ガンダムビルドダイバーズ 〝A〟   作:ジ ュ ン

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第七十三話

 エレベーターを降り、入り組んだ通話を50メートルほど歩いた先に、GBN桂木ゲームマスターの部屋はあった。

 後ろ手を縛られた状態で速く歩くのは難しい。武装した警衛に前後を挟まれていては、なおのことだ。努めて警衛の歩調を合わせ、ゲームマスター室のドアを前にした木城深雪は、ひとつ深呼吸をして桂木との対面に備えた。警衛を率いる保安部長がドアを開け、まずは秘書室に足を踏み入れる。深雪と同年代の女性秘書官が立ち上がり、ほとんど敵意に近い警戒の眼差しをこちらに捉えた。

 変装用のかつらとマスクは、市ヶ谷駅の改札を抜けたところでコンビニのゴミ箱に捨てた。インフルエンザが流行りはじめるこの季節は、防犯カメラの顔認証を免れたい逃亡者にはありがたかったが、進んで地下7層の穴蔵に来た身にはもう関係のある話ではない。

 裏切り者。

 目で言っている秘書官とは視線を合わせず、深雪は姿勢を正して続き部屋の執務室に入った。地上のオフィスと同様に、国旗を背にして座る部屋の主が、まっすぐにこちらを見つめてくる。地上と違うのは、室内のどこにも窓が見当たらず、部屋の主の眼光が必要以上に鋭いことだ。

 深雪は踵を合わせ、上体を10度前傾させる脱帽敬礼をした。こんな状態でも上官への敬意は失っていないことと、後ろ手に縛られている不自由をアピールするためだった。気づいたものか、桂木は保安部長に顎をしゃくり、保安課長は深雪の両手首を拘束する結束バンドを外しにかかった。

 電気コードを束ねるのに使われるのとそっくりと同じ代物で、〝対策室〟では手錠代わりに用いられている。締め上げて固定するものなので普通の手首を痛めやすく、ペンチで切断しない限り外す際にも痛みが伴う。苦虫を噛み潰した顔の保安課長が、ここぞとばかりに結束バンドを引っ張り上げるのは予定の内だった。すでにいっぱいに締め上げられている細いバンドが手首に食い込み、ちぎれるような痛みを後ろ手に走らせる。深雪は奥歯を食いしばり、ストッパーが外されるのを待った。

 無理もなかった。まる5日、総がかりで行方を追っていた対象がのこのこ本部に現れ、あろうことか桂木との直接面談を要求してきたのだから、これほど人をバカにした話もない。不眠不休で捜索に当たっていた職員らの状況をおもんばかれば、嘘でもいいから捕まってみせろというのが保安課長らの本音に違いないが、それでは桂木との直談判まで時間がかかってしまう。いまは少しでも多くの時間を確保することが最重要事項であり、最短で桂木と会うには電撃的な自首をするよりなかった。ここに来るまでに受けさせられたボディチェック、保安課長らに状況を理解させるために費やした時間さえ、今の深雪にとっては絶え難い時間的ロスなのだ。

 そんな苛立ちを察してのことか、桂木ゲームマスターは平静そのものの顔でこちらを見つめている。たとえ腹の底が煮えくり返っていたとしても、彼はそうすることが有効と認められない限り自分の感情を表に出しはしない。結束バンドを保安課長がUSBメモリーを手渡し、「本物です」と言った時も顔色ひとつ変えず、表情の読み取れない瞳を静かに深雪に据え続ける。他方、保安課長は怒りを隠すしかないという顔つきで、許されるならクスリをぶち込み、洗いざらい吐かせてやるのに、と言いたげな目を頭からつま先まで走らせていたが、それも「外してくれ」と桂木が口にするまでのことだった。

 予想していたらしく、保安課長は驚きも抗弁もしなかった。代わりに護衛のひとりに顎をしゃくり、前に進み出た警衛がホルスターに収めた自動拳銃を抜くと、グリップを前にして、桂木に取り出す。不要だ、と手を挙げかけた桂木の動きは「お持ちください」と押し被らせた保安部長の声に止められた。

