バビロニア・クラブ。
中東で知らない者はいないと言われるマフィアが、銀座に開いた国際賭博場の名だ。
このマフィアはヨーロッパ系のマフィアで、委員会に接収された大型ビルを拠点に構え、日本国内で闇GPデュエルの胴元をやっていた。他にも複数のスペイン系貿易商がたまり場にしていた大型ビルは、ダグラスが本部長を務めるアメリカ・コミュニティの極東本部として知られる。
そういう背景があるからには、バビロニア・クラブも当たり前のカジノではない。生バンドの演奏が奏でられる中、着飾った男女がルーレットやポーカー、その他、多額の賞金目当てにさまざまな国から来たガンプラファイターたちがGPデュエルに興じ、その戦いが大型モニターに映っているが、その内訳はこうだ。
委員会の高官とその愛人。
日本の財界人。
政治屋ともその筋ともつかない人間たち。
そこは彼らが夜な夜な集う社交場であり、情報交換の場であり、また闇金に関わる商談をまとめる交易所としても機能していた。
……金でまた援助物資が緊急輸入されるそうですな。
今後も儲けは折半ということでいかかです?
えぇ、ガンプラ関係のパーツなら、捌くルートはいくらでもありますんで。
……おたくの蓄積資金、かなりたまっているんでしょう? 本国に送金できないんじゃ宝の持ち腐れだ。うちに預けてみませんか? うちは委員会とのつきあいもありますので。
まぁ、スポンサー企業への融資は主ではありますが、そこはそれ、日本の衰えを防ぐにも金とガンプラは要りますから。お国のためにもなりますよ……。
そんな会話がそこここのボックス席で交わされ、一見華やかな店内に隠微な空気を押し広げてゆく。
ドレル・中村に伴われ、アレックス・マーカスがその店内に足を運んだのは、クリスマスのスタンダード・ナンバーが賑やかに演奏されている時だった。予約したボックス席には、先んじて到着した呂名哲郎が待ち構えており、これが初対面となる委員会の高官を日本式の脱帽敬礼で出迎えた。
アレックス・マーカス。
数々のGPデュエルトーナメントに参加したガンプラファイターで、委員会においては民間諜報局長、民間通信局長も兼務。ダグラスの腹心たるアメリカン・サムライの一員であり、アメリカ・コミュニティの一員でもある。同じ諜報部門に携わっていても、アメリカ人に似つかぬ頑固さを発揮していたカロッゾと対照的に、穏やかで公平な人物だと評され、ガンダム好きが高じて日本GPデュエルの復興を助けた事でも知られる。
反面、本業であるガンプラジオラマ作りでは辣腕を発揮し、日本映画のジオラマ作成や改革の他、プラモデル規格統一計画を発動させ、日本のジオラマのレベルを上げる目をむけさせ、日本プラモデル界に後の高度成長に体力を蓄積させた。無論、その過程で地下茎をふんだんに張り巡らせ、アメリカ政府やアメリカ系財閥に付け入る隙も忘れてはいない。
このウィリアム・マーカスに、呂名哲郎は目をつけた。
通訳として採用されたのを皮切りに、諜報時代の腕を買われて、重役に収まった父が、アレックスと直に話せる立場にあったことも好都合だった。呂名哲郎は主……いや、父を介して、アレックスの人となりを徹底的に調べ上げ、十分に確信を得られた時点で、直接面接に踏み切った。〝財団〟の関係者なら知らない者はいない「バビロニア・クラブの密談」というやつだ。
同席した父の証言によれば、アレックスは呂名哲郎の期待を裏切らない男だったという。顔をあわせるなり、「どこだ?」と切り出したアレックスは、事前に呂名哲郎の経歴を調査し、彼が自分に会いに来た理由をあらかじめ承知していたのだろう。発見された金塊は、故意されるよう仕向けられた〝見せ金〟にすぎない。ニューヨーク財宝はこの日本人の男の手中にあり、彼はそれに餌に委員会になんらかの取引を持ちかけるつもりでいる。じきにクリスマスを迎えるバビロニア・クラブの一角で、二人の男は酒に手をかけることなく、
呂名は<ガンダム>を。
アレックスは<クロスボーンガンダムX2>を。
