【第一部完結】転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E.   作:アルテミー

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天上の宣言

 

 シャーロット・アズラエル

 

 あのアズラエル財閥の令嬢(れいじょう)であり、大西洋連邦の国防産業理事(こくぼうさんぎょうりじ)を務めていたムルタ・アズラエルの歳の離れた妹なのだが、実のところその名を知る者は少ない…いや、少なかった。

 コーディネーターと同等以上に優秀な才女ということで噂は広まっていたが、それは財閥関係での話。まだ子供だということもあってか、彼女が表舞台に姿を現すことはなかった。……()()()()()

 

 彼女の名が知られるようになったのは、二年前の終戦後のこと。

 大西洋連邦国防産業理事を務め、ブルーコスモスの盟主でもあったムルタ・アズラエルが第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で戦死(せんし)したことは、財界に大きな影響を与えた。

 特に実質的に彼が全てを管理していたアズラエル財閥、及びブルーコスモスは大きく弱体化し、解体(かいたい)寸前にまで追い込まれていた。

 

 そこで、両組織を立て直す(ため)に表舞台に立ち上がったのが、当時18歳のシャーロットであった。彼女は短期間で兄の残した業務を全て引き継ぎ、足りない部分はアズラエル家のコネなどをフルに(あつか)う事で何とか立て直したのだ。

 そんな手腕(しゅわん)を世界は大きく評価しており、ブルーコスモス盟主の座こそロード・ジブリールという男に譲ったものの、アズラエルの名の持つ影響力は(いま)だに健在である。

 

 カガリも今後オーブの代表となる上で注意・警戒すべき人物として、プラントのギルバート・デュランダル共々教えられた過去がある。

 "アズラエル"という名前には過去のことも(ふく)めて色々と思うところがあったが、没落(ぼつらく)寸前だった家と組織を立て直すというところには、同じ立場にあるカガリとて尊敬の意を感じざるを得なかった。

 

 いつか会う日が来るだろうとは思っていたが、まさかプラントの……それもザフトの戦艦の中で会うことになるとは、流石に予想できなかった。

 

 

▽△▽

 

 

「本当にお詫びの言葉もない」

 

 開口一番、デュランダルはそう言って頭を下げる。

 気にしないでくれ、と受け止めながらも、カガリはデュランダルと…そして、金髪の麗人(シャーロット)と対面する。

 

 あれから間も無く、硬直(こうちょく)が解けたカガリから互いに挨拶を交わしたものの、詳細はデュランダルを含めた三者で話し合うということになり、現在ミネルバの艦長室にて、こうして互いの身のあかしを立てることができたのだ。

 

「いや…こちらこそ、プラントの迅速(じんそく)な対応に助けられました」

 

 社交的な笑みを浮かべたシャーロットがそう返したが、デュランダルは鎮痛(ちんつう)な表情を崩さないままだ。彼にとっても今回の事態は、看過(かんか)しえない程の重大事なのだろう。

 

「それも、姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは。ですがどうか御理解いただきたい」

「ああ。それよりも、あの部隊についてはまだ全く何も解っていないのか?」

 

 ミネルバが現在、例の強奪部隊の敵艦の追撃任務についている事は聞いた。カガリやシャーロットが乗っているのだが、現状で追跡が可能なのがこの(ふね)しかないという事で、両者を連れたままこの艦はアーモリーワンを離れてしまったのだと。

 

「ええ、まあ……艦などにも、ハッキリ何かを示すような物は何も……」

 

 彼にしては、妙に歯切れの悪い答えだった。

 

 カガリとしては、あの部隊が何者であるかある程度は予測できていた。

 

 一つは、プラント内における旧ザラ派…もとい過激派の暴走だ。元ザフト兵が多くを()める彼等であれば、アーモリーワンに侵入する事は容易(たやす)かっただろう。しかし、それをデュランダルが見過ごすかと言われれば疑問が残る。

 

 また一つは、地球連合軍。二年前に停戦したとはいえ、プラントに(うら)みを持つナチュラルなど大勢いる。その筆頭であるブルーコスモスも最近になって活動が活発になってきていると聞くが……。

 

「………?」

 

 しかし、そうなると、大西洋連邦所属の彼女がここにいる理由が分からない。

 

