【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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前半は過去回想という名のオリキャラ伏線回収。
後半はラクス&キラ陣営でお送りします。



歌姫の疑念Ⅱ

 

 

 これは一つの挿話(そうわ)である。

 私設武装組織ソレスタルビーイングが活動を開始する、少し前の話。

 

 

 石油枯渇によるエネルギー不足によって世界中が不況に陥り、環境汚染や排他的経済ブラックの分割が始まり、宗教や民族紛争による再構築戦争に突入。さらに追い討ちとばかりにS型インフルエンザが流行し、世界中の人口が大きく減少していた、そんなA.D.(西暦)と呼ばれる時代から数年後。

 後にC.E.(コズミック・イラ)と呼ばれる時代が始まったばかりの時期のこと。

 

 世界中が新たな時代への変化を見せている中、人類の活動圏からかけ離れた秘境、地中海に浮かぶとある孤島(ことう)の上に一軒(いっけん)広壮(こうそう)な屋敷が存在した。

 波も風も穏やかで、やや陽射しは強いが透き通るような青空は、見る者の目を吸い寄せ、心に一瞬(いっしゅん)の空白を作り出してしまうほどに深く、清く、美しい。

 

 その屋敷の一室に、一人の科学者がいた。足元に広がるコード、いくつものモニターに囲まれたデスクの前にて、憂鬱げな表情を浮かべている。

 どうやらその部屋は、彼の研究室兼書斎(しょさい)兼プライベートルームであるらしく、デスクの左側には山積みになった本が、右側には作りかけの人型の模型が立てかけられていた。

 

 そして、その部屋には科学者の他にもう一人、年若い青年がいた。

 青年は屋敷の主と同じ目的を有し、彼の背中を追うように研究を続けていた。悲しいことに青年には科学者のように"天才"の称号を得るほどの才は有していない。

 それでも、当時はまだ軽視されていた理論の構築や冷静で的確な情報分析などの面で非凡(ひぼん)な才能を発揮し、その面を買われた青年は科学者の唯一の助手兼友人として共にこの屋敷で研究を行っていた。

 

 科学者と青年は親と息子というほどに歳が離れていたが、それでも互いに自分が持ち合わせていない才能を相手に認め、親交も深かった。もしかすると、彼等の共通の趣味であるチェスの好敵手(ライバル)であることも、その一因かもしれないが…。

 

 部屋の主に(すす)められた椅子(いす)に座り、モニターと向き合っている科学者の背中を見ていた青年が、おもむろに口を開いた。

 

「……意識を伝達する新たな原初粒子の発見、粒子を製造する半永久機関の基礎理論の構築、外宇宙より飛来した量子型演算処理システムの発見及び解明、遺伝子操作による新たな人類の創造……どれも我々人類を豊かにする大変な技術だ」

 

 科学者は無言を貫き、青年は言葉を続ける。

 

「…でも君は人間嫌い。その情報の全てを公開することなく、こうしてこんな孤島で世界の成り行きを見守っている」

 

 そんな青年の言葉に対して、モニターに目を向けたまま、振り返りもせずに科学者が応じる。

 

「…私が嫌悪しているのは、知性を間違って使い、思い込みや先入観にとらわれ、真実を見失う者たちだ。それらが誤解を呼び、不和を招き、新たな争いを生む………私は人間という者を信用できないでいる」

 

「……それでも、世界は先へ歩みを進めているよ? 国家は再構築され、人類は新たなまとまりを見せている。それは、君の望んだ人類意思の統一化とは異なる物なのかい?」

 

「…君の言うことは正論だ、レーゲン。だが、もっと未来に目を向けるべきだろう。私の、私たちの持つ技術はそのどれもが人類の明日を左右する物であり、使い方を誤ればそれこそ人類の未来に待っているのは破滅だけだ」

 

 実のところ、二人の研究はある程度の終わりを見せている。だからだろうか、ここ最近はこうして二人で人類の未来についてを語り合う日々が続いていた。

 

「…人類は知性を正しく用い、進化しなければならない…」

 

 そこで、科学者が振り向いた。

 

「そうしなければ、宇宙へ、大いなる世界へ旅立つことはできない。例え宇宙へ行けたとしても、新たな火種を生むことになる………その辺をまだ今の人類は理解していない」

 

 科学者は嘆くように言った。

 彼の言葉に嘘がないことは、その表情が物語っている。正真正銘、この世界における天才である彼の顔には、人類の未来を(うれ)い、そこに生じるであろう戦乱と戦火の被害者たちを(あわ)れむような、悲しみの色がたたえられていた。

 天才であるが故に、彼は預言者のごとく人類の未来が見えてしまうのかもしれない。

 

()()()()にはその辺を理解して欲しかったがな」

 

「フフ、多彩な才能を持つ君だけど、子供を育てるのは苦手だったみたいだね」

 

 青年は、彼に共感したように薄い(さび)しげな笑みを浮かべて、科学者の名を呼んだ。

 

「……エドワード…」

 

