【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

29 / 90

訂正
白のキングを黒のキングに修正


正義の在り方

 

 それを目撃したのは偶然だった。

 

 デュートリオンビームによる補給を済ませ、ミネルバへ迫るウィンダムをハイネと共に次々と撃墜したシンは、ガンダムと戦闘を行っているアスランの援護に向かおうとしたのだ。

 

 しかし、連合の撤退を確認したアスランはその場から切り上げており、ガンダムも既にこの場からは居なくなっていた。仕方なくシンもそれに(なら)ってミネルバへ戻ろうとした…まさにその時だった。

 

 上空を通り過ぎようとしたその時、眼下に広がるアスファルトの地面が視界に飛び込んできたのだ。続けて、作りかけの滑走路(かっそうろ)迷彩(めいさい)色で塗られた格納庫(ハンガー)がジャングルのなかに並んでいるのが見えた。

 

 –––––––基地?

 

 けれど、基地というにはあまりにもお粗末な出来だ。きっと建設し始めてからまだ時間が経っていないのか、それともザフトに一度破壊されたのか。いや、ソレスタルビーイングが介入していたのかもしれない。

 

 そんなことを思いながら、上空を飛行していたシンだったが、基地の中に軍服を着ていない男たちと、彼等へ呼びかける女子供達––––民間人の姿を見て、シンは凍りついた。

 シンの目の前で、連合の軍人が脱走しようとした男たちを撃ち殺したのだ。まるで木が倒されるように唐突(とうとつ)に、命が奪われたのだ。

 

 目の前で大切な者を奪われた女たちの叫び–––それはシンの魂の叫びでもあった。強き者が弱い者の命を一方的に搾取(さくしゅ)する。それは彼にとって一番に許せないことであり、行き場のない怒りと憎しみが出口を求めて荒れ狂った。

 

 しかし、今のシンにはインパルスという力があった。たとえ小さくても、かつての自分にはなかった誰かを守るための力が…敵を倒すための力がある。

 

 そう思ったら最後、シンは気づけば銃の引き金を引いていた。降伏の意思を持つ連合の兵士にも気付かずに、己の正義を信じて"悪"と決めつけた連合の基地を破壊していた。

 

 –––––シン!なにをやってるんだ!?

 

 怒鳴り散らすようなアスランの声で、シンは我に返った。

 敵への怒りと憎しみが一時的に鎮まり、目の前の現実が視界に飛び込んできて、シンは少したじろぐ…が。

 

 –––––お前、何をやっているのか分かっているのか!?

 

 何をしているのか?

 そんなの、人助けに決まっているじゃないか!?

 

 シンはアスランの言葉を無視して、僅かに残った建物にビームを撃ち込んだ後、怒りを全身に漲らせてインパルスを引き返させる。向かう先は、脱走しようとする男たちと女子供を分けるように設置されたフェンス。

 それをモビルスーツの力で簡単に引き抜き、シンは彼等を安心させるように機体を上空へ飛ばした。

 

 すると、シンの意図を疑い、物陰(ものかげ)に隠れていた人々が、おずおずと足を踏み出し、やがて走り出す。引き離されていた家族が手を取り、抱き合い、笑いあう。

 

 それはシンの理想の景色であり、かつて望んだ光景でもあった。

 

 ––––––そうだ、こんな人たちを助けるために俺は軍人になったんだ…。

 

 それを己が力で実現できたことを静かに誇りに思う。この時のシンは己が行動が正しかったと信じて疑っていなかった。

 

 

▽△▽

 

 

 戦いは、地球連合軍とザフト軍ともに痛み分けに近い形で終わった。

 

 地球連合軍は、ウィンダム全機を失い、建設途中だった基地も破壊されるという大損害を被り、これ以上の戦闘行為を仕掛けることは難しくなっただろう。

 ザフト軍も、ニーラゴンゴの艦載(かんさい)機であるディンとグーンが全滅。ニーラゴンゴ自体も航行不能なまでの損傷を受けたことで、修理のためにカーペンタリアへ引き返すことになってしまったのだ。

 

 ミネルバには損害らしい損害は無かったものの、護衛戦力を失い、厳しい船出となってしまった。連合もすぐに仕掛けてくるとは思えないが、決して安心はできない。

 

 ––––––パシンッ!!