「でなければ保安上、2人だけにするわけにはまいりません」

 有無を言わさぬ……と言うより、裏切り者との会談を了承した桂木を暗に責める声音だった。

 これも当然だろう。

 深雪との密談が士気にどんな影響をおよぼすか、桂木も十二分も承知している。それでも会談を受け入れたのは、深雪が持参したUSBメモリーの中身のせいだけではあるまい。

 やはり金家のメッセージは伝わっているのだと確信して、深雪は結束バンドで痛めた手首をさするのをやめた。仕方ないという顔で拳銃を受け取った桂木に、「不用意に近づく気配があれば、撃ってください」と言い、保安課長は経営ともども踵を返した。「隣におります」と付け足された言葉は、険しい視線とともに深雪に投げつけられ、ドアの閉まる冷たい音があとに続いた。

「まるで猛獣扱いだな」

 受け取った自動拳銃を机の上に置き、桂木は苦笑混じりに言う。深雪は応えず、天井の隅に設置された防犯カメラを見上げた。察したらしい桂木が、「消すのは無理だ。が、音声はカットしてある」と言うのを聞いて、溜め込んでいた息を少しだけ吐き出す。「ありがとうございます」と下げた頭はお仕着せの敬礼ではなく、腰を深々と折り曲げてのお辞儀になった。

「仕方がない。こんな爆弾を持ってこられてはな」

 机に置いたUSBメモリーをつまみ上げ、桂木は続けた。「木城コーポの簿外取引に関する10年分の記録と、収賄に関与したGBN周辺企業、旧運営のリスト。またGBNはスキャンダル漬けだ。私も無事では済まない」

 口もとに浮かべた笑みとは裏腹に、射るような鋭さがその眼差しにあった。これが武器――この会談を実現させ、先に進む突破口を開くための、たったひとつの。背中に伝う汗を感じながら、深雪は黙して桂木の目を見返した。「いつから準備していた?」と桂木は視線を動かさずに問う。

「この5日で用意したものじゃないだろう。〝A〟……呂名英一の同志として活動し始めたころからか?」

 同志として、ではない。〝A〟の計画を阻止することだけを考えていた頃、英一が〝対策室〟に捉えられた場合のことを想定して、彼が帰国した8年前から少しずつ準備してきた。社長令嬢、それも1部で金庫を共有している非公開情報機関の1員であれば、木城コーポから部外秘の資料を持ち出すのにさほどの苦労もなかった。自分の手が及ばず、英一の正体が露見した際には、それと引き換えに彼の身柄を取り戻すつもりだった。

