ダンまち外伝:Crime doesn’t pay   作:ボッブ

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confession03:舞台裏(アウトサイド)

 

怪物祭(モンスターフィリア)。それは、冒険者の街オラリオで年に一度開催される他に類を見ない催し。第一級を含む名のある冒険者たちが衆人環視の中、狂暴極まりないモンスターたちを華麗に調教(テイム)する姿は世界広しといえどオラリオでしか観ることが叶わないだろう。本日も冒険者たちの妙技を観ようと都市外からも多くの観客が集まり、闘技場は今か今かと待ちわびる観客の熱気に満ちてる。

 

…だが、彼らは知らない。今回の怪物祭は一筋縄ではいかないことを。その裏で不穏な気配が息をひそめ、時がくるのを虎視眈々と狙っていることを。

 

 

……………………

 

 

ズンッ!

「グガァアア!!」

「これで三匹。」

 

 怪物祭当日、トリであるシャクティさんの出番に間に合うよう足を運んだ俺を盛大に出迎えてくれたのはモンスターだった。ギルド職員曰く何者かがモンスターを捕らえていた場所に侵入、そのまま解放されてしまったらしい。【ガネーシャ…ファミリア】の連中は何をしていたという話なのだが、警備にあたっていた団員は全員熱に浮かされたように顔を赤らめて意識を朦朧とさせているのだとかで詳しい状況はまだわかっていない。

 

「他のは?」

「はっはい、ここ周辺に逃げたモンスターは今ので最後のようです。後はシルバーバックが一体ダイダロス通りの方へ逃げたようですが、【剣姫】が追跡しているとのことです。」

「そうか…。ここはもういいから仕事に戻れ、お疲れ様。」

「はい!ご協力ありがとうございました…!」

 

 どうやら、絢爛な祭りに誘われたこの馬鹿騒ぎ(モンスターパニック)も一応の収束を見せたらしい。そうなってくると問題なのは、誰がこんな馬鹿をやらかしたか。警備の様子から考えられるのは上級冒険者の耐異常を突破するアイテムか……神の悪戯か。酩酊させられたというより魅了されたの方がしっくりくる、いつだってこんな傍迷惑なのは美の神だ。とすると、大胆すぎて陰湿な感じがしないからイシュタルはないとして…

 

「フレイヤか。」

 

 目的は目をつけた子供へのちょっかいか、【ガネーシャ・ファミリア】が何かやらかしたかだが。逃げてすぐ闘技場付近の人間に見境なく襲い掛かったモンスターの中で一体だけ他には目もくれずにダイダロスへと向かったシルバーバック。そいつが特定の誰かを追うように仕向けられていたとしたら。

 

「ご愁傷様だな。」

 

 モンスターのLV的に女神に気に入られてしまった憐れな子羊は下級冒険者、それもここ最近冒険者になった新人だろう。【剣姫】が向かっているのなら大丈夫だと思うが、万が一もあり得る。神の試練はいつだって突然でその辺り適当なんだ。

 

 ギルドも流石に気付くだろうからなんらかのペナルティは確実。【フレイヤ・ファミリア】の連中には同情するが、好き好んであんな女神に仕えているのだから止められなかった自分達の責任ということだ。というかわざわざこのため(モンスターフィリア)のために出てきたってのに台無しかましやがって、もうじゃんじゃんペナルティ課していこう。

 

ドォオオオオン!!!!

「っ⁉︎…なんだ?」

 

 まだ残りがいたのか?いやここまでの衝撃、確実に下層クラスだ。そんなものは予定の中になかった。

 

 気を抜いている最中の予想外の出来事に動揺しながら音の聞こえた方向を向くと遠目だが砂煙が立ち昇っているのが見える。もしかしたら祭りに来ていた第一級の冒険者が暴れただけなのかもしれないという希望的観測を滲ませながらけ砂煙の中を注視するがそこから現れたのは―――

 

―――見たこともないような極彩色のモンスターだった。

 

 

……………………

 

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】ッ!!!」

 

 傷ついたエルフの少女が放つ、都市最強の魔道士の必殺が第一級の冒険者たちを苦しめた極彩色のモンスターたちをその時間もろとも軒並み凍らせていく。それは、数多の冒険者が集うオラリオにおいても少女にしか成し得ない絶技、他者の魔法を召喚するという規格外の発露だった。

 

「終わったか…。」

 

 その様子を少し離れた家屋の屋根から俺は眺めていた。最初は予想外にすぎる登場に驚いたものだが、第一級含む【ロキ・ファミリア】の上位陣がいるとなれば話は別、ついて早々高みの見物をさせてもらった。お陰で極彩色の新種を観察できた。

 

 第一級の打撃に耐える耐久、魔法を感知して優先的に襲う性質。どれも厄介だが総合的な脅威度はLV4といったところか。彼女たちも装備が万全なら苦戦することなく瞬殺していただろう。

 

「…地下、か。」

 