 

 そして、全機が無事帰還してきたミネルバの格納庫(ハンガー)の中で、乾いた音が響き渡る。

 

 誰だ?どうした?とクルー達の注目が集まる中、その中心にいたのは、頬を叩かれたシンと平手打ちしたアスランだった。

 

「殴りたいのなら別に構いませんけどね! けど、俺は間違ったことはしていませんよ!」

 

 打たれた頬がジンジンと熱い。

 それでも、シンは反抗(はんこう)的な目でアスランを睨みつけた。

 

「あそこの人達だって、あれで助かったんだ!」

 

 脳裏に笑顔で抱き合っていた人たちの姿が思い浮かぶ。その光景は幸福なものだったはずだ。ならば、それを実現するための自分の行動が間違っているはずがないっ!

 

 しかし、彼の誇りは、二度目の平手打ちで(むく)われた。アスランが触れれば、切れるほどの鋭い目でシンを見据(みす)え、言った。

 

「戦争はヒーローごっこじゃない!」

 

 呆然(ぼうぜん)とするシンに対して、アスランは厳しい口調で続ける。

 

「自分だけで勝手な判断をするな! 力を持つ者なら、その力を自覚しろ!」

「な、なにを…!」

 

 シンには、アスランが何を言っているのか分からなかった。アスランは一番近くでシンの行動を見ていたはずである。ならば、あの基地で何が起きていたのかを理解しているはず。

 

 その上で、"ヒーローごっこ"だの"力を自覚しろ"だって? 意味が分からない。アスランはなにを言いたいのか。

 

「なにを言ってるんですか、あんたは!」

 

 今ひとつ意味を読み取れないアスランの言葉は、シンに伝わることなく、余計に反発心を(あお)るだけ。彼等は厳しく睨み合った。

 

「そこまでにしとけ、お前ら」

 

 もう少しで暴力沙汰に発展するんじゃないか、というところで間に入ったのは、ハイネだった。振り上げていたアスランの腕を軽くつかみ、いつものような声のトーンでそう言う。

 

「アスランも少し頭冷やせよ、後は俺が言っといてやるから」

「……ああ、すまない」

 

 同じフェイスであるハイネの介入で、アスランも冷静さを取り戻したのだろう。最後にシンに一つ視線を向けると、(きびす)を返して去っていった。

 

「なぁ、シン・アスカ…だったよな」

 

 その背中を最後まで睨みつけていたシンだったが、ハイネが声をかけたことで我に帰ったように視線を戻す。

 

「…そうですけど」

 

 特にハイネに思うところがあるわけではないが、同じフェイスであるためにどうしてもアスランの仲間=気に入らない相手のように考えてしまう。

 不貞腐(ふてくさ)れたように返事をするシンに苦笑して、ハイネはいつものように明るく言葉を続けた。

 

「まぁ、なんだ…俺もまだお前のことをよく知らないわけだが––––」

 

 そこで一度言葉を切り、ハイネはシンの目を見て話した。

 

「お前は間違っちゃいない」

 

 シンは思いもかけない返答に戸惑う。まさか肯定されるとは思ってもいなかったからだ。

 

「連合に強制的に労働させられていた民間人を助けた…それは正しい行動だっただろうさ。別に軍規に違反したわけでもないし、わざわざ殴られる必要もないだろうぜ」

 

 あっさり認められてしまった。

 シンは呆気に取られつつ、何となく、いま自分に重大なことが起こりつつあるのに気づく。

 だが、それが何であるかを見極めるよりも早く、ハイネは言葉を続けた。

 

「けど、俺たちは軍人だ。お前の機体…インパルスもそうだし、アスランのセイバーも俺のグフも同じだが、その銃口を個人的な感情で向けることは許されていない」

「それは…」

 

