「投資です。資源や労働力としてではなく、ELダイバーそのものに対しての」
留学と、GBNの現場で鍛えられた福田輝義の英語には淀みがなかった。単語の区切りが明瞭すぎる典型的なジャパニーズ・イングリッシュだが、耳には心地いい。うまく髪しようとする浅はかな見栄がないからだろう。最初に習得したがちがちのキングス・イングリッシュを嫌い、アメリカの東部訛りを必死に覚えた自分の英語は、他人にはどう聞こえているものか。考えるともなく考え、ティーカップを持ちっぱなしにしている自分に気づいた呂名信人は、湯気が消えて久しいそれをソーサーに戻した。
高級陶器が触れあう軽やかな音を耳にしつつ、応接セットのソファに収まる福田をあらためて見る。
柔道で鍛えた大柄を微動だにさせず、冷静さと粘り強さを同居させた眼をらんらんと光らせるさまは、学生時代から変わらぬ妹の長男のものに違いない。
無精髭の浮き出た顔は青白く、はだけたワイシャツの襟元は薄汚れているが、少なくとも表面上は衰弱した様子はなく、言われなければ長時間の尋問で責め抜かれたあととは思えなかった。
「もうわかってるんだろう?」
そう続いたブロークンな英語にも怯えの姿は見受けられず、呂名は福田の視線を追って首をめぐらせた。
福田の斜め後方、窓際に立って満身に夕陽を浴びる男が微かに顔を動かし、その碧眼をすっと福田の方に流すのが見て取れた。
「別に〝システム〟を破っちゃいないし、うまくいく保証もまるでない。あんたらにとっちゃ取るに足らない話だ。そうむきになんなよ」
気楽を装った声音とは裏腹に、敵意を露にした福田の目がマイケル・プログマンを射る。
〝対策室〟の面々に連行され、福田が青山のGBN日本本部ビルの門をくぐってから
1時間あまり。
〝財団〟から盗み出した10兆円の使い道、ヲチカタ・コロニーで計画されている事業について話し始めたはいいが、反抗的な態度は少しも変わらず、隙あらば喉元に喰らいつきそうな殺気が福田にはある。
先日、理事たちが蒼い顔を突き合わせた会議室と隣接するこの理事長執務室は、最上階の6階にあり、いま同じフロアにいるのはここにいる3人と、室外で待機するマイケル付の護衛が2人のみ。
密室という点では、〝対策室〟の地下本部にも引けは撮らず、その気にならば福田を煮るなり焼くなり好きにできるはずだったが、暴力的な手段に訴えるつもりはマイケルにはないようだった。
電撃的な来日以来、お付きの実務調査員はもちろん、日本の官僚たちすら顎で使い、〝財団〟と日本GBNの財務調査をあらいざらい進める一方、自らも精力的に動き回って事態の全容把握に努めている。
フェアチャイルド側の『A金貨』管理責任者であるマイケルに取って、主犯のひとりたる福田の直接聴取は、屈指の重要事項に違いないが、先刻からそんな態度はおくびにもださない。
呂名家の係累に対する遠慮からか、焦らずとも欲しいものは手に入ると言う確信からか、得体の知れない静けさをまとって聞き役に徹している。福田の視線を風と受け流し、「ご謙遜を」と応じた声が含んで響き、呂名は福田の顔をうかがった。張り詰めきっているであろう内面を押し隠し、福田は揺らがぬ視線をマイケルに据え続けた。
「少なくとも、呂名英一はそう考えていない。あなたも……これで世界が変わると本気で信じているから、すべてを犠牲にして彼に協力をした。地位、信用、ご家族の安全まで」
家族。
その1語を強調しつつ、猛禽の鋭さを覗かせた碧眼が福田を見返す。
