ハリー・ポッターと、セネット家のご令嬢   作:宇佐美ミズク

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1.薬品庫の泥棒娘

 二年になってからと言うもの、私の生活は実に退屈極まりないものだった。

 

 毎朝ダフネに起こされては、朝食を一緒に取り、各教室を回り授業を受ける日々。

 一年次に特例でスキップ認定された薬草学と魔法薬学に関してもダフネの横でアドバイザー役をするか、地下牢の研究室にて、スネイプ教授に頼まれた別クラスの授業用の調合を行う程度。

 何故かと言えば、今学期が始まって既に1月は経っているのに研究テーマが決まらないのだ。

 

 一年に最低1つの魔法薬学、または薬草学関係のレポートを提出して、スネイプ教授と、スプラウト教授、ダンブルドア校長から評価を受けること。

 それが、私の特例スキップの条件だ。評価が悪ければ勿論スキップは取り消されてしまい、ふくれ薬や、おできを治す薬など、何年も前に祖父から履修済の調合をクラスメイトに混ざってちんたら受けなければならなくなる。

 

 それ故に、さっさと研究を始める必要があるのだが、どうにも興味が湧くテーマが無い。

 

 最近の寮内では、スリザリンの継承者が猫を石にしたと沸いているが(主にマルフォイ)、石化解除の為の薬(マンドレイクの煮汁)などは既知のものであるし、何より面白くない。

 

 ただ煮出しただけのスープ薬など、誰にでも作れる。(こう言ってはなんだが、マンドレイク薬は作るのは簡単だが、品質の良いマンドレイクを育てるのがとてもめんどくさい。奴らは草のくせに一丁前に植木鉢のデザインに対して文句をつけるのだ)

 

 そう言う理由により、私が頭の隅で研究テーマについて考えつつ、魔法薬学の授業でダフネの干しイラクサのすり潰し方に文句をつけていれば、目の前にスネイプ教授が、しかめ面で立っていたのだ。

「テーマは決まったのですかな? ミス、セネット」

「いーえ。まだですね。そうだ! ミードにおける適切なニワヤナギの配合比率なんてどうでしょう?」

「は、それは大変興味深いですな。レポートができた際には是非一読したいものだ」

 

 そんな事を全く思っていないだろうと言うのがよく分かるほど眉間の皺を深くさせたスネイプ教授が、私に椅子から立ち上がるように言うと、くいっと親指で薬品庫を指差した。

「よほど暇を持て余しているらしいミス、セネットには、薬品庫内の片付けを命じる。ああ、ついでに問屋に発注が必要な薬品リストも作成しておくように」

「……はぁい」

 

 私はどうやら神経質なスネイプ教授が、生徒用とはいえ他人に触れさせたがらない薬品庫内の掃除を任される程度には信用されたらしい。これを一年次で出した結果の成果とみるか、それとも体のいいパシリにされたと嘆くべきだろうか。

 

後どのくらいすり潰せばいいの? と尋ねるたダフネに今の2倍細かくなるまでと答えて、表情を曇らせた後、私は薬品庫に入りドアを閉めた。

 「雑多な薬草が入り混じるこの匂い……。正に薬品庫ね」

 カビが生えないように整えられた乾燥した空気に数多の薬草の匂いは、実家の研究棟を思い出す。その香りを胸いっぱいに吸い込んだ私は気分が高揚するのを感じた。

 

 しばらく深呼吸を繰り返した後、周囲を見渡せば整然と並んだキャビネットに置かれた薬品、薬草、材料の数々は片付けなど必要ない程、種類分けされて納められているのが見てとれる。

 唯一、作業台の上には乾燥を待つ薬草が山と積まれ

ているので、時間があればそちらも処理しておくべきかと考えつつ、私は作業台の羊皮紙を手に取った。

「片付けは必要ないかな。発注用のリストだけ作りましょうか」

 

 

 

 薬品庫内は思いの外広く、キャビネットの数も多い。

 幸いにも、発注が必要なほど減っている材料は少ないが、このように数が多いと確認作業も大変だ。

 漸く17列目(スネイプ教授の几帳面な性格を表してか、キャビネットはアルファベット順に列を作っていた)まで到達した時、薬品庫の扉がかすかな音を立てて開いたのが聞こえた。

 

 スネイプ教授だろうか?

 いや、教授ならもっと普通に開けるだろうし、扉の外から大声で怒鳴る教授の声と、複数人の悲鳴が聞こえてくる。

 誰かがこけて鍋の中身でもぶち撒けたのだろうか。

 まぁ、おそらくロングボトムだろう。(あれが、魔法薬を普通に完成させるのは年に一度あればいい方だ)

 

 もし、今日の課題であるふくれ薬を被ったとなれば、反対薬のぺしゃんこ薬が必要になるはず。それの材料を取りにきたのだろうか?