 反射的に否定したくなったが、ハイネの正論に言い返すだけの言葉が見つからず、黙り込むことしかできなかった。

 

「確かにお前や俺たちからすれば、あの基地の連合の人間は悪だったかもしれないが、それをお前自身の怒りで排除することが本当に正しかったと思うか?」

「………」

「別に全てが間違っていたわけじゃない。ただ、順序と方法というものがある。俺たちは軍人だからな」

 

 そんなハイネの言葉は、シンの胸にスッと入り込んできた。理解することは難しいが、何となく、彼がなにを言いたいのかが分かるような気がして…。

 

「ただ己の正義を振り回して敵を撃つなんて、そんなのあのソレスタルビーイングとかいうテロリストと何も変わらないぜ?」

 

 ソレスタルビーイング。戦争根絶のために武力を用いるテロリスト。彼等の理念に少しの共感を覚えていたのが、シンがハイネの指摘通りだという証拠だ。

 

 シンの心にふと、不安が忍び込む。今まで信じてきたものが根本から崩れ去っていくような感覚だ。

 

「そこのところをアスランも言いたかったんだろうが…ま、いきなり殴られたらわからねぇよな」

「………」

「ったく、そんな拗ねんなよ。子供じゃあるまいし」

 

 ()ねてなどいない。

 既にシンの心に怒りなどないのだ。ただ、冷静になった心に渦巻く気恥ずかしさと罪悪感が上手く言葉を(つむ)がせてくれないだけだ。

 

「俺たちはすぐ戦場に出る。その時にそれを忘れて、勝手な理屈と正義で、闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者だ」

「…わかってますよ、そんなの」

 

 それでもつい反抗的な言動を取ってしまうのは、もはやシンの癖なのかもしれない。それともこれがよくルナマリアが言ってくる『子供っぽさ』なのだろうか…。

 

「ま、それならいいさ。本来、ルーキーに話すようなことでもないしな。アスランも、お前を心配してるからつい、口出ししちまうのさ」

「俺を…?」

「そうそう。アスランからすりゃ、見てて危なっかしいお前が心配なんだろうさ」

 

 確かに、言われてみれば、戦場でアスランは常にこちらへ気を遣ってくれていた。あのガンダムを相手にしながらも…。

 

 シンの中で、言いようのないもどかしさが渦巻く。

 それを見てか、ハイネがポンと優しく肩を叩いた。

 

「ま、分かってるならいいさ。もしもお前がまた何かを間違えるようなら、今度は俺が一発ぶち込んでやる。俺のはアスランのとは一味違うぞ?」

「えぇ…」

「殴られるのが嫌なら、もう失敗するなよ。お前は俺たちと同じザフトレッドなんだからな」

 

 それだけ言うと、ハイネはドアの向こうへと消えていく。

 

「さぁーて、センチメンタルなアスランの奴でも慰めに行ってやるかー」

 

 その姿をシンは呆然としたまま(なが)めていた。

 

 結局、彼にはアスランやハイネの言葉の意味がよく分からなかった。

 言われたこと、やられたことを思い返すと、やっぱり腹立たしい。だが、不思議なことに、さっきまでの憂鬱(ゆううつ)(いか)りはすっかり吹き飛ばされていた。

 

 

▽△▽

 

 

 同時刻、ディアキアに建設されたザフト軍駐留基地では、宇宙(そら)から降りてきたプラント最高評議会議長であるデュランダルがカーペンタリアから届けられた報告書に目を通していた。

 

「そうか…ミネルバが彼等と戦闘を」

 

 インド洋における地球連合軍との戦闘。その舞台の中にカオスとアビスを確認できたことから、アーモリーワンでの強奪部隊が連合であった可能性はより濃厚になったことがわかる。

 

 だが、デュランダルにとっては武力介入に現れたソレスタルビーイングの方が重要だった。宇宙での連合との戦闘が一時的に収まり、この地上が主な戦場となった今、彼等の出現情報は貴重だ。

