ハリー・ポッターと、セネット家のご令嬢   作:宇佐美ミズク

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9.幕間 ウィーズリーズ

 フレッドと共にグリフィンドールの談話室に悪戯の仕掛けを終えた俺、ジョージ・ウィーズリーは大広間へ急いでいた。

 何せ悪戯っていうのは事前にバレてしまっては面白さも半減だ。

 

 今年のホグワーツは活気が無い。

 いつもなら夜遅くまで騒ぐ談話室でも、みんな早々に寝てしまう。

 この間のクィディッチでスリザリンに勝利した時もそうだ。いつもならマクゴナガル先生に怒鳴り込まれるまで騒ぐのに、パーティー開始からたった1時間で参加人数は半減。マクゴナガル先生がやってきた時には5人しか残っていなかった。

 

 原因は明白。スリザリンの継承者だ。

 グリフィンドールでは、寮付きのゴースト含めて3人。

 レイブンクローとハッフルパフで2人。

 次は誰が狙われるのか、みんなビクビクしている。

 

 だから仕掛けた。みんなが腹の底から笑えるように。

 みんなが苦しい時を忘れて楽しめるように。

 

「急げよジョージ! パーシーが大広間に戻ってくるまで後1分だ」

「ああ!」

 目立たないように大広間の扉を小さく開けてグリフィンドールのテーブルに滑り込むと、隣で俺たちの妹であるジニーがムッとした表情になった。

「兄さん達、何かしてたでしょ」

 さすが我が妹だ。悪戯を仕掛けた事に気づいたか?

 

「おっとジニー。何かとは何だ?」

「悪戯でしょ。この前みたいに談話室に花を大量に咲かせたり、風船を飛ばすのはやめてよね。恥ずかしいわ」

 口ではそう言っていても、あの時俺たちはジニーが友達と楽しそうに笑っていたのを見ている。

 この所、元気のなかったジニーが喜んだのなら悪戯の甲斐があるってもんだ。

「ちっちっち、俺達が一度やったような悪戯で満足すると思ったのか? 今回はなんと――」

「おおっと兄弟。そこまでだ。ネタの分かった悪戯は、タネの分かった手品のように面白くない」

「だな。兄弟。ジニー、談話室に入ってのお楽しみだ」

 

 ウインクを飛ばした俺を、ジニーは呆れたように笑った後、小さくあっ、と声を漏らした。

「ほう。フレッド、ジョージ。今回は何をしでかしたんだ?」

 背後から響く兄の絶対零度の声に、俺達は勢いよく振り返った。

「やぁ、パーシー。遅かったな。お腹すいたろ? ほら、スコッチエッグだ。うまいぜ!」

「こっちにはブラックプディングもあるぜ!」

 

 すかさずフレッドがパーシーの口にスコッチエッグを放り込み、その口を閉じさせる。

「お前ら、……やめ、……やめない、か!」

 モゴモゴと咀嚼しつつ文句を垂れるパーシーにすかさず、ソーセージを突っ込む。

 遂にはゴホゴホと咳き込み始めたパーシーは、俺のオレンジジュースを横取りするとゴクリと飲んだ。

 

「……お前ら、食べ物で遊ぶんじゃない」

「ああ、悪かったぜ。パーシー。ほら、こっちに座れ。パーシーが好きなトマトもあるぞ」

「僕はトマトが好きなわけじゃ無い!」

 このままいけばパーシーの怒りの矛先は有耶無耶にできそうだ。

 内心で二マリと笑みを浮かべ、ジニーに余計な事を言わないようにアイコンタクトを送ると、ジニーは呆れつつも頷いてくれた。

 

 

 

 

 バンッと大広間の扉が勢いよく開くと、その音の大きさに広間にいた全員の手と声が止まった。

「何だ?」「さぁ?」「誰だ? あれ。スリザリンか?」

 一瞬の静寂の後、ざわざわとしはじめたテーブルの間を縫って扉を開けた少女が走る。

 ローブの色からしてスリザリンだ。

 

 青ざめた顔に焦りを浮かべた表情。

 すぐによく無いことが起こったのだと分かった。

 

 

 少女は教員卓に座るスネイプの元へ向かうと、金切り声をあげた。

「先生! イリスが、イリスが! 部屋の中で倒れてて!」

「落ち着きなさい」

「側に、側にカップが割れて、早く来てください。イリス、きっと毒を飲まされたんだわ!」

「毒だと?」

 不思議と普段は通らないスネイプの低い声もよく聞こえた。

 みんなが声を潜めて聞き耳を立てているからだろう。

「イリスが、死んじゃう! ……継承者に! 殺されちゃう!」

 一瞬、時が止まったかのような静寂の後、大広間に小波が広がるかのように話が飛び交った。

 

 

 誰かが言った。

「毒殺? 石化されたんじゃ無いのか?」

 

 誰かが喚いた。

 「イリスって、あの貴族のセネットだろう? 貴族ならスリザリンの純血か?」

 

