ガンダムビルドダイバーズ 〝A〟   作:ジ ュ ン

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やっとこさ戦闘します。


第五話

 いつ、なにがきっかけかはわからない。

 あるいは最初から感じていて、歳をとるごとに強く実感されるようになったのかもしれないが、ここ数年の悪化ぶりには我ながら震撼させられるものがある。

 ひとつ〝仕事〟を超えると、どうしようもなく不機嫌になる感覚。

 これはもう持病と言っていい。ルガールとの一件はきっかけに過ぎず、〝仕事〟が終わると放っておいても、不快の波が押し寄せ、ささやか達成感を押し潰して心身を塗りこめてしまう。それから数日間は、ろくに外出もせず、自宅のマンションで世を呪うがごとく、ダイバーギアを被り、GBNに入り浸るのが、世の常だった。

 絶えず精神的な綱渡りを強いられる職業のこと、過度のストレスから重度の鬱病にかかる者も多いが、これもその一種なのだろうか? カモをハメてゆく時の、あの痺れるようなな快感――背徳の疼きと表裏一体の、全能感に近い快感の反動がこれだというのなら、わからない話ではない。

 なにごとも代償は付き物とあきらめ、10日やそこらの鬱状態を受け入れるのもやぶさかではないが、これはそういう種類のものではなかった。〝仕事〟に打ち込んで紛らわせているものが、終わった途端にずしりとのしかかってくる感じ。強いて言葉にするなら、そう表現にしたほうが近い。

 では、紛らわしているもの――エイジは<ジム・スナイパーⅡ>のコクピットに収まっていた。

 レーダーが近距離―接近戦モードに入る。レーダーが拡大され、<バスターガンダム>がレーダーレンジに入る。

 レバースイッチを思いきり、前へ。

 そのままペダルを力の限り、踏み続ける。

 スラスター全開。

 Gがかかり、体がシートに押し付けられる。G緩衝システムが作動しているおかげで、身体に負担は少なかった。

 <バスターガンダム>、攻撃態勢。その場で2丁の射撃兵装を合体させ、長大なライフルを作る。……が、その行動が数秒のタイミングのずれとなった。

 接近。インレンジ。

 <ジム・スナイパーⅡ>は長大なライフルを空いた左手で弾き、右手に持った短刀で、<バスターガンダム>の顔面に根元まで強く刺突。そのまま上下に動かしてメインカメラをズタズタに。

 敵機の頭部が損傷。中のダイバーは慌てているに違いない。

 接近警報。

 レーダーを確認する。

 ……までもない。後ろだ。撃破したいという"心理〟が大学生の性欲以上に丸見えだ。

 中距離-遠距離センサーをスーパーサーチ。出力、パルス値を最適状態にし、目標を追跡。

 モビルスーツが数機、が遠くからこちらを狙っている。

 エイジは片方レバーを倒し、もう片方のレバーを引く。前面モニターの計器を操作をして出力を上昇。

 <バスターガンダム>の両肩をつかむ。そのまま<ジム・スナイパーⅡ>を反転させた。

 この機体の装備する新型バックパックと新型スラスターがもたらす高出力であるがこそできる芸当だ。

〈な、何を……〉

 男のダイバーの狼狽え声を右から左へと流す。

 斜面を下りながら、ビームライフルを装備した<陸戦型ガンダム>や、カービン・ライフルやら多彩な火器を装備した<105ダガー>などの量産機で構成された部隊が降りてくる。

 こちらへと乱射。

 <バスターガンダム>を"盾〟がわりにして、背後に。粒子ビームが<バスターガンダム>の装甲を容赦なく溶かす。

 <バスターガンダム>は、フェイズシフト装甲と呼ばれる特別な装甲を持ったモビルスーツだ。カーキ色で塗装された人型に、精悍なデュアルアイ。マッシブな装甲をまとった堅牢なシルエットは"ガンダム〟モビルスーツなのだが、粒子ビームによって溶けていき、無惨な姿をさらしてゆく。衝撃に強いはずのフェイズシフト装甲はビームにはまったく機能しなかった。

 <ジム・スナイパーⅡ>は"盾〟としての機能しなくなった<バスターガンダム>を捨てた。

 遠距離-狙撃用レーダー、スーパーサーチ。

 エイジは瞬時に次の敵にロックオンカーソルを合わせる。

 <ジム・スナイパーⅡ>は、地球連邦軍の量産型モビルスーツ<ジム>をエース用にカスタマイズした<ジム・スナイパーカスタム>と同じコンセプトで生まれたモビルスーツだからできることである。

 GBNでも初心者用に人気の<ジム>の上位互換として人気の機体だ。無論、こいつはエイジがカスタマイズしたものでただの機体ではない。

 全体のシルエットは、<ジム・スナイパーⅡ>を引き継ぐものだが、様々なバージョン・アップが為されている。その腰の両側にはナイフの刀身を延長させた短刀を装備。ビーム・サーベルを廃止、ハンドガンを2丁とスナイパー・ビームライフルを装備しており、全体的な印象としては荒野のガンマンをイメージさせないでもない。

