それから、実に4時間あまり。エイジは、ミカヅキに導かれるままGBNディメンションの地下エリアをさまようこととなった。
東エリア駅から西エリア駅に至るモノレール・トンネルには、ガンダムSEED動物園行きのトンネルの他にもうひとつ廃トンネルが存在していた。
東エリアの手前に位置するトンネルだ。
名前の通り勾配上にあり、こちらはガンダムSEED博物館行きトンネルと違って照明もついていない。言われなければ運転士でも気づくまいと思える隠微さで、すでに作業員用通路も取り壊され、その跡地はトンネル整備用資材の仮置き場になっている。
地上の出口はいまだに残っているそうだが、エリア11を根城にしていたエイジですら知るものではなかった。閉鎖されたのは前の前のバージョンの昔だそうだから、無理らしからぬことではあるが。
東エリアの電車が緊急停止したため、一時的に電車の流れが途絶えたトンネルを半キロも駆け抜けた<ジム>、<モビルドール・ミカヅキ>の2機はその東エリア行き駅の跡地で足を止めた。
トンネルの通路から1歩だけ引っ込んだところで、〝対策室〟の追手が潜んでいてもおかしくない場所だったが、彼らは行く手の東エリア通路脇のみを固め、トンネルに踏み込んでくるつもりはないらしい。
出口から先から漏れ聞こえるサイレンの音、航空機の轟音が踏み込めない理由だろう。警備部が動いている中では、彼らも無茶な捕り物はできない――ミカヅキの言葉を思い出し、撒き餌にされた我が身の行き先に目の前が真っ暗になったエイジは、睨む目を据えつつ、レバーを前に押して、ミカヅキのモビルドールの背中を追った。
モノレールの跡地を歩き、信号灯の脇からから左方向に進むと、<モビルドール・ミカヅキ>のデュアル・アイのフラッシュライト機能を点けてかつての構内を照らした。ライトの光輪が闇の中を泳ぎまわり、「西エリア」と右書きで記された案内板を一瞬だけ浮かびあがらせた。
<モビルドール・ミカヅキ>を倣ってモビルスーツ分の高さを走り、センサーとレーダーを駆使してモビルドールの方まで歩み寄る。わずかに漏れるライトの光が点滅し、夢中でそちらに近づいた直後、何かが倒れる大きな音が構内に響き渡った。同時にライトの光が小さくなり、しんと冷えきった空気を<ジム>のセンサーが感知し、どこからともなく流れ込んでくる。
エイジはわずかな光を追ってコクピットのペダルを動かし、<モビルドール・ミカヅキ>の背中を見つけたところで息を呑んだ。
木製の支柱が等間隔に設置されているものの、基本は土肌を塗り固めたものに過ぎず、剥き出しの地面には半ば土に埋もれた線路が見て取れる。モノレール2台が走れる大きさではない。いわゆる各駅電車しか走れないような小振りな線路だ。
それが線路に沿ってどこまでも続き、ライトの光が届かないさらに先に闇に呑まれている。まるで古い電車の坑道――天井の側壁に電線が走り、ところどころ裸電球がぶら下がっている様子など、映画か何かで見た線路のそれにそっくりだ。
GBNの、それもエリア11の地下に、なんだってこんなものがあるのか。
<モビルドール・ミカヅキ>の方を振り向こうとした途端、再び何かを動かす大きな音が発して、エイジは思わず<ジム>を下がらせた。<モビルドール・ミカヅキ>が隠し戸を閉めた音だとわかったのは、促されるまま坑道を歩き始めてからのことだった。
このバージョンになる前、地下トンネルは運営に接収され、西エリア駅には運営専用の優等客車が搬入、固定された。
運営部の臨時事務所として機能させるためだ。換気など考慮していない地下トンネルのこと、その居住性は著しく悪く、実際にはほとんど使われなかったそうだが、前々バージョン末期、大物マスダイバーとの決戦の4文字を目前にしていたGBNには、その場しのぎに終わらぬ壮大な構想があった。
疎開した各部門を地下トンネルで結び、敵軍の攻撃に耐え得る地下ネットワークを構築というものだ。エリア内各地の防空壕に設置した臨時事務所をトンネルで繋ぎ、防衛部門の参謀本部やGBNセンター、と網の目をディメンションの地下に建設。人の物資の輸送に用いる他、緊急脱出経路に使用する計画が大真面目に検討され、1部が実行に移された。
