ガンダムビルドダイバーズ 〝A〟   作:ジ ュ ン

42 / 91
第四十一話

 この手の最貧コロニーの歴史がそうであるように、ヲチカタ・コロニーの歴史もGBN商業主義と、その後の戦乱の影響を無しにしては語れない。

 その起源はGBNの昔に成立した最初の電子生命体、ELダイバー『サラ』の誕生にまで遡る。

 現在のコロニーの大地とは比べ物にならないくらい肥沃な大地に恵まれ、村単位での自給自足も可能な農業コロニーだった。

 サラが訪れた際、その仲間のフォース『ビルドダイバーズ』を始めとする多くのフォースが文化を生み出し、最盛期を迎えたが、続くアップデート、多くのマスダイバーによる『ELダイバー狩り』の侵攻を受け、独立コロニーとしての歴史は終焉を迎える。

 その後、マスダイバーで構成された連合により自治は認められたものの、ヲチカタを守らんとする有志連合、自治を再び掲げるELダイバーがしのぎを削るコロニー・エリアにとって、幾つもの疲弊を重ね、いくつもの分断と紛争を重ねた末、運営のもとのコロニーに帰順。

 小さいアップデートを重ねた末、領土の近代化と中央集積化をはかる改革が起こったのち、完全に自治権を奪われ、またも独立権を得ていたヲチカタ・コロニーは運営からの庇護を失った。

 時のヲチカタのコロニー元首のELダイバー、ラーマが急激な改革を断行したのには理由がある。

 当時、技術革命を背景にELダイバーの軍事転用をはかったヨーロッパの軍需企業により、意図的にマスダイバーによる戦乱の火を広げさせた。 

 彼らがアジアGBNに食い込んでくるのは時間の問題であり、これを防ぐにはELダイバーに地方行政を任せる制度を廃し、ヲチカタに中央集権の一枚岩で覆う必要があった。

 つまり。

 ヨーロッパGBNに切り崩しの糸口を与えぬよう、行政の窓口を一元化するのが目的であったのだが、収まらないのが自治権を奪われたヲチカタのELダイバーであった。

 当時のフェアチャイルド財閥が是非もないことと受け入れたのに対し、義勇軍から続くELダイバーらは併合をよしとせず、国を割って、有志連合に反旗を翻した。

 いちコロニー軍の、さらに一部の軍人たちが蜂起しただけの反乱が長続きするはずがなく、反乱勢力はほどなく北方に追い詰められたが、彼らはここで思わぬ行動に打って出た。

 ラーマ王がその侵入を恐れていたヨーロッパGBNの雄、フランスと連絡を取り、フランスGBNを宗主国として新たな独立コロニーの成立を持ちかけたのだ。

 コロニーの一部は手に入れたとはいえ、アジアGBNの内奥を攻めあぐねていたマスダイバー連合軍は、カモがネギをしょってきたに等しいこの申し出を無論のこと受け入れた。

 かくして、フランスのエンジニアを名付け親に持つ新独立コロニー・ヲチカタが誕生した。

 マスダイバー連合がヨーロッパGBN運営を撃退し、大国の利益政策が最盛期を迎えていた頃だった。

 この建国劇の中枢を担った旧政府の摂政たちは、その大半が元はアジアGBNから南下してやってきたELダイバー達であり、彼らはそのままヲチカタ・コロニーで多くの大役を得た。

 一方で、それに反発するコロニー南方に住むELダイバーたちも続々と北上し、コロニー内は、多民族が集う難民キャンプの様相を呈するようになっていたのだが、北上からやってきたELダイバーたちは政権の椅子を独占し続け、その横柄な態度が現在まで続く紛争の発端にもなった。

 やがて、第4、第5の有志連合大戦の嵐が続き、大国の植民地政策に陰りが見え始めると、各所コロニーで独立戦争が勃発。

 『フロンティア』、『シャングリラ』コロニーと、さまざまなコロニーが相次いで独立する中、ヲチカタでも左派勢力の武装蜂起によって北方ELダイバーの政権が倒され、ヨーロッパGBNは共和制に移行したヲチカタを認め、あっさりと撤退することになる。

 ヲチカタ建国までの戦乱により、不毛となってしまったこの土地には、価値のない〝向こう岸〟でしかなかったのだろう。が、この時に政権を倒したのが、ロシアGBNのあと押しで武装化されたマスダイバー勢力であった事実が、他の独立コロニー同様、ヲチカタに代理戦争としてELダイバーへモビルスーツに供与し、戦わせるようになった。

 政権から引きずり降ろされたELダイバーたちは、ヨーロッパ諸国の軍事支援を受けて、すぐに勢いを取り戻した。以後、マスダイバーと有志連合それぞれの思惑を背負い、ELダイバー同士の血を血で洗う内戦が始まった。

 民族浄化を名を借りた――

 虐殺、

 誘拐、

 強制労働、

 食料や物資の略奪。

 マスダイバーの違法ツールの実験場にはちょうどいい地勢であるがゆえ、反有志連合であるマスダイバーたちが各国のブラック・マーケットと結びつき、違法ツールの密売からELダイバーの人身売買まで横行する劣悪な治安環境。

 あらゆる悲惨がもとより不毛なヲチカタの国土を覆い尽くし、それは地球外生命体の襲撃が過去のものになった今も終わっていない。

 現在、政権は北方のELダイバーに渡っており、言語もそれに従っているが、これを認めないELダイバーたちは多く、村単位で複数の言語が使われている状態だと言う。そのために国家レベルの教育制度がまったく行き届かず、識字率も一向に上がらない。

 そもそも政府自体が機能しているとはいえず、運営や有志連合からの援助基金は都市部で使い尽くされ、人口の9割以上が住む地方にはほとんどまわってこない。

 神から見放された向こう岸の地で、男はゲリラの襲撃に脅えながら痩せた土を耕し、乏しい収穫を奪われた村の女たちは、都市部へ行き、ダイバーたちに身体を売って日銭を稼ぐほかない――。

 寄付や援助では救いようがない、構造的な貧困がここにある。

 先進エリアのそれとは次元の異なる格差、未来など望みようのない閉塞感は、しかしこのヲチカタ・コロニーだけではない。

 隣のエリアのフロンティアやシャングリラを始めとする、ELダイバーで構成されたコロニーらは現在も直面し続ける現実であり、先進国のダイバーたちはそこから目を背ける以外の有効な対策をなんら持てずにいる。

 過去の紛争の置き土産、ダイバーたちの友好が生み出した影……どれかひとつにまるをつけたところで、この圧倒的な貧しさの存在を納得させるには至らない。

 顔にハエがたかった子供のELダイバーも、地雷で片足を失ったELダイバーの少年も、物言わぬ瞳でこちらを見つめ、答えようのないたったひとつの問いを発し続けているのだ。

 

 なぜ、あなたではなく、私なのですか? と……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。