ハリー・ポッターと、セネット家のご令嬢   作:宇佐美ミズク

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6.実験三昧の日々

「バレンタインカード?」

「そう。ロックハート先生が、バレンタインの日にはキューピッドでカードを配達するって言っていたじゃない。イリスは興味ないの?」

 すっかり猫化現象が治ったハーマイオニーがここ最近、浮かれ気味なのは、このイベントのためだったのか。

 

 今も使い終わった試験管を魔法で水洗いの上、天日干ししてもらっているが、心なしか試験管が物理的に踊っている。

 私としてはこのとっ散らかった研究室がどんどん片付くのはいい事だ。もう直ぐ手が空きそうなハーマイオニーには、ついでに掃除もしてもらおう。

「ハーマイオニーは、……ロックハートに送るのは間違いないとして。あの2人には送るの?」

「2人って、ハリーとロンのこと? ええ。もちろん送るわよ。友達としてね」

「あ、そう」

 

 哀れ、振られた二人には誰かからカードが届くことを祈っておこう。

 ああ、ポッターの方は良くも悪くも有名人だ。もしかしたら例のあの人から熱烈な愛を込めた(殺してやる)カードが届くかも知れない。

 

 

 

 私は観察が終了したラットをケージに戻すと、試験管を箱ごとシンクへと運んだ。

「ハーマイオニー。こっちの試験管もお願い。中身には手で触れないように気をつけて洗ってね」

「……これで今日6箱目よ? こんなに大量の試験管なんて、一体何してるの? それに、これなんか半分も使ってないじゃない」

 

 魔法で、スイッと試験管を浮かせて水桶に突っ込んだハーマイオニーに私はニコリと笑った。

「実験よ、実験。見ちゃダメよ?」

 世の中、知らない方が幸せなことだってたくさんあるのだ。

 ポリジュース薬の効果で、羊とも鼠ともつかない(検閲、修正済)姿になったラット達が入ったケージを、私はハーマイオニーから見えないように足で押しやった。

 

 

 

「秘密の部屋の方は、何か進展はあったの?」

 実験は試験管が乾くまでストップ。

 この所ご機嫌斜めで中々顔を見せない冬の太陽次第だが、後1時間もすれば乾くだろう。窓際に並んだ大量の試験管を眺めつつ、ストレッチ。背と肩を伸ばせば、ポキポキと音が鳴った。

 

 淹れたてのコーヒーを掃除中のハーマイオニーに手渡すついでに気になっていた事を尋ねれば、ハーマイオニーはゆるゆると首を振った。

「正直手詰まりよ。図書室にあったホグワーツ関連の歴史書は『ホグワーツの歴史』以外はだいたい読み終えたのだけど、秘密の部屋のことが書かれた本は無かったし、スリザリンの怪物に関しても、それっぽい魔法生物が見当たらないの。ねぇ、イリスは何か知らないの? ――あ、コーヒーありがと」

 

『ホグワーツの歴史』は、未だ借り待ちの人数が二桁から減らないらしい。なかなか順番が回ってこないと今日もハーマイオニーが嘆いていた。

「この前話した通りよ。昔開いた事があって、その時に女生徒が一人死んだ。……そのくらいしか知らない。でも、スリザリンの怪物なら蛇じゃないの? 寮のシンボルも蛇だし」

「そう思って蛇の魔法動物も調べては居るんだけれどね。相手を石化させるような蛇が見つからないの」

「石化……石化ねぇ」

 

 石化で蛇と言えば、メドゥーサがすぐに思いつくが、アレはどちらかと言うと人間の姿をベースとした怪物の一部に蛇がいるキメラだ。

 伝承では宝石のように輝く目と無数の蛇の髪、青銅の手、黄金の翼を持つそうだが、不死身では無い。

 つまり、前回の秘密の部屋が開かれてから50年、メドゥーサが未だ秘密の部屋の中で生きていたとは考えにくい。

 そもそも50年の絶食に耐えうる生物などいないだろう。

 となると答えは自ずと絞られる。

 

「生徒、もしくは教師が怪物を騙ってるって説はどう?」

「騙る? どう言う事?」

「ほら。人を石にする呪文あるじゃない? ペトロ……、ペトリ……いいや。アレを使って人を襲って石化させて、それをスリザリンの怪物に見せかけてるって噂」

「ペトリフィカス・トタルス〜石になれ、ね。うーん、だけどそんな事をする意味があるかしら?」

 

