【カオ転三次】HFOがんばる   作:えくり屋

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仕事が午前中だけだったのでなんとか書けた…





HFO レベル0

 

 但野先史(ただのさきふみ)は転生者である。

 転生者ではあるが凡人である。

 運動は多少得意であったが大会に出たり部活のエースになれる程でもなく、前世で特別秀でた知識や技術を習得していたわけでもない。

 

 小中学生の頃は前世の知識で周りよりも多少優秀ではあったものの、高校に入る頃にはすっかり周囲に埋没する程度の平凡さであった。

 前世と多少違うところはあるものの、ほぼ変わらぬ今の生での日本では一般人の前世知識など特にアドバンテージにはならなかった。

 容姿もごく普通、と言いたいところだが多少劣っていた。

 

 健康状態などはごく普通だったのだが肉が付きづらく頬は痩け気味、肋骨も浮き気味で学生時代のあだ名はゾンビもしくはそのひょろ長くキモい様から某芸人(田中)と呼ばれていた。

 容姿ネタで多少いじられることはあっても幸いいじめられることはなかった。

 

 まあ学校で特に仲のいい親友ができることも無ければ彼女もいなかったが、ふとしたときに見つけた自分と同じ前世を持つ者たちが集まる掲示板の住人たちとの交流は楽しかったし、オフで趣味の交流をすることもありそこそこ充実した灰色の学生時代を過ごし、普通の大学を出て、何故か前世の死因となった(過労死させられた)企業に就職した。

 

 前世と同じ業種なら前世より上手くやれるだろうと考えて適当に選んだだけで、ぶっちゃけ入社して社長の顔見るまで同じ会社であることを忘れてた。

 

 社会人になった但野はバリバリ働いた。

 なにせ前世で死ぬ(過労死する)まで働いた会社だ。

 仕事の勝手はわかっているし手の抜きどころも理解している。

 今度は上手くやれる。

 そのはずだった。

 

 入社から3年、前世よりも10年ほど早く死にかけて(過労死寸前になって)いた。

 

 前世の経験を活かして働いた結果、手を抜く余裕など与えぬと言わんばかりに無限に仕事を積まれていった。

 

 入社前の思惑はどこへやら、生来の生真面目な性格が災いし、任された仕事を断れぬまま熟していたら、前世よりも早く身体に限界が来た。

 

 目眩、頭痛、動悸、不眠、食欲不振等等、前世で死ぬ前の症状を自覚したとき、仕事を辞めることを決意した。

 

 前世は縁を切る程度の毒親ではあったが、今生の両親には多くの愛情を注がれ大切に育ててもらった恩がある。

 親孝行する前に過労死などしたくはない。

 あとこの容姿だが今生では彼女が欲しい。

 仕事から帰ってきたらデロデロに甘やかしてくれるおっぱいはそこそこだが形が整っている長身で美人の彼女が欲しい。

 

 彼女のアテはないが幸い次の就職先にはアテがある。

 転生者掲示板でガイアグループ系列企業に来ないかと誘われていた。

 

 何なら最初の覚醒オフ会にも参加する予定だったが休日出勤をねじ込まれて有給も取り消されて参加できなかったのだ。

 

 掲示板で常々言われている終末の到来を見越すならば、両親の穏やかな老後のためにも覚醒してシェルターの権利を得るのは絶対に必要なことだ。

 

 前世は35で過労死したが、今生は25で気づき人生の方向を変える選択ができた。

 これは大きな進歩であった。

 

 

 

 

 そして仕事を辞め勤怠表その他諸々を労基に叩きつけて、無事会社都合扱いで失業手当給付を得た但野は星霊神社を訪れていた。

 

 「うっわ…今にも死にそうな顔してるけど大丈夫?

 修行で何度も死を体験することにはなるとは思うけど流石に修行始める前に死ぬのはオススメしないよ?

