【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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今回の話は次章への補完のために書いたものです。次から少しづつ動かしていきます…話をを



迷える道筋

 

 

 走る車の中から、シンはいつまでも背後を見ていた。助けた金の少女とはどんどんと遠ざかり、その姿が小粒(こつぶ)のように小さくなり–––––今、見えなくなった。

 

 それを少し(さび)しく思いながらも、姿勢を直して正面を向く。それを見て、自身を迎えに来た上司は、やや間を開けて口を開いた。

 

「それで、休暇(きゅうか)中にエマージェンシーとは、やる時はホント、派手にやってくれるヤツだな、君は」

「別に…俺だって好きでこんなことしたわけじゃないですよ」

 

 きっと、アスランも揶揄(からか)うつもりはないのだろう。ただ、この男の前で少し"素"を出してしまったことがどこか恥ずかしくて、シンはいつものように口を(とが)らせて拒む姿勢をとった。

 

「ただ、あの子…ステラを放っておけなかっただけです」

 

 自分の行動には自分が一番驚いている。

 ザフトの軍人として戦うだけの人生––––––戦争が終わるまではそれを貫くと決めていたのに…。

 

『おにいちゃーん…!』

『シン…行っちゃうの?』

 

 妹に似た、ステラの心細げな声が、信頼しきって自分を見上げる目が、いつまでも胸を()め付ける。

 

 これまで、こんな思いを抱いたことはなかった。あんなにも強く、誰かに必要とされたことなど、いままでなかった。

 

 だからこそ、あの時だけはザフトのモビルスーツパイロットであるシン・アスカから、オーブにいた頃のただのシン・アスカに戻れたのかもしれない。

 

「ディオキアの街の子だったのか…?」

「いえ、それははっきりしてないです…ただ」

「ただ…?」

「多分、戦争で親とか亡くして…だいぶ怖い目に遭ったんじゃないかと」

 

 だって、あんなにも必死に…自分を傷つけてさえ『死ぬ』ことを怖がっていたのだ! 

 

 殺したのは連合か、もしくは自分たちザフトか…。議長の言葉を思い返せば、全ては『ロゴス』という連中に収束するのかもしれないが…どちらにせよ、彼女が被害者であることには変わりはないじゃないか!

 

「…そうか」

 

 シンの思いを(さっ)したのか、アスランはそれ以上何も言わなかった。そのことをシンは少し、彼に感謝する。

 

 シンはポケットに手を突っ込み、ステラがくれた貝殻(かいがら)を握りしめる。

 

 –––––いつか必ず、彼女に会いに行こう。

 

 戦争が終わったら––––いや、次に休暇がもらえたときでもいい。ディオキアに来て彼女を探そう、と。

 

 –––––そう、ステラ…必ずまた会える…。

 

 もう(マユ)の時ようにはいかせない。必ずこの手で守り抜くのだ。新たに手に入れたこの『力』で!

 

 海風に吹かれながら、シンはいつまでも背後(はいご)の闇を、その中に置いてきた少女の姿を見続ける。

 

「また会えるといいな…彼女に」

「はい…でも、アスランも戦争が終われば会えますよ、アスハにだって」

 

 いつもの反抗的な態度に含まれた僅かな己への気遣い。

 自分に似てどこか不器用な少年を見て、アスランは静かな笑みを浮かべながら車を基地へ向けて走らせた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「まったく、大変なことになったな。今回は」

 

 J.P.ジョーンズの中にある一室にて、静かに眠る子供達の様子を見ながら、ネオは溜め息混じりにそう言った。

 

 ここはメンテナンスルーム。

 ステラたち"エクステンデッド"に必要な『処置』を加えるための部屋であり、ネオたちはこの施設のことを『ゆりかご』と呼んでいる。

 

「だから反対だったんですよ大佐。エクステンデッドをザフトの街で自由にさせるなんて」

「悪かったって。メンテナンスは入念に頼むよ」

 

 研究者の苦言にもやんわりと対応する。

 ステラたちを"部品"として扱い切れないネオにとって、今回の外出許可は、少しでも人生の楽しみを味合わせてやりたいという僅かばかりの仏心だったのだが、今回それが仇になってしまったというわけだ。

 

「しかしまぁ、我ながらなかなか悪いおじさんになった気がするよ」

 

 あどけない顔で眠るステラを見つめ、ネオは自嘲(じちょう)した。

 

「何が『大切なものを()ったりしない』…だか」

 

 彼等は今、何より大切もの…記憶を奪われていくというのに––––。

 