 モンスターに関する考察は大体まとまった。後はあれの出どころだが、単純に地下下水道を通ってきたのだろう。運搬経路の予想はつく。モンスターの脱出が俺の推理通りなら極彩色の新種とは無関係。だが、新種が怪物祭を狙って出現したのは間違いない。複数か単独かは知らんがダンジョン内にあれを大量に手懐けている調教師(テイマー)がいる。そして、そんな奴がいることにも驚きだが、それ以上に驚きなのは連中が動いている痕跡があることだ。

 

 まさかあの状態からこんなに早く立て直すとは、正直思いもしなかったよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なあ、タナトス?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

「――ベオ。」

 

 闘技場近くの広場で椅子に座っていると、待っていた人がやってきた。

 

「災難でしたね、シャクティさん。」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】団長、LV5【象神の杖(アンクーシャ)】のシャクティ・ヴァルマ。オラリオの治安を守るガネーシャ・ファミリアのトップであり、ハシャーナさんの上司にあたる人だ。俺も昔からお世話になっている。

 

「せっかく来てもらったというのに待たせてすまなかった。」

「いえ、お忙しいでしょうから。」

 

 今回のモンスター脱走騒動。死者は出さず民間人にはほとんど怪我人も出なかった。しかし、被害の大小に関わらずモンスターを逃したガネーシャ・ファミリアが住人たちからの信頼を損なうのは確実だ。

 

「ギルドからペナルティは、」

「特には、な。犯人があれだからなギルドも責めにくいんだろう。」

「………。」

 

 犯人がわかりきっているとはいえ、相手が相手だ。決定づけるものが状況証拠しかない以上知らぬ存ぜぬと言われればそれ以上の追求は難しい。【イシュタル・ファミリア】で痛い目を見ている以上、物的証拠も証言もなしにはギルドも迂闊に手は出せない。

 

「まあ、できる限り釘は刺すつもりだ。それでどうにかなるとも思えんがな。」

「女神は気まぐれですからね。」

 

 適当な返事を返しながら席を立つ。もう少し話していたいが挨拶もできたし、そろそろ時間も時間だ。お暇させてもらおう。

 

「もう、行くのか…?」

「はい。」

「そうか…。また、いつでも来い。歓迎する。」

「ありがとうございます。では、また。」

 

 微笑む彼女に背を向けて帰路に着く。彼女も今回件でまだ忙しいのに無理してきてもらった。これ以上俺のために時間を使わせては迷惑だろう。だから………………………去り際に見えた彼女が少し寂しげだったのは気のせいだ。

 

 

……………………

 

 

「…行ったか。」

 

 去っていく少年の背を眺めながら呟く。彼の言った通りだいぶ落ち着いたとはいえ、まだ忙しい。本当なら団員たちに仕事を任せきりにしているのだから早く戻らなければいけないのだが。少し、名残惜しんでしまった。彼の背が見えなくなったところでようやく踵を返す。すると前から男が走ってくるのが見えた。

 

「あ〜、行っちまったか〜。」

「ハシャーナ…。」

 

 ベオに会いに来たのだろう。また仕事をサボって、私がいえた義理ではないが。こいつは少し自由すぎる。

 

「ああ、ベオならもう行ってしまったよ。…わかったなら行くぞ、まだ仕事が残っている。」

「………。」

「?ハシャーナ…?」

 

 横を通り過ぎなたハシャーナに声をかけるが、あいつは彼が去っていった方向を黙って見つめていた。

 

「あいつ…どうでした?」

「…どう、とは?」

「なんか様子がおかしかったりしませんでした?」

「………。」

 

 今度は私が黙った。なんて答えればいいかわからなかったわけじゃない。ただ、答えられなかった。

 

「ここ最近急に態度が変わった気がしまして。」

「………。」

「なんていうか、よそよそしくなったというか、話しにくそうというか。」

「……………。」

「あいつ……もしかして、」

「ハシャーナ。」

 

 こいつがなにを言いたいのかはわかっていた。だが、言わせたくなかった。

 

「………。」

「そんなに気にしてやるな。あいつにも色々あるのだろうし、詮索してやるな。」

「……そうですね。」

「きっと自分から話してくれるさ。」

 

 これはただの逃避なのかもしれない。だが、私はあの子を信じてやりたい。今はまだ難しくても、いずれは。

 

「…プッハハっ…!」

「おい、なんで笑う…?」

「すっすいません。なんかシャクティさん母親みたいで、面白くて。」

「は…?」

 

 母親?私が、あいつの…?

 

「…私はまだ未婚だぞ。」

「いえ、そうですけどね?なんか、言ってることとか顔とかまさに母親って感じでしてね。」

「はぁ…。」

 

 なるほどな。リヴェリアの気持ちがよくわかった気がする。

 

「もういい、私は先に戻る。」

「ハハハッ!すいませんって!」

 

 

 

 

なんてことない会話を続けながら二つの影が広場を離れる。少年を信じるをという親心に近いものが彼女らの中に根付いていた。だが、美しい絆は裏切りを知らないからこそ美しくあれる。不穏の影は既に少年を覆い尽くしていることなど誰も気づいてはいない、一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。
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