 が、現実には、英一はフェアチャイルドの手に落ちた。このデータで〝対策室〟を脅し、英一の奪還に協力させる手は、少し前までまるで実現の見込みがなかった。

 素手の人間をナイフで脅して、ライオンに立ち向かわせるようなものだ。

 どちらも無事では済まないと思えば、ライオンよりは勝ち目があるとばかり、〝対策室〟は全力でこちらを潰しにかかってきただろう。

 しかし、今は違う。

 そのライオンを黙らせる別の切り札が、こちらの手中にはある。

 質問に答えず、深雪は無言で1歩前に進み出た。そのまま本題を切り出そうとして、「血を流すのは我々だけじゃない」と言った桂木に遮られた。

「木城コーポも破滅する。君の御父上が先代から引き継いで、ここまで育ててきた会社だ。覚悟の上だろうな?」

 自分が〝対策室〟に拘束された当日、医大病院に運び込まれた父の見舞いには、まだ行っていない。深雪はきつく拳を握りしめ、「はい」と答えた。

「自分の意思でここに来た」

「はい」

「君が無事に帰らなかったら、この資料が公表される手はずが整っている」

「はい」

 とんとんと指で机を叩いたあと、「要求は?」と桂木は問うた。深雪は息を吸い込み、「時間です」と言った。

「期間は?」

「1カ月」

 即答すると、べらぼうだなと言いたげに桂木は目を見開いた。深雪は思わず身を乗り出し、

「監視はあってもかまいません。それだけの期間、私たちの行動を黙認してくだされば、この資料は完全に破棄します。私も再度ここに出頭し、以後どのような処罰も――」

 電話が鳴りだし、深雪は先の言葉を呑み込んだ。目に緊張を走らせた桂木がすかさず受話器を取り、耳に当てる。

 今、このタイミングで掛かってきた電話。

 それも割り込む要ありと秘書官に判断された電話が、自分に無縁な内容である道理はない。深雪はじっと桂木の表情をうかがい、桂木も話しながらちらとこちらに視線を走らせた。「また、えらく風向きが変わってきたな。……わかった、あとでこちらから折り返す」と言い、受話器を置く。「彼の方も動き出したようだ」と告げられた声に、深雪は心臓がひとつ大きな脈を打つ音を聞いた。

「マイケル・プログマンから連絡があった。ただちに金家栄治の身柄を確保し、引き渡してもらいたいとのことだ」

 深雪の投降に機をあわせて、マイケルに最初の爆弾を仕掛ける。予定通りの行動だし、即座に〝対策室〟に一報するマイケルの反応も予測の範疇だった。「『A金貨』の密約に準じての依頼だから、不当ということはない」と続け、桂木はより探る色の濃くなった視線を深雪に据えた。

「だがこちらの調査権を認めずに、いちダイバーを、いち国民を引き渡せと言うのは横紙破りだ。向こうもそれを承知しているのか、金家を渡せば今回の〝対策室〟の不手際は不問にすると言ってきた。例によって一方的な言いようだが、魅力的な申し出ではあるな」

 つまり、金家の身柄を引き渡せば〝対策室〟は組織解体の危機を免れ、GBN自体もアメリカからの圧力に悩まされずに済む。ほとんど選択の余地なしの条件だが、逆を言えば、こちらが手にする切り札にはそれだけの価値があることの証明にもなる。「さっきの電話では、あんな詐欺師は問題ではないと言っていたのに……。よほど強烈な一撃をくらったらしい」と独りごち、口もとに苦笑の皴を刻んだ桂木は、これで全部の筋が通ったと言いたげな顔だった。深雪は直立不動の姿勢を崩さず、「こちらの要求は変わりありません」と言った。

「1か月の猶予をいただけるなら、すべて桂木ゲームマスターのよろしいように致します」

「金家の身柄も引き渡すか?」

「……はい」

 できれば言質は取らせたくなかったが、仕方がない。まずは要求を通すこと。それが最優先事項であることは、あいつは承知している。「狙いは?」と桂木が質問を重ねる。

「呂名英一の救出です。その交渉材料はあります」

「福田がつかんだネタ、か」予想通りといった声で呟き、桂木は椅子の背もたれに寄りかかった。「1か月という根拠は?」

「フェアチャイルド側が素直に応じるとは思えません。彼らを交渉の場に引き出すために、いくつかステップを踏みます。そのために最低、1か月という時間が必要です」

 長い指を組み合わせ、桂木は無言でこちらの顔を注視している。ネタの中身を訊いてこないのは、すでにある程度の当たりをつけているからか。確かに無謀ではあるが、条件さえ整えば決して見込みのない戦いではない。机に詰め寄りたい衝動を堪え、深雪は出来る限り冷静に言葉に継いだ。

「金家と同行しているELダイバー、ミカヅキには諜報工作員として私と同等のスキルが備わっています。要求が入れられなかった場合、裏金作りの実態が明るみに出て、政府と〝対策室〟は致命的な痛手を被る。その上で、ミカヅキと金家は2週間やそこらは尻尾を出さずに逃げ続けるでしょう」

 ブラフではない。

 ミカヅキには教えられる限りのことを教えてきたし、彼女には獲得した知識や技術を増幅する才能もある。動かぬ桂木の瞳を見据え、深雪は残りの言葉を吐き出した。

「もともと失われることが確定している2週間に、プラス2週間。それだけの猶予をくださることで、〝対策室〟はなにも失わずに望むものを手に入れられます。分の悪い取引ではないかと」