このトンネルもそのうちのひとつで、建設途上で終戦を迎えたため完成はしていないものの、数キロにわたって掘り抜かれた坑道が都心部に至っている。同様の坑道はディメンションの地下に複数存在するが、それらの計画資料は終戦時にまとめて廃棄された、〝対策室〟ですら正確な位置を把握していない。
大戦後、地下鉄や下水道の工事でたまさか発見されたものが、断片的な記録となって関係部門に眠るのみで、場合によっては建設フォースが見て見ぬ振りで封印、施工主との合意のもと、なんらかの方法で塞いでそれっきりという事もあったという。
余計な報告をして工事が中断する羽目になったら、損害を被るのは自分たちだからだ。
公共施設の埋設位置、モノレールの路線状況は把握していても、例えば地下トンネルの換気管の経路となると、詳細情報は都でも管理していない――なにかの雑誌で、そんな記事を読んだ記事を読んだ覚えがある。
それらの情報は施工フォースの所管であり、彼らにしても施工やメンテナンスは業者任せだから、完全な埋設図面は持っていないことがままある。そのため、GBNセンターのような大型公共ビルのような大型公共施設を建設する際には、都の資料を当たるだけでは事は済まない。水道関連はあそこ、地下道関連はあそこと、施工担当が探偵よろしく見つけていかねばならないのだ、と。
縦割りの行政の弊害というだけではない、根底に断絶した歴史を敷くネットワークならではの不実がそこにある。
とめどもない悪意の記憶などすっかりなくしたような顔をしていながら、実は何もかもができあがっているゲーム、GBN。
マスダイバー戦争のどさくさに為された隠蔽、曖昧な約束事が現在にも隠然たる影響を及ぼし、GBNの地下に戦争の遺産を留め続けている。遠い昔に発せられた声、〝探ってはならぬ〟と命じた先達の声に従って。わからないことはわからないままに留めよという論理、職域以外は関知せずのセクショナリズムを唯一の正義にして。
『A金貨』にしても、そういうことなのかもしれない。
ミカヅキの説明にふとした感触を抱きながら、エイジは黙々と<ジム>を暗い坑道を歩かせた。
誰も知らない地下経路の存在を、ミカヅキをなぜ知り得たのか。トンネルを抜けたあとはどうするのか。聞きたいことは山ほどあるはずなのに、なぜ問う気にならない。
センサー機器から表示されている坑道の空気はどうしようもないほど薄く、生身では歩くだけで息切れしかねないが、それが沈黙の理由というわけではなかった。
バージョンを重ねている間、この地下に閉じ込められていた空気――歴史と呼ぶには生々しすぎる空気が全身に絡みつき、口を重たくしている。
お前は誰だ、本当にELダイバーか?
日本人なら教えてくれ、勝敗はどうなった? 振動になって漏れ伝わる下水の音、地下鉄の騒音に亡霊たちの声が入り混じり、心身に重くのしかかってくる。
運営は勝ったのか?
マスダイバーは駆逐されたのか?
俺たちが守ろうとしたのは、守れたのか……?
答える言葉はなかった。
大戦は終わった。
GBNは生き延びた。
地上には、世界でも有数のVRオンラインの行き届いたゲームがある。幾度も行われた大戦でサーバーの1部を抉り取られても、未だトップレベルの経済力だって維持されている。
でもあんた達が守ろうとしていた物が守れたかどうかはわからない。確かに言えることは、GBNは終戦とともに何かを受け入れ、マスダイバーは何かを失った。そして、今ではもう何かを失ったのかわからないほど、人もGBNも変わってしまった。
悪しきことだと断定はできない。
その判断材料すら、俺たちには与えられていない。
あんたたちこそ教えてくれ。
このトンネルを抜けた先になにがあるのか。今日という日を境に、それまでの人生が覆る予感――黒須が死んだ夜に感じたのと同じ予感が、錯覚に過ぎないのかどうか。25面をぶら下げたケチな詐欺師に、ここより先に進む力が残されているのかどうか……。
2キロも歩いたところで、最初の坑道は途切れた。前面を塞ぐコンクリートの壁の下、モビルスーツ1機がどうにか通れる縦穴を降下して出た先は、エリア11西のトンネルだった。
バージョンアップ時に開通した南エリア線は、ショッピング・エリア行き駅からバイタル・エリア向け駅に至る路線が坑道の経路と重なっており、開通の際に坑道は失われたのだという。
現存する分岐路に入るには、しばらくこの地下鉄トンネルを進むしかなく、ミカヅキとエイジは再び線路の上を歩くことになった。
