【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E. 作:アルテミー
特にトラブルもなく、オーブ国内へと到着したミネルバ。
事前にカガリを乗せている旨を伝えたからか、港には何人ものオーブ政府関係者が出迎えに来ていた。
「……歓迎されていないわね」
「えぇ、まぁ」
艦を降りた瞬間、聞こえないようにタリアがぼそりと呟いた言葉にアーサーもなんとも言えない表情で頷く。
タリアの言葉通り、出迎えたオーブの人間はタリア達ザフトの人間を冷たい視線で見つめており、中にはあからさまに顔を顰めている者もいる。
ブレイク・ザ・ワールドの被害は、オーブにも出ているとも聞く。仕方がないと分かっていても、破砕作業を行なった身でそのような視線を受けるのは少し堪えた。
そして、タリア達がカガリを伴って彼等の元へ向かったとき、中から身なりの整った一人の男が飛び出してきた。
「カガリ…!」
「ユ、ユウナ? 何を…」
ユウナ・ロマ・セイラン。
この国の宰相であるウナト・エマ・セイランの息子であり、カガリとは婚約者として今の所発表されている人物である。
「おお、よく無事で。はぁ、ほんとにもう心配したよぉ!」
駆け寄ったユウナがカガリを抱きしめようと両手を広げて…、
「そこまで」
「へ?」
眼前に差し出された
ユウナもそうだが、カガリも驚いたような表情で固まる。何せ止めたのは、隣を歩くシャーロットだったからだ。
「失礼。けれど、こんな場でやるにはちょっと華がないんではなくて?」
つまり、公衆の面前でいきなり女性に抱きつくのは、婚約者とはいえどうなのか…ということだ。そんな当然の疑問にカガリは同意し、ユウナは顔を真っ赤にして後ずさる。
「これ、ユウナ! 何をしておるか」
「父上〜!」
そんな息子の
「ア、アズラエル理事までご一緒だったとは。いえ、息子が失礼を…」
「わたくしは気にしていません。それよりアスハ代表を出迎えるのが先ではなくて?」
その言葉にハッとして、ウナトはカガリの方へ向き直る。どうやら始めに見せていた余裕は、シャーロットの登場で崩れ切ってしまったようだ。
「お、おかえりなさいませ代表。ようやく無事なお姿を拝見することができ、我等も安堵致しました」
「いや、こちらも大事の時に不在ですまなかった。留守の間の采配、有り難く思う。被害の状況などどうなっているか?」
だがまぁ、カガリはあえて普段通りに接した。普段ならそりが合わない相手のセイラン家だが、ザフトの面々の前であまり恥を晒すわけにもいかなかったからだ。
「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが、幸いオーブに直撃はなく……詳しくは後ほど行政府にて」
「分かった。すぐに向かう」
「では…」
そう言うと、ウナトはタリア達の視線に気がついたのか、カガリへもう一度頭を下げた後に前に出た。それを見て、艦を代表してタリアとアーサーが前に出る。
「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります」
「同じく副長のアーサー・トラインであります!」
「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランだ。この度は代表の帰国に尽力いただき感謝する」
ウナトは、穏やかさを感じさせる笑顔でタリア達へ礼を述べる。
やはり宰相というだけあって外交向けの仮面を貼り付けるのが上手いが、この手の人間はデュランダルと同じで形上の言葉とその裏に隠された言葉を使い分けるタイプの策士だ。
直情的で分かりやすいカガリとは対照的で、良く言えば政治家らしい印象を受ける。
「いえ、我々こそ不測の事態とはいえアスハ代表にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましても、お見舞い申し上げます」
「お心遣い痛み入る。ともあれ、まずはゆっくりと休まれよ。事情は承知しておる。クルーの方々もさぞお疲れであろう」
その言葉の裏には、色々な策略が巡らされているだろうが、タリアは言葉通りに受けることにした。首長であるカガリがクルー達の身を保証している以上、必要以上に警戒する必要を感じなかったからだ。
「限定的ではありますが、みなさんの下船許可も出す予定です。どうぞオーブの街並みを楽しんでください」
「重ね重ね、ご配慮ありがとうございます」
ひとまずはこの人道的な配慮を信じて感謝するとしよう。タリアとて、ここまで緊急事態の連続で疲弊していた。休息ができるならありがたいと思う。
「では代表、まずは行政府の方へ。ご帰国そうそう申し訳ありませんがご報告せねばならぬ事も多々ございますので…」
「ああ、分かった…あ」