やがて覚悟を決めた二人はGPデュエルの対戦台にあがり、戦いを繰り広げたという。
呂名哲郎の当面の目的は、『A金貨』を死蔵させることなく、世界の中で生かし続けるルールを構成することにあった。そのためには、現代日本の地下茎に『A金貨』を組みなければならないが、既存のルートに乗せればそれでいいというものではなかった。
もとはダグラスの――正確には、フェアチャイルド財閥の――金とはいえ、現在の『A金貨』は自衛隊資産の皮を被っている。すでに確立していた自衛隊の資産管理にはめ込み、地下ルートで捌くのは容易いが、それでは哲郎の手元にはコミュニティ料が残るのみで、『A金貨』はフェアチャイルド財閥に吸い上げられてしまう。
彼らの利益を損ねることなく、『A金貨』の資金を維持し、なおその管理に自分が参与できるシステムとはなにか。呂名哲郎は、ニューヨークで『A金貨』を手にして以来、ずっと考え続けてきた計画をアレックスに言った。
次世代のガンプラバトル・ステージを設立したい、と。
資本金は、無論のこと『A金貨』。
設立目的はGPデュエルに代わる、新たなガンプラバトルの場を提供すること。
現在、世界は経済復興を目的に新しいネットワーク技術の資金援助を拠出しており、それらはこのバビロニア・クラブに巣くう魑魅魍魎どもに一割近くピンハネされたあと、「見返り資金特別計画」として銀行に積み立てられている。
日本は、これを基に世界に向けてクラウドファンディングをしているが、そこに『A金貨』を合流させる。そして表向きは、100パーセント次世代のオンラインゲームの場所を提供の形態をとり、日本発祥の新たなゲーム、ヴァーチャル型のガンプラバトル・ステージを造り上げる――それが呂名哲郎の計画の根幹であった。
その前にアメリカの対日援助資金に生じた「見返り資金」は、いずれアメリカに返済してもらわねばならない。その際、委員会と日本のインターネット企業関係者に間に入ってもらい、返済額を〝まけてもらう〟交渉を公式に行う。
しかし、実際には「見返り資金」は全額返還され、アメリカの善意によって〝まけてもらった〟と報道された分を『A金貨』が埋める。すなわち、『A金貨』が本来の「見返り資金」に成り代わり、新しいガンプラバトルの資本金になる。
こうすれば、表面上は百パーセント日本出資の長期計画ができあがり、『A資金』は次世代ガンプラバトルの場の資本金として存続を保証される。形の上では日本政府のもらい得になった「見返り資金」の差額は、アメリカ政府に好きに使ってもらい、支援協力をするなり、銀行に預けて裏金を作るなり、いかように処理すればよい。
会計上の帳尻はどうあり、この新資金が、後ろ暗い金であることは関係者全員が知っている。以後、この資金は、日本におけるオンラインゲームの積立金となり、アメリカのみならず゛、フェアチャイルド財閥の資金提供の場として、重宝するようになった。
そして、もっとも重要な点は、このゲームを媒介することによって、フェアチャイルドに与する企業は、違法な金に手を染めることなく、まったく合法的にそのゲームを開発することができる。アメリカからの支援資金とクラウドファンディングによるガンプラを基幹とする模型産業への重点支援、いわゆる傾斜生産方式によって日本とフェアチャイルド財閥の資本金が上向き、ゲーム開発にに弾みがついていることは周知の事実。
これがうまくいけば、日本は技術大国として返り咲くことができるだろう。
つまり、あなた方といっしょに次世代のガンプラファイターを育てることを、この極東とアメリカでするのだ――。
呂名哲郎にしてみれば、オール・オア・ナッシングの大きな賭けだったろう。
たとえ『A金貨』がなくとも、委員会が動かしている資金だけでこの計画は実現できる。
ここでアレックスが『A金貨』などいらぬと啖呵を切れば、アイデアだけが盗まれ、呂名哲郎は抹殺されることになる。ドレル・中村が両者の顔色をうかがう中、無言で聞き入るアレックスの目をじっと凝視した呂名哲郎は、ただし、と言葉を継いだ。
