【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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決意の影で

 

 

〈このデモによる死傷者の数は、既に千人にのぼり、赤道連合政府は……〉

〈十八日の大西洋連邦大統領の発言を受けて、昨日、南アフリカ統一機構のガドウ議長は……〉

〈この声明に対し、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、昨夜ふたたび、プラントはあくまでも……〉

〈ユーラシア西側地域では、依然激しい戦闘が続いており、私設武装組織ソレスタルビーイングの武力介入も合わさって、周辺都市部には深刻な戦闘の被害が発生しています…〉

 

 カガリは重苦しい思いを胸に、モニターから目を逸らした。

 眼前のマルチモニターでは世界各地のニュースが流れており、カップを片手にそれを(なが)めながら、バルトフェルドもやれやれと息をつく。

 

「毎日毎日、気の滅入るようなニュースばかりだねぇ」

 

 オーブ連合首長国、アスハ家の管理する別邸にて、バルトフェルドたちはその身を隠していた。()められた形になったカガリたちだが、未だ国内にアスハ派は多く、こうしてセイランに見張られることなく再び顔を合わせることができているのだ。

 

「しかし、何か変な感じだな。プラントとの戦闘の方はどうなっているんだ? 入ってくるのは連合の内乱と…ソレスタルビーイングのニュースばかりじゃないか」

 

 ここのところ伝えられるのは地上での内戦やデモ、紛争。そして、それに武力介入を行なっているソレスタルビーイングのニュースがほとんどで、まるで連合がプラントよりもソレスタルビーイングの方を敵視しているようにも見える。

 

「プラントはプラントで、ずっとこんな調子ですしね」

 

 ラクスがそう言い、マルチモニターの一画面を切り替える。

 そこには派手なコンサート風景が映しだされ、ラクス–––––いや、ラクスにそっくりな少女が観客の歓声(かんせい)を一身に受け、楽しげに歌っている。

 

〈勇敢なるザフト軍兵士のみなさぁーん!〉

〈平和のため、私たちもがんばりまぁす! みなさんもお気をつけてぇーっ!〉

 

 一見それらしいが、間違いなく本人なら言わないだろうことだ。本物を知るカガリたちからすれば、まるでラクス本人のことを(ぞく)っぽい戯画(ぎが)にまで(おとし)められているかのようだ。

 

「みなさん、元気で楽しそうですわ」

 

 ラクスはにっこり笑っているがその目は笑っていない。むしろ音色は冷ややかだ。それを感じ取ってか、普段は飄々としているバルトフェルドがぎくりと身を引く。

 

「それだけじゃないわ。プラントも連合に関することは一切報じないし。どこのニュースも地球でのテロとソレスタルビーイングについてばかりよ」

 

 まるで、誰かが情勢を操作しているのかと言わんばかりに、世界の注目は彼等に集まっている。それも敵意という名の注目を…。

 

「くそっ、こんな時に何もできないなんて!」

 

 カガリは焦りを懸命に押し殺しながらも、混沌と化す世界情勢を前に居ても立っても居られない気分だった。

 

「そりゃ、なんとかできるもんならしたいけどねぇ…。今の僕らには力もなければ、それを振るう場所も理由もないわけだ」

 

 彼等は現在、プラントからのスパイという名のセイラン家からの嫌疑が掛けられている。かつての大戦の英雄である彼等をどうこうするのは表向きに難しかったから特に罪は問われなかったものの、セイランに見張られているおかげで自由に動けない身だ。

 

「でも、なんとかしなくちゃ」

「–––キラ」

 

 それまで黙っていたキラがポツリと(つぶや)く。

 包帯を巻いた彼の姿は痛ましいものの、特に重傷はしていない。フリーダム自身は中破したものの、パイロットのキラは少しの治療で済んだのだ。

 

「今はまだ何も分からないことだらけだけど、このまま何をしなかったら、きっと後で後悔する」

「そうね…」

 

 マリューも考え込みながら相槌を打つ。

 情報というのは戦争において大きなアドバンテージだ。それを手に入れることができない彼女たちは、戦う理由すら見失っていた。

 

「何故ガンダムがキラ君を襲ったのかも分からないし、何よりも……」

 

 彼等の視線がマルチモニターに映る四機のモビルスーツ…ガンダムへと集まる。

 

「キラを襲ったあの機体、この映像のどこにも映っていない」

「でもあの機体は確かに…」

 

