忙しくて間隔が空いた上に少し短めになってしまいました・・・・・・ユルシテ
一つの戦いの幕が降りたことを、その時瀞霊廷にいた多くの者が知った。
ある者は信じられないと驚愕を、ある者は強大な霊圧同士の衝突の消失に安堵を、ある者はその動揺を悟られぬようにと沈黙を。
誰も彼もが、その結末を無視出来なかった。死神も、滅却師も。
「一角…………」
「分かってる…………!」
その戦いの結末を誰よりも重く受け止めたのは、護廷十三隊戦闘部隊の男たちだった。
負けるはずがない彼らの頭目の霊圧が、感じられない。その事実が彼らに与える影響は、決して小さくなかった。
「ま、斑目三席…………」「更木隊長は…………」「これ、もう…………」「そんな……」
波打つ水面の波紋のように、隊全体に伝う不安。
ただでさえ瀞霊廷が危機的状況にある中での凶報。まさかの人物の敗退。戦意を失くし始めた十三隊随一の戦闘部隊は────
「狼狽えてんじゃねぇぞ、テメェらぁ!!!」
『『『!!』』』
────まだ折れない。
「あの人がこんなとこでくたばる筈ねぇだろ! テメェら忘れたのか!? 今まで誰の下でやってきたのか…………」
十一番隊三席である斑目一角は知っている。
自分達の上に立つあの男は、生まれながらの「剣八」であると。
「更木剣八だ!! 戦いじゃぜってぇ死なねぇ、最強の死神だぞ! そんな人が死ぬとこなんざ、想像できんのか!?」
檄を飛ばす。それは、彼自身に言い聞かせているようでもあった。
一瞬でもあの人の
『死んで初めて負けを認めろ』
「忘れたならもっぺん頭に刻んどけ。テメェらは護廷最強の更木隊で、テメェらの隊長は────」
護廷十三隊最強の戦闘部隊隊長。最強の死神の名をもつ男。
その名が意味するのは────
「────何度斬られようが、絶対に立ち上がるってな」
「何なのよ、いきなり出たと思ったらまた消えたし…………」
時同じくして。
星十字騎士団の一人、バンビエッタもその戦いの決着を感じていた。
先に突如発生した巨大な霊圧に呼応するように、それと対峙するもう一つの霊圧も上昇。
両者の幾度かの衝突の後、天に向かう霊子の柱が出現。それを合図とするように二つの霊圧は急速に小さくなっていった。
自分だけでなく敵である犬面の隊長もそれを感じ取ったらしく、苦々しげな表情を浮かべている。
面白くない。
大きな力同士のぶつかり合いが終わったことに内心ほっとしたという事実が。自分より強いかもしれない存在が急に湧いて出たことが。
何より滅却師側と思われる者の霊圧が、よりによってアイツと似ていることが。
「そんな訳ないでしょ…………!」
所詮聖兵に毛が生えた程度のヤツが、こんな霊圧を放てるはずがない。
滅却師としてずっと自分の下にいたヤツが、自分を超えるなんてあり得ない。
何かの間違い、自分の勘違いだ。
あの霊圧の正体が、あんな奴のはずがない。
まぐれとはいえ星十字騎士団の一員にまでなったくせに、アイツは何も変わらない。見えざる帝国の滅却師のくせに、本当は戦うのが怖いことは知っている。
自分だって別に戦うのが好きなわけではない。ただ死にたくなくて、だから戦って敵を殺す。それだけで、そこに疑問が介在する余地はない。
でもアイツは違う。
戦うしかないと分かっているくせに、それでもそれが嫌だと仕方なく剣をとる割り切れない半端者。殺されたくもないが殺したくもない臆病者。
死にたくないなら、殺すしかないと理解しているくせに。彼のそういうところが、バンビエッタは昔から嫌いだった。
滅却師として、ずっと自分の方が優秀だった。そしてそれは今も変わらない。変わらない筈なのだ。
才能もない奴に、自分が追い越されるはずがない。だからあれはアイツではない。
そう、だから。
だからあれはやはり、何かの間違いに違いないのだ。
「ムカつく…………!」
間違いなどない。
これからも、そんな間違いは起こらないと信じていた。
雨が降る。
「哀しいな、ハッシュヴァルト」
「と、仰いますと?」
見えざる帝国の指導者であり、滅却師による瀞霊廷への侵攻を始めた張本人であるユーハバッハは、銀の円盤を手に呟いた。業火を封じた五芒星が刻まれたその小さな円盤を、哀れな目で視る。
「千年前。我らの同胞を悉く焼き殺し、あれだけ手を焼いた力も今やこの様だ」
「……………………」
