【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E. 作:アルテミー
その日、地球に星が落ちた。
決して手の届かない位置にいたそれが、流星となって空を流れている。
これがただの流星群ならばたいそう美しい光景だっただろうが、生憎と現実は違う。この流星は、燃え尽きることなく地上にそのまま落下するのだ。
降り注ぐ
落下した場所は一瞬にして閃光に呑まれ、生き物も、無機物も、
ある場所では大地が
まさにこの世の地獄と例えるしかない光景が広がっていた。
「……なんて、酷い」
その様子をアステリアのコックピットから見下ろしながら、フェイトは表情を歪めて苦々しく呟いた。
もちろん、守れた命もある。
避難勧告で国の用意したシェルターで難を逃れた人々もいるだろうし、当初の被害想定よりはかなり規模は小さくなり、被害範囲もかなり
そして、ソレスタルビーイングとて、この事態に何の行動もしなかったわけではない。
宇宙にいたフェイト達はテロリストの殲滅に励んでいたが、地上ではシエル・アインハイトとガンダムセレーネによる超高々度射撃が行われていたのだ。
ヴェーダの予測演算をもとに、大都市へ落下するルートを取る瓦礫を狙撃するというガンダムにしかできないもう一つの破砕作業を行う為に…。
〈…くッ!損傷のせいか?右足の温度上昇が早い!〉
「ん…?」
繋いだままの通信から聞こえてきたのは、若い男の声。シールドを盾に大気圏突入を行おうとしているザクのパイロットの声だ。
しかし、そんな彼のザクはボロボロだ。
戦闘で損傷していた上、そんな状態で大気圏を突破したものだから、既に機体は限界寸前にまで追い込まれていた。失った右腕と右脚のせいで機体のバランスが取れておらず、装備しているバックパックからは黒煙が立ち込めている。
〈… やはりブースターがなければ大気圏は!〉
パイロットは大気圏突入の経験があるようで、今の機体の状況を理解しているらしい。
「……あれは」
すると、シールドを盾に大気圏を突破したインパルスがこちらへ向かってくるのを確認した。こちらを見て動揺したような様子を見せたものの、この非常事態ゆえにかアステリアを無視して仲間のザクの元へ向かっていく。
〈大丈夫だ! 俺のことはいいから、君は戻れ!〉
インパルスのパイロットの音声は聞こえないものの、どうやらザクを助けようとしていることが男の声で伝わってきた。
〈よせ!いくらインパルスのスラスターでも二機分の落下エネルギーは…お前の方が危なくなるぞ!〉
男の言う通りだ。
インパルスは最新鋭機だけあって大気圏突入にも問題なく
そんな状態でザクを抱えて体勢を維持させるのは、どんなエースパイロットでも不可能に近いし、そのまま地表に墜落するようなことがあれば、ただでは済まない。よくて機体は形を保っても、中のパイロットの命はないだろう。
「ああもう…!」
––––このままでは二人とも共倒れになる。
そう思ったフェイトは、無意識にアステリアを動かしていた。
一番損傷の酷いザクを懐に抱えるインパルスの片腕を掴み、GNドライヴの推力で持ち上げる。ガンダムの推力ならば、例えモビルスーツ二機分だろうと抱えることは可能なはずだ。
〈なっ! おい、何を…〉
「死にたくなかったら黙って捕まっていてください! そっちのザクのパイロットも!」
一方的なようで申し訳ないが、こちらにも立場がある。怒鳴るようにインパルスのパイロットにそう言い、ゆっくりと機体を降下させていく。
まるで墜落するように落下していた二機は、アステリアに支えられるように体勢を立て直す。ザクは、ボロボロになったバックパックをパージし、インパルスは邪魔になるシールドを投げ捨て、ザクをがっしりと抱える。
ここまで来れば、ザクはともかくインパルスはバックパック装備で飛行できるだろう。
「この反応は…戦艦?」
すると、そんな彼等の下に巨大な影……ミネルバが迎え入れるように現れた。随分と距離は離れていたようだが、アステリアが支えていたおかげで着艦場所の到着が間に合ったようだ。
〈…ミネルバ!〉
…もういいだろう。
フェイトは握っていたレバーを離し、アステリアの手からインパルスが解放される。いきなりの解放に彼等は戸惑っていた様子だが、眼下のミネルバの姿を見て、着艦姿勢に入ったようだ。