「…しかし、だからこそ我々は一刻も早く、この事態を収拾しなくてはならないのです。取り返しのつかないことになる前に」

 

 カガリにも予測できた事だ。おそらくデュランダルも分かっているのだろう。だが問題が微妙過ぎる為、直言(ちょくげん)を避けているのだ。

 

「ああ、(わか)ってる。それは当然だ、議長。今は何であれ…世界を刺激するようなことはあってはならないんだ」

 

 デュランダルの沈痛な言葉に、カガリもやりきれない想いと共に頷く。

 

 先の大戦以降、世界は危ういバランスの上に成り立つ平和を享受(きょうじゅ)していた。それはちょっとしたきっかけがあればあっさりと崩れてしまう程に非常に(もろ)い偽りの平和。

 あの新型モビルスーツ達は、そのバランスをいとも簡単に崩壊(ほうかい)させられるほどのものになる可能性がある。あれらを野放しにすれば、それこそ、前大戦の同じ(てつ)を踏むことになりかねない。

 

「ありがとうございます。姫ならばそうおっしゃってくれると信じておりました」

 

 そんなカガリの思いを汲んだのだろう。デュランダルもようやく表情を緩めた。

 カガリとしては、あちら(シャーロット)の考えも気になるところだが、自分よりも前からミネルバに避難していたところを見るに、彼等の間ではすでに話し合いがされていたのだろう。

 

 そう思って、カガリが一息吐いた時。

 (かたわら)でカガリとデュランダルの話を聞いていたシャーロットが、口を開いた。

 

「–––––––ところで議長、例の件について、彼女達にも知らせてあげる必要があるのではないでしょうか?」

「……例の件?」

 

 やはり、自分の預かり知らぬところで話し合いがあったのだ。仕方のないこととはいえ、一国の代表としては()け者にされたような思いだったが、今のカガリにとってはそれよりも気になることがあった。

 

「議長、一体何が…」

「…そうですね。ぜひ、姫に見てもらいたい情報がございまして」

 

 そういうと、デュランダルは手元の端末(たんまつ)を操作し、カガリから見て正面のモニターに映像が映った。

 

「これは…アーモリーワンの?」

 

 そこに映っていたのは、三機のモビルスーツ…アスラン達も相対した例の新型機体達が、一機のモビルスーツと交戦している様子だった。

 

「あの機体は…」

 

 アスランには、見覚えがあった。

 あれは、ピンチになった自分達を助けてくれたモビルスーツだ。暫く様子を見ていたが、あの三機相手に一機で渡り合っている様を見て、撤退すると同時に、まだ新型を隠していたザフトの技術力に思わず震えた記憶がある。

 

 最終的に黒い機体(ガイア)があしらわれる様に頭部を切り付けられる映像を最後に、カメラは止まった。おそらく、戦闘の影響でどこかが破損してしまったのだろう。

 

「……議長、これは?」

 

 カガリの問いに一瞬目を細めたデュランダルだったが、やがて重々しい口振りで答えた。

 

「実はこのモビルスーツ、我が軍のものではないのです」

「……何だって?」

 

 思わず声に出たのは、カガリではなくアスランだった。慌てて咳払(せきばら)いと共に謝罪したが、カガリとて同じ思いだったし、デュランダルもシャーロットも咎めるようなことはなかった。

 

「その様子を見るに、どうやらオーブによる者でもなかったようですね。良かったというべきか、残念というべきか…」

「議長、理事、このモビルスーツは一体?」

 

 カガリの疑問に対し、デュランダルは端末を一つ操作し、モニターの映像を別の物に映しながら口を開いた。

 

「それが、全くの不明なのです。地球軍のものでも、ザフトの物でも、オーブのものでもない。ジャンク屋などの線も疑いましたが、彼等がここで戦う意味はない」

「お二人が遭遇した一機とはまた別に、アーモリーワン外周にももう一機アンノウンモビルスーツが確認されていたのですが…」

 

 モニターの映像が切り替わる。こちらは映像ではなく画像のみだったが、そこにはザフト軍のモビルスーツを撃墜する見慣れないモビルスーツの姿が写っていた。

 

「このように、我々ザフトにも攻撃を仕掛けてくるとなっては、一体どこの組織だというのか…」

「デュランダル議長にも、(わたくし)にも心当たりがなく、アスハ代表ならあるいは…とも思ったんですがね」

 

