【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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選ばれし道

 

 

〈冗談ではないよ、ジブリール〉

 

 モニターの中で老人達が、さも軽蔑(けいべつ)したという表情でジブリールを見下ろす。

 

〈いったい何だね、この醜態は?〉

 

 整然と優雅だったシェルター内部は、嵐の過ぎ去ったあとのようなありさまだった。割れたガラスが散らばり、倒れたボトルから流れ出した酒が絨毯(じゅうたん)に染みを作っている。

 

 ジブリールは血色の悪い顔をさらに青ざめさせて、椅子に身を(うず)めていた。

 

〈しかしまぁ、ものの見事にやられたもんじゃのう〉

〈ソレスタル…なんだったか? あの組織のガンダムとかいう兵器は何だ?〉

 

 男たちは彼の沈黙など構わず、他人(ひと)ごとのように話し合っている。

 

〈意気揚々と宣戦布告をして出かけていって、本命のプラントに辿り着くどころか、たかがテロリストにおめおめと退却とは。君の書いたシナリオはコメディなのかね?〉

 

 強烈な痛罵(つうば)に、ジブリールはギリギリと椅子のアームを握りしめた。

 

 こんなはずではなかった。

 開戦と同時に核攻撃で持って、一気に片を付ける–––––それがジブリールの理想のシナリオだった。だからこそ、大西洋連邦もしぶしぶながら乗ったのだろう。

 

〈これでは大西洋連邦の小僧も大弱りじゃろうて〉

 

 老人たちは平然と、世界最大国家の大統領を「小僧」呼ばわりする。それだけの力が彼等にはあるからだ。

 

〈……さて、どうしたものかの?〉

 

 嘲弄するような老人どもの会話の中で、一人がジロリとジブリールを睨んだ。

 

〈我等は誰に、どういう手を打つべきかな?––––– ジブリール、きみにかね?〉

 

 その声音(こわね)に含まれていたものに、ジブリールの背筋がそそけ立つ。眼前のモニターにずらりと並んだ老人たちにとって、ジブリール一人をブルーコスモス盟主の座から引き摺り下ろすことなど容易なのだ。

 

 彼等がジブリールを斬り捨てることを決断すれば、次の日にはブルーコスモス盟主の座には、彼等お気に入りのシャーロット・アズラエルが座っていることだろう。

 

 そんなふざけた未来を想像して、ジブリールは頭に血が昇るのを感じた。

 

「ふざけたことをおっしゃいますな! この戦争、ますます何としても勝たなければならなくなったというのに!」

〈…………〉

 

 その怒気に、老人たちはいったん押し黙る。それに力を得て、ジブリールは声を張り上げた。

 

「それに、あのガンダムとかいうモビルスーツ…あんなものを個人で所有するソレスタルビーイングなんていうテロ組織を放置して、いったいどうして安心していられるというのですか!?」

 

 ガンダムについては、まだ何も情報が入っていない。ファントムペインから戦闘データが送られているが、それは現行のモビルスーツを大きく上回る性能を持っているということだけ。

 それこそ、地球軍とザフト軍を相手にして、撤退まで追い込めるほどの性能だ。そんなものをテロ組織が有していて、いつでも攻撃ができるという方が、恐ろしいではないか。

 

「皆さんこそいいんですか?『戦争根絶』なんて思想を掲げる奴等を野放しにしておいて!」

〈それは……うぅむ〉

 

 戦争を糧にする彼等ロゴスにとって、それは問題だ。ジブリールとしては、コーディネーターさえいなくなれば、世界が平和になろうがどうしようが構わないが、目の前の老人たちはそうはいかない。

 

「奴等にいい顔をさせておくのは、皆さんも困るでしょう?」

〈それはそうだが……〉

〈だが、勝てるのかね? あのガンダムというモビルスーツ…とても艦隊の一つや二つで押さえられるとは思えないが〉

 

 しかし、どうも老人たちは弱気になっているらしい。よほど先ほどの戦いが堪えたようだ。これだから、自分の保身だけを考えた人間は…。ジブリールは鼻を鳴らして答えた。

 

「だからこそ!今、地球圏を統一する必要があるのです!」

〈地球圏統一だと…?〉

「ええ! この際、宇宙にいるバケモノどもには目を瞑りましょう。しかし、地球に奴等がいたままじゃ、テロリスト退治もできはしない!」

 

 傷つけられたプライドと、コーディネーターに対する嫌悪と憎悪が入り混じり、ジブリールの顔を彩っていた。彼は老人たちを鼓舞(こぶ)するように叫ぶ。

 