「今年のホグワーツには目立ちたがり屋がいるでしょう?」

「フレッドとジョージの事?」

「ああ。そっちも居たね。だけど教師の方よ」

 (きっとマルフォイに言わせれば、ポッターも目立ちたがり屋だ)

「教師……。ロックハート先生の事? でも彼は――」

「――そんな事するとは思えない? それは私もそう思う」

 まぁ、恐らくハーマイオニーと私で思っているコトは違うのだろうが。

 

「だけど、彼を妄信している生徒なら? ”あの”ロックハート”先生”がホグワーツに来ているのなら、彼がここを舞台とした新たな伝説を見たい。そう思わない?

 

 狼男と打ち解け、吸血鬼をも倒した彼よ。

 次に彼が対峙するのは、もっとインパクトがあって強大な敵でなければならないわ。

 

 ドラゴン? 水魔? いいえ、ホグワーツの歴史を辿ればもっと良い怪物がいるわ。それは50年前、ホグワーツを恐怖に陥れたスリザリンの怪物と、それを操る継承者。

 怪物は実際に居なくても良いわ。いると思わせるだけで、周囲に恐怖を陥れて、大きな謎ができるもの。

 継承者は騙れば良いわ。そもそも千年前のサラザール・スリザリンの血筋の行方なんて誰も分からないもの。

 

 何故、継承者は怪物を再度作り出したのか?

 50年前の真実とは?

 いったい継承者は誰なのか?

 

 彼が謎を解き明かし、”現代に再び現れた継承者”と対峙する。

 そうしたら、派手な戦闘になるでしょう。狼男なんて目じゃないわ。彼と相対するのは魔法使いだもの。

 吸血鬼なんて話にならないわ。曝け出している弱点なんて無いもの。

 

 傷を負い、重傷を負いつつも彼は何度となく立ち上がり、やがては継承者を倒すの。

 

 そして後年、彼の自著にはこの事件の事が書かれるわ。

 それを多くの人が読むのでしょう。

 多くの人が彼の新たな伝説を知るのでしょう。

 

 そんな伝説の一役を担えるとするのなら、……敵役なんていいと思わない?」

 ねぇ、ハーマイオニー(妄信者さん)

 

 

「ちょっと、近いわよ」

「あぅ」

 ベチっと額を叩かれた私は、ハーマイオニーにキスするほど近づけていた顔をのけ反らせた。

 

「大体、その説には無理があるわ。そもそもペトリフィカス・トタルスは硬直呪文で、呪文に掛かると棒立ちしているみたいな姿になるの。決して相手をそのままの姿で石にする呪文じゃ無いし、ゴーストには効かない。

 効果も数ヶ月続くほど、強力な呪文じゃ無いの。

 

 そして怪物は恐らく本当にいるわ。確証は無いからまだ2人には話していないけれど、ハリーだけが事件の直前に何者かのおどろおどろしい声を聞いているの。私とロンには聞こえなかったけど『殺してやる、殺してやる』って言っていたらしいわ。あと、『腹が減った』とも。

 

 ハリーはパーセルタング。私とロンは違う。それなら蛇の怪物が事件の直前に近くに居たのは間違いないわ。

 

 もちろん、聞こえてきた声自体がハリーの嘘って説もあるけど、私、フィルチの猫が石にされた時に微かに聞こえたの。何かを引き摺るような音。

 だから蛇の怪物は本当に居たのよ。

 

 でも、ハリーは蛇を操る事は出来るけどロックハート先生の妄信者じゃない。

 ロンと私はそもそもパーセルタングじゃ無いから蛇を操る事はできない。

 だから、その説は無理よ」

「……ざーんねん。いいと思ったんだけどな。ハーマイオニー犯人説」

 

 ここまで理論整然と反論されては言い返す余地もない。

 元々、今パッと思いついただけの穴だらけの想像だ。学年一秀才のハーマイオニーがその辺りを考えていない訳はなかった。

 

「そもそも私はロックハート先生の事は好き(Like)だけれど、妄信なんかしてないの。だからあり得ないわ」

「え?」

「え?」

 ……まぁ、そういう事にしておこう。

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