 下手にガンダム・タイプを扱うよりも、こういうタイプの方が扱いやすいのがエイジの好みだった。

 レーダーには数機、こちらは1機。

 マニュアル道理なら、この場から離れるべきだったが、エイジはそうしなかった。

 コクピットの前面のパネルを操作する。兵装選択。

 <ジム・スナイパーⅡ>の腰から、スナイパー・ビームライフルを、装備させて構えさせた。

 優先目標は丘に陣取っている、一番左側の180ミリキャノンを装備した<105ダガー>。

 頭部の額部分には精密射撃用のバイザーには、精密射撃用にアクティブセンサーと高感度カメラを装備しており、精密射撃ができる。

 が。バイサーを下ろす時間が惜しい。

 1番左側にマニュアルで、照準。発砲。

 スナイパー・ビームライフルから粒子ビームが発射される。手持ちキャノンに命中。<105ダガー>はキャノンごと吹っ飛んだ。 

 続いて、もう1機。

 照準。発砲。

 スナイパー・ビームライフルから放たれるビームで<陸戦型ガンダム>のコクピットを正確に射撃。機体の胸部は融解を起こし、爆発。

<ジム・スナイパーⅡ>は立ち上がって、頭部メインカメラを最大望遠。辺りをスキャニング。戦術コンピュータをスーパーサーチ。

 多数対少数と戦う際には、端の敵から確固撃破するのが鉄則だ。中央から突破しようとすると左右から支援攻撃が来る危険性がある。どんな高性能のモビルスーツを扱っても、撃破の可能性は否めない。ここ、ハードコアディメンション・ヴァルガならなおさらだ。

 エイジはフットペダルを踏んで、右にレバーを倒す。その通りに<ジム・スナイパーⅡ>のスラスターは動き、場所を移動した。

 広域警戒レーダーが警報が、鳴る。

 小型ミサイル、接近。火器管制システムをオン。頭部バルカンを連射モードに選択。

 飛び退くように、スラスターを操作。と、同時にバルカン掃射開始。機動を行うたびにエイジに荷重が襲いかかって、思わず呻き声をあげた。

 何発かは迎撃でき、回避も成功した。だが残ったミサイルが地表に激突し、小さな煙幕を作った。

 これは使える。エイジは、瞬時に判断。大型の熱源たちが接近してくる、と熱源センサーが伝える。距離は800メートル。<陸戦型ガンダム>の型式番号が表示されている。再度、エイジはレーダーを確認する。

 複数の敵のレーダー照準波をキャッチ。

 エイジは、素早く兵装選択。前面のストアコントロール・パネルに搭載武装が表示される。

 搭載兵装は短刀2本と、スナイパー・ビームライフルと、頭部バルカンとハンドガン2丁。ビームライフルのマシンガンモードのエネルギーは半分使い切っている。シールドは、ない。

「撃墜する」

 エイジは、スナイパー・ビームライフルを地面に置き、腰から短刀を抜かせる操作をした。

〈この数に勝てると思うなよ!〉

 通信から漏れ出る敵ダイバーの声より早く、<ジム・スナイパーⅡ>は急旋回。

 目標と対向。

 攻撃態勢。

 レーダーサイト、インレンジ。

 <陸戦型ガンダム>はビームサーベルを振り下ろす。これでは『真っ二つにしたい』という"心理〟が丸見えだ。<ジム・スナイパーⅡ>はすれ違いざまに、短刀をコクピットに向け、刺突。

 命中。

 コクピットから素早く引き抜くと、<陸戦型ガンダム>は仰向けに倒れた。煙幕が晴れる。

 もう1機、<ジム>に似た意匠の<ダガーL>がビームサーベルを振り上げて襲いかかってきた。

 まるでダイバーの怒りが伝わってくるようだ。まっすぐに突き進んでくる。

 横なぎを体勢を低くして回避。そのまま、体勢を整えようとする勢いで短刀をコクピットへと突き刺した。

 そうしたい、という"心理〟。

 ああしたい、という"心理〟。

 攻撃したいとき、人はどういう風にするか考える。そしてそこに攻撃する。それは狙撃もサイコミュも接近戦も同じだ。学者ではないが、詐欺師と言う職業柄、少しはわかるよう、エイジは自負していた。

 その場から離れ、<ジム・スナイパーⅡ>は走った。

 少なくとも、ここからは味方は確認できない。いや――今の自分に味方などいない。味方でなければ敵だ。<ジム・スナイパーⅡ>のコンピュータも襲いかかってくる敵を味方と確認してはいない。敵部隊は、敵でしかない。味方かもしれないと思っていたならば、すでに<ジム・スナイパーⅡ>は撃破されていただろう、とエイジは思う。

 フリーバトルが売りのディメンション、ヴァルガとはそういう所だ。

 ここは相変わらずの地獄だな、とエイジは思った。

 

 だが、これはたかがゲーム。

 

 地獄というものはこのくらいですまないというものを知っている。

 

