ガンダムビルドダイバーズ 〝A〟   作:ジ ュ ン

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第二十七話

 なんでこんなことに……とエイジは思った。

 エイジは今、<ガンダム>のコクピットに収まり、外へと繋がる、はやぶさ号の下部デッキの上に乗って下降していた。

 白い鉄骨が剥き出しになった、質素なデッキだ。

 はやぶさ号の下部にはモビルスーツと武器弾薬庫を格納することが可能である。その上に客室、各種遊戯施設、調理室、操縦室などなど……ほとんどすべてだ。

 エイジの<ガンダム>は飛行ユニットであるSFSに乗せられている。この機体自身、大推力によって飛行することは可能だ。だが、あくまで無理やり飛んでいるだけで、空戦には向いていない。あくまで陸戦用のモビルスーツだ。

 機体をチェックする。ほとんどのモビルスーツと一緒だ。

 ジェネレーター――正常。

 制御系――正常。

 電子兵装――正常。

 センサー、駆動系、衝撃吸収系、冷却系、火器管制装置、各種システム正常――すべて正常。

 ……なのだが、性能を30パーセントほど落としている。そのままでは、機体性能に体が追いつかず、のしかかる荷重に、機体に振り回されてしまうからだ。

 武器は背中のバックパックのビーム・サーベル、右手に持ったビーム・ライフル、頭部のバルカン砲のみ。

 エレベーターが完全に下降した。

「キノシタだ。<ガンダム>、出るぞ!」

 夜の闇に包まれた大空へと<ガンダム>をのせたSFSが飛んで行く。

 真っ黒な空。下には白く、巨大な雲。

 目に物みせてやる……。

 そう、仕事はもうすぐ大詰めなのだ。ここで失敗するわけにはいかない。

 レーダーに反応。機体は3機。機種は<ザクⅡ>が2機と<グフ>だ。

 いいだろう、なんでお前らがここにいるかは知らないが、目にものみせてやる。俺をそこいらの詐欺師だと思ったら大間違いだ。俺はヤクザがしきっていた闇GPデュエルで、<ジム>を使い、そこいらの選手を倒してきたのだ。

 あれから数年、自分は数々の実戦を戦い抜き、ありとあらゆるモビルスーツに乗ってきた。このモビルスーツという兵器は、自分の第2の身体も同然となっている。

 後悔させてやる……。

 なにしろ、こちらは仕事中なのだ。

 そう、こんなところで足をつまづくわけにはいかない。

 青い<グフ>。

 緑色の<ザクⅡ>。

「見せてもらうでぇ。金家くんの<ガンダム>の性能とやらをなぁ!」

 

 

 

 闇が窓の外を走ってゆく。小振りになったのか、雪はほとんど見えない。そこにあるはずの広大な原野も、街灯ひとつない闇の底に沈み込んでいた。機内から来れる光に照らされ、もやとも雪ともつかない白い流れが時おり闇に浮かび上がるばかりだ。

 午後11時30分。

 はやぶさ号は来た時と同様にディメンションの空を飛んでいる。隣にサトシが座っているのも同じだが、今朝のように気楽な口をきく余裕はない。自前のウインドウになにごとか打ち込み、たまにぶつぶつと口中に独り事を呟いては、絶望感も露わに頭を抱える。そしてしばらくすると気を取り直し、また打ち込みを再開しては独り事を呟く……と、この数時間、他の何も目に入らない様子でその繰り返し。

 明日はロシア観光をさせるという前言を翻し、サトシが今日中にグランプラスに戻ると言い出したのは、エフゲニーとの会見が終わって5分と経たない頃のことだ。パーティーに呼んだ客の面倒は秘書に任せ、車で雪の中を飛ばしに飛ばし、20時半にようやくはやぶさ号に乗り込むことができた。

 一刻も早くグランプラスに取って返し、エフゲニーから得た情報を整理、〝財団〟のイントラで確認する。

 サトシの頭にはそれしかなく、タブレット相手に独り事を繰り返す奇行は飛行機に乗り込む前、空港に向かう車の中からすでに始まっていた。

 今晩は別荘でメモ起こしに専念して、明日中に確認すればよさそうなものなのだが、居ても立っても居られない。この4時間近く、サトシはほとんどひと言も喋らず、記憶を頼りにメモを起こし続けている。この飛行機の特典である食事のサービスも断り、血走った目でウインドウの仮想キーボードを叩く姿は、凄惨を通り越していっそ滑稽ですらあった。

