「青年」はあるdiscord鯖内の人物に当てはめられており、「娘」は著者たるわたしのキャラクターです。双方特に名前を与える予定はありません
「…ッ、はぁ…はぁ…、けほっ、ひゅーっ…」
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白い息が激しく立ち昇り消えていく。青いステンドグラス越しに薄暗い廊下へ差し込む月明かりは肌の熱を奪っていくようで、一人の娘に担がれた青年の抵抗は秒を読むごとに弱くなっていく。
「やめろ、…離せこ……のっ…クソ女ぁ!」
「さっきから酷いですね。貴方は私の…いい加減、うるさいです。」
もはやだらりと娘の肩から手足を垂らしわずかに身を捩る程度がやっとな様子であるが口はまだ回るようだ。
鬱陶しそうにした娘は青年を荒っぽく床に投げ落とすと左手で青年の胸ぐらをつかみさらに右手で顔を鷲掴みにして後頭部を壁へ強く幾度も打ち付けた。
「黙れ、黙れ!黙れ!」
「はがっぁ、あが…」
軽く口を切ったらしく血が青年の唇を伝う。
これを見とめた娘は舌打ちをして悪態をつく。と思えば次の瞬間にはまるで壊れ物を扱うかのように青年を床へ優しく下ろし、屈んで白い手で血を拭ってやって尋ねた。
「大丈夫です…か?」
「…っ!」
先程までとは打って変わってその瞳の色に慈愛を見せるほどの人の変わり様に面食らった青年は呆気に取られる。
「…口を切っただけなようですね……ああっ!ああっ!そうでした、忘れるところでしたね。ホラ行きますよ。」
青年の腕を引っ張り半ば引き摺るようにして半地下構造の部屋へ入っでゆく。弛緩剤を打たれた彼では満足に歩くことはおろか立つことも、ましてや抵抗など不可能なのであり部屋に入るまでの間でさらに小さな傷をたくさん作ることになった。
「薬の希釈度がやや濃かったのでしょうか…まあこのくらい小さな傷なら大丈夫でしょう。」
娘が腰につけていたランタンを消し、硬いスイッチを回す音がすると電灯がつく。それでも薄暗い程度の明るさだが。真っ暗闇から姿を現した部屋はどこか貴族邸宅の客間というほどの豪華な、しかし色味は煌びやかというよりむしろシックにまとめられた部屋だった。
「ぁえ、ぅ…ぅ」
「くふふ、貴方のお部屋ですよ。ここで暮らしてもらいます。」
天蓋付きの広いベッドや起毛された敷物と各種の調度品が部屋にはあるのだが。部屋の高い位置に人一人は通ることのできないほど小さな丸い窓があるばかりで他に窓はなく、また部屋の随所に枷と鎖が顔を覗かせ、極め付けに部屋と階段の幅の狭い通路の間には天井まで高い柵が立っていて不気味さを際立たせているのだ。まるで動物園の檻のようである。
「はあ面倒だな…まあいいでしょう。よいしょっと…。」
手の引かれるままに階段から転げ落ちた青年を、娘は再び担ぎ上げるとそれを天蓋付きのベッドへと横たえさせ、さらに大の字になるように手足を広げさせた。
「世話のかかりますね…貴方がもし可愛くなかったら私はあの時あのまま殺すところでしたよ。」
「っ!、ぃ!ぎ!」
青年は思い出す。この娘にとらえられた時の、あまりに非現実的な現象のことを。同じ車に乗っていた他の党員は、この娘に車を止められた直後に軒並み動かなくなった。見れば運転手と助手席のは頭がザクロのように弾けており、青年の右隣に座っていたのは顔面は窪んでしまったかのような穴をつくって頭蓋骨が著しく陥没していたのだ。どうしてしまったのかは不明であるが即座に命を刈り取られたことだけが確かだ。
「んんー、ふふ。ちょっとだけ躾けてあげなきゃね。」
娘は自身を睨みつける視線に対して微笑んで返すと、青年の手足を伸ばし切ってからベッドに隠されていた枷に嵌める。青年は緊張からか呼吸が荒く、汗ばんで娘の動向を見る。
「別に怖がらなくていい…すこし、お薬を飲んでもらうだけですよ。」
チグハグな口調ではあるが優しい微笑みを湛える顔は変わらず、その手に持った銀のトレーは水の入った水差しとなるほど確かに何らかのカプセル錠同士が当たっているらしいカラカラという音が鳴っていた。
それを持ったまま娘はベッドに上がる。
「膝枕をしてあげますよー。弛緩剤がまだ抜けないようですから、誤飲してはいけませんので。」
「んぁ、あぃっ…お…」
青年は娘に問うがろれつが回らず思うように言葉を発せられない。娘はというとその声を可愛い鳴き声だという程度にしか思っていないかのように無視し、青年の頭を自身の膝の上に乗せ首と上体を緩やかに上げさせた。
枷には緩衝材があるものの無理に体を引っ張られて青年が呻く。
「うぅ、ぐぅ」
「我慢ですよ、がまん。はいあーん。」