「手始めにオーブやスカンジナビアなどを取り込み、この星からコーディネーターどもを追い出さなければ!」

 

 それはもはや暴論だった。

 戦争根絶を掲げるソレスタルビーイングへ対応するために地球圏を一つにすることはともかく、そのためにザフトを攻めるということは決してイコールではない。

 

 しかし、彼の中では、自身の計画の邪魔をしたソレスタルビーイングよりも、コーディネーターへの憎しみの方が、はるかに凌駕していたのだ。

 

 

▽△▽

 

 

「では、プラント最高評議会は、議員全員の賛同により、国防委員会より提出の案件を了承する」

 

 同じ頃、プラント最高評議会の議場でも、ひとつの決定が下されていた。提議の通ったタカオ国防委員長が安堵(あんど)の表情を浮かべ、最後までそれに対抗していたデュランダル議長は、心痛をその顔に(ただよ)わせている。

 

 地球軍の核攻撃を見て、プラントでは地球連合への武力行使が選択されたのだ。

 

「–––––––しかし! これはあくまでも()()()()()()の行使だということを、決して忘れないでいただきたい」

 

 デュランダルの念に念を重ねた注意喚起に、議員たちも神妙な面持ちで頷く。

 地球軍に対しての武力行使を選択した彼等の間には、ある不安要素が存在していた。

 

「これ以上ソレスタルビーイングの介入を招くわけにはいきますまい」

「あのガンダムというモビルスーツ……かつてのフリーダムやジャスティス等を遥かに上回りますからな」

 

 議題は、彼等を(なや)ます私設武装組織ソレスタルビーイングについてのものへと移っていく。

 

「ソレスタルビーイング…一体何が目的なのか」

「何を言う。奴等が言っていたであろう、『戦争の根絶』だと…」

「バカな! そんなことができるわけがない!」

 

 フォックストロット・ノベンバーにおける四機のガンダムの出現。たった4機で核攻撃を行った地球軍を撤退まで追い込み、ザフトにも多大な損害を与えたソレスタルビーイングの存在を彼等は重く見ていた。

 それこそ、前大戦で地球・プラント間の争いに第三勢力として介入した三隻同盟以上に…。

 

「あの映像の男は何者なのか。素性はまだ分かっていないのか!?」

「いえ、まだです。しかし、身に付けていた衣服や映像内における部屋の備品などを見る限り、相当昔に取られたものだと…」

 

 騒がしくなる議会の様子を見て、デュランダルは誰にも聞こえないように小さな息を吐いた。

 

 実のところ、デュランダルは映像の男が()()()()()()()()()()()()()。知っている人は少ないが、彼は政治家である以前は遺伝子研究者として有名であったのだ。そこで活躍していた中で、その男の顔と名前を見たことがある。

 

「ならばジョージ・グレンとの関係性は! あそこまで容姿が似ていて無関係なわけがなかろう…!」

「はぁ…しかし、彼に関する情報は–––」

 

 そう、あの容姿を見れば、誰もがジョージ・グレンの関係を疑うだろう。無理もない。確かにあの男はジョージ・グレンの関係者なのだから。

 

 だかしかし、それを議員たちは知らないし、デュランダルも素直に教えるつもりはなかった。

 

「議長!」

 

 そんなデュランダルのもとに、秘書の男がひっそりの近づいて報告を行った。

 

「オーブよりアレックスと名乗る使者が改めて会談の申し込みを要請していますが…」

「あぁ、もうそんな時間か…」

 

 開戦してから、デュランダルの予定はより忙しくなっている。()との会談は、デュランダルも心待ちにしていたのだが、ガンダムの出現も合わせて、随分と予想外の事態の連続で時間が押してしまっているようだ。

 

「ガンダムを鹵獲するべきでは…?」

「それにしても、まずは新型モビルスーツの開発を…」

「では、例のサードステージシリーズを…」

 

 終わる様子のない議会の様子に、デュランダルは改めて溜め息を吐いた。

 

「ままならんな…本当に」

 

 

▽△▽

 

 

 地球・プラント共に各々の行く道を定めた中、ミネルバが停泊するオーブ連合首長国もまた選択を迫られていた。

 

「ダメだ、ダメだ、ダメだッ!」

 

 カガリは、並び立つ閣僚(かくりょう)を前に一人、孤独の戦いを強いられていた。訝しげにこちらを見つめる閣僚に対して、彼女は憤りもあらわに叫ぶ。

 

「冗談ではない! 何と言われようが、今こんな同盟を締結することなどできるかっ!」

 

