【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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世界の歪み

 

 

 セイラン所有の邸宅(ていたく)にて、シャーロット・アズラエルとカガリ・ユラ・アスハは対談を行なっていた。

 

「……では、どうあっても黒海への派遣は検討いただけないと?」

「ああ。申し訳ないが、今のところは」

 

 そうですか…とシャーロットは、カガリの愚直なまでの答えに小さく息を吐いた。

 

 これはユウナとウナトの意向によるものであり、シャーロットを利用してカガリへ圧力をかけようという魂胆(こんたん)なのだろう。

 

 しかし、カガリは全く折れず、決して頭を縦に振ることはなかった。一皮剥けたと言っていい。ミネルバに乗っていた頃と比べて何かが変わった。

 

「なるほど、ではそのように伝えましょう」

「…申し訳ない。しかし、我々も決して貴女方との争いを求めているわけではない。ユニウスセブンのこともある。我々は–––」

「ええ、分かっておりますわ」

 

 良くも悪くも直情的で、根っからの平和主義者。

 

 彼女はそのような人間なのだろう、とシャーロットは思う。今は政治家の仮面を張りつけているのだろうが、そんなものデュランダルに比べれば可愛いもの。

 

 普段から野心の透けて見える男たちばかり相手しているからか、カガリのような人間は相手していて楽だ。根っこに秘めるものが何もないからこそ、素直に会話を続けられる久しぶりの人間。

 

「あなた方から見れば、我が国の行いが身勝手な行動に見えるのも当然のこと。我々も責めるようなことしません」

「アズラエル理事…」

 

 そう、シャーロットもコープランドは勿論、ロゴスのメンバーもオーブが軍を派遣しなかったからといって別に何もしない。せいぜいオーブの軍事力の利用価値が下がるだけだ。そもそも、今はザフトの相手で手一杯な大西洋連邦にオーブを攻める余裕などないのだから。

 

「………我々はね」

 

 だが、癇癪(かんしゃく)持ちのジブリールの対応は知ったことではない。シャーロットとて、自分を目の敵のように接してくる彼に関わりたくないのだ。

 ロゴス内でのシャーロットとジブリールの力関係はほぼ互角と言っていいが、それは国防産業理事・アズラエル家当主という表向きの顔での話。

 

 天上の存在(ソレスタルビーイング)のエージェントという裏の顔を持つ彼女にとって、ジブリールもブルーコスモスも道化がいいところであり、そんな道化の駒であるセイランなど興味の外にいる人間である。

 

 だからこそ、彼女はセイランの企みについて何も言わないし、何もしない。興味もないからだ。

 

 どのみちセイランの企みはうまくいかない。彼等の頼りの先にいるのがジブリールならば、その行く先は破滅(はめつ)だ。

 この内戦はその破滅にオーブが巻き込まれるか否かが決まる戦いになるだろう。尤も、ソレスタルビーイングの存在を抜きにしてもセイランの勝率はかなり低いと言わざるを得ないが。

 

「(お手並み拝見といきましょう…カガリ・ユラ・アスハ)」

 

 シャーロット・アズラエルは余裕を(くず)さない。

 例え、この後のセイラン家の国家元首誘拐に巻き込まれたとしても。

 

 彼女にとっては、まだ計画の第一段階に過ぎないこの世界はまだまだ白黒の世界に過ぎないのだから。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 きっかけは些細(ささい)なこと。

 それが爆発するのも突然のことだった。

 

 一時期はセイランに(かたむ)きかけたオーブの情勢だったが、カガリが力強く宣言をしたことで元から高かった支持率を持ち直したのだ。

 

 それに困ったのがセイラン家であり、今回に限ってはカガリに一切の落ち度がないためにそこを責めることもできない。

 元々政治経験の未熟なカガリの揚げ足を取る形で自分たちの思い通りにしていただけであり、セイラン家自身にはオーブを率いるだけの能力はないのだ。

 

 そも、ただでさえカガリの国内人気は高い。

 前大戦の英雄の一人であり、前々代表のウズミのことも合わさって国民の大半はアスハ派である。

 そして、そのカガリが政治的カリスマをも身につけたとなれば、その人気はますます高くなることだろう。それもセイランが付け入る(すき)がなくなるほどに。

 

 アスハ派がセイラン派を取り込むのも、時間の問題だった。

 