現役で使われている鉄路であるから、好きに進めるものではない。モノレールを回避できるスペースは限られているし、近頃はトンネル内にも監視カメラが設置してあるので、それらを避けて歩く必要がある。2分と置かずに往来するモノレールをやり過ごし、流れが途絶えた隙を狙って次の退避スペースへ。
止まっては走り、走る。
待避スペースに滑り込んで、ショッピング・エリア駅の手前にたどり着くのに小1時間もかかっただろうか。
留置線の引き込み口の奥、排水ポンプの縦穴から降下し、再び坑道に入ったものの、300メートルと進まないうちにまたしても行き止まり。今度は地下鉄モノレールトンネルを歩き、ショッピングエリア駅の手前まで走っては止まりを繰り返す羽目になった。
その後も東モノレール線、GBNセンター線の地下鉄トンネルを渡り歩き、4時間あまりは瞬く間に過ぎた。
最初の頃はいちいち場所を聞き出し、移動経路の把握に努めていたエイジも、3本目の地下モノレールトンネルを目の当たりにするに至って考える気力をなくした。もはやどこをどう歩いているのかもわからず、機械的に地下モノレールを避け、下水管の脇を通り、ところどころ柱が腐れ落ちた坑道を前進する。
酸素がめぐりきらない頭が朦朧となり、夢かうつつかの境目も怪しくなってきた頃、遠くで水の流れる音が<ジム>のセンサーの向こうに聞こえ始めた。
排水ドレーンの音は地下鉄トンネルで嫌というほど聞いたが、これはそうではない。もっと太い水流の音が、ドブ臭い空気と共に前方から近づいてくる。ほどなく坑道が途切れ、下水道とも水路ともつかない水の流れが目前に現れて、エイジは地上が近いことを確信した。
幅2メートルほどの黒い水の帯を横目にしつつ、モビルスーツの背丈しかない排水路をたどって2分と少し。防護柵に泥が吹きたまった水路の終点にたどり着くと、ミカヅキは梯子を昇って天井のマンホールを持ち上げ、四方がコンクリートで塗り固められた小部屋にエイジを誘った。
モビルスーツ用の昇降機だ。
その最初に<モビルスーツ・ミカヅキ>が乗る。
誘われるままに最初に<ジム>が乗る。
5分も立たずに昇降機が上昇を始め、エイジは我知らず深呼吸していた。
昇降機のドアが開く。
川辺特有の湿った空気が、悪臭と埃で汚れきった<ジム>の装甲を撫でてゆく。陽はとうに落ち、外は地下と大差ない闇の中にあるようだったが関係なかった。エイジはレバーを前に倒し、倒れこむような戸口をくぐり、久方ぶりの闇に機体をさらした。
ひどく開けた印象のある周囲を見渡す。板石張りの地面は数メートル先で断ち切れ、川を挟んだ向こう……。
そう、川だ。対岸まで少なくとも100メートルは下らない、大きな川だった。
向こう岸には窓に明かりを灯したマンションが立ち並んでいるが、ゆったりとたゆたう川面以外に動くのは見えない。右手遠方に川を横断する橋があり、休みなく往来する車の光が窺えたものの、気配も喧噪も感じられない彼岸の灯でしかなかった。見渡す範囲に人の姿はなく、板石張りの歩道が川に沿ってどこまでも続いている。
背後を振り返ると、垂直に切り立った堤防がやはりどこまでも続き、今くぐった昇降機はその一画、堤防の外側に設けられたものだと判じられた。
かつては生活排水の垂れ流していた掘割、今は廃水路と化した排水路の整備ドアだろう。見上げれば高速道路の高架が屋根のごとく天を覆い、行き来する車の音が風の音と一緒くたになって聞こえてくる。対岸に建ち並ぶマンションはどれも無個性で、場所を特定する役には立たないが、左手ににょっきりと頭をのぞかせる日本GBNタワーだけは特別だった。このタワーをこの場所で望めて、首都高の高架沿いにある川――。
そう、観賞用の川だ。
それも高架がこちら岸にあるからして、中央エリア以南。おそらく下層ダイバーの町のあたりだろう。
公園からどの程度の距離があるかわからないが、直線距離にしたって5キロは下るまい。陽も暮れるはずだと思い、エイジはあらためて対岸の街の灯を見渡した。
昨日も今日も変わらない、見慣れたエリア11の夜景だが、今は何故だか幻のように見える。
いや、古くからのバージョンに掘り抜かれた坑道をたどり、過去の亡霊と対話した数時間の方が幻で、ようやく正気に戻ったということか?