 厳密に言えば、こうしてメモを起こす事も約束違反なのだが、そこは大目に見てもいいだろう。どだい、全てを記憶することなど不可能な話だ。

 エフゲニーの話は小1時間に及び、〝コングロマリット〟に与する企業の経営状況、新規事業計画、経営陣親族の入り組んだ関係から資産状況に至るまで、資金の振り分け先とその効果を網羅した詳細なものだった。鵜呑みにできればこんな楽なことはないが、エフゲニーの話が100パーセント真実であるという保証はなく、何よりサトシには〝財団〟本部に対する説明責任もある。

 特別措置の発動理由を問われた時、サトシ――谷沼悟志自身がすべての事実関係を把握しておかなければ、エフゲニーという仲介役の存在が本部に露見しかねない。そうなったら、芋づる式に大統領の関与も明るみに出て、GBN独占は本部の理事連に横取りされる結果となる。

 縁故採用とは言っても、仮にもロシアGBNの半分を〝財団〟から任されている男だ。記憶を頼りに大方の確認はできようが、資産額の細かな数字については1聞で暗記できるはずもない。何度かのため息のあと、

「無理だ……」

 という呟き声がサトシの口から漏れて、エイジはそちらとは反対の方に首をめぐらせた。通路を挟んだ向こうに座るミカヅキを見て、そろそろ頃合いの目を交わしてから、「もう十分だろう」と苦笑混じりに話しかける。

「今日の〝プレゼント〟で、エフゲニーがまがい物じゃないってことは確認できたんだろう? 彼の話を信じて、とりあえず言われたとおりに資金を振り分けていけばいいさ。細かい確認はあとでもできる」

「悪いけど、ぼくはまだ彼のことを完全に信用したわけじゃありません。そりゃこんだけの情報を知ってるんだから、只者じゃないでしょうよ。ロシアで裏の仕事をしてる人なのかもしれないけど、大統領の関係とか、〝コングロマリット〟のこととか、ぜんぶ本当だって保証はどこにもない。たとえばさっきの説明にあった〝コングロマリット〟の非公開情報、そのどれかひとつが事実と違っていたらどうします?」

「エフゲニーが故意に嘘をおりまぜたってことになるな。ありもしない新規事業計画を、ありもしない資産で裏付けて、資金を提供した途端にドロン。その企業と組んでりゃできないことじゃない。なにせ、資金を出す先は、大小合わせて20以上ある。GBN利権を見込んだ〝コングロマリット〟全体への資金投入であって、個別企業の業績に応じた支援じゃないんだから、そのうちのひとつが事実と違っていてもすぐには気づかない」

 反論を期待したはずが、逆に不安材料を補強されたサトシの顔が蒼白になる。

「でかい話でめくらましをしておいて、小金でトンズラ。詐欺の常套手段だ。100分の1をかすめるにしたって、元が500億なんだから悪い稼ぎじゃない」と付け加えたエイジは、横目でサトシの表情を見やったあと、堪えきれないというふうに破顔してみせた。

「冗談だよ。向こうは〝財団〟のことも知ってる。詐欺師にしたって、騙す相手は選ぶさ」

「でも、〝財団〟のイントラが使えなきゃ情報を渡せないって、おかしくないですか? こっちが断わるしかないことを知ってて、あんな持ちかけ方をしたのかも。〝財団〟のデータベースなら、確かに一国の情報機関並みの情報は取りそろえてますからね。デタラメな数字を見破られないために、あえてこんな……」

