ダンまち外伝:Crime doesn’t pay   作:ボッブ

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confession04:冒険者の日常(サドンデス)

 

ダンジョン十八階層、リヴィラの街。

 

先日あった怪物祭での事件もひとまず終わり、俺は無事に迷宮へと帰ることができた。上であれだけの騒ぎがあってもこの街は変わらない。陰気でいて胡散臭く、だけど活気がある。あいも変わらずこの街の朝は気持ちがいい。俺はひょっとするとこの街を地上の街以上に気に入っているのかもしれない。

 

「おっ!よお、ウル…ふ……。」

「あ?」

 

すれ違おうとしたところに全身型鎧(フルプレート)の野郎が親しげに声をかけてくる。だが、あいにくとこんな重装備の知り合いはいない。

 

「…やっ、べ。」

「………。」

 

やべって言ったぞこいつ。怪しすぎるだろ。

 

「あ〜と、あれだ!知り合いと間違えちまったんだよ!」

「………。」

「本当だぞ⁉︎」

「………。」

「じゃ、じゃあ俺はもう行くぜ。悪かったな!」

「………。」

 

黙って見ていると何やら必死こいて言い訳し出して、そんでもって強引に終わらせにきた。見なかったことにするのが正しい部類だなこれは。不審者の野郎は急足で駆けていくが、

 

「………いやあんたハシャーナさんだろ。」

「………。」

 

今度は向こうが黙った。

 

 

……………………

 

 

「極秘の依頼(クエスト)ですか。」

 

少し問い詰めると面白いくらいに吐いてくれた。ハシャーナさん曰く、三十階層での採取依頼らしい。三十階層といえば最近、降りた連中がモンスターの集団が変な動きをしていたとか言っていた。大した話じゃないと思っていたが、少しきな臭くなってきた。…ところで、依頼を受けた当の本人はいつまで項垂れているんだ。

 

「あ〜、クソッ。やっちまった〜。」

「いい加減、機嫌なおしてくださいよ。」

「わかってるがよ……。ウルフ!お前人に話すんじゃねえぞ…!」

「話しませんよ、あんたじゃないんだから。」

 

やっと落ち着いてきた。そもそも、極秘依頼中(シークレット・クエスト)中に知り合い見かけたからって思わず話しかけるなよ。この人絶対こういうの向いてない。と、それはともかく

 

「…ただの採集に極秘って、この依頼やめといた方がいいんじゃないですか?」

 

そう、ただの採集を極秘裏に行う理由がわからない。たとえ他の冒険者に見られてもそこまで注視されることでもないだろうに、何か後ろめたいことがあると公言しているようなものだ。

 

「…心配は嬉しいが、問題ない。依頼人はお得意様だ、充分信用できる。……あっ、これも内緒な?」

「はあ……。」

 

なんだかな、依頼の怪しさはさておいても心配になってくる。

 

「それならいいですけど。油断しないでくださいよ。」

「おうよ!なんたって、この日のために依頼人が魔剣まで用意してくれたんだからな!」

 

どうやら背負っていた大斧はただのカモフラージュではなかったらしい。随分と羽振りのいいことで。

 

「…じゃあ、俺は宿に戻るんで。」

「ああ………本当に言うなよ?特にシャクティさんに。」

「はいはい。」

 

向き合った体勢のまま横を通りすぎる。今日は特にやることもない、夜まで適当に時間を潰そう。

 

「ウルフ!」

 

ハシャーナさんが再び声をかける。さっきよりも自信に満ちた声音で。

 

「…どうかしました?」

「俺は口が固い方だぜ!」

「は?」

 

唐突に脈絡のない宣言をされた。ていうか、どの口が言っているんだ。

 

「あっ!てめえ信じてねえな⁉︎言っとくが、俺はお前だったから話しちまったんだ…!」

「!」

「お前以外なら話さなかった…! だからってわけでもねえが、お前もなんかありゃ好きに言えよ!」

「………。」

「お前が何だろうが、俺は聞いてやる!」

「……………。」

「そんだけだ!またな…!」

 

ハシャーナさんは豪快に去っていく。言いたいことだけ言って、俺からの返事なんて聞かずに。俺は何も言わなかった。いや、俺は何も言えなかった。

 

「……何を言えってんだよ。」

 

ハシャーナさんが去っていくのを見ていることしかできなかった。ーーー正直に話しておけばよかったのだろう。でも俺にはできなかった。それだけの話だった。

 

 

……………………

 

 

 

 

 

夢を見る。小さな子供たちの夢。

 

一人の女の子が泣いている。きっと寂しかったんだろう。

 

そこに男の子がやってきて、笑っている。自信満々に、それでいて優しげで無責任に。

 

女の子も釣られて笑う。嬉しそうに、泣き腫らした顔で。

 

酷い悪夢だ。無邪気な邪悪とは、本当に悍ましい。

 

いつもと同じ結末だ。

 

男の子が言うのだ『また会える。』と

 

女の子は言うのだ『忘れないで。』と

 