どちらにせよ、繋げて捉えるには異質すぎる光景には違いなく、エイジは今一度、背後を振り返った。ドアはすでに閉じられ、遊歩道の景観の一部になっていて、向こう側に広がる地下世界の存在を想像させてはくれなかった。
ここから川を下ってゆけば、遊覧船でも30分とかからずに港湾エリアに出られる。あの地下坑道がGBNセンターにも繋がっているなら、ここは非常時に海へと脱出する避難経路だったのかもしれない。考えるともなしに考え、よれよれになった背広のポケットに手を突っ込んだエイジは、目当てのものを見つけられずに舌打ちした。
街灯もまばらな遊歩道に自動販売機の類はなく、背後にいる<モビルドール・ミカヅキ>に視線を移して、右肩をつかむ。ガンダムシリーズによくある接触通信だ。「タバコ、持ってる……わけないよな」と尋ねると、ミカヅキはちらとだけ合わせた視線をすぐに逸らし、無言で首を横に振った。
「じゃ、そこらで買ってきてくれよ。それと飲み物も。コーヒー……いや、ポカリがいいな」」
その場で<ジム>を片膝で座らせ、コクピットハッチをあける。
財布から1000円札を取り出して、身を乗り出した途端にどさりと疲れがのしかかり、体の節々が思い出したように痛み始めた。ミカヅキはコクピットハッチを開ける気配ひとつ見せず、
「あと少しでセーフハウスに着く。それまでは――」
「少しで、どんくらい」
「小一時間」
「無理!」
<ジム>の胸部ハッチに思いきり寄りかかり、両手両足を投げ出す。我ながら大人げないと思ったが、どうにもならなかった。ミカヅキは自機の頭を小刻みに動かし、疲労の欠片も窺わせない頭部をこちらにむけた。
「無駄に歩き回って、痕跡を残したくない。こんな時に、子供みたいな真似はやめてくれ」
「こんだけ歩いたんだ。もう包囲の外に出てるよ。ちょっとコンビニで買ってくるくらい、なんでもねぇだろ?」
「あなたは〝対策室〟を知らないんだ。ここはまだ――」
「あぁ、知らねぇよ。知るわきゃねぇだろ! だからちっとは頭を整理したいんだよ。ほれ、釣りはやるから、タバコ! それから飲み物!」
1000円札を突き出し、埃で黒ずんだ<モビルドール・ミカヅキ>の頭部を睨み据える。負けずに睨み返す視線を寄越したあと、ミカヅキの機体はふんと鼻息をついたように首を動かし、聞く気はないという背中をエイジに向けた。間の抜けた静寂が降り積もり、頭上を行き交う車の音が風に乗って川の上を渡っていく。
体も頭も疲れ切っているはずなのに、神経という神経が冴え冴えと覚醒し、五感を増幅する感覚があった。どこかでパトカーのサイレンが鳴り響いている。微かに聞こえる航空機の轟音は、いまだ捜索を続ける〝対策室〟のものだろうか。
「……おまえ、なんなんだよ」
しばらくの沈黙を漂ったあと、エイジは独白半分に呟いた。背を向けたまま、モビルドールの頭がわずかに動く。
「〝A〟が必要としているから、俺を守るって……そう言ったよな。〝A〟って何者なんだ?」
少しだけ合わせた視線を逸らし、ミカヅキの機体は無言を返事にした。エイジはコクピットハッチの上に横になり、「ま、なんにせよ、謎のひとつは解けた」とため息混じりに続けた。
「バイクの曲乗りができて、バンプキー持ってて、兵隊並みに動けるし戦える。そんな女が名簿も無しに歩き回ってりゃ、運営でなくてもマークしたくなる」
その名を照会しただけで……とドレルが話していたことが改めて思い出される。ミーユがこちらの動向を知るきっかけになった〝余計な調査〟とは、多分、そのことだろう。見た目はありきたりの女学生風情でしかないのに、運営と〝対策室〟にそろってマークされているミカヅキ。
〝A〟に対する忠誠。
自らの身を顧みない一途な検診ぶり。
それは単なる雇用者と被雇用者の関係では説明がつかない。ミーユは、そんな2人の関係を知っているような口ぶりだった。『A金貨』の秘密を守る組織の一員として……いや、もっと個人的な感情が彼女の口の端には覗いていた。仲間外れにされた子供が、むきになって突っかかっていくみたいに――。
「〝システム〟……」
しわぶきともつかない声が風音に混じり、エイジは「んあ?」と顔をあげた。<モビルドール・ミカヅキ>のコクピットハッチが開き、ミカヅキが外に出ていた。首をめぐらせ、間合いを測るような目を覗かせたミカヅキの背中が、暗い川面に浮きだって見えた。
「さっき言ってたろう。〝システム〟って。あれ、あなたが考えた言葉か?」
「どういう意味だよ?」
何かを言いかけた口を閉じ、ミカヅキは再び川の方に向き直ってしまった。聞きたいことはあるし、いたずらに距離を置くつもりはないのに、表現する言葉が見つからない。間違った言い方をして誤解を招くくらいなら、いっそ黙ったほうがいい。年相応の若者らしい巡りと考えがその背中から滲みだし、エイジは小さく苦笑した。