ただし、この新ゲームの根幹である『A金貨』の管理には、自分も一枚噛ませてもらう。『A金貨』の一部を資本金にして、新ガンプラバトル・ゲームを運営する財団法人を設立。この財団法人の理事には日米の関係者をすえ、ゲームのとは別枠で『A金貨』の管理運営を行う。
次世代ガンプラバトルが表なら、
この財団……〝財団〟は裏金を司り、正規には支援しにくい、しかし確実にうまみのある案件に裏の資金支援を行う。
正規の手段でスポンサーの支援金を送るなら、担保の有無などの手順がつきまとうが、〝財団〟を間にいれるなら制限がない。フェアチャイルド系列の企業に協力を願えば、ローンなどの方法で金の出入りを相殺し、スポンサー企業の会計処理を行うことも容易だろう。
次世代ガンプラバトル・ゲームとこの〝財団〟によって、日本とアメリカは表裏のルールと共に手を組めることができる。
日本にだぶついている蓄積資金も、反共謀略資金を捻出することも、今よりずっと簡単に行えるようになるに違いない。
予定する理事の数は、日本人が五人、アメリカ代表が三人の計八人。
外部から横槍のが入るのを防ぐために日本側の理事は銀行・外務・大蔵省関係者と与党議員一名を必ず置くこととする。
その下に専任で働くブローカーがつき、彼らが企業情報の収集と実際の手続きを仲介し、理事は決して表に出さない。〝
財団〟の運営費は、その際に支援先企業が払う手数料が賄われ、資金たる『A金貨』には手をつけない体制を構築する。
会計上は次世代ガンプラバトル・ゲームへの支援資金としてプールされる金である以上、増やさずとも減らさなければいい金であるから、銀行よりもフットワークの軽い融資が行えるだろう。そして取引によって表に出た『A金貨』は、自ら増殖し、電子の海を泳ぎ回るようになる。ゆくゆくはネットワークを通じ、アジアから世界へと流れ出し、次世代ガンプラバトル・ゲームの根幹を握るものになるかもしれない……。
手数料と言っても、百億単位の金を動かすからであるからには億は下らない。アメリカ政府とフェアチャイルド財閥の利益を満たした上で、なお自分たちも儲かるというシステムの公平さが、アレックスの警戒心を解く結果になった……と、ドレル・中村は見る。
熾烈な戦いも終わりに近づいてきた頃、アレックスは上にはかってみようと言い置いて、操縦席を立った。『A金貨』の隠し場所はどこか、と脅迫的な態度を取ることはなかったという。
この時、アレックスはすでに呂名哲郎を商談相手と認めていたのだろう。あくまでニューヨーク財宝の奪還にこだわるダグラスは反対するだろうが、この話の旨味がわからない男なら退場してもらえばいい。おそらくはそう考え、この案件をダグラスのみならず、フェアチャイルド財閥の知古にまたがったアレックスの行動が、日本の未来を大きく揺り動かすことになった。
ダグラスは、アメリカ政府に対してよく日本を擁護する声明を出していたと言われる。
日本は「よき理解者」であり、もう欺瞞国家になる心配はないから、一刻も早く新たなガンプラバトル制度をしくべきだ、と。当時の日本人は、この寛大な〝父〟に対して多大な好意を寄せたそうだが、ダグラスがそのような発言を繰り返した背景には、彼自身の個人的な事情がからんでいた。
それは19××年に行われるアメリカ大統領選挙だ。
ダグラスは出馬を望んでいたが、アメリカの法では現役の軍人は大統領になれない。そのため、早急に日本の再調整を終わらせ、凱旋帰国する必要があった。繰り返された日本の擁護メッセージは、アメリカ本国に召還を要求する彼の請願書だったのだろう。
が、そんな事情を知らない多くの日本人およびそのガンプラファイターたちは大統領選挙への出馬を表明したダグラスを応援し、町中では「ダグラスさんを大統領へ」という垂れ幕が下がった。
