ハリー・ポッターと、セネット家のご令嬢   作:宇佐美ミズク

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3.医務室での交渉

ハーマイオニーに酒を飲ませた翌日、私は朝食もそこそこに廊下を走っていた。

 目的地は、すぐそこ。魔法薬学の大地下牢教室だ。

 走って来た勢いのままに地下牢の教室のドアを開け放つと、小鍋で暗緑色の魔法薬を煎じていた教授が、嫌そうな顔を私に向けた。

「減点されたくなければ廊下は静かに歩きたまえ」

「はーい。それより教授、聞いてください! 今年のテーマ、決めましたよ!」

 ウキウキと報告すると、教授はピクリと眉を動かして「続けたまえ」と言わんばかりに顎をしゃくった。

「昨日、ポリジュース薬の失敗作を飲んで医務室に運ばれた生徒、知ってます? 知ってますよね。それ、その治療用の薬ですか?」

「そうだが?」

「やっぱり。その子と昨日話してたんですけど、その子、猫の毛を入れたポリジュース薬を飲んだんですね。で、中途半端に猫化したんです。

 まぁ、そこまでは想定通りなんですが、なんと! その状態だと、猫と話ができるんです!」

 もしこれに応用が効くなら猫だけでなく、他の動物の言語もポリジュース失敗薬を飲むだけで習得出来るのだ。

 通常、何年もかかる言語習得時間を0にする事が出来る魔法薬、正に御伽噺に出てくる魔法薬(魔法界にも少なからず子供向け絵本が存在するが、そのどれもにあり得ない魔法薬が出てくる)だ。

 

 しかし、ハイテンションの私と違い、教授は眉間に皺を寄せたまま、考え込むような仕草を見せた。

「……確かにその通りなら、画期的な事だが、それを試していない研究者が居ないとは思えん。ポリジュース薬の失敗は、並のものが調合した薬にはよく起こる事だ。」

「今回の失敗は、猫の毛を入れたことによる失敗で、その他の調合は成功してます」

「なぜそう言える? 失敗作を調合した者は2年生と聞いている。……例外はあるが、(私のことですね)その位年齢ならどこかの手順を間違った可能性は高い」

「いえ、それは無いです」

「なぜだ?」

「調合したのがハーマイオニーで、他二人の分は成功したって聞いた――」

 「ほう」ニヤリと笑った教授に私は慌てて口を押さえたが後の祭りだ。

 調合したのがハーマイオニーというのは、昨日本人から直接聞聞き出した私しかいない。(マダム、ポンフリーには話していないらしい。まぁ、薄々勘づいていそうだけれども)

 彼女からは黙っていてくれと頼まれていたのだが、ついつい口が滑った。

「後の二人とはポッターと、ウィーズリーか。……何を企んでいる?」

「……秘密にしてとは言われてるんですけど、まぁいいか。秘密の部屋の継承者を探っているそうですよ」

 1年に闇の魔法使いとの戦い、賢者の石を守り抜いたあの3人の事は教授もよく知っている。どうせ、直ぐに真相に辿り着くだろうと、私はある程度口を緩める事にした。

 

「秘密の部屋? ……チッ、少しは大人しくしておれんのか」

「2人、いや3人?(ゴーストは、人と数えるべきだろうか?) それと1匹、石になりましたからね。それのどれにも関わっていたのなら、自分の疑いを晴らすために動いても不思議じゃないと思いますよ。その上、彼はパーセルタングらしいですし」