 連合国の宣戦布告以来、カガリはあらゆる手を()くして、開戦を回避する手段を模索(もさく)したが、その努力は実ることなく、戦端(せんたん)は開かれてしまった。

 そして、彼女が次に迫られたのは、自分たち(オーブ)の立ち位置を決定することだった。

 

 カガリからすると信じがたいことに、ウナト・エマ・セイランを始めとする閣僚たちは、大西洋連邦との同盟に固執(こしつ)しているのだ。

 

 断固としてそれを拒むカガリの姿に、ウナトが苦い表情を浮かべる。

 

「しかし、代表…」

「大西洋連邦が何をしたか、お前たちだってその目で見ただろう! 前大戦のことはともかく、今回の一方的な宣戦布告、そして核攻撃だぞ!」

 

 カガリは義憤(ぎふん)に震えながら怒鳴(どな)り返した。

 

「そんな国との安全保障など、どうして受け入れることができるか、お前たちは!」

「…代表」

 

 閣僚たちがいきりたつカガリを宥めようとする中、ウナトの隣に座るユウナがすっと立ち上がる。

 

「そのような、子供じみた主張はおやめいただきたい!」

「なっ!」

 

 ユウナは、まるで手に負えないというようにカガリを見やり、ハッキリとした主張で答えた。

 

「何故? 失礼ですが、状況を理解できていないのは代表の方ではないですか?」

 

 その言葉に、顔には出さないが閣僚達も賛成の意を示し、それに気を良くしたユウナは小馬鹿にしたような口調で言い放つ。

 

「あの宙域で起きた戦闘、もしや代表は地球軍がただ核攻撃をしただけだと思っているのですか? 彼等の存在をご存知ないと!」

 

 そう言うと、ユウナはモニターに映る四機のモビルスーツを指差す。あれは、ガンダムと呼ばれるソレスタルビーイングという組織の機体だ。次々と連合及びザフトの機体を破壊するその姿に閣僚がどよめく。

 

「大西洋連邦は、あのテロリストの持つ強大な力を恐れています。だからこそ、地球の一国家として、オーブも共に手を取り合ってテロリストへ対応しようと言ってくれているのに…代表は一体何がご不満なのですか!」

「それは……しかし!」

「それともこの同盟を跳ね除け、『オーブの理念』を理由に地球の国々とは手を取り合わず、この惑星の上でまた一国、孤立しようとでもいうのですか?」

「違うっ!」

 

 なぜそういうことになるのか。

 カガリの言いたいのは、そういうことではない。だが閣僚達は皆、まるで駄々っ子を見るかのような視線で、うんざりとした表情でこちらを見つめている。

 

 確かに彼等の言い分も分かる。いくらソレスタルビーイングが「戦争根絶」なんて聞こえのいい理想を並べても、ガンダムという強大な武力を行使する以上、地球やプラントからすれば脅威でしかない。

 

 だが、ならば何故、未だに武力を放棄せず、世界を敵と味方に分けて、手段を選ばずに全てを力で解決しようとする者たちに加担しようと思うのか。

 

「では、どうするというのです?」

「それは…けど、それがなぜプラントを敵性国家と認めることになる。むしろ、彼等とも手を取り合って…」

 

 ユウナが厳しい声で問いただし、カガリはそれに気圧(けお)されそうになりながら、懸命(けんめい)に言葉を紡ぐ。

 

「代表…世界はそんな簡単にできていないのです」

「は?」

「地球が一つになり、平和のために共に手を取り合う…それに何のご不満があるのです」

 

 元々大西洋連邦寄りだったセイランはともかく、他の閣僚達もブレイク・ザ・ワールドの件でプラントへいい感情を持っていない。積極的に敵視をすることはなくても、彼等の言う「平和な世界」の中にプラントは含まれていなかった。もはや、連合にとってプラントもテロリストと同列なのだろうか…。

 

「代表、平和と国の安全を望む気持ちは、我等とて皆同じです。だからこそ、この同盟の締結を申し上げている」

「ウナト…」

「伝統や正義も構いませんが、今の世界……何よりも国と国民を第一に考えていただきたい」

 

 ウナトの声が、重くカガリの上にのしかかる。

 今のオーブ閣僚に、カガリの味方は誰一人としていないのだと、悟らざるを得なかった。

 

 

▽△▽

 

 

「カガリ!」

 

 後ろから朗らかに声をかけられ、カガリは疲れた顔を向けた。

 閣議が終わり、閣僚達がぞろぞろと閣議室から出てくる中、ユウナがカガリの元へ駆け寄ってくる。

 