 現状、ソレスタルビーイングの持つ人型機動兵器ガンダムの持つ特徴は大きく二つ。一つ目はストライクやフリーダム等と共通したツインアイの頭部形状をしていること。そして、二つ目が重要であり、それが背部から出す緑色の粒子だ。

 旧型とはいえ、あのフリーダムを単純な機体性能で圧倒したあのモビルスーツはガンダムで間違いないはずなのに、その機体はどの国のどのメディアでも取り上げられていない。

 

「彼等の真意を…知らなくてはなりませんね」

 

 静かにラクスがそう言う。

 隠しておくというのは、つまりは隠しておきたい理由があるということなのだろう。戦争根絶を掲げる彼等も一枚岩ではないというのか…。

 

「でも、どうやって?」

 

 結局はそういう結論に行き着く。

 名が知れているラクスやバルトフェルドには厳しい監視が付いているし、彼等の剣であったアークエンジェルも中破したフリーダムも接収されている。

 今の彼等にできるのは、こうやってオーブの片隅でひっそりと暮らしていくことだけだった。

 

「わかりませんわね…」

 

 ラクスは深いため息をついた。

 そして、突如としてカガリ達に振り返る。

 

「ですからわたくし、見て参りますわ」

「え?」

 

 目を瞬かせるカガリ達に向かって、ラクスは微笑みながらも告げる。

 

「プラントの様子を」

「ええっ!?」

 

 カガリは思わず声を上げた。

 だってそれは、ラクスをオーブから追い出すことになる。そして、連合と組んだオーブは二度と彼女の帰国を許さないだろう。それに何よりプラントは…!

 

「プラントにも、私に賛同してくれる方はいらっしゃいます」

 

 それはそうだ。

 カガリはよく分からないが、バルトフェルドのようなラクスの味方が二年経った今もプラントに残っているのは間違いないだろう。しかし、それでも…。

 

「大丈夫です、みなさん」

 

 その笑顔の底には、真っ直ぐ通った信念があった。

 立ち止まっている時間はおわり、再び動き出す時が来たのだ。全ては情報を集めてから。剣を取るか判断するのはそれからでいい。

 

「……分かったよ、ラクス」

「キラ!?」

 

 一番反対するだろうと思っていた弟の言葉に、カガリは驚きの声を上げた。しかし、傷だらけの彼はまっすぐな瞳でラクスを見つめ返して笑った。

 

「君は決めたことはやり通す子だから。僕は止めないよ」

「キラ…」

 

 まずは決める。そしてやり通す。

 それが彼女(ラクス)のやり方だというのをキラはよく知っていた。だからこそ、そんな彼女に自分は惹かれたのだ。

 

「だがどうする? 俺もラクスもそう簡単に動ける身ではないぞ?」

「…それなら、僕に考えがあります」

 

 そう言ったのはキラだ。

 ラクスを見て、小さく頷いたキラが話す内容について、カガリは心当たりがあった。

 

「実はこの間、僕とカガリでセイランと話し合ったんですが…」

「キラ、まさかお前! …ダメだ!」

 

 声を荒あげるカガリに、びっくりした様子でマリュー達も呆気に取られる。

 

「カガリ。僕は大丈夫」

「…でも、お前」

「アスランもカガリも、ラクスも皆自分に出来ることをやっているんだ。僕だけがここでじっとしているなんて、できない」

 

 キラは心配そうに見つめるカガリを微笑み返すと、覚悟を決めた瞳で全員を見据えた。

 

「––––––––僕も戦う」

 

 それは二年前から成長した戦士の姿だった。

 

 

▽△▽

 

 

「これはどういうことだっ!」

 

 ()ざされた空気を、怒りの声が震わせた。

 怒りの声の主、ロード・ジブリールは乱暴にデスクを(たた)き、モニター画面の男を睨みつける。

 

〈それは君だって知っているだろう?〉

 

 モニターの中から大西洋連邦大統領コープランドが嫌味(いやみ)たらしく言う。

 

「プランの準備が整ってもいないところで強引に開戦して、あの被害。それも敵に一矢報いることもできずにおしまいとは」

「ぐっ」

 

 それは、言われるまでもなくジブリールとて理解していることだ。今日もロゴスの集会で老人どもに口煩く言われたばかりだと言うのに…。

 

「私は、そんな話を聞きたいのではない! 私はそんな現状に対して、あなた方がどんなを手を打っているのかを聞いているのです」

 

 その言葉に今度は画面の奥のコープランドが苦い顔になった。それを見たジブリールが畳み掛ける。

 