 腕を蛇のようにくねらせてシューシューとパーセルタングの真似をすれば、教授は眉間に皺を寄せた。

「君はポッターが継承者だと思っているのか?」

「いいえ? ポッターが継承者なら、ハーマイオニーはポリジュース薬まで持ち出そうとはしないと思うんですよね。

 あ、ハーマイオニーがポリジュース薬を作った理由は、マルフォイを問い詰める為らしいですよ。スリザリン生に化けて、誰が継承者か聞き出そうとしたらしいです。

 もし誰かにポリジュース薬で化ていたなんてバレたらポッター自身の疑いを深めるだけですから、尚更やる意味は無いかな。

 逆にポッター達はマルフォイが怪しいと見てるみたいですけど。彼、絶対、怪物にビビりまくって何もできないと思うんですよね」

「……まぁ、そうであろうな」

 マルフォイは意外と小心者だ。よしんば制御できたとしても、陰湿に猫や人を石化させて暗躍するのではなく、大々的に自慢して回り、自分の虎の衣を装飾する事に使うだろう。

「誰が継承者かは分かりませんし、あんまり興味も無いです」

 それより今はポリジュース失敗薬の方がよほど興味深い。まだ、先行研究については確認できていないが、十二分に研究する余地はあるだろう。

「それで、教授にお願いがあるんです」

 眉間の皺がさらに増えた教授に向かって私はニマリと笑った。

 

 

 

 医務室に並ぶベッドの一番端っこ。周囲にはカーテンがかけられたそのベッドへと向かうと、私は壁をコンコンとノックした。

「ハリー?」

 あまり元気のなさそうな声が聞こえ、モゾモゾと動いたベッドの主が、カーテンを小さく開けた。

「ハァイ。元気?」

「……えっと、セネット?」

「そうよ。昨日は楽しかったわね。あの後大丈夫だった? 頭とか痛くない?」

「頭は結構痛いけど。……えっと、ごめんなさい。私あんまり覚えてなくって」

「やっぱり。1瓶全部飲むんだもん。当然ね」

私はゴソゴソとローブを探ると、オレンジ色の液体の入った薬瓶を取り出すと、空のコップにトポトポと注いだ。

「飲んで。酔い覚ましよ」

「酔い覚まし?」

「そ。家に伝わる即効性。グイッといって。苦くはないから」

 ハーマイオニーは訝しむ表情をしたが、突き出した魔法薬を素直に飲んでくれた。

 途端に咳き込み出すハーマイオニー。

「ゲホッ。何これ。すっごいすっぱいじゃない」

「苦くはないでしょ?」

 ニコリと笑いかけると、ハーマイオニーは嫌そうな顔になった。

「確かに苦くはなかったけど――あ、でももう痛みが引いていくわ。……凄いわね。この薬。もう痛く無いわ」

「凄いでしょ? で、ハーマイオニー。この薬、いろいろ使ってて結構お高いの」

「え?」

「王家御用達フィンガロット家のレモンに、希少性の高い大水蜂のロイヤルゼリー、年に1度しか採取できない大満月草の花粉に山脈の高地の崖にしか生えない龍舌草。その他諸々。大体1杯3ガリオンくらいかな。