なんのことはない、こいつも同じ人間……いや、ELダイバーか。
独りでなんでもできるような顔をしながら、実は他人との距離を測りあぐねている当たり前の若僧か。
そうわかった胸がいくぶん軽くなり、「昔、知り合いが言ってたんだ」という一声がエイジの口をついて出ていた。
「こんな金もどきに価値があるって、ガンプラという〝システム〟を作って、俺たちを煙に巻いている奴は何者だって……」
「俺がお前くらいの時はさ、世界はGPデュエルっー……プラモを動かす遊びで真っ只中でよ。世界一強い国だって言われてた。就職もガンプラ次第で、企業側が学生を接待バトルしたりなんかしてよ。んで、そんでもって、ガンプラの強さが世界のポジションみたいな感じになってた」
対岸の街の上に、この女と同じ名前の、細い三日月が上がっていた。片手でつまんだ1000円札を月光にかざし、偉人のひげ面のをしばし眺めたエイジは、ふと這い上がってきた胸苦しさにそれを握りつぶした。
「戦えば戦うほど、暮らしがよくなって、世の中も発達するって時代はとっくに終わってた。ただ、その頃にできあがった〝システム〟に従って、みんな行くところまでは行っちまってたんだ。ガンプラ史上主義っていうのとは違う……うまく言えねぇけど、史上主義を動かしていく仕組みみたいなもの。満ち足りてはいけないっていう〝システム〟だ。ガンプラを買え。それでも買えなきゃ、食い物を金庫にしまって表に出すな。腐らせちまっても、他人にとられるよりはマシだから……って」
「……〝A〟も、似たようなことを言っていた」
ぽつりと漏らしたミカヅキが、体ごとこちらに向き直る。
エイジは無言で先を促した。
「ガンプラ実力主義に欲望を調整する機能はない。強さ……ガンプラに価値があるって〝システム〟を作って、GBNというシステムが始まったのも、力を1点集中させられる利便性があったからだ。食い物と違って、ガンプラは腐らない。輸送も管理もずっと楽だ。リアルグレードから、ハイグレードへ。実体を持たない価値の乱舞が、その世界に存在し得ないほどの負債を作り出した。そしていまは、ガンプラさえも必要なくなって、パソコン上の数字だけがガンプラを定義している」
「さすが。頭のいい奴は言う事が違うね」
反射的に混ぜっ返す声を出し、エイジは視線を逸らした。このまま話し続けると、深みにはまってしまいそうな予感があったからだが、ミカヅキは怒りも呆れもせず、なにかを問う目をこちらに向けるのみだった。
言い出しっぺは自分――まったく、今日という日はつくづくついていない。ひとつ嘆息を挟んだエイジは、「でも、俺たち庶民には遠い」と言葉を繋いだ。
「俺らは、GPデュエル崩壊後の焼け跡世代ってやつだ。GBNは大盛況。やっとこさ職にありついたと思ったら、先輩にことごとく虐められて、いきなり代わりをやってみせろってケツを叩かれる。本当にやるべきこと、求められていたことは、きっと新しい〝システム〟作り……。だけど、そんな余裕は誰にもなかった。
マスダイバー。
運営。
ゲーム。
システムが更新されるたびに〝システム〟はどんどんその力を強くしていった。対応しろってせっつかれて、置いていかれないようにするのが精いっぱいでさ。ようやく追いついたと思ったら、今度は海の向こうで、ブレイクデカール騒動。挙句の果てに、宇宙人とサーバーダウンのダブルパンチだ。復興した途端に隕石が立て続けに落ちてきたみたいなもんで、そこでも矢面に立たされたのは俺たちの世代だった」
GBNの自由化と構造改革でガンプラだけの実力の道は絶たれ、何の保証もなく路頭に放り出されたダイバー切りの被害者たち。
まだローンの残るフォースネストを宇宙人に壊され、避難所でメンバーと肩を寄せ合うダイバーたち。
違法ツールが荒れ狂うエリアに飛び込み、荒廃エリアにワクチンに注ぎこんだアルバイトのメンバーたち。
研究の虫が動画配信の前に引きずり出され、要領を得ない説明を繰り返す運営の職員たち。
充血した目でそれを睨み据えながら、まだ若いELダイバーをプログラム処分場に送るしかない仲間たち――。
それぞれに理不尽を享受し続けた同世代の人間たちの顔が現れては消え、エイジは夜空に据えた目を微かに険しくした。
「なにやってんだろうと思ったよ。ガキの頃に聞いてた、世の中にこういうもんだって話がなにひとつ通用しない。5年置きに未曽有の事態とやらがやってきて、そのたびにみんなてんてこ舞いだ。俺はケチな詐欺師だし、独り身だから気楽なもんだけどさ。カミさんと子供がいて、中途半端に責任のある立場に立たされた奴らはたまんなかったと思うよ。ひとつも大丈夫じゃないのに、大丈夫だって子供に言い聞かせて、手探りでやれることをやって……。
