取った少年だ。孤児院出身ということを抜きにしても、並のコーディネーターなどを歯牙(しが)にかけない優秀なナチュラルであり、ここ近年の活躍でジブリールが最も信頼している部下である。

 

「君が用意してくれた資料は非常に役立ったよ。ようやくバカな老人どもの腰を上げさせることができた」

「いえ、恐縮です」

「全く、老人どもはシャーロット・アズラエルを天才と言うが、私からすれば君の方が幾分も機智(きち)に富んでいて美しい」

 

 レクシオは何も(こた)えなかった。

 だが、ジブリールにとってはそれが一番心地いい。必要以上に口を出す部下など不快なだけだからだ。

 

「君には期待している。これからもよろしく頼むよ」

「はっ…」

「とはいえ、今は暫し待つ時でもある。ファントムペインが動くまでは私たちも最後の休暇を楽しませてもらおうか」

 

 そういうと、ジブリールは地下室を去った。

 おそらく、寝室へ戻ったのだろう。レクシオは無言でその後ろ姿を見守っていた。

 

 そして、完全に姿と足音が消えた後。

 無人となった地下室の中で、残されたグラスを見つめながら、その瞳が黄金に輝く。

 

「さて、バカは一体どっちかな…」

 

 小さく呟いたその一言は、暗黒の空間に溶けるように消えていった。





>ジブリールは大使枠?
どちらかというと、レクシオがリボンズを参考にしているだけ。
どっちも小物同士だけど、モビルアーマーにまで乗る大使とは小物レベル(?)が違うからね。

>ロゴス内でのシャーロット嬢のポジ
まだ若く、己の地位が脅かせることがないので老人達も可愛がっている。
実質、お爺ちゃんと孫みたいな関係。無駄にご賢しいアズラエルの代わりに可愛くて賢い美女が入ったので喜んでる。間違いなくボケ老人。
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