【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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そうか…君にとって僕は神か。
それはそうだよ。

僕たちは君たちより遥かに高みにいるべき存在…人類を導く者–––––なんてね。

とはいえ、この世界の人類の愚かしさは筋金入りだ。君もそう思っただろう?



運命の子

 

 

 漆黒の宇宙(そら)雲母(うんも)のかけらを落としたように、光るものが一つ、きらりと太陽の光に反射した。宇宙空間を()うそれは、限りなく人に近い形をした機体。

 

 白を基調に、青や赤で塗り分けられたその機体はMS(モビルスーツ)と呼ばれる人型兵器のそれだろう。ヘッドパーツのツインアイが特徴的なその機体は背中から光り(かがや)く粒子を散らしながら宇宙を泳ぐように進んでいく。

 

 緑色に輝く胸部(きょうぶ)の奥にあるコックピットの中では、機体と同じく白を基調としたパイロットスーツに身を包むパイロットの姿が(うかが)える。

 

 パイロットはコンソールとモニター上の各データを読み取りながら、操縦桿(スティック)を操っていた。ヘルメットの奥には、まだあどけなさの残る幼げな少女の顔。しかし、栗色の長髪から覗く瞳はどこか(うれ)いを浴びていて、外見以上に大人びているような印象を与える。

 

「240082。アステリア、目標地点を視認しました」

 

 小さな口元から(つぶや)かれた少女らしい声がコックピットに響き、髪と同じ茶色の瞳の先には、白銀(はくぎん)に輝く砂時計をした巨大な構造物が近づいてくる。ラグランジュポイント4に建造された新世代コロニープラントの一つ、"アーモリーワン"だ。

 

「GN粒子の散布を開始。侵入ルートA3より内部へ向かいます」

 

 彼女は操縦桿(スティック)を握り、光り輝く粒子を流しながら機体を巨大なコロニーへ回り込ませた。

 

 すると、モニターに映し出されたのはコロニーではなく(あざ)やかな青色。それは地球––––母なる青い惑星。その美しい姿を見るたび、息苦しいような苦痛と郷愁(きょうしゅう)が少女の胸を締め付ける。

 

「……オーブ」

 

 その視線が自然と赤道付近を探り、玻璃(はり)のような青い海に浮かぶ小さな島国へと吸い込まれる。

 

 オーブ連合首長国。それが彼女が生まれ、育った祖国の名前だ。南太平洋ソロモン諸島に存在し、大小さまざまな島から構成される島嶼国(とうしょこく)は、先の大戦のおり、一貫して中立を宣言し続けた平和の国。そして、彼女たちコーディネーターを受け入れてくれる最後の楽園であった。

 遺伝子操作により生まれてくるコーディネーターはナチュラルから排斥(はいせき)され、多くは宇宙–––プラントへ移り住み。その他はプラント支持国へと行き場を求め悩んだ。そして、ナチュラルとコーディネーターの間に戦端(せんたん)が開かれた時も中立国のオーブだけはナチュラル・コーディネーター問わずに国内の居住を認めていたのだ。

 

 しかし、その立場故に祖国は地球連合軍の侵略を受けることになった。彼女の耳には今でもその戦闘音は染み付いて離れない。飛来するミサイルが宙を引き裂く甲高い音、遠くから腹の底に響くような爆音、鳴り止まないサイレンーーーそして、自分の名前を呼ぶ兄の叫び声。

 

 それは彼女がまだマユ・アスカと呼ばれていた頃。忘れようにも忘れられない。自らの運命を変えることになった二年前のあの日の記憶。

 

 

▽△▽

 

 

 少女は()けていた。必死の思いで駆けていた。

 どこを向いても木ばかりの森の中、がむしゃらに駆け抜けていく。整理されていない森の獣道(けものみち)を歩いたがために既に足は痛みを通り越してじんじんと痺れているような感覚が走っている。

 

「はぁはぁっ」

 

 それでもなお少女–––––マユ・アスカは駆けていた。

 

「はぁはぁ…父さん!」

 

 –––何のために。

 死の恐怖から逃れるためだ。

 