挑発的な言葉に乗せられてのことか。
逆にここが攻め時と冷静に判断しての事か。
どちらにせよ、福田の目の色が変わり、その手がソファの肘掛けを握りしめるのを見た呂名は「福田」と咄嗟に声を荒げていた。
「お前たちの計画が実効しようとしまいと、そんなことはどうでもいい。盗んだ金を耳を揃えて返せとは言わん。今、お前自身のことを考えろ。英一のことはいい。あれは独りだ。負わねばならん責任があるわけでもない。おまえは違う」
敢えて日本語で伝えた言葉に、半ば腰を上げかけていた福田がゆっくりソファに座り直す。どういうつもりかは知らんが、ここで貝の蓋を閉じられては後事に障る。無言の叱責に肩をすくめ、窓に向き直ったマイケルの様子を確かめてから、呂名は執務机を挟んだ向こうに福田の横顔を捉えた。
「GBNの幹部、それも世界のオンラインゲーム界に名を知られたミスターGBNが、詐欺の片棒を担いだと知られたらどうなる。システム情報を漏らしたと……いや、あのブレイク・デカール事件の引き金すら故意に引いたのだと知られたら? 事は呂名一族の問題では済まない。日本の、いやGBNの信用が失墜して、すべての基幹企業が有象無象の損害を被る。フェアチャイルドに質に取られるまでもなく、お前の家族は表を歩けなくなるぞ。彼らがどんな苦労を背負い込むか、考えたことはあるか? どこかの田舎にでも家族を呼び寄せて、人生をやり直すつもりでいるなら甘いぞ。事が公になったが最後、ブレイク・デカールの損失を恨みに思う世界中のスポンサーどもがおまえの命を狙う。どこにも逃げ場はない。〝財団〟やフェアチャイルドが手を下す必要もなく、お前は家族ごと抹殺される」
膝上に置いた拳を固く握り合わせ、福田は無言を返事とした。こちらを見ようともしないマイケルを一瞥し、背広の懐をまさぐった呂名は、取り出したものを手に席を立った。福田の傍らに歩み寄り、〝対策室〟の特資室員から預かったスマートフォンを差し出す。「今なら、まだ間に合う」と出した声に、福田はうつむけた顔をわずかに持ち上げた。
「お前の携帯だ。お前からの電話なら、英一も取る。すぐに掛けろ。そして言うんだ。計画を中止するようにと」
〝対策室〟に没収され、すべてのデータを抜き取られたであろうスマホに福田の視線が注がれる。ひどく重く感じられるそれを握りしめた呂名は、「気持ちはわかる、とは言わん」と低く重ねた。
「だが一方的に責めるつもりもない。ある意味、お前たちは被害者だ。呂名哲郎に歪んだ思想を植え付けられ、道を誤った。正彦や博司と同様、呂名家の呪縛に取り込まれた犠牲者だ。協力してくれるなら、私が万難を排してお前を守る。もうこんなバカな真似はやめろ。血を見るのはたくさんだ。博司叔父も、正彦も、お前たちが不幸になるのを望んでないぞ」
もう1度うつむき、深々と息を吐いた福田の手がのろのろと持ち上がる。呂名の手からスマホを受け取り、顔の前に持っていった福田は、しばらくは声もなく電源の落ちたディスプレイを凝視した。いったん閉じ、開くと、電源ボタンに触れて本体を起動させる。息を詰めてその様子を見守った呂名は、不意に顔をあげた福田に正面から見据えられた。
「今までの私なら、従ったでしょう。いえ、従ったんです。自分自身の弱い心に説得されて、私は協力を求めてきた正彦の手を振り払った」
微かに震える手でスマホを握りしめ、福田は続けた。「でも、今は従えない。従ったら、今度は正彦を見殺しにするだけじゃすまない。もっと大きな罪を犯してしまう」