 不意に言葉を切り、サトシは血の気の失せた顔をうつむけた。「やばいな、これ……。やっぱやばいかも」と呟き、何も見えていない目でウインドウの文字をスクロールさせる。

 エイジは無造作に背広のポケットをまさぐり、取り出したUSBメモリーをサトシの眼前にかざした。

 顔を上げ、目前のメモリに目の焦点を合わせるや、サトシはひったくるようにそれはつかんだ。エフゲニーの資料を複製したものであることは、説明するまでもない。

「わたしからの誕生日プレゼントだ」

 そう言い、エイジは窓の方に顔を向けた。

「どうして……。データは全部消したのに」

「簡単だよ。奴の目を盗んで、データをコピーしたんだ。わたしもエフゲニーのことを無条件に信じているわけじゃない」

 まだ呆然としているサトシに、「まるごとコピーしたんで、セキュリティ・ガードがかかってる。読み込みには時間がかかるぞ」と続け、エイジは窓に映る自分の顔を見た。「助かったぁ……!」と破顔したサトシを窓の反射に捉えつつ、にやりと吊り上がりそうな唇の端をなんとか押さえ込む。

「これでばっちり裏が取れる。感謝します、先輩。やっぱ先輩は救世主だ」

「どうだかな。ま、いろいろ言ったけど、エフゲニーのネタは確かだと思うよ。自分の目で確かめるといい」

「もちろん、そうさせてもらいますとも。でも先輩も人が悪いな。人が必死こいてメモ起こしといて、知らん顔で。もっと早くに教えてくれればいいのに」

「そっちの覚悟を確かめたかったんでな。今日の〝プレゼント〟で満足して、気が緩んでいないかと思って」

「そんな余裕ないっすよ。自慢じゃないけど、今日の儲けなんて背負った負債に較べればスズメの涙っていうか。風呂桶にバケツ1杯の水が入っただけなんですから。勝負はこれからっすよ」

 握り拳を顔の前で掲げて言うと、サトシはさっそくメモリをウインドウの挿入口に差し込んだ。無論、インターネットでは補完できない情報ばかりだから、確認するには〝財団〟のデータベースを使うよりない。

 情報を照合するために、サトシは今夜のうちにイントラの専用端末を開く。このメモリを専用端末のソケットに差し込み、同一ウインドウ上に複数のタブを開いては、エフゲニーの話に嘘がないか確認するだろう。

 実際、エフゲニーが語った情報に嘘はない。過去のハッキングでアクセスした〝財団〟の共有データベースをもとに、〝A〟とミカヅキが作製した資料なのだから、照合結果が合わない道理はない。が、イントラの端末に読み込まれると、このメモリの中に眠る別のプログラムが目を覚ます。

 セキュリティ・プログラムに擬態したそれは、サトシのアクセス権をもってイントラの中枢に入り込み、監査プログラムをすり抜けてメインフレームに取りつく。

 そして、サトシが特別措置を発動した瞬間、融資願いを200通コピーし、200の銀行に送り込む。

 振込先は、グランプラスの名義で開設された200の口座。入金された金は即座に振りわけられ、各種証券や、支援金に姿を変えて、GBNを泳ぎ回ることになる。合計10兆円のそれらを自由に操れるのは、今頃で待つ時間を過ごしている〝A〟のみだ。

 今回の計画で最大のネックになっていたのが、このコンピュータ・ウイルスをいかに、財団のイントラに取りつかせるかということだった。リーダーを騙し、特別措置を発動させることはできても、その使用する専用端末に近付くのは容易ではない。

 サトシが言った通り、専用端末にはアクセス権を持つ者しか近づけず、モビルスーツを通して接続することも禁じられている。エフゲニーとともにリーダー室に乗り込み、押しの一手でイントラを操作させるシナリオを描いていても、サトシに言う事を聞かせられる100パーセントの確信はなかった。なにせ、ここ数年の〝A〟によるサイバー攻撃で、〝財団〟はイントラの使用規定を引き上げているのだ。

 <ガンダム>でグランプラスの建物に近づいて、外部からウィルスを仕込む作戦も引き上げられた警備規定下では現実的ではない。話術で押し切る一か八かに賭けるしかなかったが、そんな時に突然のガンプラバトル観戦と誕生会行きが舞い込んできた。

 イントラが使えなければ説明できないと言い、いったんエフゲニーに情報を引き上げさせたところで、こっそりしたコピーしたという触れ込みのメモリをサトシに渡す。十分に焦らされたところで救いの手を差し伸べられれば、人はほとんど脊髄反射でそれをつかむ。本拠地たるサンクトペテルブルクから切り離された心細さ、そこに戻るまでに醸成される焦燥感も、心理的防壁を取り払うように働く。