 空の上で飛び交う銃弾(じゅうだん)、周囲から聞こえる爆発音。それらに巻き込まれればマユの華奢(きゃしゃ)な身体など簡単にバラバラになるだろう。死ななくても肉体は抉られ、激しい痛みに襲われる。目もくらむような恐怖。

 

「あなた…」

 

「大丈夫だ。目標は軍の施設だろう。急げ!」

 

 そして、その恐怖はマユに限らず一緒に森を駆ける両親、兄も共有しているものだ。頭上を通り過ぎた"何か"による突風に(おび)える母親と(あせ)りを覚えながらも必死に家族を(はげ)ます父親の姿、それを見てマユと兄も震える足を懸命(けんめい)に動かす。

 

 肩にかけたバッグが重い。息が苦しい。身体が、足が痛い。なぜ、こんなことになってしまったのか。どうして自分がこんな目に()わなければいけないのか。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「マユ!頑張って!」

 

 母が(あきら)めそうになる自分を励ますようにそう言う。今更、運動不足を招いた自分の生活習慣を恨んでももう遅い。泣きそうになりながらも何とか気合いで走り続ける。

 

「あ、マユの携帯!」

 

 そうして、がむしゃらに走り続けていると何かが自分のスカートのポケットから落ちたような感覚を覚える。すかさず横目でそれを見れば、斜面(しゃめん)を転がるように落ちていくピンク色の物体…自分の携帯の姿が(うつ)った。

 

 幼少期にねだりにねだってやっと買ってもらった携帯電話。そのデータの中には父や母、兄と取った写真などのマユにとっての宝物がたくさん()まっている大事なものだった。

 

「…マユ?」

 

「そんなのいいから!」

 

 無意識に身体がそちらへと向いてしまったが、そんなマユを引き戻したのは手を繋いでいた母親。馬鹿なことを考えている自覚はあるが、それに反して身体はなかなかその場を離れなかった。

 

「はっ…俺取ってくる!」

 

「待ちなさいシン!」

 

 踏ん切りがつかないマユを見て、いち早く山の斜面を下ったのは兄のシンだった。家族の中でも一番運動ができる兄は急な斜面を滑るように下り、マユの携帯へと手を伸ばす。見事な身のこなしだ。

 

 兄の優れた身体能力には感心するが、迷惑をかけたという自覚は流石にある。この非常事態に自分の我儘(わがまま)を優先したことを()びようして–––––兄の上空に何らかの機影があるのを捉えた。

 それは10枚の翼を広げた白亜(はくあ)の巨神。空中を舞うように飛び回ったそれが五つの砲口を展開した。それを見てマユの背筋が凍りつく。モビルスーツに詳しくないマユでも予想できる。あれが上空から聞こえてくるビーム音の正体だと…!

 

「お父さん!お母さん!」

 

 マユが両親に声をかけるのと、白亜の巨神が五つの砲口から(ほのお)(ほとばし)らせるのは同時だった。思わずマユが地面に伏せた次の瞬間、耳を(ろう)する轟音が身体を殴りつける。

 

 何かに押されるような感覚を覚えたが、それを気にする余裕はマユにはなかった。背後で爆発が起きたと感じた時には既に爆風がマユの華奢な身体を宙へと舞い上げていた。当然彼女に受け身を取ることなどできず、まともに地面に叩きつけられて勢い余って地面を転げ落ちた。

 

「げほっ…うぅっ」

 

 ぶつかった衝撃(しょうげき)で上手く呼吸ができない。マユの口からはうめき声が漏れた。身体の節々が痛み、すぐには動くことができなかった。気絶しなかったのは不幸中の幸いか(ある)いは…。

 

 身体はふらふら、足はガクガクと子鹿(こじか)のように震えながらも何とか立ち上がる。そして、マユは何が起きたのか確認するために周囲を見渡し––––唖然(あぜん)とした。

 

 先程までマユが飛んできた方角にある山。そこがまるで背景がすり替えられたようにすっかり様相(ようそう)が変わっていた。抉られた斜面は赤茶(あかちゃ)けた乾いた土が露出し、木々は倒れ、一部は炭化(たんか)してぷすぷすと(けむり)を上げている。

