期待に応えるような内容になっているか不安ですが、それでもよければどうぞ。
戦いの幕は、唐突に切って落とされた。
瀞霊廷内に突如として吹き上がる、霊子の火柱の群れ。
見えざる帝国の皇帝・ユーハバッハの判断により、当初の宣戦布告で告げられた日数より早く尸魂界への侵攻が開始。
十数名の選ばれた滅却師、星十字騎士団の手により護廷十三隊は僅か数分で千名以上の甚大な被害を出すこととなった。
死神たちの予想を超える方法で侵入を果たした騎士たちは、各々が隊長格に勝るとも劣らぬ実力で彼らを追い詰める。
各地で戦いが激化する一方。
新人とはいえ星十字騎士団の一人としてこの戦いに参加することになった青年、ベレニケはーー
「よォ、滅却師」
ーー人生最悪の出会いを果たしていた。
太陽の門を潜り、瀞霊廷内に侵入した後。
ベレニケの周囲には人一人としていなかった。
先に廷内への侵入を果たした諸先輩方が早々に各地で暴れ回っているお陰か、隊士たちは皆そちらに回ったらしい。
予想を裏切るあまりにも呆気ない展開に、気が緩んでいた。
情報にあったような隊長・副隊長は見受けられず、これなら厳しい戦いをせずに済むと安堵。
それから数分廷内を巡りーーーー
ーーーー怪物が姿を現した。
その男について、ベレニケは事前に得た情報から覚えがあった。
右眼の眼帯。顔の左側を縦に走る傷。野獣のような凶悪な人相。不吉な笑み。
護廷十三隊十一番隊隊長、十一代目「剣八」。
「特記戦力・更木剣八・・・・・・!?」
死神たちの戦力の中でも特に注意するべき5人の敵。
それぞれが何かしら未知数の力を有し、特に目の前の男はその「戦闘力」でユーハバッハに危険視されるほど。
つまり生粋の化物。
(誰か! 誰か助けてーーーー!!?)
間違っても自分のような者が正面からぶつかって勝てる相手ではない。何故自分がと思うも、こうなってはやるしかない。
滅却師十字から、剣を召喚し臨戦態勢を整える。やや反りのある刀身をもつ、これといって特徴のない霊子兵装。
怪物退治には心許ない得物だが、無いよりマシに思う他ない。
「安心したぜ」
「・・・・・・何にですかね?」
「テメェが出したその剣にだよ」
「・・・・・・?」
何故敵が剣を持てば安心するのか。出した剣が想像より粗末なものであったからなのか。
怪物の道理は、人でしかない青年には理解が及ばない。
「滅却師ってのは弓しか使わねぇみたいな話を聞いてたんだが、テメェは剣を持ってやがる。だから安心しただけだ」
「剣を持ってる滅却師なら問題なく勝てると?」
「バカが。勝つだ負けるだなんざハナから考えちゃいねぇよ。オレはただーーーー」
「ここいらでそろそろ、まともな斬り合いがしてぇってだけだ」
「!」
「ここに来るまでにテメェの仲間を二人斬った」
鋒に付着した血を払いながら、剣八は自分が斬った敵について語り出す。
「最初は声だけで敵を吹っ飛ばす大猿に変身するやつだったんだが、こいつはカスだった。飛びかかって来やがったからつい真っ二つにしちまってな、斬り合いも何もあったもんじゃねぇ」
彼が告げた特徴から、殺されたのは星十字騎士団 “R“ 「咆哮」 ジェローム・ギズバットだと分かった。
「次のやつは悪くなかった。なんせオレに化けたからな、そこそこ楽しめたんだが最初のやつの所為で耳がキンキンしててよ。途中でそれにムカついてきて、つい力が入った。お陰でこっちもすぐに終わっちまった」
その次の犠牲者は星十字騎士団 “Y“ 「貴方自身」 ロイド・ロイド。
剣八の語り具合からして恐らく相手の力をコピーするという“L“の方だろう。
二人とも共にベレニケより早期に騎士となった先達であり、ものの数分で始末されるような相手ではなかったはず。しかし現実に、彼らはこの怪物の牙にかかり屠られた。こちらの常識が通用しない。
「要はテメェには少し期待してるってことだ。剣を出したってことは、ちったぁやれるってこったろ?」
「特記戦力であるあなたに期待されるなんて、光栄ですね・・・・・・」
思ってもいないことを口に出す。気分は最悪だ。
「でも期待してるとこ悪いんですけどーー」
柄を強く握る。
「ーーこれ弓矢に近いんですよねっ!!」
かざした剣の鋒に、霊子を集束。
コンマ5秒とかからず形成され放たれた青白い矢は、狙い誤らず剣八に向かう。
命中、衝撃、轟音。
それと同時に巻き上がる砂埃が視界を遮る。
「オレの神聖滅矢、こんなに強かったっけ・・・・・・?」