 GBNの風とやらを感じたいというサトシの奇行が、思わぬ幸運を呼び込んでくれた格好だった。人生、なにがどう転ぶかわからないなと胸中に呟きつつ、エイジは上機嫌のサトシを横目で見つめた。

 勝負はこれから? いや、残念ながら勝負はあった。

 あとはサトシが特別措置を発動し、取りついたウィルスが所定の働きをしてくれればいい。50臆の報酬、『A金貨』の真実は、いまや手を伸ばせば届くところに――。

 成功を目前にした興奮と達成感を、分かち合いたいと思ったのかもしれない。闇に塗りこまれた窓を見、ぼんやり反射するミカヅキの姿を視界に捉えようとしたエイジは、その窓の向こうに見えた別の影にぎょっとなった。

 飛行機に並行するようにSFSに乗った1機のモビルスーツは、顔つきから一年戦争のジオンの<ザクⅡ>と知れた。

 ロシアにも、非連邦系のモビルスーツは少なくないが、防衛に来るモビルスーツではあまり見かけない。まず運営ではないと見て間違いなかったが、エイジがそのモビルスーツの顔を見返してしまったのは、その<ザクⅡ>の右胸にある『タダシ組』というエンブレムを見てしまったからだった。何の見覚えもない機体だが、何のカスタムもしていない機体といい、あのエンブレムといい、知った世界の人間という印象がはっきり脳裏に突き立った。

 タダシ組。それもオンボロそうなSFSに乗っている類いは、あまり資金のないフォースの類いだ。ここがどこであるかも忘れ、窓の向こう越しに、その機体を見返してしまった直後、<ザクⅡ>はSFSをひるがえして、高度を下げてしまった。頭の中の警報が一斉に赤ランプを点し、エイジはトイレに立つ振りで席を立った。

 <ザクⅡ>は高度を下げたまま、後方に戻ってゆく。

 誰かに報せに行ったか。誰かが誰かと考える頭は働かないまま、エイジは同じ<ザクⅡ>を目で追っているミカヅキを見た。すでに異常事態を察している目を目を合わせ、おまえはここにいろと伝えてから、<ザクⅡ>のあとを追って、下の第2客席へと向かう。2人同時に動いて、サトシの不審を買う愚かな真似は避けねばならない。

 うしろうしろの客席を抜け、<ザクⅡ>は高度を並行にして、空を飛ぶ。こちらを尾行、監視していたのなら、距離が離れすぎている。なにより監視対象者を目前として、モビルスーツで飛行機に近付くバカもあるまい。あの敏感なミカヅキが尾行の存在に気付かなかったとも思えないし、いったい何者だ? 急き立てられる思いで、2つの分の客室を抜け、つぎの客室に手をかけようとして、慌てて足を止めた。空いた席の窓の下に身を隠し、外の様子をうかがう。SFSの乗っている<ザクⅡ>が、相変わらず飛行機と並行して

飛行しているのが見て取れた。

 向かい側の窓も見てみる。やはり、<ザクⅡ>がSFSに乗って、並行して飛んでいる。いったい何者だ? 客は自分の他、どこにもいない。まさか……過去にカモった相手か? かつてのカモとたまたま鉢合わせをした詐欺師の話はたまに聞くが、自分は幸いにしてまだ1度もない。まして、日本から離れ、それにヴァーチャルオンラインのゲームの地で――。

「なにしてるんです?」

 突然、聞き知った声が間近に振りかけられ、口から心臓が飛び出る気分を味わった。振り返り、いつからかそこにしたサトシと目を合わせたエイジは、「いや、別に……」と応えてから口中に舌打ちした。

 モビルスーツを追いかけるのに夢中で、サトシに見咎められた場合の言い訳を用意してなかった。迂闊、と自分を罵りつつ、「君は?」とうわずりを抑えきれない声を重ねる。「トイレですけど、先輩の姿がみえなかったもんで、こっちの方まで」と返したサトシは、本当に不思議がっている顔だった。

「買い物ですか? わざわざ売店まで行かなくても、パーサーに頼めば飲み物くらい持ってきてくれるのに」

「ああ、そうだけど、物珍しくてつい、な。はやぶさ号って初めて乗ったもんで。飛行機のフルスクラッチなんて、あまり見ないもんで……。飛行機模型にハマってた時期があったもんで」