 このヴァルガに来る前、エイジ――金家栄治は計6件の銀行を梯子していた。

 自分の取り分である、5000万ビルドコインを現金に換え、4つの口座に振り分けて入金し、風林会への"税金〟にである残り5000万ビルドコインを現金に換えて、2つに分けて入金する。仕事を終えた後、必ず自分の手で行うことになっている通例業務だ。

 仕事柄、穴のないセキュリティはないと知悉しているので電子口座は使わない。

 現金に換えたビルドコイン――1億円入りのアタッシュケースを片手に、銀行界隈を歩きまわるのは、結構重労働だが、こればかりは人任せにするわけにはいかなかった。

 自分の金ならまだしも、特に風林会への〝税金〟は、人任せにするわけにはいかなかった。本物の国税は命まではとらないまでも、風林会の納税担当はそれをやる。

 もしコナンにでも任せて持ち逃げされようものなら、責任者たる金家はもちろん、〝仕事〟に関わった全員が血を見ることになるのは確実だった。

 が、きちんと納税義務さえ果たしていれば、国と同じく、いくつかのサービスを受けられるのがこの世界だ。活動に必要なヴァーチャルММО用の偽装アカウント、同業者がかち合わないように監視するサービス、頼めば人員の斡旋まで。場合によってはヘタを打った詐欺師に個人の個人情報をあてがい、警察の指名手配下にあっても社会生活が送れる――それはもちろん、その者が組織にとって有用と判断された場合に限るが。

 3年前の〝仕事〟で失態を演じて以来、金家もその特別サービスにあずかっている口で、しっぽをつかまれている度合いは、他の同業者は深い。たとえ、業界一の高税率であっても、人一倍勤勉に納税義務を果たさねばならない所以だったが。

「値上げ? 今回から?」

 銀行回りを終え、ヴァルガで"ストレス解消〟をしている時だった。突然、吹き込まれてきた通信の向こうから返ってきた言葉に、エイジは思わず大声を張り上げてしまっていた。

(まずいか?)

 という相手の声と共に<ストライクガンダム>の腹部は風穴があいた。

「まずいもなにも、もう入金済ませちゃいましたよ。前もって言ってくれたら、アガリの段階から計算しなおしたのに」

 相手の言い分はこうだ。

 それまではアガリの20パーセントと定められていた税率を、一気に25パーセントにしろという。

 彼自身がえがいた計画ならともかく、縄張り内での仕事を黙認する料金としては、あまりにも高すぎる。法外な要求であることは向こうも承知らしく納税担当――風林会市原組の若頭補佐、山本も、

(だよなぁ)

 と鈍った声を出していた。

 よく言えば心配そうな声を出しているが、だまされてはいけない。地下社会の掟になじんだ者同士、すごむまでもないと割り切っているだけのことで、この男には傘下の詐欺師など聞く気などなかった。

 仕事上、裏の関係者との付き合いは不可避だが、実利優先の登世になんの葛藤も抱かない不感症ぶりにおいて、おそらく――同世代の山本は典型的なアフターバブル型の住人とも言える。

 インターネットの整備が厳しくなった環境で、日々減ってゆく既得権益の番人をやらされてきた中堅幹部。上納金の調達を至上命題にしていれば、渡世人としての自負も野心も養われようもなく、ひたすら冷酷な集金マシーンができあがる……というところか。

(でも頼むよ。ここんとこの排除運動で、追い出された奴とかいてさ。経営、厳しいんだよね。親父のGBNの資金支援もあんまりうまくいってないし)

「そりゃまぁ、持ちつ持たれつだから相談に乗らないことはないけど。こっちだって計算してやってるんだし、第1――」

(金家ちゃん、これ、決定事項なんだわ)

 抑揚のない笑い混じりの声に、暴力の臭いが絡みついてきた。これ以上の抵抗は命取り。もともと話し相手が通じる相手ではないか……が、ここでさらに1,250万円もっていかれるのはつらい。今後、さらなる増税が課される可能性を考慮すれば、ぎりぎりまで抵抗の意志を示す必要はある。

 ひとつ息を吸い、吐いてから、エイジは操縦桿を握り直し――高台にいる<ガンダムGP-01>をスナイパー・ビームライフルで狙撃。撃破。

 山本の息遣いと、新たに襲い掛かる<ジン>に意識を集中しつつ、<ジム・スナイパーⅡ>に、スナイパー・ビームライフルを2つに折りたたんでビームマシンガンモードに変形させる。

 コクピットにむけて、照準。射撃。

「本部に話つけにいってもいいですか?」

 とつとめて、冷静な声を出す。

「こっちもすぐに動かせる金はないし、ちょっと相談させてもらわないと。山本さんも立ち会っても構わないですから、きっちりナシつけましょうよ」

 そう言いながら、ビームマシンガンの弾丸は、至近距離から<ジン>のコクピットを貫き、膝をついて倒れた。

 今回の税率アップが本部からの要請なら、時間の無駄。

 だが、他のシノギの穴埋めをするために、山本の一存でやってることなら、値上げ幅について交渉の余地も出てくる。勝手なことをして、おれの顏をつぶした――山本のような、中間がなにより恐れるのは、組長にそういわれることだ。