「その2週間で失うものも多い。君たちの身柄確保が伸びれば延びるほど、〝対策室〟、そしてGBNを見る周囲の目は厳しくなる。アメリカGBNの圧力にさらされる日本GBNも同様だ。そして有利な取引とは言えないな。ミカヅキと金家が2週間は逃げきるというのも君ひとりの観測だし、それに……」

 即答した口をいったん閉ざし、桂木は深雪に視線を据え直した。「こうも考えられる。我々がここで君を人質にとったら、彼らは計画を中断してでも君を助けようとする。呂名英一を救おうとするのと同じように。彼らの〝システム〟に従って」

 まともに痛点を突かれて、体が震えた。護送車内の会話が筒抜けであった以上、想定去りて然るべき反応であるし、どこかで覚悟もしていたはずなのに、桂木と顔を合わせた途端に思考が飛んでいた。物分かりのいい上官と冷徹な役職の顔を使い分け、先入観を植え付けた上でひっくり返す――事前想定が通用する相手ではない。が、だからこそ可能性はあると信じ、自分は金家のプランに従って虎穴に入ったのではなかったか?

 ぎゅっと拳を握りしめ、とっさに逸らしそうになった目を桂木に縫い付けた深雪は、「とんでもない泥仕合になります、それは」と語気強く言った。

「どう転んでも〝対策室〟に利する結果にはなりません。誰も得るもののない消耗戦です。どのみち泥をかぶるくらいなら、私たちに賭けてはもらえませんか?」

 片肘を机に乗せ、桂木も表情の失せた瞳をこちらに据え続ける。握りしめた拳が震え、指の隙間から汗が滲みでるのを深雪は感じた。

「身勝手なんてものじゃないって、わかっています。すべてが済んだら、この身を引き裂いてくださってかまいせん。でもこれは、呂名英一ひとりの生死に関わることではなく……」言葉を探しかけて、深雪はかまわずに思いのまま口にした。「世界を救えるかどうかかかっているんです」

 微かに顎を上げ、桂木は目をしばたたいた。言ってしまった――これだけは口にしないつもりでいたのに。さすがに目を合わせ続けることができず、小さく顔を伏せた深雪は「GBNではなく、世界か。大きく出たな」と返ってきた声を聞いた。嗤われてはいない、その思いを頼りに顔を上げ、再び桂木と視線を交らわせる。

「先日も、君は似たような顔を言っていた。今こそ決断の時だ。〝対策室〟はそのために造られたのだから、と」

「……はい」

「わたしはもう答を出している。なぜ来た?」

 我々は呂名哲郎の私兵でもないし、政治介入も許されない。そう断じたと同じ、揺るがぬ視線をもって桂木が問う。少し迷ったあと、「目です」と深雪は答えた。

「あの時の桂木ゲームマスターの目は、すべてを納得しておられる方の目ではないとお見受けしました」

 言ってから、まるで金家や松音の受け売りだと気付いて嫌になったが、嘘を言ったつもりはなかった。小さく息を呑んだのも一瞬、桂木はかすかにうつむけた顔に苦笑を浮かべ「目か……。わたしも修行が足らないな」などと呟く。張り詰めた空気が少しやわらいだように思い、深雪もここに来て初めて唇の端を緩めた。

「そういう君は、あの時とは違う。なんだか憑き物が落ちたみたいだ。話せる目をしている」

 笑みを含んだままの声に言われ、戸惑いと、突破口が見えた興奮とが半々の気分を味わった。では……と口を開きかけて、「なにをするつもりなのかは教えてもらえんのかな?」と続けた桂木に押し留められた深雪は、油断は禁物と自戒して姿勢を正した。

「GBNゲームマスターを共犯にするわけにはまいりません。事態がどう動こうと、ゲームマスターはゲームマスターでいていただかなくては」

 言ってから、天井の防犯カメラをちらと目を走らせる。録音はされていなくとも、深雪の唇の動きは記録されている。あとで問題になった時に備え、桂木はあくまで脅された格好にしておかなければならない。桂木が更迭され、別の誰かがゲームマスターになりでもしたら、〝対策室〟との連携は絶望的だ。その時は英一の救出はおろか、自分たちの生存についても先の保証は皆無になる。