〈あ…あんたは!〉
「……今回は特別。もういいでしょう」
ザクを抱えたインパルスが、舞い降りるようにミネルバの甲板に着艦するのを確認し、フェイトはアステリアを上空へ上がらせる。
元々予定していた帰還時間を超えている。大気圏内に突入したのは半ば故意的な事故だったが、軍に
「貴方たちが戦争を続けるようなら、またどこかで会うこともあるでしょう」
それだけ伝えると、一方的に通信を切る。
この勝手な行動については、後でたっぷりと叱責を受けるだろうが、彼等は戦争をしていたわけではないのだ。反省はしているが、後悔はしていない。
「…………」
最後にこちらを見上げるインパルスを見つめた後、フェイトはアステリアを上空へと大きく飛翔させた。
▽△▽
ユニウスセブンの破片が落下したことによる史上稀に見ない大災害…通称"ブレイク・ザ・ワールド"。
世界中が混乱の中にあり、多くの人達が苦しんでいる状況の中、ロード・ジブリールは機嫌良くワインを嗜んでいた。
《……この未曾有の出来事を、我々プラントもまた沈痛な思いで受け止めております。信じがたいこの各地の惨状に、私もまた言葉もありません》
ディナー後のひと時のBGMとしては、いささか不愉快なデュランダルの演説も、今の彼にとっては心地良く聞こえる。この顔がいかに苦痛と焦燥に歪むのかを想像するだけで、ワインの味が何倍にも美味しく感じるからだ。
〈やれやれ、やはりだいぶやられたな…〉
〈パルテノンが吹っ飛んでしまったわ〉
モニターには、いつものように老人どもの姿が映っている。苦々しくユニウスセブン落下の被害映像を見つめる彼等の言葉に、ジブリールは鼻で笑って答えた。
「あんな古くさい建物、なくなったところで何も変わりはしませんよ」
〈うぅむ。まぁ、首都圏が無事だっただけでもマシ、ということか〉
とはいっても、
〈…で、どうするのだジブリール。デュランダルの動きは早いぞ。奴め、もう甘い言葉を吐きながら、なんだかんだと手を出してきておる〉
で、そんな彼等の議題が何かといえば、この事態に素早く対応したデュランダルにある。老人達は、プラントから届けられた彼の演説を苦々しく見つめていた。
《……受けた傷は深く、また悲しみは果てないものと思いますが、でもどうか地球の友人達よ、この絶望の今日から立ち上がって下さい。皆さんの想像を絶する苦難を前に我等もまた援助の手を惜しみません》
既に手を打ちつつあるデュランダル。その動きは迅速かつ丁寧だ。地球へと友好的な態度を示しつつ、プラントからの支援を行うことで自らの立場を明確にしている。
老人達は、せっかく反プラント感情を
「ふふふ、皆さん。まさかあれがデュランダルの本心だとでも?」
しかし、ジブリールはあくまで余裕の態度を崩さない。何せ、こちらには全てをひっくり返すカードがあるのだ。
「もうお手元に届くと思いますが、私の部下がたいへん面白い物を送ってくれました」
〈ほう、ファントムペインがかね〉
正確には、ファントムペインではなくジブリールの腹心であるレクシオ・ヘイトリッドからの情報なのだが、彼の存在はロゴスのメンバーにも秘匿にしているため、特に公開するようなことはしない。
〈…ん? なんだこれは〉
それに、ファントムペインからの情報というのもあながち間違いではない。黒色のジンと交戦するファントムペインの画像も含めて、更に重要となるジンがユニウスセブンに何かしらの細工を
〈おいおい、まさかこれは…そういうことなのか?〉
〈ほう、なるほど。やはりか…〉
送られた画像を見て、老人達は
彼等の目から見ても、その画像は興味深く、それでいて利用価値の高い物だった。
「思いもかけぬ最高のカードです。そうは思いませんか?」
この黒色のジンがザフト正規軍なのかなど、彼等には分からないし、知る必要もないだろう。
ジンといえば、ザフト。ザフトといえば、コーディネーター。それだけでプラント側の陰謀という疑惑を民衆に植え付けるには十分な証拠となる。
「これを許せる人間などこの世の何処にも居はしない。そしてそれは、この上なく強き我等の絆となるでしょう」
分裂した地球圏はプラントへの憎しみで再び一つになるのだ。