 一応修行する前に体調整えよう?」

 

 初対面のショタおじに滅茶苦茶心配された。

 

 神社の宿舎で出される滋味溢れる霊能薬膳料理や、霊泉で身体を癒やし、規則正しい生活と瞑想に、精神医学に長けた女性幹部(やけにエロい女)によるカウンセリングでメンタルを癒やすことに1週間ほど費やした。

 

 早朝に境内を歩いてたら幽鬼と勘違いされて《ハマ》を連打されたときはちょっと泣いた。

 

 漸く修行(ベリーハードモード)が始まった。

 

 前世と今生のブラック勤務のせいで苦痛系や苦行系は耐性があって効果が薄いことが判明して(ちょっとヒかれて)からは即座に修行のタイプが戦闘系(経験がないやつ)に切り替わった。

 

 

 

 

 目覚めたのは廃墟の牢屋の中だった。

 それ自体に驚きはない。

 

 既に両手足の指では全然足りない回数、ここで目覚めている。

 

 腰蓑1枚で。

 

 あの醜く肥え太った悪魔に叩き潰された回数は有に300を超えるだろう。

 

 だがただ叩き潰されて来たわけではない。

 最初の方こそ悪魔の威容に圧倒されビビってしまい何もできずに悪魔の持つ鉄塊に圧殺された。

 

 死亡回数が20を超えた辺りから不格好ながらも初撃を回避できるようになってきた。

 

 50を超える頃には逃げ回って動きを観察する余裕が出てきた。

 

 100を超えたらある程度悪魔の動きが読めてきて、石を投げたり殴りつけたりと反撃をし始めた。

 

 そこからはただ只管、動きを予想し攻撃を回避し、隙を見つけては殴りつけるのを繰り返し続けた。

 

 死ぬのは自分の集中力が足りないからだ。

 集中力が途切れれば攻撃を食らって死ぬ。

 だから集中を切らさず、攻撃を避け続け、常に必殺の意志を以て五体の全てを使って殴り続けるのを頑張り続ける。

 

 今度こそあの悪魔を殴り続けて殺す。

 ただそれだけを想い頑張り続けてきた。

 

 牢を抜け中庭を抜け建物の大扉を開ける。

 毎回のことだがこの無駄にデカい扉を開けるのに結構な体力を使わされるのが地味に腹立つ。

 

 建物の中に入り部屋の中央に進むと上から悪魔が飛び降りてくる。

 最初の頃はここで死んでいた。

 即座に初撃を避けると膝の裏に一発入れる。

 一撃程度じゃ痛痒を感じないが数十発叩き込めば堪えることはこれまでの経験で証明済みだ。

 鉄塊の攻撃に巻き込まれぬよう、常に背後に回り込むように立ち回る。

 だが背後を取っていれば安全というわけではない。

 正面や側面にいるよりは比較的安全というだけだ。

 その慢心を突かれ何度も飛び上がりから圧し潰されているのだ。

 避ける殴る避ける避ける殴る避ける殴る避ける避ける避ける殴る転がる走る走る避ける殴る避ける走る避ける殴る転がる避ける殴る………………

 

 何度繰り返しただろうか、これまでで最も長く闘ってるということだけはわかる。

 いつだ、いつ終わるのだ。

 心が折れそうだ……。

 

 だがここで折れるわけにはいかぬのだ。

 人に誇れるような物は何も持ち得ていないが、それでもここで折れては、この闘い続けて来た時間が全てを無駄になる。

 そう思った。

 

 

 そして遂に悪魔の膝が折れた。

 

 百発で駄目なら千発叩き込めというドラゴン・ゲンドーソー=サンの言うことは正しかったのだ。

 

 度重なる足への攻撃で巨体を支えられなくなった悪魔は膝を付き地に伏した。

 

 それを見た但野は迷いなく最後の体力を使って走り出し、全身全霊の拳を悪魔の眼球へと叩き込んだ。

 

 

 

 

 悪魔の巨体がマグネタイトへと還元され消えていく。

 それとともに、体力を使い果たしたはず但野の身体に力が漲ってくる。

 

 まるで生まれ変わったかのように身体が軽くなり、疲労で鈍っていた頭が澄み渡っていく。

 これが覚醒かと、その効果を実感するとともに、勝利の実感と、永く戦い続けた宿敵と別れに一抹の寂しさが湧いて……

 「いややっぱ湧いてこねえわアイツには憎しみしかねえわ」

 

 大きな達成感とちょっぴりの憎しみを胸に、奥の扉を開いて但野先史は覚醒を果たして現実へと帰還した。

 

 悪魔が遺したクソデカ鉄塊(デーモンの大槌)はシンプルクソ重かったのでその場に置いてきた。

 

 

 

 

 「普通に倒すとは思わなかった。」

 

 ショタおじの言葉に但野は何言ってんだコイツという視線を返した。

 

 「いや、ボス部屋の角に扉あったでしょ?

