【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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時系列はオーブ内戦のすぐ後ぐらい。


ディオキアへ

 

 

 タラップに出たとたん、アーサーが感嘆(かんたん)の声を()らした。

 

「ディオキアかあ…綺麗な街ですねえ」

 

 横を歩いていたタリアも足を止め、港の向こうに広がる風景に目をやった。

 

 カーペンタリアから発進し、地球軍及びソレスタルビーイングと交戦したミネルバは、地球軍の残存部隊が占拠(せんきょ)していたガルナハン基地を奪還し、そのまま内陸部を抜けてこのディオキアにいた。

 

「ミネルバも結構ボロボロだし、整備と補給を受けれるのは嬉しいことね」

「凄かったですねぇ、ガルナハンのガンダム…! 今ミネルバが無事なのは奇跡ですよ!」

 

 ガルナハン攻略作戦。

 以前はローエングリンという厄介な砲台と陽電子リフレクターを構えたモビルアーマーという厄介な布陣を展開していたようだが、ミネルバが攻略に乗り出した際にそれらは既に破壊されていた。

 

 当然、それを()したのはソレスタルビーイングのガンダム。彼等はガルナハンの作戦にも武力介入を仕掛けてきた。

 相対したのは羽付きの朱色の機体と狙撃タイプの機体。アスランのセイバーとインパルスの換装システムでなんとか対応したものの、やはり性能差は大きく、タリアたちは撤退まで追い込まれることになった。

 

 結果として作戦は失敗。

 不幸中の幸いなのは、ガンダムを恐れた連合もスエズ基地へ部隊を引き上げたということであり、漁夫の利を得る形でザフトはガルナハンを奪還している。

 

「何だが随分と久しぶりですよ、こういうところは」

 

 アーサーがしみじみと言い、タリアも思い当たって小さく(うなず)く。

 

「海だの基地だの、山の中だのばかり来たものね。…こういうところで少し羽を伸ばせれば、みんなも喜ぶでしょうね」

 

 何せこのディオキアは非常に落ち着く場所だからだ。

 (けむ)るような緑の山を背に、白い家並みが広がり、その中から美しい尖塔(せんとう)が明るく冴え渡った空をさす…そんな穏やかな街並みはプラントを思い出させる。

 

 ミネルバのクルーの殆どがプラントの都会育ちということもあり、自然豊かなディオキアの街並みはいい息抜きのできる場所となることだろう。

 

 そう考えながら基地司令部に向かうタリア達だったが、その過程で気になるものを見つけたために足を止めた。

 

 前方にできた大勢の人だかり。

 その多くはザフト軍の兵士だということが見て取れるが、フェンス一つを(また)いで民間人らしき人物達も集まってきているのを確認した。

 

「何かしら…?」

「うっはぁ! 艦長、ラクス・クラインの慰問ライブですよ! まさかこんなグットタイミングだなんて!」

 

 なるほど、人混みの上空から降下してくるピンク色に塗装されたザクウォーリア…肩部分に「LOVE!」と書かれているのを見るに、あの機体はラクス・クラインのものか。

 

〈みなさーん! ラクス・クラインでーす!〉

 

 スピーカーから可愛らしい声が響き渡り、それに応えるように盛大な男達の歓声で盛り上がった。熱狂的なファンがいるのは知っていたが、ここまでとは思っても見なかったと、タリアは少し目を丸くする。

 

「はぁ…慰問ライブね」

 

 突然の開戦へ戸惑う兵士たちを鼓舞(こぶ)するためか。

 だとしても、アイドルの活動にわざわざモビルスーツまで使うというのはタリアには理解のできない感覚だが、隣の冴えない男はそうでなかったらしい。

 

「うぉぉぉ! まさかあのラクス・クラインの生ライブを見ることができるとは! 自分、人生の幸運を使い果たしたかも知れません…っ」

「そう…それは良かったわね。できればその運は戦場で使って欲しかったけど」

 