 でもその分即効性は高いし、味も既存の酔い覚まし薬に比べると段違いで悪くない」

「まっ、待って。そんなお金持ってないわ!」

目を白黒させて驚くハーマイオニーに私は優しく微笑みかけた。

「大丈夫よ。もちろんハーマイオニーから取るつもりはないの。これはお詫びよ」

「お詫び?」

「ハーマイオニー。あの小瓶に入ってるの液体。マグルで流行り砂糖だって話したのは覚えてる?」

「ええ」

「これ、お酒なの」

「お酒、……お酒!?」

 ハーマイオニーは額に手を当てると項垂れた。

「ハーマイオニーはお酒を飲むのは初めて……みたいね。ちなみにマグルが砂糖代わりに入れてるのも、マグルの間で流行ってるのも本当よ」

「じゃあ、嘘なのは?」

「太らないって所」

「――っ」

 遂には両手で顔を覆い、天を仰いでしまったハーマイオニーに、私はケラケラと笑った。

「あんなに一気に飲むものじゃ無いよ? アレは。飲みすぎちゅーい!」

「何でお酒が医務室にあるのよ。イリスが持ち込んだの?」

「マダム、ポンフリーの私物よ」

「マダムの!?」

 ハーマイオニーはあの神経質そうなマダムが酒を飲んでいるなんて信じられないと言った様子だが、あれを煽るように飲んだハーマイオニーの使い方が間違っているだけだ。

 容量用法を守れば平凡な紅茶もあっという間に風変わりな高級な紅茶に早変わり。

 体を温める効果も期待でき、寒い夜にはピッタリの代物だ。

「安心して。既に同じものを買って元の棚に戻しているからマダムにはバレないわ」

「そう。……良かった。いえ、ありがとうかしら。でも、何でそんな嘘をついてまで私にお酒を飲ませたの?」

「先に嘘をついたのはハーマイオニーのほうでしょ。スリザリンの制服を着て1年生になりすまして。今の時期にそんな怪しげな人を見逃せって言うのは、無理がないかしら?」

 つい先日にも2人目が石化状態で発見されたばかりで、校内はいつにましても、ピリピリしている。

 どこに犯人がいるのか分からない状況で、他寮に忍び込もうとするなど、自らが継承者であり、騒動の犯人であると言っているようなものだ。

「それは……そうね」

「ちなみに、マルフォイは継承者じゃ無いわよ?」

「ああ、うん。ハリーから聞いたわ。……ああ、そんなことまで話したのね、私」

「ハーマイオニーは、お酒に気をつけた方が良いよ? 少しの量でベロンベロンだったもの」

「そうね。気をつけるわ」

「そうだ。どうせなら、少し練習する?」

 私がローブから引っ張り出した同じ小瓶を見て、ハーマイオニーは慌てて頭を振った。

 

 

 

 

 

 少しお茶でも淹れて一息つこうかと淹れた紅茶を、ハーマイオニーは丹念に香りを嗅ぎ、目をすがめて色を確かめていた。

「そんなに心配しなくても何も入っていないよ? 第一、目の前で水から沸かすところからやったでしょう?」

「……そうね。ごめんなさい。少し神経質になり過ぎたわ」

「まあ、無味無臭の真実薬なんて代物もあるからね」

 口につけようとした紅茶をビタリと止めたハーマイオニーに私はケラケラと笑った。

「入れてない、入れてない」

 

 

 

「それで、ハーマイオニーにお願いがあるの」

「お願い?」

 若干不機嫌な様子なハーマイオニーに、私はローブから取り出した暗緑色の液体が詰められた小瓶を取り出した。

「それは?」

「今のハーマイオニーの状態を治療する薬」

 ハーマイオニーの目が見開かれたのを見て、私はテーブルの上へ小瓶を置いた。

「スネイプ教授が一晩で作ってくれたの」

「スネイプ先生が?」

 途端に薬瓶を訝しむ目で見つめるハーマイオニー私はため息を吐いた。

「脅しこそすれ、こういう生徒の命がかかった所で手を抜く人じゃ無いよ? 教授は」

「そう、そうよね……」

「信用できないなら捨てても良いけど、教授レベルの魔法薬学の人って、イギリス国内で5人くらいよ? その人たちに頼むと、ガリオン金貨山積みにしても足りないし、時間もかかるよ」

「……分かった。飲むわ」

「話はまだあるの」

 薬瓶に手を伸ばそうとするハーマイオニーをかわして、私はハーマイオニーの手の届かない所へ薬瓶を移動させた。

「私が魔法薬学と薬草学を受講しなくても良いのは知ってるよね?」

「ええ。特例でスキップ制度が適用されたって」

「うん。でも制度を続けるには条件があるの」

「条件?」

「簡単に言えば、1年に1つ研究成果を出して、スネイプ教授と、スプラウト教授に認めてもらう必要があるの」

「そうだったの?」

「そうだったの。で、この研究なんだけど、コレにしようと思って」

「コレ? コレって?」

「貴方よ。ハーマイオニー」

 

 首を傾げたハーマイオニーにざっとスネイプ教授にしたとおりの説明を行うが、反応は芳しくない。

 まぁ、彼女にしてみれば自分のバカなミスの結果など早々に忘れ去りたい事だろうし、それを研究させて欲しいなどと言われても困るだろう。

「……聞いた限りだと、私にメリットは無さそうに見えるわね。それにその研究のせいで治るのが遅れるのは困るわ。授業に遅れちゃうもの。それに定期的に実験台になって欲しいってのもお断り。もし、またこんな風になって外を出歩けなくなったら大変よ」