「マジすか!? 先輩が飛行機に興味もってるなんて意外だなぁ。いや、僕もハマってるんですよ」

 最悪だった。準備なく嘘をつくと、こういうことになる。もはやモビルスーツの様子を見る余裕はなく、エイジはがぜん目の色を変えたサトシと向き合うしかなくなった。

「先輩は何の飛行機がスキなんです? コンコルドなんか特に……」

 と続けるサトシに曖昧に頷き、この場からどう抜け出そうかと無意味にあたりを見回した刹那、「サトシさん」と別の声がした。

「ウインドウを出しっぱなしですよ。誰かに見られたらどうするんです」

 ミカヅキの鋭い視線を伊達眼鏡ごしに注ぐ。内心、安堵の息をつきながら、エイジも非難の視線をサトシに向け直した。サトシは口をとがらせ、「メモリーは抜いたよ」とUSBメモリーをポケットから取り出す。ミカヅキはその手をつかみ「一時フォルダのメモリーは消していないでしょう」と強い声音でサトシに詰め寄った。

「情報保全はしっかりしていただかないと。ご自分がいかに危ない橋を渡っているか、もっと自覚すべきです」

 顔を近づけ、いっさいの視界を奪ってサトシの目を睨み据える。うまいぞ、と胸中に呟き、エイジはさり気なくサトシの前から離れた。

「……わかった。迂闊でしたよ」

 と言い、サトシがつかまれた手を引っ込めようとする。手を離し、代わりにため息をつき返したミカヅキは、今度はエイジに詰問の視線を投げかけた。どういうことだ? と問う目に応える言葉はなく、とにかく元の席に戻ろうとしたエイジは、その拍子に視界が大きく揺れた。

「久しぶりやなぁ、金家。またえらい偶然もあったもんやないか、えぇ?」

 スピーカー音声が、耳朶を打つ。凍りついたあと、猛然と脈動し始めた心臓の音を聞きながら、エイジはゆっくりと窓の外を見た。案の定、そこには過去の亡霊があった。

「タダシ……」

 無意識に呟いてしまってから、ぐっと唇を噛み締める。

 なぜ。

 エリア11の片隅で燻ぶっている弱小フォースが、なんだってこんなところに。答を求めて猛然と回転するとは裏腹に、体は指1本動かせず、エイジは大型モニターに映し出された、2機の<ザクⅡ>を従えた、タダシ専用にカスタマイズされた<グフ>があった。

(ちぃと見ぃひんと、えらい出世したみたいやんか? なぁ。まぁ、ええ。ここで会うたが100年目っちゅうやつや。ゆっくり話そうやないか。金家くん?)

 何年も前に組み立てたきり、傷だらけになったタダシの愛機である<グフ>が、右腕の3連ガトリング砲を突き出す。その全身から、むせるような殺気が立ち昇っていた。

「は? カネイエ?」

 そう呟かれた声で我に返り、エイジはサトシの方を見た。戦闘態勢になっているミカヅキを背に、サトシはわけがわからないという顔で、モニターのモビルスーツとエイジを見比べている。

「なんなんです? この人たち」

 モニターの3機のモビルスーツも見渡し、エイジはサトシの視線を塞ぐように立った。

「なんでもない。昔の知り合いだ。ちょっと話してくるから席に戻ってくれ」

「でもこの人たち……」

 普通のダイバーには見えませんよ、と続けそうな口を遮り、「いいから」とエイジの両肩をつかんで半回転させる。同時にミカヅキの方を見やったエイジは、こいつを頼む、と目で伝えてサトシの背中を押し出した。でも、と言いたげな視線を返したのも一瞬、他に手はないと了解したらしいミカヅキがサトシの腕を取る。

 エイジは記憶の糸をたぐりながら、タダシのフレンドコードを、呼び出したウインドウに打ち込む。これなら、タダシと連絡がとれるはずだ。

「あいつらは関係ない。あんたが用があるのは俺だけだろ」

(それは、わしが決めることや)

 瞬間、2機の<ザクⅡ>が各々の火器を構えた。

(やろうと思えば、こんな飛行機簡単に吹き飛ぶわい。さぁ、出てこんかい)

 

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