ベレニケは自分が放った一撃が、以前のものより強力になっていることに驚愕した。
滅却師は基本的に周囲の霊子を利用して戦闘に利用する。
たった今放った神聖滅矢も然り。周囲から集めた霊子を霊子兵装に束ね、矢の形に整えて放つ。
つまり使用者の腕だけでなく、環境の霊子濃度等によってもその力の強度は左右される。
矢の威力が増したのはここが尸魂界であるからか。
はたまた先日与えられたばかりで碌に詳細を把握しきれていない能力のおかげか。
或いはまた別のーー
「つまんねぇ真似はよせよ、滅却師」
「!!?」
巻き上がった土煙が無くなり、晴れた視界に映ったのは無傷で立つ敵の姿。
一撃で倒せるとは思っていなかったが、しかしあれだけの速度、あれだけの威力の矢を、半ば不意打ちで受けてダメージ無しとはどういうことか。
否、そもそも受けてなどいなかった。
見れば矢の先端に近い部分を左手で掴んで止めている。
これが特記戦力の一角。
「バケモノめ・・・・・・!」
冷や汗が落ちる。
あの威力の一撃を素手で止めるとはどういうことだ。こんな闘争の権化のような化け物を相手にどうすれば生き残れるというのか。
「言ったろうが。オレはテメェとーーーー」
音を立てて、霊子の矢が握り潰される。
「斬り合いに来たってなぁっ!!」
「づっっっ!?」
一瞬で距離を詰めた剣八は、そのまま右手で握る刀を振り落とす。
大気を裂きながら振るわれた一撃を、ベレニケはかろうじて反応し剣で受け止めた。
だがーーーー
(重いっ・・・・・・!!)
踏み締めた地面に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
受け止めたことで出血は免れたものの、衝撃までは殺せない。
ギチギチと音を立てて鍔迫り合うも、その均衡はすぐにでも崩れるほど脆い。
剣八が片手で行う攻撃に対し、ベレニケはそれを両の手で受け止めるのが精一杯。
これほど勝ち目を感じられない戦いは、彼の経験の中にはない。
不意に、剣八の左手が動く。
すわ喉を狙われるかと思ったベレニケだが、剣八が掴んだのは彼の右腕。
そのまま腕力に任せて強引に防御を引き剥がし、無防備になった相手の胴を斬らんと斬撃を繰り出すがーーーー
「・・・・・・?」
それは左腕に阻まれた。
一撃を予想外の硬度に防がれて一瞬動きが止まった隙に、ベレニケは再び距離をとる。
(あ、あぶねーーーー!!)
滅却師の基本戦術の一つ・血装。
霊子を自分の血管に流し、攻撃と防御のいずれかの力を上昇させる。前者を動血装、後者を静血装と称する。
斬られる前に左腕で静血装を起動していなければ、即死していたかもしれない。考えるだけで恐ろしい。
「硬くなんのか」
斬撃を防がれた剣八は、何故か口元を歪ませて嗤った。
何故そうも心底嬉しそうにしているのか、ベレニケには皆目見当もつかない。戦いを嫌う彼とは対極に、目の前の男は生来の戦闘狂だからであるからか。
「けどもう慣れた。前にも硬ぇ奴とはやり合ったからよ」
感触を確かめるように二、三度刀を振り、次は斬るぜ、と刀を向ける剣八。
慣れたってなんだ、と思いつつ、ベレニケはどうすればこの男に一撃喰らわせることが出来るかを考える。
不意打ちの類は効かない。小手先の技もおそらく同様。
遠距離から一方的に矢を撃ち続けるという手も、あの怪物はすぐに対応してくる気がする。
ならば正面からしかないが、如何な手を使えばいいのか。
カウンターを狙うしかない。
幸いというか、今の攻防で分かったことは二つ。
一つは自分の滅却師としての能力が上がっているのは、聖文字によるものであること。
これは先程血装を発動させた時に能力の使用を自覚できた。授かった聖文字はどうやら無駄にならずに済んだようだ。
二つ目は、今の己の静血装ならばあの更木剣八の攻撃を受け止めることが可能であるということ。
特に二つ目が肝心だ。
まず相手の攻撃を静血装を展開した左腕で受け止め、右手に持つ剣で攻撃。
仮に斬撃を防がれても、霊子兵装である剣から至近距離で全力の神聖滅矢を撃ち込む。贅沢を言えば攻撃の際に動血装を発動させたいが、静血装と並列で使用できない以上、守りを優先せざるを得ない。
これしかないだろう。
剣を握り直し、小さく息を吐く。
今度はこちらが仕掛ける番だ。
地を蹴り、放たれた矢の如く敵に接近。
ベレニケの攻撃を察した剣八が刀を振りかぶる。
(来たーーーー!)