 鼻から息を吸い込んだ気配を残し、山本は押し黙った。しばらくの沈黙のあと、

(ふーん、そういうこと、言っちゃうのか)

 と薄暗い声が携帯のスピーカーを震わせる。ひやりとしつつも、エイジは息を殺して山本の次の言葉を待った。

(じゃあ、こっちも言うけれど金家ちゃん、タダシ組っていうフォース知ってる? あのタダシっていう親分がリーダーの)

 図星かと期待したところに飛び込んできた、それは痛烈な一撃だった。

 タダシ組――3年前のヘマとセットになって、胸の底に染みついているフォース。知らないはずがないし、忘れようはずもない。彼の子分たちをして、〝薄禿〟頭のアバター姿が鮮明に像を結び、エイジは内心に舌打ちをした。

 レーダー近距離-格闘戦のレンジが反応する。

 2機目の<ジン>が剣を振り上げて、横から襲いかかってきた。

(この間ね、GBN関係で仕事してた時にちらっと挨拶したんだけど。今でも、あんたのこと、探してるぜ? エリア11に潜んでるみたいだから、見つけたら教えてくんなはれって。おっかない顔して、あれは懸賞金かける勢いだったな)

 あいつめ、まったく執念深い。後始末を押し付けてトンズラしたこちらも悪いが、ヘタを打つ羽目になったのは、あのタダシ組のせいなのに。

 突撃に合わせて、後退。

 よろける<ジン>。

 よろけた勢いで<ジン>を短刀でコクピットを突き立てた。

 胸中に吐き捨てる一方、これはやはり山本の独断らしいと感心したエイジは、心底辟易した。

 タダシ組というウィークポイントをつかんだからこそ、山本は無茶な増税を迫ってきたのだ。彼が一言漏らせば、エイジは、タダシ組から何をされるかわかったものじゃない。

 一納税者として、風林会に保護サービスを求めるのは絶望的だった。面子がどうのこうの威勢のいいことをいっても、本音は手なんて汚したくないのが、ヤクザだ。

 こちらがそこまで読むのを見越したうえで、山本はこういう話し方をしている。是も否もなかった。

「こすいなぁ……」

 と低く呻き、エイジは操縦桿を左に動かす。じわりとこみあげた不快の波を感じながら、<ジム・スナイパーⅡ>は粒子ビームをステップして避けた。

(こっちも必死なんだよ、わかってよ)

 山本の脂下がった声が相乗りする。レーダー監視システムに反応。長距離からこちらを狙う機種がある。<ガンタンク>のような、砲戦モビルスーツだと推測。

「わかりました。追加で1,250。明日中に入れときます」

 これ以上、くだらないことで時間を無駄にしたくなかった。会話を打ち切る声を出すと、(悪いね、借りに思っとくから)と、少しも悪く思っていない山本が応答する。操縦席に拳を打ち付けたい衝動をなんとか堪えたエイジは、ボタンが潰れる勢いで、通信スイッチを切った。

 次第に膨れ上がる不快の波に追い立てられるようにして、フットペダルを踏む。遮蔽物を盾にしながらビル街を早足を通り過ぎる。

 地下鉄駅から橋に至る緩やかな下り坂は、遮蔽物は多くても、モビルスーツは少ない。モビルスーツの砲弾の雨に降りかかる前に振り切ろうと思ったが、いったん滲みだした不快の波はあとからあとからこみあげ、消えることなくエイジの心身にまとわりつき続けた。

 自分の足で歩いているつもりが、あれやこれやのしがらみに搦め取られ、いつしか目の前の状況に対処するだけの人生になっている。そんな不便と鬱屈は、何も自分だけのものではない。望み通りの人生を送れる

 人間など、いつの世にも数えるほどしかいないものだ。自分で自分の行き先を決められないのは、あの山本にしても同じこと。

 受け入れるしかない。

 大人なら誰しも受け入れたことだ――そう言い聞かせる端から、そうか? 懐疑を呈する不快の波に覆いかぶされ、エイジはため息をはいた。

 うねり、渦巻きながら、不快の波はいう。

 その昔、日本がまだパソコン通信と呼ばれるネットワーク空間でつながっていた頃には、ままならない人生を共有し、手の届く幸福に充足する無意識の連帯感があったではないか、と。どんな仕事、境遇であっても、はみ出しさえしなければ食っていける。そうした安定感が社会全体を底から支え、つつがなく生きるという選択肢を庶民に与えていたではないか。

 日本大震災後、200X生まれの日本人は多かれ少なかれ、心的外傷性ストレス障害だと聞いたことがある。震災後の記憶の想起回避、慢性的な不安、幸福感の喪失。震災後にヴァーチャルMMОの需要が高まったのも、ショックから来るある種の回避行動からだった。

 ……と、エイジも例外ではなく、余震が連続していたころにはきっちり地震酔いを患い、姫役をやっている女ダイバーにあやうく10,000ビルドコインを散在しそうになったものだったが、この慢性的な不快の因はそれとは別のところにあった。