 

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん…えっ!?」

 

 思わずそこへ向かおうとして、歩き出した瞬間に肩から何かがボトリと落ちる音が聞こえた。慌てて振り返れば、そこには力無く投げ出された腕が落ちている。

 そう、()()()()

 

 それは見覚えのある衣服を纏っており、白い肌の指先には何度も見た銀色の指輪が付けられている。

 

「お母さん…?」

 

 それは変わり果てた母親の腕であった。おそらくあの時自分を押したのは母親だったのだろう。そして、爆風に煽られた母親の腕が自分ごと…。

 

 そこまで考えて、マユは途端に吐き気を催した。つい先ほどまで自分に触れ、話し、動いていた母親の腕が転がっている。彼女はもう限界であった。

 

「お父さんとお兄ちゃんは…きゃっ!」

 

 離れ離れになった肉親を探し求めて一歩を踏み出す、それと同時に背後から再び爆発音と衝撃がマユを襲う。それを何とか耐えたマユが頭を上げたところで、彼女は()()と目があった。

 

 マユの十倍はあるであろう大きな体躯(たいく)に武装したライフルとシールドをその手に持つ人型––––"ストライクダガー"と呼ばれる地球軍の次期主力量産機とされているモビルスーツだった。

 

 頭部のバイザー越しにストライクダガーがこちらを見据(みす)える。敵のライフルがゆっくりとこちらを––––マユへと狙いを定めた。それが何を意味するのか、マユにでも理解できる。

 

 マユは怯えた。どうしてこちらへ銃を向けるのか理解できない。しかし、このままでは死ぬのだということは理解できた。この世界から自分という存在がかき消されるのだ。そんなの嫌だ。

 

 だから、マユは心の奥底からこう願うことしかできなかった。

 

 –––––誰か助けてっ!

 

「え…?」

 

 赤い光が突き刺さった。だが、それはマユにではない。こちらにライフルを向けていたモビルスーツにだ。ストライクダガーは頭上から落ちてきた槍のようなビームにコックピットを貫かれ、潰れるように崩れ落ちた。それきり動かなくなる。

 

 当然のことに混乱し、落ちてきた方向である上空を()(あお)いだ。そこでは相変わらず目で追えない爆音とミサイルの音が聞こえてくるが、先ほどまでと大きく異なるものが見える。

 

 そこには光があった。その光から様々な方向へと赤い光の槍が放たれ、その度に各地から何かが倒れる音が聞こえる。マユからは確認できなかったが、その光はこのオノゴロ島に侵入してきたストライクダガーの(ほとん)どを沈黙(ちんもく)させるものだった。

 

「…太陽?」

 

 その光はあまりにも眩しく、始めは目を細めないと確認できないほどだった。

 やがて、目が慣れてくるとその光が少しずつ動いていることに気がつく。それはやがてこちらへと降下してくる。近づくにつれて徐々(じょじょ)に形を見てとれるようになり、光の点のように見えたそれはやがて人型へと変化していった。

 

 形はストライクダガーなどのモビルスーツと変わりはない。()いて言うなら、額に付いているVの形の装飾や人間のような二つの目が特徴的か。両手に武器を持つその姿は先ほど目撃した死の天使に酷似(こくじ)している。

 

「……天使さま?」

 

 ただ、背中から漏れ出すように排出(はいしゅつ)される光の粒子によって形成された大きな翼。重力を無視したように地上から見下ろすその姿は人ならざるもの、モビルスーツを超えた超常的なものがこの地に降臨(こうりん)してきたような様だった。

 

「……」

 

 人型の機械がマユを見つめた。一瞬、目があったような気がする。この時だけは、身体の痛みも家族と離れ離れになった悲しみも感じなかった。ただ、助かったという安堵(あんど)の思いと目の前の天使に対する複雑な思いがマユの中に渦巻(うずま)いていた。

 

 この時のことを忘れることはないだろう。家族を失い、己も身体の一部を失い、戦争というものを憎むようになるきっかけ。それがこれからの彼女の––––そして、離れ離れになった兄の行動原理の(いしずえ)になり、自己確信の源となり、何事にも変えがたい(おか)さざるべき聖域となった。