がんばろうガンプラ、繋がろうガンプラってさ、ガンプラで少しは世の中の空気も変わるかと思ったら、1年と経たずに成長戦略驀進、日本を取り戻そうときたもんだ。
まぁいいさ。
〝システム〟のせいでもなんでも、夢や希望があるってのは結構なことだ。でもな、成長し続けなきゃ見れない夢ってなんなんだ? 無理なんだよ、もう。みんなで爪先立って、見かけだけのガンプラで戦ったってさ、誰も幸せになれてないじゃん。その無茶のカラクリが破綻したのが、ブレイクデカール騒動や宇宙人襲来だろ。金も仲間も失った人間だっているのに、あれは事故でした、今度は気を付けますって、違うだろ。やり方が間違ってたんだろ。今の〝システム〟に従っている限り、この先はもうないんだよ。
そりゃ簡単なことじゃないだろうさ。それでどうやって生きてくってプランもないのに、ただ違法ツール反対反対って叫んでるのは愚の骨頂だ。でも、だからってこのままでいいって話はない。みんな子供も大人もいるんだろ? 子供が生きてく世の中の安全より、ガンプラの出来が大事なんて親はいねぇはずだろ。俺たちは何をやっているんだ? 〝システム〟に支配されて、その場しのぎを繰り返して……どこへ行こうとしているんだ……?」
これは、これからおめえが生きてく世の中の話だ。もっと先、俺の孫や、その子供らが生きてく世の中に関わる話なんだ――。
耳の底にこびりついた声音が明瞭さを増しに、エイジはつかの間まぶたを閉じた。
〝システム〟に従い、殺される直前、黒須はそんな言葉で己の胸の内を明かした。当時は共有できなかった危機感、狂おしいまでの無力感の中身は、あれから何年間を経て誰もが共有する現実となったかもしれない。
未来の喪失。
今をしのぐだけで、先の展望が見えない行き詰まり感。あの地下を造った者たちにしても、同じ危機感に駆られてGBNの地下を掘り続けたのだろう。
彼らは今も問うている。俺たちが守ろうとしたものは守れたのかと。
答えは――。
「結局、なにもできなかった。これからなにができるって当てもなしに、みんな〝システム〟に搦めとられてる。俺も他人のこと言えないけどな。『A金貨』の正体を暴くって言いながら、その『A金貨』を飯のタネにしてきたんだから……」
抵抗にもならなかった抵抗、向き合っているものが何なのか、それを知るためだけに費やされた数年が1陣の風になって吹き抜け、エイジは星の見えない夜空を見上げた。
ひとつヤマを終えると、波になって襲い掛かってくる不快感――その根源がこれだ。
こんな時にわざわざほじくり返して、他人に話すなんてどうかしている。これも地下の亡霊の毒気に当てられたせいかと思い、不快の波が行き過ぎるのを待ったエイジは、しかしどこかさっぱりしている胸の内に気付いて当惑した。
すぐ傍らに、話を聞いてくれる誰かがいる。
同じものを見て、同じ目線に立つ、誰かがいる。
それだけで救われたと感じる神経が自分の中にあるらしい。独りでは受け止めきれなかった不安、吐き出せなかった悔恨が、ここでは言葉になって流れ出してゆく。そこに聞いてくれる誰かが……ひょっとしたら分かち合える誰かがいるというだけで、強張った神経がほぐされてゆくのがわかる。
あの夜、自分に電話をかけてきた黒須も同じだったのかもしれない。ふと思いつき、エイジは夜空に向けた顔をわずかに険しくした。
一度は突っぱねられた相手だっていい。
伝わり切らなくたってかまわない。
ただ、分かちあえる誰かと話したかった。今感じている不安、恐怖、こうなるに至った経緯。
残りの人生と引き換えにしてでも抗おうとした何か、守ろうとした何かがあったのだということを、片鱗だけでも伝えなかった。そうでなければ、追われている最中にわざわざ電話と愛機などかけたりはしない。当人にも自覚しきれないところで、黒須は末期の際に己の人生に仮託する誰かを求めた。それだけで救われるものがあるということを、本能的に知っていたのだ。
だとしたら……
それは呪いのようなものだ。
『A金貨』には関わるなという遺言。とは裏腹に、黒須は決定的なエイジ――金家を『A金貨』に縛りつけてしまったのだから。〝分かち合える相手〟を求めた黒須の見立ては正しかったわけだが、では自分がその気になったのはなぜだろう? 世話になった相手だから、という説明では理由の半分にもならない。
それだけでは済まされない重力を感じたから、自分は今日まで黒須の言葉を引きずり続けてきた。
もう金やガンプラの問題じゃねぇ、これからおめぇの生きてく世の中の話だ――およそ黒須らしからぬそれらの言葉は、しかし黒須の中から生じたものであり、自分の中にある何かを共振させた。
