ハリー・ポッターと、セネット家のご令嬢   作:宇佐美ミズク

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12.賑やかな研究室3

「それで、何があったのかね?」

 トントンと組んだ腕を苛立たしげに叩き、絶対零度と表現すべき程の視線でスネイプ教授が私を見下ろしてくる。

「ちょっと実験しただけです」

 

「ミス、セネット。ちょっとの実験でホグワーツ城全体に響くほどの爆発が起こるとは思えないのですが?」

 これまた氷のような視線のマクゴナガル教授が、私を見下ろしてくる。

 

 あの爆発音を聞いて、すっ飛んできたスネイプ教授とマクゴナガル教授に私は今まさに詰められていた。

 一時はフリットウィック教授を含め、教師のほぼ全員と野次馬が勢ぞろいすることになったのだが、スネイプ教授がひとまずは問題ないとして全員を追い返したのだ。

 そうして残ったのが、寮監であるスネイプ教授と、校長代理であるマクゴナガル教授と言うわけだ。

 

 

 

「……怪我は無いのですか?」

「ありません」

「あれだけの爆発で?」

「盾の呪文を使ったので」

 そういうと、マクゴナガル教授が驚いた顔をした。

 実際、普段の授業での私の呪文の成功率は平均から下の方だ。

 扱える呪文の数も精度も良くは無い。

 そんな私が高学年で習う盾の呪文を使った事に驚いたのだろう。マクゴナガル教授は私に杖を差し出すように言うと、私の杖に向かって直前呪文を使った。

 

 杖から吹き出した霞が(プロテゴ・マキシマ)の形状を取ると、マクゴナガル教授はことさら驚いたようだった。

「ミス、セネット。何故普段の授業からしっかりと受けないのです? この技量があるのなら2年で習う呪文の成功率も悪く無いでしょう」

「別に、手を抜いてるわけじゃ無いです。盾の呪文は小さい頃から習ってましたし、一番よく使うので慣れてるだけです」

 

「盾の呪文に慣れているってどういう……いえ、大体分かりました」

 チラリと私の背後の爆発現場に目をやったマクゴナガル教授がため息を吐いた。

 

 

「では吾輩からだ。ミス、セネット。なんの実験をした? 今貴様が取り組んでいるのはポリジュース薬関係の調合のはず。どう転んでも爆発が発生するような調合では無い。

 古いとは言え、ホグワーツ城の壁にかけられた防壁に傷をつける程の爆発だ。いったい何をした?」

「あー、えっとですね」

 

「それに関してはあたしから説明します」

 どう言い繕うか私が悩んでいると、意外な所から助け舟が来た。

 

 

「ミス、ウィーズリー? どういう事ですか?」

「あたしがイリスに頼んだんです。この本に書かれている調合について教えてほしいって」

 背後を振り返ると薬棚の間にジニーの姿があった。双子やサリーと共に先に帰らされた気がしていたが、まだ残っていたのか。

 

 

「その本、少し見せてもらっても?」

「ええ。どうぞ」

 

 マクゴナガル教授はジニーから黒皮の本を受け取り、背表紙を眺めると苦虫を噛み潰したような顔になった。

「ミス、ウィーズリー。……この本をどこで?」

「……図書室にありました。あの、この本って――」

「全て廃棄したと思ったのですが、まだ残っていたのですね。スネイプ先生。この本の焚書、……いえ、対処をお願いしても?」

「……ああ、承知した」

 本をチラリとみるだけで納得したのか、スネイプ教授は本を受け取るとローブにしまい込んだ。

「あの、……それ。図書室から借りて来たのですが」

「ええ。分かっています。ミス、ウィーズリー。司書のピンス先生には私から話しておきます。何も心配しなくてよろしい」

 

「いえ、そういう事では無く――」

「本件は不幸な事故でした。よろしいですね? ミス、ウィーズリー。ミス、セネット」

「えっ?」

「はい。不幸な事故でした」

「よろしい。ではミス、ウィーズリー。ミス、セネット。早く大広間へ行くように。そろそろ夕食が終わる時間ですよ」

 

 そう言うと一際大きなため息を吐き、マクゴナガル教授は部屋を出ていった。

 

 

 

「どう言うことか、説明してほしいのだけど?」

 完全に無視される形になったジニーは、まるで怒ってますと身体中で表現するかのように、腰に手を当てて頬を膨らませた。

「この本についてはスネイプ教授の方が詳しいですよね」

「貴様の父親が書いた本であろうに」

 呆れたような目で見てくる教授だが、実際教授の方が詳しいはずだ。

 

 何せこの本が出回ったのは私が生まれる何年も前。

 本の発売当時に起こった騒動の渦中に居たであろうスネイプ教授ほど詳しい者はここには居ないだろう。

 

 

 視線で促すと、スネイプ教授は苦虫を噛み潰したような表情で説明してくれた。

「この本に書かれている魔法薬は、その全てが理論段階止まりの魔法薬だ。誰も実証出来ていない。著者のアルバート・セネットですらできていない。

 

 だが、この中の一つでも実際に作り出せれば魔法界に永遠に名を残すどころか、魔法界自体の社会構造を揺らがすことになるだろう。

 それに夢見た者が次々に研究に着手するものの悉く失敗し、生半可な技量の者は怪我を負い、優秀な者ほど大怪我を負った。

 

 何故か? レシピには最終学年の魔法薬学の教科書に載るような1滴や半滴などが生やさしいと思えるほどの単位での計量と調合が求められ、配合を間違えればすぐに飽和量を超えて爆発する。

 その爆発の範囲は盾の魔法を貫通し、部屋自体の防護魔法を容易く吹き飛ばす程だ。

 

 魔法省は相次いだ魔法事故を重くみて、この本を禁書に指定。各持ち主には焚書を求めた。だが、一部では焚書を免れた本がある。おそらくこれはその一冊だろう。

 

 教育機関であるホグワーツにそのような本があったのは遺憾であるが、どうせこれも校長が置いているのだろう。

 今までと同じ場所では無く、閲覧禁止の棚に置くことにはなるだろうな」

 

 マクゴナガル教授がこの件を『不幸な事故』として片付けたのも同じ理由なのだろう。

 焚書指定の本を生徒が図書室から持ち出して事故を起こしたと魔法省に知られたら、更なる突き上げを食らうことが想像に難く無い。

 しかもダンブルドア校長が、わざと生徒の目につくような書架にしまっていたのだ。

 ただでさえ、今は継承者の件で校長の立場は危うい。

 マクゴナガル教授がこの件を無かったことにしようとしたのも当然だろう。

 

「今後、この本は探さぬこと。ウィーズリー。貴様は筋は良いのだ。今は基礎を固めることに注力したまえ」

 

 

 珍しい。ジニーには教授が嫌味なく褒めるほどの腕があるのか。

 そう言い残し、バサリとローブを翻して去っていったスネイプ教授を、私とジニーは見送った。

 

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