ハリー・ポッターと、セネット家のご令嬢   作:宇佐美ミズク

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13.賑やかな研究室4

 サリー、双子、そしてジニーとすっかり賑やかになった研究室で、私は火にかけた大鍋を慎重にかき混ぜていた。

「――3、2、1。よし、攪拌終了だ。続いてウルフスベーンの花弁を2枚投入し、さらに1分間攪拌する」

 隣で仮のレシピを片手にカウントしてくれていたジニーが差し出してくれた花弁を大鍋に散らし、更に混ぜ続ける。

 

 ここまで1時間は休みなく混ぜ続けており、腕が千切れそうに痛い。

 だが、後少しで完成だ。

 滲む汗が大鍋に落ちないようにハンカチで拭い、さらにかき混ぜ続ける。

「後10秒……3、2、1、0」

 途端に手にかかる負担が少なくなった。

「定着液!」

「これだ!」

 すぐさまジニーが、蓋を開けた定着液の小瓶を差し出してくる。

 混ぜ棒を引き抜き、小瓶の中身を大鍋へと開ける。

 効果はすぐに現れた。

 先ほどまで濁った泥水のようだった液体が徐々に透明になっていくのだ。

 目を凝らして大釜を覗き込めば、泥のような粒子が集まり固まっては沈殿していく様子がよく分かる。

 数分で全てが沈澱しきった後、火から大釜を降ろして、上澄の液体を試験管に注ぐ。

 

「完成だ」

「まだよ。実際に試してみないと」

 顔に喜色が現れたジニーを制して、私は予め取っておいたミリー(私の猫)の毛を1本、試験管に入れて軽く振る。

 

 若干の泡立ちと共に猫の毛が溶け込んだ液体を私はグイッと飲み干した。

「……鏡ある?」

「ああ。ここだ」

 ジニーの魔法でふいっと飛んできた手鏡をキャッチして深呼吸。

 ゆっくり目を開くと、私のいつもの顔が現れた。

 虹彩の色も瞳孔の形も何も変わってはいない。

 頭の上に猫耳生えて……いない。

 腰のあたりに尻尾は……なし。

 舌先で口内を触り、頬肉を引っ張って鏡に映してみるが犬歯が伸びている様子も無い。

 

 少し目眩のする感覚があるが、一時的なもののはず。

 頭を振ると、すぐに違和感は消えた。

 良し。後は実際に意思疎通ができるかだ。

 

 私は朝、予め研究室にいるようにと言いふくめておいたミリー呼ぶと、直ぐにミリーは現れた。

 

「なんだよ。せっかく寝てたのに」

「私の話している言葉、分かる?」

「あ? ああ。分かるぞ。もしかして例の薬、完成したのか?」

「ええ。……言葉は、違和感なく、くっきりハッキリ、聞き取れるのね?」

「そうだな。同じ猫と話してるみたいだ」

 

 ……成功だ。

 成功と言って良いだろう。実の猫に、猫と話している風にしか聞こえないとまで言わせたのだ。成功に違いない!

 

 私はバッと振り向くと、ジニーに向かって飛びついた。

「やった! やったわジニー!」

「うわっ! ちょっ、イリス――」

 勢い余ってジニーを押し倒してしまったが、私の衝動は止まらなかった。

 研究スペースを飛び出して、目の前にいたサリーの手を掴んでクルクル回ってダンスを踊る。

 

「ど、どうしたの? イリス」

「できた、できたのよ!」

「そ、そうなの。おめでとう。で、でもちょっと離してくれない、かな。目が、目が回っちゃう――キャッ」

 キュウと倒れ込みそうなサリーをソファにボスっと着陸させると次の獲物を狙う。

 

 首を回して背後を窺えば、椅子から半立ちのまま若干腰が引けてる双子が居たので飛びかかる。

「イェーイ!」

「お、おう!」

 さすがこう言うノリに慣れているだけのことはある。

 腰は引けていても、バシンとハイタッチが綺麗に決まった。

 

