【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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愚者の鎖

 

 

 何故こうも、世界は自分たちに優しくないのか。

 

 セイラン家の控えの間で、カガリは無表情で座り込んでいた。大事な話があるということで、ユウナにセイラン家の邸宅へ呼び出されたのだ。

 

「やぁ、カガリ。突然呼び出して悪かったねぇ」

「ユウナ…」

 

 苦い思いで座り込むカガリに対して、ユウナの相変わらずの軽薄(けいはく)そうな声がかけられる。この声にも慣れたものだが、やはりカガリにとっては聴き心地の良いものではない。

 

「……で、何のようだ?」

 

 カガリは、ぶっきらぼうに尋ねる。

 それは彼女の素であると同時に、あまり好きではないユウナに対するささやかな反抗だった。

 

「用があるから呼んだんだろ? わざわざ? だったら早く言えよ」

 

 すると、ユウナは大仰(おおぎょう)にため息をつく。

 

「やれやれ。確かに立場を考えれば代表を呼び出すなんて真似をした僕も悪かったけれどさ…」

 

 もう少し、言葉遣いどうにかならない? というユウナの視線にカガリは無言で目を逸らして答えた。

 

 着飾った言葉に何の重みがあるというのか。父もアスランもカガリにそんなものを求めたことはなかった。彼等はありのままのカガリを認め、導こうとしてくれた。言葉遣いなどより、語られる内容の方に耳を(かたむ)けてくれたのだ。

 

「…まぁ、いいか。それより、先日の件なんだけど–––」

 

 カガリが(いだ)いた反感に気づく様子もなく、ユウナは珍しく神妙(しんみょう)な調子で言い、その言葉にカガリは思わず表情を暗くした。

 

 先日の件…それは、ユウナがカガリに持ち込んできた結婚の件だ。オーブが大西洋連邦と同盟を結ぶのにあたって、今までの中立の姿勢から変化するのに先立ち、今まで良い関係でなかったアスハ家とセイラン家の繋がりをアピールするためのものである…らしい。

 

「全く、子供の時間も終わりにしないと…僕もカガリもね」

「ユウナっ!」

「おいおい、勘弁してくれよ。僕だって好きで君と結婚したいわけじゃない。けど、これは国のためだ。分かるだろ?」

 

 ウズミ・ナラ・アスハの子供ならね、と。

 そう言われて、カガリは言葉に詰まる。

 

「君と『彼』のことは僕も分かってはいるけど…。それがどれほど難しいかは、君が一番よく知っているんじゃないかな?」

「っ!」

 

 そう、今この情勢で、アスランとの関係など認められるはずもない。分かっている。互いがどれほど相手を必要としていようとも。カガリは国を背負っているのだ。その責任から(のが)れることはできない。自分のことの前に、国民のことを考えなければならないのだ。

 

「–––––––––というつもりだったんだけどさ」

 

 そこで、ユウナは一度言葉を切り、いつもの軽薄な笑みではない神妙な表情で続けた。

 

「実は僕、君との結婚の話、見送ろうかと思ってるんだよね」

「…何だって?」

 

 突然、予想もしなかった告白をされ、カガリは頭の中が真っ白になる。

 セイラン側が強引に推し進めてきたこの婚姻を、セイラン側が棄却(ききゃく)するとは…どう言うことだ?

 

 混乱するカガリをよそに、ユウナはあっけらかんとした様子で笑う。それは、心底カガリを馬鹿にしたような嘲笑(ちょうしょう)だった。

 

「だって、君と僕では釣り合わないだろう?」

 

 その時、部屋の扉からライフルを携えた集団が入ってきた。その銃口の全てが、カガリに向けられている。そして、その集団の中から一人の男が姿を現した。

 

「ウナト…どういうつもりだ!」

 

 カガリの前に現れたふくよかな男、ユウナの父であるウナト・エマ・セイランは、静かな口調で告げた。

 

「代表、貴方を拘束させていただきます」

 

 そう言って、ウナトが見せた書類には、見覚えのある機体の姿が映っていた。

 

「それは…フリーダム!?」

 

 白い機体色に青い翼を広げたモビルスーツ。間違いなく、カガリの弟の乗機だ。戦後、密かに修復した機体が保管されていたと聞いているが…。しかし、それが何故…?