 かつてないほどの勢いで盛り上がるアーサーに対して呆れたように溜め息を吐きつつ、タリアはラクス・クラインのライブ会場の奥…ザクの後に続くように降下してきたヘリコプターから降りてきた男を見て目を細めた。

 ギルバート・デュランダル議長。本来ならば、決してここにいるはずのない男の姿だった。

 

 この状況で彼がわざわざここに来る。

 その理由はきっと、自分たちミネルバに対してのものだろう。タリアには想像がついていた。

 

 目的はきっと、例の新型機。

 タリアは、自分たちの仮想敵であるガンダムに対する性能差の不安を、常に本国にて訴え続けてきた。フェイスであるアスランやハイネのおかげでなんとか致命(ちめい)的な被害を(こうむ)ることなく、戦い続けてきたが、このままではいつかどこかで死者が出かねない。

 

 だからこその新型機の受領なのだろう。その性能が如何なるほどのものかはまだ分からないが、これで戦闘における不安が減ることになる。艦長としてはこれ以上心強いことはない。

 

「ほら、いつまで突っ立ってるのアーサー。早く本部に向かうわよ」

「え、はい。でも、ラクス・クラインが…」

「ライブは明日でも見れるでしょ! 今は軍務に集中なさい!」

「は、はいっ!」

 

 新型機はもちろんだが、まずはこのどうしようもない副長をどうにかしてくれないものかと、タリアは頭を抱えた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「やれやれ…随分な人気だね」

 

 シエルがひとこと()き捨て、サングラスをかけて運転席に飛び乗った。フェンスの向こうではまだ、歌と歓声が続いている。シエルはそれに小さな溜め息を吐きつつ、アクセルを踏み込む。

 

 ラクス・クラインの慰問ライブ。

 シエルとしては全く興味のないものだったが、プラント出身のフブキとしては彼女のライブに思うところがあったようだ。

 

「ホント…変わったわよね、彼女(ラクス)

 

 彼女が広い後部座席にのけぞって言うのをミラーで確認しながら、シエルは車を街の方へ向けて走らせた。喧噪(けんそう)がゆっくりと背後に遠ざかっていく。

 

 実のところ、彼等は別にラクス・クラインのライブを見るためにわざわざここにいるわけではない。このディオキアにいるのもミッションのため。

 フェイトとアキサムがオーブ内戦に武力介入をしていたのに対して、シエルとフブキはここ最近の戦闘の中心である例の戦艦(ミネルバ)の付近に待機し、いつでもミッションに赴けるようにしていた。

 

「…で? 結局、私たちっていつまであの(ふね)を追うのかしら」

 

 ガンダムマイスターにもプライベートに時間はある。気の抜けた様子でフブキがそう聞くと、シエルは前を向いたまま答えた。

 

「さぁ。ヴェーダからミッション終了の命令が来るまでですかね」

「そりゃそうでしょうけど…いつまでもこのままってのも変な話ね」

 

 フブキはシートにのけぞりながら言う。逆さまになった視界に小さくミネルバの艦橋(ブリッジ)が覗いた。

 

 思えばあの艦とはアーモリーワンでの強奪事件…即ちソレスタルビーイングにおけるファーストミッションからの付き合いだ。フブキ達も先日ガルナハンで一戦交えたばかりである。

 これは彼等の存在が、前大戦におけるアークエンジェルのようなものだからだろう。彼等の周りには戦いが集まってくる。そうなれば、ソレスタルビーイングとしては武力介入をせざるを得ない。

 

 だからだろうか、フブキ達がヴェーダの指示で彼の艦の行方に常について回っているのは…。

 

「他のミッションプランも届かないし、どうなってるのかしらね」

「ユニウスセブン落下の影響もあるし、世界は戦争どころじゃないのかも…いや、普通はそうなんだろうけど」

「まぁ、私たちからすれば良いことだけどね」

 

 ソレスタルビーイングの目的は『戦争根絶』だ。

 どのような形であれ、それが実現に近づいているというのは嬉しいことだし、ミッションへのパッション(情熱)も上がるというものだ。

 

「…でも、ブルーコスモスがこれで終わるとは思えない」

「シエル…」

 