皇帝の側に控えるハッシュヴァルトは、主君の言葉に何も返さなかった。
敵である死神の頭目。宿敵であり仇敵である山本元柳斎重國を屠った彼は、今何を思うのか。少なくとも感傷ではないだろう。
皇帝の背後に控える配下は、ただ静かに見つめている。
「山本重國は死んだ。奴の卍解はこの掌の中。そして奴が護ろうとしたこの瀞霊廷も、今日終わる」
円盤をしまい、眼下にできた底の見えない穴を見下ろす滅却師の王は語る。
最早、彼を止める者は居ない。その術も無い。このまま滅却師たちは侵攻を進め、死神を打ち倒し、遅くない内に勝利を収めるだろう。尤も、現時点で勝敗は既に決しているようなものではあるが。
「陛下、この後は────」
どうするのかと、皇帝補佐役が問おうとするより僅かに早く。
遠くにある巨大な霊圧反応が二つ、急激に小さくなっていく。その片方には覚えがあった。つい先日騎士に任命されたばかりの男のものだ。
これは────
「…………陛下。ベレニケ・ガブリエリと更木剣八の戦いですが」
「あぁ、終わったようだな」
「では…………」
「
「畏まりました」
雨水を滴らせながら、ハッシュヴァルトは主君からの命令を受諾し小さく頷いた。
己の主人の背を、その碧い目で捉えたまま。
ユーハバッハは、つい先刻見えた罪人との会話を思い出していた。
『面白いものを飼っているようだ』
自身が示した特記戦力の一人、藍染惣右介はあれをそう評した。
真央地下大監獄最下層:無間にて。自ら彼の勧誘に出向きその誘いを断られたタイミングで、あれの霊圧が地下からでも感じ取れる程大きくなった。
対するは更木剣八。未知数の戦闘力を持つ特記戦力の一人を相手に、追い込まれたといったところだろう。
面白いと、不敵な笑みを浮かべ終始余裕を保っていたあの男は口にした。
藍染惣右介があれについて何処まで気づいたかは不明だが、問題はない。気づいたところで、こちらの手を取らなかったあの男に何が出来る訳でもなし。
「残る星十字騎士団各員に通達を出せ。死神どもを一人残らず────」
祖王は命を下す。
常から平和を好むと。争いは好まないと宣言するその口で。
「────殲滅せよ」
侵撃は未だ止まらない。雨もまた止まない。
尸魂界を覆う曇天を切り裂くように飛来する一振りの黒刀が、彼らの前に現れるまでは。
気配が一つ一つ、ぽつりぽつりと消えていく。
命の灯火が、その明るさを失くしていく。
「死ぬなっ…………!」
黒崎一護は、それを確かに感じとっていた。
虚圏にて見えざる帝国の襲撃を受けた破面たちを救出するべく、彼と仲間たちは滅却師キルゲ・オピーらと交戦。
一護は卍解の力で彼を圧倒し、協力者である浦原喜助の助力により黒腔を通り尸魂界に向かおうとした。だが、キルゲが最後の力で発動させた聖文字の能力「監獄」により、黒腔内で閉じ込められる事態に。
尸魂界への出口を封鎖され、自分も檻の中。外と連絡も取れなくなってしまった。
自身の卍解による攻撃でも破壊不可能な程に強固な檻の中で、何故か通信機から一方的に聞こえてくる悲鳴と消えていく霊圧を感じながら必死の抵抗を繰り返す。
しかし何度刃を振るおうと、傷一つつく様子がない。そうしている間にも、感じ取れる気配が減り、弱々しくなっていく。
「皆死ぬなっ!!」
消えていく。小さくなっていく。
見知った者の存在も、そうでない者の存在も。強者も、弱者も。一つ、また一つと。
「ルキア…………恋次…………!」
己の世界を変えた彼女が。鎬を削りあった戦友が。
「白哉…………剣八…………!!」
かつて自分の全てを懸けて戦った猛者たちまでもが。護廷の主力である彼らさえもが。
消えていく。小さくなっていく。
戦いで死ぬところも、負けるところも想像出来ない彼らであっても。
自分の手の届かない所で、溢れ落ちようとしている。
「皆死なせねぇ…………!!」
死なせない。
死神も、瀞霊廷も、尸魂界も、全部。
「俺がっ! 護るんだよっっ!!」
己の大事なものを護る為に、彼はまたしても己の全てを懸けて戦う。
自身のことは、何も知らぬまま。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
クリスマスプレゼントに文才が貰えないかな・・・・・・それかBLEACH原作千年血戦篇全巻とか。