 だからこそ、セイランは強硬策に出た。

 それも愚かとしか言いようのない愚策(ぐさく)にだ。それとも、それが彼等に考えられる作戦の限界だったのかもしれない。

 

 武力によるオーブ制圧。

 カガリを誘拐し、セイラン家の支配下にある国防軍を私物化。

 カガリがいない間に政権を手に入れる。

 

 そんな夢物語を見ている彼等は、確かに道化以下だった。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「カガリが誘拐って…本当ですか!?」

 

 アスハ家が所有する邸宅にて、キラはオーブ軍陸軍一佐のレドニル・キサカに姉がセイランに誘拐されたという情報の真偽(しんぎ)について問いただしていた。

 

「残念ながら事実だ。セイランによるクーデター…ということなのだろう」

「そんな!?」

 

 アスハ家とセイラン家の仲がよくないのはキラも知っていたが、前大戦で身を(てい)してオーブの理念を守ったウズミらの存在を知るからこそ、まさかセイランが権力の為にクーデターを起こす氏族なのだとは思ってもみなかった。

 

「既にオーブ海域にて演習を装った複数の海軍…という名のセイランのクーデター軍が展開している。軍においてセイランの持つ影響力は大きい。奴等は武力で持ってオーブの政権を手に入れるつもりなのだろう」

「そんな…そんなことを」

 

 なんて愚かな行為なのだろうか。

 今まで母国のため、誰かを守るため、復讐のためと様々な理由で戦うものたちを見てきたが、まさか権力欲しさにここまでする人間がいるとは…キラは言葉もなかった。

 

「…戦うんですか?」

「それも選択肢の一つだが、そんなことをすればオーブが戦場となる。国が焼かれることをカガリは望まないだろう」

「それはそうだけど…でもそれは」

 

 理念よりも国民を選んだカガリのことだ。

 確かに権力などを求めて国を焼くことになるのなら、彼女は自らそれを手放すだろう…。

 

「…って、まさか!」

「そう。カガリ自身に代表を辞任してもらう。それが奴らの目的だろう」

「でもそんなこと、みんな認めるわけが–––––!」

 

 国内においてのカガリの人気は高い。

 そんな卑怯な手で政権を握ったところで、国民が納得するわけがない。

 

 キラが疑問に思ったところで、キサカが苦い顔で言った。

 

「セイランめ、かなり用意周到な手を打ってきたようだ。既に情報統制が敷かれており、多くの国民に真実は伝わっていない」

 

 さらに間が悪いことに、今の国民の認識はセイランの意思=カガリの意思であり、今は白紙になったとはいえ一時期は二人の結婚の可能性も報道されていた。

 真実さえ知らなければ、カガリからセイランへの政権交代も自然に受け止められるものであるだろう。

 

「じゃどうやって…」

「カガリさえ取り戻せばなんとかなる。我々も全力で捜索しているが、その間に国防本部が制圧される可能性が高い」

 

 一度軍を動かして戦えば総力戦になる。

 そうなれば、否が応でも市街にも被害を(もたら)すことになる。カガリのことを思えばそれはできない。

 

 一番求めているのは時間稼ぎ。

 だとすれば、それができるのは単機で軍を混乱させることができる––––––ソレスタルビーイングのガンダムのような力だ。

 

 そして、今いる戦力でそれができるのは…。

 

「……僕が戦います!」

「キラ、しかし…」

「僕にできること、僕がやるべきことがあるのなら、もう僕は逃げません」

 

 もう二年前とは違う。

 

 –––––想いだけでも、力だけでも駄目なのだ。

 

 ウズミが守り、形は違えどカガリが必死に守ろうとしているもの。それを壊させるわけにはいかない。

 

「…わかった。ならば、エリカ・シモンズのところへ行け」

「え…?」

「お前の機体がある」

 

 キラはその言葉に強く頷き、モルゲンレーテ社に向けてその場を後にした。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 オーブ北部の領空国境付近、雲に紛れるように飛行するソレスタルビーイング所有のステルス輸送機の姿があった。

 

 機内にあるキャビンの中では、フェイト・シックザールとアキサム・アルヴァディのガンダムマイスター二人がシートに(こし)を下ろしている。ガンダムアステリアとガンダムサルースは、機体に輸送機の貨物ブロックに揃って搭載し、待機させていた。