 

 

▽△▽

 

 

 青く輝く惑星を(なが)め、苦い思い出に身を(ひた)していた少女はスピーカーからの声で我に返った。

 

〈–––––()()()()、そろそろ時間です。準備はいい?〉

 

「大丈夫です」

 

 素早く気持ちを入れ替える。自分はもうマユ・アスカではないのだ。操縦桿を動かして、機体をアーモリーワン内部へと向ける。まるで身体の一部であるかのように、思いのままに動く機体に密かな満足感を覚えながらも、それは決して表にはおくびに出さない。

 

〈ファーストフェイズ、ミッションスタート〉

 

 ––––少女は力を手に入れた。

 

 いつの日にか焦がれた理想の姿。何者も敵わない不屈の在り方。この世の不条理の全てを()(はら)う光の輝き。

 

 自分は–––フェイト・シックザールはソレスタルビーイングのガンダムマイスターなのだから。

 

 

▽△▽

 

 

 C.E.71 6月15日 オーブ解放作戦

 

 オーブ連合首長国首都オノゴロ島に存在するマスドライバー基地「カグヤ」と、公営企業モルゲンレーテ本社施設掌握の目的で発動した大西洋連邦によるオノゴロ島侵攻作戦。

 

 戦局は物量に勝る大西洋軍有利に進んだが、翌16日、敗色(まけいろ)を悟った前代表ウズミ・ナラ・アスハ以下オーブ首脳陣等によってマスドライバーやモルゲンレーテもろとも地下軍事施設が自爆(じばく)、目的は未達成に終わり、以後オーブ本土は大西洋連邦の管理下に置かれた。

 時は流れて戦争終結後、一部のオーブ軍人や連合軍人が奇妙(きみょう)なことを話していたのが噂となった。当時、オノゴロの戦場で翼を広げた"光の天使"を目撃し、その天使は圧倒的な力で連合のストライクダガー、オーブのM1アストレイを殲滅(せんめつ)したという。

 

 オーブ軍司令部でもアンノウンの情報は話題になっていたものの、突如として味方に加わった"アークエンジェル部隊"や"フリーダム"、そしてザフト所属であるはずの"ジャスティス"や"バスター"などの参戦もあって司令部は混乱していたために対応が遅れたのだ。

 

 そして、その後は戦場が宇宙へと移ったことや、アンノウンがその後に姿を現すことがなかったためにその情報は闇へと消えた。今ではフリーダムと見間違えたのだという考えが殆どであり、戦後二年間の間にオノゴロのアンノウンの情報は軍上層部からも消えていった。

 

 

 それから二年後のこと。プラントの"アーモリーワン"というコロニーで起きた事件にて、そのモビルスーツは再び姿を表した。

 

 戦争根絶を掲げる私設武装組織"ソレスタルビーイング"の象徴『ガンダム』として……。





・マユ・アスカ
原作主人公シン・アスカの妹。二次創作で生かされることが多い。今作もそれに倣って刹那枠に無理矢理押し込んだ。
実は非公式でシンとは5歳差となっているのだが、そうなると今現在11歳でガンダムマイスターをすることになるので、年齢をご都合主義で14歳にまで引き上げた。これでも若いと思うかもしれないけど、14はヒイロ・ユイと同い年。

・フェイト・シックザール
上記のマユ・アスカのCB(ソレスタルビーイング)でのコードネーム。由来はどちらも英語とドイツ語の『運命』から。
パイロットスーツは白。携帯にちなんでピンクでもいいかとそれだと歌姫と被るから無難な白で。

・何で刹那枠をシンにしなかったの?
本当はシンをマユのポジションにしたかったんですが、彼がザフトにいないとなるとそれはもうガンダムSEEDDESTNYじゃない何かになってしまうので。
彼は本当に主人公です←ココ重要。

作者はガンダム00のシナリオとガンダムSEED(DESTNY)のキャラデザが絡むのが好きなので。
いや、刹那達も大好きだけどネ!
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