 このまま進んだ先には、なにもないとわかっているのに、なお立ち止まれずにゲームにダイブして、目先の数字を確保するしかない。

 いったい、なぜこうなった。

 これが選択の結果であるのか――否、それ以前に、かつて我々がかつて選択したことはあったのか。

 遠大な問いかけを結実させ、不快の波は勢いがさらに増す。いつもはその晩からひどくなるのに、もう始まったか。

 これもくだらんヤツと話をしたせいだと口中にののしり、エイジは遮蔽物の陰に隠れて、5機目の<ガンタンク>をスナイパー・ビームライフルで狙撃した。

 銀行からマンションに直行し、GBNからヴァルガ・ディメンションに行ったのは憂さ晴らしのつもりでいたが、もうそういう気分ではなかった。どうせ、フリーバトルはここでは腐るほどできるし、ミッションはやらなくても良い。

 それに、GBNで使うガンプラがいくら高性能でも、30にもなる自分が低能化一方ではお寒い限り……と、こんな心理状態でバトルに飛び込んだ日には、停滞した体がいよいよ不快の波にのみくだされるだろうことはわかっていた。

 平日の昼間だというのに、安く手に入るガンプラで、ろくな練習もしない群れを作る若者たち。 

 共用エリアであるセントラル・エリアで、男たちの目を引こうと様々なガンダム作品の士官制服を身に着けて、レアパーツをいただこうと目を光らせ、画策する厚化粧の少女たち。

 それをわざわざ被写体にするために、有名ブランドのカメラで固めた、不健康な中年男性たち。

 そして、気軽に強くなれることをうたい文句にし、初心者に違法ツールを売る不正なダイバー……。

 これが今のGBNの風景。

 無縁で腹正しいモビルスーツたちを相手に、エイジは戦い続けた。

 形こそ小ぎれいなサラリーマンだが、その実は他人から金をだまし取っている薄汚い犯罪者。

 おまえこそGBNを歩くな。

 無言の圧をかけてくる無数の目にさらされながら、とにかく足を動かし、撃つことだけを考えた。

 照準。

 射撃。

 機動。

 俺はここだ。ここにいるぞ。

 食えるものなら、食ってみろ。

 そう、選択できることと言ったら、こうして外圧に対処することしかない。誰とも共有できない孤独や不安を紛らわせるために、GBNチャンプにでもなって現実逃避に走るか、仕事に没頭して忘れたつもりになるか、あるいはある日突然、周囲の他人たちに片っ端からナイフを突き立てて回るか。自分がそうしているように、躱せる他人は、躱してして生きるというのも選択肢のひとつだろう。

 別に自分を正当化するつもりはない。それに誰かと何かをわかちあいたいとは思わない。正義の味方といわんばかりの清廉潔白なゲームプレイをし人望も多い、その裏で詐欺を働くダイバーも中にはいるが、自分にはできないと思う。

 つく嘘は少ないに限る。

 仕事上の鉄則である以上に、生理的にそう感じている自分は、実は詐欺師としても中途半端な何者には違いなかったが、それがなんだというのか? 中途半端であろうと自分には自分の信条と居場所がある。

 プライドなど持ちようがない仕事とはいえ、どこかで、アウトローなりの矜持があると信じ、自分を支えてきたつもりだった。気分の浮き沈みはあっても、不快の波に飲み下されることはなく、孤独も不安も紛らわす前に追い払うことができた。

……はずだった。

 ところが、『ブレイクデカール』というネットツールで暴れまわるプレイヤーキラー、すなわちマスダイバーが現れてから、少しずつ狂い始めた。個人のダイバーやフォースでなんとかできた、これはまだいい。

 本当にどうにもならなくなったのは、終わらぬ崩壊の中で誰もが自信をなくし始めた、何度か目のアップデートの時だ。『ELダイバー』と呼ばれる新たな生命体によるGBNの崩壊の危機、アルスと呼ばれる宇宙人によるインターネット企業の同時不況、サーバー企業の経営悪化。構造改革の波に乗って、マネーゲームに興じていたアメリカの姿は見るも無残な姿だった。

 不況を覆す魔法の言葉を信じられたグローバル・スタンダードも、『金で買えないものはない』とのたまった投機屋にけん引する拝金する主義も、もはや手本にはなりえない。

 国家も企業も個々の家庭も、右肩あがりを続けるという前提の下に組まれた資本主義社会には、もとより根幹的な欠陥があったのではないか。少子高齢化による内需の縮小も進行していれば、骨身を削らぬ限り右肩上がりの成長はなく、ここから先は日々をしのぐことしかできないのだという現実――。それは重く、深く、地球が有限であると知らされた時以上の衝撃をもって、社会の底に沈殿した。

 

――この世に、永遠に成長し続けるものなんて存在しない。

 

 物価値崩壊で学んだはずの教訓を、企業は生産性の向上を励んで大量のモノを供給し、需要者なき市場で値崩れを起こしてはデフレだと嘆く、リアル世界。儲からなければ、経営の効率化を推し進め、不要と斬り捨てられた人材をあぶれさせて消費環境の悪化に一層の輪をかける。