ウナトの言葉に頷き、カガリが彼等の後を追おうとして、アスランと目があった。
着いてこないのか、という意味合いの視線だろうが、生憎と今のアスランの立場ではここより先にはいけない。
「…代表、私はこれで失礼してもよろしいのでしょうか」
「あ、ああ。本当に助かった。アスラ…アレックスもゆっくり休んでくれ」
小さくなっていくカガリの背中。
その姿を、アスランは複雑な思いを抱いて見つめていた。
自分は何をしているのか、これから何をすべきなのか。それをしっかりと考える時間が必要だった。
▽△▽
二年ぶりのオーブの街並みは、以前の戦争が嘘のように活気ついている。変わっているところもあれば、昔と変わっていないところもあり、時代の流れを感じさせる。
結局、フェイトはフブキやウェンディに押される形で久しぶりの故郷を訪れていた。入国はエージェントの手配によってスムーズに行えた。一日…厳密には半日程度の休暇だが、二年ぶりのオーブを実感することができる。
「へぇ、ここがオーブかぁ…」
「平和の国…前はそう言われていた」
ウェンディの声にヴァイオレットが無表情で答える。
現在、フェイト達が向かっているのは、かつて軍港が設置されていた場所……フェイトの家族が亡くなった土地だ。ウェンディは街へ行きたそうにしていたが、そんな時間はないとヴァイオレットに嗜められていた。
港へ続く道には人気がなく、海から吹き付けてくる風は、記憶にあるものよりも少し重い。
あの日、爆撃を受けた軍港はすっかり
アスファルトは
「……っ」
確かにそこで、家族が亡くなったはずなのに、まるで何事もなかったかのように綺麗に整えられたその風景を見て、胸の内にどうしようもない怒りと哀愁が込み上げる。
「あ、あれって…」
「ん?」
同行者の二人の声に、涙を振り切るように立ち上がると、彼女達の視線の方向に小さな
植え込みを回り込んで石碑の場所へ進めば、海水がパシャリと側の丘にぶつかって跳ねる。ここも、ブレイク・ザ・ワールドの高波の影響を受けたのだろう。丘のを覆う芝生は赤茶け、花も
「慰霊碑…」
「これ、オーブ解放戦線の時のもの?」
それは、小さな慰霊碑だった。
フェイトの両親を含めて、あの日に死んだ人々を弔うためのもの。ところどころが苔むしているが、そこには確かに小さな花が添えられている。
「………っ」
ただの石の塊だ。そこには遺骨が埋葬されているわけではない。戦いの中でそれらは失われている。
けれど、そこには父と母が本当に眠っている気がして、フェイトは思わずグッと拳を握った。
「フェイト、あの…」
「いえ、大丈夫です」
気遣うように声をかけるウェンディの声に強く答え、フェイトはゆっくりと石碑へ近づき、懐から取り出した花を添えた。
「……お父さん、お母さん」
フェイトは、改めて亡き両親へ誓う。この世から、絶対に戦争を根絶させてみせると。そのために人を殺すことを決して彼等が望まないと知りつつも、がむしゃらに理想を追い続ける。
––––––これでいい。
これで、フェイトはこれからも戦える。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして、ガンダムと共に…。
「あれ…?」
すると、背後からそんな声が聞こえる。
そこには、慰霊碑への階段を登ってきた一人の青年がいた。
〈トリィ…?〉
青年の肩には、メタリックグリーンの鳥が留まり、首を傾げている。
「うわぁ、可愛い…」
「ロボットの鳥、よくできてると思う」
そう、よくできているがヴァイオレットの言うとおりペットロボットだろう。フブキが持ち歩くハロと同じだ。
「……貴方も、ここで?」
なんとなく、フェイトは青年に話しかけた。
それは、青年の持つ若さにそぐわない落ち着きと、どこか
「いや、ここに住み始めたのは二年前からで。あの大戦のことは…その」
フェイトは、そのあやふやな答えに、訝しげに相手を見やる。
「よくは知らないんだ。僕もここに来るのは初めてだから…自分でちゃんとここに来るのは…」
青年は悲しげに言った。
彼は自分と入れ替わりにオーブに住んだらしい。元々住んでいた場所はどうなったのか。彼の瞳を見れば、言われなくてもわかる。自分のように色々と大切なものを失ったのだろうと。
「私は…ここで家族を失ったんです」
「…え?」
だから、自然とフェイトも言葉が漏れた。
あるいは、今この瞬間の彼女は、フェイト・シックザールからマユ・アスカへと戻ってしまっていたのかもしれない。
「二年前のオーブ解放戦線で…連合のモビルスーツと青い翼を持った機体の戦いの中で」
「……っ」
フェイトは、ソレスタルビーイングに入ってから、ヴェーダを使ってあの時のことを調べた。あの青い機体が"カラミティ"という連合のモビルスーツで、あの青い機体がヤキンの"フリーダム"であることも知っている。