 

「–––––ああ、分かった。報告ご苦労、新たな指示は追って伝える」

 

 そんな中、デュランダルが目をかける部隊であるミネルバ隊がガンダムと戦闘を行うことになったのは幸運と言えよう。最新鋭のモビルスーツや優秀なパイロットが多く属するミネルバ隊を派遣することで、より洗練(せんれん)されたガンダムのデータが集まるからだ。

 

「しかし、機体で彼等に不便をさせることになってしまったか」

 

 その結果分かったことは、やはりインパルスやセイバーといったセカンドステージシリーズでは、例えアスランのようなエースパイロットが搭乗してもガンダムに勝利するのは難しいというものだった。ザクやグフでは言わずもがなだろう…。

 

 今現在確認されているガンダムは全部で四機。それが同時に武力介入を行ってきた回数は少ないが、あれだけの機体性能を誇る機体が四機もいるとなっては、流石のアスランやレイ、シン・アスカ達でも撃墜を(まぬが)れない可能性が高い。

 

「となると……」

 

 デュランダルは、手元にある別の書類へ視線を移す。

 そこには、ザフトの開発する次世代型最新鋭モビルスーツについてが記載されている。

 

 仮決定した機体名はZGMF-X42S デスティニー

 

 形骸(けいがい)化したユニウス条約を無視する形となってしまうものの、核エンジンやミラージュコロイドなどのこの時代における最新鋭の技術をふんだんに投入した新型モビルスーツ……であるそうだ。

 

 その機体がガンダムにどこまで食い下がれるかは分からないが、技術班によるとセカンドステージの機体に比べて数倍の性能アップを()げているデスティニーならば、今集まっているデータ上のガンダムであれば、互角に渡り合えるらしい。

 

 とはいえ、機体はまだジブラルタルで開発途中だ。

 デスティニー開発の副産物として造られたデスティニーシルエットの改良型は用意しているものの、更なる余剰戦力がミネルバには必要になるだろう。

 

 と、そこまで考えて、デュランダルはアーモリーワンでのカガリの言葉を思い出した。

 

 ––––––強すぎる力はまた新たな争いを呼ぶ!

 

 それに対して、デュランダルは全く反対の意見で反論したが、今の結果を見るに彼女の言い分も正しかったのだと実感できる。ソレスタルビーイングという強大な力の存在が、ザフトに条約を超えた新型モビルスーツの開発を決断させたのだから。

 

「……ままならんな、全く」

 

 そのような世界の動きも、彼等にとっては計画通りなのだろう。

 文字通り世界を変える彼等の力を目の当たりにして、デュランダルは己の計画(デスティニープラン)がとても上手くいかないだろうことを理解していた。あるいは、実行するにしてもそれは更に先の時代へと先延ばしになったのは間違いない。

 

「やれやれ…道化というのは、中々気づかないものだな。ジブリールよ、君はどうする?」

 

 疲れたように溜め息を吐くデュランダルの手元では、黒のポーン達が次々と討ち取られ、ナイト、キングにまでその手が伸ばされていた。

 

 

 





>シンの独断行動
ヒーロー物なら大正解の行動も、人の生死にが関係する戦争ならば、限りなくアウトに近いセーフ。少なくとも命令無視はダメだが、連合が素直に投降していれば、シンも無差別破壊まではしなかったはず。

>ハイネ
本編での活躍が限定すぎたため、殆どオリキャラみたいな役目を押し付けることに…。キャラ崩壊が激しくなりますが、どうかご容赦を。

>デュランダル
彼は一旦デスティニープランを諦めました。
イオリア計画の第一段階【破壊と再生】を推測し、統一された世界に向けて行動を始める予定です。

>チェス盤
原作では、
白のクイーン=ラクス
白のナイト=キラ
という風だったので、

黒のキング=デュランダル
黒のナイト=シン、レイ
黒のポーン=ザフト
という描写になっています
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。