「毎度毎度、お見事ですよ」

 

 ネオの罪悪感をよそに、研究員は笑う。『悪いおじさん』ぶりを褒めてくれているのだ。

 

「それにしても、またステラ・ルーシェですか…」

「また?」

「彼女に関しては記憶操作が効きにくいので、いささか面倒なんですよね…」

「…ほう」

 

 それはネオにとっても初耳の情報だ。続きを(うなが)せば、彼はまるで仕事の愚痴を漏らすように話した。

 

「過去に随分と大きな記憶を消したようでしてね。こちらも慎重かつ丁寧に対処が求められるんですよ」

 

 操作するといっても、『記憶』というのは人間の身体上でも謎の多いものだ。ある程度の操作が可能になったとはいえ、その手順には複雑さが求められる。

 ネオには全く関わりのない話だが、研究員にとってはステラほど操作が難しい相手はいないらしい。

 

「大きな記憶、ね」

 

 ––––それを聞いて、少しだけ安心する自分がいた。

 

「おそらく肉親か何かでしょう。まぁ、なんであれ、貴重なエクステンデッドを使い物にならないような真似だけは避けなければいけませんからね」

「…そうか」

 

 結局、ステラたちに自分の人生などないのだ。

 あるのは兵器としての用途(ようと)だけ。それならば、叶わぬことに身を焦がすより、忘れてしまった方が楽なのかもしれない。

 

「次はミネルバ…そして、"ガンダム"が相手だ。しっかり頼むぞ」

 

 ネオはメンテナンスルームを出ていきながら、自分に語りかけるようにつぶやいた。

 

「あれほど死ぬのを怖がるあの子が、死なずにすむには…敵を殺し続けていくしかないんだ……」

 

 次の戦い、気を抜けばすぐに死ぬような激戦になるであろう。彼等"エクステンデッド"も兵器として前線に投入されることは決定している。

 

 ならば、今のネオにできるのはステラが生き残るように…敵を殺せるように万全な状態に『最適化』させることだけなのだ。

 

 最後に目をやると、ステラは胸にハンカチを抱き、微笑みながら眠っていた。誰かに貰った、ステラにとって大切なものなのだろう。だが、それと記憶と共に消えてしまう。

 

 それを見ていられなくて、ネオは仮面の下で小さく目を閉じた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 フェイトたちがオーブから帰還し、フブキたちと合流を果たしてから数刻。四人のガンダムマイスターは地上にあるアジトの一つ、アズラエル家所有の別荘に集合していた。

 

 地下にある情報収集機器の前には、ウェンディとヴァイオレットのヘルシズ姉妹がオペレーターとしての仕事の準備をしている。ディスプレイには、ザフト・連合の動きと、それに付随(ふずい)するデータが幾重(いくえ)にも表示されていた。

 

「どうです?」

 

 背後から声をかけられた。パイロットスーツに身を包んだシエルが靴音(くつおと)を鳴らしてフブキの側に近づいてくる。フブキは振り返らずにモニターを手で示した。

 

「見ての通りね。ヴェーダからのミッションプランが届いたわ」

「戦闘が起こると?」

「確実にね」

「場所は?」

 

 ヴァイオレットがコンソールパネルのキーを押す。ディスプレイに、小島だらけの海域が映し出された。

 

「マルラ海の入り口…ダーダネルス海峡ですか」

「既に連合の艦隊が展開しているわ。狙いは…ミネルバ」

「これまた随分とすごい布陣だな、おい」

 

 確認しているだけでも空母五隻。そこから予測できるモビルスーツの数はおよそ50機以上。更にその中には陽電子リフレクターを搭載したモビルアーマーやアーモリーワンで強奪された3機もいるだろう。そして、敵は連合だけじゃない。

 

「それだけじゃないわ。情報によると、ザフトも新型機体を投入し始めようとしているみたい」

「おそらくNジャマーキャンセラーを搭載した新型…現存する機体の中では、限りなくガンダムに近い性能を誇る機体」

 

 ヴェーダの予測では、性能自体はガンダムには及ばないとされているが、操縦するパイロット次第では敗北の可能性もあり得る。そのことを十分承知しながらも、フェイトは言った。

 

「すぐにでも武力介入の準備を」

「…これまで以上に厳しいものとなるわ。生半可な気持ちじゃ失敗するわよ」

 