いったい、なんだろう。
言葉にすれば、きっと陳腐ななにか。
大抵の人間、クズと言われる人間でさえ持ち合わせている何か。太古の昔より受け継がれ、人を人たらしめているなにか……。
遠くで車のクラクションが鳴り、響くもののない川面の上に滑って霧散した。
らしくもない。
答えの寸前で立ち止まり、我の返った目をしばばたいたエイジは、「……月はいつもそこにある」と重ねて、半身を起こした。
「月がそこにあるみたいに、〝システム〟もそこにある。ただそれだけの話なのに、気にする方がどうかしてんだろう。大人になれってことさ」
砂を噛む思いを隠して、自嘲半分に唇の端を吊り上げる。深みにはまりきる前に抜け出せた安堵と、焚火から遠ざかるような寒々しさの両方を覚えながら、エイジは開かれた<ジム>の胸部装甲から腰をあげた。
「どこに……」
「言ったろ。タバコと飲み物。止めたって無駄だぜ」
埃だらけの上着を肩にひっかけ、堤防の外に出るために、<ジム>のコクピットに入る。ミカヅキはモビルドールのハッチを開けたまま、その場から動こうとしなかった。
「『A金貨』を盗むんだかなんだか知らねぇけど、お前らも〝システム〟の側に立っている人間と同じだよ。一方的に巻き込んで、なんにも教えねぇで、知りたきゃ一枚噛めって言う。このUSB、見たら最後なんだろ? 対策室だか偵察だかに、死ぬまで追い回されるんだろ?」
ズボンのポケットからUSBメモリーを取り出し、エイジは川辺に降りたミカヅキの顔を睨みつけた。目を伏せ、一言もなく立ち尽くすミカヅキの顔は、やはり年相応の無力な若い女の顔にしか見えなかった。
「人の弱みにつけこんで、無理やり協力させようってのが気に入らねぇんだ。……〝A〟によろしくな」
それこそ弱みを責め立てているような後ろめたさを感じつつも、<ジム>から降りたエイジはUSBメモリーを階段の上に置く。これでいい、とざらついた口中に呟きつつ、エイジは、<ジム>を置いてひどく長く感じられる階段を上り始めた。
このままでは、分かち合う相手のいる心地よさに流されてしまう。相手が話したがっていることを聞き出し、懐深く入り込む――まるで詐欺師の常套手段だ。
騙す奴と騙される奴。
世の中にその2種類の人間しかいないなら、俺は騙される人間にはならない。例え、一生に一度の機会を捨てる結果になったとしても。
「……月は確かにそこにある」
硬い、しかしふわりとした柔らかさも持つ声音に背中を叩かれ、エイジは足を止めた。
「でも、月に行って、その裏側もこの目で見てこなければ、本当に月を知ったことにならない。……そうは思いませんか」
黒い川面に半ば溶け込みながら、そこだけ強い輝きを放つ瞳がこちらをまっすぐに見上げる。思わず見返してしまったのは、突然の敬語に不意を打たれたからではなかった。
最初に会った時から、薄々胸にあった感触――こいつの言う事は無視できないし、逆らえないという理屈抜きの感触。むしろ、それとは真逆な何かに影を縫い付けられ、身動きできなくなったと言った方が正しかった。
見上げているくせに、まるで見下ろすかのごとき光を放ち、ミカヅキの瞳は問う。お前は月に行ける男か、と。誰もが当たり前に受け止めているものの正体、月の裏側に見届けるために命を懸けられる男か、と。知ることこそが自由と知り、己の半生を探求に捧げられた男なら、なぜこの先に進もうとしないのか、と。
びゅうと風が吹き、階段の中途に立ち尽くす体を揺らした。先刻、発作的にホームを蹴り、電車に飛び込ませたのと同じ種類の風だった。〝システム〟の外へ――その時に胸中をよぎった言葉を噛み殺し、ぎゅっと拳を握りしめたエイジは、「悪いな」と絞り出して、ミカヅキから視線を逸らした。
「主人公になるには、俺は歳を食いすぎてる」
上着を肩にひっかけ直し、残りの階段を昇る。寂しい人ね……と言ったミーユの声が耳の底で弾け、疲労とは別の要因で膝の力を萎えさせたが、無視して足を動かし続けた。どいつもこいつも同じような目をして、いったいなんだっていうんだ。勝手に同類と見込んでもらっちゃ困る。
俺は――。
続く言葉を紡ぐ気力もなく、階段の踊り場に足をつけたエイジは、「金家さん」とかけられた声にびくりと肩をふるわせた。
「〝神〟にあったことはありますか?」
無視して前に出そうとした足を搦めとり、思いもよらぬ言葉が耳元をかすめて過ぎた。正気を疑う目を向けたエイジをじっと見上げ、「私はある」とミカヅキは静かに続けた。
「人の形をしていたけれど、私には〝神〟に見えた。自分がなぜここにいるのか、これから何をしたらいいのか……みんな、あの人が気づかせてくれた」
ぼくと一緒に、世界を救ってみませんか?