呻いてわずかに開かれていた口に娘は迷わず指を這わせてカプセル錠剤を口の奥深くに落とす。
「ッ〜〜〜!?!、ぇうっ」
餌付いた拍子に錠剤は喉を通ってしまい、ずるずると喉を降りていく不快感に顔を顰める。
「えへ、飲んじゃったね。ほら、水あげるからちゃんと飲み込もうね?」
顔を顰めより一層睨みつける青年に対して、娘はうっとりと魅入ったように頬を撫で空いた左手で水差しにストローを入れて青年の口元へ寄越す。
どくどくと耳に煩く響く娘の心臓の音が青年に「一体何を飲ませられているのか」と不安にさせていくのだが、喉の不快感と緊急による渇きから数秒見つめあったのち遂に水を受け入れた。
「…っ、んくっ…ん」
娘は水差しと自分の顔を行き来する青年の視線を追いながら微笑み続けて、青年がストローから口を離しもう水はいらないらしいと見ると膝の上から頭を下ろしてトレーを拾いベッドから退く。
トレーからはまだ錠剤の音がしていた。
「苦しくなったらたくさん叫んで良いですよ。…この屋敷はムダに広いし私しか居ないんだから。」
そう言いながら娘は青年の頭の位置に柔らかく大きな枕を合わせて、気持ち頭を上げた格好に整えるとシーツの皺を治しさらに青年の体の下にタオルケットを数枚重ねたうえで拡げ、そうしてベッドのそばの椅子に座った。手元にハサミがあるのか、かちゃかちゃと金属音がする。
「砂時計をひっくり返してっと…よしよし。じゃあ私はここで貴方を眺めているから、水がほしくなったら言ってねぇ。」
「ぁれ、があ…っ!」
弛緩剤の効果が薄まってきたらしく言葉が戻ってきている。ともすればもうすぐ手足も動かせるようになるだろう。そう思えば青年は反抗する機を逃すまいと力み始める。
「えへへ、ふふ…。」
対する娘はそのような反抗心の蠢動を察知していながら笑みを浮かべて先の宣言通り眺めるばかりだ。
あと一時間もすれば完全に力を取り戻せる。そう確信して青年はしかし先ほど飲まされたカプセル剤に悪い予感を覚えていて。
(確実に毒薬の類だろうから、まだ毒の回りきっていないうちに。…屋敷の外に出て、現在地を確認して…)
青年は脱出計画を巡らせながら目を閉じた。すでに体の熱さとそれに伴う強い寒気が酷い夏風邪を患った時の初期症状のような心持を醸し出し始めていることに危機感を募らせて、はやく手足の自由を手に入れなければと逡巡する。
「ねぇきみ。名前なんて言うの?」
「…は、」
ころころと口調の変わる娘に不気味さを覚えながら、青年は目を開き幼児のような質問内容に対して拒絶を示す。
「教えるわけが、ないだろ。」
「そっかぁ。そうだよねぇ。」
教えるも何も拉致した時点でこちらのことは調べていたのじゃあないかと心のうちで文句を垂れる。
「きさまに、教える名前なんて無い。」
「んんーかなしいなあ。それに…」
青年は視線を娘のそばにある砂時計に向けた。まだ三分の二を超える量の砂が落ちる時を待っている。
「…そんなことホイホイ言わない方がいいよ?」
「は?」
娘はベッドに両手をついて、青年の顔を覗き込む。
「改めて聞こうか?君の名前はなに?」
その表情は深い愉悦に歪んでいた。
「は………え…?」
慌てて引き出しという引き出しから何かものを探すように、思い起こそうと躍起になるがなんとそれにあたるものが想起できないのだ。
「な、なにを…。」
「それじゃあ君の所属は?どんな人が上司なの?その人の名前は?…」
次から次へと矢継ぎ早に娘から問われる事象。
義務として固く口を閉ざすために心の中で先のような悪態を吐くたびに、引き出しからは次から次へとものが消えていく。青年は何をされているのか自分が何をしているのか理解できないでいて、淡々と前もってこうした尋問のためにマニュアル化された作業をこなすだけで。
「っ?ぁ?、ぅ」
「ごめんね、辛いよね。」
驚き絶句する青年を見て、優しく語りかけるのと裏腹に暗い瞳と三日月形の笑みでもって告げた。
「でもね、仕方がないんだ。君が誰で何者かなんてわたしにはどうでもいいの。ただ貴方を可愛がりたいだけだから。」
言い終えた時、青年は喀血した。
「っぷこぽっ、ゴホッゲホッ」
吐いた血が気管を塞いで呼吸もままならず、咳をするとまた新しい血が少しずつ出るので繰り返す。
「けひっゅ…ぅ、ゴポっく」
赤く染まった視界の端で砂時計は落ち切っていた。
娘は鋏で血に塗れた青年のシャツを切り裂き、白い肌を露出させると胸を撫でて言う。
「クスリはまだたくさんあるんだ…愉しみだよね?」
「…ッ、はぁ…はぁ…、けほっ、ひゅーっ…」
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続きはない(多分)