「コーディネーターを倒せ、滅ぼせとあれだけ盛り上げて差し上げたのに、その火を消してしまうおつもりですか?」

「いや、それは…」

 

 結局のところ、この男とて自らの失態の責任を他の誰かに負わせたいだけなのだろう。ジブリールは目の前の無能者に溜め息を内心で吐きながらも、勢いついて言葉を続けた。

 

「弱い者は、どうせ最後には強い方につくんですよ! 勝つ者が正義なんですよ! そんな簡単な法則すらお忘れですか、大統領!」

「ジブリール……」

 

 実のところ、密かな焦りがジブリールの(うち)にはあった。

 ヤキン・ドゥーエ攻防戦において、当時の盟主ムルタ・アズラエルを失ってから、ブルーコスモスはいっときの弱体化の一途にあったのだ。

 

 その体制を立て直し、元通り連合の首脳を凌ぐまでの発言力を取り戻したのはジブリールの功績なのだが、実際はその半分以上がシャーロット・アズラエルの功績であり、ジブリールはおこぼれを貰ったような者にすぎない。

 

 故にここで今、打つ手を誤っては、コープランドらに侮られるだけでは済まず、本当にシャーロットに盟主の座を乗っ取られることになりかねない。

 

 だからこそ、ジブリールはあえて強気の態度を崩すことはできない。相手の反論を抑え込ように言葉を続ける。

 

「我らが力を示さないから、跳ねっ返りが出るんです。なら、まずはそこからちゃんと手を打ってください。だらだらちまちまと戦っているから、舐められんですよ?」

「だが、我等とて精一杯なのだ!」

 

 流石にコープランドも憤然(ふんぜん)と言い返す。

 

「戦力は限られているし、人員の問題も…。それにソレスタルビーイングのこともある。だいたい、君のファントムペインとやらも、大した成果は上げられていないじゃないか!」

 

 ジブリールは虚を突かれたように言葉に詰まった。

 

「それは…」

 

 彼は歯軋(はぎ)りしながら、部下であるネオ・ロアノークの仮面で覆われた顔を思い浮かべる。彼等がいつまでも、たかが一隻の艦を沈められないから、こんな奴に弱みを見せてしまうのだ。

 

 しかし、戦力の問題は重要だった。

 コープランドが無理と言う以上、戦力は他から引っ張ってくるしかない。ユニウスセブン落下の影響で使える人間が少ない今、いたずらに消費し過ぎればそのままザフトに逆転される恐れもある。

 おまけに地球連合軍お得意の物量作戦もソレスタルビーイングのガンダムの前ではよく動く的でしかない。全てがうまくいかないのだ。

 

「ですから……」

 

 苛々と言葉を継ごうとしていたジブリールの頭に、その時ふと閃いた国名があった。都合よく行使できて、それなりに戦力がある国、それは…。

 

「オーブですよ!」

「はぁ」

 

 怪訝そうなコープランドに、ジブリールは会心の笑みを浮かべる。

 

「黒海には、彼等に行って貰えばいいんですよ。ちょうど、彼等には軍事協力の約束を取り付けたはずです!」

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()、あの国だね?」

 

 わざとらしくシャーロットが、と強調するコープランドに青筋を立てながらも表面上は笑顔を貼り付けてジブリールは笑う。

 

「今度こそ、あの疫病神の艦を撃ってもらわらないと…テロリスト退治もできやしないですからねェ」

〈テロリスト退治…ねぇ〉

 

 勝利の笑みを浮かべるジブリールに対して、コープランドは訝しむように考え込む。

 

 オーブの軍事力は先の大戦でも身を持って理解しているが、とてもオーブ軍だけでガンダムとミネルバを倒せるとは思えない。というかミネルバを倒す必要性があるとは思えない。プラントは敵だが、必ずしも滅ぼさなくてはならない相手ではない。

 

〈やはりブルーコスモスはよく分からん…〉

 

 それすらも気付かずにただ意味のない指示を出すジブリールのことを、傀儡のはずのコープランドが見切りをつけ始めていたことに、笑い続ける彼が気づくことはなかった。

 

 





>ラクス陣営
プラントへ。物語終盤まで情報収集に努める。

>キラ&カガリ
オーブ残留。キラ、戦いを決意。

>ジブリール
K・A・M・A・S・E
多分少数派だろう彼のファンのために行っておくと、彼の活躍(?)はもうないとだけ言っておきましょう。
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