敵の斬撃の軌道上に、左腕を置こうとしーーーー
ーーーー自分の腕ごと首を落とされる光景が視えた。
(ーーーーーー!!?!??)
ぶわりと身体中から脂汗が噴き出す。
咄嗟に腕を引き、両手で構えた剣で斬撃を受け止める。
先刻のものよりさらに激しい衝撃がベレニケを襲うも、かろうじて踏みとどまった。
(なんだ、今の。幻覚? いや・・・・・・)
あれは未来だ。
もしもあのまま左腕で受け止めていればそうなったという、もしもの未来。
何故そんなものが鮮明に視えたのかは分からない。生物としての本能が鳴らした警鐘なのか。
いずれにしろ、静血装が通じないような相手にこのまま近距離でやり合っては不味い。何か別の策を講じなければと考え出した瞬間。
胴体側面に、衝撃。
あまりの衝撃故に声を出す間も無く体が勢いよく吹き飛び、二度三度と地面をバウンド。十数メートルほど体を地に引き摺られたあたりでようやく止まった。
体を横に倒し、そこで初めて自分が蹴られたことに気づいた。
握っていた剣が、遠くで落ちる音。
「うっ・・・・・・げほっ、がふっ・・・・・・」
体内から迫り上がった血が止まらず、口から溢れ出る。
骨がイった。内臓にもダメージが入っただろう。
呼吸が浅くなってきた。立ち上がる余力もない。
死ぬ。
たった一撃受けただけでこの有様。流石は特記戦力というべきか、いや単純に更木剣八という男が規格外過ぎたのか。
勝ち目がない。対峙した時から解っていた。自分程度では相手にならないと。
だが戦うしかなかった。
勝つしか生き残る道がなかったのだ。負けても死ぬ、逃げても殺される。
何よりここでこの化け物を味方の滅却師たちの元へ行かせては、例え星十字騎士団といえど甚大な被害を出すのではないか。
死ぬ。
そうなれば彼女は、あの先輩はどうなる?
苦もなく倒してくれるかもしれない。親衛隊が出てきてくれるかもしれない。しかし、そうならなかったら?
死ぬ。
自分も、自分以外の誰かも。それは、嫌だ。
あぁ。
全く、これだからーーーー
ーーーー争いは嫌いなんだ。
「あらら、ありゃあ致命的だな」
瀞霊廷へと乗り込んだ星十字騎士団の一人、アスキン・ナックルヴァールは廷内を一望できる塔の上に腰掛け、自身の後輩である男の戦いの一部始終を観戦していた。
護廷十三隊の隊士を十数名ほど倒し、「まぁ最低限の仕事はしただろ」と判断した彼は、休憩にちょうど良さそうな塔を見つけるとその頂上で持参のカフェオレを飲んで一息つくことに。
そうして寛ぎながらしばらく各地の戦況を眺めていると、つい先程知ったばかりの顔を見つけた。
対するは特記戦力の一・更木剣八。
うへぇ致命的だな可哀想に、とアスキンは彼の運の無さに哀れみを覚えた。
あの陛下をして危険だと判断された要注意人物たち、それが特記戦力と呼ばれる5人の死神。
そんな奴らを相手にするのは自分だって御免だ。ましてそれを相手にするのがつい先日騎士に選ばれた者とあっては、勝敗は火を見るより明らか。
案の定というか、予想通り終始更木剣八が圧倒している。
決着は時間の問題だろう。
助けに行く気は起こらなかった。
勝てるかどうかも怪しいヤツと戦う気はないし、知り合って数時間と経ってないヤツの為に命を賭けるつもりもない。勝てる相手にそれとなく勝つのがベスト、要らないリスクは冒さないのが自分だと理解している。
他の騎士たちも他人の獲物を横取りするのは云々と、自分には理解が及ばない理由で介入しないだろう。
騎士団では珍しく一般人に近い感性の持ち主で、話が合いそうな相手ではあった。
亡くすには惜しいが、だからと言って自分の命とは比べられない。仕方がないことだ。己の不運を呪ってもらう他ない。
敵の蹴りが彼の胴体にクリーンヒット。吹き飛ばされ、動かなくなった。無理もない。あんな一撃、自分が受けても只では済まないだろう。
とどめを刺される瞬間を見る気にはなれなかったので、十字を切った後、視線を別の戦場に移そうとした瞬間。
爆発的に膨れ上がる霊圧。
「ーーーー!!?」
視線を戻せば、急激に膨張した霊圧による大気の圧力のようなものがこちらまで伝わる。