「一応、謝礼とかは用意するけど――」

「お金の問題じゃないわ」

取り付く島もなしといった風のハーマイオニーに、私ため息をついた。

「……分かった」

「意外に素直に引き下がるのね」

 

 ハーマイオニーにしてみたら、もう少しゴネると思っていたのだろうか。まぁ、私は全く諦めていないのだから正解だが。

「ハーマイオニーは今回、ポリジュース薬を作った事で50以上の校則を破ったわ」

「……そうね」

「それらの校則の内、形骸化していてほとんど効力の無い校則が大半。よってたとえハーマイオニーがポリジュース薬を作ったと先生にバレても、さほど罰則は課されない。そうよね?」

「……ええ」

「だけど、ひとつ。致命的な違反があるの。それがバレたらほぼ退校間違いなし。ハーマイオニーならわかっているでしょう?

 ……ねぇ、ハーマイオニー。ポリジュース薬の材料、どこで調達したの?」

 ハーマイオニーは、少しだけ唇を震わせた。

「それは、……ダイアゴン横丁のカチーニラ薬屋からフクロウ通信販売便で送って――」

「ダウト。カチーニラの所のフクロウ通信販売は、一部の常連客に向けた会員制なの。そのリストに貴方の名前は無かったわ」

 

 今朝、カチーニラ薬屋に問い合わせた羊皮紙をハーマイオニーの目の前に差し出すと、ハーマイオニーの口元がわなないた。

「……そう、そうよ。ホグズミードに行った先輩に買ってきてもらったの」

「そうだったの。ホグズミード村となると、J.ピピンの薬問屋かな? うん。そこなら大半の材料も揃うね」

「そうでしょう? ごめんなさい。ちょっと勘違いしてたみたい」

「そっか、そっか。ごめんね。私こそ早とちりしてたみたいだ」

 ハーマイオニーと二人で白々しい笑いをあげた後、私は第二のナイフを振るうために口を開いた。

「それで? 毒ツルヘビの皮と、二角獣の角は何処から? J.ピピンでは扱ってないよね?」

「それは――」

「ワーミナル魔法薬店? K.T薬草店? それともホグワーツの生徒用薬品庫から? どこにも置いてないよ。この辺りで唯一取り扱ってるのは、カチーニラのフクロウ通信販売のみ。でも、ハーマイオニーはそこから買うことはできない」

 ハーマイオニーはバレた時の言い訳として、その二つを取り扱っている店を探したのだろう。そして唯一見つけたのが、ハーマイオニーでは買うことのできないカチーニラだった訳だ。

 ハーマイオニーが自分が買えない事に気づいたかは分からないが、それに縋るしかなかったのだろう。

 

「でも、まだ1つだけあるの。ホグワーツから出ることなく、フクロウ通信販売にも頼らない。それでいて、大抵の薬品が揃う場所。

 ……ハーマイオニー、貴方。スネイプ教授の薬品庫から盗ったでしょう」

 気分はマグルの間で大人気の探偵、シャーロック・ホームズだ。きっと彼も犯人を追い詰める推理中はこのような爽快な気分だったのかもしれない。

 猫のヒゲを戦慄かせ、目を白黒させて考え込んでいたハーマイオニーは小さな声で反論してきた。

「証拠は、……あるのかしら?」

「ハーマイオニーが教授の薬品庫から盗んだのは、12月8日のグリフィンドールとスリザリンの合同授業の時。

 事前に貴方は同寮のポッターとウィーズリーにゴイルの大鍋に花火を投げ込むように……いえ、何かしらの騒ぎを起こすように依頼したわ。

 そして花火が投げ込まれて教室が阿鼻叫喚に包まれた時、貴方は教室を抜け出し、教授の薬品庫へ向かった。

 鍵が掛かっている扉をアロホモーラ(開錠呪文)で開錠しようとしたが失敗。その上級呪文であるアベルト(解鍵呪文)を使用して、侵入。そして薬品庫にあった、二角獣の角と毒ツルヘビの皮を盗って、何食わぬ顔で教室へともどった。何か異論は?」