 

「先日、アスハ家の所有地にて、フリーダムとソレスタルビーイングのモビルスーツ"ガンダム"との戦闘が確認されました」

「なっ!?」

 

 ソレスタルビーイング…カガリが宇宙(そら)で遭遇し、ついこの間オーブ近海でも地球軍相手に武力介入を行った私設武装組織。だが、ガンダムが一体どうしてキラを!?

 

「軍が到着したときには…既にフリーダムは大破。ガンダムの姿はありませんでした」

「大破!?…負けたのか!キラは!?」

 

 キラが負けるなど、カガリは信じられなかった。ストライク時代から彼の力を側で見てきたのだ。アスランと並んで、彼等はカガリが最も信頼するモビルスーツパイロットだったというのに…。

 

「弟君は無事…とだけ言っておきます。しかし、代表の返答次第では、どうなるかはわかりませんな」

「な…どういうことだ!」

「いくら我らオーブがユニウス条約に直接の関わりはないとは言え、個人であのような機体を所有することが問題なのですよ……それに」

 

 そして、ウナトが書類をめくると、二枚目の写真に映っていたのは、カガリも乗ったことのある白亜の不沈艦(アークエンジェル)。秘密裏に隠されていたはずのそれが今、カガリに突き出されている。

 

「アークエンジェル!?…何故それが!」

「…やはり、アスハ家の独断ですか」

 

 鋭い眼光で睨まれ、カガリは言葉に詰まった。

 確かに政府に無断でアークエンジェルを匿っていたのは事実だ。カガリとて、そこを突かれれば痛いものがある。

 

「困りますな。これから我らオーブは大西洋連邦と同盟を結ぶというのに、その大西洋連邦から強奪した戦艦を隠し持つなど…この国の信用に関わります」

「そ…それはっ」

 

 何とか言葉を口にしようとしても、それは言葉にならない言葉となって言い淀むことしかできない。そんなカガリの様子を見てニヤリと笑ったウナトは、彼女にこれらの証拠を突き付けた。

 

「しかも噂ではアスハ家で、あのラクス・クラインの姿を見たとか…代表、ひっそりとプラントと通じているのではないですか?」

「何だと!?」

 

 その言いがかりに流石のカガリも怒りで立ち上がったが、そこで気付いた。自分が策に()められたということに。彼女がつい先日までデュランダルと非公式の会談に向かっていたことや、アスランがプラントへ向かったことなども状況を悪くする。

 

「何であろうと、これ以上の勝手は目に余る。代表、貴女の存在は今のオーブにとっては害にしかならない。よって、本日ただいまを持って、貴女の持つ全権限を剥奪し、身柄を拘束させていたたきます」

 

 ウナトの命令で、セイラン派の人間たちが部屋に雪崩込み、カガリを連行していく。彼女は反論の言葉を持たず、無抵抗のまま連れていかれることしかできなかった。

 

「だから言っただろ? もう君と僕では釣り合わないってさ…!」

 

 オーブはセイランの手に落ちたのだ。それはつまり、中立国オーブが完全に地球連合の一員になったことを意味していた。

 

 

▽△▽

 

 

 その頃、オーブを出航したミネルバは、無事何事もなくカーペンタリア基地へ到着することができた。ソレスタルビーイングがオーブ近海の地球軍へ武力介入したこともあり、結果的にミネルバはここまでの道筋を連合軍と遭遇することなく進むことができたのだ。

 

 終戦後、カーペンタリア基地は西のジブラルタルと並んで、ユニウス条約の監視常駐(かんしじょうちゅう)基地及び在地球公館としザフトに残されたものだ。表向きは軍事拠点ではないと表明されていたが、格納庫(ハンガー)に並ぶモビルスーツの数を見れば分かるだろう。

 

「へぇ…カーペンタリアって初めてきたけど、案外ボロボロじゃない」

「仕方ないよ。開戦と同時に地球軍と戦闘になった挙句、ソレスタルビーイングまで介入してきて、少し前まで大変だったみたいだし」

 