「大丈夫? 疲れてるみたいだけど」

 

 さっきのことを忘れたような馴れ馴れしさに、カガリは反射的に嫌悪感を抱いたが、流石の彼女も態度には出さない。すると、彼はそれに気づかずに言葉を続けた。

 

「さっきは悪かったね。でもほら、あそこで君に意見を言うのが僕の役目だからさ」

「分かっている、そんなことは……」

 

 そう、分かっている。

 カガリという"アスハ"に対抗するため、"セイラン"の彼が意見を口にしただけのこと。それを咎めるつもりは一切ない。

 

「大丈夫、みんな分かっているよ。ただ、今度の問題が多すぎるだけだ…君には」

 

 ユウナが隣を歩きながら、慰めの言葉を口にする。疲れ切っていたカガリは、その言葉に含まれた無意識の見下しに気づくことはなかった。

 

 二人はそのまま執務室へ辿り着き、ユウナはカガリを労るように中に迎え入れた。

 

「さ、ともかく少し休んで。なにか飲むかい? それとも軽くなにか食べる?」

「いいや、大丈夫だ…」

 

 カガリは沈むようにソファに腰を下ろし、背をもたせかけて目を閉じる。ユウナの気遣いはありがたいが、疲労感ゆえか鬱陶しく感じる。こんな時は、ユウナではなくアスランにいて欲しかった。彼ならば、何も言わなくても自分の気持ちをわかってくれるのに。

 

 しかし、彼はここにはいない。いや、それどころかオーブにもいないのだ。

 

「可哀想に…君はまだ、ほんの18歳の女の子だっていうのにね」

 

 その言葉の中に含まれた意味に、思わずムッとするが、口でこの男に勝てないのは分かっていたので、カガリは彼の施しを拒否することで小さく反抗した。

 

「それにしても、アレックスのやつも薄情だねぇ。こんな状態のカガリを放って、プラントへ行っちゃうなんてさ」

「………っ!」

 

 アスランを軽蔑するかのようなユウナの発言に、カガリは思わず目の前の男をぶん殴りそうになった。それを必死に理性で押さえて、伏せた顔の下で歯を食いしばる。

 

 アレックス・ディノことアスランは、現在プラントへ向かっている。開戦することによってプラントがどのような対応を取るのかを、オーブからの特使としてデュランダル議長に確かめるためだ。

 

 カガリとて、アスランには側にいて欲しかったが、彼の覚悟を思えばそれを無為にしてまで引き止めることはできなかった。彼は今も"ザラ"の名の呪縛に苦しんでいるのだ。それを解決できるのならと、カガリも彼の背中を後押しした。

 

「でも大丈夫だよ。彼と違って、僕はいつでも君のことを–––––」

「ユウナ」

 

 だからこそ、彼の覚悟を弄する発言は許しておけない。これ以上ユウナの耳障りな発言を聞いていれば、カガリとて我慢の限界を迎えそうだった。

 

「お前のいうとおり、私も少し休むことにする。一人にしてくれると助かるんだが…」

「え、あ、うん。お疲れ様…でした」

 

 溢れる怒気がカガリに似つかわしくない低い声となって口に出た。それにユウナは面食らった様子であり、明らかに不機嫌な様子のカガリに気圧されたようにゆっくりと執務室を後にしていった。

 

「…はぁ」

 

 カガリ以外無人となった執務室で、彼女は深い溜め息を吐いた。

 

 自分でも政治の類は向いていないと分かっていたが、こうもうまくいかないと流石に自信をなくす。自分の信じる物は間違っていないと思っているが、それがどうにも閣僚達には伝わらないのだ。

 

「お父様…私は」

 

 そんなとき、父が生きていれば、どんな決断をしたのだろうか。今自分がやっていることは、本当に単なる我が儘なのではないか。そんな不安がカガリの肩に見えない重みとなってのしかかっていた。

 

 





>地球連合(大西洋連邦)
ガンダム強すぎだろ
→これは地球国家全てで団結して、鹵獲・破壊するしかねぇ!(00と同じ展開)
→そのために邪魔なザフト軍を地球から追い出そうぜ!(は?)

>プラント(ザフト)
ガンダム強すぎだろ
→できれば鹵獲したい
→よし、新型モビルスーツ開発しよう!(デスティニー・レジェンド)
→それまではできるだけ争いは避けようね!(小並感)

>オーブ
ガンダム強すぎだろ
→これは地球国家全てで〜以下同文
→よし、連合と同盟結んで、ついでに邪魔なザフトも排除して連合に恩売っとこうぜ!(は?)

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