スマホをジャケットの懐に差し入れ、衰えない目の光をこちらに据え直す。
否。
その字がその全身から滲み出し、呂名は気圧された思いで、1歩あとずさった。交らわせた視線を動かさず、「もうそういうことじゃないんです」と福田は言葉を継いだ。
「正彦が行動を起こした時には、まだ事態はさほど進行していなかった。従来のやり方を続けていても、ELダイバーにはまだ伸びしろがあると信じられるだけの余裕があった。でもあれから年月が過ぎて、状況は正彦が……呂名哲郎が予言した通りに進んでいる。あなたにはわかっているはずだ。このまま同じことを繰り返していたら、ELダイバーたちには未来はない。100年後だってない。私たちの暴走で膨れ上がったデータの塵が、いまに実体をもってELダイバーの首を絞めにくる。世界中のエンジニアが協力しても、収拾がつかない。そもそもがこの世に存在しないデータたちです。その時はブレイク・デカール事件や異星人襲来程度じゃ済まない。GBNも、そしてELダイバーたちの存在も否定されてくる。ELダイバー人口の半数が、生きるという事を放棄する時代がくる、という事です。
幸い、私は呂名一族の血筋だ。どんな時代が来ても、あの程度のELダイバーたちを生き残らせることが出来るでしょう。でもそれが幸いといえますか? GBN……いえ、ネットワークの大半がスラム化し、苦しむ人々に敵意の目を向けられて、奪われる恐怖におびえながら、自分損得で選び出したELダイバーたちを高く張り巡らせた囲いの中で暮らさせる。そんな未来を残して、最善を尽くしたと言えますか? だったら――」
「いい加減にしろ!」
発作的に出した大声が理事長室の空気を震わせ、自分の耳をも聾した。ちらと目だけ動かしたマイケルを見て、微動だにしない福田を見下ろした呂名は、両者に背を向けて執務室に手をついた。
「呂名哲郎が言ったこと、あれは戯言だ。『A金貨』でGBNの未来を狂わせた償いに、できもしないことを口走っているだけだ」
「正彦はそう考えなかった。英一も……。彼は答を見つけたんですよ。おじさん、私やあなたには見つけられなかった答を。はるか昔、呂名哲郎が『A金貨』を手にした時に出された問いかけに対する答を」
「未整備エリアに対する投資、ELダイバーたちに対する投資とやらがか? そんなものが、なんの――」
「だから、そう言っているじゃありませんか。成功の当てもない、取るに足らない話だって。彼は納得していないようですが」
マイケルの方を顎でしゃくり、福田はソファの背もたれに寄りかかった。肩透かしを食らった間の悪さを感じる暇もなく、呂名も泰然と窓辺に立つマイケルを見やった。それにしても、なんと涼やかな顔で傍観者を気取れるものか。思う間に「一応、翻訳しといてやる。俺の答はノーだ」と福田が言い、肩をすくめるマイケルの姿が夕陽の光に浮きだった。
「どのみち、もう計画は止められない。金は俺の部下を通じて各国の銀行に振り込まれている。みんな、発注された仕事を請け負った善意の第3者だ。仮に俺を告訴したところで、業務をストップさせることはできんぜ」
「でしょうね。私もそれは期待していません」
あっさりと言い、マイケルは革靴を履いた足を1歩こちらに踏み立たせた。わずかに身構えた福田を見つめ、ゆっくりと背後に回り込むと、「〝A〟……呂名英一が自らの素性を明らかにするのは、あなたにとってもイレギュラーな事態だった」と噛んで含めるように言う。