「なん、……で?」

「見てたから。気づかなかった?」

 ニマリと笑って見せればハーマイオニーは面白いように動揺した。

 実際、ゴイルの大鍋が爆発したのはダフネに聞いたことだし、花火を投げ入れたのがポッター達であるのは、完全に想像だ。

 だが、この言い方ならハーマイオニーは計画が全部バレていたと受けとるだろう。そして、私が教授に証言すれば自分が退校処分となる未来も容易に想像するだろう。

 学校の成績が1番で、他者の評価に縋るハーマイオニーにとって、退校処分は最も避けたい処分なはず。

 

 だから私は溺れる彼女に、彼女が助かる浮き輪を投げてやるのだ。(荒波に流されかねない、その浮き輪の紐を握っているのは勿論私だ)

「ハーマイオニー。私、決して貴方のことをスネイプ教授に告げ口しようと思っているわけではないの」

「え?」

「そんな事しても、誰一人幸せにならないでしょう? ハーマイオニーが友人として少し手伝ってくれれば、私は喜んで口をつぐむし、何なら口裏を合わせてもいいの。大丈夫、まだ教授は気づいていないよ」

「気づいてない? 本当に?」

 ハーマイオニーは、ぱっと顔を上げた。

「今朝、教授の元に寄ったけれど、そのような話は全く出なかったの。そして何より、最近の教授はいろんな先生たちから頼まれる調合で忙しい。

 でも時間の問題よ。これから取り掛かると言っていたマグゴナガル先生の調合は、教授の個人用薬品庫に入らなければ素材は無い。入ればすぐ素材が足りないことに気づくでしょう。

 さぁ、選んで! ハーマイオニー。貴方は私の友人かしら?」

 暗緑色の薬瓶を手に乗せて差し出せば、ハーマイオニーはビクリと肩を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 医務室の扉が大きな音立てて開いたことで、私たちは揃って首をすくめた。

 この場にマダム、ポンフリーがいれば目を吊り上げて怒り出す所だが、生憎と彼女はいない。

 カツカツと、靴音を高らかに響かせながら近づいて来るその人は、靴音からでも人名の特定が容易で、かつ不機嫌な様子がわかるほどだ。

 すぐにシャッっとベッドのカーテンが開けられると、眉間に3筋程縦皺を作ったその人が現れた。

「あ、スネイプ教授。どうしたんですか?」

「セネットか。どうしてここにいる?」

「教授に頼まれた薬をハーマイオニーに届けにきたんです」

 テーブルの上を指し示せば、そこには封が開けられ、飲み干された薬瓶が1本。教授がギョロリとその空き瓶を見つめると、フッと鼻で笑った。

「飲み干せたようで何よりだ。ハッカ草とニガヨモギの味に難儀するとは思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。次からは倍にして煎じてやろう。ああ、これらは毎食後に飲むように」

「え? 毎食?」

 ガチャリと木箱に入ったまま置かれた1ダースもの薬瓶を見てハーマイオニーの表情が青ざめた。

「1回飲まなければ、更に6度は飲むことになると思いたまえ」

 ハーマイオニーが泣きそうな目で見てくるが、コレばかりはどうにもならない。今回の教訓として甘んじて飲むしか、治る余地は無いのだ。

 

「さて。ミス、グレンジャー。一つ聞きたいことがあるが良いかね?」

「なんです、か? 先生」

 肩を震わせたハーマイオニーは、そろりと教授を見上げ、腕を組んだ教授が、苛立たしいとも言わんばかりにハーマイオニーを睨みつける。並みの人間ならすぐに逃げ出したくなるような光景だ。