 とどめとばかりに、到来したブレイクデカール事件によるGBNのデータ破損事件や日本大震災を含めた、日本の絶望の終着点がここ。

 否、世界中の先進国が同じサイクルに突入しつつあるという意味では、世界が唯一の絶対正義だと信じた資本主義経済の行きついた先がここ。

 負債を取り戻そうと政府主導による、〝ガンプラ政策〟は再び沈めることになり、投資先を失った大量の預金は再び銀行やタンスの奥で根腐れするようになった。成長し、発展し続けることによって、未来を保証されてきた資本主義社会は、その未来が担保価値を喪失したいま、資金対象にはなりえなくなったとでもいうように。

 大地震による生活困窮化過程による生活保障制度の利用者数は爆発的に多くなり、その反比例にヴァーチャルMMО-RPGの類の利用者数は多くなっていったという。生活保護給付金を担保にして、出会いやぬくもりを維持しなければいけないところまで来ているという。

 だが、そのRPGゲームもブレイクデカールのせいで維持が難しくなり、アンインストールだ修正だと叫んでも、膨れ上がった負債をとりのぞかない限り、つくった借金に押しつぶされてしまう。

 実体経済だけでは、日本が破綻するなら引き続き金融主導型経済を。電気代の高騰化でネットワークの維持が難しいなら、外国との提携を。この世界が、大規模の物価値崩壊を引き起こそうと、日本のネットワークが外国の組織にクラッキングされようと、ほかに選択肢はないし、考えても仕方がない。

 一方の天秤に〝危険〟をのせねば均衡がとれない。それが現代社会の実相であるという現実のひとつを受け入れ、出口のない闇の中を歩き続けるほかない。なにをしても先には進めず、先を感じられずに、見えない牢獄をぐるぐると。こうする以外にないのだとささやきかける一方、囚人たちの行動をあらかじめ規制する〝システム〟にしばられて――。

 滅入る一方の思考を溢れ出させ、休みなく操縦桿を動かしているうちに、レーダーに機影はなくなった。

 <ジム・スナイパーⅡ>を西へ。

 もう少し歩いた先にはもう少しランクが上のダイバーたちが戦っている雑踏になる。

 無意識にそちらに足をむけて走る。

 〝システム〟か……とエイジは性懲りなく胸中の声を紡いだ。

 〝システム〟。

 そう、すべてはそこに端を発している。国も企業も、存在するからには成長し続けよ、と強いる〝システム〟。

 プラスチックの塊でしかない、モビルスーツーーガンプラ。

 電子上のデータでしかない機体。

 それらに無上の価値をあたえ、もめ事をガンプラバトルで解決するというガンプラバトル条約を造り上げてしまった〝システム〟――。

 その名を代理戦争と定義しただけでは、〝システム〟の正体には迫れない。もっと、作為に満ちた構造が、〝システム〟の根底がある。エイジには、他人よりも具体的にその実相に触れているという自覚があった。正確には、その自覚故に世間の動向に違和感を覚え、厭世観と隣り合わせの日々を過ごさねばならなくなったのだという恨みがあった。

 が。

 5年前のあの日、不意に傍らをかすめ、この世界の正体を垣間見て過ぎ去っていった〝システム〟という名の闇。

 それから、ブレイクデカールによるオンラインシステムダウンによる企業崩壊を挟み、閉塞感が時代のキーワードになって久しい現在、大方の日本人もその不可視の檻に漠然と感じ取っているだろうが、それはひと握りの金融エリートが世界の富を独占云々という些細な話ではなかった。

 機能を埋め合わせるために、先進国のサーバーを合併後、この世界にあまねく〝システム〟を適用させた何者かがいる。ニューグローバリズム、構造改革と名を変えながら、それは現在も人の生活に入り込み、この背中に張り付いて、すべての人間の動向を監視している。

 無論、GBNが……いや、ヴァーチャルMMО自体が、金のない市民から金をむしり取ることに移行したのは、自発的意思だろう。最初は先進国の押しつけから始まったことでも、あとから発展途上国に続き、どれもが追いつけ追い越せの精神で高度成長を続け、挙句にブレイクデカールのせいでペシャンコにつぶれたのは自業自得でも何物でもない。

 が、その折々の局面に介入し、政府なり、産業団体なりの団体を通して、インターネット社会の先行きを左右してきた何者かの力が存在したのではなかったか。〝システム〟を司る者たちによって、日本のインターネットを踏み固められ、そしてGBN復興の足固めにしてきた力。当初の役割を終えたあとも、連綿と命脈を保ち、今もってこの国のインターネット社会の地下に根を張り続けるその力の名前は――。

 

『A金貨』。

 

 もしそう言ったら、コナンは腹を抱えて笑い出し、ガストやアニーダは次の〝仕事〟への参加は見合わせるといってくるにちがいない。

 バカバカしい。

 冗談にしても突拍子もない妄言。『A金貨』で食っている詐欺師が、その実在を信じて妄想に取り付かれているのだから、ミイラ取りがミイラを地でゆく話である。

 しかし、エイジには、この突拍子もない妄想を信じる理由があった。

 それが現在の自分を作り、後ろ暗い詐欺師のキャリアに一定の指向性を与えている。この5年、調べられることは調べつくして、多少なりとも実像の輪郭をつかんでいる自負もあった。それ以上、進めぬ絶望感と、それこそが不快の波の根源なのだという苦い理解とともに。