 これがソレスタルビーイングを組織した天才科学者イオリア・シュヘンベルグの意を継ぐ者達にして、C.E.における随一の天才エドワード・チャールズ・グレンの50歳当時の姿であり、後にレクシオ・ヘイトリッドが得る肉体の基となった浅緑色の髪をした青年の姿であった。

 

「–––––––––ところでレーゲン、君が書いてるそれは日記か」

 

「いや、記録と言ったところかな。君について、僕について、人類の未来について…ってね」

 

「それは何故だ?」

 

「だってほら、見ての通り人間嫌いの君と僕だけど…誰かに自分の存在を知っていてほしいって思うのは…別に普通だろう?」

 

 これは挿話(そうわ)である。

 A.D.(西暦)時代において最高の天才と呼ばれた彼等のことについては、何故か歴史上から抹消されている。彼等について知る人物はこの世に亡く、彼等について書かれた情報も残っていない。

 

 そう、ただ一つの量子型演算処理システムを除いて。

 

 この時より、およそ七十年近く経ったC.E.73。

 彼の、彼等の計画は、とあるイノベイドの手によって本格的なスタートを遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 『全ては人類の変革、来るべき対話のために』

 

 短くそう纏められたデータには、歴史上から抹消されていた事実…即ちファーストコーディネーターであるジョージ・グレンの生みの親についてが記録のように何者かによって(つづ)られていた。

 

 記入者の名は不明。

 おそらくC.E.でも創始期に書かれ始めたと分かるこの記録データには、ジョージ・グレンの親であるエドワード・チャールズ・グレンについての人となりや研究内容について触れられている。

 

「こいつは驚きだな…」

「ああ、それはホント、歴史上の大発見ですよ。まさか今まで謎だったジョージ・グレンの生みの親が判明したんですから」

 

 ジョージ・グレンの親、つまり初めてコーディネーターをこの世に生み出したとされる研究者については、謎の集団として今まで謎とされていた。

 それが数十年の時を経て判明したという事実に、ダコスタとバルトフェルドは小さく感嘆の声を漏らす。

 

 対して、ラクスはあくまでも冷静に、データを一つ一つ見送っていく。

 

 『コーディネーターとは人間の今と未来の間に立つ者。即ち変革者(イノベイター)とヒトとを繋ぐ調整者(イノベイド)、そのプロトタイプである。』

 

 そして、見つけた興味深い一文にラクス達は目を止める。見知らぬ単語、知られざる真実に思わず視線が吸い込まれるように集まった。

 

「人間の今と未来…? どういう意味だ」

変革者(イノベイター)調整者(イノベイド)。また、よく分からない単語が出てきましたね」

 

 『しかし、GN粒子に対応できないコーディネーターでは変革を促す者としては不適格であり、計画に相応しくない。よって、計画はコーディネーターではなくイノベイドの完成を待って開始されるものとして…………』

 

 出てきたのはGN粒子という単語。

 ソレスタルビーイングのガンダムが放出する粒子の名前であるが、その名前はつい先日彼等の組織から裏切り者が出るまではラクス達とて認知していなかったものだ。

 それはつまり、この記録を書いた人物及びエドワードはソレスタルビーイングと繋がっているということになる。

 

「GN粒子…! やはりエドワード・グレン博士はソレスタルビーイングと関わりがあったのでしょう」

 

「そうなると、あの犯行声明の男とやらの正体も分かってきたな」

 

『計画に必要不可欠とされるGNドライヴの量産には木星での活動が必須となる。第一期はA.D.時代に行ったが、再び赴く必要がある。その機会は木星探査船で宇宙へ出るジョージ氏に任せ……』

 

 情報はそこで途切れた。

 ラクス達が何かしたわけではない。単純にダコスタの持ってきたデータ媒体に蓄積された文章が終わりを告げただけのこと。

 

「すみません、何せオリジナルの方は殆どのデータが破損していまして…ここまでが限界でした」

 

「いや、十分だ。よくやった、ダコス––––––」

 

 バルトフェルドが部下を労おうと言葉を投げかけたその時、それを(さえぎ)るように艦橋(ブリッジ)に警報が響き渡った。バルトフェルドはさっと振り返る。

 

「なんだ!?」

「これは…戦闘ですっ! 前方で戦闘らしき機影を確認!」

 

 周辺宙域に張り巡らせたセンサーが、何かに反応したらしい。当直についていたオペレーターが慌ただしくキーボードを操作したところ、モニターに嫌というほど見てきた戦闘の光景が映し出された。

 

「何故もっと早くに気がつかなかった!」

「それが、例の特殊粒子の影響で磁場が乱れて…」

「チィ、厄介な機能を…っ」

 

 特殊な粒子(GN粒子)ということは、ソレスタルビーイングが関わっていると見て間違いない。

 だが、今やその独自性も彼等だけのものではない。地上で彼等と交戦した連合はもちろん、今まで後ろ手に回っていたプラントも…。

 

「…モビルスーツを確認! 光学映像、モニターに出しますっ!」

 

 モニターに映るのはいくつもの光条。それがビームの光だというのはいうまでもない。その光を撃ち合う姿にはもはや見慣れた姿…ガンダムの姿がある。

 

 そして、そのガンダムと戦っているのが…。

 