 そう、いくらガンダムが最強のモビルスーツだとしても、中に乗っているのは人間である。持久戦で拘束(こうそく)されれば脱出は容易ではないだろう。

 また、先の大戦で使われた"サイクロプス"や"ジェネシス"のような大量破壊兵器を使って自爆覚悟で攻めてくる可能性だってないわけではないのだ。

 

 しかし、フェイトは揺るがなかった。

 

「それでもやるのが、ソレスタルビーイングでしょう?」

「フェイト…ええ、そうね」

 

 フブキはフェイトの言葉に頷いた。

 こちらを真っ直ぐに見つめる少女の視線が、フブキをガンダムマイスターたらしめてくれる。

 

 彼女らしい発言だ、と思うと同時に幼馴染よりも更に幼いフェイトにそんな発言させている自分にどこか腹が立った。

 

「…ミッションを始めましょう」

 

 ソレスタルビーイングが掲げる紛争根絶という理念を実現するためには、こんなところで()れるわけにも曲がるわけにもいかない。

 

 迷っている段階はとうに終わったのだ。

 

 フブキの足は既に、ガンダムメティスのある格納庫(ハンガー)へ向けて歩き出していた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 彼は目の前に浮かぶ数多くの情報を眺めていた。

 プラント、大西洋連邦、ユーラシア連邦、オーブなどの世界各国にある主要報道機関によるニュース。

 更に通常では決して見ることのできない情報–––––ソレスタルビーイングの動静。

 

 それがまるで(かべ)のように彼の前面を覆っていた。

 

 これからソレスタルビーイングは武力介入を行う。ダーダネルス海峡における連合軍とザフト軍の紛争に関する武力介入。

 

 対する連合軍は50機という一戦艦として過剰(かじょう)なまでのモビルスーツと空母五隻を布陣しており、ザフトは新型モビルスーツを用意して突破を(はか)ろうとしている。

 

 そうでなくては困る…と、彼は独りごちた。

 

 ソレスタルビーイングのガンダムという兵器は圧倒的だ。何せ彼自身が()()()から持ち得た技術でもって完成させた異世界の機体に等しいのだから。

 彼がこの世界に転移するようなことがなければ、ソレスタルビーイングもガンダムも現れることはなかっただろう。

 

 だが、ガンダムに負けず劣らずこの世界の技術力は高い。

 例えば、このC.E.(コズミック・イラ)で完成した史上初のモビルスーツ、"ジン"。彼のいた世界の機体と比べれば大きく劣るであろうその機体は、たったの数年で"フリーダム"や"ジャスティス"というレベルにまで技術が革新している。

 これは、三国家群による冷戦状態にあった西暦と違い戦争状態によって革新せざるを得なかったC.E.(コズミック・イラ)だからこそ、という理由もあるだろう。

 

 そして今、ザフトは"デスティニー"と"インフィニットジャスティス"というこの時代で最高峰の機体を開発した。その性能は、非太陽炉搭載機にしては素晴らしいの一言にすぎるだろう。ガンダムに(かな)わずとも、パイロット次第では渡り合える可能性は十分にある。

 

 やるじゃないか、と彼はこれを指示したデュランダルを称賛(しょうさん)した。

 

 対応の早さも、先を見据えた洞察力も、彼が傀儡(かいらい)…というよりも人間観察の一環の対象としているロード・ジブリールに比べれば…いや、比べるまでもない。

 

 流石は調律者(コーディネーター)といったところか。

 

 彼は満足そうに頷く。

 計画は順調だ。ソレスタルビーイングの登場から、混沌と化した世界まで。全ては彼の計画通りに世界は動いてくれている。

 

 となれば、計画を少し前倒しにすることにしようか。

 今回の武力介入でSEEDを持つ者であるアスラン・ザラやフェイト・シックザールの兄であるシン・アスカの変革の可能性も確認できる。キラ・ヤマトも含めてこれだけの候補がいるのなら、予定を早めても問題ないだろう。

 

「さて…表舞台に上がってもらうのは、誰がいいかな?」

 

 彼の後ろの空間に光が(とも)った。

 そこはどこかの地にある地下格納庫であり、その中央には白い物体が30個ほど整然と並べられている。

 

 そう、それはガンダムの性能を生み出す機関部–––––GNドライヴに違いない。

 

「連合かザフトか…はたまたラクス・クラインというのも面白いかもしれないね」

 

 世界は、変革への蠢動(しゅんどう)を始めようとしていた。

 

 

 





祝・劇場版ガンダムSEED FREEDAM公開日決定!!
来ない来ないと思っていたところへの不意打ちだったので、舞い上がるような気持ちですよ!!
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