「あーあ。もぅ。ちょっと落ち着きなよ、イリス。嬉しいのは分かるけど迷惑だろ――っげ、こっち来た」

 研究スペースから出てきたミリーが文句を言うが、知ったことでは無い。

 

 逃げようとするミリーを背後から抱き抱え、天高く掲げてクルクルと回る。

「ミリー、ミリーッ、ミリーッ!」

「はいはい。なんだよもう」

 もうやめてくれとばかりにミリーが嘆くが、こんなに嬉しいのだ。辞められる筈がない。

 クルリクルリと、ミリーを抱え上げたまま踊るように部屋を移動していると、何かにつまづき、頭に衝撃が走った。

 

 

 

 

 

「痛った……」

 研究室のソファで私が目覚めると、腹の上にミリーが乗っていた。

 

「起きたのか?」

「ん、ホントにミリーの声が聞こえる。やっぱり成功してたんだ」

「なんだ、夢かと思ってたのか?」

「……少しだけ」

 ボフンとクッションに頭を落とすとズキリと傷が痛んだ。

 この様子ではコブになっているだろう。

 頭をさすると出っ張った感触がある。こぶ治しの薬はあっただろうか?

 

 

 ゆるゆると考えていた私はある事に気がついた。

「そうだ! 片付け!」

 窓の外を見ればすっかり日も落ちている。

 ハイテンションに踊り回ったあげく、片付けどころか、火の始末もつけていない。

 流石に火は燃え尽きているだろうが、放置しておくのも問題だ。

 

 急いで起きあがろうとすると、ミリーに鼻先をバシンと叩かれた。

「痛ったぁ……何するの?」

「少し落ち着けって。片付けは赤毛のちみっこがやってくれてる。お前は怪我人なんだから少しは大人しくしてろ。そんで俺様の枕になってろ」

「赤毛のちみっこってジニー? なんで起こしてくれなかったのよ」

文句を言うミリーを抱え上げて研究スペースに向かうと、シンクでジニーが使い終わった試験管の洗浄を行っていた。

 

「あ、起きたの? イリス。そのままにしたら、混ぜ棒とか汚れが落ちなくなるかと思って洗っちゃった」

「ホント? ありがとう。ごめんなさい、任せきりにして。今からでも手伝うから」

「別に良いわ。もうこれで最後だから」

 ジニーは手際よくシンクに流れる水を杖で操り、綺麗にした試験管を箱に詰めていく。

 

「はい。コレでおしまい。箱はあの棚の上で良かったわよね」

「そ。手前の方に並べておいてくれる? ……双子とサリーは?」

 辺りを見渡してもあのうるさい双子の声が聞こえてこない。

 

「フレッドとジョージなら、明後日に決行するマンドレイク収穫記念パーティの準備をしてくるって行ってしまったわ。サリーも何か実家からのフクロウ便が届いたとかで寮に帰ったみたい」

「マンドレイク、もう収穫できるの?」

「そうみたい。さっきスプラウト先生とマクゴナガル先生が話しているのを聞いたんだって」

 

「そう。……あれ? じゃあジニー今1人なの? 手伝わせて悪かったわ」

「だから別に良いのに。どうしたの? イリス。薬を飲んでから何か変じゃない?」

「あぁ、あの時の事については忘れて欲しいかも。ついテンションが上がっちゃって」

「ふふ、いいわ。そう言う時もあるよね」

 ジニーはクスリと笑うと、ティーセットが入ってる戸棚へと歩き出した。

 

 

「起き抜けだし、喉乾いていない? もうすぐ夕食だけど、お茶するくらいの時間はあるわ」

そう言ってカチャカチャと茶器の用意をするジニーを、私はじっと見つめた。

 

 

「……ねぇ。ジニーって、ジニーじゃないよね?」

 

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