「貴様の症状を分析した所、ほぼ間違いなくポリジュース薬に動物の毛が混じったものを飲んだことが原因であるという結果が出た。しかし、貴様はどこで飲んだか分からないとマダムには言ったそうだな」

「はい」

「ポリジュース薬は即効性の薬品だ。摂取してから数秒と待たずに効果が発現する。それなのにどこで飲んだのか分からないと?」

「……前後の記憶があやふやで、よく覚えてない、です」

「ほう? まぁ良い。それならばよく考えれば思い出す事もあるやも知れん。

 さて、グレンジャー。こっちが本題だ。先日、吾輩の保管庫からある薬品が盗まれた。心当たりはないか?」

「あ、ありません」

「はい! 教授、盗まれた薬品とは何ですか?」

 手を上げて質問すれば、教授の目がコチラを向いた。

「二角獣の角と毒ツルヘビの皮だ。これらはポリジュース薬に使用する薬品であるが、どちらも希少性ゆえに入手はしづらい。

 よってグレンジャーにポリジュース薬を飲ませた犯人が吾輩の保管庫から盗んでいったと考えるのが妥当だ。最もそのような犯人が本当にいるのであればだが。

……グレンジャー、本当に心当たりは無いか?」

「……ないです」

「グレンジャー、吾輩の目を見て――」

「教授ー。ハーマイオニーは被害者で、病人なんですよ? 聞き取り調査なら治ってからでも良くないですか?

 それに、まだ大量に調合しないといけない薬品が残ってるんですよね? 私も手伝いますからさっさと終わらせて今年はゆっくりした新年にしましょ」

 そう言って、突っ立ったままの教授の腰を扉へと向かって押せば、教授は渋々と言った様子で歩き出した。

「ちっ。グレンジャー、犯人が貴様だと判明した暁には、減点罰則の上、怖気の止まらなくなる薬を飲ませてやろう」

「教授、最後のそれはちょっとどうなんです? サド疑惑が確証にかわりますよ?」

 ぐいぐいと教授を私ごと扉の外へ押し出し、扉を閉める直前に振り返れば、ハーマイオニーがぐすりと鼻を啜るのが見えた。

 どうやらかなりこたえたらしい。

 

 バタンと扉を閉めれば、医務室の中の音は完全に聞こえない。そして、それはこちらからの音も同じだ。

「教授、ちょっと怖がらせすぎなんじゃ無いですか?」

「ふん。少しはいい薬になっただろう。吾輩の保管庫にあるのは調合手順を一手間違えたら死ぬような調合用の素材ばかりだ。これに味をしめて2度3度と入られたのでは、たまったものではない」

 先ほどまでのブリザードの吹き荒れるような不機嫌さはどこへやら。

 すっかりいつも通りの不機嫌さに戻った教授は、スタスタ歩き出した。

「セネット、貴様の方はうまく約束を取り付けられたのか?」

「勿論。研究に協力するって言質と署名も貰いました。

 あー、良かった。これで進められそう。

 教授もありがとうございます。いいタイミングで入ってきましたね。聞き耳立ててました?」

 教授は、首をすくめた。

「まさか。偶然だ」

「そですか。あ、ハーマイオニーが盗ってった素材分に関しては近々、実家の方から教授宛に送りますね」

「ああ。頼む」

 全てはハーマイオニーに研究の手伝いとして入ってもらうために今朝、私とスネイプ教授とで仕組んだ事だ。

 結構上手くいったなと、ニマニマと笑いながら寮へ続く階段を登ろうとすると、「何処へ行く?」とスネイプ教授の声が引き止めた。

「へ? 寮へ戻って、昨日届いたお菓子でも食べようかなって」

「何を言っている。調合を手伝ってくれるのだろう?」

「あー、あれは言葉のあやと言うか、何というか……」

「ふん。夕食までで良い。一度口に出したのだ。手伝いたまえ」

 返事も聞かずに、ローブを翻して地下牢へと歩いていくスネイプ教授の後を、私はため息ひとつついて追いかけた。

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