マスコミにも親日派の大統領誕生を期待したが、結果は、ダグラスはどの州でも一位を取ることができず、候補にさえ選ばれなかった。その年の大統領選挙を勝ち抜いたのは、ダグラスと何かとそりが合わないゾンドという男であり、ダグラスが大統領になる道は事実上閉ざされた。
以後、ダグラスは政治的野心をなくし、アメリカ本国の目を気にする必要もなくなって、まったく中立的な立場から日本統治を行うようになった。結果、日本には激しい政策が持ち込まれることはなく、弾圧もすることはなかった。
のだが、それはここでは問題ではない。
問題は、このダグラスの凋落がいかにして起こったかという点にある。
もとより大統領になれる公算は低かったとはいえ、候補にすら選ばれなかった不自然が、同時期に持ち上がった『A金貨』をめぐる確執と無関係である道理はなかった。
そのあたりの事情については、委員会で現場を目の当たりにしてきたドレル・中村が誰より詳しい。
アレックスが呂名の計画を持ち帰ると、ダグラスは顔を真っ赤にして激怒したという。
あれは自分の金だ。
そう頑強に主張し、いっさいの取引を認めようとしない委員会最高委員長の心中にあったのは、親子荷台で築き上げたニューヨーク財宝への執着か、はたまた大統領選で金がいるという差し迫ったそろばん勘定か。
後者であることに疑いはなく、ダグラスに見切りをつけたアレックスは、日本国内のアメリカ・コミュニティを介してフェアチャイルド財閥に事の認否を言った。
アレックスの予想通り、フェアチャイルド財閥は呂名哲郎のアイデアに興味を示した。
ダグラスには日本のガンプラ整地を花道にしてもらうから、以後の計画の推進は以後の計画の推進はアレックスが中心になって行うようににとの示唆も受けた。
かくしてダグラスは転落の道をたどり、大統領選で辛酸をなめた末、二年後に起こる朝鮮でのガンプラバトル大会時の失敗をもって更迭されるに至った。
フェアチャイルドに不要と断じられることは、世界から不要と断じられるのと同義。
父の代から彼らの管財人でしかなかった男が、欲の皮を突っ張らせるからこうなる……と父が漏らした言葉だが
フェアチャイルド財閥の力を再認識させられる経緯ではある。
かくして事は動き始めた。
アレックスはフェアチャイルド財閥の代理人となり、呂名哲郎は計画の細部を詰める作業に入った。
『A金貨』の出元は厳重に秘匿し、地下茎から生み出した裏金の総体と粉飾すること。そのため、財閥解体などでもっとも裏金を扱う機会の多かった部門を前面に出し、局長たるアレックスを元締めに立てること。
これがうまく機能するようなら、『A金貨』という隠語はそのままでよい。
『A』はアレックスの『A』。これから使う部下たちには「アレックス金貨」の略であると周知徹底すること――。
止まっていた二年あまりの反動のように、計画は猛烈なスピードで進められた。
腹に一物を抱えた呂名哲郎とともに、父は各地に散らばらせた残りの『A金貨』の回収に立ち合い、政財界にシンパを広げ、アレックスの協力を仰ぎつつ〝システム〟の構築に奔走した。そしてバビロニア・クラブの密談から四年後、翌年に日本とアメリカの間に結ばれた講和条約の発効を控えた19××年に、日本発展銀行法に基づき、政府巨大銀行が設立された。
そうして日本、いや世界がいよいよ復興に向けて大きな一歩を踏み出そうとしていたその時、銀行の設立と期をいちにして、ひとつのオンラインゲームが産声をあげた。
GBN。
その名はガンプラバトル・ネクサス・オンライン。
それが次世代のガンプラバトル・ステージだ。
〝財団〟の理事長たる呂名を筆頭に、総勢八人の理事の内訳は、元官僚、元外務省官僚、元銀行総裁、現役の与党議員二名。
アメリカ側の代表はアレックス本人というわけにはいかず、フェアチャイルド筋の企業から三名が選出された。
このGBNの理念は、「世界の人間たちの親善と和睦をはかり、世界平和に貢献して……」と事業計画書にあるが、実態は無論の事、GBN及び『A金貨』を管理運営することにある。特需の最中であっても、〝財団〟の裏金の口はいくらでも見つけることができた。