 だが、シエルには連合…ブルーコスモスがこのまま黙って終戦を受け入れるとは思えなかった。

 

 今は嵐の前の静けさに過ぎないだろうという確信。ブルーコスモスという連中は、きっと止まらない。コーディネーターを殺して、殺して、殺し尽くすまで…。

 

「そうね。プラントも一枚岩じゃないみたいだし、オーブなんてクーデターまで起きちゃうし」

 

 フェイトとアキサムが武力介入を行なったオーブ連合首長国。二年前は『平和の国』なんて呼ばれていた国でさえも争いの(うず)から抜け出せずにいる。世界から争いが消えるのにはまだまだ時間がかかるだろう。

 

「オーブの件、フェイト達に任せっぱなしだし、おまけにフリーダムまで出て来て……大丈夫かしらあの子」

 

 フェイトの過去はある程度聞いている。

 彼女がオーブに対してどのような複雑な思いを抱いており、どのような気持ちでガンダムに乗るのか…少しは理解できているつもりだ。年齢もまだ14で本来なら戦場に出るような歳ではない。それ故に彼女の精神状態をフブキは心配していた。

 

 だからこそ、解せない。

 

「アキサムが付いてる以上、戦闘に関しては問題ないでしょう。ただ、ヴェーダ考案にしては妙なミッションでしたね」

「えぇ。機械的なヴェーダにしては少し杜撰さが目立つミッションプランだったわ」

 

 ガンダムアステリアは高い汎用性が売りの機体であり、その機動性は敵エースのモビルスーツとの白兵戦において最も真価を発揮するというのは周知の事実だ。

 だというのに、海上で一機で敵部隊と戦闘を行わせるなど、正気の沙汰(さた)ではない。殲滅力の高いサルースやセレーネではなく、なぜアステリアだったのか。これではパイロットに余計な負担がかかる上に成功率が下がる。

 

 確かにヴェーダは人間を遥かに超えた演算処理装置だが、人の心を持たないが故に作戦に人道的配慮がないのが欠点である。しかし、それを考慮(こうりょ)しても、今回のミッションは合理的とは言えない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。二人は完璧だと信じていたヴェーダの采配(さいはい)に少しばかりの疑問を抱き始めていた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「司令部から?」

 

 アスランが聞き返すと、どこか期待に満ちたような表情のハイネが答えた。

 

「ああ、出頭命令だそうだ。俺とお前、後は…ミネルバのパイロットに。特にシン・アスカは絶対とのことだそうだ」

「シンが?」

 

 不審(ふしん)に思ってアスランはたずねたが、ハイネもまだ分かっていないらしく「さぁな。けど、行き先は工廠(こうしょう)らしいぜ」と答え、先に立って歩き出す。

 

 本来はフェイスが二人も並び歩いていれば、妙な緊張感が周囲に(ただよ)うものだが、既にいくつもの死闘(しとう)を制して来た二人に対するミネルバクルーの対応は次第に(やわ)らかい物となっていた。

 

 ディオキアの街並みに盛り上がるクルー達をよそに艦を降りれば、タラップの向こうに出迎えの車輛(しゃりょう)が来ていた。後席にはシンとレイの姿が確認できる。ルナマリアは先程メイリンと街へ出たのを見たので、ミネルバにはいなかったのだろう。

 

「なんなんです? これ」

「いや、俺も詳しくはなんとも…」

 

 シンの疑問ももっともだが、アスランにも分からないのだ。揃って頭に?を浮かべながら車輌に乗り込むと、静かに発進した。

 

 それにしても、入港して間もなく司令部が自分たちモビルスーツパイロットを呼び出すとは、一体どういう用件なのか。それに名指しでシンを指名するというのは…?