「あれが例の新型モビルスーツ…」

「後方にナスカ級二隻及びユーラシア級一隻を確認。ザフト軍とソレスタルビーイングの交戦だと思われます」

「くそっ、遂にデュランダルも動いたか」

 

 となると、ラクスたちがここにいるのは不味い。何せ彼等旧クライン派は今のプラントと微妙な関係性である。敵対こそしてないものの、つい先日の件もあって信用しきれない。

 当然、ソレスタルビーイングは論外。むしろ、ターミナルなども介入対象にしていた彼等こそ明確な敵対関係にある。

 

「すぐに後退の準備をしろ、巻き込まれたら終わりだぞ!」

 

 今のエターナルにまともな戦力はない。例えあったとしても、GNドライヴとやらを搭載する両者の戦いについて行くことはバルトフェルドでも不可能と言わざるを得ない。

 

 バルトフェルドは舌打ちしながら後退の命令を出す。

 とはいえ、後ろ手に出てしまったこの状況ではそれが非常に難しいことをクルーの誰もが実感していた。高速艦と呼ばれるエターナルだが、ガンダムや新型モビルスーツの前ではウサギとカメに等しいのだから。

 

「最悪はオーブに頼むしかないか…」

 

 活動こそしていたものの、戦闘となれば二年ぶりとなる。久しぶりの戦の緊張感が、エターナルの艦橋(ブリッジ)を包んでいた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

〈キラ君、すぐに艦橋(ブリッジ)へ!〉

 

 いきなりのマリューからの呼び出しにキラは若干気圧されながらもモビルスーツのコックピットから顔を出した。

 キラが現在身を寄せているアークエンジェルは秘密裏にオーブ海軍のドックにて修理を受けており、キラ自身は乗機である"ストライクフリーダム"のOSの調整を行いながら世界の情勢を見守っていたのだ。

 

〈"エターナル"が危ないと、ターミナルからの連絡よ!〉

「え?」

 

 周囲にいたマードックたちも顔色を変え、キラは弾かれたようにコックピットから飛び出した。

 

 ザフトの探索を避けつつ、ソレスタルビーイングや世界の情勢について探っていたラクスたちに危険が迫ったということは––––––。

 

 その答えをマリューが告げる。

 

〈ザフトとソレスタルビーイングの戦闘に巻き込まれるかもしれないって––––––〉

 

 リフトが下りきるまで待たず。キラはそこから飛び降りて艦橋(ブリッジ)へ走った。

 

 エターナルの、ラクスの身に危険が迫ってる。

 まだ敵対したわけではない。ソレスタルビーイングはともかく、ザフトは全大戦の功労者であるラクスに剣を向けるようなことはないと、そう信じたい。今のザフトにはアスランは勿論、プラントへ戻ったディアッカもいるのだ。

 それでも、オーブでの襲撃事件がキラにどうしようもない焦燥(しょうそう)をもたらす。

 

 艦橋(ブリッジ)へ駆け込むと、マリューやノイマンと言ったアークエンジェルクルーの面々は既に集まっており、モニターにはカガリの姿もある。

 

「どのくらいの戦闘か分からないけれど、既に戦端は開かれているのは確かね」

〈おそらく、連合とザフトの同盟軍による対ソレスタルビーイング殲滅作戦––––––エンジェルダウン作戦が始まったんだろう〉

「エンジェルダウン作戦…」

 

 ガンダム……即ち天使を墜とすということだろうか。

 実際にガンダムと戦闘したキラだからこそ、その力が分かる。だからこそ、そのガンダムと同等の性能の機体がひしめく争いがいかに恐ろしいか……想像もつかない…!

 

「カガリ…!」

 

 そこまで考えた時、キラの心のうちは既に決まっていた。そして、それは姉にも以心伝心で伝わっていたようだ。

 

〈分かっている。政治的な問題はこっちでなんとかするから、お前はさっさと行けよ〉

「うん、ありがとう…!」

 

 姉の承諾を得るや、キラは来た道を引き返すかのように格納庫(ハンガー)へ足を走らせた。

 

「マードック曹長にブースターの準備をさせて!」

〈国防軍に通達。フリーダムが出る、とな〉

 

 頼りになる仲間たちの声を背に受けながら、キラは愛する人を救うべく宇宙へ思いを()せた。

 

 

 

 

 

 

 

 





>エドワード・チャールズ・グレン
今作におけるイオリア枠の天才科学者。
ジョージ・グレンの生みの親。つまりはコーディネーターをこの世に生み出した存在。

>レーゲン
今作におけるE・A・レイの男。
レクシオのボディの遺伝子提供元の科学者。

>エンジェルダウン作戦
今作におけるフォーリンエンジェルス枠の作戦。意味が似てるのでそのまま流用した。


 エドワードやレーゲン、今作でのイオリア計画に関する情報は後々ゆっくりと公開していくものとして……。

 いつの間にか展開されていたエンジェルダウン作戦については、次回で触れていくので、ザフトvsソレスタルビーイングの戦いをお楽しみに。例のシステムの公開も…?

 ※低評価が目立つので、少し方針変えるかもしれません



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