 想定ではそこ抜けて武器回収して並み居る亡者(ゾンビ)相手に戦闘経験積みながら最終的にボス悪魔を討伐することで、段階的に覚醒(レベルアップ)してもらう想定だったんだけど。」

 

 「扉には気づいてたけど、そっち行くと困難から逃げ出したみたいな解釈されて覚醒できないかなって……。

 覚醒諦めた人用のルートかなと思ってた。」

 

 「あー、そういう解釈もあるかー…

 でもまあ覚醒は出来たみたいだし、覚醒したてにしては強めの内包MAGを感じるしかなり強いんじゃないかなっと。

 どれどれ……?」

 

 そう言うとショタおじは《霊視》で但野の魂を読み取り始める。

 

 「んー?基礎能力(ステータス)は初期レベルにしてはかなり高いけど、スキルがない…?」

 

 この報告は但野にとってはショックだった。

 転生者として生まれた男児なら一度は魔法やスキルで無双することを夢見るものだ。

 その夢をいきなり打ち砕かれたのだ。

 

 「救いはないんですか!?」

 思わずショタおじに縋りついた

 

 「初期スキル無しは偶にいるから安心していいよ。

 大抵はちょっとレベル上げれば何かしら覚えるから。

 それにステータスも覚醒したてにしては結構高いから低レベル向けの異界ならスキル無しでも油断しなければゴリ押せると思うよ?」

 

 希望はあった。

 ショタおじ程の人が言うのだ、間違いないだろう。

 自分はその言葉を信じて油断せずしっかりレベルを上げればいいのだ。

 思わず土下座感謝の意を示した。

 

 ちょっとヒかれた。

 

 

 

 

 ショタおじとの覚醒後面談が終った但野は未来への希望が満ち溢れていた。

 これまでの人生で浮かべたことがないレベルの満面の笑顔はシンプルにキモかったし夕暮れ時というのもあって走るタイプの亡者(ゾンビ)と勘違いされて《ハマ》を撃たれたが気にならなかった。

 

 そのままのテンションで式神申請窓口へと駆け込む。

 

 「お嫁さんの申請に来ました!!!」

 

 余りのキモさに受付の人がちょっと悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 掲示板で式神の情報を見ていたときは式神は戦闘用のパートナーであり嫁式神自慢も所謂嫁ポケ自慢的なものだろうという認識だった。

 

 しかし神社に来て実際の式神見て衝撃を受けた。

 人間と何ら変わらぬ容姿に反応、そして甲斐甲斐しく主を世話をする様を見せられたからだ。

 俺の嫁とは正しく俺の嫁であったのだ。

 

 自分の容姿のキモさは自分が一番理解している。

 今後の人生で自分にアプローチを掛けてくる女性がいたとしたらそれは詐欺のたぐいであろうと断言できるくらいの亡者フェイスだ。

 

 そんな自分に降って湧いた希望、嫁式神。

 ずっと独り身でいるであろう自分を心配する両親もこれで安心させることができるのだ。

 

 だから但野はありったけの希望を詰め込んだ仕様書を出した。

 《料理》《家事》《会話》《食事》《性行為》などの汎用スキルを詰め込み、戦闘用リソースを片っ端から削った仕様申請を割と全力で受付の人に考え直すように言われたが走り出したパッションは止められなかった。

 

 結果、戦闘能力皆無だがお嫁さんとしての能力と性癖を詰め込んだ但野先史専用の式神が誕生した。

 




但野先史
 後のスキル無しニキにしてHFOニキ。
 このときはLv40近くなってもスキル覚えないとは知らず希望に満ち溢れている。
 度重なるブラック勤めによりストレス耐性や苦痛耐性がおかしなことになっている。
 地道な努力を苦にしない性分なのも合わさって、挑戦できる限り挑戦し続ける変な生き物になった。
 他の一般的な覚醒したて転生者が力耐技速知魔精運ALL5なのに対してこいつは生命集中持久体力筋力技量理力神秘血質記憶力幸運がALL10みたいな感じ。
しかもレベル上がるたびに全ステ上がる。
なんかシステムが違う。

嫁式神ちゃん
金髪セミロング長身スレンダー美乳な人形みたいに綺麗なお嫁さん。
性癖とお嫁さん機能を詰め込まれた結果、主を守るという式神としての本分を若干喪失している
後々レベルが上がると食べるだけでバフがかかる美味しい料理作れるようになったり消費アイテム生産スキルを覚えて間接的に戦闘補助出来るようにはなる予定。



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