 実質的な地球とプラントの代表が知らないと言っているのだ。地球軍でもザフト軍でもなく、強奪部隊とも敵対しているとなると、一体どこの陣営なのか…混乱するのも無理はない。

 

「………………」

 

 誰もが思考に走ったため、暫くは誰も喋らない無音の時間が訪れる。

 が、そんな沈黙も少しのこと、デュランダルがモニターを消したことで破られた。

 

「ここで考えていても仕方がない。よろしければ、息抜き…というのは語弊(ごへい)がありますが、まだ時間のあるうちに少し艦内を御覧(ごらん)になって下さい」

「いや、それは……」

 

 突然のデュランダルの申し出に、思わずカガリとアスランは顔を見合わせた。

 他国の戦艦に乗っているだけでも色々と問題なのに、そんな物見遊山気分(ものみゆさんきぶん)というか、観光気分で良いのだろうかと思ってしまうのが本音だ。

 

 だが、それはデュランダルも分かっているのだろう。そんなカガリ達を制するように言葉を続けた。

 

「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」

 

 そこまで言われてしまえば、断る方が逆に失礼というもの。気は進まないが、せっかくの好意を無為(むい)にするわけにもいかない。

 

「ああ、ではよろしく頼む」

「ではアズラエル理事は……」

 

 デュランダルが視線を向けたが、その先のシャーロットは薄く微笑んで首を横に振った。

 

(わたくし)が出歩いていては、アスハ代表にもご迷惑でしょう? 先の士官室で休ませてもらっても?」

「ええ、分かりました。先程の案内をつけますよ」

「助かります」

 

 どうやらシャーロットは付いてこないらしい。

 そんな会話をした後、デュランダルはカガリ達の方へ振り向いた。

 

「では姫、こちらへ。まずはご利用いただくことが多くなるだろう––––––––」

 

 そう言って、カガリ達を案内しようとしたその時だった。

 

 

「––––議長! 大変です!」

 

 大慌てで艦長室に突入してきた男。それは身なりから言って、ザフトの黒服……ミネルバ副長のアーサー・トラインだった。

 

「君はトライン副長だったね…どうかしたのかな?」

「は…失礼しました!」

 

 デュランダルが軽く声を()ければ、アーサーは部屋の状況に気付いたのか、顔を赤くして敬礼で答えた。その新人もかくやという慌て振りにカガリ達も苦笑していたが、彼の次の言葉に凍りつくことになる。

 

「例のアンノウンモビルスーツが所属しているという組織からザフトに…いえ、プラント全体に向けてメッセージが届けられました!」

「何だと!?」

 

 その声は誰が発したものだったか。或いは全員だっただろうか。

 

 事態は着実に、一つ一つ次の舞台へと世界を導こうとしていた。

 

「世界が変わっていく……」

 

 ここで彼等は初めて知ることになる。

 戦争根絶を掲げる私設武装組織ソレスタルビーイングという存在を……。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

『この世界で暮らす、全ての人類に報告させていただきます––––––––』

 

 その映像を、ミネルバ艦内の休憩所……クルーの多くが集まる場所でシン・アスカは同僚(どうりょう)のレイ・ザ・バレルやルナマリア・ホークなどと共に見つめていた。

 きっかけ…というより、緊急のアナウンスと共に流れ出したために自然と注目せざるを得なかったというところか。

 

 おそらく先の強奪事件に関わるものなのではないか、とクルー達の間では噂されていたが、実際に映像として流されたのは全く異なるものだった。

 

 まず映されたのは、確かに先程のアーモリーワンでの強奪事件に関する映像だった。しかし、それと共にシン達が遭遇したあのアンノウンモビルスーツが強奪部隊・ザフト問わずに攻撃を加えていく様子が映し出されてから、周囲は(ざわ)めきだした。

 

『私達はソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です』

 

「ソレスタルビーイング…?」

「ガンダム…あの機体のことか」

 

『私達ソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります。私達は、自らの利益のために行動はしません。戦争根絶という大きな目的のために、私たちは立ち上がったのです』

 