 平日のヴァルガは、一見休日のサラリーマン風のニートと、ダイバーポイント目当てで流れてきた客とも業者ともつかない男たちのゴッタ煮が戦いを繰り広げていた。

 アナログ放送から、デジタル放送に切り替えるための電波塔を始め、変転著しい昨今の東京を廃墟にしたような風景だが、このあたりの様子は昔からさほど変わっていない。

 

 ――シけた面して、どうした。

 

 コクピットの画面に反射する自分の姿。何の特徴もない男の顏が像を結び、にやりと笑いかける。その瞬間、もう一回、ゆらりと崩れ、別の男の顏がにやりと笑った。

 遠い昔、知り合った男のひとつ。

 いざ、外回りで回ると人相まで変わり、恰幅のいい重役然とした立ち居でカモを煙に巻いてしまう。師匠、恩人という言葉がこれほど似合わない男も珍しいが、他にこの男と自分の関係を表す言葉もない。

 黒須修三……。そう、あんたも不快を催す一因のひとつだったな。

 この5年間、折につけ立ち現れる"亡霊〟から目をそらしたエイジは、なんでもないさと苦笑混じりに答えた。

 ただ、年をとったってだけだ。

 胸中に続けた声に、あの日以来、時が止まってしまった"亡霊〟の顏が笑みを含んで伏せられる。兄といっていいほど、年が離れてしまったっていうのにもうじきアンタに追いついちまう。〝仕事〟が終われば、こうしてGBNで憂さ晴らしするしかない、馬鹿な男だ。

 "亡霊〟は何も応えなかった。それでいい。"亡霊〟に慰められるようになったら、俺もおしまいだ。自嘲混じりにつぶやき、"亡霊〟が立ち去るのを待って、気をとりなおそうとしたが、横から襲う存在に気がつかなかった。

〈俺のダイバーポイントになりやがれえぇぇぇ!〉

 つんざくような声が通信機から降りかかる。レバーを引いたが、間に合わない。そのまま激突する。質量差がありすぎる。機体がもたない。エイジは舌打ちをした。

 ……が、その時はこなかった。かわりに横から黒と金で塗装された<ダブルオーガンダム>が弾け飛んでいた。

 弾き飛ばしたモビルスーツの様相はポニーテールに細い顎、白い細身の機体に、アクセントに黒の塗装が塗られている。等身が高いためで妙にすらりとして見える。モビルスーツか? と疑問に思ってしまったのは、この機体が機械にしてはあまりに人間めいたものを感じてしまったからだった。

「金家英治さん、ですね」

 背後の鉄橋を渡る列車の轟音に混じって、少女にしては低い声が通信が流れてきた。エイジはどくんと鳴った心臓の勢いを借りて操縦桿を握り直した。

 さまざまなモビルスーツが散漫に行き来する通りの真ん中で、細いモビルスーツは400メートルほどの距離を置いてこちらを直視している。

 無論、こんなモビルスーツ見たことはない、モビルドールの1種か何かか。

 知らない機種、縁もゆかりもない。

 端正に整ったような顔に見える……女の顔は、女性型モビルスーツに見えなくもないな、とのどかに推量したのは1、2秒のことに過ぎなかった。

 商売柄、見知らぬ人間に話しかけられて最初に感じるのは身の危険だ。まして、堅気の世界では封印して久しい本名を知られているとなれば、相手の商売も自ずと限られてくる。

「人違いじゃないの――」

「あなたに、仕事を依頼したい」

 言いざま立ち去ろうとしたこちらの動きを制して、小石を放るような言葉が投げかけられた。警察……ではない。手配中の詐欺師1匹捕まえるのに、連中はこんな芝居がかったマネはしない。とっさに判断しつつ、エイジは細いモビルスーツをあらためて見返した。やはり警備の臭いはしない。が、よく見ればその立ち居は隙がなく、こちらがどう動いても即座に足止めできるよう、間合いを測った上で声をかけてきたのだと判じられる。

 と、胸部の装甲が開き、コクピットであろう向こうから少女が姿を現した。

「ミカヅキと言います」

 と無表情に続けた少女が<ジム・スナイパーⅡ>を見つめ、エイジは背中に嫌な汗が滲むのを感じた。

「よろしければご同道ください。わたしの雇用主の方から、仕事の内容を説明させていただきます」

「……だから、人違いだって。っーか普通はこんなとこでリアル名乗らないよ」

 顔面の神経を騒動して苦笑いを作る傍ら、左右に目を走らせて周囲の様子をうかがう。他に伏せている人間はいないようだが、わかったものではない。見た目は新入社員といったところか? こいつには独特の険がある。警察でなければヤクザという線が考えられる。なんであれ、ご同道なんてした日には最後だ。ここは三十六計、逃げるにしかず。