 買い物(かご)を掲げたメイリンとルナマリア・ホーク姉妹の会話が聞こえてくる。

 ここは基地のドラッグストア(P.X.)であり、店を出ようとしたシンは少し足を止め、彼女達へ目をやる。

 

「だからさ、いつ出航命令でるかわかんないじゃない? やっぱ、今のうちに買っとかなきゃ!」

「あ、そう…なにがなんでそんなに要るんだか知らないけど」

 

 そう言って棚に手を伸ばしたメイリンの籠に、既に化粧品らしきものやシャンプーなどがずっしり入っているのに対して、姉のルナマリアは軽そうな籠を掲げて、すたすたとレジに向かっていく。

 

 …姉妹と言っても、性格は違うものだ。マユとは何をするにも一緒だったシンからすれば、彼女たちのような姉妹関係は新鮮だ。

 

 シンは、すれ違ったルナマリアに軽く手を挙げた後、ドラッグストアを出た。

 

 基地の内部といっても、この辺りはちょっとした商店街のようなもので、日用雑貨、本やゲームなどのメディア、衣料品などの店舗が並んでいる。

 

 暫くはあちこちの店を(のぞ)いた後、シンは昼食にハンバーガーを選び、包みを抱えながら適当に辺りをぶらついた。近くのゲームショップではヨウランとヴィーノが騒いでおり、準備中らしいレストランの内部ではレイがピアノを弾いて美しい音色を(かな)でている。

 

 どうやらミネルバのクルーはみな、オフを楽しんでいるようだ。

 

 格納庫(ハンガー)の間を歩いてミネルバへ向かいなから、シンはつらつらと考える。

 ミネルバのこの後、どこへ配備されることになるのか。まだ何も通達されていないらしいが、当初の噂通り月軌道(きどう)だろうか。元々宇宙用のミネルバなのだから、宇宙が本来の行き場だろう…しかし。

 

《…最新の情報です。ソレスタルビーイングが再度の武力介入を行いました。対象はガルナハンの連合軍基地であり、連合は軍を一時撤退させたようで……》

 

 今の世界情勢が混乱していることくらいシンにも分かる。アーモリーワンの強奪事件に始まり、ユニウスセブンの落下、それによる強引な開戦。更に全ての戦争行為に武力介入を行う私設武装組織の存在など、二年前と比べて世界は混沌(こんとん)に包まれているのだ。何が起きるか分からない。

 

 包みからドリンクを出して飲みながら歩いていると、目の前を歩行するモビルスーツの姿に目が行った。今更、ジンやディン、ザクを目撃したところでシンは驚かない。が、その機体は彼の見たことのないものだった。

 しかも、進む先はミネルバのドックである。シンはドリンクをつかんだまま走り出した。

 

 息をせき切ってハッチのなかに()け込むと、格納庫(ハンガー)のなかにはやはりあのモビルスーツがあった。しかも、その隣にはこれまた見たことのないオレンジ色の機体もある。

 

「おい、さっきの…」

 

 すると、ディアクティブモードの灰色に変じた機体から、搭乗者(とうじょうしゃ)が降りてくるのが見え、その姿にシンは息をのんだ。

 

「あんた…!」

 

 深い紅のパイロットスーツを身につけた搭乗者は、オーブで別れたはずのアスラン・ザラだった。シンは訳が分からず、険悪な表情で()め寄る。

 

「何だよ、これは…何でアンタがっ」

「んもう! 口の聞き方に気をつけなさい!」

 

 先に帰ってきていたらしいルナマリアが、慌ててシンを(いさ)める。

 

「彼はフェイスよ!」

「えっ…」

 

 言われて、シンはアスランの胸にマークされていた紋章に気付いた。

 フェイス。最高評議会議長直属の特務隊といえば、軍部のエリートだ。だけど、それがどうしてこいつに?

 

「…ザフトに戻ったんですか?」

 

 ルナマリアが「シン!」と言わんばかりの表情で睨んでくるが、シンはそれを無視して真っ直ぐにアスランを見つめていた。相手がフェイスだからって、そう簡単にはいそうですかって受け入れられるものか!