 やがて映し出されたのは、一人の男性の姿。おそらく彼がこの放送を発している声の主なのだろう。

 一般的な金髪に黒曜石(こくようせき)のような瞳。自信を感じさせるその姿に、シンは何処か見覚えがあった。だが、どこで見たのか…それが思い出せない。

 

 そんなシンをよそに、男の言葉は更に続いていく。

 

『ただ今をもって、すべての人類に向けて宣言します。領土、宗教、エネルギー……どのような理由があろうとも、私たちはすべての戦争行為に対して、ガンダムを使った武力による介入を開始します!』

 

『戦争を幇助する国、組織、団体なども、我々の武力介入の対象となります。私達は、ソレスタルビーイング。この世から戦争を根絶させるために創設された武装組織です。繰り返します……』

 

 何を言っているのか、シンには見当(けんとう)もつかなかった。いや、シンだけでなく周りのクルー達もポカンと固まっている。

 

「レイ、今のは…?」

「この映像のままの意味だろう。そして、奴らがあの時の戦場で妨害してきたモビルスーツ……ガンダムだったか、に間違いない」

 

 こんな時でも冷静な親友(レイ)の姿に安心しつつ、シンもまたソレスタルビーイングなる組織について思考を巡らせる……が、やはりイマイチ纏まらない。

 

「でも、こいつらの言っていることって…」

「ああ、戦争を戦争で解決させるとは…矛盾しているな。ソレスタルビーイング」

 

 そう、何せ言っていることの一貫性がないのだ。戦わせないために戦う……まるで噂に聞く前大戦の三隻同盟のようではないか。

 

 馬鹿げている。単なるテロリズムの一種だと。そう思ったシンに対して、レイは単なるテロ組織の妄言(もうげん)だとは思っていない様子だった。

 

「だが、奴らが単なるテロ組織だとは思えん」

「…どうしてだ?」

「ザフトの新型モビルスーツ相手にああも翻弄(ほんろう)する機体技術もそうだが……」

 

 そこで言葉を切ったレイは、改めてモニターに映る男の姿へ視線を向ける。そこには……。

 

「あの男の姿に見覚えがないか…」

「え、あぁ。どこかで見たような気がするんだけど…」

 

 レイの言葉に頷く。

 あの金髪の男にはどこか既視感(きしかん)があった。かといって、あまり思い出せないのを見るにそこまでシンにとっては重要な人物というわけではないのだが…。

 

「あの男は、ファーストコーディネーター。ジョージ・グレンに()()()()

「あっ!」

 

 そう言えば、アカデミーで死ぬほど学んだC.E.(コズミック・イラ)の歴史で出てきたあの人物と同じ容姿をしている。思い出してしまえば、後はもう彼本人にしか見えない。

 偶然というには、あまり似すぎているそれにシンは思わず驚きの声をあげた。

 

「…まぁ、だからといって特に何かあるわけでもないがな」

「え?」

「幸いにして今この艦には議長がいる。あの組織への対策はあの人が考えて下さるだろう。俺たちはそれに従って動けばいい」

 

 それだけ言って、レイは部屋を去ってしまった。おそらく、自室へ戻ったのだろう。あるいは、この(ふね)にいるというデュランダル議長の元に向かったのか。

 

『私たちはソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です』

『私たちソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります』

 

 戦争の根絶、それは家族を亡くしたシンにとっても最大の望みだ。その為にザフトに入ったのだから。

 だが、これは何かが違うと心が訴えている。

 

「ソレスタルビーイング……」

 

 武力を持って武力を制すソレスタルビーイングの登場に、思わず彼はポケットの妹の形見(携帯)を握りしめた。

 

 

 これを機に、大きく世界が動いていくこと。そして、自分もまたそれに大きく運命が左右されることを、今のシンはまだ何も知らなかった。

 

 

 





イオリア枠こと、ジョージ・グレン(?)の演説は00とそこまで変えませんでした。少しアレンジを加えても良かったんですが、原作のスピーチがあまりにも秀逸すぎたので。

※因みにジョージ・グレンの容姿はガワだけです。中身はオリキャラなのでご理解ください。中身は彼を使った天才研究者とかなのかも…?

戦争根絶のためのソレスタルビーイングと、戦争を止めるための三隻同盟ってよく比較されますが、その違いって何だと思います? やっぱり計画性とか?

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