 

 そこまで考えて、私は首を振った。

 いや、ぺしゃんこ薬は教卓に大量に並んでいるのを見た。(スネイプ教授は、こう言う事態を想定して予め用意していたのだろうか? それならば、流石スネイプ教授と言わざるを得ない)

 それに、足りなくて取りに来るとしても、今から材料を調合するのは時間がかかる。医務室に行けば、数本は置いてあるだろし、スネイプ教授はうるさい中での調合は好まない。

 彼なら医務室に行けと命じ、その後に不足分を調合するだろう。

 

「ならば、泥棒目的か」

 かすかな声量で呟くと、私は素早く棚の影に身を隠した。

 犯人は薬品庫の奥の方へまっすぐ向かっているようで、パタパタとこちらに近づいてくる音が聞こえる。

 

 棚の影に隠れて様子を見ていると、犯人はスネイプ教授の薬品庫に繋がる扉に向けて杖を一振り。

「アロホモーラ(開け)……ダメね。なら、アベルト(解鍵せよ)――よしっ、開いたわっ」

 

 女生徒、それもグリフィンドール生だ。

 扉を潜る前にかすかに翻ったマントの裏地に目を止めると、私は目を細めた。

 

 スネイプ教授の薬品庫、私も常々入ってみたいとは思っていたが、勝手に入れば教授の怒りに触れるのは必須。

 かと言って正面から頼んでも、にべなし。目下4連敗中である。

 

 スキップ認定を握られている身とすれば、そのような事で心象を悪くするのはよろしくない——

「……が、今ならいける」

 扉の鍵は彼女が開け放ったまま。その上、教授の薬品庫に忍び込むという不埒ものの顔を確めるという大義名分もできた。

 

 私はまるで金貨を目の前に置かれた二フラーのように素早く、だが静かに忍び寄ると開きっぱなしのドアから体を滑り込ませた。

 

 

 部屋に入った途端に香る、濃い薬草の香りに混ざって様々な幻獣の気配。(力の強い幻獣は、角や皮だけになってもその力強さを損なうことは無いということだ)

 

 ある程度その道に精通したものなら、その場で小躍りしたくなる楽園がここにはあった。

 拡大呪文で部屋を広げているのか、生徒用の薬品庫の1.5倍はありそうな空間に様々な生物、薬草が量こそ少ないが、種類多く取り揃えてある。

 几帳面なスネイプ教授らしい、見た目より質と機能を重視した、天井まで届きそうな可動式キャビネット。

 去年発売されたばかりの最新鋭乾燥器と、0.01gから2kgまで測れるように大小取り揃えられた真鍮製天秤秤。

 1番近くのキャビネットを見渡しただけで、アスフォデルの花粉に球根、アクロマンチュラの毒、アッシュワインダーの灰と卵と、数々の希少材料が見てとれる。

「流石、スネイプ教授の薬品庫ね……」

 

 思わず見惚れる私を彼女の声が現実に引き戻した。

「——コーン、バイコーン……あった。角はこれね。後は、毒ツルヘビの皮、ブームスラングだからもう少し奥かしら」

 

 そっと顔を覗かせれば、小柄でモジャっとした髪の女生徒がBの列のキャビネットの一つを開け、ポケットに隠したのが見えた。

 どうやら本当に泥棒目的だったようだ。

「二角獣の角に毒ツルヘビの皮……。市場にもなかなか出回らない二つね。売る気かな?」

 売れば、それなりの値が付くことは様子できる。

 しかし、ホグワーツの女生徒が一人で売りに来て、ホイホイ買う問屋などいるだろうか。

 希少部位の売買は多くが信用が無いと取引どころか現物すら見ることができない。

 

 なぜなら昨今は偽物の質も上がり、専門職の鑑定費用も馬鹿にならないのだ。見ず知らずの者から偽物かもしれない物を馬鹿高い費用を出して鑑定に出す位なら、信用のある者からのみの供給に絞った方が断然金がかからない。(鑑定に出すのは必ず買い手側が行う。なぜなら、鑑定書の偽造など容易いからだ。その方法で一山築いたのが、……よそう。話が逸れた)

 故に彼女が持ち込んだとしても、偽物を持ち込む気かと素気無く扱われるのが関の山だ。

 

「となると、自分の調合用か。しかし何を調合する気? あの二つだけでは、候補が多すぎる」

 ざっと思いつくだけでも14個。調べればもっとあるだろう。

 二角獣の角と毒ツルヘビの皮以外にもう少し材料が分かれば良いのだが……。

 

「あったわ。やっぱり予想通り、スネイプ先生の薬品庫にはあったわね。後のはもう手に入れてあるし、これで進められるわ」

 女生徒のその言葉に、私は近づこうとした足を止め、大急ぎで教授の薬品庫から出ると、元の棚の影に身を隠した。

 

 ここで彼女に見つかると、私も共犯扱いにされかねない。

 とばっちりで罰則など御免だ。

 

 程なくして教授の薬品庫から出てきた彼女は、扉に鍵掛けの魔法を唱えると、足早に薬品庫から立ち去った。

 

「行ったか。だけどあれは、誰だろう? 多分グリフィンドールの2年だろうけど……」

 私は人の名前を覚えるのが苦手だ。寮内でよく喋る者ならまだしも、学年が違ったり、寮が違うと知っている名前など片手で数える程しか居ない。(必要な時は専ら先輩か、寮名で呼ぶ。最も、寮外の者と話したことなぞ滅多に無いが)

 

「後で、ダフネに聞こうっと」

 ダフネなら特徴さえ伝えれば誰だったか教えてくれるだろう。

 私は置きっ放しだった羊皮紙を手に取ると、注文リスト作りを再開した。

 

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