 

 アスランはそんなシンの視線に少し居心地(いごこち)を悪そうにした後、小さく頷いた。

 

「そういうのに…なるのかな」

 

 その返事の曖昧(あいまい)さが、何となく気に入らなかった。シンは噛み付くように()く。

 

「何で…だって、アンタは…!」

「シン!」

 

 アスハの…オーブの人間じゃないのか、と言おうとしてルナマリアに腕を掴んで強引に下げさせられた。アスランはどこか罰の悪そうな顔をしていたが、それが尚更シンの(しゃく)にさわる。

 

「––––––おいおい、到着早々揉め事か?」

 

 その時、彼等の真上から男の声がした。

 見れば、その声はアスランの乗っていた機体の横、見慣れぬオレンジ色の機体のコックピットから顔を出す一人の男のものだった。

 

 全員の視線が集まるなか、オレンジ色のパイロットスーツに身を包む青年がゆっくりとドックへ降りてきた。

 

「ハイネ・ヴェステンフルスだ。本日付けでミネルバの世話になることになる……って伝えるつもりだったんだが」

 

 その胸元には、アスランと同じくフェイスの紋章が刻まれている。年齢は、アスランより2、3歳程度上だろうか。イザークのように大人びた印象を受ける青年だ。

 

 彼はジロリとアスランへ視線を向けると、ニヤッと笑って肩を叩いた。

 

「何だよアスラン、早くも馴染んでるじゃないか」

「ハイネ…」

 

 どこがだよ…とでも言いたげなアスランの視線に、ハイネは屈託のない態度で答えると、シン達の方を向いた。

 

「おーおー、お前らがミネルバのひよっこどもか! 議長期待のルーキー達っていうからどんな奴らかと思ったが…既に一皮剥けたって感じじゃねえか」

「アンタは…」

「お前、インパルスのパイロットだろ? あれに選ばれるってことはかなり腕に自信があると見た。これからは期待してるぜ」

 

 ハイネは、どこか人をまとめるムードメーカーのようなものがあった。他の人にはない。どこか彼独自のキャラクター性を感じさせる。それは、アスランの着艦で不穏な方向に傾いてた場の空気を持ち直すほどに。

 

 先程までアスランに噛み付いていたシンも、ハイネの掴みどころのない陽気な態度に毒気(どくけ)を抜かれたようにその牙が引っ込んでいる。

 

「よーし、じゃあそんな期待のルーキーどもにフェイスである先輩二人を艦長のところまで案内する任務を与える。誰かいないかー?」

 

 そんなハイネの言葉に一番に反応したのは、メイリン……ではなくその姉のルナマリアだった。

 

「確認してご案内します!」

「サンキュー。ほら、行こうぜアスランも」

「あ、ああ。よろしく頼む」

 

 ハイネは微笑み、アスランを引きつれるようにルナマリアの後に続いてエレベータに向かう。

 

 その背中をシンは、黙って見つめていた。

 オーブにいたはずのアスラン・ザラがザフトに戻ってくる。それが何故だか無性に気に入らなかった。

 





>カガリ
この後はセイラン家で軟禁状態。
アスハの名を待つ彼女を逮捕というわけにもいかないので、表面上は体調が芳しくないと発表している。

>フリーダム
よくユニウス条約違反と言われてるけど、実はオーブは関係なかったりする。まぁ、そもそもオーブ所属でもないのでキラの個人所有モビルスーツということになるのが正しい。
でもそれって許されるの? 許されるなら僕もフリーダム欲しいけど。

>ハイネ
今作ではフライング登場。
今後は彼の仲間、オレンジ・ショルダー達も出るかもしれない。
生き残ってくれれば、シンとアスランの緩衝材になってくれる……かもしれない。
幻のハイネ専用デスティニーもあるかもしれない。
あらゆるIFが満ちている可能性の獣

>ガルナハン
さらっとニュースで武力介入されてた。
なので、原作でのローエングリン攻略作戦はカット。ローエングリンはGNメガランチャーで破壊されました。
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