 そう、他の誰かがゲームマスターなら、自分はここには来なかった。金家は必ず乗ってくると踏んでいたが、仮に取引が成立したとしても、他の人間なら約束を守る保証はない。端から裏切るにせよ、外圧に屈するにせよ、いずれ必ず障害となって立ち現れることになる。

 〝システム〟の番人でありながら、〝システム〟に染まりきらず、その外側にあるなにかへの憧憬を折々の言動に覗かせずにいられない。ある意味、私たちの同類と思えるあなたがゲームマスターだからこそ、この戦いにも一縷の勝機があるのだ。「勝手な言い草だ」と言いつつも、目元に苦笑をたたえる桂木を前にして、深雪はもう躊躇するのをやめた。

 執務室に歩み寄り、「お借りします」とペン立てのボールペンを手に取る。机上に拳銃にさり気なく手を置いた桂木を見ることもなく、メモ用紙に人名ひとつを書き殴ると、「もうひとつだけお願いがあります」と言ってそれを桂木に差し出した。

「この人物の監視措置を解いていただきたいのです」

 一読して、桂木の顔色が変わるのがはっきりとわかった。深雪は1歩引き下がり、「数日中に日本に入国する予定です」と無表情に説明した。

「この人物の入国を認め、以後の私たちの行動に干渉しないこと。これが要求のすべてです」

 まだ是非の判定がつかない段階で言うべきではなかったが、これから自分たちがなにをするつもりか、ヒントを提示したつもりだった。その人物が持つ能力とコネクションを、いまの私たちは必要としている。しばしメモを見つめたあと、桂木は「なるほど」と呟いてそれをぐしゃりと握り潰した。

「化物に正攻法で挑もうというわけだ。君の描いた絵ではないな?」

「はい」

「よかった。もしそうなら、君の考課を下げねばならないところだ」

 それくらい無謀な計画――言われるまでもないと思い、深雪は無言を返事にした。桂木は腕を組み、「当てにできるのか?」と質問を重ねる。

「わかりませんが、こちらも人を選べる状況ではありません。その……この計画の発案者に言わせれば、こういう時は人の縁を信じて行動した方がよい、と」

 正しくは因縁だったか。その時の金家の口ぶりを思い出し、深雪は決まり悪く壁に視線を逃した。人的コネクションの活用は情報機関の基本だが、金家の言うそれがまったくニュアンスの異なる、ひどく泥臭い言葉であることは考えるまでもない。「言うね、彼も」と言い、桂木は低く喉を鳴らした。

「我々にはない……いや、忘れていた発想だ。GBNの長たる者が心がけるべきは人間的応答……しかし、縁を信じるとはな」

 誰の言葉だろう。一瞬、遠くなった桂木の眼差しを観察する間に、「現に、彼は君を味方につけた」とその目がこちらに振り向けられ、深雪は腿に押し当てた拳をぴくりと震わせた。

「今時、『A金貨』詐欺で食ってこられたダイバーだ。当たり前の詐欺師じゃなかろうと思っていたが、予想以上に怖い相手らしいな。君の新しいパートナーは」

 パートナーなんかではない。反射的にこみ上げた言葉を呑み込み、深雪は続く言葉を待った。審判の時、という無条件の直感があった。直立不動になった部下を見つめ、ふと視線を外した桂木は、「GBNのゲームマスターとして、室の作戦としては、とても認可できない」と続けて椅子から立ち上がった。

 ズボンのポケットに両手を差し入れ、机を回り込んでゆっくり深雪の傍らに歩み寄る。震え出した膝を律し、深雪は正面だけを見つめ続けた。

「が、面白いな」

 耳元に囁き、防犯カメラの目を塞ぐように深雪の前に立つ。その顔が、にやりと唇の端を吊り上げていた。先刻までの苦笑とは違う、どこか嗜虐的でさえある獰猛な笑み――感情通りに受け取るべきか。あるいはここでひっくり返されるのか。どちらとも判断がつかず、深雪は固唾を飲んで〝対策室〟とGBNの長の男の目を見返した。

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