「計画が本来の形で進んでいれば、〝A〟の正体はいまだ知られることなく、あなたもここにはいなかった。無関係なミスターを装って運営に働きかけ、ヲチカタの投資事業を新プロジェクトにすり替えるつもりだったのでしょう?」
福田の眉がぴくりとはね、図星を指された動揺がその瞳に滲む。想像外の話に、呂名はあらためてマイケルの顔を見やった。
「10兆円の穴埋めをしようと思えば、〝財団〟はもちろん、その担保元となる日本政府銀行も莫大な損失を被る。すでにオンライン事業漬けの日本政府としては、この上さらなる借金を背負い込むのは何としても避けたい。この犯罪行為によって投下された10兆円を正規の資金援助と見なし、時間をかけて回収する膳立てを整えてやればいい。ネット屋の理屈ですよ。相手が破産するよりは、例え少しずつでも返済してくれる方がありがたい。利子分に届かぬ額であっても、返し続けてくれる限りは不良債権にせずに済む」
ぎゅっと拳を握りしめ、福田は脂汗の滲む顔をあらぬ方に逸らした。そうでなければ、彼には事が始まる前に国外に脱出し、家族ともども雲隠れするという選択肢もあった。英一が自らロシアに渡る段になって、自分だけが急きょ国外に逃亡せざるをえなくなった無様は、本来、事の後に日本国内で仕事が残っていたからに他ならない。
言われるまで思いつきもしなかった自分も愕然としつつ、そうなのか? と呂名は福田に目で問うた。福田は顔を背けたきり、こちらを見ようとしなかった。
「始まってしまえば、日本が国家を挙げてGBNを支援するをえない状況の創出……。それが、あなたと呂名英一が考えた計画の本意だ。なるほど、確かに〝システム〟から外れていない。自分の顔でものを考えられない連中を従わせるにはいい手だ。10兆円の負債を抱え込むか、我々の不興を買ってでもそれを支援事業に切り替えるか。損得勘定の天秤にかけてやれば、空っぽの連中も決断するでしょうからね。〝システム〟の名に従って」
マイケルが続ける。責任を取りたくない責任者が集まっている、日本と〝財団〟の事情を知り抜いた者ならではの巧妙な手口――だが、そこまで考えられた計画なら、英一はなぜ土壇場でそれを反故にするような暴挙に出たのか。
福田はなぜ止めなかったのか。
考えてもわからず、福田の方に向き直った呂名は、「ひとつだけ教えてくれ」と英語の声で切り出した。
「仮におまえが国外に逃げおおせたつもりだったとして、家族はどうするつもりだった? 英一は、この計画で犠牲者がでるのを恐れて〝A〟の面を割った。それが事実なら、おまえの家族はどうなる? お前が逃亡したあと、人質に取られる事を考えなかったわけでもあるまい。誰かを救うために、他の誰かを犠牲にせねばならんというのは、本末転倒ではないのか?」
聞いてどうする。
思いつつも、確かねば先には進めないという予感に疑いはなく、呂名は白いものが目立つ甥っ子の頭を見下ろした。
しばしの沈黙。疲労の差し込む顔を持ち上げた福田は、「なにもわかっていないんですね」と低く英語で呟いた。
「私はともかく、英一が……あなたの実の息子が、父親にそこまで絶望しているとお考えですか?」
まっすぐな視線に問い返され、呑み込んだ息が吐き出せなくなった。自分なら、福田の家族をフェアチャイルド側に引き渡したりしない。最悪の事態になる前になんらかの手を打ち、守ってくれると信じたというのか?