 誰かが呻いた。

「純血が襲われたのか? 継承者に!」

 

 誰かが悲鳴のような声を上げた。

「毒殺って、ここの食事は大丈夫なの?」

 

 

 

 われ先にと、大広間の出口に殺到する人の群れ。

 所構わず吐き戻そうとする人。

 

 そんな中、カチャンと何かが落ちたと隣を見れば、ジニーが酷く青い顔をしているのが分かった。

「ジニー! ジニー! 大丈夫か?」

「ウソ、ウソよ。アタシ、ソンナコト……」

「何だって? ジニー」

 周囲の騒音に掻き消されて、ジニーが何を言っているのかわからない。

 だが、先ほどまで握っていたカラトリーを取り落とし、酷く怯える様子は尋常じゃない。

「おい! パーシー! ジニーの様子がおかしい。医務室に連れて行くぞ!」

「なにっ! 分かった! おい、すまない。そこを通してくれ。僕は監督生だ!」

 

 

 

 

 夜中、ジニーと共にグリフィンドールの談話室に戻ってきた俺達は、パーシーに外出禁止になったと聞かされた。

 

 パーシーがマクゴナガル先生に聞いた話によると、イリスとやらはスネイプの治療により一命を取り留めたらしかったが、そこまでしか話してくれなかったそうだ。

 大事をとって暫くは授業も休止。寮からの外出も全面禁止だそうだ。

 

 

 

 

「なあ、兄弟。継承者が毒殺を試みたってのがホントだと思うか?」

 ベッドの中、フレッドが真剣な顔でコチラを向いていた。

 

「俺は違うと思う。今まで、猫だろうと怪物を使って石化させてた継承者だぜ? 今更、毒とか使うか?」

「たまたま怪物が近くにいなかっただけかもしれないぜ」

「だとしてもだ。継承者は思想によって動いている。唯の愉快犯でも狂った快楽犯でもない。

 ならばどんなに優位に立とうが窮地に陥ろうがまずは怪物を使うはずだ。使えないのなら、時と場所を待つくらいはすると思うんだよ」

 

「じゃあ今回の事件はどう説明つけるんだ?」

「そこだ。俺は犯人が2人いると考えてる」

「2人。……今回の毒殺事件と、それ以外の石化事件で2人か?」

「ああ。そうだ。毒殺の方は、継承者の名前を騙りたかったんじゃないか? 自分の罪を継承者になすりつけるために」

 

 ……ありうる。のかも知れない。

 フレッドの言う通り、今回の事件とこれまでの事件で毛色が違いすぎるのは確かだ。

 犯人が2人いるとしたら、その違いも納得もできる。

「……だが、毒と石化じゃ犯行方法が違いすぎる。なすりつけるって言うのは無理がないか?」

「そうでもない。今回の件、グリフィンドールの奴ら何人かに聞いてみたが、全員が継承者がやったって考えてる。

 何故か。それは、大広間でそう叫んだ奴がいるからだ」

 

「……あのスリザリンの女か。だが彼女はまだ1年か2年くらいの背丈だったぞ? 流石に毒殺できるほどの毒を調合するなんて無理がないか?」

「ああ。俺もそう思う。だから思うにあの子は、スケープゴートだ。俺と同じように犯人は別人だと気づいた奴から目を逸らすための生け贄だ」

「なるほどな。犯人は彼女と一緒にセネットを目撃した人物。もしくは、彼女に大広間の先生達に伝えるように指示した人物。そいつが言葉巧みに誘導したのか。犯人は継承者だと」

「ああ、そうだ。そして、それを理解した継承者が取る行動は一つだ。自分に濡れ衣を掛けようとした人物など見せしめに殺してやる。と思うだろう」

 

「……ヤバイな」

「ああ、ヤバイ」

 数日後には石化した死体、もしくは石化した上で砕かれた死体が廊下に転がっているかも知れない。その光景を想像して俺は身震いした。

 

「だが、これはチャンスだ」

「チャンス?」

「次に狙う人物が分かっているなら、そいつの周りを警戒しておけば、そいつを殺しに現れる継承者も捕まえられるって事だ」

「……冴えてるな。兄弟。うまくいけばこの一連の事件も解決できる」

 

「ああ、そうなりゃ元の楽しい学校だ。ジニーは今年入学したばかりだってのに、クィディッチも途中で中止。クリスマスパーティだって去年に比べたらまるで葬式。バレンタインだってクソロックハートのせいで大恥だ。

 だからかあいつ、最近は元気がねぇ。俺たちで何とかしてやらないと」

 

 俺たち2人、考えてる事は同じか。

 布団を跳ね除けると俺達はぎゅっと握手した。

「さて、何処から手をつける? 兄弟!」

「そうだな。まずは毒殺されかかったイリスとやらに近づいて、主犯を探るところからだ! 兄弟!」

「了解だ!」

 深夜のグリフィンドールの寝室に、ハイタッチの音が静かに響いた。

 

 

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