 

『オーブ連合首長国において、このままではセイラン派によるクーデターが成功するのは確実視されています』

 

 モニターには、今回の二人のサポートを任されたヴァイオレット・ヘルシズが映っており、同時に画面端には今回の事件…セイランによるクーデターについての詳細なデータが記載(きさい)されている。

 

「ということは、何か策があるのかい?」

 

 アキサムが尋ねた。(とな)りではフェイトが射抜くかのように画面に映る男…ユウナ・ロマ・セイランの顔写真を睨みつけている。

 

『今回のクーデターを止めるには、誘拐されたカガリ・ユラ・アスハ代表首長を保護し、彼女自身から全国民に真実を知らせる必要があります』

「誘拐された嬢ちゃんの行方は?」

『まだ特定に至っていません。ただ、カガリ・ユラ・アスハ代表首長を誘拐した組織は、セイラン家によるものではない可能性が高いと、ヴェーダが推察しています』

「…おいおい、まさか連合か?」

 

 アキサムが(なげ)いたような声を出した。

 

『確証はありません。しかし、セイラン家は連合…それもブルーコスモスとの結び付きが特に強いとされているので、彼等が第三勢力へ介入を依頼した可能性は高いです』

「なるほど、な。だが、いつまでも見ているわけにはいかねぇな」

 

 ソレスタルビーイングとしては、このクーデターに関わる理由は薄い。まだ戦闘にもなっていないということだし、本格的に武力介入をする必要がやってくるのはクーデターの後になるだろう。

 

 …しかし。

 

「止められるなら早いうちに止めておいた方が楽だ。俺は動くぞ」

 

 あえてアキサムは行動することを選択した。

 長い目で見たとき、セイランよりもアスハにオーブを治めていて欲しいという感情的な考えもあるが、万が一セイランが主権を握ればそれこそ国内で内乱が起こる可能性が高いと予測したからでもある。

 

「なら私も行きます。戦闘になる可能性があるなら」

 

 シートから立ち上がったフェイトにヴァイオレットとアキサムが視線を向ける。

 

『フェイトが?』

「私はこの国の出身だから」

 

 オーブ連合首長国出身––––フェイトの言葉にアキサムは逡巡(しゅんじゅん)する。

 彼女の家族は二年前のオーブ解放作戦で地球軍の侵攻を受けて帰らぬ人になったと聞いている。

 

 そして、今またそのオーブが戦火に巻き込まれようとしている。

 それも自国のトップの身勝手によってだ。

 

 もしや彼女はそれを……いや、違うか。

 

 アキサムは自分の考えを苦笑(くしょう)で否定し、フェイトに言った。

 

「…フェイト。故郷の危機だからって、感情的になりすぎるなよ」

「分かってます」

 

 

 

 

「…………」

 

 口ではそう言ったものの、ガンダムアステリアのコックピットに戻ったフェイトは故郷に起きた内乱についてを考えていた。

 

「(ユウナ・ロマ・セイラン…クーデターを起こした男)」

 

 己が権力の為に過去オーブを焼いた連合に()びを売る。それだけでも許せないのに、オーブを手に入れる為に国を犠牲にし、無駄に戦火を広げるなど論外だ。

 

「……っ!」

 

 彼等は二年前にオーブがどうなったのかをもう忘れたのだろうか。

 

 二年前のオーブ解放作戦。今でも思い出せる。

 (はだ)()がす硝煙(しょうえん)の匂い。(かわ)いた土の匂い。黒煙の広がる空を飛翔する敵モビルスーツの姿。押し潰されそうなほどの巨大に、本能的に感じた戦慄(せんりつ)

 

 そして、あちこちに広がる死体の数々。

 消えていった両親の姿。

 泣き叫ぶ自分と生き別れた兄。

 

「(あんなことを…また続けるつもりなの…!)」

 

 フェイトの頭にかっと血がのぼった。

 それは過去から何も学ぼうとしない世界への怒りであり、無念のうちに死んでいった両親や残された自分たちの気持ちなど一顧(いっこ)にしない、生者たちへの苛立(いらだ)ちでもあった。

 

 

 

 

 





>セイラン親子
キャラ改悪…かも。
かなりアホで現実を見てないキャラになっちゃいました、

>お前の機体
フリーダムでもストライクでもアカツキでもないです。

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