 ちょうどあの倒れていた黒金の<ダブルオーガンダム>が動き出し、少女の注意が逸れた一瞬がチャンスとなった。エイジはすかさず背を向け、駆けださない程度に操縦レバーを引き、早足でその場を離れようとしたが、

「〝財団〟に関わる話です」

 影を縫い付けられたかのごとく、フットペダルが動かなくなった。爆発的に鐘を打った後、しんと静まり返った胸の鼓動を感じながら、エイジはゆっくり少女の方に顔をむけた。

「ご興味がおありかと。行き先は東京のサンライズタワー、38階。なんなら、お仲間に連絡してもかまいません。このディメンションを出ましょう」

 そういえば、ついてくると思っているのか? ミカヅキと名乗った少女はあっさりとコクピットに戻ると機体は踵を返し、道をたどり始めた。

 関わるな、逃げ出せ。

 相手が誰であれ、向こうはこちらのことを調べつくしている。ただちに自宅に帰り……いや、自宅は張られているだろうから、このまま身ひとつで都内から離れろ。風林会に増税分を払っても、しばらくやっていけるだけの現金はある。いまが最後のチャンスだぞ――。

「ちょっとまて」

 3秒の間に紡がれた思考を、すべて反故にする一声だった。立ち止まり、肩越しにこちらを見た。

 

――バカ、余計なことを。

 

 口中に罵りつつも、全身を総毛立たせる予感を無視することはできず、<ジム・スナイパーⅡ>は細いモビルスーツとの距離を詰める一歩を踏み出した。

「〝財団〟の現在の名前は」

「JNC。日本電子文化復興会」

「設立年月日」

「19XX年4月6日。前身は、日本国際ネットワーク経済研究所。もっとも古い名前は日米親善連合会。設立は19XX年4月20日……。ジャパン・サーバー政策が施行されたのと同じ日です」

 ぼうっと熱を持ち始めた頭とは裏腹に、肝が冷えてゆくのが感じられた。あらゆる資料とうわさ話が併合し、幾数年の歳月をかけて修正を加えてきた推論――いまだ誰にも明かしたことのない、エイジが独自に確信に至った〝財団〟の経緯とことごとく一致する。

 ――やはりサーバー政策を隠れ蓑にして、発足したのか。

 興奮した頭がつぶやく一方、こいつはいったい何者だ? という思いが腹の底から這いあがってきて、エイジはしばしその場で棒立ちになった。ミカヅキは合わせた視線を外さず、

「それ以上の話は後ほど。わたしの雇用主に」

 と付け加えると、不意に背を向けて歩き出した。

「……〝財団〟の人間なのか? その雇用主は」

 ミカヅキはもう答えなかった。

 伝えることは伝えた。

 相手がどう反応しようと知ったことではない。

 そんなふうに決めているらしい背中が古びたビルの軒先を曲がり、道路へと消えてゆく。その姿が見えなくなる直前、エイジは、レバーを押し、ほとんど無意識に<ジム・スナイパーⅡ>をアスファルトを蹴らせてた。

 うかつである以上に、いっそ自殺行為といっていい愚挙。だが、もしかしたらと訴えるには至らず、エイジは先を行く細いモビルスーツの背中を見つめて足を動かした。どうせ失うものはない。なにかの罠だとしても、風林会の納税者サービスを頼って安全措置を講じておく手はある。

 ――それに、いつかこういう日がくることを予感して、俺はこんな日々をすごしていたのではなかったか? このまま根腐れするくらいならいっそ。

 背後を行き過ぎる列車の音が続く言葉をかき消し、往来する車列の喧騒が次第に大きくなってくる。止めも押し出しもしない黒須の幻影の視線を遠くに感じたのを最後に、エイジはいっさいの思考をとめて細いモビルドールの背中に追いかけようと、操縦桿を前に押し出した。

 




<モビルスーツ紹介>
『ジム・スナイパーⅡ』
エイジが使用する、数あるモビルスーツの中の1機。
エイジは特定のモビルスーツは持たずに、ミッションや傭兵プレイにあたっている。
特に目立った改造はしていない。
丹念に作り上げられたそのガンプラの性能は高いの一言。
エイジのガンプラには毎度、ハンドガンを二丁装備させている。

<武装>
頭部バルカン
牽制用の機銃

ハンドガン×2
近距離用のビームハンドガン。

短刀×2
接近戦用の短刀。
アーマーシュナイダーの刀身を延長した手持ち用の大型ナイフ。
ビームコーティングが施されており、ある程度のビームは弾ける。

スナイパー・ビームライフル
オリジナル武装の遠距離用ビームライフル。最大出力でバスターライフル並みの攻撃力を引き出せる。
銃身を折りたたむことでビームマシンガンモードへと変形する。




『モビルドール・ミカヅキ』
ELダイバー・ミカヅキが活動するために造られたモビルドール。
特に武装はないが、本人の格闘能力の高さとモビルドール自体の性能の高さで、たいていのモビルスーツを圧倒できる。
高い技術と金がかかった逸品のガンプラだが、このモビルドールの製造元はナナセ・コウイチ氏手製のものではない。
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