そしてその中心に立つ、異様な雰囲気の後輩の姿。
「おいおいおいおい。なんだ、ありゃあ・・・・・・?」
アスキンの注意は、否が応でも再びその戦いに引きつけられることになる。
時同じくして。
星十字騎士団 "E" バンビエッタ・バスターバインは、護廷十三隊七番隊隊長である狛村左陣とその部下たちと交戦していた。
とはいえ開戦から幾ばくか時間が経ち、敵である彼等はもはや殆ど全滅。隊長を残すのみと思われた。
その隊長も切り札である卍解を奪われ、万事休すといったところ。七番隊の敗北は既に決定したものと思われていた。
バンビエッタは諦めの悪い犬面(本当に犬?)の隊長を相手にすることに段々と飽きを感じはじめる。さっさと片付けて次に向かおうと、己の能力で周囲一辺を吹き飛ばそうとしてーーーー
ーーーー急激な霊圧の上昇を感じた。
「!?」
一瞬敵のものかと思ったが、違う。これは、滅却師の霊圧だ。
だが、覚えがない。
「・・・・・・なによ、これ。誰の霊圧・・・・・・?」
距離があってなおハッキリと大きく感じる程に巨大な霊圧。騎士団のいずれかが滅却師完聖体にでもなったのか。だとすれば、敵に追い詰められたことになる。
そのことに情けないとは思うが、それ以上にその霊圧の巨きさに戦慄を覚えた。いくら滅却師の最終形態とはいえ、この霊圧の上昇率は異常だ。
何が起きているかは分からないが、あの霊圧が放たれている場所で何かが起きていることだけは明白。確かめるには、この場にいる虫の息同然の敵残存戦力を潰さなくてはならない。
ーーーーそういえば、アイツどうなったんだろ。
ふと、自分に舐めた口をきく昔馴染みの鬱陶しい男を思い出す。
何の間違いか、先日自らと同じ騎士になったアイツ。一応この侵攻のメンバーに選ばれた、聖文字を与えられるも自分の能力すら把握していない半端者。いや、能力は分かったのだったか。
その件を出撃前にはぐらかされたことを思い出すと、少し腹が立つ。
死んでいなければ今度こそ聞き出してやろうと、バンビエッタは意識を戦闘に戻した。
(終いか)
更木剣八は十数メートル先で倒れる滅却師の姿を視界に入れ、ため息をつく。
始めは期待していたが、蓋を開ければなんのことはない。手応えのない敵だった。
己の一撃を防いだまではよかったが、そこまで。そこから蹴りを入れると直ぐにダメになった。
自分の雑な霊圧感知でもわかる瀕死の状態。風前の灯同然の敵に、剣八は興味を失くした。
とどめを刺さずとも息絶える。そんなものをわざわざ相手になどしない。
「チッ」
斬り合いどころか、互いに斬らず斬られず仕舞い。
もっと楽しめると期待していた。だが終わってみれば実に退屈で、つまらない戦いだった。これなら自分の真似をした先の滅却師の方が余程マシというもの。
地に臥した敵への関心を捨て、剣八は次の敵を探すべく踵を返す。
次に見える者が、己の目に適う強者であることを期待してーーーー
ーーーー背後で何かが蠢いた。
敵だ。
先程まで敵だった、斃れたはずの敵。動かなくなり、己の興味が失せた敵。
それが立ち上がっていた。
急激に上昇した霊圧がそう見せるのか、ソレの周囲に青白く輝く光が見える。
異変はそれだけではなかった。
辺りの床が、壁がひび割れ、そこから分解された霊子が斃れたはずの滅却師の元へ集う。強制的に徴収された霊子は黒い外套となり、滅却師を包み込む。
踵を返し直す。
先程とは比にならぬ程、敵への興味が湧く。尽きぬほどに。
笑みが溢れる。更木剣八の機嫌は、ここにきて最高潮を迎えた。
「なんだ」
予感がするーーーー
「やりゃあ出来んじゃねぇか・・・・・・!!」
ーーーー愉しい殺し合いが、始まる予感が。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
簡単に勝っても面白くない。ここからが本番。
そういう訳で長くなったので分割しました。ゴメンネ。次は剣ちゃん目線で続きですかね。
一応言っておくと最後のやつは完聖体とは少し違います。多分ね。私も後先考えずに足した設定なので。許して。