「まずはそう…オーブあたりを取り込むとしましょうか」
全ては青き清浄なる世界のために…だ。
ワインを傾けながら笑うジブリールの瞳には、残忍で冷酷な光が宿っていた。
▽△▽
無事に大気圏を突破し、インパルスとザクを回収したミネルバは、オーブに向かって航行していた。
本来ならば、地球におけるザフトの拠点であるカーペンタリア基地に向かうべきなのだろうが、当のミネルバの状態が良くない。
アーモリーワンにおけるいきなりの初出撃から始まった戦闘や、大気圏内ギリギリでのユニウスセブン破砕作業は、思った以上にミネルバへダメージを与えていたのだ。
また、他国の代表のカガリを乗せていることもあり、無理な航行よりも未だ中立を保つオーブで補給と最低限の修理を受ける方が現実的な策といえる。
それにクルー達も初めての実戦からのここまでの連続で疲弊している。彼等の殆どは新兵であり、そろそろ落ち着いた休息が必要であったこともある。
そして何より、オーブの国家代表であるカガリが提案したというのが一番大きい。彼女がいれば、オーブとてミネルバを
そのような理由もあり、損傷したミネルバは、無理な航行を避けてゆっくりとオーブ連合首長国へと向かっていた。
「……海か」
シンは、開放されたミネルバの甲板にて、地球でしか見れない青い海の流れを眺めていた。
随分と久しぶりだ。こんな形で帰ってくることになるとは思わなかったが、やはり地球の空気と景色は懐かしさを感じさせる。……同時に切なさと怒りもだ。
「……っ」
あの日のことを忘れた時などなかった。
突然壊された平和。迫り来る死の恐怖と怯える家族の姿。空を舞う青翼の天使と
《はい、マユで~す。でもごめんなさい。今マユはお話出来ません。後で連絡しますのでお名前を発信音の後に…》
妹の…マユとの思い出は毎晩悪夢となって現れている。どんなに幸せな思い出でも、必ず全員死んでしまい、最終的には辛い現実へと引き戻されるのだ。
既に初出撃から含めて何度かの戦闘を経験したが、決して充実感は得られない。他のクルーと違ってプラント出身ではないシンには母国を守るといった使命感もなければ、待っていてくれる家族もいない。どんなに敵を殺しても、失った家族は帰ってこないのだ。
全てを守れる力が欲しいと思ったから銃を取った。誰にもこんな思いをさせたくないと思ったからだ。
けれど、結局はユニウスセブンの落下から地球を守れなかった。この大地のどこかで、自分のように家族を亡くした人々が生まれたのだろうか。
「戦争なんて、なくなればいいのに」
そう思って、ふと"戦争根絶"を掲げる武装組織のことを思い出した。
この世界から戦争をなくす。その考えには賛成できる。けれど、あんな過激なやり方で世界が平和になるとはどうしても思えない。
なのに、彼等はそれを信じて今も世界のどこかで戦っているのだろうか。……あのパイロットも。
通信を聞いた時は、まさかと思った。想像していた声とは全く違ったから。同じテロリストでも、ユニウスセブンを落下させた男のような人間がパイロットだと思っていたら…。
《死にたくなかったら黙って捕まっていてください!》
ガンダムのパイロットの声の主は幼い女の子だった。
どうしてあんな子が…!と思ったし、何のためにこんなことをという疑問もあったけど、何よりも…。
《はい、マユで~す。でもごめんなさい。今マユはお話出来ません。後で連絡しますのでお名前を発信音の後に…》
「………っ」
失った妹の肉声に似ていたものだから…なんて、考えてシンは首を横に振った。
妹があんなところにいるわけがない。きっと気のせいだ。初めての実戦の連続で、自分も少し疲れているのだろう。オーブに着くまではまだ時間がある。少し仮眠を取ろうと思って、シンは甲板を後にした。
>ブレイク・ザ・ワールド
ソレスタルビーイングの狙撃によって、大都市やその付近の海への直撃は防ぎました。人気の無い世界遺産や郊外地域については…まぁお察しということで。
>シンの悪夢
実は原作でも毎晩見ていたという衝撃の設定。シンの精神状態は最初から最後までボロボロだったのよ…。
>シスコン
アニメの都合上とはいえ、「はいマユでーす」をしょっちゅう思い出すあたり間違いなくシスコン。そんな彼なら妹の声ぐらい覚えてるに決まってるよね。