 

「工廠ですか…?」

 

 車輌は司令部のある基地中心部から外れ、格納庫(ハンガー)が建ち並ぶブロックに入っていく。アスラン達がますます不思議に思い始めたころ、なかでも巨大な格納庫(ハンガー)の前で車は停まった。運転席から降りた兵士が「こちらへ」と先に立つ。

 

 三人はそろって顔を見合わせたが、表情を崩さないレイが先んじて一歩を踏み出し、三人も習って後に続いた。

 

「失礼します! アスラン・ザラ、ハイネ・ヴェステンフルス、シン・アスカ、レイ・ザ・バレルを連れてまいりました!」

 

 ドアが開くと薄暗(うすくら)い空間に先導の兵士の声が響き渡り、高い天井(てんじょう)から跳ね返ってくる。

 

 中央を走るキャットウォークの上に、ほっそりと長身な男の姿が見えた。デュランダル議長だ。

 どうやら自分たちは、議長本人に呼び出されたらしい。

 

 アスランはやや重い気持ちで、ミネルバのモビルスーツパイロットの代表としてデュランダルの前に歩み出た。

 

「お久しぶりです、議長」

 

 敬礼して挨拶(あいさつ)すると、ハイネを筆頭にシン達も礼を取った。

 

「いや、悪いね。こんなことろに呼び出して。君たちの活躍は聞いているよ。本当に色々あったと思うが、よく頑張ってくれた」

「いえ…」

 

 アスランはデュランダルの差し出した手を握り返し、辟易(へきえき)しながら形式的に言葉を返した。デュランダルは端正な顔立ちに、柔和な笑みを浮かべている。

 

「さて、話したいこともいろいろあるが–––––まずは見てくれたまえ」

 

 議長はそんなアスランを楽しげになだめ、おもむろに背後へ目をやった。

 

「わざわざこんなところにまで来てもらったからね。先程から、目もそちらにばかり行ってしまっているのだろう?」

 

 確かにアスランとレイはともかくシンやハイネの目は、暗い空間にその輪郭(りんかく)(おぼろ)に浮かび上がらせている、巨大な影の存在を見てとっていた。

 

 だしぬけに、ライトが()いた。

 アスランは目を(まばた)かせながら、キャットウォークの両側に現れたスチールグレイの機体を見上げる。

 

「ZGMF-X42S "デスティニー"」

 

 議長は(ほこ)らしげに機体番号と名称を告げ、シンが感嘆の息を吐く。デザインはセカンドステージシリーズの流れを引くものだが、一見して分かるほどフレームや装備に向上が見られる。

 

 だが、アスランはそんな"デスティニー"など視界に写っていなかった。

 

「この機体は…」

 

 デスティニーの反対側、キャットウォークの左側に立つ機体。それはアスランにとって非常に見覚えのある姿であった。

 

「ZGMF-X19S"インフィニットジャスティス"…」

 

 多少のマイナーチェンジが図られているようだが、その姿形は見間違いようがない。VPS装甲が作動すれば、その機体は深紅(しんく)に色づくことだろう。

 

「アスラン、君の新しい機体だよ」

 

 無限の正義(インフィニットジャスティス)

 そんな機体を自分に––––? 救世主(セイバー)といい、正義(ジャスティス)といい、自分の機体の名はどこか皮肉がきいているように感じる。

 

 鎮痛な思いで黙り込むアスランを、ディアクティブモードのインフィニットジャスティスは静かに見下ろしていた。

 

 





>ガルナハン基地攻略作戦
オーブ内戦の裏で行われた連合の残存勢力とミネルバ隊による武力衝突。
ソレスタルビーイングはガンダムメティスとガンダムセレーネが武力介入し、インパルスやセイバー等と激しい戦いを繰り広げた。

>シエル&フブキ
戦闘を行う勢力の中で一番目立つミネルバの追跡に当たる。
元々Seed Destinyの戦争が変則的な為に00本編ほど世界各地で武力介入が発生しているわけではない。

>インフィニットジャスティス
機体設定は殆ど原作と同一。
ただ、キラが設計に関わっていないという一点のみが原作と異なる。

>セイバー
破壊されることなく任務終了。
以後はレイかルナマリアに与えられることだろう。ハイネは…専用機があるので。

>レジェンド
大気圏内が戦場なのに優先する意味は?
本国にて開発はされているもののまだ未完成。
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