約束でもない、ただ一度の会話。

 

俺はまだあの子の名前も知らないのに。

 

 

 

 

 

……………………

 

 

「ーーはっ!」

 

飛び起きる。悪魔に追われた目覚めはいつだって最悪だ。心臓が壊れそうで、汗をかいているのにとても寒い。だから眠るのは嫌いだ。

 

「はっはっ…!」

 

近くにあった水差しに口をつける。

 

「んぐっ………はあ……!」

 

ようやく落ち着く。あの夢を見た朝はいつもこうだ。打ち上げられた魚のような己の無様に嗤うこともできない。

 

「クソッ…!」

 

きっと昨日、あんなことを言われたからだ。逆恨みだが、ハシャーナさんに恨み言の一つでも言ってやりたい気分だ。依頼で問題がなきゃ昨日の夜にはリヴィラに戻っているはずだ。

 

ドンドンドン!

 

誰かが、部屋のドアを叩く。噂をすれば何とやら、ハシャーナさんが来たのだろうか。

 

『おい!ベオ、起きてくれ!』

 

どうやら違うようだ。来訪者は必死な声で戸を叩き俺を呼んでいる。

 

「…何だ?」

『頼む!来てくれ!緊急なんだ!』

「だから、何があった?」

 

寝起きの頭に野郎の声が響く。起こされるのなら女の声が良かったのだが、贅沢は言えない。そうして問答をしているうちに目が覚め、意識がはっきりしてくる。

 

『殺しだ!ヴィリーの宿で殺しがあったんだ!』

「…何?」

『頼む!早く…!」

 

最後までは言わせなかった。俺が扉を開けたから。

 

「いくぞ、歩きながら話せ。」

「お、おう…。」

 

物騒な話だ。あの夢を見た後にこれとはな。だが、何故だろう。今は夢ことより、彼を思い出してしまうのは。

 

 

……………………

 

 

「つ、連れてきたぜ。」

 

チンピラ然とした冒険者が顔を出し、そう告げる。するとその横から一人の男が部屋に入ってきた。煤け色の髪、色を知らぬ肌、怪しい光を放つ黄金の瞳。これらの特徴を持つ冒険者はおそらく一人だけだろう。この街で最も強い力を持つ男。実際に取り仕切っているのはボールスだが、街のトップは誰かと問われたら彼しかいないだろう。

 

僕たちのパーティーが今回の事件に遭遇したのは全くの偶然だった。武器の代金のためダンジョンに潜るアイズたちに同行する形で十八階層まで降りてきた僕たちは、今晩宿をとろうと思っていたリヴィラで殺人事件に出会った。そこで現場の検証をしながらボールスの頼んだ『開錠薬(ステータスシーフ)』待っていた僕たちのもとに彼はやってきた。

 

ベオ・ウルフ。半年前までは第二級冒険者でありながらまったくの無名であり、名が知られるようになったのは彼がリヴィラを我が物としたここ数ヶ月の間の出来事だ。僕自身、何度も十八階層でキャンプをしているが彼と会うのは初めてだ。

 

「ーー君がベオ・ウルフか。はじめまして、知っているかもしれないけど僕はフィン・ディムナ。【ロキ・ファミリア】の団長をやっている。」

「…ああ、もちろん知っている。こちらこそ、知っているようだがベオ・ウルフだ。」

 

ふむ、ボールスとは違って僕たちを歓迎していないってわけでもないらしい、尤も歓迎しているわけでもないが。

 

「すまないね。先に現場を見させてもらった。」

「構わない。それより何がわかった?」

「今のところは進展なしだ。開錠薬で被害者が判明するのを待っているところさ。」

「そうかい。」

 

そう言うと彼は遺体を注意深く見つめる。

 

「………。」

「? どうかしたかい?」

 

何かわかったのだろうか、彼から表情が抜け落ち遺体の手を注視している。

 

「荷物を見せろ。」

「え?」

「見せろって言ってんだよ。」

「ちょっとアンタ!団長に向かってーー」

「っ!」

「お、おい! どうしたベオ⁉︎」

 

怒るティオネすら無視して、彼は被害者の荷物を漁り出す。普段の様子とかけ離れているのかボールスも怪訝な様子で声をかけている。

 

「てめえ、聞いてーー」

「よせ、ティオネ。」

「で、でも団長〜。」

「いいんだ。それよりも、何かわかったのかい?」

「………。」

 

彼は無言で荷物の中身を確認している。

 

「ボールス、できた。」

「お、おう。どれどれ…っといけねえ、『神聖文字(ヒエログリフ)』が読めねえ…。」

「私が読もう。」

「私も。」

 

どうやらこちらの方が先に終わったようだ。それでも彼は気にせず荷物を見ているようだが。

 

「名前はー「ハシャーナ・ドルリア」

 

読み上げたリヴェリアの声に被せて彼が口を開いた。

 

「【ガネーシャ・ファミリア】の【剛拳闘士】だ。」

 

 

 

 

 

 

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