臆面もなくそう言った男の顔が脳裏をよぎり、次いで血に汚れた黒須の顔がひどく明瞭に像を結んだ。なぜ2つの顔が並んで現れるのか。今度は自分の正気を疑わねばならなくなったエイジは、「私は、あの人のためなら死ねる」と重ねられた声に言葉をなくした。
「あの人のやっていることは、それだけの価値がある。……今、私から伝えられるのは、それだけです」
言い終えると、ミカヅキは少し恥じたように顔を伏せ、行くなら行けとでも言いたげに背を向けた。初めて言葉を交わした気分を味わっているのは、向こうも同じらしい。〝A〟が必要とする駒ではなく、1個の人間と認められた身のやり場がなくなり、エイジはやれやれと嘆息した。踊り場に腰を下ろし、脂と埃でべとついた顔をごしごしとこする。
細い月の光が照らす下、ミカヅキは微動だにせずに暗い川面を見つめていた。
〝神〟。
それも、人の形をした〝神〟。
ひどくいかがわしい言い回しだが、わかるような気はする。ある他人、ある言葉の出会いにより、人生が変わることはままある。教え導くのではなく、身の内に眠る何かを共振させ、進むべき道を気づかせてくれる何者かとの出会い――エイジにしてみれば〝神〟などとはとんでもない、いっそ、メフィストフェレスの〝A〟と定義してくるあの男が、いったいどんな啓示をミカヅキに吹き込んだものか。
ぼくと一緒に……と言った時の目と声を思い出そうとして、まだ黒須の顔に突き当たってしまったエイジは、もう苦笑する気にもなれずに深々と息をついた。
そう、災いを為す〝神〟というものも存在する。
同じ〝神〟でも、こちらは呪いをもたらす疫病神といったところか。大抵の人間、自分のような男でさえ、持ち合わせている何かを共振させ、今も傍らに居座り続ける馴染みの疫病神。
〝神〟を見失って生きる方が、なんぼか楽だったろうに……。
すっと街灯の明かりを陰り、顔をあげるとミカヅキの立ち姿が目前にあった。階段の中途に立ち、無言で右手を差し出してくる。階段に置き去りにされたままのUSBメモリーを見て、何のつもりかとその顔を見返したエイジは、「タバコと……なんでしたっけ?」と出された問いに呆気にとられた。
「ポカリ。ポカリスエット。知ってんだろ」
とっさに答えつつ、ポケットからしわくちゃの1000円札を取り出す。言われても判然としない様子のミカヅキに、最初に会った時にも覚えた違和感を頭をもたげたが、何とか折り合おうとしている顔を見ればどうでもいいことに思えた。
これでとどめ――もう逃げきれそうに、ない。
1000円札を受け取り、傍らを行き過ぎかけたミカヅキに、エイジは「待てよ」と覚悟の一声を発した。
「例の携帯端末、持ってるか?」
足元のUSBメモリーを拾い上げ、肩越しに言う。
虚を突かれた顔になったあと、かすかに表情を引き締めたミカヅキは、「あれとは違うけど」と応じて懐の携帯端末を取り出した。
アルスター社のものではない、大手メーカーの普及品だったが、USBメモリーの差込口があればなんだってかまわない。通信機能を切っておけば、電源を入れても位置を感知されることはないだろう。これまでさんざん思い悩んできた分、今度はなにも考えずにUSBメモリーを差し込んだエイジは、「誰かさんのせいで、また警察に追われることになっちまったからな」と語りに言った。
「どうせ今の生活とおさらばするなら、ひと山あてにに行くのも悪くない。だろ?」
ミカヅキの反応を待つ気はなかった。
その言葉でふっきれたつもりになったエイジは、ファイルの一覧を表示した端末の画面に見入った。
タッチパネルに指を走らせ、最初のファイルを開いてみる。先刻、公園で見たのと同じ建物の写真が目に入り、続けて次の画像を表示させると、やはり海外とおぼしき街の風景がディスプレイに映し出された。
大きな街路樹が建ち並ぶ歩道、日本のそれより幅の広い道路、白人と判じられる通行人たち。
その向こう側に建つビルの壁はベージュ色で、鉄筋コンクリートというより石造りと呼んだ方がしっくりくる。ヨーロッパのどこかかと思い、次の画像を呼びだしたエイジは、そこに場所を特定するに足るものを見出して息を呑んだ。
ヨーロッパの古い街並みの見本、絵葉書と言っても通用する大通り沿いの建物群を捉えた写真に明らかな異物が映りこんでいる。
バロック式の豪奢な尖塔と、このてっぺんに乗せられた玉ねぎ形のドームは、テレビや映画で1度ならず、目にしたことがあった。同様のスタイルはインドの宮殿などに見られるが、ヨーロッパ調の街並みとの組み合わせはひとつしかあるまい。ヨーロッパとアジアにまたがり、世界最大の国土を誇る近くて遠い国。
ロシアか。
「これ……」
「出発の準備はできている」
ディスプレイから顔をあげたエイジを見据え、ミカヅキがどこか不敵な口調で言う。
『A金貨』を盗み出す第一歩は、海外出張か。いまはそれ以上の感想はもちようがなく、エイジはいまだ訪れたことのない異国の街並みを網膜に焼き付けた。