だけど、このオーブにおいて、フリーダムは英雄らしく、その名を口にするのは
「両親はもう遺体も残らないほどボロボロで、唯一生き別れた兄ももう長年会っていません…」
「フェイト…?」
「私は絶対に許さない。あのモビルスーツのパイロットも。その人に銃を取らせたこの戦争も––––」
そこまで言って、フェイトは周囲が呆気に取られているのに気づいた。
初めてフェイトの経歴を知ったウェンディは目を見開いて驚いており、ヴァイオレットもいつもの無表情を崩してこちらを見つめている。
「君は……」
そして、青年は少し動揺した様子で揺れる瞳をこちらに向けていた。
「……いえ、いきなりすみません。変なこと言って」
フェイトは気まずくなり、慌てて
ウェンディとヴァイオレットも心情を察してくれたのか、青年に頭を下げてから、着いてきてくれた。
「………」
初対面の人間にいきなりそんなことを言うなんて、どうかしていた。オーブに来たことで、マユ・アスカに戻り過ぎてしまったのかもしれない。押し留めていた感情が、つい溢れてしまうほどに…。
そんな心あらずの状態で帰り道を歩いていれば、突如として三人の横に黒塗りの車が停車した。
「はーい、三人とも。しっかり休めた?」
「フブキさん…」
降りていく窓ガラスから顔を出したのは、暫く別行動を取っていたフブキの姿だった。顔を
「まぁ、とにかく乗りなさい。こっちも時間ギリギリなんだから」
「…はい、お邪魔します」
「うわぁ、これ全部お土産?」
車のトランクには、いくつもの紙袋が入っており、それに驚きながらもウェンディは手荷物を収納する。
「いいでしょ。オーブって品揃えがいいのよね」
「いいなー。私も後でエージェントさんにお願いしとこうかな」
フェイトはよく知っている。
オーブの品揃えは良かったと、昔母が言っていたからだ。それだけではない。オーブにはいいところがいっぱいあるのだ。
こうして、この国に来てその大地を歩いてみて分かった。
自分は、まだオーブが好きなのだと。かつてあった平和な日々を守っていきたいのだと再認識できた。
この後、自分はガンダムマイスターとして、多くの戦争に介入することになる。いずれ来る戦争根絶を思い、フェイトは流れる景色に身を任せていく。
日が落ちかけ、夕暮れが街を照らすようになった時刻。
慰霊碑と青年の姿が小さくなり始めた頃、車内が少し騒がしくなった。
「……お、人だ」
「彼もあの慰霊碑?に行くのかもね」
ウェンディとフブキの会話に、フェイトも視線を反対側へ向ける。
そこには、顔に垂れ掛かる黒い髪と血の色を透かしたような紅い瞳が特徴的な少年が憂鬱げな表情を浮かべて歩いていた。
「………え」
フェイトは目を見開いた。
見間違いかと思った。生きていることは知っていても、ここには絶対に来ないと思っていた人物が、そこにいた。
–––––––––お兄ちゃん?
それは、プラントへ行って以降の消息が分からなかった生き別れの兄…シン・アスカの姿だった。
「……あ」
しかし、二人が交差したのも一瞬のこと。
フェイトと兄のことを知りもしないフブキが運転する車は、スピードを緩めることなく過ぎ去った。
見間違いなんかじゃない。
記憶にある姿と変わらない…いや、身長が少し伸びて大人っぽくなっただろうか。
戦争根絶を成すまでは、会うことはないと思っていた兄がここにいる。
だというのに、会って話すことも抱きしめることもできない。それは、自分がソレスタルビーイングのガンダムマイスターだから。兄と会うには、時間も立場も何もかもが邪魔をする。
「フェイト…そろそろ宇宙に上がるわよ。名残り惜しいかもしれないけど、ミッションの時間よ」
「…はい」
なれど、今の行動に後悔はしていない。
戦争根絶を成せば、再び兄と再会することができる。二年前から変わらず、オーブは中立を守ってくれる。兄が戦争に巻き込まれることなどないはず…。
フェイトはまだ世界を知らず、そんな願望を希望と信じて、次の戦場へ向かうためにオーブを後にするのだった。
>セイラン家
皮肉混じりにカガリを出迎えようと思ったら、ザフト艦からまさかのアズラエル登場で心臓が止まるかと思った。とはいえ、シャーロットの登場で大西洋連邦との同盟は完全に締結だと確信している。
>オーブ・フリーダムへの感情
憎いわけでもないが、許せるわけでもない。
ソレスタルビーイングに入って、当時のことを客観的に見渡せるようになってからは、オーブのこともある程度許容している。
>マユ(フェイト)
携帯に兄の写真を撮りまくる妹。シンも大概だが、マユもかなりのブラコン。
シンがザフトのパイロットだとは気づいていない。
戦争が根絶したらオーブへ会いに行こうと思っている(勘違い)
>キラ
まぁ、お察しです。
この後、シンと原作通りの会話したよ。で、「もしかして彼も…?」ってなった。