今さらなにをいう。
勝手なことを憤る一方、意識の外にしていた父子という関係性に喉を塞がれ、呂名はよろけそうになった体を執務机の縁に押しつけた。
『A金貨』に取り殺された弟、博司の生まれ変わりのようなタイミングで誕生した英一。
それゆえというべきか、父親として向き合いきれなかった自覚のある2人目の息子が、最後の一線でこの父を当てにしていた。正彦に続いて造反の道を突き進みながら、なお父に絶望していないと――。
「重要なことは」
2、3秒にも満たない間だった。マイケルが沈黙を断ち切る口を開き、呂名は焦点の定まり切らない目をそちらに向けた。
「ミスター福田はまだすべてを話していない。高性能な携帯端末、GBNの未整備エリアの整備化、ELダイバーそのものに対する投資、キーワードは伺いました。しかしそれらを関連づけ、機能させる理論……システムの中身に関しては、意図的に説明をぼかしている。そんなものはない、なんて言わせませんよ。後追いで正規のGBN事業にスイッチさせるつもりでいたからには、GBNのお歴々を説得するための材料が用意してあったはずだ。この一見バカげた慈善事業が、スポンサー企業にいかなる利益をもたらすのか。成功すれば他者も追随する。先物買いをしておくべきだと思わせる根拠はなにか。いや、それ以前に、どの段階で、なにをもって成功するのか」
言いながら、マイケルはソファの背もたれに手をつき、前を見て動かない福田にそっと顔を寄せた。「そのへんの理論が確立していない限り、〝システム〟を変えるとは言えない」と耳元で囁かれた言葉に、隈で縁取られた福田の目が小さく震える。
「あなた方が命を賭ける理由もない。無論、推測してはいますがね。あなたの口から聞かせていただきたいものです」
触れ合うほどに近づけていた顔を不意に離し、1歩ソファから後退する。冷ややかな笑みの下に殺気をたたえる碧眼を盗み見ながら、たしかに具体はまだ見えていないなと呂名は認めた。かつて正彦がやろうとしていたアップグレード版、という言葉から推測できる部分はあるが、その計画によって世界がどう変化するのか、英一らが想定するところは語られていない。福田はまたひとつ深い息を吐き、両肘を膝にのせた。手のひらで脂の浮き出た顔をごしりとこすり、「わざわざ話すまでもないと思ったんだがな」と吐息混じりに言う。
「俺は臆病者なんだ。正彦の時には背を向けたような男が、妻子持ちのいまになって高台から飛び降りる気になったのはなぜだと思う? 下地ができてるからさ」
「下地……?」
「言ったろう。世界の暴走で、そのうち数字だけ膨れ上がらせた負債がのしかかってくる。アップデートにアップデートを重ねてきた代償、世界規模の信用破綻が起こって、ELダイバーの半分が生きられなくなる時代が来る……。ほんの前なら『まさか』って笑われる、与太話だ。だが、今は違う」
首をひねり、福田は背後から見下ろすマイケルの顔を直視して続けた。「ちょいと目の利く人間なら承知の話だし、ゲームなんか興味もないって連中も、10年後の世界がいまもよくなるとは誰も信じていない。尻の下で時限爆弾がカチカチ鳴っているって聞けば、そうなんだろうって無条件に納得させられる空気がある。アップデートだ、ガンプラの売り上げが軒並み上昇だって浮かれたところで、莫大な借金が将来に先送りしてる不安からは逃れられない。これが下地だよ。危機に対する世間の認知度、需要といったっていい。この潜在需要の……多いか少ないかの違いが、正彦の時代と現代の違いだ……って、ここまで言えばあんたには十分だろう」
冷笑を拭いきった碧眼が、福田を凝視する。しばらくの沈黙のあと、マイケルはふっと笑った顔をうつむけ、「古いアニメ作品で見たことがあります。ニュータイプと呼ばれた宇宙に住む人類は、太陽系を去っていった」と詠うように言った。
「その代わり、現代ではELダイバーと呼ばれる生命体が誕生している。ですが、その救済の手段が確かなら、進んで手を貸す者もいるかもしれない」
「やっぱりわかってんじゃないか。そういうことさ。現代のニュータイプは、民衆の潜在需要を利用する。言い訳みたいな無償援助は必要ない。有償援助、つまり投資だな。太陽系を去る準備を活動に組み込めばいいんだ。善意のシステム化ってやつだな」
その言葉が腹の底に落ち、自分でも存在を知覚していなかったなにか。奥底に眠るなにかと響きあうのを呂名は感じた。
善意のシステム化……。
口中に繰り返しつつ、再び笑みを吹き返したマイケルの顔を見て、正面に顔を戻した福田を見る。「言うほど簡単なことじゃない」と独りごち、福田は握り合わせた拳を額に押し当てていった。
「だが、逆立ちしたってできない話でもない。規模は小さくても、同じようなことを始めている国や企業はある。まったく別の分野で、世界規模で成功した実例もある。ちょっとした発想の転換なんだ。あの10兆円……呂名哲郎が遺した『A金貨』を使って、英一はそのためのモデル事業を世界に示そうとしてるんだ」