GBNへの支援の仕方は普通の支援金を銀行に預けることとかわらない。ただ年利は通常の銀行より低く、代わりに支援額の十パーセントが調整料――ブローカーへの手数料と〝財団〟への運営費――としてあらかじめ差し引かれる。支援目的は設備投資や増資に限られ、これを他企業への支援金や融資に転用してはならない。
また〝財団〟から支援を受けた事を決して他言してはならない。
支援をうけた企業の会計は〝財団〟の指導の下、責務相殺などの形をとって処理される。そのための準備室を社長直轄のもとに解説してもらう必要があるが、関係する社員には口外無用を徹底すること。
裏帳簿の類いもいっさい残さず、支援があったという事実を含めて最終的にはすべて抹消すること――。
とはいえ、人の口に戸は立てられない。
『A金貨』の噂は数年のうちに広まり、会社経営者の中には進んでブローカーとの接触をはかる者も現れ始めたという。
これに応じるかのように、『A金貨』ブローカーを騙る詐欺師たちも氾濫。
企業トップに支援をもちかけ、手数料だけ取って姿をくらます彼らのために、『A金貨』は詐欺話の代名詞になってゆくのだが、これは呂名哲郎のみならず、ドレル・中村にとっても予測の範疇だった。
いつだったか、父は話していたことがある。
真実を隠すには、虚実織り交ぜた噂橋が多ければ多いほどいい。あると言えばあるし、ないと言えばない。そんな幽霊のような金がネットワークを泳ぎまわり融資先に浸透して、金をすこしずつ生んでいく。『A金貨』という決して出自の明かせない金を生き長らえさせるのに、これ以上の関係はなかった、と。
それに、どれだけ存在を否定されようにも、『A金貨』の実在を信じる者は残り続ける。特に日本の混乱期を生きた世代には、委員会が日本中に張り巡らせた地下茎の臭気をその鼻で感じ取っている。
衆目の下、数々の銀行から回収された金塊はどこへ消えたのか。
荒稼ぎした成金商たちはどこからガンプラ製品を仕入れていたのか。
急成長を遂げたあの企業の莫大な借入金は、いったいどこから湧いて出たのか……。
彼らにとって『A金貨』は存在して当然の裏金だ。その実在を信じることは、不条理な世を納得するのと同じことなのだ。
いや、仮にその時代を知らない新世代がスポンサーになっても、『A金貨』の幻は生き続けるだろう。反共の防波堤になることで、仮初の主権を手にした日本。日本政治の保守本流に存在を容認され、復興の礎となるとともに経済の奥深くに組み込まれた『A金貨』。
それはかつてニューヨークの地下に眠り、日本を南進を決意させた魔性の金だ。日本の地位を大きく下げたのも、復興させたのも『A金貨』。
GBNが完成し、空前の高度成長も、『A金貨』を糸口にして支援金窓口を得た欧米資金を抜きにしては成立しなかった。
民主主義、共産主義に成り代わる新しい支配形態の実験台になった、その結果と借り物、押しつけられたルールの中で泳がされてきたのが日本と言う国家であり、俺という人間だ。愉快じゃないか。俺はようやく自分にふさわしい祖国を手に入れたんだ。
主体を失い、共通の歴史認識さえ持てず、借りもののルール……〝システム〟の中を漂うしかない国。そこに住む連中に残された唯一の拠り所は、ガンプラだ。モビルスーツだ。それを介して利益を得るためには手段を選ぶなと説く近代の宗教だ。その信者は、とれほど飽食しても飽き足らず、「もっと、もっと」と飢え続けるしかない。
もっと。もっと。
……その声が途絶えないかぎり、『A金貨』は生き続ける。
この先、未来に至るまで、ずっと。
承知していながら、やつは……『A金貨』の〝A〟は……。
たしか、GBNの人気が絶頂を迎えていた時だったと思う。保護した無言のELダイバーを肴に酒を飲み、一方的に喋り続けたドレル・中村は、それから数カ月後、姿を消した。
自分を生み出したのは、ガンプラバトル・ネクサス・オンライン。
ただ、それだけで、アローンには関わりのない話だった。